説明

メッシュ織物

【課題】空隙の輪郭が明瞭で透視性と通気性に富むメッシュ織物を得る。
【解決手段】メッシュ織物の一完全織組織図Aを織幅方向に経糸の配列されない経糸無配列区画Bと経糸と緯糸が交絡する経緯配列区画Cに分割し、その経緯配列区画Cを製織方向に左右両端部が左右裏返しになる模紗織の分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iになっている両端模紗織区画Jと緯糸の上を越える経糸の本数の多い経浮き織段Dと緯糸の上を越える経糸の本数の少ない経沈み織段Eが上下に続く製織方向において交互する浮沈織組織区画Fに分割し、浮沈織組織区画Fを通る緯糸22の構成する横縞31と、分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iを通る経糸11・21の構成する縦縞32とが経緯交叉するメッシュ部34を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫網、防塵シート、工事用シート、日除け、ロールスクリーン、座席シート、フィルター等に使用されるメッシュ織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防虫網には繊度200〜2000dtexのモノフィラメント糸と経糸と緯糸に使用し、経緯密度を20本/25.4mm前後とした経緯合計カバーファクターが概して1000〜1800のメッシュ織物が使用されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
メッシュ織物の経糸や緯糸の目ズレを防ぐために織組織には捩れ織(絽)や模紗織が採用され(例えば、特許文献1参照)、経糸や緯糸への熱融着性芯鞘複合モノフィラメント糸が試みられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−170244号公報
【特許文献2】特開2008−001995号公報
【特許文献3】特開2010−065465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、防虫網に使用されているメッシュ織物は、透視性が高く、遮蔽性が低く、防塵シート、日除け、ロールスクリーンには使用し得ず、又、強度的に工事用シートや座席シート、フィルター等に使用することは出来ない。
【0005】
そこで、本発明は、防虫網にだけではなく、遮蔽性があって日除けやロールスクリーン、防塵シートに使用することが出来、又、強度的にも安定していて工事用シートや座席シート、フィルター等にも使用することが出来るメッシュ織物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るメッシュ織物は、(イ) 一完全織組織図の左右何れか片側が経糸の配列されない経糸無配列区画Bであり、(ロ) その他の左右片側が経糸と緯糸が交絡する経緯配列区画Cであり、(ハ) その経緯配列区画Cの上下何れか片側が、緯糸の上を越える経糸の本数の多い経浮き織段Dと緯糸の上を越える経糸の本数の少ない経沈み織段Eが上下に続く製織方向において交互する浮沈織組織区画Fであり、(ニ) その経緯配列区画Cの上下何れか他の片側が、左右に続く織幅方向における少なくとも左右両端部が左右裏返しになる模紗織を左右に分割した分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iになっている両端模紗織区画Jである経緯配列区画Cと経糸無配列区画Bによって構成される一完全織組織図Aに従って織成されており、(ホ) 浮沈織組織区画Fに従って織成される横筋31と、経緯配列区画Cに従って織成される縦筋32とによって囲まれる透視性空隙33が形成されたメッシュ部34が織成されていることを第1の特徴とする。
【0007】
本発明に係るメッシュ織物の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、両端模紗織区画Jの両端の模紗織区画H・Iの少なくとも何れかの経糸11と少なくとも何れかの緯糸12との少なくとも経緯何れかの糸条に、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上の熱融着性弾性モノフィラメント糸が適用されている点にある。
【0008】
本発明に係るメッシュ織物の第3の特徴は、上記第1、第2の何れかの特徴に加えて、経糸無配列区画Bと経緯配列区画Cとから成る一完全織組織図Aに従って織成されて製織方向に続くメッシュ部34に所要の間隔をもって、総繊度150〜3000dtexの紡績糸とマルチフィラメント糸の何れかの多繊糸条が、緯糸としてメッシュ部34の浮沈織組織区画Fに織り込まれている緯糸22よりも緻密に緯糸密度で織り込まれて遮蔽性の高い遮蔽性横縞36が織成されており、製織方向に所要の間隔をもって前後する遮蔽性横縞36と遮蔽性横縞36の間のメッシュ部34が、それらの遮蔽性横縞36・36に比して遮蔽性の低いメッシュ横縞35となっており、その製織方向に交互するメッシュ横縞35と遮蔽性横縞36によって横縞模様が描出されている点にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメッシュ織物では、経糸無配列区画Bと経緯配列区画Cが織幅方向に交互しており、その経糸の配列されない経糸無配列区画Bに、浮沈織組織区画Fに沿った横筋31と経緯配列区画Cに沿った縦筋32とに囲まれる透視性空隙33が形成されている。
その透視性空隙33の内部に、その空隙33の左右の分割左側模紗織区画Hから分割右側模紗織区画Iへと続く複数本の緯糸12a・12b・12cが介在するとしても、それらの緯糸12a・12b・12cに、浮沈織組織区画Fの緯糸22a・22b・22cに比して嵩の低い繊度が150dtex〜4500dtexのモノフィラメント糸を使用するとき、その透視性空隙33による織物の通気性や透視性は、そこに介在する緯糸12a・12b・12cに格別左右されない。
そして、その透視性空隙33に介在する緯糸12a・12b・12cに比して嵩高な複数本の紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)22a・22b・22cを浮沈織組織区画Fに織り込むときは、その浮沈織組織区画Fには太い横筋31が形成され、又、緯糸12a・12b・12cに比して嵩高な複数本の紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)を経糸21a・21b・21c・21dとして経緯配列区画Cに織り込むときは、それらの経糸21a・21b・21c・21dが透視性空隙33に介在する緯糸12a・12b・12cに比して太い縦筋32を形成することになり、本発明の織物は、それらの太い横筋31と縦筋32が交叉したメッシュ調の外観を呈することになる。
【0010】
その透視性空隙33の形成される経糸無配列区画Bの織幅βが1.8mm〜10.0mmであり、縦筋32の形成される経緯配列区画Cの織幅θが経糸無配列区画Bの織幅βの0.9〜1.2倍であり、透視性空隙33が目粗になるとしても、その透視性空隙33の内部が細くて嵩の低い複数本のモノフィラメント糸(緯糸)12a・12b・12cに細かく仕切られるので、その透視性空隙33は防虫機能と防塵機能を有し、本発明のメッシュ織物は、防虫網や防塵シートとして使用することが出来る。
又、その透視性空隙33の周囲が複数本の経糸や緯糸に成る太い縦筋32と横筋31に補強されているので、本発明のメッシュ織物は、粉体や粒体を篩い分けるフィルターにも使用可能になる。
【0011】
モノフィラメント糸12に比して嵩高な紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)を太い1本の緯糸としてではなく、細い複数本の緯糸22a・22b・22cに分けて浮沈織組織区画Fに織り込むときは、緯糸の上を越える経糸の本数の多い経浮き織段Dと緯糸の上を越える経糸の本数の少ない経沈み織段Eが製織方向において交互しており、その製織方向において前後して織り込まれる前後2段の紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)22a・22b(22b・22c)が上下に重なって紐状に纏まって嵩張らず、引き締められて毛羽立ち難く、清楚な外観を呈することになる。
【0012】
又、経糸として経緯配列区画Cに織り込まれる紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)も太い1本の経糸としてではなく、細い複数本の経糸21a・21b・21c・21dとして配列し、又、その配列した複数本の紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)21a・21b・21c・21dの左右に熱融着性弾性モノフィラメント糸11a・11b・11c・11dを経糸として配置すると、分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iにおいて熱融着性弾性モノフィラメント糸11a・11b・11c・11dが緯糸である紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)22a・22b・22cに融着して目ズレを起し難くなり、その目ズレを起し難い分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iの間に複数本の紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)21a・21b・21c・21dが挟まれて紐状に纏まって嵩張らず、引き締められて毛羽立ち難く、清楚な外観を呈することになる。
【0013】
そのように透視性空隙33を囲む縦筋32および横筋31では、それぞれ複数本の紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)である経糸21a・21b・21c・21dおよび緯糸22a・22b・22cが、それぞれ紐状に纏められて強靱な縦筋32や横筋31となる。このため、本発明によると、工事用シートとして使用されても強風に耐え、座席シートとして向き合う一対の支持桿と支持桿の間に張設して使用されても体圧に耐えるメッシュ織物が得られる。
【0014】
本発明では、分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iの経糸11と緯糸12の少なくとも何れかに適用される少なくとも何れかのモノフィラメント糸に、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上の熱融着性弾性モノフィラメント糸を使用しているので、交叉する経糸と緯糸の間に目ズレがなく、強い外力の作用する工事用シートや座席シートとしても強度的に安定し、特に、座席シートに使用するときは、毛羽立ち難く、通気性に優れ、蒸れ感を与えないメッシュ織物を得ることが出来る。
【0015】
本発明において、単繊維繊度が10dtex以下であり総繊度が150〜3000dtexの紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)を緯糸として、メッシュ部34のメッシュ横縞35に前後して、そのメッシュ横縞35の浮沈織組織区画Fに織り込まれる紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)22a・22b・22c(22)よりも緻密に織り込んで、メッシュ横縞35よりも遮蔽性の高い遮蔽性横縞36をメッシュ横縞35と製織方向において交互に織成すると、本発明のメッシュ織物には簾に似た隠蔽性が生じ、メッシュ横縞35と遮蔽性横縞36が交互した横縞模様が描出されることからデザイン的に斬新な日除けやロールスクリーンカーテン等の内装材を得ることも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るメッシュ織物のメッシュ部の拡大平面図である。
【図2】本発明に係るメッシュ織物の平面図である。
【図3】本発明に係るメッシュ織物の織組織区画間の関係図である。
【図4】本発明に係るメッシュ織物の織組織区画間の関係図である。
【図5】本発明に係るメッシュ織物の織組織区画間の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のメッシュ織物は、それを防虫網、防塵シート、フィルター、工事用シート、座席シート、日除け、ロールスクリーンカーテンの何れにも使用することが出来るが、それが透視性空隙33を有し、通気性を特徴とする限り、そのメッシュ部34におけるJIS−L−1096A法(フラジール法)による通気度が50cc/sec/cm2 以上で450cc/sec/cm2 以下になるようにする。
【0018】
既に述べているように、模紗織区画H・Iの経糸11と緯糸12には繊度150〜4500dtexのモノフィラメント糸を適用し、浮沈織組織区画Fの緯糸22a・22b・22cと両端模紗織区画Jの分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iを除く中央部の平織組織区画Gの経糸21a・21b・21c・21dには単繊維繊度10dtex以下、総繊度150〜3000dtexの紡績糸やマルチフィラメント糸等の多繊糸条を適用する。
【0019】
特に、高い物性強度の要求される座席シートに使用されるメッシュ織物では、平織組織区画Gの経糸21a・21b・21c・21dと浮沈織組織区画Fの緯糸22a・22b・22cには、総繊度が150〜3000dtexであり、捲縮率が0.5〜20%の捲縮性ポリエステル・マルチフィラメント糸を使用し、分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iの少なくとも一部の経糸11a・11b・11c・11dおよび少なくとも一部の緯糸12a・12b・12cには、ポリエーテルエステル系弾性ポリマーを芯成分とし、熱融着性ポリマーを鞘成分とし、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、繊度が150〜3000dtexの熱融着性弾性芯鞘複合モノフィラメント糸を使用し、メッシュ織物のJIS−L−1018に準じて調製された幅50mm×長さ250mm の試験片を、掴み幅を50mmとし、掴み間隔を150mmとし、引張速度を200mm/minとして引っ張って試験片の伸長率が10%に達した時点での引張荷重である製織方向での10%モジュラスを50〜200N/5cm、その試験片の伸長率が10%に達した時点での引張荷重である織幅方向での10%モジュラスを45〜350N/5cm、JIS−L−1096A法(ラベルトストリップ法)による製織方向での引張強度を300〜3000N、織幅方向での引張強度を300〜3000N、JIS−L−1096D法(ペンジュラム法)による製織方向での引裂強度を30〜126N、織幅方向での引裂強度を30〜126Nにする。分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iの経糸11と緯糸12に使用する熱融着性弾性モノフィラメント糸以外のモノフィラメント糸としては、ポリエステル系モノフィラメント糸を使用するとよい。
【0020】
本発明のメッシュ織物の経糸無配列区画Bの織幅βを1.8mm〜10.0mmにし、経緯配列区画Cの織幅θを経糸無配列区画Bの織幅βの0.9〜1.2倍にし、経糸カバーファクターKW は800〜1700にし、緯糸カバーファクターKF は700〜1800にし、その経糸カバーファクターKW と緯糸カバーファクターKF を合計したトータルカバーファクターKは1500〜3000になるようにする。製織方向の浮沈織組織区画Fと両端模紗織区画Jとから成るリピートLW は、織幅方向の経糸無配列区画Bと経緯配列区画Cとから成るリピートLF の0.8倍〜1.5倍になるようにする。
【0021】
一完全織組織図Aを経糸無配列区画Bと経緯配列区画Cに2分するには、メッシュ織物の織成に使用する筬の経緯配列区画Cに該当する各筬羽間には1本または複数本の経糸を挿通し、経糸無配列区画Bに該当する各筬羽間は経糸を挿通しない空筬にするとよい。
筬には、筬密度が15〜220羽/10cmのものを使用するとよい。
【0022】
経糸無配列区画Bに形成する透視性空隙33を広くするには、その透視性空隙33の内部に介在する複数本の緯糸12a・12b・12cを織り込む過程で、メッシュ織物を巻き取る織機の巻取り装置を、その織り込む緯糸12a・12b・12cの複数本につき1回の割合で間欠的に一時停止させ、それら複数本の緯糸12a・12b・12cの打込み密度を、浮沈織組織区画Fでの複数本の緯糸22a・22b・22cの打込み密度よりも緻密にし、浮沈織組織区画Fと両端模紗織区画Jとの間隔を広げる。
【0023】
同様に、メッシュ部34のメッシュ横縞35の遮蔽性を、製織方向に前後するメッシュ横縞35とメッシュ横縞35の間の遮蔽性横縞36・36に比して低くするために、遮蔽性横縞36の緯糸密度を浮沈織組織区画Fの緯糸密度よりも緻密にするためには、遮蔽性横縞36を織成する時点で、浮沈織組織区画Fを織成する場合に比して頻繁に織機の巻取り装置を間欠的に一時停止させる。
【0024】
浮沈織組織区画Fにおける緯糸22a・22b・22c………の打込み本数を多くして横筋31を太くする場合、順次織成される複数条の経沈み織段Eによって構成される上側織地と複数条の経浮き織段Dによって構成される下側織地とが表裏する緯二重織組織区画として浮沈織組織区画Fを構成することが出来る。
【0025】
両端模紗織区画Jに適用する模紗織は、図3(a)と図3(b)に示すように、織組織図における左右の分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iが互いに裏返しになると共に、織組織図における上下の分割上側模紗織区画Pと分割下側模紗織区画Qも互いに裏返しになるものであってもよい。その図3(a)は、経緯6本の6×6の模紗織を示し、第2の経糸11bと第5の経糸11eがそれぞれ3本の緯糸の上を越え、又、3本の緯糸の下に潜るので、それらの糸条は3本ずつ集合する傾向を示す。図3(b)は、10×6の模紗織を示し、図3(a)の6×6の模紗織の変形である。
【0026】
模紗織は、図3(a)と図3(b)に示すように、左右の分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iが互いに裏返しになると共に、上下の分割上側模紗織区画Pと分割下側模紗織区画Qも互いに裏返しになるようにすることは必ずしも必要ではなく、図5(a)が示すように、左右の分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iだけが互いに裏返しになるものであってもよい。
【0027】
本発明に模紗織を適用する理由は、嵩高な複数本の緯糸22a・22b・22c………を緻密に織り込んで構成する横縞31の太さと、その横縞31と直交して透視性空隙33を構成する縦縞32の太さを同じ程度にし、その横縞31と縦縞32に囲まれた矩形の透視性空隙33の輪郭を明確にするためである。
更に詳しく説明すると、横縞31の太さは、製織過程でメッシュ織物を巻き取る織機の巻取り装置を間欠的に一時停止させるなどして、その巻取速度を加減することによって規制することが出来るが、経糸無配列区画Bと経糸無配列区画Bの間に緻密に配列された嵩高な複数本の経糸21a・21b・21c・21d………を、経糸無配列区画Bと経緯配列区画Cの間を筬羽で仕切って縦縞32を所定の幅に織り上げることは困難であり、その複数本の経糸21a・21b・21c・21d………の配列の左右外側の経糸21a・21dが経糸無配列区画Bへと食み出て縦縞32が太くなり、その左右外側の輪郭が不鮮明になる。
そこで、その複数本の経糸21a・21b・21c・21d………の配列の左右外側に模紗織を配置し、その左右の模紗織区画Hと模紗織区画Iによって左右外側の経糸21a・21dの経糸無配列区画Bへの食み出しを抑え、縦縞32の左右外側の輪郭を鮮明にする。そのためには、本発明に適用する模紗織は、図5(a)に示すように左右の区画Hと区画Iが裏返しになれば十分であり、図3に示すように上下の区画までもが上下裏返しになるようにする必要はない。
又、本発明に適用する模紗織は、図5(a)に示すように4本の経糸11a・11b・11c・11dと3本の緯糸22a・22b・22cによって構成される4×3の模紗織で十分であり、その経糸と緯糸の本数を図3に示すように経糸の本数を5本以上、或いは、緯糸の本数を4本以上と言うように増やすことは必ずしも必要とされない。
【0028】
本発明では、縦筋32を構成する複数本の経糸21a・21b・21c・21d………の配列が経糸無配列区画Bへと食み出て広がらないようにするために模紗織を縦筋32に適用しているので、その配列の幅を規制する模紗織の経糸11a・11b・11c・11dには、紡績糸やマルチフィラメント糸等の多繊糸条に比して嵩張らない単繊維繊度が150dtex以上のモノフィラメント糸が使用される。
又、縦筋32を構成する複数本の経糸21a・21b・21c・21d………の配列が経糸無配列区画Bへと食み出て広がらないようにするために模紗織を縦筋32に適用しているので、浮沈織組織区画Fの左右両端部にも、両端模紗織区画Jの左右両端部と同様に分割左側模紗織区画Rと分割右側模紗織区画Sを適用することが推奨される(図5)。
縦筋32の経糸21a・21b・21c・21d………の配列の経糸無配列区画Bへの食み出し防止のためには、熱融着性モノフィラメント糸、好ましくは熱融着性弾性モノフィラメント糸、更に好ましくは熱融着性ポリエーテルエステル系ポリマーを鞘成分とし、ポリエーテルエステル系弾性ポリマーを芯成分とし、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上の熱融着性弾性芯鞘複合モノフィラメント糸を模紗織を構成する経緯のモノフィラメント糸に使用し、交絡する経糸と緯糸を弾性的に熱融着させて目ズレを防ぐことが推奨される。
尚、本発明に適用されるモノフィラメント糸は、その単繊維繊度が150dtex以上である点で単繊維繊度が10dtex以下のマルチフィラメント糸から区別され、単繊維繊度が150dtex以上である限り、製織過程などでの取扱いの都合上で複数本のモノフィラメントが引き揃えられ或いは合撚されていても、その引き揃え或いは合撚されている糸条はモノフィラメント糸として扱われる。
【実施例】
【0029】
図1は、図5に示す模紗織区画H・Iを適用したメッシュ織物のメッシュ部34の拡大図である。図4は、図1に示すメッシュ部の一完全織組織図Aの作成過程を示す。
その織組織図の作成過程の第1段階において、緯糸の上を越える経糸の本数の多い経浮き織段Dと緯糸の上を越える経糸の本数の少ない経沈み織段Eが上下に続く製織方向において交互する浮沈織組織区画Fと、平織、変化平織、斜紋織(綾織)、変化斜紋織、朱子織、変化朱子織、それらの組織の混合した混合織組織などの平織組織区画Gが製織方向において交互する横縞織組織(図4a)が作成される。
それに続く第2段階において、縦縞32を構成する経糸21の本数に応じて織幅方向に複数の経緯配列区画Cに分割され、その分割された複数の隣り合う各経緯配列区画Cの平織組織区画Gと平織組織区画Gの間の空白部Mには、図5に示す模紗織区画H・Iが適用されて織幅方向に続く両端模紗織区画Jが作成され、又、隣り合う各経緯配列区画Cの平織組織区画Gと平織組織区画Gの間の空白部Mには、その隣り合う平織組織区画Gと同様の織組織が適用されて織幅方向に続く浮沈織組織区画Fが再現され(図4b)、それらの両端模紗織区画Jと浮沈織組織区画Fが製織方向において交互する横縞織組織(図4c)が作成される。
それに続く第3段階において、織幅方向において隣り合う左側模紗織区画Hと右側模紗織区画Iの間に経糸無配列区画Bが配置されてメッシュ部34の一完全織組織図Aが完成される。
【0030】
図4に示す一完全織組織図Aでは、製織方向において両端模紗織区画Jに交互して続く浮沈織組織区画F1 ・F2 ・F3 ・F4 ………の1段おきの浮沈織組織区画F2 ・F4 ………の左右両端部には、両端模紗織区画Jと同様に、模紗織の分割左側模紗織区画Hと分割右側模紗織区画Iが適用されている。
そのように、繰り返して織成される浮沈織組織区画F1 ・F2 ・F3 ・F4 ………の数段おき、好ましくは2〜3段おき、更に好ましくは図4に示すように1段おきの浮沈織組織区画F2 ・F4 ………の左右両端部に模紗織区画を適用することが推奨される。
【0031】
経緯配列区画Cには8本の経糸11a・11b・21a・21b・21c・21d・11c・11dが配置され、その左右4本の経糸11a・11b・11c・11dには、熱融着性ポリエーテルエステル系ポリマーを鞘成分とし、ポリエーテルエステル系弾性ポリマーを芯成分とし、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、繊度が500dtexの熱融着性ポリエーテルエステル系弾性芯鞘複合モノフィラメント糸が使用されている。
その4本の経糸11a・11b・11c・11dを2本ずつ左右に分ける中間の4本の経糸21a・21b・21c・21dには、単繊維繊度が4.6dtex、総繊度が334dtex、捲縮率が10%の捲縮性ポリエステル・マルチフィラメント糸が使用されている。
両端模紗織区画Jには3本の緯糸12a・12b・12cが順次織り込まれており、製織方向において前後する一方の両端模紗織区画J1 ・J3 の3本の緯糸の中の最初と最後の緯糸12a・12cには、熱融着性ポリエーテルエステル系ポリマーを鞘成分とし、ポリエーテルエステル系弾性ポリマーを芯成分とし、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、繊度が500dtexの熱融着性ポリエーテルエステル系弾性芯鞘複合モノフィラメント糸が使用されており、3本の緯糸の中の中間の緯糸12bには、その繊度が2080dtexの熱融着性ポリエーテルエステル系弾性芯鞘複合モノフィラメント糸が使用されており、その両端模紗織区画J1 ・J3 に前後する他の両端模紗織区画J2 ・J4 の3本の緯糸12a・12b・12cには、それぞれ熱融着性ポリエーテルエステル系ポリマーを鞘成分とし、ポリエーテルエステル系弾性ポリマーを芯成分とし、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、繊度が500dtexの熱融着性ポリエーテルエステル系弾性芯鞘複合モノフィラメント糸が使用されている。
浮沈織組織区画Fには、単繊維繊度が5.2dtex、総繊度が994dtex、捲縮率が10%の捲縮性ポリエステル・マルチフィラメント糸を使用した3本の緯糸22a・22b・22cが順次織り込まれている。
【0032】
経糸無配列区画Bと経緯配列区画Cを合計したメッシュ織物の平均経糸密度は51本/25.4mmであり、メッシュ織物の経糸カバーファクターKW は、458になる。
浮沈織組織区画Fと両端模紗織区画Jを合計したメッシュ織物の平均緯糸密度は、45本/25.4mmであり、メッシュ織物の緯糸カバーファクターKF は、1387となる。
従って、メッシュ織物のトータルカバーファクターKは、1845になる。
【0033】
図1と図4に示す実施例のメッシュ織物の経糸無配列区画Bの織幅βは2.2mmであり、経緯配列区画Cの織幅θは2.1mmであって経糸無配列区画Bの織幅βの0.95倍になっている。
織幅方向の経糸無配列区画Bと経緯配列区画Cとから成るリピートLF は3.4mmであり、製織方向の浮沈織組織区画Fと両端模紗織区画JとのリピートLW は4.0mmであって、織幅方向のリピートLF の1.2倍になっている。
【0034】
本発明の実施例のメッシュ織物のJIS−L−1096A法(フラジール法)による通気度は255cc/sec/cm2 、伸長率10%時の製織方向での10%モジュラスは125N/5cm、伸長率10%時の織幅方向での10%モジュラスは106N/5cm、JIS−L−1096A法(ラベルトストリップ法)による製織方向での引張強度は858N、JIS−L−1096A法(ラベルトストリップ法)による織幅方向での引張強度は1037N、JIS−L−1096D法(ペンジュラム法)による製織方向での引裂強度は86N、JIS−L−1096D法(ペンジュラム法)による織幅方向での引裂強度は106Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のメッシュ織物は、モノフィラメント糸に比して嵩高な紡績糸やマルチフィラメント糸(多繊糸条)が使用されていても、その多繊糸条が、その前後左右に配置され、模紗織H・Iによって織り込まれたモノフィラメント糸に規制されてメッシュ織物の透視性空隙33に食み出さず、その透視性空隙33の周縁がモノフィラメント糸に縁取られて通気性と透視性が維持され、そのモノフィラメント糸と共に透視性空隙33の周縁が多繊糸条に構成される横縞31と縦縞32に縁取られメッシュ部の格子地模様が鮮明になり、又、透視性空隙33を縁取る横縞31と縦縞32に補強されて物性強度が高まるので、防虫網や防塵シートのみならず、強い物性強度の要求されるフィルターや工事用シートに適し、嵩高な紡績糸やマルチフィラメント糸が太い1本の緯糸としてではなく細い複数本の緯糸22a・22b・22cに分けて浮沈織組織区画Fに織り込まれ、又、紡績糸やマルチフィラメント糸も太い1本の経糸としてではなく細い複数本の経糸21a・21b・21c・21dに分けて経緯配列区画Cに織り込まれ、その細い複数本の経糸21a・21b・21c・21dの入れ区の左右が熱融着性弾性モノフィラメント糸11a・11b・11c・11dに挟まれて嵩張らず、引き締められて毛羽立ち難く、スッキリした清楚な外観を呈すことから、座席シート、日除け、ロールスクリーンカーテン等の内装材に利用することも出来る。
【0036】
特に、両端模紗織区画Jの両端の模紗織区画H・Iの経糸11と緯糸12の少なくとも何れかに適用される少なくとも何れかに、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上の熱融着性弾性モノフィラメント糸の適用されたメッシュ織物では、伸長率10%時の10%モジュラスが高く、目粗であっても経糸と緯糸が融着して目ズレを起こさず、通気性に富むことから肌身に触れて蒸れ感を与えず、向き合う一対の支持桿と支持桿の間に張設して身体を支える座席シートに好適なものとなる。
【符号の説明】
【0037】
11:経糸(モノフィラメント糸)
12:緯糸(モノフィラメント糸)
21:経糸(マルチフィラメント糸)
22:緯糸(マルチフィラメント糸)
31:横筋
32:縦筋
33:透視性空隙
34:メッシュ部
35:メッシュ横縞
36:遮蔽性横縞
A :一完全織組織図
B :経糸無配列区画
C :経緯配列区画
D :経浮き織段
E :経沈み織段
F :浮沈織組織区画
G :平織組織区画
H・R:左側模紗織区画
I・S:右側模紗織区画
J :両端模紗織区画
M :空白部
F :製織方向のリピート
W :織幅方向のリピート
β :経糸無配列区画の織幅
θ :経緯配列区画の織幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ) 一完全織組織図の左右何れか片側が経糸の配列されない経糸無配列区画(B)であり、
(ロ) その他の左右片側が経糸と緯糸が交絡する経緯配列区画(C)であり、
(ハ) その経緯配列区画(C)の上下何れか片側が、緯糸の上を越える経糸の本数の多い経浮き織段(D)と緯糸の上を越える経糸の本数の少ない経沈み織段(E)が上下に続く製織方向において交互する浮沈織組織区画(F)であり、
(ニ) その経緯配列区画(C)の上下何れか他の片側が、左右に続く織幅方向における少なくとも左右両端部が左右裏返しになる模紗織の分割左側模紗織区画(H)と分割右側模紗織区画(I)になっている両端模紗織区画(J)である経緯配列区画(C)と経糸無配列区画(B)によって構成される一完全織組織図(A)に従って織成されており、
(ホ) 浮沈織組織区画(F)に従って織成される横筋(31)と、経緯配列区画(C)に従って織成される縦筋(32)とによって囲まれる透視性空隙(33)が形成されたメッシュ部(34)が織成されているメッシュ織物。
【請求項2】
両端模紗織区画(J)の両端の模紗織区画(H・I)の少なくとも何れかの経糸(11)と少なくとも何れかの緯糸(12)との少なくとも経緯何れかの糸条に、破断伸度が30%以上であり、破断時の伸長強度が1.0cN/dtex以上であり、10%伸長後の弾性回復率が90%以上の熱融着性弾性モノフィラメント糸が適用されている前掲請求項1に記載のメッシュ織物。
【請求項3】
経糸無配列区画(B)と経緯配列区画(C)とから成る一完全織組織図(A)に従って織成されて製織方向に続くメッシュ部(34)に所要の間隔をもって、総繊度150〜3000dtexの紡績糸とマルチフィラメント糸の何れかの多繊糸条が、緯糸としてメッシュ部(34)の浮沈織組織区画(F)に織り込まれている緯糸(22)よりも緻密に緯糸密度で織り込まれて遮蔽性の高い遮蔽性横縞(36)が織成されており、
製織方向に所要の間隔をもって前後する遮蔽性横縞(36)と遮蔽性横縞(36)の間のメッシュ部(34)が、それらの遮蔽性横縞(36・36)に比して遮蔽性の低いメッシュ横縞(35)となっており、
その製織方向に交互するメッシュ横縞(35)と遮蔽性横縞(36)によって横縞模様が描出されている前掲請求項1と請求項2の何れかに記載のメッシュ織物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−231420(P2011−231420A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100435(P2010−100435)
【出願日】平成22年4月24日(2010.4.24)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】