説明

メチロール尿素重合肥料を原料として用いる化成肥料及びその製造方法

【課題】肥効の促進および制御が可能な化成肥料を提供する。
【解決手段】メチロール尿素重合肥料を含む化成肥料であって、化成肥料中の窒素成分の5〜100重量%がメチロール尿素重合肥料由来であり、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して無機酸、有機酸及び/又はそれらの塩を1〜3000重量部添加して造粒し、次いでこれを乾燥して得られる化成肥料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメチロール尿素重合肥料を原料として用いる化成肥料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、尿素−ホルムアルデヒド縮合物を緩効性肥料として使用した場合の肥効の調節は、尿素−ホルムアルデヒド縮合物の粒径の大きさや造粒物の硬度を調節することによって行なわれている。つまり、肥効を遅くする場合には粒径を大きくするか、造粒物の硬度を高くし、逆に肥効を早くする場合には粒径を小さくするか、造粒物の硬度を低くする(例えば、特表2005−521761号公報)。
【0003】
しかしながら、尿素にホルムアルデヒドを加えて生成したメチロール尿素縮合物を重合して得られるメチロール尿素重合肥料は、窒素の100℃における熱水溶出率が4〜16%であり、無機化が遅いため、土壌に施用した場合その窒素肥効が完了するまでに2〜3年もかかるため、通常の化成肥料に相当する窒素成分量の施肥では作物に養分欠乏を生じるおそれがある。そのため、窒素栽培期間が1年以内の作物栽培では通常の化成肥料の5倍以上にあたる施用量が必要となる。また、栽培終了後でも土壌中に施用したメチロール尿素重合肥料由来の窒素成分が残存し不経済であり、その肥効を早める技術が強く望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特表2005−521761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、作物の栽培期間に応じた肥効効率の高い肥効調節型肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、化成肥料中の窒素成分の5〜100重量%をメチロール尿素重合肥料由来とし、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して無機酸、有機酸及び/又はそれらの塩を1〜3000重量部添加して造粒し、次いでこれを乾燥して得られる化成肥料が、作物の栽培期間に応じて肥効を調節できる肥効効率の高い肥料であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)メチロール尿素重合肥料を含む化成肥料であって、化成肥料中の窒素成分の5〜100重量%がメチロール尿素重合肥料由来であり、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して無機酸、有機酸及び/又はそれらの塩を1〜3000重量部添加して造粒し、次いでこれを乾燥して得られる化成肥料。
(2)無機酸及び/又は有機酸が、リン酸、過燐酸、重過燐酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、蓚酸、酪酸、酒石酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸及び腐植酸から選ばれた1種以上である前記(1)記載の化成肥料。
(3)メチロール尿素重合肥料を含む化成肥料の製造方法であって、化成肥料中の窒素成分の5〜100重量%がメチロール尿素重合肥料由来であり、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して無機酸、有機酸及び/又はそれらの塩を1〜3000重量部添加して造粒し、次いでこれを乾燥することを含む化成肥料の製造方法。
(4)無機酸及び/又は有機酸が、リン酸、過燐酸、重過燐酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、蓚酸、酪酸、酒石酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸及び腐植酸から選ばれた1種以上である前記(3)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作物の栽培期間に応じた肥効効率の高い肥効調節型肥料が提供される。本発明の化成肥料は、メチロール尿素重合肥料の無機化速度が共存する酸性塩の添加割合によって制御されるので、対象作物の栽培期間や養分の吸収パターンに合わせて窒素成分を作物に供給することが可能であり、追肥の回数の減少や栽培跡地に残留する窒素成分の削減に寄与でき、肥効効率の高い肥効調節型肥料であるばかりでなく、環境にもやさしい環境保全型肥料でもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書でいう「メチロール尿素重合肥料」とは、尿素にホルムアルデヒドを加えて生成したメチロール尿素縮合物を重合したものをいう。
【0010】
メチロール尿素縮合物は、作物に対し窒素徐放性肥料として広く用いられている。メチロール尿素縮合物は尿素とホルムアルデヒドとを反応させることにより製造され、さらにこれを酸性条件下で重合することによりメチロール尿素重合肥料が得られる。
【0011】
通常、メチロール尿素重合肥料は水には緩やかに溶解し、窒素分を土壌に少しずつ長期間にわたって放出するという特性を有する。しかしながら、このような特性は栽培期間の短い作物にとっては肥効効率が悪くなるため不利であり、栽培期間に応じて適切な肥効効率を有するメチロール尿素重合肥料が求められていた。
【0012】
本発明の化成肥料では、メチロール尿素重合肥料からの窒素分の供給速度を酸により調節することを特徴としている。
【0013】
本発明の化成肥料に添加される酸としては、作物が正常に生育するものであれば、無機酸でも有機酸でも特に限定されない。
【0014】
無機酸の具体例としては、例えば、リン酸、過燐酸、重過燐酸、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0015】
有機酸の具体例としては、例えば、酢酸、クエン酸、蓚酸、酪酸、酒石酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸、腐植酸等が挙げられる。
【0016】
これらの酸は、遊離酸及びその塩の形態のいずれであってもよく、そして1種だけでも、又は異種の酸を混合して用いてもよい。また、上記酸成分(又はその塩)としては硫酸塩やりん酸塩のような一般に肥料原料として用いられているものでもよい。硫酸塩としては、硫安、硫酸苦土、硫酸グアニル尿素、硫酸加里、硫酸加里苦土等が挙げられる。りん酸塩としては、過りん酸石灰、重過りん酸石灰、りん酸苦土、りん酸一アンモニウム等が挙げられる。酸成分としては、この他に、腐植酸肥料(例えば、腐植酸りん肥等)を用いることができる。
【0017】
これらの酸のメチロール尿素重合肥料に対する添加割合は、一定量より少ないとメチロール尿素重合肥料の肥効を促進することができず、逆に多すぎるとメチロール尿素重合肥料の肥効を早めすぎる。従って、その添加割合は、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して1〜3000重量部、好ましくは5〜2500重量部である。また、これらの酸の塩を含む肥料原料を用いる場合には、遊離酸に換算した重量比で、この範囲内であれば、本発明の効果を発現することができる。
【0018】
本発明の化成肥料には、肥料成分としてメチロール尿素重合肥料以外に他の肥料原料を混合してもよい。
【0019】
肥料原料としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
【0020】
窒素源としては、尿素、硫安、塩安、硝安、腐植酸アンモニア、IB窒素(イソブチルアルデヒド縮合尿素肥料)、CDU窒素(アセトアルデヒド縮合尿素)、ホルム窒素(ホルムアルデヒド加工尿素肥料)、オキザミド、石灰窒素、グアニル尿素、グリコール尿素等を始めとする肥料取締法に基づく窒素肥料が挙げられる。
【0021】
りん酸源としては、過りん酸石灰、重過りん酸石灰、りん酸苦土、りん酸1アンモニウム、りん酸二アンモニウム、重焼りん、苦土重焼りん、腐植酸りん肥、熔成りん肥、焼成りん肥を始めとする肥料取締法に基づくりん酸肥料が挙げられる。
【0022】
加里源としては、硫酸加里、塩化加里、硝酸加里、腐植酸加里を始めとする肥料取締法に基づく加里質肥料が挙げられる。
【0023】
その他、石灰質肥料、けい酸質肥料、苦土肥料、マンガン質肥料、ほう素質肥料、微量要素複合肥料、汚泥発酵肥料等を自由に選択して使用することができる。
【0024】
さらに、ピートモス、腐植酸質資材、ベントナイト、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、フライアッシュ、石こう等の土壌改良資材等を添加してもよい。
これらの肥料成分の使用割合は、本発明で使用する酸性原料の範囲内であれば、目的とする成分含量により適宜変動させて使用可能である。
【0025】
なお、本発明の化成肥料において、化成肥料中の全窒素分のうち5〜100重量%がメチロール尿素重合肥料に由来するものであるようにメチロール尿素重合肥料を含有させる。
【0026】
次に本発明の化成肥料の製造方法について説明する。
【0027】
パン造粒機又はドラム型造粒機等の造粒機に、メチロール尿素重合肥料、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して無機及び/又は有機酸を1〜3000重量部、水、さらには所望により他の肥料原料や添加剤等を入れて混合し、造粒する。造粒方法としては、例えば、転動造粒、圧縮造粒、押出造粒等が挙げられる。得られた造粒物は乾燥機(通常90〜120℃、好ましくは100〜110℃)又は天日で乾燥して本発明の粒状の化成肥料を得る。
【0028】
造粒に際して所望により結合促進材を用いてもよい。結合促進材としては、例えば、CMC(カルボキシメチルセルローズ)、リグニンスルホン酸、ポリリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、アタバルジャイト、デンプン、アラビアゴム、糖密等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下実施例及び比較例によって本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0030】
1−1.肥料の製造(実施例1〜8、比較例1の製造)
表1に示した重量比でメチロール尿素重合肥料及び酸(合計4kg)をパン造粒器に入れて十分混合し、水を適当に供給しながら造粒した。得られた造粒物を105℃の棚段式の乾燥機に4時間入れた後、室温まで冷却した。
【0031】
【表1】

【0032】
1−2.土壌中における無機化率測定試験
250ml容の三角フラスコに、2mmのふるいを通した風乾土壌(栃木県産黒ボク土、未耕地土壌)を乾土当り50g入れ、そこに実施例1〜8及び比較例1の肥料を全窒素で50mg相当量を施用し、最大容水量の60%になるように水を入れ、容器上部をアルミホイルで覆って30℃の恒温器に静置した。試験は1区当り3連制とし、供試土壌に含まれる無機態窒素を測定するために肥料無添加区も設けた。一定期間経過後に土壌全てを10%塩化加里溶液で500ml容フラスコに流し込み1時間振とうした。ろ過してろ液中のアンモニア態及び硝酸態窒素を水蒸気蒸留法で分析し、80%無機化するまでの日数を求めた。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示した結果のとおり、本発明の化成肥料はメチロール尿素重合肥料の無機化を早めることができ、しかも酸の添加量によって、その速度を制御することができた。
【0035】
2−1.肥料の製造(実施例9〜14、比較例2の製造)
表3に示した重量比でメチロール尿素重合肥料、過りん酸石灰及びCMCをパン造粒器に4kg入れて十分混合し、水を適当に供給しながら造粒した。得られた造粒物を105℃の棚段式の乾燥機に4時間入れた後、室温まで冷却した。
【0036】
【表3】

【0037】
2−2.土壌中における無機化率測定試験
「1−2.土壌中における無機化率測定試験」と同じ方法で実施した。その結果を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
表4に示した結果のとおり、本発明の化成肥料はメチロール尿素重合肥料の無機化を早めることができ、しかもりん酸塩肥料の添加量によって、その速度を制御することができた。さらに、含有するりん酸塩量は、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して、HPOとして12重量部以上1600重量部以下が望ましい。
【0040】
3.肥料の製造(成分8−8−8の肥料(実施例15の製造))
メチロール尿素重合肥料1.32kg、過りん酸石灰2.00kg、塩化加里0.57kg、ベントナイト0.59kg、CMC0.06kgをパン造粒機に入れて充分混合し、水を適当に供給しながら造粒した。得られた造粒物を105℃の棚段式の乾燥機に4時間入れた後、室温まで冷却した。
【0041】
4.肥料の製造(成分8−8−8の肥料(実施例16の製造))
メチロール尿素重合肥料1.32kg、熔成りん肥1.36kg、塩化加里0.57kg、ベントナイト1.03kg、CMC0.06kgをパン造粒機に入れて充分混合し、97%硫酸85gを水500gに希釈した溶液400gを供給しながら造粒した。得られた造粒物を105℃の棚段式の乾燥機に4時間入れた後、室温まで冷却した。
【0042】
5.肥料の製造(成分8−8−8の配合肥料(比較例3の製造))
粒状のメチロール尿素重合肥料1.3kg、17.5%粒状過りん酸石灰2.0kg、塩化加里0.55kgを配合した。
【0043】
6.こまつな栽培比較試験
土壌3000gに窒素換算で1000mgの実施例15、16の粒状肥料または比較例3の配合肥料を充分混合して、a/5000のワグネルポットに充填し、土壌の最大容水量の60%の状態になるよう水道水を潅水した。水が充分しみこんだ後、こまつな(品種:おそめ小松菜)20粒を播種し、ガラス温室内で栽培した。播種6日後にポット当り10本に間引いた。栽培期間中は、適宜潅水し、乾燥しないように管理した。播種58日後に地上部を収穫し、葉長および生体重を測定した。その結果を表5に示す。なお、本試験は、1試験区あたり3ポットで実施した。
【0044】
【表5】

【0045】
表5に示した結果のとおり、メチロール尿素重合肥料を原料として本発明の組成で製造した粒状化成肥料は、メチロール尿素重合肥料とりん酸、加里肥料を単に配合した肥料に比べ、作物を良好に生育させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチロール尿素重合肥料を含む化成肥料であって、化成肥料中の窒素成分の5〜100重量%がメチロール尿素重合肥料由来であり、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して無機酸、有機酸及び/又はそれらの塩を1〜3000重量部添加して造粒し、次いでこれを乾燥して得られる化成肥料。
【請求項2】
無機酸及び/又は有機酸が、リン酸、過燐酸、重過燐酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、蓚酸、酪酸、酒石酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸及び腐植酸から選ばれた1種以上である請求項1記載の化成肥料。
【請求項3】
メチロール尿素重合肥料を含む化成肥料の製造方法であって、化成肥料中の窒素成分の5〜100重量%がメチロール尿素重合肥料由来であり、メチロール尿素重合肥料100重量部に対して無機酸、有機酸及び/又はそれらの塩を1〜3000重量部添加して造粒し、次いでこれを乾燥することを含む化成肥料の製造方法。
【請求項4】
無機酸及び/又は有機酸が、リン酸、過燐酸、重過燐酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、蓚酸、酪酸、酒石酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸及び腐植酸から選ばれた1種以上である請求項3記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−91553(P2007−91553A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284818(P2005−284818)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(591148613)トモエ化学工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】