説明

メッキ方法およびコーティング剤

【目的】 粉体塗装された成型品および一般塗装膜がコーティングされた成形品にメッキを可能にする。
【構成】 粉体塗装された成型品CMの粉体塗装膜面上にメッキする場合、該粉体塗装された成型品CMの粉体塗装膜面PP上に、該粉体塗装被膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤で新たに膜面PALを1層形成し、しかる後、該新たな膜面上に無電解ニッケル層NIを形成し、該無電解ニッケル層の上に金属の電解メッキを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメッキ方法およびコーティング剤に係わり、特に、粉体塗装膜面上に新たな膜面を1層形成することにより、あるいは成型品の塗装膜面上に新たな膜面を1層形成することによりメッキ加工を可能にする塗装膜面へのメッキ方法、並びにコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メッキ加工が可能な物質の条件は、(1)平滑性および通電性があり、かつ電解ニッケル層が形成可能な物質であること、または、(2)組成成分にブタジエンを含む平滑な物質であり、かつ表面を腐食させることにより、腐食面に無電解ニッケル層を形成できる物質であることである。すなわち、上記いずれかの条件を満たさない物質はメッキ加工が不可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
・鋳造成型品のメッキ:
鋳造成型品の製造工程は、鋳型に素材である非鉄金属や金属を熱処理にて溶かして流しこみ冷却するが、溶かすことにより素材に空気が含まれる。その空気が気泡になり、図1に示すように冷却後に仕上がった鋳造成型品CMに巣穴Hが発生し、平滑性は得られない。
メッキ加工品は素材の表面の平滑性をそのまま反映するため、平滑なメッキ加工品を製造するには、必然的に素材の平滑性が求められる。鋳造成型品の平滑性を得るためには巣穴をカバーするように粉体塗装Pを施さなければならない(図2参照)。
しかし、粉体塗装表面は無電解ニッケル層が密着しないためメッキ加工が不可能である。すなわち、従来は鋳造成型品に平滑性を持たせる為の粉体塗装膜面上に容易にメッキ加工することができない問題がある。
【0004】
・鍛造成型品のメッキ:
鍛造成型品の製造工程は素材をプレス加工する。素材は熱処理により溶かし固まったものであるため、表面は平滑ではない。その表面の平滑面を得るため研磨加工が必要である。研磨加工で成型品の細部を磨くことは難しくまた手間がかかり熟練を要する問題がある。
また、メッキ面に一旦傷がついた場合などで修復のための再メッキ加工に際して、図3に示すように、メッキ層MPの剥離加工が必要で、剥離加工後に鍛造成形品素地FMの表面が荒れるため再度研磨加工が必要となる問題がある。
以上より、従来は鍛造成形品に平滑性を持たせてメッキ加工することが容易でなく、しかも、再メッキを容易に行なえない問題がある。
【0005】
・一般塗装品のメッキ:
従来、非鉄金属(アルミ)、金属以外の物質および組成成分にブタジエンを含まない成形品は通電性なく腐食されないため無電解ニッケルが結合せずメッキ加工は不可能である。そこで、一般塗装膜(フッソ、シリコーン、軟質ビニール以外の一般塗装膜)をこれら物質、成形品にコーティングしてメッキすることが考えられるが、一般塗装膜面上に密着可能で、且つ、無電解ニッケルが結合可能な物質がないため、上記物質および成形品へのメッキ加工は不可能である。
以上から本発明の目的は、鋳造成型品、鍛造成型品へ平滑性を持ってメッキすることが可能なメッキ方法およびコーティング剤を提供することである。
本発明の別の目的は、粉体塗装された成型品および一般塗装膜がコーティングされた成形品にメッキを可能にするメッキ方法およびコーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は本発明によれば、塗装膜面にメッキを施すメッキ方法において、粉体塗装された成型品の粉体塗装膜面上に、該粉体塗装被膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤で新たに膜面を1層形成するステップ、該新たな膜面上に無電解ニッケル層を形成するステップ、該無電解ニッケル層の上に金属の電解メッキを施すステップを備えるメッキ方法により達成される。
また、上記課題は本発明によれば、塗装膜面にメッキ加工を施すメッキ方法において、成型品を塗装してなる塗装膜面上に、該塗装膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤で新たに膜面を1層形成するステップ、該新たな膜面上に無電解ニッケル層を形成するステップ、該無電解ニッケル層の上に金属の電解メッキを施すステップを備えるメッキ方法により達成される。
なお、前記コーティング剤は、無電解ニッケル面に結合し、かつ腐食性を持つシクロヘキサノン及び塗装膜面への密着性を持つアセトンを含む。また、前記コーティング剤は、塗装膜密着補助材として酢酸ブチルとメチルイソブチルケトンを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粉体塗装被膜あるいは一般塗装被膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤を、粉体塗装膜面上に、あるいは、一般塗装膜面上にコーティングしてから、無電解ニッケル層を形成するようにしたから、粉体塗装被膜あるいは一般塗装被膜が形成された物質に平滑性を持ってメッキすることが可能なった。特に、今まで不可能であった鋳造成型品、鍛造成型品、非鉄金属(アルミ)、金属以外の物質および組成成分にブタジエンを含まない成形品へ平滑性を持ってメッキすることが可能なった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
粉体塗装された成型品の粉体塗装膜面上にメッキする場合、該粉体塗装された成型品の粉体塗装膜面上に、粉体塗装被膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤で新たに膜面を1層形成し、しかる後、該新たな膜面上に無電解ニッケル層を形成し、該無電解ニッケル層の上に金属の電解メッキを施す。
また、一般塗装剤で成型品を塗装してなる塗装膜面上に、該塗装膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤で新たに膜面を1層形成し、しかる後、該新たに膜面上に無電解ニッケル層を形成し、該無電解ニッケル層の上に金属の電解メッキを施す。
コーティング剤は、無電解ニッケル面に結合し、かつ腐食性を持つシクロヘキサノン、塗装膜面への密着性を持つアセトン、塗装膜密着補助材として酢酸ブチルとメチルイソブチルケトンを希釈剤で希釈したものである。
【実施例1】
【0009】
図4は本発明の第1実施例のメッキ工程説明図であり、鋳造成形品に粉体塗装膜を形成し、ついで、コーティング剤をコーティングしてから無電解メッキにより無電解ニッケル層を形成する場合である。
高温で溶融後、鋳型にて鋳造成型品CMを成型する(図(1)参照)。ついで、気泡によってできたでこぼこな鋳型成型品の表面に、平滑性をもたせるため、粉体塗装により粉体塗装面PPを形成する(図(2)参照)。粉体塗装面形成後、該平滑な粉体塗装表面に本発明に係るコーティング剤をコーティングし、メッキ補助層PALを形成する。コーティング剤は表1に示す成分および配合比を備えている。
【表1】

シクロヘキサノンは、無電解ニッケル面に結合する性質および腐食性を備えており、アセトンは塗装膜面に対する密着性を保持する性質を有している。本発明のコーティング剤は、少なくともこれらの性能を備えた材料を含むことが必須であるが、同様の性能を持つものであれば、シクロヘキサノン、アセトンに限らない。酢酸ブチルとメチルイソブチルケトンは塗装膜密着補助剤として機能し、トルエンは希釈剤である。表1の配合比が良好な密着性と無電解ニッケルメッキを可能にするが、希釈剤であるトルエンの量を増減して配合比を多少変えても、良好な密着性、無電解ニッケル面に対する結合性、腐食性を維持できる。換言すれば、シクロヘキサノンやアセトンなどの配合比は、塗装膜に対する密着性能および無電解ニッケル面に対する結合性能および腐食性能を維持できる範囲で変えることができる。
【0010】
コーティング剤のコーティング(被着)は、図5に示すようにスプレーガン11又は、図6に示すように、刷毛12などを用いてコーティング剤を粉体塗装面PP上に吹き付けて、あるいは塗付して被着する。なお、自動的にコーティングロボットにより被着することもできる。
ついで、メッキ補助層PAL上に無電解ニッケ層NIを形成する(図4(4))。これにより金属メッキが可能となるから、無電解ニッケル層NIの上に以後、所望の金属で電解メッキを行ない、メッキ層MPLを形成する(図4(5))。尚、金属の電解メッキは、たとえば、無電解ニッケル層の上に電解ニッケル層を形成し、しかる後に所望の金属で電解ニッケル層の上に電解メッキする。
以上、第1実施例によれば、該粉体塗装被膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤を粉体塗装膜面上にコーティングしたから、該コーティング剤層の上に無電解ニッケル層の形成が可能となり、これにより該無電解ニッケル層の上に所定の金属メッキが可能となる。
【実施例2】
【0011】
図7は本発明の第2実施例のメッキ工程説明図であり、通電性が無く、エッチングが不可能な物体に一般塗装膜(フッソ、シリコーン、軟質ビニール以外の一般塗装膜)を形成し、その上にコーティング剤をコーティングしてから無電解ニッケル層を形成する場合である。
通電性が無く、エッチングが不可能な成型品MLに一般塗装膜(フッソ、シリコーン、軟質ビニール以外の一般塗装膜)の面PSを形成する(図7の(1),(2))。しかる後、一般塗装膜面PSに本発明に係るコーティング剤をコーティングし、メッキ補助層PALを形成する(図7(3))。コーティング剤は表1に示すものである。コーティング剤のコーティング(被着)法は、第1実施例と同様の方法により行なう。
ついで、メッキ補助層PALに無電解ニッケル層NIを形成し(図7(4))。これにより金属メッキが可能となるから、無電解ニッケル層NIの上に以後、所望の金属で電解メッキを行ない、メッキ層MPLを形成する(図7(5))。
以上、第2実施例によれば、一般塗装膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤を一般塗装膜面上にコーティングしたから、該コーティング剤層の上に無電解ニッケル層の形成が可能となり、これにより該無電解ニッケル層の上に所定の金属メッキが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鋳造成型品の断面図である。
【図2】鋳造成型品にメッキができない理由の説明図である。
【図3】鍛造成型品の再メッキ加工が困難である理由説明図である。
【図4】本発明の第1実施例のメッキ工程説明図である。
【図5】スプレーガン使用のコーティング剤のコーティング法の説明図である。
【図6】刷毛使用のコーティング剤のコーティング法の説明図である。
【図7】本発明の第2実施例のメッキ工程説明図である。
【符号の説明】
【0013】
CM 鋳造成型品
PP 粉体塗装面
PAL メッキ補助層
NI 無電解ニッケ層
MPL 所望の金属で電解メッキ層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装膜面にメッキを施すメッキ方法において、
粉体塗装された成型品の粉体塗装膜面上に、該粉体塗装被膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤で、新たに膜面を1層形成するステップ、
該新たな膜面上に無電解ニッケル層を形成するステップ、
該無電解ニッケル層の上に金属の電解メッキを施すステップ、
を備えることを特徴とするメッキ方法。
【請求項2】
塗装膜面にメッキ加工を施すメッキ方法において、
成型品を塗装してなる塗装膜面上に、該塗装膜に密着し、かつ無電解ニッケルに結合する腐食性のあるコーティング剤で、新たに膜面を1層形成するステップ、
該新たに膜面上に無電解ニッケル層を形成するステップ、
該無電解ニッケル層の上に金属の電解メッキを施すステップ、
を備えることを特徴とするメッキ方法。
【請求項3】
前記コーティング剤は、無電解ニッケルに結合し、かつ腐食性を持つシクロヘキサノン及び塗装膜面への密着性を持つアセトンを含むことを特徴とする請求項1または2記載のメッキ方法。
【請求項4】
前記コーティング剤は、塗装膜密着補助材として酢酸ブチルとメチルイソブチルケトンを含むことを特徴とする請求項3記載のメッキ方法。
【請求項5】
塗装膜上に無電解ニッケル層の形成を可能にするコーティング剤において、
無電解ニッケルに結合し、かつ腐食性を持つシクロヘキサノン及び塗装膜面への密着性を持つアセトンを含むことを特徴とするコーティング剤。
【請求項6】
前記コーティング剤は、塗装膜密着補助剤として酢酸ブチルとメチルイソブチルケトンを含み、希釈剤としてトルエンを含むことを特徴とする請求項5記載のコーティング剤。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−152388(P2006−152388A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346180(P2004−346180)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(504440410)
【出願人】(504441772)
【出願人】(504440421)
【Fターム(参考)】