説明

メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤及びその製造方法

本発明は、経時的な安定性に優れるメチルコバラミンの高濃度療法に使用可能である、メチルコバラミンの高含有量を含む凍結乾燥製剤を提供する。本発明によれば、メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と、賦形剤と、を含み、前記賦形剤が少なくとも非晶質状態である凍結乾燥製剤を開示する。前記凍結乾燥製剤において、前記賦形剤が糖類及び糖アルコールを含む場合、糖類と糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である前記賦形剤を少なくとも20重量%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症治療剤としてのメチルコバラミンを含有する、高濃度注射用の凍結乾燥製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症は、脳幹・脊髄・運動ニューロンの病変を主体とし、球症状、上位運動ニューロン障害、下位運動ニューロン障害が進行する疾患であり、ALS(amyotorophic lateral sclerosis)とも呼称され、「脊髄及び大脳の運動神経細胞が変性、消失するため、臨床的には全身の筋萎縮、痙性を招来し、通常、2〜3年で呼吸筋の麻痺により死亡する」、いわゆる難病の一種である。
【0003】
筋萎縮性側索硬化症はその原因が解明されておらず、その根本治療法はもちろんのこと、その進行の抑止若しくは進行の遅延すら、有効に行う治療法さえも未だに見出されていないのが現状であった。
【0004】
近年、梶は、ヒトの抹消神経障害の治療に有効なメチルコバラミンを多量に投与すると(たとえば、メチルコバラミン15〜50mg/1日1回筋注)、筋萎縮性側索硬化症患者において、用量依存的に自覚的な筋力上昇やその他覚的指標である筋複合活動電位の振幅の有意な増加が観測された。そして、従来の治療剤によっては得られたことのない顕著な治療効果が得られることを発見し、メチルコバラミンを有効成分とする筋萎縮性側索硬化症治療剤として、メチルコバラミン高濃度製剤用の水性注射剤が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、ヒトの抹消神経障害の治療におけるメチルコバラミンの投与量は、通例、0.5〜1.5mg/1日である。
【0006】
しかしながら、かかる水性注射剤は、エタノール、生理食塩水又は緩衝液に溶解させた、15〜50ml/アンプルのメチルコバラミン溶液であるために、光安定性や保存安定性の確保は困難であり、さらに無菌性の保証が困難であるという問題点が指摘されていた。
【0007】
一方、ビタミン剤の一種であるメチルコバラミンを薬効成分として含有する注射用凍結乾燥製剤は、種々の必須ビタミンを含有する総合ビタミン注射製剤に関して、主に検討が進められてきた。これらの総合ビタミン製剤の場合には、凍結乾燥製剤とする際に、保存中の安定性の確保や再溶解後の溶解状態の改善について課題が多いことが知られている(たとえば、特許文献2ないし4参照)。
【特許文献1】:特開平10−218775号
【特許文献2】:特開昭62−38号
【特許文献3】:特開昭63−3137号
【特許文献4】:特開平1−132514号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、経時的な安定性に優れる、メチルコバラミンの高濃度療法に使用可能である、メチルコバラミンの高含有量を含む凍結乾燥製剤を提供することを、第一の目的とする。
【0009】
また、本発明は、メチルコバラミンが凍結乾燥固体中で安定に存在する、メチルコバラミンを含む凍結乾燥製剤の製造方法を提供することを、第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究した結果、メチルコバラミンは結晶質の凍結乾燥固体中で存在するよりも、非晶質の凍結乾燥固体中で安定であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様では、上記第一の目的は、メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と、賦形剤と、を含む凍結乾燥製剤であって、前記賦形剤のうち少なくとも1種類以上が非晶質状態である凍結乾燥製剤により達成される。
【0012】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩がさらに非晶質状態であることを特徴とする。
【0013】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、非晶質状態である前記賦形剤が糖類を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明による前記凍結乾燥性製剤の好ましい態様によれば、前記賦形剤が糖アルコールをさらに含むことを特徴とする。
【0015】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記凍結乾燥製剤がpH調整剤をさらに含むことを特徴とする。
【0016】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記凍結乾燥製剤が酸化防止剤をさらに含むことを特徴とする。
【0017】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記賦形剤が糖類及び糖アルコールを含む場合、糖類と糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である前記賦形剤を少なくとも20重量%含有することを特徴とする。
【0018】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記糖類はスクロース又はラクトースであることを特徴とする。
【0019】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記糖アルコールはマンニトールであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第二の態様では、上記第一の目的は、メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と、賦形剤とを含み、(a)前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と前記賦形剤とを、溶媒に溶解させる工程と、(b)前記賦形剤のうち少なくとも1種類以上の非晶質状態が生じるように、前記溶液を凍結乾燥させる工程と、を備える製造方法により得られる凍結乾燥製剤により達成される。
【0021】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記工程(b)において、前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩の非晶質状態をさらに生ずるように凍結乾燥させることを特徴とする。
【0022】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記工程(b)において、前記賦形剤の結晶化が起こらない温度以下で予備凍結を行うことを特徴とする。特に、凍結乾燥させる際の予備凍結は、前記賦形剤の共晶点以下の温度であることが好ましい。
【0023】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、非晶質状態である前記賦形剤が糖類を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、前記凍結乾燥製剤において、前記賦形剤が糖アルコールをさらに含むことを特徴とする。
【0025】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記工程(a)において、pH調整剤をさらに溶解させることを特徴とする。
【0026】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記工程(a)において、酸化防止剤をさらに溶解させることを特徴とする。
【0027】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記賦形剤が糖類及び糖アルコールを含む場合、糖類と糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である前記賦形剤を少なくとも20重量%含有することを特徴とする。
【0028】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記糖類はスクロース又はラクトースであることを特徴とする。
【0029】
本発明による前記凍結乾燥製剤の好ましい態様によれば、前記糖アルコールはマンニトールであることを特徴とする。
【0030】
さらに、本発明の第三に態様では、上記第二の目的は、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、(1)前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と前記賦形剤とを、溶媒に溶解させる工程と、(2)前記賦形剤のうち少なくとも1種類以上の非晶質状態が少なくとも生じるように、前記溶液を凍結乾燥させる工程と、を備える製造方法により達成される。
【0031】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記工程(2)において、前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩の非晶質状態がさらに生じるように凍結乾燥させることを特徴とする。
【0032】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記工程(2)において、前記賦形剤の結晶化が起こらない温度以下で予備凍結を行うことを特徴とする。特に、凍結乾燥させる際の予備凍結は、前記賦形剤の共晶点以下の温度であることが好ましい。
【0033】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、非晶質状態である前記賦形剤が糖類を含むことを特徴とする。
【0034】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記賦形剤が糖アルコールをさらに含むことを特徴とする。
【0035】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記凍結乾燥製剤がpH調整剤をさらに含むことを特徴とする。
【0036】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記凍結乾燥製剤が酸化防止剤をさらに含むことを特徴とする。
【0037】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記賦形剤は糖類及び糖アルコール類を含む場合、糖類及び糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である前記賦形剤を少なくとも20重量%含有することを特徴とする。
【0038】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記糖類はスクロース又はラクトースであることを特徴とする。
【0039】
本発明による前記製造方法の好ましい態様によれば、前記糖アルコールはマンニトールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、経時安定性に優れた、メチルコバラミンを含む凍結乾燥製剤を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、メチルコバラミンが凍結乾燥固体中で安定に存在することが可能である、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0042】
本発明は、メチルコバラミン高濃度療法に使用可能なメチルコバラミン高含量凍結乾燥製剤を提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0043】
本発明に利用されるメチルコバラミンは、血液・髄液中存在型の補酵素型ビタミンB12である。他のB12同属体と比較して神経組織への移行性に優れており、糖尿病性神経障害、多発性神経炎などの抹消性神経障害、特に、しびれ、痛み、麻痺の予防・治療・改善やビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血に用いられることが知られている。
【0044】
メチルコバラミンはビタミンB12類似物質であり、この物質はビタミンB12(シアノコバラミン)のコバルトに結合しているシアノ基がメチル基に置換した化合物であって、その化学式はC6391CoN1314Pであり、分子量は1344.4の赤色粉末である(下記式(I)を参照)。
【0045】

【0046】
本発明に利用するメチルコバラミンは、たとえば、特公昭45−38059号公報に記載された方法により、シアノコバラミン(上記式(II))からの還元反応とそれに続くメチル化反応を経て製造可能である。また、市販の医薬品グレードのメチルコバラミン原薬を用いることもできる。たとえば、シグマ社やエーザイ(株)等から市販されている。さらに、本発明においては、メチルコバラミンの薬理学的に許容し得る塩を用いることもできる。さらにまた、前記メチルコバラミンは光学活性体あるいはラセミ体であってもよい。
【0047】
上記薬理学的に許容し得る塩としては、通常、酸との塩、たとえば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機塩、また、たとえば、トリフルオロ酢酸、酒石酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。
【0048】
本発明に係る凍結乾燥製剤は、前述のメチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩の高含量を有効成分として含む。ここで、本発明で用いる用語「高含量」とは、1バイアル中、通常、5〜200mg、好ましくは10〜100mg、さらに好ましくは25〜50mg含有するものをいい、用時溶解させたときの濃度は、1バイアル中に、通常、5〜50mg/ml、好ましくは5〜25mg/ml、さらに好ましくは10〜15mg/mlであるものをいう。
【0049】
本発明に係る凍結乾燥製剤は、メチルコバラミンと賦形剤とを少なくとも含むが、その配合割合は、重量比でメチルコバラミン1に対して、賦形剤は、0〜50であり、好ましくは2.5〜25であり、さらに好ましくは5〜10である。
【0050】
本発明に用いられる賦形剤は、糖類、糖アルコール類やアミノ酸類から選択され得る。後述するように凍結乾燥時に非晶質状態が生じる糖類を少なくとも1種類以上含有すればよい。凍結乾燥時に非晶質状態が生じる糖類としては、以下のものに限定されるわけではないが、例えば、単糖類としては、グルコース、フルクトース等を、二糖類としては、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース等を挙げることができる。凍結乾燥時に非晶質状態が生じる糖アルコールの具体例としては、以下のものに限定されるわけではないが、イノシトール、ソルビット等を挙げることができる。とりわけ、凍結乾燥時に非晶質状態が生じる賦形剤としては、ラクトースやスクロースが好ましい。
【0051】
本発明において利用される賦形剤が糖類及び糖アルコールから構成される場合には、後述する製造方法により製造された凍結乾燥製剤の保存安定性の観点から、糖類と糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である賦形剤を少なくとも20重量%含有することが好ましく、より好ましくは40重量%含有し、さらに好ましくは50重量%含有する。
【0052】
また、本発明に係る凍結乾燥製剤に利用されるアミン酸類としては、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジン等を挙げることができる。さらに、これらのアミノ酸を単独でも組み合わせて用いてもよい。
【0053】
さらにまた、本発明に係る凍結乾燥製剤は、pH調整剤をさらに含むことができる。pH調整剤は、医薬製剤において一般的に使用されているものを用いることができる。pH調整剤としては、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基、緩衝剤を挙げることができる。具体的には、塩酸、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸2水素ナトリウムグリジン、リン酸、リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、メグルミン等を挙げることができる。
【0054】
くわえて、本発明に係る凍結乾燥製剤は、酸化防止剤をさらに含むことができる。酸化防止剤としては、医薬製剤において、通常使用されるものであればよく、具体的な例としては、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸、トコフェノール、酢酸トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、天然ビタミンE、亜硫酸水素ナトリウム、アルファチオグリセリン、塩酸システイン、チオグリコール酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0055】
本発明に係る凍結乾燥製剤の溶解度を上げるため、もしくは注射剤としての浸透圧を調製するために各種添加剤を添加することもできる。これらの添加剤は製剤の添加剤として通常使用されている物質の添加量であれば特に制限はなく、例えば下記のような添加剤を、必要に応じて添加してもよい。
【0056】
本発明に係る凍結乾燥製剤の溶解度を上昇させるために、又は溶解速度を上昇させるために、溶解補助剤としてポリエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられ、また界面活性剤としてポリソルベート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレン硬化ヒマシ油、セスキオレイン酸ソルビタンなどが挙げられる。また、本発明に係る凍結乾燥製剤の浸透圧調整剤としては、ブドウ糖、キシリトール、ソルビトールなどが挙げられる。
【0057】
その他、医薬製剤に使用しうる防腐剤、安定化剤等の添加物も、必要に応じて添加することができる。具体的には、安息香酸、アスコルビン酸等を挙げることができ、当業者に利用可能な添加物の量を添加することができる。
【0058】
次に、本発明に係る凍結乾燥製剤の製造方法について述べる。本発明に係る凍結乾燥製剤は、たとえば、メチルコバラミンと、賦形剤とを、さらにはpH調整剤とを、水又は適当な水性溶媒(たとえば、水とアルコールの混合物)に溶かした溶液を、所望によりメンブレンフィルタなどを用いて濾過滅菌を行う。次いで、無菌溶液をバイアル、トレーなどに分注し、通常の凍結乾燥することによって固体状としたものが好ましい。濾過滅菌を採用すると、加熱滅菌に由来する分解物の産出を抑えることができ、不純物の少ない製剤を得ることができる。
【0059】
前述のように製造された、本発明に係る凍結乾燥製剤は、メチルコバラミンの分解、変質等を長期間抑制し、安定に保つことが可能となる。
【0060】
前述の溶液を調製する場合、公知の方法にしたがって、メチルコバラミン、賦形剤及びpH調整剤を、水又は水性溶媒(たとえば、水とアルコールの混合物)に溶解すればよい。溶解させる順序は、成分の種類には関係なく溶解させることができる。水性液中のメチルコバラミンの濃度は、通常、0.5mg/ml〜50mg/mlであり、好ましくは、1mg/ml〜10mg/mlであり、さらに好ましくは、2.5mg/ml〜7.5mg/mlである。また、賦形剤の濃度は、通常、0mg/ml〜200mg/mlであり、好ましくは12.5mg/ml〜100mg/mlであり、さらに好ましくは25mg/ml〜50mg/mlである。
【0061】
また、水性液のpHは、4〜8であることが好ましい。より好ましくは、pHが6〜8であり、さらに好ましくは、pHが6.5〜7.5である。前述のpH調整剤を適宜添加することにより、所望のpHに調整可能である。
【0062】
このように調製された水性液を、好ましくは共晶点以下で予備凍結した後、乾燥庫内を真空に保持しながら、棚温を徐々に1次乾燥温度まで昇温し、同温度で1次乾燥を実行する。1次乾燥終了後、さらに棚温を2次乾燥温度に到達するまで昇温し、同温度で2次乾燥を行う。1次乾燥と2次乾燥は同温度であってもかまわない。
【0063】
具体的な凍結乾燥製剤の製造方法として、所定の濃度のメチルコバラミンと賦形剤とを含有する溶液を滅菌後、所定量をバイアル瓶に分注する。約−60℃〜−20℃の条件で予備凍結を行い、次いで、約−20〜10℃で減圧下に1次乾燥を行い、約15〜40℃で減圧下に二次乾燥して凍結乾燥する。そして、一般的にはバイアル内部を窒素ガスで置換し、打栓して凍結乾燥製剤を得る。なお、予備凍結時には、賦形剤としてのマンニトール等の結晶化が起こらないように、共晶点以上の温度にならないような低温に維持する必要がある。
【0064】
共晶点は賦形剤を構成する成分の混合割合により異なるが、通常、糖類及び糖アルコールを含む場合、たとえば、1)スクロース(ショ糖)及び/又はラクトース(乳糖)と、2)マンニトールをさらに含む場合は、予備凍結の温度条件は、通常、−40℃以下の温度で実行することが好ましい。また、賦形剤としてマンニトールのみを含有する場合、さらに好ましい予備凍結の温度条件は、−10℃以下である。
【0065】
このようにして得られる本発明に係る凍結乾燥製剤は、少なくとも賦形剤が非晶質状態で存在する場合、メチルコバラミンを長期間安定に保つことができる。
【0066】
本発明に係る凍結乾燥製剤は、任意の適当な溶液(再溶解液)の添加によって極めて容易に再溶解し、凍結乾燥前の溶液を再構築することができる。かかる再溶解液としては、用時注射用蒸留水、生理食塩水、その他一般的輸液(たとえば、ブドウ糖、アミノ酸輸液など)が挙げられる。
【0067】
本発明に係る凍結乾燥製剤を再溶解させた溶液は、静脈注射剤、皮下注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などの注射剤又は点眼剤として、非経口投与することができる。この注射用蒸留水又は輸液で溶解した液は十分に安定である。この場合、溶解液中のメチルコバラミンの濃度は、約5mg/ml〜50mg/mlであり、好ましくは5mg/ml〜25mg/mlであり、さらに好ましくは10mg/ml〜15mg/mlである。賦形剤の濃度は、0mg/ml〜100mg/mlであり、好ましくは12.5mg/mlから75mg/mlであり、さらに好ましくは25mg/ml〜50mg/mlである。
【0068】
本発明に係る凍結乾燥製剤の特徴について説明する。本発明における安定性とは、化学的及び物理的な安定性を意味する。加温条件下での保存における経時的分解により、主成分であるメチルコバラミンの残存量が減少し、製剤としての凍結乾燥製剤の外観に顕著な着色が見られる。顕著な着色分解が観測された製剤の使用は、溶解時に濁り、沈殿が生じる蓋然性が高いため好ましくはないが、一般的には、残存量が安定性の指標となる。
【0069】
本発明では、残存率は次のように定義される。メチルコバラミンを含む凍結乾燥製剤をバイアルに密閉し、5℃〜40℃の範囲から選ばれた温度雰囲気下に保存する。一定温度で一定期間保存した後、主成分であるメチルコバラミンについて、高速液体クロマトグラフィー(以下「HPLC」という。)により、その濃度をメチルコバラミンに対応するピーク面積から算出する。そして、HPLCによる保存開始時のメチルコバラミンのピーク面積と、所定の期間保存後のメチルコバラミンのピーク面積とから、後述する実施例にて定義される式から、残存率を見積もることができる。
【0070】
本発明に係る凍結乾燥製剤は、室温で少なくとも2年間保存した場合の残存率が95%以上であることが望ましい。また、40℃で6ヶ月間保存した場合においても、残存率が95%以上であることがより望ましい。
【0071】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。本発明の記載に基づき、種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に包含される。
【実施例】
【0072】
製造例1
本発明に係る凍結乾燥製剤の製造法としての一の実施態様として、スクロースとマンニトールとの混合物からなる賦形剤を、後述するような混合割合に基づく、メチルコバラミンとともに仕込み液を調製し、下記の凍結乾燥法により製造した。
【0073】
メチルコバラミン(商品名メチコバール:エーザイ(株)製)0.5%(w/v)と、賦形剤混合物2.5%(w/v)を混合した仕込み液を調製し、無菌濾過を行った後、無菌的に各バイアルに正確な量で充填し、凍結乾燥に供した。凍結乾燥後、完全に打栓し、本発明に係るメチルコバラミン含有凍結乾燥製剤を製造した。
【0074】
具体的には、図1中に示すスクロースとマンニトールとの混合比になる量を、100mlビーカに入れ、80mlの注射用蒸留水を加えて、マグネティックスターラで攪拌溶解させた。前記賦形剤が十分に溶解したことを確認した後、500mgのメチルコバラミンを添加して攪拌し、十分に溶解したことを確認した後、100mlメスフラスコにて全体の溶液量を100mlになるように蒸留水を添加した。
【0075】
その後、前述の溶液を18mlバイアルに5mlずつ充填し、予備凍結−55℃、3時間、1次乾燥−10℃、24時間(0.1mbar)、2次乾燥25℃、36時間(0.02mbar)で凍結乾燥を行い、実施例1〜5として、本発明に係る凍結乾燥製剤を得た。
【0076】
なお、比較例1として、図1に示すマンニトールのみを賦形剤として含有する凍結乾燥製剤の調製も同様な方法により行った。
【0077】
製造例2
メチルコバラミン(商品名メチコバール:エーザイ(株)製)0.5%(w/v)と、賦形剤混合物5.0%(w/v)とを混合した仕込み液を調製し、無菌濾過を行った後、無菌的に各バイアルに正確な量で充填し、凍結乾燥に供した。凍結乾燥後、完全に打栓し、本発明に係るメチルコバラミン含有凍結乾燥製剤を製造した。
【0078】
具体的には、図2中に示すスクロースとマンニトールとの混合比になる量を、100mlビーカに入れ、80mlの注射用蒸留水を加えて、マグネティックスターラで攪拌溶解させた。前記賦形剤が十分に溶解したことを確認した後、500mgのメチルコバラミンを添加して攪拌し、十分に溶解したことを確認した後、100mlメスフラスコにて全体の溶液量を100mlになるように蒸留水を添加した。
【0079】
その後、前述の溶液を18mlバイアルに5mlずつ充填し、予備凍結−55℃、3時間、1次乾燥−10℃、24時間(0.1mbar)、2次乾燥25℃、36時間(0.02mbar)で凍結乾燥を行い、実施例6〜10として、本発明に係る凍結乾燥製剤を得た。
【0080】
なお、比較例2として、図2に示すマンニトールのみを賦形剤として含有する凍結乾燥製剤の調製も同様な方法により行った。
【0081】
製造例3
次に、賦形剤として、ラクトースとマンニトールとの混合物を、図3に示す混合割合に基づいて、製造例1に記載した方法(スクロースとマンニトールの代わりに、ラクトースとマンニトールを使用する)に準じてメチルコバラミンとともに仕込み液を調製し、製造例1と同様の条件にて、凍結乾燥製剤を製造した(実施例11及び12)。
【0082】
なお、比較例3として、図3に示すマンニトールのみを賦形剤として含有する凍結乾燥製剤の調製も同様な方法により行った。
【0083】
製造例4
賦形剤として、ラクトースとマンニトールとの混合物を、図4に示す混合割合に基づいて、製造例1に記載した方法(スクロースとマンニトールの代わりに、ラクトースとマンニトールを使用する)に準じてメチルコバラミンとともに仕込み液を調製し、製造例1と同様の条件にて、凍結乾燥製剤を製造した(実施例13及び14)。
【0084】
なお、比較例4として、図4に示すマンニトールのみを賦形剤として含有する凍結乾燥製剤の調製も同様な方法により行った。
【0085】
製造例5
100mlビーカにスクロース12.5gを量りとり、予め用意しておいたpH7.0の1mMリン酸緩衝液80mlに溶解させた。前記スクロースが十分に溶解したことを確認した後、0.5gのメチルコバラミンを前記緩衝液にさらに添加し、溶解確認後、100mlメスフラスコで、蒸留水にて100mlに調液した。このように調製された溶液を15mlバイアルに5mlずつ充填し、製造例1と同条件にて凍結乾燥させて、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤を得た(実施例15)。
【0086】
製造例6
1000mlのビーカにラクトース25gを量りとり、800mlの注射用水で溶解させる。これに、0.69gのリン酸2水素ナトリウム1水和物を加え、十分に攪拌させた。前記ラクトース及びリン酸2水素1ナトリウムが十分に溶解したことを確認した後、5gのメチルコバラミンを添加し、計量した容器に残ったメチルコバラミン注射用水で洗い込んだ。そして溶解確認後、予め用意しておいた0.1M水酸化ナトリウム水溶液を適宜添加し、pHを7.0に調整した。1000mlメスシリンダーで、蒸留水にて1000mlに調液した。このように調製された溶液15mlバイアルに5mlずつ充填し、製造例1と同条件にて凍結乾燥させて、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤を得た(実施例16)。
【0087】
製造例7
100mlビーカにラクトース12.5gを量りとり、酸化剤としてのクエン酸1水和物1gと80mlの注射用水を加えて攪拌した。前記ラクトースとクエン酸が十分に溶解したことを確認した後、0.5gのメチルコバラミンをさらに添加した。溶解確認後、予め用意しておいた0.1M水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、100mlメスフラスコで、蒸留水にて100mlの調液した。このように調製された溶液を15mlバイアルに5mlずつ充填し、製造例1と同条件にて凍結乾燥させて、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤を得た(実施例17)。
【0088】
製造例8
100mlの各ビーカに、スクロースと、ラクトースとを、それぞれ、12.5gを量りとり、予め用意しておいたpH7.0の1mMリン酸緩衝液80mlで溶解させた。溶解確認後0.5gのメチルコバラミンを各々の溶液に加え、さらに攪拌溶解し、溶解確認後100mlメスフラスコで、蒸留水にて100mlに調液した。このように調製された各溶液を15mlバイアルに5mlずつ充填し、予備凍結−55℃、3時間、1次乾燥−10℃、24時間(0.1mbar)、二次乾燥25℃、36時間(0.002mbar)の製造条件で凍結乾燥させて、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤を得た(それぞれ、実施例18と、実施例19とする)。
【0089】
[保存安定性の評価]
メチルコバラミンの残存量に基づく、保存安定性の評価を以下のように行った。
すなわち、前述の製造例に基づいて無菌的に調製したメチルコバラミン含有凍結乾燥製剤を、5℃、25℃及び40℃の恒温槽で1ヶ月間保存した。保存凍結乾燥製剤をHPLC測定時の移動相で溶解し、25mlのメスフラスコを用いて調液した。この検体を用いて、下記の試験方法によりメチルコバラミン含有量(残存率)を測定し、メチルコバラミンの保存安定性を評価した。
【0090】
HPLC分析は、下記の条件でメチルコバラミン含有量を測定した。
HPLC条件
カラム:hydrosphere C18,S−5μm,250x4.6mmI.D.
移動相:アセトニトリル/0.02mol/Lリン酸緩衝液(pH3.5)/1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム(2/8/3.8,v/v/w)
HPLC分析条件
1)カラム温度 40℃、2)サンプル温度 8℃、3)流量 1mL/min
4)検出器 紫外線吸光光度計(測定波長:266nm)
メチルコバラミンの残存率は、該メチルコバラミンに対応するピーク面積から算出した。HPLCによる保存開始前のメチルコバラミンのピーク面積と、保存後のメチルコバラミンのピーク面積との相対面積比から、前記残存率を以下のように求めた。
【0091】
残存率(%)=
{(保存後のメチルコバラミンのピーク面積)/(保存後の全ピーク面積)/{(保存前のメチルコバラミンのピーク面積)/(保存前の全ピーク面積)}x100
ここで、全ピーク面積とは、HPLC測定による全てのピークの総和面積をいう。かかる測定方法により得られた、製造例1〜4の残存率の結果を、図5〜図8に、それぞれ示す。
【0092】
また、各実施例および各比較例を、40℃の恒温槽で1ヶ月間および/または3ヶ月保存した場合の、メチルコバラミンの残存率(%)の結果を、図9〜図12に示す。
【0093】
[粉末X線回折]
製造例1で得られた各メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤の粉末X線回折を行い、保存前の製剤と、5℃、25℃、40℃の恒温層での1ヶ月保存製剤について、該製剤の結晶状態を、下記の条件で観測した。
【0094】
粉末X線回折の測定条件を以下に示す。
X線:Cu K−alpha1/30kV/40mA
ゴニオメータ:RINT2000縦型ゴニオメータ
フィルタ:Kβフィルタ
発散スリット:1/2deg
散乱スリット:1/2deg
受光スリット:0.15mm
走査スピード:連続
スキャンスピード:2°/min
スキャンステップ:0.02°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:5〜40°
オフセット:0°
固定角:0°
図13は、製造例1の保存前の製剤の代表的なX線回折パターンの結果を示す。なお、図13中の(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)は、製造例1の実施例1、実施例3〜5及び比較例1についてのX線回折パターンを示し、各保存条件における保存前後において、X線回折パターンの変化は認められなかった。
【0095】
図5及び図6の結果から明らかなように、メチルコバラミンに対する賦形剤混合物の添加量にかかわらず、賦形剤混合物であるスクロース/マンニトール中の存在するスクロースの混合割合が20%以上である場合、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤中のメチルコバラミンの残存率が非常に高く、メチルコバラミンの保存安定性が優れることが判明した。
【0096】
一方、図13に示すX線回折の結果から、メチルコバラミン及びスクロースからなる実施例1の(a)では、粉末X線回折ピークはほとんど存在せず、凍結乾燥製剤に対するメチルコバラミンの含有量に鑑みれば、スクロースが非晶質状態で存在していることが分かった。そして、賦形剤混合物中のマンニトールの割合の増加とともに、マンニトールに由来する回折ピークが出現する。
【0097】
したがって、残存率及びX線回折パターンの結果から、賦形剤中にスクロースが20%以上の場合、換言すれば、賦形剤のうち少なくとも1種類が非晶質状態である場合、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤の保存安定性は非常に良好であることが実証された。
【0098】
なお、実施例15〜19のサンプルを、60℃、1ヶ月の保存条件にて保存安定性を評価したが、いずれのサンプルでも極めて安定であり、メチルコバラミン残存率の低下は認められなかった。
【0099】
また、図7及び図8は、賦形剤混合物としてのラクトース/マンニトールの混合割合に対する、メチルコバラミンの残存率の結果を示す図である。図7及び図8に示す結果から明らかなように、メチルコバラミンに対する賦形剤混合物の添加量にかかわらず、賦形剤混合物のラクトース/マンニトール中において、非晶質状態で存在するラクトースの混合割合が50%以上である場合、メチルコバラミンの残存率は非常に高いことが明らかとなった。
【0100】
さらに、図9および図10に示す、40℃における3ヶ月保存によるメチルコバラミンの残存率の結果から、メチルコバラミンに対する賦形剤混合物のスクロース/マンニトール中に存在するスクロースの混合割合が20%以上である場合、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤中のメチルコバラミンの残存率が非常に高いことが明らかなとなった。
【0101】
さらにまた、図11に示す40℃における1ヶ月保存によるメチルコバラミンの残存率の結果と、図12に示す40℃における3ヶ月保存によるメチルコバラミンの残存率の結果とから、メチルコバラミンに対する賦形剤混合物のラクトース/マンニトール中に存在するラクトースの混合割合が50%以上である場合、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤中のメチルコバラミンの残存率が非常に高く、優れた保存安定性を示した。
【0102】
以上のことから、本発明に係るメチルコバラミン含有凍結乾燥製剤では、賦形剤のうち少なくとも1種類が非晶質状態である場合、メチルコバラミンの安定性が向上することが判明した。また、pH調整剤や酸化防止剤をさらに含有する、メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤の保存安定性も向上した。
【0103】
ところで、マンニトールを賦形剤として添加した製剤では、凍結乾燥工程の予備凍結時に熱処理(単に、「アニーリング」ともいう。)を行うことで、マンニトールの結晶化を促進することは公知である。たとえば、Izutsu,K.,Yoshioka,S.,and Terao,T.,Pharma.Res.10,1232−1237;Pikal,M,J.,Dellerman,K.M.Roy,M.L.,Riggin,R.M.,Pharma Res.8(1991)427−436;Izutsu,K.,Ocheda,S.,Aoyagi,N.,Kojima,S.,Int.J.Pharm.273(2004)85−93;Wu,S.,Leung,D.,Tretyakov,L.,Hu,J.,Guzzetta,A.,Wang,J.,Int.J.Pharm.200(200)1−16;Yoshinari,T.,Forbes,R.,York,R.,Kawashima,Y.,Int.J.Pharm.258(2003)109−120参照。これは、主にタンパク製剤の凍結乾燥条件の晶質への影響を評価する目的で検討されている。Izutsuらの報告にあるように、DSC測定において、マンニトールの結晶化によるは発熱ピークが、−23℃付近にあることから、予備凍結乾燥工程にこの温度を超えるように熱処理を施すことで、マンニトールの結晶化を促進させることが可能である。
【0104】
そこで、以下に示すように、アニーリングによるマンニトールの結晶化促進の有無による、本発明に係るメチルコバラミン含有凍結乾燥製剤の安定性を検討した。
【0105】
図14は、マンニトールを用いた凍結乾燥製剤において、熱処理影響の調査の用に供した組成を示す図である。凍結乾燥条件としては、アニーリング工程有と、アニーリング工程無では、以下の条件を採用した。
【0106】
アニーリング工程有
(1)−55℃で2.5時間、予備凍結を行い、(2)3時間かけて昇温し、(3)−10℃で3時間、アニーリングを行い、(4)3時間かけて降温し、(5)−55℃で2.5時間、一次乾燥(−10℃、24時間(0.1mbar))を行う。
【0107】
アニーリング工程無
(A)−55℃で2.5時間、予備凍結を行い、その後、(B)一次乾燥(−10℃、24時間(0.1mbar))を行う。
【0108】
保存安定性の評価
メチルコバラミンの含量変化に基づく、保存安定性の評価は、前述の実施例における評価と同様に、各温度の恒温槽にて3ヶ月保存した後、HPLCを用いて行った。
【0109】
図15は、マンニトールを用いた凍結乾燥製剤において、凍結乾燥工程中の熱処理の有無によるメチルコバラミンの安定性の結果を示す。なお、図15中のメチルコバラミン(B12−CH3)およびヒドロキシコバラミン(B12−OH)の各数値は、HPCL測定による結果から、
(B12−CH3またはB12−OHのピーク面積)/(全てのピーク面積の総和)x100
から算出した値である。
【0110】
図15に示す結果から、アニーリング工程を施さないものと対比すると、マンニトールの結晶化を促進させるアニーリング工程を施して凍結乾燥させると、メチルコバラミンの安定性が低下するとともに、メチルコバラミンの分解生成物であるヒドロキシコバラミンの生成量が、増大することが判明した。これは、非晶質雰囲気中と比較して、メチルコバラミンが結晶質雰囲気中で不安定であることを実証している。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係るメチルコバラミンを含有する凍結乾燥製剤によれば、賦形剤の結晶化状態を制御することにより、メチルコバラミンの保存安定性を改善し、かつ、溶液に溶解して注射液を調製するのに適した用時溶解型の凍結乾燥製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
[図1]図1は、本発明による一の実態態様における、メチルコバラミン凍結乾燥製剤を製造する場合に用いられる、スクロース/マンニトールの混合割合を示す図である。
[図2]図2は、本発明による一の実施態様における、メチルコバラミン凍結乾燥製剤を製造する場合に用いられる、スクロース/マンニトールの混合割合を示す図である。
[図3]図3は、本発明による一の実施態様における、メチルコバラミン凍結乾燥製剤を製造する場合に用いられる、ラクトース/マンニトールの混合割合を示す図である。
[図4]図4は、本発明による一の実施態様における、メチルコバラミン凍結乾燥製剤を製造する場合に用いられる、ラクトース/マンニトールの混合割合を示す図である。
[図5]図5は、本発明に係る凍結乾燥製剤の賦形剤としてのスクロース/マンニトールの混合割合に対する、メチルコバラミンの残存率の結果を示す図である。なお、図5と後述する図6〜8について共通することであるが、1Mとは保存期間の1ヶ月を表す。
[図6]図6は、本発明に係る凍結乾燥製剤の賦形剤としてのスクロース/マンニトールの混合割合に対する、メチルコバラミンの残存率の結果を示す図である。
[図7]図7は、本発明に係る凍結乾燥製剤の賦形剤としてのラクトース/マンニトールの混合割合に対する、メチルコバラミンの残存率の結果を示す図である。
[図8]図8は、本発明に係る凍結乾燥製剤の賦形剤としてのラクトース/マンニトールの混合割合に対する、メチルコバラミンの残存率の結果を示す図である。
[図9]図9は、本発明による凍結乾燥製剤の実施例1ないし5と、比較例1における、40℃での保存安定性の結果を示す図である。
[図10]図10は、本発明による凍結乾燥製剤の実施例6ないし10と、比較例2における、40℃での保存安定性の結果を示す図である。
[図11]図11は、本発明による凍結乾燥製剤の実施例11および12と、比較例3における、40℃での保存安定性の結果を示す図である。
[図12]図12は、本発明による凍結乾燥製剤の実施例13および14と、比較例4における、40℃での保存安定性の結果を示す図である。
[図13]図13は、本発明より製造されたメチルコバラミン含有凍結乾燥製剤のX線回折パターンを示す図である。図13において、(a)賦形剤がスクロースのみからなる場合(実施例1)、(b)賦形剤がスクロース/マンニトール=1/1の場合(実施例3)、(c)賦形剤がスクロース/マンニトール=2/3の場合(実施例4)、(d)賦形剤がスクロース/マンニトール=1/4の場合(実施例5)、(e)賦形剤がマンニトールのみからなる場合(比較例1)、の各X線回折パターンを示す。
[図14]図14は、マンニトールを用いた凍結乾燥製剤において、凍結乾燥工程中の熱処理の影響の調査の用に供した組成を示す図である。
[図15]図15は、マンニトールを用いた凍結乾燥製剤において、凍結乾燥工程中の熱処理の有無によるメチルコバラミンの安定性の影響の結果を示す図である。なお、図における3Mとは、3ヶ月を意味し、図中の数字は、メチルコバラミンおよびヒドロキシコバラミンの面積%を示す。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と、賦形剤と、を含み、
前記賦形剤のうち少なくとも1種類以上が非晶質状態である凍結乾燥製剤。
【請求項2】
前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩が、さらに非晶質状態である、請求項1記載の凍結乾燥製剤。
【請求項3】
非晶質状態である前記賦形剤は糖類を含む、請求項1又は2記載の凍結乾燥製剤。
【請求項4】
前記賦形剤は、糖アルコールをさらに含む、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項5】
前記凍結乾燥製剤は、pH調整剤をさらに含む、請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項6】
前記凍結乾燥製剤は、酸化防止剤をさらに含む、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項7】
前記賦形剤が糖類及び糖アルコールを含む場合、糖類と糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である前記賦形剤を少なくとも20重量%含有する、請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項8】
メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と、賦形剤とを含み、
(a)前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と前記賦形剤とを、溶媒に溶解させる工程と、
(b)前記賦形剤のうち少なくとも1種類以上の非晶質状態が生じるように、前記溶液を凍結乾燥させる工程と、を備える製造方法により得られる凍結乾燥製剤。
【請求項9】
前記工程(b)において、前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩の非晶質状態をさらに生ずるように凍結乾燥させる、請求項8記載の凍結乾燥製剤。
【請求項10】
前記工程(b)において、前記賦形剤の結晶化が起こらない温度以下で予備凍結を行う、請求項8又は9記載の凍結乾燥製剤。
【請求項11】
非晶質状態である前記賦形剤は糖類を含む、請求項8乃至10のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項12】
前記賦形剤は、糖アルコールをさらに含む、請求項8乃至11のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項13】
前記工程(a)において、さらにpH調整剤を溶解させる、請求項8乃至12のうち何れか一項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項14】
前記工程(a)において、さらに酸化防止剤を溶解させる、請求項8乃至13のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項15】
前記賦形剤が糖類及び糖アルコールを含む場合、糖類と糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である前記賦形剤を少なくとも20重量%含有する、請求項8乃至12のうち何れか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項16】
メチルコバラミン含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、
(1)前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩と前記賦形剤とを、溶媒に溶解させる工程と、
(2)前記賦形剤のうち少なくとも1種類以上の非晶質状態が生じるように、前記溶液を凍結乾燥させる工程と、
を備える製造方法。
【請求項17】
前記工程(2)において、前記メチルコバラミン又はその薬理学的に許容しうる塩の非晶質状態がさらに生じるように凍結乾燥させる、請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記工程(2)において、前記賦形剤の結晶化が起こらない温度以下で予備凍結を行う、請求項16又は17記載の製造方法。
【請求項19】
非晶質状態である前記賦形剤は糖類を含む、請求項16乃至18のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記賦形剤は、糖アルコールをさらに含む、請求項16乃至19のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記凍結乾燥製剤は、pH調整剤をさらに含む、請求項16乃至20の何れか一項記載の製造方法。
【請求項22】
前記凍結乾燥製剤は、酸化防止剤をさらに含む、請求項16乃至21のうち何れか一項記載の製造方法。
【請求項23】
前記賦形剤は糖類及び糖アルコール類を含む場合、糖類及び糖アルコール類の合計重量に対して、非晶質状態である前記賦形剤を少なくとも20重量%含有する、請求項16乃至22のうち何れか一項に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/098614
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505980(P2005−505980)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005973
【国際出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】