説明

メッキ樹脂成形体

【課題】 メッキの密着強度の高いメッキ樹脂成形体の提供。
【解決手段】 (A)結晶融解熱量が10J/g以上のポリアミド系樹脂、(B)前記(A)のポリアミド系樹脂を除く熱可塑性樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂は除く)、及び(C)必要に応じて相溶化剤を含有する樹脂組成物からなり、少なくとも(A)成分の非晶質部分の一部が脱落した樹脂成形体の表面に形成された金属メッキ層を有するメッキ樹脂成形体であり、前記樹脂成形体がクロム及び/又はマンガンを含む酸によりエッチング処理されていないものであるメッキ樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ強度が高いメッキ樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を軽量化する目的から、自動車部品としてABS樹脂やポリアミド樹脂等の樹脂成形体が使用されており、この樹脂成形体に高級感や美感を付与するため、銅、ニッケル等のメッキが施されている。
【0003】
従来、ABS樹脂等の成形体にメッキを施す場合、樹脂成形体とメッキ層との密着強度を高めるため、脱脂工程の後に樹脂成形体を粗面化するエッチング工程が必須である。例えば、ABS樹脂成形体やポリプロピレン成形体をメッキする場合、脱脂処理の後に、クロム酸浴(三酸化クロム及び硫酸の混液)を用い、65〜70℃、10〜15分でエッチング処理する必要があり、廃水には有毒な6価のクロム酸イオンが含まれる。このため、6価のクロム酸イオンを3価のイオンに還元した後に中和沈殿させる処理が必須となり、廃水処理時の問題がある。
【0004】
このように現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮すると、クロム浴を使用したエッチング処理をしないことが望ましいが、その場合には、ABS樹脂等から得られる成形体へのメッキ層の密着強度を高めることができないという問題がある。
【0005】
特許文献1〜4の発明は、このような従来技術の問題を解決し、クロム浴を使用したエッチング処理を不要としたにも拘わらず、高い密着強度を有する金属メッキ層を有するメッキ樹脂成形体が得られたものである。
【特許文献1】特開2003−82138号公報
【特許文献2】特開2003−166067号公報
【特許文献3】特開2004−2996号公報
【特許文献4】特開平7−330934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、樹脂成形体とメッキ層の密着強度が高く、外観も美しいメッキ樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)結晶融解熱量が10J/g以上のポリアミド系樹脂、
(B)前記(A)のポリアミド系樹脂を除く熱可塑性樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂は除く)、及び
(C)必要に応じて相溶化剤を含有する樹脂組成物からなり、少なくとも(A)成分の非晶質部分の一部が脱落した樹脂成形体の表面に形成された金属メッキ層を有するメッキ樹脂成形体であり、
前記樹脂成形体がクロム及び/又はマンガンを含む酸によりエッチング処理されていないものであるメッキ樹脂成形体を提供する。
【0008】
また本発明は、課題の他の解決手段として、樹脂成形体から脱落した(A)成分の非晶質部分が1.5〜3規定の塩酸によるエッチング処理により脱落したものである、請求項1記載のメッキ樹脂成形体を提供する。
【0009】
また本発明は、課題の他の解決手段として、樹脂成形体と金属メッキ層との密着強度(JIS H8630)の最高値が10kPa以上である請求項1又は2記載のメッキ樹脂成形体を提供する。
【0010】
また本発明は、課題の他の解決手段として、自動車部品用途である請求項1〜3のいずれかに記載のメッキ樹脂成形体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のメッキ樹脂成形体は、樹脂成形体と金属メッキ層との密着強度が高く、美しい外観を有しており、クロム酸エッチング等の処理を不要とし、簡単な製造工程により得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<(A)成分>
(A)成分のポリアミド系樹脂は、結晶融解熱量が10J/g以上のものであり、好ましくは10〜150J/g、より好ましくは15〜120J/g、更に好ましくは20〜100J/g、特に好ましくは25〜90J/gである。結晶融解熱量が前記範囲である(A)成分は、結晶融解熱量で特定される結晶部分と共に残余の非晶質部分を含むものである。
【0013】
(A)成分の結晶融解熱量を上記範囲内に設定することにより、樹脂成形体の表面から(A)成分の非晶質部分が脱落され、脱落後に生じた微細孔の作用により、強固なメッキ層が形成される。
【0014】
結晶融解熱量は、DSC測定により実施する。測定するポリアミド系樹脂ペレットから5〜10mgサンプルを取り出し、島津製作所製 DSC 600E を使用し、昇温速度20℃/分、降温速度20℃/分の条件で2回温度スキャンを行い、2ndスキャンでの融解熱量を結晶融解熱量とする。
【0015】
(A)成分のポリアミド系樹脂としては、ナイロン66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカナミド(ナイロン6・12)、ポリドデカメチレンドデカナミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)及びこれらの混合物や共重合体;ナイロン6/66、6T成分が50モル%以下であるナイロン66/6T(6T:ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、6I成分が50モル%以下であるナイロン66/6I(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/6I/610等の共重合体;ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM5T)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)イソフタルアミド(ナイロンM5I)、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T等の共重合体が挙げられ、そのほかアモルファスナイロンのような共重合ナイロンでもよく、アモルファスナイロンとしてはテレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合物等を挙げることができる。
【0016】
更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物及びこれらの成分からなる共重合体、具体的には、ナイロン6、ポリ−ω−ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ−ω−ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂及びこれらの共重合体、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体、具体的にはナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/6I/610/12等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0017】
ポリアミド系樹脂としては、上記の中でもPA(ナイロン)6、PA(ナイロン)66、PA(ナイロン)6/66が好ましい。
【0018】
<(B)成分>
(B)成分の(A)成分を除く熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂を含む)、アクリル酸塩系樹脂、セルロース系樹脂、ビニールアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂(PPS)、ポリスルホン樹脂、アクリル系樹脂(但し、アクリル酸塩系樹脂を除く)、又はこれらのアロイを挙げることができ、これらの中でもスチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂を含む)、オレフィン系樹脂が好ましい。なお、(B)成分の熱可塑性樹脂には、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)は含まれない。
【0019】
スチレン系樹脂は、スチレン及びα置換、核置換スチレン等のスチレン誘導体の重合体を挙げることができる。また、これら単量体を主として、これらとアクリロニトリル、アクリル酸並びにメタクリル酸のようなビニル化合物及び/又はブタジエン、イソプレンのような共役ジエン化合物の単量体から構成される共重合体も含まれる。例えばポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリレート共重合体(MS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS樹脂)等を挙げることができる。
【0020】
また、ポリスチレン系樹脂として、ポリアミド系樹脂との相溶性をあげるためのカルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体を含んでもよい。カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体は、ゴム質重合体の存在下に、カルボキシル基含有不飽和化合物及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を重合してなる共重合体である。成分を具体的に例示すると、
1)カルボキシル基含有不飽和化合物を共重合したゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニルモノマーを必須成分とする単量体あるいは芳香族ビニルとカルボキシル基含有不飽和化合物とを必須成分とする単量体を重合して得られたグラフト重合体、
2)ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニルとカルボキシル基含有不飽和化合物とを必須成分とする単量体を共重合して得られたグラフト共重合体、
3)カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されていないゴム強化スチレン系樹脂とカルボキシル基含有不飽和化合物と芳香族ビニルとを必須成分とする単量体の共重合体との混合物、
4)上記1),2)とカルボキシル基含有不飽和化合物と芳香族ビニルとを必須とする共重合体との混合物、
5)上記1)、2)、3)、4)と芳香族ビニルを必須成分とする共重合体との混合物がある。
【0021】
上記1)〜5)において、芳香族ビニルとしてはスチレンが好ましく、また芳香族ビニルと共重合する単量体としてはアクリロニトリルが好ましい。カルボキシル基含有不飽和化合物は、スチレン系樹脂中、好ましくは0.1〜8質量%であり、より好ましくは0.2〜7質量%である。
【0022】
オレフィン系樹脂は、炭素数2〜8のモノオレフィンを主たる単量体成分とする重合体であり、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン−1、これらの変性物等から選ばれる1種以上を挙げることができ、これらの中でもポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0023】
(A)成分及び(B)成分は、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法又はこれらを組み合わせた公知の重合法を適用して製造したものを用いることができる。
【0024】
<(C)成分>
(C)成分の相溶化剤は、(A)及び(B)成分が互いの相溶性が劣る場合に使用する成分であり、相溶性の劣る(A)成分及び(B)成分を均一に分散混合させるように作用する。
【0025】
(C)成分の相溶化剤としては、カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体を挙げることができる。
【0026】
カルボキシル基含有不飽和化合物が共重合されているスチレン系共重合体は、ゴム質重合体の存在下に、カルボキシル基含有不飽和化合物及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を重合してなる共重合体であり、上記した1)〜5)を相溶化剤として用いることができる。
【0027】
<含有割合>
樹脂組成物中における(A)〜(C)成分の含有割合は、次のとおりである。
【0028】
(A)成分は、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%、特に好ましくは30〜60質量%である。
【0029】
(B)成分は、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%、特に好ましくは40〜70質量%である。
【0030】
(C)成分は、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。
【0031】
<その他の成分>
本発明においては、樹脂組成物に対して更に(D)成分として、水100gへの溶解度(25℃)が300g以下、好ましくは溶解度が100g以下、より好ましくは10g以下の水可溶性物質を配合することができる。
【0032】
(D)成分としては、上記溶解度を満たす、デンプン、デキストリン、プルラン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース又はこれらの塩等の多糖類;プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコール;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、アクリル酸−無水マレイン酸コポリマー、無水マレイン酸−ジイソブチレンコポリマー、無水マレイン酸−酢酸ビニルコポリマー、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物及びこれらの塩等を挙げることができる。これらの中でも、ペンタエリスリトール(溶解度7.2g/100g)、ジペンタエリスリトール(溶解度0.1g以下/100g)が好ましい。
【0033】
樹脂組成物中の(D)成分の含有割合は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して0.01〜50質量部が好ましく、0.01〜30質量部がより好ましく、0.01〜15質量部が更に好ましい。
【0034】
本発明においては、樹脂組成物に対して更に(E)成分として、界面活性剤及び/又は凝固剤を配合することができる。界面活性剤は、(A)成分及び(B)成分の製造時に乳化重合を適用した場合に用いる界面活性剤(乳化剤)が樹脂中に残存しているものでもよいし、塊状重合等の乳化剤を使用しない製造法を適用した場合には、別途(A)及び(B)成分中に添加したものでもよい。
【0035】
界面活性剤、凝固剤は、樹脂の乳化重合で使用するもののほか、乳化重合で使用するもの以外のものでもよく、界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好ましい。
【0036】
界面活性剤としては、脂肪酸塩、ロジン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸ジエステル塩、α−オレフィン硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤;モノもしくはジアルキルアミン又はそのポリオキシエチレン付加物、モノ又はジ長鎖アルキル第4級アンモニウム塩等のカチオン界面活性剤;アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンブロックコポリマー、脂肪酸モノグリセリド、アミンオキシド等のノニオン界面活性剤;カルボベタイン、スルホベタイン、ヒドロキシスルホベタイン等の両性界面活性剤を挙げることができる。
【0037】
樹脂組成物中の(E)成分の含有割合は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.01〜5質量部がより好ましく、0.01〜2質量部が更に好ましい。
【0038】
本発明においては、樹脂組成物に対して更に(F)成分として、リン系化合物を配合することができる。(F)成分としては、下記のものから選ばれる1種又は2種以上用いることができる。
【0039】
トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(o−又はp−フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、o−フェニルフェニルジクレジルホスフェート、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、テトラフェニル−m−フェニレンジホスフェート、テトラフェニル−p−フェニレンジホスフェート、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールA・ポリフェニルホスフェート、ジピロカテコールハイポジホスフェート等の縮合系リン酸エステル。
【0040】
ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニルネオペンチルホスフェート、ペンタエリスリトールジフェニルジホスフェート、エチルピロカテコールホスフェート等の正リン酸エステル等の脂肪酸・芳香族リン酸エステル。
【0041】
ポリリン酸メラミン、トリポリリン酸、ピロリン酸、オルソリン酸、ヘキサメタリン酸等のアルカリ金属塩、フィチン酸等のリン酸系化合物又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩等。
【0042】
更に、上記以外のリン系化合物として、公知の樹脂用の難燃剤及び酸化防止剤として使用されているリン系化合物を用いることができる。
【0043】
樹脂組成物中の(F)成分の含有割合は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜30質量部が好ましく、0.1〜20質量部がより好ましく、0.1〜10質量部が更に好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物には、樹脂成形体の用途に応じて、公知の無機又は有機繊維状充填剤や無機又は有機粒状充填剤、その他の公知の各種添加剤を配合することができる。
【0045】
樹脂成形体は、(A)〜(F)成分等を含む組成物を用い、射出成形、押出成形等の公知の方法により、用途に適した所望形状に成形して得ることができる。
【0046】
<メッキ樹脂成形体>
本発明のメッキ樹脂成形体は、樹脂成形体と金属メッキ層との密着強度(JIS H8630)は、好ましくは最高値が10kPa以上、より好ましくは最高値が50kPa以上、更に好ましくは最高値が100kPa以上、特に好ましくは最高値が150kPa以上である。
【0047】
本発明のメッキ樹脂成形体の形状、メッキ層の種類、厚み等は、用途に応じて適宜選択することができ、各種用途に適用することができるが、特にバンパー、エンブレム、ホイールキャップ、内装部品、外装部品等の自動車部品用途として適している。
【0048】
<メッキ樹脂成形体の製造方法>
本発明のメッキ樹脂成形体は、クロム及び/又はマンガン等の重金属を含む酸によりエッチング処理しないで製造されるものであり、特許文献1〜3に開示された方法に準じて製造することができる。
【0049】
但し、脱脂処理に代えて、1.5〜3.5規定の塩酸でエッチング処理する工程を行う。この塩酸によるエッチング処理により、樹脂成形体を構成する(A)成分の非晶質部分が脱落して、樹脂成形体表面が多孔質となり、この表面の多孔質構造が強固な金属メッキ層の形成に関与しているものと考えられる。非晶質部分の脱落の有無は、実施例に記載のIR測定により確認できる。塩酸は1.8〜3.5規定が好ましく、2〜3規定がより好ましい。
【0050】
製造方法の一実施形態を示すと、1.5〜3.5規定の塩酸によるエッチング工程、プリディップ工程、キャタリスト工程、アクセレーター工程、ポストアクセレーター工程及びメッキ工程を含む方法を適用できる。
【0051】
1.5〜3.5規定の塩酸によるエッチング工程は、前記濃度範囲の塩酸水溶液に20〜60℃で、1〜10分間浸漬することにより行う。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で行ったメッキ層の密着性試験と、使用した成分の詳細は下記のとおりである。
【0053】
(メッキ層の密着性試験)
実施例及び比較例で得られたメッキ樹脂成形体を用い、JIS H8630附属書6に記載された密着試験方法により、樹脂成形体と金属メッキ層との密着強度(最高値)を測定した。
【0054】
全反射吸収測定:ATR(Attenuated Total Reflection)
装置として、デジラボ・ジャパン製顕微FT-IR装置:FTS-135を使用し、成形品の表面のIR分析を実施した。試料へのもぐりこみ深さは、測定に使用される屈折率材質、及び波長(波数)に依存するが、今回の測定に使用される材質はSiであり、波数1000cm−1付近の試料へのもぐりこみ深さは約0.6μmと考えられる。
【0055】
成形品表面での(A)成分と(B)成分との比率は、(A)成分であるポリアミドのアミド基に起因する1201cm−1の吸収と、(B)成分であるABS樹脂のブタジエンに起因する911cm−1の吸収の比率で評価した。成形品表面でのポリアミドの結晶成分/非晶成分の比率は、次式:1201cm−1の吸収/1171cm−1、から求められる吸収の値で評価した。この値が大きいほど結晶成分の比率が大きいことを示す。
【0056】
(ヒートサイクル試験1)
縦100mm、横50mm、厚み3mmのメッキ樹脂成形体を試験片として用い、−30℃で60分間保持、室温(20℃)で30分間保持、75℃で60分間保持、室温(20℃)で30分間保持を1サイクルとして、計3サイクルのヒートサイクル試験を行う。
【0057】
(ヒートサイクル試験2)
縦100mm、横50mm、厚み3mmのメッキ樹脂成形体を試験片として用い、−30℃で60分間保持、室温(20℃)で30分間保持、85℃で60分間保持、室温(20℃)で30分間保持を1サイクルとして、計3サイクルのヒートサイクル試験を行う。
【0058】
(使用成分)
(A)成分
A−1:ポリアミド6,宇部興産株式会社製 UBEナイロン6 1013B(結晶融解熱量:60J/g)
A−2:ポリアミド66,宇部興産株式会社製 UBEナイロン66 2020B(結晶融解熱量:77J/g)
A−3:6-66共重合ポリアミド 宇部興産株式会社製 UBEナイロン5013B(結晶融解熱量:44J/g)
(B)成分
B−1:ポリプロピレン樹脂,サンアロマー社製 PMB60A
B−2:ABS樹脂(スチレン量45質量%、アクリロニトリル15質量%、ポリブタジエン系ゴム40質量%)
B−3:AS樹脂(スチレン量75質量%、アクリロニトリル125質量%)
比較用樹脂:ポリフェニレンエーテル樹脂,固有粘度が0.40(30℃、クロロホルム中)であるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル
(C)成分
C−1:酸変性ABS樹脂(スチレン量42質量%、アクリロニトリル16質量%、ポリブタジエン系ゴム40質量%、メタクリル酸2重量%)
C−2:酸変性ABS樹脂(スチレン量40質量%、アクリロニトリル14質量%、ポリブタジエン系ゴム40質量%、メタクリル酸6重量%)
C−3:酸変性SEBS、タフテックM1913,旭化成ケミカルズ製
C−4:酸変性ポリプロピレン樹脂、CA100,アトフィナ社製
(D)成分
ジペンタエリスリトール:以下DPER(広栄化学工業社製)
(E)成分
αオレフィンスルホン酸ナトリウム PB800(ライオン株式会社製)
(その他の成分)
炭素繊維:東邦テナックス社製,HTA−C6−UEL1
ガラス繊維:エヌエスジー・ヴェトロテックス社製のマイクログラスチョップドストランド RES03−TP27
実施例及び比較例
表1に示す組み合わせと比率の組成物〔(A)及び(B)成分は質量%表示で、他成分は(A)及び(B)成分の合計100質量部に対する質量部表示)を用い、V型タンブラーで混合後、二軸押出機(日本製鋼製,TEX30,シリンダー温度230℃)にて溶融混練し、ペレットを得た。次に、射出成形機(シリンダー温度240℃、金型温度60℃)により100×50×3mmの成形体を得て、この成形体を試験片として下記の工程順による無電解メッキを行い、メッキ樹脂成形体を得た。試験結果を表1に示す。
【0059】
(メッキ樹脂成形体の製造法)
化学めっき工程1
1−1脱脂工程
樹脂成形体を、エースクリンA−220(奥野製薬工業(株)製)50g/L水溶液(液温40℃)に5分浸漬した。
【0060】
1−2エッチング工程
樹脂成形体を、35質量%塩酸200ml/L(2.3規定)水溶液(液温40℃)中に5分間浸漬した。
【0061】
エッチング処理前における実施例18の樹脂成形体の表面状態図1(SEM写真)に示し、エッチング処理後における実施例18の樹脂成形体の表面状態を図2(SEM写真)に示す。図3は図2の拡大写真である。
【0062】
図1と図2(図3)との対比から明らかなとおり、塩酸によるエッチング処理により、網目状の結合と共に微細孔が存在していることが確認された(大きめの塊状物はABS樹脂のゴムである)。
【0063】
更に、IRの測定(図4、図5)により、ポリアミド中の非晶質部分が脱落したことを確認した。図4はエッチング前、図5はエッチング前の測定データである。
【0064】
1−3触媒付与工程
35質量%塩酸150ml/Lと、キャタリストC(奥野製薬工業(株)製)40ml/L水溶液との混合水溶液(液温25℃)中に3分間浸漬した。
【0065】
1−4第1活性化工程
樹脂成形体を、98質量%硫酸100ml/L水溶液(液温40℃)中に3分間浸漬した。
【0066】
1−5第2活性化工程
試験片を、水酸化ナトリウム15g/L水溶液(液温40℃)中に2分間浸漬した。
【0067】
1−6ニッケルの無電解メッキ工程
樹脂成形体を、化学ニッケルHR−TA(奥野製薬工業(株)製)150ml/Lと、化学ニッケルHR−TB(奥野製薬工業(株)製)150ml/Lの混合水溶液(液温40℃)に3分間浸漬した。
【0068】
化学めっき工程2
2−1脱脂工程
樹脂成形体を、エースクリンA−220(奥野製薬工業(株)製)50g/L水溶液(液温40℃)に5分浸漬した。
【0069】
2−2エッチング工程
樹脂成形体を、35質量%塩酸250ml/L(2.8規定)水溶液(液温40℃)中に5分間浸漬した。
【0070】
2−3触媒付与工程
35質量%塩酸150ml/Lと、キャタリストC(奥野製薬工業(株)製)40ml/L水溶液との混合水溶液(液温25℃)中に3分間浸漬した。
【0071】
2−4第1活性化工程
樹脂成形体を、98質量%硫酸100ml/L水溶液(液温40℃)中に3分間浸漬した。
【0072】
2−5第2活性化工程
試験片を、水酸化ナトリウム15g/L水溶液(液温40℃)中に2分間浸漬した。
2−6ニッケルの無電解メッキ工程
樹脂成形体を、化学ニッケルHR−TA(奥野製薬工業(株)製)150ml/Lと、化学ニッケルHR−TB(奥野製薬工業(株)製)150ml/Lの混合水溶液(液温40℃)に3分間浸漬した。
【0073】
化学めっき工程3
3−1脱脂工程
樹脂成形体を、エースクリンA−220(奥野製薬工業(株)製)50g/L水溶液(液温40℃)に5分浸漬した。
【0074】
3−2エッチング工程
樹脂成形体を、35質量%塩酸300ml/L水溶液(液温40℃)中に5分間浸漬した。
【0075】
3−3触媒付与工程
35質量%塩酸150ml/Lと、キャタリストC(奥野製薬工業(株)製)40ml/L水溶液との混合水溶液(液温25℃)中に3分間浸漬した。
【0076】
3−4第1活性化工程
樹脂成形体を、98質量%硫酸100ml/L水溶液(液温40℃)中に3分間浸漬した。
【0077】
3−5第2活性化工程
試験片を、水酸化ナトリウム15g/L水溶液(液温40℃)中に2分間浸漬した。
【0078】
3−6ニッケルの無電解メッキ工程
樹脂成形体を、化学ニッケルHR−TA(奥野製薬工業(株)製)150ml/Lと、化学ニッケルHR−TB(奥野製薬工業(株)製)150ml/Lの混合水溶液(液温40℃)に3分間浸漬した。
【0079】
上記、化学めっき工程1〜3を行った後、以下の電気メッキを行った。
【0080】
(1)酸活性化工程
試験片を、トップサン(奥野製薬工業(株)製)100g/L水溶液(液温25℃)に1分間浸漬した。
【0081】
(2)銅の電気メッキ工程
樹脂成形体を、下記組成のメッキ浴(液温25℃)に浸漬して、120分間電気メッキを行った。
【0082】
(メッキ浴の組成)
硫酸銅(CuSO・5HO)200g/L
硫酸(98%)50g/L
塩素イオン(Cl)5ml/L、
トップルチナ2000MU(奥野製薬工業(株)製)5ml/L
【0083】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】塩酸エッチング処理前の樹脂成形体のSEM写真。
【図2】塩酸エッチング処理後の樹脂成形体のSEM写真。
【図3】図2の拡大写真。
【図4】塩酸エッチング処理前の樹脂成形体のIRチャート。
【図5】塩酸エッチング処理後の樹脂成形体のIRチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)結晶融解熱量が10J/g以上のポリアミド系樹脂、
(B)前記(A)のポリアミド系樹脂を除く熱可塑性樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂は除く)、及び
(C)必要に応じて相溶化剤を含有する樹脂組成物からなり、少なくとも(A)成分の非晶質部分の一部が脱落した樹脂成形体の表面に形成された金属メッキ層を有するメッキ樹脂成形体であり、
前記樹脂成形体がクロム及び/又はマンガンを含む酸によりエッチング処理されていないものであるメッキ樹脂成形体。
【請求項2】
樹脂成形体から脱落した(A)成分の非晶質部分が1.5〜3規定の塩酸によるエッチング処理により脱落したものである、請求項1記載のメッキ樹脂成形体。
【請求項3】
樹脂成形体と金属メッキ層との密着強度(JIS H8630)の最高値が10kPa以上である請求項1又は2記載のメッキ樹脂成形体。
【請求項4】
自動車部品用途である請求項1〜3のいずれかに記載のメッキ樹脂成形体。






【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−152041(P2006−152041A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341448(P2004−341448)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】