説明

メッキ前処理方法

【課題】 アルミニウム合金に施すメッキ前処理の工程数を少なくすることが可能なメッキ前処理方法を提供する。
【解決手段】 変質層の除去とアルミニウム合金成分の除去の処理液として、濃度が10vol%以上20vol%以下のリン酸と、濃度が3vol%以上12vol%以下の硝酸と混酸を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックなどのアルミニウム合金製部材の表面のメッキ前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金製シリンダブロックのピストン摺動面にはNi−SiCメッキが施される。このメッキ前処理として亜鉛下地被膜が一般に形成される。この亜鉛下地被膜を形成するには、図2に示すように、シリンダブロック表面に付着している油膜を脱脂処理して除去し、次いで、シリンダブロック表面のAl酸化膜、加工流動層或いは含油相などの変質層をアルカリ溶液でエッチングして除去し、更にシリンダブロック表面に残った合金成分を酸洗で除去し、この後、粗い亜鉛皮膜を形成し、この亜鉛皮膜を硝酸などで溶解させて亜鉛を含む不動態被膜とし、この不動態被膜をZn−O−Alからなる緻密な下地膜に置換するダブル亜鉛置換法が知られている。
上記の方法は、アルカリエッチング、酸洗、亜鉛皮膜置換、酸処理、亜鉛皮膜置換と工程数が多く、且つ各工程間に水洗工程が付加され、効率的ではない。
【0003】
そこで、特許文献1には、上記のエッチングと酸洗に用いる処理液として、硝酸と硫酸と酸性フッ化アンモン(酸性フッ化アンモニウム)を混合した酸性エッチング液を用いることで、2工程を1工程で済ます提案がなされている。
【0004】
特許文献2には、銀または銀合金からなる金属膜とITOなどの透明導電膜とを同時にエッチングする処理液として、銅イオン、硝酸及び酸性フッ化アンモニウム(NHF・HF)などのフッ素化合物を含有する処理液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−193481号公報
【特許文献2】特開2009−206462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される酸性エッチング液は硝酸と硫酸を混合しており、酸性フッ化アンモニウムが含まれていても、酸化力が過度に強くアルミニウム合金表面に不動態膜が形成されエッチングが進行しにくくなる。
【0007】
特許文献2に開示されるエッチング液は、硝酸と酸性フッ化アンモニウムを含んでいるが、アルミニウム合金の表面に前記同様に不動態膜を形成してしまう。
【0008】
また、酸性フッ化アンモニウムなどのフッ化物は、廃水処理コストが高く、取り扱いについても高度の安全対策が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく本願発明は、アルミニウム合金表面を脱脂した後、表面の変質層の除去とアルミニウム合金成分の除去を行い、この後表面に下地皮膜を形成するメッキ前処理方法において、前記変質層の除去とアルミニウム合金成分の除去の処理液として、濃度が10vol%以上20vol%以下のリン酸と、濃度が3vol%以上12vol%以下の硝酸との混酸を用いることで、1工程で前記変質層の除去とアルミニウム合金の除去を行うようにした。
【0010】
本発明において、リン酸または硝酸の濃度(vol%)は98%リン酸または98%硝酸を水で希釈したもので、例えば10vol%とは、98%リン酸100mlに対し水900mlを加えたことを示す。
また、リン酸と硝酸の配合割合はリン酸1に対し硝酸を0.5〜2.0添加するのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来アルカリエッチング液による変質層除去とアルミニウム合金成分の除去を2つの工程に分けて行っていたが、これを1工程で行うことが可能になった。その結果、メッキ前処理のサイクルタイムが短縮され効率が大幅に向上する。また、工程数削減に伴って専用及び汎用設備の投資削減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るメッキ前処理工程の概略図
【図2】従来のメッキ前処理工程の概略図
【図3】密着性の試験方法を説明した図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1に示すように本実施例にあっては、変質層の除去とアルミニウム合金成分の除去(スマットの溶解も含む)を1工程で行うとともに、亜鉛下地皮膜の形成も1工程で行うようにしている。
【0014】
またこの実施例にあっては、前記亜鉛下地皮膜の形成は同一溶液内での電解、即ち、粗い亜鉛皮膜を陽極電解し、電解で発生した活性な酸素によって、Zn元素とAl元素を結合して緻密なZn−O−Al膜を形成するようにしている。
【0015】
変質層の除去とアルミニウム合金成分の除去を1工程で行う処理液としては、リン酸と硝酸に着目し、これらを組み合わせて好適な範囲を検証した。因みに、リン酸のみでは酸化力が不足して変質層の除去が行えず、硝酸のみでは酸化力が強すぎて不動態膜を形成してしまう。
【0016】
好適か否かの判断はNi−SiCメッキ膜の密着性を基準として判断した。また、検証は図3に示すJIS−H8504−11(押出し試験方法)によって行った。
押出し試験方法は、先ずめっき面に対し裏側から底厚1.5mmを残しφ6.5mmの平底の穴をあけ、次いで、φ25mmの穴があいた受台の上に試料を乗せ、φ6.3mmのピンを前記平底の穴に刺し込み、打ち抜く。
打ち抜かれた破片部のめっきの状態変化を調べ密着性◎○×の判定を行った。
◎はめっきの剥がれが全く観られない、○は一部にめっきの剥がれが観られる、×は全周にめっきの剥がれが観られる、を表す。
以下の表に検証の結果を示す。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
【表3】

【0020】
【表4】

【0021】
【表5】

【0022】
【表6】

【0023】
上記した(表1)〜(表6)から明らかなように、リン酸と硝酸との混酸を使用する場合、リン酸については濃度を10vol%以上20vol%以下、硝酸については濃度を3vol%以上12vol%以下とした混酸が好ましく、リン酸については12vol%以上18vol%以下の濃度とするのが更に好ましい。
【0024】
但し、上記の範囲を検証したリン酸と硝酸の配合割合は、リン酸1に対し硝酸0.5〜2.0である。
尚、検証において液温については70℃、処理時間は60秒としたが、液温については50℃まで下げ、処理時間については30まで短縮しても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係るメッキ前処理工程は、例えばエンジンのシリンダブロックなどのアルミニウム合金製部材に施すメッキの前処理として利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金表面を脱脂した後、表面の変質層の除去とアルミニウム合金成分の除去を行い、この後表面に下地皮膜を形成するメッキ前処理方法において、前記変質層の除去とアルミニウム合金成分の除去の処理液として、濃度が10vol%以上20vol%以下のリン酸と、濃度が3vol%以上12vol%以下の硝酸との混酸を用いることで、1工程で前記変質層の除去とアルミニウム合金の除去を行うことを特徴とするメッキ前処理方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−57223(P2012−57223A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202568(P2010−202568)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】