説明

メチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチド及びこれらの分析法

【課題】メチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドの提供及びこれらの新規な分析手法の提供。
【解決手段】メチル水銀に特異的に結合するメチル水銀結合タンパク質を抽出・精製した。また、当該タンパク質よりメチル水銀結合ポリペプチドを得た。これらを電気泳動法,質量分析法等を用いることによって分析する新たな方法を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメチル水銀が結合したタンパク質(以下、メチル水銀結合タンパク質とする)又はメチル水銀結合ポリペプチド及びこれらの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチル水銀は水産物に分布する有毒な化合物であり、海洋生態系におけるプランクトンから食物連鎖網を通じて,魚食性の大型魚類や鯨類へと生物濃縮の作用によって蓄積される。メチル水銀は脂溶性であるが,ヒトの体内に取り込まれるとシステインと複合体を形成して血液脳関門を通過し,脳に蓄積することによって中枢神経系に障害をもたらす。
【0003】
日本人の水銀の摂取量は,1992〜2001年の平均において,総水銀として8.4μg/人/日(体重50kgで1.1μg/kg体重/週)であり,このうちの88%が魚介類から摂取したものであると見積もられている(例えば、非特許文献1参照)。
魚介類由来の水銀は,筋肉と肝臓に蓄積したメチル水銀と無機水銀である。このうちメチル水銀は、主としてマグロ類,カジキ類,サメ類,キンメダイ等の肉食性大型魚類や歯クジラ類において,筋肉に蓄積することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
これまでの研究から,これらの水銀は筋肉タンパク質にあるチオール基に結合することで安定的に筋肉に蓄積すると推定されてきた(例えば、非特許文献3参照)。しかし,メチル水銀のタンパク質への結合に関する特異性は明らかにされておらず,メチル水銀の筋肉タンパク質に対する結合能について特異性が低いことから,メチル水銀は種々のタンパク質に結合するものと考えられてきた(例えば、非特許文献4参照)。
【0004】
水銀は人体や環境に悪い影響を及ぼすと考えられ、現在様々な方法で生体,食品又は環境中の水銀含量が測定され、安全性評価に用いられている。
例えば、環境及び食品中の総水銀の分析にあたり,還元気化原子吸光法に基づく水銀測定装置(例えば,平沼製作所HG−310型)が一般に用いられている。この装置では硝酸-過塩素酸混液を用いて湿式加熱分解して水銀を無機化したものを測定試料として用いる。また、有機水銀の分析には,食品・生物試料から酸性還元条件下でトルエンなど有機溶媒によって水銀化合物を抽出した後,ガスクロマトグラフで分離した試料を用い,エレクトロンキャプチャー検出器で検出が行われている(例えば、非特許文献5参照)。最近では,誘導結合プラズマ型質量分析計を用いて,無機水銀及びメチル水銀を測定する方法が開発されている(例えば、非特許文献6参照)。
その他にも生物試料を灰化処理した後,還元気化原子吸光法で総水銀として定量する方法や,有機溶剤で抽出したメチル水銀をガスクロマトグラフで定量する方法が,食品及び環境分析の公定法として一般に利用されている。
しかし、これらの方法によって、メチル水銀結合タンパク質を直接測定することはできず、総水銀及び抽出したメチル水銀を分析の対象として、生体,食品又は環境中の安全性評価をしているのが現状である。
【0005】
生体における水銀の代謝,蓄積及び毒性は,その化学形態によって大きく異なることが知られている。メチル水銀の毒性評価は塩化メチル水銀を試料として,実験動物を用いて行われている。その結果、メチル水銀を高レベルに含むシステインを用いた場合,アミノ酸に結合したメチル水銀は遊離の塩化メチル水銀に比べて,実験動物に対する毒性が百分の一程度であると推定されている(例えば、非特許文献4参照)。
魚肉に含まれるメチル水銀はタンパク質のチオール基に配位して存在しており,このメチル水銀結合タンパク質は,メチル水銀単独よりも毒性が低いと推定されている。また,メチル水銀結合タンパク質を食事から摂取した場合,メチル水銀や無機水銀と比較して,動物への吸収率が高いことが知られている。
【0006】
これらのことから,魚肉に含まれる水銀のほとんどが,タンパク質に結合して存在しており、これによって毒性が軽減されていると考えられる。しかし、魚介類及びその他食品におけるメチル水銀結合タンパク質の含有量や化学形態,タンパク質に対する特異性は,十分研究されていない。タンパク質に結合したメチル水銀の正確な化学形態が明らかとなれば,有害物質であるメチル水銀を魚肉及びタンパク質から除去して食品素材化することや、水銀がもたらす毒性の作用機序,生体内におけるメチル水銀の代謝・蓄積機構を調べることができる。
また、メチル水銀結合タンパク質を分析することが可能となれば,食品及び環境におけるメチル水銀結合タンパク質の種類や分布,生化学的特性,含有量を把握することが可能となり,食事から摂取するメチル水銀の健康障害に対するリスクを現状よりも正確に調べることができる。
このように、食品安全性及び環境安全性等の観点から,メチル水銀結合タンパク質及びその分析方法の提供が望まれている。
【非特許文献1】厚生労働省,水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項,平成15年6月3日
【非特許文献2】Yamashita et al., 2005. Total mercury and methylmercury levels in commercially important fishes in Japan. Fish. Sci. 71, 1029-1035.
【非特許文献3】Arima S and Umemoto S, 1976. Mercury in aquatic organisms-II. Mercury distribution in muscles of tunas and swordfish. Bull. Japan. Soc. Sci. Fish. 42, 931-937.
【非特許文献4】Harris HH et al., 2003. The Chemical Form of Mercury in Fish. Science 301, 1203.
【非特許文献5】AOAC. 1995. Official Methods of Analysis of AOAC International. 16th ed., P. A. Cunnif, Ed., p. 24−25. AOAC International, Gaithersgurg
【非特許文献6】C. S. Chiou, S. J. Jiang and K. S. K. Danadurai: Determination of mercury compounds in fish by microwave−assisted extraction and liquid chromatography−vapor generation−inductively coupled plasma mass spectrometry. Spectrochim.Acta, Part B, 2001, 56:1133−1142.
【非特許文献7】成川知弘:化学形態別元素分析用環境標準物質の課題と展望.産総研計量標準報告 Vol. 3,667−687, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドの提供を課題とする。また、これらの新規な分析手法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果,生物由来の試料に含まれるメチル水銀に特異的に結合するタンパク質を見出した。そして、生物由来の試料から水銀が遊離しにくい溶媒を用いてメチル水銀結合タンパク質を用いて抽出し、電気泳動やクロマトグラフィーによって分離し、精製することで生物由来のメチル水銀結合タンパク質を得ることを可能とした。また、このメチル水銀結合タンパク質の分解物から、メチル水銀結合ポリペプチドを得た後、この情報に基づいて、化学合成によるメチル水銀結合ポリペプチドの提供を可能とした。
さらに,本発明者らはメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドを電気泳動法,カラムクロマトグラフィー、質量分析法等を用いることによって分離して定量できることを見出し、これらの新規の分析方法の提供を可能とした。この分析方法を用いることによって、生体及び食品中に分布するメチル水銀が特異的に結合したタンパク質やポリペプチドを分析することができる。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)〜(33)に記載のメチル水銀結合タンパク質、メチル水銀結合ポリペプチド等に関する。
(1)生物由来のメチル水銀結合タンパク質。
(2)生物が哺乳類または魚介類である上記(1)に記載のメチル水銀結合タンパク質。
(3)タンパク質が脳神経由来のメチル水銀結合タンパク質である上記(1)または(2)に記載のメチル水銀結合タンパク質。
(4)生物由来のタンパク質を酵素処理することによって抽出された上記(1)〜(3)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
(5)酵素がトリプシンである上記(4)に記載のメチル水銀結合タンパク質。
(6)メチル水銀が結合したタンパク質であって、配列表配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列を含む上記(1)〜(5)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
(7)配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列のアミノ酸残基システイン−706にメチル水銀が結合したタンパク質であって、配列表配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列を含む上記(1)〜(6)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
(8)タンパク質がミオシンである上記(1)〜(7)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
(9)タンパク質がミオシンS1である上記(1)〜(8)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
(10)1μg/g以上のメチル水銀を含有する上記(1)〜(9)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
(11)配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列であって、かつアミノ酸残基システイン−706にメチル水銀が結合したメチル水銀結合ポリペプチド。
(12)配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失,置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって,かつアミノ酸残基システイン−706にメチル水銀が結合したメチル水銀結合ポリペプチド。
(13)配列番号14又は15に示されたアミノ酸配列を含むメチル水銀結合ポリペプチド。
(14)配列番号14又は15に示されたアミノ酸配列であって、かつアミノ酸配列のシステイン残基にメチル水銀が結合したメチル水銀結合ポリペプチド。
(15)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程を含むメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(16)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程において、試料をトリプシンで処理する工程を含む上記(15)に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(17)分析の対象となる試料から水銀が遊離しにくい溶媒を用いてメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程を含む、上記(15)又は(16)に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(18)水銀が遊離しにくい溶媒がチオール還元剤を含まない中性溶媒である上記(17)に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(19)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を分離する工程を含む上記(16)〜(18)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(20)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を分離する工程において、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いる上記(19)に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(21)分析の対象となる試料から得られたメチル水銀結合タンパク質を精製する工程を含む上記(15)〜(20)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(22)分析の対象となる試料から得られたメチル水銀結合タンパク質を精製する工程において、イオン交換クロマトグラフィー用いる上記(21)に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(23)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を電気泳動によって分離する工程を含む上記(15)〜(22)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(24)チオール還元剤を含まないサンプルバッファーを用いて電気泳動を行うことでメチル水銀結合タンパク質を分離する工程を含む上記(23)に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(25)試料から抽出したメチル水銀結合タンパク質を質量分析する工程を含む上記(15)〜(24)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(26)エレクトロスプレーイオン化型質量分析計、誘導結合プラズマ型質量分析計又は飛行時間型質量分析計のいずれかを用いて質量分析する工程を含む上記(25)に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(27)分析の対象となる試料が、生物又は飲食品由来である上記(15)〜(26)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
(28)上記(11)〜(14)のいずれかに記載のメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法。
(29)上記(11)〜(14)のいずれかに記載のメチル水銀結合ポリペプチドを質量分析する工程を含む上記(28)に記載のメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法。
(30)エレクトロスプレーイオン化型質量分析計、誘導結合プラズマ型質量分析計又は飛行時間型質量分析計のいずれかを用いて質量分析する工程を含む上記(29)に記載のメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法。
(31)上記(11)〜(14)のいずれかに記載のポリペプチドが、生物或いは飲食品由来のポリペプチド又は合成されたポリペプチドである上記(28)〜(30)のいずれかに記載のメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法。
(32)上記(15)〜(27)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法において、標準物質として用いる上記(1)〜(10)のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
(33)上記(28)〜(31)のいずれかに記載のメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法において、標準物質として用いる上記(11)〜(14)のいずれかに記載のポリペプチド。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分析方法によって、生物や飲食品に含まれるメチル水銀結合タンパク質やメチル水銀結合ポリペプチドを分析することで、食品及び環境における水銀のリスク評価を行うことができる。また、本発明によって得られるメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドは,生体及び食品の毒性評価における標準物質として用いる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」には、動物に含まれるメチル水銀が結合しているタンパク質であればいずれのタンパク質も該当する。
例えば、哺乳類または魚介類が挙げられる。魚介類では例えば、高濃度のメチル水銀を含有することが知られているマグロ類,メカジキ,キンメダイ,歯クジラ等が挙げられ、これらの可食部である普通筋,血合筋,心臓等の筋肉を由来とするメチル水銀結合タンパク質も含まれる。
【0012】
本発明の「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」は、生物の脳神経由来であるものも好ましい。特に脳神経由来の遊離のチオール基を有する細胞内タンパク質または膜タンパク質であることが好まく、膜に結合するレセプター,チャンネルタンパク質等が例として挙げられる。脳神経由来のメチル水銀結合タンパク質は、膜タンパク質を可溶化するために、Triton X−100, ノニデットP−40,ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤を含む中性緩衝液を用いて抽出することで得ることが好ましい。
【0013】
本発明の「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」は、生物を試料として、生物由来のタンパク質を酵素処理することによって抽出することで得ることが好ましい。この酵素は「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」を得ることができる酵素であればいずれのものも用いることができるが、特にトリプシン、またはアルギニン,リジンなど塩基性アミノ酸を認識して切断するプロテアーゼを用いることが好ましい。また、本発明の「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」は、0.6M塩化カリウムを含む塩溶液で抽出・可溶化したアクトミオシンを酵素処理することで得ることもできる。
このような処理によって得られる「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」は、生物の筋肉由来であることが好ましく、特にミオシンであることが好ましい。メチル水銀結合部位を有するミオシンであることが好ましく、生物において大部分の水銀が結合しているとされるミオシンS1であることが特に好ましい。また,筋肉以外の脳,肝臓等の臓器において得られるメチル水銀結合タンパク質であっても良い。
【0014】
本発明の「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」として、例えば、クロマグロ筋肉由来の配列表配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列を含むタンパク質等が挙げられる。また、配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列のアミノ酸残基システイン−706にメチル水銀が結合したタンパク質等が挙げられる。
これらの本発明の「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」は、1μg/g以上のメチル水銀を含有するメチル水銀結合タンパク質であることが好ましい。
【0015】
本発明の「メチル水銀結合ポリペプチド」には、「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」のアミノ酸配列から得られるポリペプチドであって、メチル水銀が結合したものであればいずれのポリペプチドも該当する。また、「生物由来のメチル水銀結合タンパク質」のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失,置換若しくは付加されたアミノ酸配列から得られるポリペプチドであって、メチル水銀が結合したものも該当する。また、合成によって得られるポリペプチドも含まれる。
【0016】
本発明の「メチル水銀結合ポリペプチド」は、メチル水銀結合タンパク質の分解物として精製するか,又は化学合成して得ることが好ましい。
メチル水銀結合タンパク質の分解物として得る場合には、例えば加熱条件,酸性条件,2〜8M尿素存在下など変性条件でプロテアーゼ消化を行い,メチル水銀結合タンパク質を分子量1万以下のポリペプチドにまで完全消化することで,メチル水銀結合ポリペプチドを得ることができる。この場合、リジルエンドペプチダーゼ(和光純薬),トリプシン(シグマ社、ブタ膵臓由来,TPCK処理済み),Staphylococcus aureus V8プロテアーゼ(ロッシュ)などのプロテアーゼ製剤を用いることが好ましい。
【0017】
化学合成によって得る場合には、例えば、メチル水銀結合部位のシステイン残基を含むポリペプチドを市販の全自動ペプチド合成機によって化学合成し,遊離のチオール基に対して,塩化メチル水銀を混合し,付加することで、メチル水銀結合ポリペプチドを得ることができる。
メチル水銀の付加は、水銀分析マニュアル(環境省,平成16年3月)に従って,メチル水銀標準溶液(水銀濃度1000ng/mLのトルエン溶液)を調製し,1mg/mLのペプチド水溶液5mL及びメチル水銀標準液0.5mLを混合してメチル水銀を水相に移行させ,有機相を除去することで、行うことができる。
【0018】
本発明の「メチル水銀結合ポリペプチド」として、例えば、配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列において、アミノ酸残基システイン−706にメチル水銀が結合したもの等が挙げられる。また、配列番号14又は15に示されたアミノ酸配列を含むメチル水銀結合ポリペプチドや、このアミノ酸配列のシステイン残基にメチル水銀が結合したメチル水銀結合ポリペプチド等が挙げられる。
【0019】
本発明の「メチル水銀結合ポリペプチド」は、様々な用途に用いることができる。例えば、抗体作製のための抗原として利用できる。化学修飾されたペプチド抗体を作製するためのマニュアル(参考文献1)等によって,ウサギ,マウス等実験動物に免疫して,メチル水銀が結合したポリペプチドを特異的に認識し,結合する抗体を作製することができる。このようにして得られた抗体は、メチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドを検出する抗体として,生体や食品中に含まれるメチル水銀結合タンパク質の測定に用いたり,酵素免疫測定,ラジオイムノアッセイ,ウエスタンブロット,免疫組織化学染色等に用いたりすることができる。
参考文献1:大海忍・辻村邦夫・稲垣昌樹:抗ペプチド抗体実験プロトコール-遺伝子産物の同定からタンパク質機能解析まで,秀潤社,pp.1−172,2004年
【0020】
本発明の「メチル水銀結合タンパク質の分析方法」又は「メチル水銀結合ポリペプチドの分析方法」は、測定の対象となる試料に含まれるメチル水銀結合タンパク質やメチル水銀結合ポリペプチドを分析できる方法であればいずれの方法も用いる事ができる。
本発明の「分析の対象となる試料」には、生物や飲食品が挙げられる。これらに含まれるメチル水銀結合タンパク質やメチル水銀結合ポリペプチドを分析することで、生体及び食品等の毒性評価や、環境における水銀のリスク評価を行うことができる。
また、本発明のメチル水銀結合タンパク質やメチル水銀結合ポリペプチドは、標準物質として分析方法の有効性を調べる為に用いることができる。この標準物質は、メチル水銀結合タンパク質またはメチル水銀結合ポリペプチドを含んでいればよく、メチル水銀結合タンパク質またはメチル水銀結合ポリペプチド単独で用いることも出来るが、必要に応じて、保存用の薬剤等を含んでもよい。
【0021】
本発明の「メチル水銀結合タンパク質の分析方法」は、1)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程、2)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を分離する工程、3)分析の対象となる試料から得られたメチル水銀結合タンパク質を精製する工程、4)分析の対象となる試料から抽出したメチル水銀結合タンパク質を質量分析する工程の1)〜4)の1以上の工程を含むことが好ましい。
【0022】
このうち、1)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程において、試料からのメチル水銀結合タンパク質の抽出にあたり、酵素を用いることが好ましく、酵素としてトリプシン、またはアルギニン,リジンなど塩基性アミノ酸を認識して切断するプロテアーゼを用いることが好ましい。
さらに、分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程においては、試料から水銀が遊離しにくい溶媒を用いることが好ましい。「試料から水銀が遊離しにくい」とは、タンパク質またはポリペプチドにおいて、メチル水銀のチオール基への配位を安定化できる状態のことをいう。
この「試料から水銀が遊離しにくい溶媒」としては、例えば、2−メルカプトエタノール,還元型グルタチオン,ジチオスレイトール等のチオール還元剤を含まない中性溶媒等が該当する。特に蒸留水、中性リン酸緩衝液、中性リン酸緩衝液−30%アセトニトリル又は中性リン酸緩衝液−30%エタノール等の中性溶媒が好ましい。
なお、酢酸,トリフルオロ酢酸等の酸性溶媒及びエタノール,アセトニトリル等有機溶媒は、試料から水銀が遊離しやすいため好ましくない。
【0023】
2)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を分離する工程においては、分離にあたりゲル濾過クロマトグラフィーを用いることが好ましい。例えば、水銀を含むタンパク質をさらに精製するため,0.1M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したゲル濾過セファロースS−100(ファルマシア社)で分離することができる。
【0024】
また、この分離する工程においては、分離にあたり電気泳動を用いることも好ましい。この電気泳動においてはチオール還元剤を含まないサンプルバッファーを用いることが好ましく、2−メルカプトエタノール,ジチオスレイトール等のチオール還元剤を添加しないサンプルバッファーを用いて行うことが特に好ましい。
【0025】
電気泳動によって分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を分離する工程として、例えば,不溶性のタンパク質試料を、8M尿素を含み,チオール基還元剤2−メルカプトエタノールを含まないSDSサンプル緩衝液を用いて,可溶化して分析用試料を調製し,タンパク質にメチル水銀結合した状態を保持したまま状態ですることが好ましい。
ポリアクリルアミドゲル,アガロース等ゲルを支持体とした電気泳動による分離の後,ゲルに含まれるメチル水銀結合タンパク質を、ゲルを分解・可溶化することでメチル水銀結合タンパク質を取り出すことができる。ゲル片をサイズ1〜5mm程度,100mg以下に切断し,硝酸−過塩素酸(70%)−硫酸混液(容積比1:2:1)0.1〜1mLを用いて,220℃で3時間以上湿式加熱分解し,ゲル及びタンパク質を完全に灰化することによって,細切したゲル片に含まれるメチル水銀結合タンパク質の水銀含量を定量化することができる。無担体のキャピラリー電気泳動法の場合は,キャピラリーカラムから溶離したメチル水銀結合タンパク質に由来する水銀又はメチル水銀を検出することができる。
【0026】
3)分析の対象となる試料から得られたメチル水銀結合タンパク質を精製する工程においては、精製にあたりイオン交換クロマトグラフィー用いることが好ましい。例えば、水銀を含むタンパク質を陰イオン交換カラム(MonoQ,ファルマシア社)及び陽イオン交換カラム(MonoS,ファルマシア社)によるイオン交換カラムクロマトグラフィーによって精製することができる。
【0027】
これらのクロマトグラフィーに用いる溶媒としては、メチル水銀結合タンパク質のチオール基への配位を安定化できる中性緩衝液を使用することが好ましい。酢酸アンモニウム,ギ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム,リン酸ナトリウム,Tris等の中性緩衝液(pH6−8)を使用することが好ましく、これらの溶媒は、C18逆相カラム,陽イオン交換カラム,陰イオン交換カラム,ゲル濾過カラム等のいずれのカラムクロマトグラフィーにも用いることができる。通常用いられるトリフルオロ酢酸,酢酸,塩酸等を用いるpH4以下の酸性条件及びアセトニトリル,メタノール,エタノール等の有機溶媒では,メチル水銀がタンパク質から解離するため好ましくない。
【0028】
4)分析の対象となる試料から抽出したメチル水銀結合タンパク質を質量分析する工程においては、質量分析にあたり、エレクトロスプレーイオン化型質量分析計、誘導結合プラズマ型質量分析計又は飛行時間型質量分析計等の市販の機器を用いて行うことが好ましい。
【0029】
質量分析としては、例えば、電気泳動装置又はカラムクロマトグラフ装置によって分離したメチル水銀結合タンパク質の分離した溶離液を質量分析計に直接導入し,オンライン化して気化するとともにイオン化することで,エレクトロスプレーイオン化型質量分析計等によって、メチル水銀結合タンパク質の分子構造解析ができる。また,水銀イオン等を直接計測することで,メチル水銀結合タンパク質の分子種毎に分子量及び分子構造を解析することができる。また,誘導結合プラズマ型質量分析計を検出器として用いた場合,メチル水銀結合タンパク質を気化燃焼させることで,分子内に含まれる水銀イオンを定量的に検出することができる。
【0030】
さらに、本発明の「メチル水銀結合ポリペプチドの分析方法」には、分析の対象となる試料から得られたメチル水銀結合タンパク質に含まれる水銀含量を測定する工程を含むことも好ましい。水銀含量を測定する方法としては、水銀含量を測定できる方法であればいずれの方法も用いることができるが、特にタンパク質の湿式加熱分解後に還元気化原子吸光法で水銀を分析する方法を用いる事が好ましく、還元気化原子吸光法によって水銀含量を測定することが好ましい。この測定には、水銀測定装置(平沼製作所HG−310型)等の市販の機器を用いることができる。
【0031】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
<メチル水銀結合タンパク質の取得>
1.筋肉におけるメチル水銀結合タンパク質の分画
1)試料の調製法
マグロ類,メカジキ,キンメダイ,歯クジラ等の肉食性の魚類・鯨類の可食部である筋肉(普通筋,血合筋,心筋,平滑筋)を試料として,筋原繊維画分を調製した。
これらの各試料に対して、十倍量の塩化カリウム緩衝液(50mM KCl,pH7.2)中で,ポリトロンホモジナイザー(Kinematica社)でホモジナイズした。その後、裏ごし器(ステンレス製,30メッシュ)を用いて裏ごしをしてストローマを取り除き,6,000×gで遠心分離して,回収した上清を筋形質画分とした。沈殿を用いて、さらに十倍量の同緩衝液で2回,ホモジナイズと遠心分離を行い,その沈殿物を筋原繊維画分とした。
【0033】
2)水銀測定法
上記1)で調製した筋形質画分の抽出液又は塩化カリウム緩衝液に懸濁した筋原繊維を試料として、それぞれ0.1mLを硬質ガラス試験管に入れた。これに硝酸−過塩素酸−硫酸(1:2:1)混液0.4mLを添加して,220℃で3時間以上加熱分解して,湿式灰化した。その後,日本工業規格の水銀定量法(JISK0102)に従って,還元気化原子吸光法による水銀測定装置(平沼製作所HG−310型)を用いて分析した。
タンパク質あたりの水銀量を調べるために、試料に含まれる全体のタンパク質量を定量した。試料を0.1M水酸化ナトリウム水溶液で可溶化したのち,ウシ血清アルブミンを標準物質として用いて,銅Folin法によってタンパク質濃度を定量した(参考文献2、参照)。
参考文献2:蛋白質の定量法,菅原潔・副島正美,学会出版センター,1977年
【0034】
3)結果
表1に示すように,魚類及び鯨類の筋肉における水銀の大半は,ホモジネートを遠心分離後,不溶性の沈澱として回収される筋原繊維画分に含まれていることが確認された。
とくに,メバチ普通筋,キンメダイ普通筋及び血合筋,メカジキ普通筋及び血合筋などの筋肉では,筋原繊維タンパク質1g当たり総水銀として5μg以上含まれていた。また、メバチ血合筋由来筋原繊維タンパク質を3ヶ月以上給餌したゼブラフィッシュは,普通筋における水銀含量が0.714μgHg/gと高く,水銀含量の高い飼料を給餌することによって筋肉中の水銀含量は増大することが確認された。このような水銀含量の高い筋肉では筋原繊維タンパク質1g当たり総水銀として1.4μg含まれており,食餌由来の水銀は筋原繊維タンパク質に蓄積することが確認された。ゴンドウクジラ骨格筋では水銀は筋原繊維画分に多く含まれていた。
以上の結果から,水銀に特異的に結合するメチル水銀結合性タンパク質は筋原繊維を構成する筋原繊維タンパク質の一種であり,当該タンパク質は筋原繊維を調製することによって,回収し,濃縮できることが示された。
【0035】
【表1】

【0036】
2.筋肉由来のメチル水銀結合タンパク質の抽出
上記1.と同様の方法によってメカジキ普通筋における筋原繊維を回収したのち,筋原繊維をトリプシン(シグマ社、ブタ膵臓由来,TPCK処理済み)、パパイン(シグマ社)又はプロティナーゼK(和光純薬)のいずれかでそれぞれ酵素処理して、筋原繊維から溶出されるタンパク質を回収し,水銀レベルを測定した。
【0037】
筋原繊維タンパク質量10mg/mLに対して酵素濃度1μg/mLとなるように添加して、トリプシン又はパパインは反応温度4℃,12時間で、プロティナーゼKは反応温度50℃,12時間で酵素処理を行った。その後、可溶化された筋原繊維及び水銀を遠心分離(6000×g,10分間)して上清の水溶性成分として回収し,水銀含量を還元気化原子吸光法による水銀測定装置(平沼製作所HG−310型)を用いて測定した。表2に示すように、水銀の可溶化率を表2に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
回収された筋原繊維から溶出されたタンパク質において,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって,ミオシン重鎖の限定分解物(50K〜90Kのポリペプチド)およびミオシン軽鎖(10−25 Kのポリペプチド)が観察されるとともに,ミオシンATPアーゼ活性が検出された。また、ミオシン重鎖のアミノ酸配列との相同性を検索したところ,筋原繊維に含まれる水銀はトリプシン処理によって可溶化されるミオシンS1として抽出されることが示された。アミノ酸配列との相同性の検索には、DNAデータベースに登録されているものについてはそれを用い,遺伝子解析されていないものについてはcDNAライブラリーを作製し,ミオシン重鎖をコードするcDNAを単離し,塩基配列を決定することで行った。
プロティナーゼK(和光純薬)処理によっても,筋原繊維が可溶化され,水銀も可溶化されることが確認されたが、タンパク質はほぼ分解されてしまい、タンパク態の水銀を抽出することはできなかった。パパイン(シグマ社)処理ではミオシンS1は抽出されるものの、水銀はほとんど検出されなかった。
【0040】
これまでに,ミオシンは頭部と尾部の境界部分がプロテアーゼによって限定的に分解され,この分解部位は,酵素の種類によって異なることが知られている。
トリプシン処理によって、筋原繊維からメチル水銀が配位するシステイン残基が存在するミオシンS1だけが可溶化される。しかし、この領域は,パパインでは切り出されないことから、筋原繊維からメチル水銀結合タンパク質を得るには、トリプシン処理を行う必要があることが示された。
【0041】
そこで、クロマグロ普通筋,クロマグロ血合筋,キンメダイ普通筋,キンメダイ心筋,イシイルカ骨格筋についても上記と同様の方法でトリプシン処理を行い,筋原繊維からメチル水銀結合タンパク質を抽出したところ,ミオシンS1が回収された。
表3に各筋肉におけるミオシンS1の水銀含量を示した。分析に用いた試料に対していずれの場合もタンパク質当り1μg/g以上であった。また、メバチ普通筋の筋原繊維から回収したミオシンS1タンパク質を純水に対して透析して脱塩したのち,凍結乾燥して,粉末状のミオシンS1を得た。このミオシンS1からなる粉末の総水銀含量は3.8μg/gであった。
従って、上記の方法より筋肉由来の主要なメチル水銀結合タンパク質として,メチル水銀が結合したミオシンS1の調製が可能であることが確認された。本発明によって得られるメチル水銀が結合したミオシンS1ドメインは、分析に用いた試料におけるメチル水銀結合タンパク質を分析するための標準物質として用いることができる。
【0042】
【表3】

【0043】
3.メチル水銀結合タンパク質の抽出・分離・分析における溶媒の選択
メチル水銀を結合したタンパク質では,メチル水銀はシステイン残基のチオール基に結合していることが知られており,酸性還元条件下でメチル水銀が遊離することが知られている。このような溶媒の抽出条件によって不安定なメチル水銀結合タンパク質を安定に抽出し,遠心分離,カラムクロマトグラフィー等の生化学的手法によって効率的に分離・分析するため,メチル水銀結合タンパク質の分離・分析に利用可能な溶媒をスクリーニングした。
【0044】
メカジキ筋肉から調製した筋原繊維(タンパク質として100mg)に対して,表4に示した各種溶媒10mLをそれぞれ添加し,室温で1時間震盪したのち,10000×gで遠心分離し,沈殿物である筋原繊維に含まれる水銀含量を測定した。水銀含量の測定は,筋原繊維に硝酸−過塩素酸−硫酸混液(容積比1:2:1)0.5〜1mLを加えて,220℃で3時間湿式加熱分解し,水銀測定装置で総水銀量を分析した。蒸留水で抽出処理したものの水銀含量を100%として,筋原繊維における水銀の保持量を比較した。
【0045】
その結果,表4に示すように、酢酸,トリフルオロ酢酸等の酸性溶媒及びエタノール,アセトニトリル等有機溶媒を用いた場合には,筋原繊維から水銀が遊離することが明らかとなった。また,チオール基の還元剤である2−メルカプトエタノール,還元型グルタチオン,ジチオスレイトール等を用いた場合は中性溶媒であっても,水銀が遊離することがわかった。チオール基が還元されることによって、水銀が遊離することから,筋原繊維における水銀はチオール基を介して結合していることがわかった。一方、中性溶媒であるリン酸緩衝液の場合は,有機溶媒を添加しても水銀は筋原繊維からほとんど遊離しなかった。
以上の結果から,試料より水銀が遊離しにくい環境でメチル水銀結合タンパク質を得るには、蒸留水、中性リン酸緩衝液、中性リン酸緩衝液−30%アセトニトリル又は中性リン酸緩衝液−30%エタノール等の中性溶媒を用いる必要があることがわかり、従来タンパク質・ペプチドのHPLC分析に用いられるトリフルオロ酢酸及びアセトニトリルなどの酸性溶媒と有機溶媒の組み合わせでは,メチル水銀結合タンパク質を分離できないことが示された。
【0046】
【表4】

【0047】
4.メチル水銀結合タンパク質のゲル濾過クロマトグラフィーによる分離
クロマグロ普通筋の筋原繊維に含まれる主要なメチル水銀結合タンパク質としてミオシンS1を調製し,さらにクロマトグラフィーによってこのタンパク質を分離し,精製した。
クロマグロ筋原繊維に対して,10mM 塩化カルシウムを含む0.02M Tri−HCl緩衝液(pH7.5)を用いて,筋原繊維タンパク質100mgに対して,0.1mgのトリプシン(シグマ社、ブタ膵臓由来,TPCK処理済み)を添加して,4℃の低温条件で12時間限定的に分解した。その後,酵素阻害剤4−(2−Aminoethyl)benzenesulfonyl Fluoride(p−ABSF,和光純薬)を終濃度1μg/mLになるように添加して,トリプシンの活性を阻害した後,6000×gで20分間の遠心分離によって上清を回収し,ミオシンS1として,メチル水銀結合タンパク質を回収した。水に対して,4℃で2日間透析して,脱塩したのち,このミオシンS1画分5mLをゲル濾過クロマトグラフィー(ファルマシア社Sephacryl S−100カラム(内径2cm×高さ60cm),0.1M酢酸アンモニウム緩衝液,pH7)によって分離した。
【0048】
カラムで溶離した各フラクション液0.1mLを硝酸−過塩素酸−硫酸混液を用いて湿式分解したのち,分解液全量を用いて,各フラクション液の水銀含量を水銀測定装置で分析した。メチル水銀結合タンパク質をクロマトグラフィーカラムで分離し,水銀含量を測定する分析法が可能であった。図1に示すように、水銀含量の高い成分は,分画した試験管番号13付近に溶出された。
【0049】
この結果から,筋肉由来のメチル水銀結合タンパク質であるミオシンS1を酵素処理によって可溶化したのち,ゲル濾過クロマトグラフィーで分離することが可能となった。
試料として魚肉だけでなく,心筋,歯クジラ筋肉も用いたところ同様の結果が得られ,さまざまな筋肉において,ミオシンS1がメチル水銀結合タンパク質として広く分布することが確認された。
【0050】
5.各種カラムクロマトグラフィーによるメチル水銀結合タンパク質の精製
メチル水銀結合タンパク質であるミオシンS1に含まれるメチル水銀結合ドメインを同定するため,水銀を含むタンパク質成分を各種クロマトグラフィーによって精製した。
クロマグロ普通筋筋原繊維のトリプシン処理によって調製したミオシンS1を0.1M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したゲル濾過クロマトグラフィー(Sephacryl S−100,ファルマシア社)で分離し,水銀を含有するタンパク質を回収した。さらに,ミオシンS1に含まれるメチル水銀結合ドメインのペプチド断片を得るため,このタンパク質に対し,1M尿素を含む50mM炭酸水素ナトリウム緩衝液を用いて,トリプシン(シグマ社、ブタ膵臓由来,TPCK処理済み)をタンパク質1mg当たり1μg添加し,20℃で2時間限定的に消化した。次に,水銀を含むタンパク質を,50mM炭酸水素ナトリウム緩衝液で平衡化した陰イオン交換カラム(MonoQ,ファルマシア社)に添加し,0.5M食塩の濃度勾配を用いてカラムからタンパク質を溶出した。その結果を図2に示すように、試験管番号22にタンパク質の紫外吸収及び水銀濃度のピークが認められた。
【0051】
試験管番号21及び22の水銀を含む画分を回収し,限外濾過膜(アミコンYM5,日本ミリポア社)を用いて濃縮したのち,ゲル濾過カラムSuperose12カラム(ファルマシア社)を用いて分離した。水銀を含むタンパク質はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって均一の成分にまで精製され,分子量2万であった。
精製したポリペプチドをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(2−メルカプトエタノールを含まない非還元条件,15%ゲル)で分離したのち,ゲルを幅5×高さ2×厚さ1mmに細切し,硝酸−過塩素酸−硫酸混液(1:2:1)を用いて220℃で湿式灰化した。その後、還元気化原子吸光法で水銀を定量した(図3、上図)。また、タンパク質バンドをクマシーブリリアントブルーR250で染色した(図3、下図)。その結果、タンパク質バンドの泳動位置に水銀が検出された。
【0052】
さらに,ミオシンS1成分におけるメチル水銀結合部位を同定するため,精製したミオシンS1由来20KDaペプチドに対して,タンパク質1mg当たり1μgのトリプシン(シグマ社、ブタ膵臓由来,TPCK処理済み)を添加して,37℃で12時間反応して酵素タンパク質を完全消化し,メチル水銀を含有するペプチドを調製し,その化学構造を解析した。このペプチドを、0.1M酢酸アンモニウムを溶媒とするゲル濾過カラム(ウルトラハイドロゲル120,ウオーターズ社)を用いて分離し,図4に示すように、水銀含量の高い試験管番号11から13を集めて,水銀を含むペプチドを部分精製した。
【0053】
6.ミオシン重鎖S1ドメインのアミノ酸配列の解析
ミオシンS1がメチル水銀結合に関わる分子であることが推定されたことから,クロマグロミオシン重鎖のアミノ酸配列データに基づき,メチル水銀結合ドメインを同定するため,クロマグロ普通筋ミオシン重鎖のcDNAをクローン化することによって,そのアミノ酸配列を明らかにした。
【0054】
すなわち,クロマグロ筋肉からトリゾル試薬(インビトロゲン社)を用いてポリA−RNAを精製したのち,逆転写酵素スーパースクリプトII(インビトロゲン社)を用いてcDNAを合成した。その末端にEcoR1アダプターを連結した後,EcoR1で切断したpBluescriptIIベクター(Stratagene社)に導入した。
このベクターに連結したcDNAを鋳型として,魚類でこれまで報告されている筋肉ミオシン重鎖cDNA及びpBluescript II DNAに対するPCRプライマー(表5、配列表配列番号5〜13)を用いて,クロマグロ筋肉ミオシン重鎖に対するcDNA全長配列をPCR法によって増幅した。その結果,ミオシン重鎖に対する2種類のcDNAが得られたので,それらをクロマグロミオシン重鎖MHC−1(myosin heavy chain isoform−1)及びMHC−2(myosin heavy chain isoform−2)と名付け、それぞれの塩基配列を配列表配列番号1及び2に示した。
【0055】
このようにして得られた塩基配列データ(配列表配列番号1及び2)に基づいて推定したクロマグロミオシン重鎖(tunaMHC−1及びtunaMHC−2の2種類)のアミノ酸配列を配列表配列番号3及び4に示した。
推定されたアミノ酸配列と既報のニワトリ骨格筋ミオシン重鎖(chickMHC)におけるS1ドメインのアミノ酸配列(参考文献3参照)とを比較した結果,図5に示すように、クロマグロ普通筋ミオシン重鎖MHC−1とMHC−2とのミオシンS1領域は98.4%のアミノ酸配列が一致し,ニワトリとの相同性はそれぞれ80.8%及び80.5%であった。また、メチル水銀結合部位はクロマグロミオシン重鎖のシステイン残基(Cys−706)であった(図5、アステリスク)。
参考文献3:T. Maita, M. Hayashida, Y. Tanioka, Y. Komine, and G. Matsuda: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 84, pp. 416−420, 1987
【0056】
【表5】

【0057】
上記5.において,クロマグロ普通筋ミオシンS1のトリプシン消化物から得られた水銀を結合したペプチドについて,質量分析によって分子構造を解析した結果,質量数607.3のポリペプチドに水銀が結合していた。そこで,ミオシン重鎖S1ドメインに含まれるアミノ酸配列を用いて,メチル水銀が結合したシステイン残基を検索したところ,メチル水銀が結合したポリペプチドのアミノ酸配列はIle−Cys−Argであると推定され,このシステイン残基にメチル水銀が配位していることが判明した。
【0058】
また,図3におけるミオシンS1由来メチル水銀結合タンパク質のバンドについて,ゲル内消化によるタンパク質の構造解析を行った。このタンパク質のバンドをゲル内でカルボキシメチル化したのち,トリプシン処理によって分解し,エレクトロスプレーイオン化型質量分析計(マイクロマス社Quattro II)による質量分析によってペプチド断片を同定した。その結果、図6(矢印:同定したペプチド断片)に示すように,ミオシンS1に由来する20KDaのポリペプチドが筋肉におけるメチル水銀結合タンパク質であることが判明した。
ミオシンS1に由来するメチル水銀結合タンパク質のトリプシン消化物20kDaの質量解析の結果とアミノ酸配列分析の結果を合わせると,トリプシンによって切断されたメチル水銀結合性の領域は,ミオシン重鎖のグリシン−642からアルギニン−809までのポリペプチドに相当することがわかった。この結果から,このメチル水銀結合部位に相当するシステイン残基(Cys−706)はミオシンにおいてとくに反応性の高いチオール基として知られているSH1に相当することが確認された。
【実施例2】
【0059】
<メチル水銀結合ペプチドの合成>
固相ペプチド合成機を用いてメチル水銀が結合したペプチドを化学合成した。
オペロンバイオテクノロジー株式会社によって化学合成された配列番号14及び15のペプチドを用い,1mLのペプチド水溶液(1mg/mL)に対して,0.1mLの塩化メチル水銀標準液(1,000ng/ml)を混合して,メチル水銀をペプチドのチオール基に付加し,二相分離によって水相を回収し,メチル水銀が付加したペプチドを調製した。
この方法によって合成されたメチル水銀結合ペプチドは、メチル水銀結合タンパク質を分析する為の標準物質として用いることができる。
【実施例3】
【0060】
電気泳動法によるメチル水銀結合タンパク質の分析
ポリアクリルアミドゲル,アガロース等ゲルを支持体とした電気泳動によってメチル水銀結合タンパク質を分離した後,ゲルを可溶化することによってメチル水銀結合タンパク質に含まれる水銀を分析した。
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動用の試料は,サンプルバッファー(8M 尿素,2%SDS及び0.1%ブロモフェノールブルーを含む10mM Tris−HCl緩衝液,pH6.8)を用いて処理した。上記実施例1.4で確認されたように、タンパク質からメチル水銀が遊離するのを防ぐため,2−メルカプトエタノール,ジチオスレイトール等のチオール還元剤は添加しなかった。
【0061】
メチル水銀結合タンパク質にこのサンプルバッファーを添加して可溶化し,1mm厚の10%スラブゲル(アトー)を用いてタンパク質を分離した。ゲル中の水銀含量を測定するため,泳動終了後,ゲル片を幅2mm又は3mmに切断し,目盛り付き硬質ガラス試験管(外径18×高さ230mm)に入れ,硝酸−過塩素酸−硫酸混液(容積比1:2:1)0.5mLを加えて,220℃で3時間湿式加熱分解し,ゲル及びタンパク質を完全に灰化し,無機化した。
分解後,蒸留水で5mLにメスアップし,全量を用いて水銀測定装置(平沼製作所HG−310型)で水銀量を測定した。こうして,生体試料を用いて電気泳動法によってメチル水銀結合タンパク質を分離した。
【0062】
この方法を用いてクロマグロミオシンS1由来の20KDaペプチド精製標品を分析した結果を図3に示した。また,キンメダイの心筋,普通筋及び脳の抽出物を分析した結果を図7に示した。これらの結果から,心筋,普通筋など筋肉では,水銀はミオシン重鎖(MHC)に結合していることが示され,脳では泳動度と分子量の異なる複数のメチル水銀結合性のタンパク質が存在することが示された。従って、この方法によって、試料に含まれるメチル水銀結合タンパク質を分析できることが示された。
【実施例4】
【0063】
質量分析法によるメチル水銀化されたポリペプチドの分析
上記実施例2で合成したメチル水銀結合ポリペプチドについて、分子量をエレクトロスプレーイオン化型質量分析計(マイクロマス社Quattro II)によって,1mMのギ酸アンモニウム又は酢酸アンモニウムを溶媒として用いて分子量を測定した。
【0064】
その結果,図8に示すように、配列番号14のポリペプチドの合成標品の分子量理論値は1951.07であった。これに対して,メチル水銀が付加されたペプチドは,イオン化数の異なる複数のピークを示した。すなわち表6に示すように、分子構造式から算出した質量数の理論値と類似したシグナルである,2価イオン1084.19,3価イオン723.03及び4価イオン542.43が検出された。
また,図9に示すように,配列番号15のIle−Cys−Argペプチドの合成標品の分子量理論値391.30に対して,メチル水銀が付加された配列番号15のIle−Cys−Argペプチドは理論値と類似したシグナルである,1価イオン607.16が主要なシグナルとして検出された。
従って、この方法によって,メチル水銀がシステイン残基のチオール基に付加されたペプチドを質量分析によって検出することで、試料に含まれるメチル水銀結合ポリペプチドが分析できることが示された。
【0065】
【表6】

【実施例5】
【0066】
質量分析法によるメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドの分析
メチル水銀結合タンパク質であるミオシンS1に含まれるメチル水銀結合部位を精製するため,実施例1において調製した、イシイルカ骨格筋及びメバチ普通筋からゲル濾過クロマトグラフィーによって精製したミオシンS1を用いた。このミオシンS1に対して,タンパク質1mg当たり1μgのトリプシン(シグマ社、ブタ膵臓由来,TPCK処理済み)を添加して37℃で12時間分解し,消化ペプチドを調製した。
得られたトリプシン消化ペプチドを1mM 酢酸アンモニウムで平衡化したAtlantis C18カラム(ウオーターズ社,内径0.8mm×カラム長50mm)を用いて,アセトニトリルによるグラジエントによって,1分間当たり0.050mLの流速で分離した。オンラインでエレクトロスプレーイオン化型質量分析計(Quattro II,マイクロマス社)に導入し,質量範囲(m/z)100〜1000の範囲で質量分析を行った。また配列表配列番号15に記載のメチル水銀結合ポリペプチドについても同様に質量分析を行った。
【0067】
配列表配列番号15に記載のメチル水銀結合ポリペプチド,メバチ普通筋及びイシイルカ骨格筋由来ミオシンS1トリプシン消化物の分析の結果,図10に示すように、17分付近にイシイルカ骨格筋及びメバチ普通筋由来のミオシンS1にもクロマグロ筋肉と同様にメチル水銀が付加されていることが明らかとなった。また、配列表配列番号15に記載のメチル水銀結合ポリペプチドは質量数607を計測した。
【0068】
このようにメチル水銀結合タンパク質を測定するため,タンパク質をトリプシンなどプロテアーゼで完全消化したのち,中性緩衝液を用いてHPLCで分画し,メチル水銀化されたペプチドを質量分析によって解析できることが示された。
従って、メチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドを質量分析によって検出することで、試料に含まれるメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドを分析できることが示された。
【実施例6】
【0069】
質量分析法によるメチル水銀結合ポリペプチドの分析
配列表配列番号14に記載のメチル水銀結合ポリペプチドについて,TOF−MSによる質量分析を試みた。マトリックスとの混合操作において,ペプチドからのメチル水銀の解離を防ぐため,トリフルオロ酢酸などの酸性溶媒は使用しないように,新しい分析手法を開発した。
【0070】
水に溶解したメチル水銀結合ポリペプチド試料1μLに対して,マトリックス(0.3mg/ml α−cyano−4−hydroxycynnamic acidのエタノール溶液)を等量添加し,ターゲットプレート(AnchorChipTM,ブルカーダルトニクス社)に伸せて,乾燥させた後,70%エタノールを1μL滴下してすぐに吸い取り,試料からの脱塩及び結晶化を行った。飛行時間型質量分析計(ブルカーダルトニクス社,Autoflex型)によって,質量を測定した。
その結果,メチル水銀結合ポリペプチドの分子量理論値(質量数2167.05)に対して,メチル水銀結合ポリペプチドは,質量数の1価イオンとして検出された。従って、この方法によってメチル水銀結合ポリペプチドを分析できることが示された。
【実施例7】
【0071】
質量分析法によるメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドの分析
メチル水銀結合タンパク質の質量分析による定量分析のため,中性の緩衝液を溶媒として用いることによって,メチル水銀結合タンパク質を誘導結合プラズマ型質量分析計にフローインジェクション法によって試料を導入し,アルゴンプラズマ励起によるタンパク態メチル水銀のイオン化によって,タンパク態メチル水銀の検出法を開発した。
配列番号14に記載のメチル水銀結合ポリペプチドを0.1M酢酸アンモニウムに溶解し,誘導結合プラズマ型質量分析計に注入し,水銀イオンを計測した。その結果,分析に用いたメチル水銀結合ポリペプチド量(水銀量)とシグナル強度との関係(図11、上図)及びフローインジェクションによって導入したメチル水銀結合ペプチドの水銀イオンシグナルピーク(図11、下図)で示すように、50pg程度の水銀イオンを検出することによって,非常に高感度での定量分析が可能であることが示された。従って、この方法によって,試料に含まれるメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドを直接計測できることが示された。
【0072】
測定条件
測定元素 Hg;RF出力(kW) 1.4;ネブライザーガス流量(Ar L/min) 1.05;補助ガス流量(Ar L/min) 1.2;プラズマガス流量(Ar L/min) 15;メイクアップガス流量 0;測定モード STD*;反応ガス なし;質量数(amu) 202;パルスステージ電圧 1000.
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により得られたメチル水銀結合タンパク質又はメチル水銀結合ポリペプチドを標準物質として用い、生体及び食品等の毒性評価をすることで水銀のリスク評価を行うことができる。また、本発明の分析方法を用いることにより、その結果に応じて、試料からメチル水銀結合タンパク質を除去した安全性の高い食品等を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】ゲル濾過クロマトグラフィーによるメチル水銀結合タンパク質の分離を示した図である(実施例1)。
【図2】イオン交換カラムクロマトグラフィーによるメチル水銀結合タンパク質の精製を示した図である(実施例1)。
【図3】水銀を含有したクロマグロミオシンS1由来する20KDaタンパク質の精製結果を示した図である(実施例1)。
【図4】水銀を含有した20KDaタンパク質のトリプシン消化物のゲル濾過クロマトグラフィーによる分離を示した図である(実施例1)。
【図5】ミオシンS1のアミノ酸配列を示した図である(実施例1)。
【図6】クロマグロ普通筋のミオシンS1画分のトリプシン消化物から得られたメチル水銀結合ペプチドのアミノ酸配列を示した図である(実施例1)。
【図7】キンメダイの各組織の電気泳動像を示した図である(実施例3)。
【図8】エレクトロスプレーイオン化型質量分析計によるメチル水銀が付加されたペプチドの質量分析を示した図である(実施例4)。
【図9】エレクトロスプレーイオン化型質量分析計によるメチル水銀が付加されたIle−Cys−Argペプチドの質量分析を示した図である(実施例4)。
【図10】エレクトロスプレーイオン化型質量分析計によるメチル水銀が付加されたペプチドの質量分析を示した図である(実施例5)。
【図11】誘導結合プラズマ型質量分析計によるメチル水銀結合ペプチドの分析法を示した図である(実施例7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物由来のメチル水銀結合タンパク質。
【請求項2】
生物が哺乳類または魚介類である請求項1に記載のメチル水銀結合タンパク質。
【請求項3】
タンパク質がミオシンまたはミオシンS1である請求項1又は2に記載のメチル水銀結合タンパク質。
【請求項4】
1μg/g以上のメチル水銀を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質。
【請求項5】
次の1)〜4)のいずれかであるメチル水銀結合ポリペプチド、
1)配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列であって、かつアミノ酸残基システイン−706にメチル水銀が結合したメチル水銀結合ポリペプチド、
2)配列番号3又は4に示されたアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失,置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって,かつアミノ酸残基システイン−706にメチル水銀が結合したメチル水銀結合ポリペプチド
3)配列番号14又は15に示されたアミノ酸配列を含むメチル水銀結合ポリペプチド、
4)配列番号14又は15に示されたアミノ酸配列であって、かつアミノ酸配列のシステイン残基にメチル水銀が結合したメチル水銀結合ポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質又は請求項5に記載のメチル水銀結合ポリペプチドを含む標準物質。
【請求項7】
次の1)〜4)の1以上の工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法、
1)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程、
2)分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を分離する工程、
3)分析の対象となる試料から得られたメチル水銀結合タンパク質を精製する工程、
4)分析の対象となる試料から抽出したメチル水銀結合タンパク質を質量分析する工程。
【請求項8】
分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程において、試料をトリプシンで処理する工程を含む請求項7に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項9】
分析の対象となる試料から水銀が遊離しにくい溶媒を用いてメチル水銀結合タンパク質を抽出する工程を含む、請求項7又は8に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項10】
水銀が遊離しにくい溶媒がチオール還元剤を含まない中性溶媒である請求項9に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項11】
分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を分離する工程において、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いる請求項7〜10のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項12】
分析の対象となる試料からメチル水銀結合タンパク質を電気泳動によって分離する工程を含む請求項7〜11のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項13】
チオール還元剤を含まないサンプルバッファーを用いて電気泳動を行うことでメチル水銀結合タンパク質を分離する工程を含む請求項12に記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項14】
エレクトロスプレーイオン化型質量分析計、誘導結合プラズマ型質量分析計又は飛行時間型質量分析計のいずれかを用いて、試料から抽出したメチル水銀結合タンパク質を質量分析する工程を含む請求項7〜13のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項15】
分析の対象となる試料が、生物又は飲食品由来である請求項7〜14のいずれかに記載のメチル水銀結合タンパク質の分析方法。
【請求項16】
請求項5に記載のメチル水銀結合ポリペプチドを質量分析する工程を含むメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法。
【請求項17】
エレクトロスプレーイオン化型質量分析計、誘導結合プラズマ型質量分析計又は飛行時間型質量分析計のいずれかを用いて質量分析する工程を含む請求項16に記載のメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法。
【請求項18】
請求項5に記載のポリペプチドが、生物或いは飲食品由来のポリペプチド又は合成されたポリペプチドである請求項16又は17のいずれかに記載のメチル水銀結合ポリペプチドの分析方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−114105(P2009−114105A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287492(P2007−287492)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(507365352)
【Fターム(参考)】