説明

メチロールアルカナールを水素化する方法

水素化触媒上で、液相中で、一般式(I)
[式中、
およびRは互いに独立に付加的なメチロール基または1〜22個の炭素原子を有するアルキル基、または6〜33個の炭素原子を有するアリール基またはアラルキル基を表す]のメチロールアルカナールを接触水素化する方法において、少なくとも1個の第三級アミンを添加することにより水素化供給物のpH値を6.3〜7.8に調節することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は第三級アミンの添加により6.3〜7.8に調節された水素化供給物のpH値で、水素化触媒上で、液相中で、メチロールアルカナールを接触水素化する方法に関する。
【0002】
単純アルコールおよび官能性アルコールを製造するためのアルデヒドのようなカルボニル化合物の接触水素化は基本的な化学工業の製造の流れで重要な位置を占める。これは特にオキソ合成またはアルドール反応により得られるアルデヒドの水素化に当てはまる。
【0003】
化学量の塩基の存在で過剰のホルムアルデヒドとアルカナールのアルドール反応によりメチロールアルカナールが得られる。WO01/51438号から水酸化ナトリウムまたは水酸化カルシウムのような無機水酸化物を塩基として使用することが公知である。WO98/28253号はアルドール反応での塩基性触媒としてアミンを記載し、WO98/29374号はこの目的のための塩基性イオン交換体を記載する。これらの方法において、20〜70質量%水溶液として、メチロールアルカナールが得られる。アルドール反応に使用される塩基性触媒がホルムアルデヒドのカニッツァロ反応に触媒作用して蟻酸を形成し、蟻酸が少なくとも部分的に塩基を中和するので、この水溶液のpH値は3.5〜6.0にすぎない。
【0004】
水性メチロールアルカナール溶液からペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、またはトリメチロールプロパンのような多価アルコールを製造する場合は、これらの溶液を水素化しなければならない。
【0005】
この水素化は一般に80℃より高い温度で行う。水素化反応器中でメチロール基の遊離アルデヒドへの再解離およびエーテル、エステルおよびアセタール形成が認められる。これらの二次反応は低い水素化選択率および多価アルコールの低い収率を生じる。
【0006】
更にこれらの条件下で多くの水素化触媒が安定でない。特に欧州特許第44444号およびWO95/32171号から知られているアルミニウムおよび珪素の酸化物をベースとする触媒は水素化条件下で二酸化珪素の浸出によりこれらのメチロールアルカナール水溶液の存在で硬度の少なくとも一部が失われ、最悪の場合は使用できなくなる。
【0007】
本発明の課題は、形成されるメチロールアルカナールの再解離が大部分抑制され、エーテル、エステルおよびアセタールの形成が大部分回避され、触媒の機械的安定性に有利な作用が発揮される、メチロールアルカナールを接触水素化する方法を提供することである。更に前記方法は良好な水素化選択率および良好な収率で多価アルコールを得ることを可能にすべきである。
【0008】
前記課題は、水素化触媒上で、液相中で、一般式(I)
【0009】
【化1】

[式中、
およびRは互いに独立に他のメチロール基または1〜22個の炭素原子を有するアルキル基、または6〜33個の炭素原子を有するアリール基またはアラルキル基を表す]のメチロールアルカナールを接触水素化する方法により解決され、前記方法は少なくとも1個の第三級アミンを添加することにより水素化供給物のpH値を6.3〜7.8に調節することを特徴とする。
【0010】
本発明に記載される水素化供給物は一般式Iのメチロールアルカナールを含有する水溶液、特にメチロールアルカナール20〜80質量%を含有する水溶液である。この水素化供給物は有利にWO98/28253号に記載されるようにアルデヒドとホルムアルデヒドの縮合により製造する。
【0011】
この反応において、アルデヒドを第三級アミンの存在で2〜8倍の量のホルムアルデヒドと反応させ(アルドール形成)、得られた反応混合物を2つの溶液に分離し、その際一方の溶液は前記のメチロールアルカナールを含有し、他方の溶液は未反応出発物質を含有する。後者の溶液を反応に返送する。蒸留によりまたは有機相から水相の簡単な分離により分離する。メチロールアルカナールを含有する水溶液を本発明の方法に水素化供給物として使用することができる。
【0012】
しかし技術水準の他の方法により、例えばWO01/51438号、WO97/17313号およびWO98/29374号から知られた方法により、水素化供給物としてメチロールアルカナール水溶液を製造することも可能である。
【0013】
本発明の方法の1つの有利な変形において、特にホルムアルデヒドが少ないかまたはホルムアルデヒドを含まないメチロールアルカナール水溶液を水素化供給物として使用する。ホルムアルデヒドが少ないメチロールアルカナール溶液中で、ホルムアルデヒド含量は5質量%未満である。例えばWO98/28253号によち得られたアルドール形成反応からの排出物からホルムアルデヒドを、例えば技術水準から公知の方法により、例えば蒸留により分離することができる。
【0014】
一般式Iのメチロールアルカナールは有利にジメチロールアルカナール、ペンタエリスロース、またはヒドロキシピバルアルデヒドである。
【0015】
水素化供給物を、第三級アミンと、水素化反応器の入口の前方で、水素化供給物が6.3〜7.8のpH値を有するまで混合する。水素化供給物および第三級アミンを別々に反応器に供給し、そこで混合することも可能である。
【0016】
適当な第三級アミンは例えばドイツ特許第2507461号に記載されているアミンである。有利な第三級アミンはトリ−n−C〜C−アルキルアミン、特に有利にトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミンおよびトリ−n−ブチルアミンである。
【0017】
アミンは蟻酸と熱分解可能な塩を形成し、この塩が水素化後に再び解離することができるので、pH値を調節するために特に有利である。こうして同時生成物としての塩を回避することができ、第三級アミンを工程に返送することができる。
【0018】
メチロールアルカナールを製造するアルドール形成工程、すなわち高級アルデヒドとホルムアルデヒドの縮合と水素化に同じ第三級アミンを使用することが特に有利である。pH値は公知方法により、有利にガラス電極によりおよびpH計により測定する。
【0019】
本発明により使用できる触媒は、水素化に適しており、有利に通常の担体材料、特に有利にチタン、ジルコニウム、ハフニウム、珪素および/またはアルミニウムの酸化物を含有する担体材料上の、有利に元素周期表の8〜12族の遷移金属の少なくとも1種の金属、例えばFe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、An、Zn、Cd、Hg、有利にFe、Co、Ni、Cu、Ru、Pd、Pt、特に有利にCuを含有する触媒である。本発明により使用することができる触媒はこの担体触媒を製造するための技術水準から公知の方法により製造することができる。マグネシウム、バリウム、亜鉛またはクロムの1種以上の元素の存在または不在でAlまたはTiO含有担体材料上の銅を含有する担体触媒を使用することが有利である。これらの触媒およびその製造はWO99/44974号から公知である。
【0020】
例えばWO95/32171号に記載される銅を含有する担体触媒および欧州特許第44444号およびドイツ特許第1957591号に記載される触媒が本発明による水素化に適している。
【0021】
水素化は不連続的にまたは連続的に、例えばドイツ特許第1941633号またはドイツ特許第2040501号に記載される、例えば触媒床が充填され、反応溶液が触媒床を、例えば順流または逆流で通過する管形反応器中で実施することができる。反応器排出物の側流を場合により冷却して再循環し、触媒の固定床を再び通過することが有利である。同様に連続して接続された複数の反応器、例えば2〜4個の反応器中で水素化を実施し、水素化反応を、最後の反応器の前方の個々の反応器中で、例えば50〜98%の部分的な変換までのみ実施し、最後の反応器ではじめて水素化が終了することが有利である。次の反応器に導入する前に、先行する反応器からの水素化排出物を、例えば冷却装置を使用してまたは冷たいガス、例えば水素または窒素を供給することにより、または冷たい反応溶液の側流を導入することにより冷却することが有利である。
【0022】
水素化温度は一般に50〜180℃、有利に90〜140℃である。使用される水素化圧力は一般に10〜250バール、有利に20〜120バールである。
【0023】
水素化は不活性溶剤を添加して実施することができる。使用できる溶剤はTHFまたはジオキサンのような環状エーテルおよび非環状エーテル、同様にメタノール、エタノールまたは2−エチルヘキサノールのような低級アルコールである。
【0024】
そのほか任意の水素化法を使用することができ、アルデヒドの水素化に一般に用いられ、標準的な文献に詳細に記載されている任意の水素化触媒を使用することが可能である。
【0025】
例1
ヒドロキシピバルアルデヒドからネオペンチルグリコールへの水素化
水素化供給物
イソブチルアルデヒド1.1モルを40%溶液の形のホルムアルデヒド1モルおよびイソブチルアルデヒドをベースとするトリエチルアミン4モル%と一緒に75℃で1時間攪拌した。大気圧下でイソブチルアルデヒドのような低沸点物および水の一部を蒸留分離することにより反応溶液を濃縮した。得られた溜まり物はヒドロキシピバルアルデヒド75質量%、水20質量%および他の有機二次成分約5質量%を含有した。
【0026】
使用される触媒
WO95/32171号に記載される触媒Gを使用した。
【0027】
水素化
水素化供給物としての前記混合物を出発溶液として使用した。この混合物をトリメチルアミンの添加により表1にそれぞれ示されるpH値にして、水素化反応器の触媒に液体を循環して(循環流:供給流=10:1)、125℃、40バールで、触媒負荷量(質量時間空間速度)0.3kgHPA/lcat×hで、逆流で供給した。40バールおよび125℃で1回の通過で運転した後反応器中で反応を終了した。
【0028】
水素化供給物のpH値がそれぞれ本発明に記載される範囲の外部にある比較例1および2と本発明の方法との比較を表1に示す。
【0029】
pH値はガラス電極N1041A Schott社を有するKnick Modell 766pH計を使用して測定した。
【0030】
【表1】

アミンを添加しない
HPA=ヒドロキシピバルアルデヒド
NPG=ネオペンチルグリコール
i−BuOH=イソブチルアルコール
HPN=ヒドロキシピバリン酸のネオペンチルグリコールエステル
Acetal=ヒドロキシピバルアルデヒドNPGアセタール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒上で、液相中で、一般式(I)
【化1】

[式中、
およびRは互いに独立に他のメチロール基または1〜22個の炭素原子を有するアルキル基、または6〜33個の炭素原子を有するアリール基またはアラルキル基を表す]のメチロールアルカナールを接触水素化する方法において、少なくとも1個の第三級アミンを添加することにより水素化供給物のpH値を6.3〜7.8に調節することを特徴とするメチロールアルカナールを接触水素化する方法。
【請求項2】
水素化供給物がホルムアルデヒド5質量%未満を含有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
トリ−n−アルキルアミンを使用する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミンおよび/またはトリ−n−ブチルアミンを添加する請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
水素化触媒が元素周期表の第8〜12族の遷移金属の少なくとも1種の金属を含有する請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
水素化触媒が担体触媒である請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
担体材料としてチタン、ジルコニウム、ハフニウム、珪素および/またはアルミニウムの酸化物を使用する請求項6記載の方法。
【請求項8】
水素化触媒がマグネシウム、バリウム、亜鉛またはクロムの1種以上の元素の存在または不在で酸化アルミニウムまたは二酸化チタンを含有する担体材料上の銅を有する請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ヒドロキシピバルアルデヒド、ペンタエリスロース、またはジメチロールブタナールを使用する請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒上で、液相中で、一般式(I)
【化1】

[式中、
およびRは互いに独立に他のメチロール基または1〜22個の炭素原子を有するアルキル基、または6〜33個の炭素原子を有するアリール基またはアラルキル基を表す]のメチロールアルカナールを接触水素化する方法において、少なくとも1個の第三級アミンを添加することにより水素化供給物のpH値を6.3〜7.8に調節することを特徴とするメチロールアルカナールを接触水素化する方法。
【請求項2】
水素化供給物がホルムアルデヒド5質量%未満を含有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
トリ−n−アルキルアミンを使用する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミンおよび/またはトリ−n−ブチルアミンを添加する請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
水素化触媒が元素周期表の第8〜12族の遷移金属の少なくとも1種の金属を含有する請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
水素化触媒が担体触媒である請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
担体材料としてチタン、ジルコニウム、ハフニウム、珪素および/またはアルミニウムの酸化物を使用する請求項6記載の方法。
【請求項8】
水素化触媒がマグネシウム、バリウム、亜鉛またはクロムの1種以上の元素の存在または不在で酸化アルミニウムまたは二酸化チタンを含有する担体材料上の銅を有する請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ヒドロキシピバルアルデヒド、ペンタエリスロースまたはジメチロールブタナールを使用する請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2006−523644(P2006−523644A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505124(P2006−505124)
【出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003951
【国際公開番号】WO2004/092097
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】