説明

メッキ膜の応力測定方法

【課題】メッキ膜の応力を簡単なシステムによって高い精度で測定することができる方法を提供する。
【解決手段】基端が固定された長尺な箔状の金属よりなる試験用基体を有する試験片を用い、前記試験用基体の一面にメッキ膜を形成した後、この試験用基体の先端位置について、前記メッキ膜が形成される前の試験用基体の一面に垂直な方向における基準位置からの変位量を測定し、測定された変位量に基づいて前記メッキ膜の応力を算出するメッキ膜の応力測定方法であって、前記試験用基体の先端の変位量は、レーザ変位計またはカメラ撮影像による像解析によって測定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば錫を含有するメッキ膜に生ずる応力を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば錫を含有するメッキ膜には、ウィスカと称される針状単結晶体が経時的に発生することが知られており、このウィスカは、長年にわたって電子機器の短絡等による故障が引き起こされる原因となっている。
このようなウィスカがメッキ膜に発生する一因として、メッキ膜を構成する錫等とこのメッキ膜が形成される基体を構成する銅等の金属との金属間化合物が形成され、これに伴って、メッキ膜に応力が生じるためであると考えられている。
具体的に説明すると、錫は、その融点が232℃であり、室温において銅などの他の金属との間で金属拡散が生じやすいものである。そのため、例えば銅よりなる基体の表面に錫を含有するメッキ膜を形成した場合には、得られたメッキ膜には、基体との界面付近において銅と錫との金属間化合物が形成される。このような金属間化合物は室温においても経時的に形成され、この金属間化合物の形成に伴ってメッキ膜中に体積変化が生じる結果、メッキ膜の内部に経時的に圧縮応力が発生する。そして、メッキ膜内において、発生した圧縮応力を緩和する作用が働くことにより、メッキ膜の表面に形成された酸化膜のクラックや表面付近に存在する結晶を核としてウィスカが発生する。
このような理由から、メッキ膜におけるウィスカの発生しやすさの目安として、メッキ膜の応力を測定することが行われている。
【0003】
従来、メッキ膜の応力を測定する方法としては、基端が固定された長尺な箔状の試験用基体の一面にメッキ膜を形成した後、この試験用基体の先端位置の変位量や、変形した試験用基体の曲率を測定し、この変位量または曲率からメッキ膜の応力を算出する方法、或いは、X線回折法によりメッキ膜の応力を測定する方法が知られている(非特許文献1参照)。
しかしながら、これらの方法では、メッキ膜の応力を高い精度で測定することが困難である、という問題がある。特に、X線回折法による測定方法は、装置が高価で、データ処理も複雑であることから、簡単なシステムによりメッキ膜の応力を測定することができる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Acta mater.Vol.46,No.10,pp.3701〜3714,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、メッキ膜の応力を簡単なシステムによって高い精度で測定することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のメッキ膜の応力測定方法は、基端が固定された長尺な箔状の金属よりなる試験用基体を有する試験片を用い、前記試験用基体の一面にメッキ膜を形成した後、この試験用基体の先端位置について、前記メッキ膜が形成される前の試験用基体の一面に垂直な方向における基準位置からの変位量を測定し、測定された変位量に基づいて前記メッキ膜の応力を算出するメッキ膜の応力測定方法であって、
前記試験用基体の先端の変位量は、レーザ変位計またはカメラ撮影像による像解析によって測定されることを特徴とする。
【0007】
本発明のメッキ膜の応力測定方法においては、前記試験片は、前記試験用基体の基端が固定された基体保持体と、前記試験用基体が位置される平面に沿って当該試験用基体に並ぶよう配置され、その基端が前記基体保持体に固定された長尺な箔状の金属よりなる参照用基体とを有してなり、
前記参照用基体の先端位置に基づいて前記基準位置が決定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のメッキ膜の応力測定方法によれば、レーザ変位計またはカメラ撮影像による像解析によって、メッキ膜が形成された試験用基体の先端位置の変位量を高い精度で測定することができるため、この変位量に基づいて算出することにより、メッキ膜の応力を高い精度で求めることができる。しかも、X線回折装置等の高価な機器が不要であり、複雑なデータ処理も不要であるため、簡単なシステムによりメッキ膜の応力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のメッキ膜の応力測定方法を実施するためのシステムの一例における構成を示す説明図である。
【図2】本発明のメッキ膜の応力測定方法に用いられる試験片の一例を示す平面図である。
【図3】試験片における試験用基体の先端位置の変位状態を示す説明用断面図である。
【図4】実施例で測定された、試験片における試験用基体の先端位置の変位量の経時的変化を示す図である。
【図5】実施例で測定された、メッキ膜の応力の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るメッキ膜の応力測定方法の実施の形態について説明する。
図1は、本発明のメッキ膜の応力測定方法を実施するためのシステムの一例における構成を示す説明図である。
この図において、10は、メッキ膜が形成された試験片1を支持する試験片支持体であり、20は、後述する試験片1における試験用基体の先端位置について、試験用基体の一面に垂直な方向における基準位置からの変位量を測定するレーザ変位計であって、試験片1の正面に対向するよう配置されたセンサヘッド21と、このセンサヘッド21に接続されたコントローラ22とにより構成されている。そして、試験片支持体10およびレーザ変位計20は、図1に示すように、防振マット15上に設けられた試験台16上に配置されている。
30は、レーザ変位計20におけるコントローラ22からの変位量のデータを記録・表示するデータ収集レコーダであり、40は、レーザ変位計20におけるコントローラ22からの変位量のデータに基づいてメッキ膜の応力を算出する演算器である。
【0011】
図2は、本発明の測定方法に用いられる試験片1の一例を示す平面図である。この試験片1は、中央に矩形の開口Kを有する外形が矩形の枠状の銅などの金属よりなる基体保持体2を有し、この基体保持体2には、長尺な箔状の銅などの金属よりなる試験用基体5が、その基端が当該基体保持体2の開口Kの一縁に固定され、その先端が当該開口Kにおける一縁に対向する他縁に向かって突出するよう、当該基体保持体2に一体に形成されている。この試験用基体5の一面には、メッキ膜8が形成されている。
また、基体保持体2には、試験用基体5と同等の形状を有する長尺な箔状の銅などの金属よりなる参照用基体6が、その基端が当該基体保持体2の開口Kの一縁に固定されて、試験用基体5が位置される平面に沿って当該試験用基体5に離間して並ぶよう、当該基体保持体2に一体に形成されている。
そして、試験片1は、試験用基体5および参照用基体6の先端が下方を向いた状態で、試験片支持体10に支持されている。
【0012】
試験片1における試験用基体5の厚みは、60〜80μmであることが好ましい。この厚みが過小である場合には、レジスト膜やメッキ膜の形成時、若しくは試験片1の設置時に変形するおそれがある。一方、この厚みが過大である場合には、メッキ膜内部の応力変化による試験片の変形が小さいため、メッキ膜の応力を測定することが困難となるおそれがある。
また、試験用基体5の長手方向の寸法は例えば20〜40mm、長手方向に垂直な幅方向の寸法は例えば4〜8mmであり、長手方向の寸法に対する幅方向の寸法の比は、0.20〜0.25であることが好ましい。
【0013】
本発明のメッキ膜の応力測定方法においては、以下のようにして、メッキ膜の応力が測定される。
先ず、箔状の銅などの金属よりなる試験片材料を用意し、この試験片材料に対してエッチング処理を施してその一部を除去することにより、図2に示す形態の試験片1を作製する。
次いで、作製した試験片1における試験用基体5の一面を除く表面領域に、メッキレジスト膜を形成する。
そして、メッキレジスト膜が形成された試験片1に対して電解メッキ処理を施すことにより、試験片1における試験用基体5の一面に、例えば錫または錫を含有する金属よりなるメッキ膜8を形成する。
【0014】
以上において、メッキレジスト膜を構成する材料としては、製膜時に応力が生じにくく、かつ、メッキ処理によって劣化しにくいもの、例えばパラキシリレン樹脂を用いることが好ましい。
また、メッキレジスト膜の厚みは、試験片1の厚みや形成すべきメッキ膜の厚みに応じて適宜設定されるが、通常、3〜5μmである。
また、メッキ膜8の厚みは、1〜5μmであることが好ましい。
【0015】
次いで、試験用基体5の一面にメッキ膜が形成された試験片1を、試験用基体5および参照用基体6の先端が下方を向くよう、試験片支持体10に支持させる。その後、レーザ変位計20によって、試験用基体5の先端位置について、メッキ膜8が形成される前の試験用基体の一面に垂直な方向における基準位置からの変位量を測定する。
以上において、試験用基体5の先端の変位量を測定するための基準位置は、レーザ変位計20によって、試験片1における参照用基体6の先端位置を計測し、この参照用基体6の先端位置に基づいて基準位置が決定される。
【0016】
そして、データ収集レコーダ30においては、測定された試験用基体5の先端位置の変位量のデータが記録・表示され、一方、演算器40においては、測定された試験用基体5の先端位置の変位量に基づいて、メッキ膜8の応力が算出される。具体的には、測定された試験用基体5の先端位置の変位量から、下記式(1)によって、メッキ膜8の応力が算出される。
【0017】

【数1】

【0018】
上記式(1)において、σは、メッキ膜の応力(MPa)、Es ’は、試験用基体の2軸率、ds は、試験用基体の厚み(μm)、df は、メッキ膜の厚み(μm)、δは、試験用基体の先端位置の変位量(μm)、Lは試験用基体の長さ(基端から先端までの距離,μm)である。また、試験用基体の2軸率Es ’は、試験用基体を構成する材料のヤング率をEs (MPa)とし、ポアソン比をυs としたとき、Es /(1−υs )により求められるものである。上記の式(1)は、例えば、W.J.Boettinger,C.E.Johnson,L.A.Bendersky,K.−W.Moon,M.E.Williams,G.R.Stafford,“Whisker and Hillock formation on Sn,Sn−Cu and Sn−Pb Electrodeposits”,Acta.Mater.,53 (2005) 5033−5050.に記載されている。
【0019】
以上において、試験用基体5の先端位置は、通常、メッキ膜8が形成された直後においては、図3(a)に示すように、メッキ処理時に発生したメッキ膜8の引張応力によって、メッキ膜8が形成される前の試験用基体5の一面に垂直な方向における基準位置(一点鎖線で示す。)に対してメッキ膜8が形成された面側に変位し、その後、メッキ膜8に試験用基体5との界面付近において試験用基体5を構成する金属例えば銅とメッキ膜8を構成する金属例えば錫との金属間化合物が経時的に形成され、これに伴って、メッキ膜8中に体積変化が生じて圧縮応力が発生することによって、試験用基体5の先端位置は、図3(b)に示すように、基準位置(一点鎖線で示す。)に対してメッキ膜8が形成された面と反対の面側に変位する。
【0020】
このような測定方法によれば、レーザ変位計20によって、メッキ膜8が形成された試験用基体5の先端位置の変位量を高い精度で測定することができるため、この変位量に基づいて算出することにより、メッキ膜8の応力を高い精度で求めることができる。しかも、X線回折装置等の高価な機器が不要であり、複雑なデータ処理も不要であるため、簡単なシステムによりメッキ膜8の応力を測定することができる。
【0021】
以上、本発明のメッキ膜の応力測定方法について、レーザ変位計を用いた例を挙げて説明したが、本発明においては、レーザ変位計の代わりにカメラを用い、カメラ撮影像による像解析によって、試験用基体の先端位置の変位量を測定することができ、このような方法においては、カメラは試験片の側方位置に配置される。
【実施例】
【0022】
以下、本発明に係るメッキ膜の応力測定方法の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1に示す構成に従って、メッキ膜の応力を測定するためのシステムを作製した。ここで、レーザ変位計としては、KEYENCE社の「LG−G80」を使用した。
【0023】
厚みが70μmの銅箔を用意し、この銅箔に対してエッチング処理を施すことにより、図2に示す形態の試験片を作製した。この試験片の各部の寸法は、以下の通りである。
基体保持体の外形の寸法:45mm×45mm×70μm
基体保持体の開口の寸法:45mm×45mm(基体保持体の枠幅:10mm)
試験用基体の寸法:20mm(長さ)×5mm(幅)×70μm(厚み)
参照用基体の寸法:20mm(長さ)×5mm(幅)×70μm(厚み)
試験用基体と参照用基体との離間距離:5mm
【0024】
上記の試験片における試験用基体の一面を除く表面領域に、厚みが4μmのパラキシリレン樹脂よりなるメッキレジスト膜を形成した。その後、メッキレジスト膜が形成された試験片に対して、電流密度が10A/dm2 、メッキ処理時間が27秒間の条件で、電解錫メッキ処理を施すことにより、試験片における試験用基体の一面に、厚みが2μmの錫よりなるメッキ膜を形成した。
このようにしてメッキ膜が形成された試験片を、上記のシステムの試験片支持体にセットして室温において放置し、試験片における試験用基体の先端位置の変位量を経時的に測定すると共に、測定された試験用基体の先端位置の変位量に基づいて、上記式(1)によりメッキ膜の応力の経時的変化を求めた。
ここで、試験用基体を構成する銅のヤング率は117GPa、ポアソン比は0.33、試験用基体の厚みは70μm、メッキ膜の厚みは2μm、試験用基体の長さは20mmである。
【0025】
図4は、試験片における試験用基体の先端位置の変位量の経時的変化を示す図であり、図5は、メッキ膜の応力の経時的変化を示す図である。
図4において、縦軸は試験用基体の先端位置の変位量、横軸は放置時間を示し、試験用基体の先端位置の変位量において、メッキ膜が形成される前の試験用基体の一面に垂直な方向における基準位置を0とし、この基準位置に対して、メッキ膜が形成された面側に変位した場合を正の値で、メッキ膜が形成された面と反対の面側に変位した場合を負の値で示す。
また、図5において、縦軸はメッキ膜の応力、横軸は放置時間を示し、メッキ膜の応力が引張応力である場合を正の値で、メッキ膜の応力が圧縮応力である場合を負の値で示す。
【0026】
図4および図5の結果から、メッキ膜が形成された直後においては、試験用基体の先端位置がメッキ膜が形成された面側に変位しており、従って、メッキ膜には引張応力が生じているが、時間が経過するに伴って、試験用基体の先端位置がメッキ膜が形成された面と反対の面側に変位し、従って、メッキ膜には圧縮応力が生じていることが理解される。
また、メッキ膜に生じる圧縮応力の値は、メッキ膜を形成してから約100時間経過した後に安定することが確認された。
【符号の説明】
【0027】
1 試験片
2 基体保持体
5 試験用基体
6 参照用基体
8 メッキ膜
10 試験片支持体
15 防振マット
16 試験台
20 レーザ変位計
21 センサヘッド
22 コントローラ
30 データ収集レコーダ
40 演算器
K 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端が固定された長尺な箔状の金属よりなる試験用基体を有する試験片を用い、前記試験用基体の一面にメッキ膜を形成した後、この試験用基体の先端位置について、前記メッキ膜が形成される前の試験用基体の一面に垂直な方向における基準位置からの変位量を測定し、測定された変位量に基づいて前記メッキ膜の応力を算出するメッキ膜の応力測定方法であって、
前記試験用基体の先端の変位量は、レーザ変位計またはカメラ撮影像による像解析によって測定されることを特徴とするメッキ膜の応力測定方法。
【請求項2】
前記試験片は、前記試験用基体の基端が固定された基体保持体と、前記試験用基体が位置される平面に沿って当該試験用基体に並ぶよう配置され、その基端が前記基体保持体に固定された長尺な箔状の金属よりなる参照用基体とを有してなり、
前記参照用基体の先端位置に基づいて前記基準位置が決定されることを特徴とする請求項1に記載のメッキ膜の応力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−2784(P2012−2784A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140743(P2010−140743)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000137476)株式会社マルコム (15)
【Fターム(参考)】