説明

メナキノンの製造法

【課題】効率的なメナキノンの製造法を提供する。
【解決手段】メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチンを生産する能力が親株より高い微生物を培地に培養し、培養物中にメナキノンを生成、蓄積させ、該培養物からメナキノンを採取することを特徴とするメナキノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的なメナキノンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
メナキノンはビタミンKの一種であり、微生物を利用した製造法や化学合成による製造法などが知られている。メナキノンの微生物による製造法の改良としては、フラボバクテリウム・エスピー (Flavobacterium sp.) 237-8株を用いたメナキノン‐4の製造法において、培養中に界面活性剤を添加することにより、メナキノン‐4生産量が約20%向上することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)はメナキノン同属体の中でも主にメナキノン‐7を生産し、その一部が細胞外に分泌されることが知られている。また、バチルス・ズブチリスNBRC3009株を用いて、培地中に分泌されるメナキノン‐7と結合する因子が部分精製され、当該因子の分子量、アミノ酸組成などが明らかにされているが(非特許文献2)、当該因子の全体の構造や由来は明らかになっておらず、当該因子がバチルス・ズブチリスのメナキノン生産性にどのような影響を与えるかは知られていない。
【0004】
一方、バチルス・ズブチリスが産生するサーファクチンは界面活性剤としての作用をもつ物質であることが知られており、その分子構造はすでに明らかになっている(非特許文献3)。
サーファクチンの生産機構は遺伝子レベルでの解明が進んでいる。バチルス・ズブチリスでは、サーファクチン合成酵素をコードする、4つのORFからなるsrfAオペロンの塩基配列が明らかになっており(非特許文献4)、またバチルス・ズブチリスの染色体上においてsrfAA遺伝子内に欠失を導入した変異株はサーファクチン生産性を失うことが報告されている(非特許文献5)。
【0005】
また、バチルス・ズブチリスのsfp遺伝子は染色体上でsrfAオペロンの数kb下流に位置し、サーファクチン合成酵素を活性化するフォスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(phosphopantetheinyl transferase)をコードすることが知られている(非特許文献6)。
バチルス・ズブチリスのサーファクチン生産株とサーファクチン非生産株においてsfp遺伝子の比較解析が行われ、その結果、サーファクチン生産株のsfp遺伝子は224アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードするのに対し、サーファクチン非生産株のsfp遺伝子はフレームシフトの結果、サーファクチン生産株よりも短い165アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードすることが明らかとなっている(非特許文献7)。
【0006】
バチルス・ズブチリス168株のsfp遺伝子は165アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードすることが知られ、バチルス・ズブチリス 168株由来のサーファクチン生産能を有さない株にサーファクチン生産性バチルス・ズブチリスATCC21332株由来のsfp遺伝子を導入するとサーファクチン生産能を獲得することが知られている(非特許文献8)。
しかし、サーファクチン生産能とメナキノン生産能との関係、およびsfp遺伝子の発現とメナキノン生産能との関係は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Agric. Biol. Chem. 52: 449 (1988)
【非特許文献2】Eur. J. Biochem. 192: 219 (1990)
【非特許文献3】Agr. Biol. Chem. 33: 971 (1969)
【非特許文献4】Mol. Microbiol. 8: 821(1993)
【非特許文献5】J. of Bacteriol. 176: 395 (1994)
【非特許文献6】Biochemistry 37: 1585 (1998)
【非特許文献7】Mol. Gen. Genet. 232: 313 (1992)
【非特許文献8】J. of Bacteriol. 170: 5662 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、効率的なメナキノンの製造法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(5)に関する。
(1)メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチンを生産する能力が親株より高い微生物を培地に培養し、該培地中にメナキノンを生成、蓄積させ、該培地中からメナキノンを採取することを特徴とする、メナキノンの製造法。
(2)メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチンを生産する能力が親株より高い微生物がメナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチン合成酵素の活性が親株より高い微生物である、上記(1)のメナキノンの製造法。
(3)メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチン合成酵素活性が親株より高い微生物が以下の[1]〜[6]のいずれかに記載の蛋白質の活性が親株より高い微生物である、上記(2)のメナキノンの製造法。
[1]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
[2]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質、
[3]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性があるアミノ酸配列からなり、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質、
[4]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
[5]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつフォスフォパンテテイントランスフェラーゼ活性を有する蛋白質、
[6]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性があるアミノ酸配列からなり、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(4)メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチン合成酵素活性が親株より高い微生物が以下の[7]〜[12]のいずれかに記載のDNAで形質転換された微生物、又は該DNAの発現調節配列を改変することにより該遺伝子の発現が増強された微生物である、上記(2)のメナキノンの製造法。
[7]上記(3)の[1]〜[3]のいずれかに記載の蛋白質をコードするDNA、
[8]配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列を有するDNA、
[9]配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
[10]上記(3)の[4]〜[6]のいずれかに記載の蛋白質をコードするDNA、
[11]配列番号6または8で表される塩基配列からなるDNA、
[12]配列番号6または8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(5)メナキノンがメナキノン−4またはメナキノン−7である、上記(1)〜(4)のいずれかのメナキノンの製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、効率的なメナキノンの製造法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明の製造法に用いられる微生物
本発明の製造法に用いられるメナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチンを生産する能力が親株より高い微生物は、当該能力を有する限り特に限定されないが、例えばバチルス(Bacillus)属、エシェリヒア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、またはアースロバクター(Arthrobacter)属に属し、かつサーファクチン合成酵素の活性が親株より高い微生物をあげることができる。
【0012】
サーファクチン合成酵素の活性が親株より高い微生物としては、例えば、サーファクチン合成酵素、またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が親株より高い微生物があげられる。
サーファクチン合成酵素、またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が親株より高い微生物は、(a)親株の染色体DNA上の、サーファクチン合成酵素、またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAの改変により得られる、i)親株よりサーファクチン合成酵素、またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの比活性が向上した微生物、及びii)親株よりサーファクチン合成酵素、またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの生産量が向上した微生物、並びに(b)親株をサーファクチン合成酵素、またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAで形質転換して得られる微生物、である。
【0013】
なお、本明細書中における親株とは、メナキノンを生産する能力を有する限り、野生株でも遺伝的に改変された株であってもよく、改変又は形質転換の対象である元株である。野生株とは、野生集団中で最も高頻度に観察される表現型をもつ株をいう。
また親株は、サーファクチンを生産する能力を元来有している株でも、有していない株でもよい。
【0014】
本発明の製造法によって製造されるメナキノンが、例えばメナキノン-7であるときは、親株としては好ましくはバチルス属に属する微生物、より好ましくはバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)をあげることができ、さらに好ましくはバチルス・ズブチリス168株、バチルス・ズブチリスNBRC3009株、バチルス・ズブチリス ATCC6633株、バチルス・ズブチリス ATCC21778株、バチルス・ズブチリス ATCC6051株、バチルス・ズブチリス ATCC21394株、バチルス・ズブチリス ATCC27505株、バチルス・ズブチリス ATCC15841株をあげることができる。
【0015】
本発明の製造法によって製造されるメナキノンが、例えばメナキノン-4であるときは、親株としては好ましくはアースロバクター属に属する微生物、より好ましくはアースロバクター・ニコチアナエ(Arthrobacter nicotianae)をあげることができ、さらに好ましくはアースロバクター・ニコチアナエ KS-8-18株((FERM BP-8232)、 特開昭61-265097号公報)、アースロバクター・ニコチアナエATCC14929株をあげることができる。
【0016】
サーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質としては、以下の[1]〜[3]のいずれかに記載の蛋白質:
[1]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質;
[2]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質;および
[3]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性があるアミノ酸配列を有し、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質;
をあげることができる。
【0017】
フォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼとしては、以下の[4]〜[6]のいずれかに記載の蛋白質;
[4]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質;
[5]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質;および
[6]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性があるアミノ酸配列を有し、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質;
をあげることができる。
【0018】
サーファクチン合成酵素の活性を向上させるためには、[1]〜[3]に記載の蛋白質のうち、1つのみを選択して活性を向上させてもよいし、2つ以上を選択して同時に活性を向上させてもよい。
また、サーファクチン合成酵素と、フォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼとを組み合わせて選択して同時に活性を向上させてもよい。
【0019】
サーファクチン合成酵素を生産する能力を有しない微生物を親株として用いるときは、配列番号2〜5で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質のすべて、配列番号2〜5で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質のすべて、あるいは配列番号2〜5で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性があるアミノ酸配列を有し、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質のすべてを生産する能力を親株に付与することが望ましい。
【0020】
上記において、1以上のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつサーファクチン合成酵素活性またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409(1982) 、Gene, 34, 315 (1985) 、Nucleic Acids Research, 13, 4431 (1985) 、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985) 等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる蛋白質または配列番号7もしくは9で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより、取得することができる。
【0021】
欠失、置換又は付加されるアミノ酸残基の数は特に限定されないが、上記の部位特異的変異法等の周知の方法により欠失、置換又は付加できる程度の数であり、1個から数十個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列または配列番号7もしくは9で表されるアミノ酸配列において1個以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたとは、同一配列中の任意の位置において、1個又は複数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されていてもよい。
【0022】
アミノ酸残基の欠失又は付加が可能なアミノ酸の位置としては、例えば配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列または配列番号7もしくは9で表されるアミノ酸配列のN末端側及びC末端側の10アミノ酸残基をあげることができる。
欠失、置換又は付加は同時に生じてもよく、置換又は付加されるアミノ酸は天然型と非天然型とを問わない。天然型アミノ酸としては、L−アラニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−アルギニン、L−グルタミン、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、L−システインなどがあげられる。
【0023】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、O-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
また、サーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質としては、配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる蛋白質との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質であり、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質をあげることができる。同様に、フォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質としては、配列番号7または9で表されるアミノ酸配列との相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質であり、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をあげることができる。
【0024】
アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST[Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)] やFASTA [Methods Enzymol., 183, 63 (1990)] を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている[J. Mol. Biol., 215, 403(1990) ]。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばScore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法はよく知られている。
【0025】
配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質が、サーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質であることは、例えばDNA組換え法を用いて活性を確認したい蛋白質を発現する形質転換体を作製し、該形質転換体を培地に培養し、該形質転換体の生産するサーファクチン量を該形質転換体の親株と比較することにより確認することができる。
【0026】
サーファクチン量の測定は、米国公開特許公報2004−0043451または特開2002−176993に記載の方法により行うことができる。
配列番号7または9で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質が、フォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質であることもまた、例えばDNA組換え法を用いて活性を確認したい蛋白質を発現する形質転換体を作製し、該形質転換体を培地に培養し、該形質転換体の生産するサーファクチン量を該形質転換体の親株と比較することにより確認することができる。
【0027】
上記(a)のi)の、親株の染色体DNA上の、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAの改変により得られる、親株より該蛋白質の比活性が向上した微生物としては、親株が有する該蛋白質のアミノ酸配列において1アミノ酸以上、好ましくは1〜10アミノ酸、より好ましくは1〜5アミノ酸、さらに好ましくは1〜3アミノ酸が置換しているアミノ酸配列を有する蛋白質を有しているため、親株のサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼと比較して、その活性が向上した変異型蛋白質を有する微生物をあげることができる。
【0028】
上記(a)のii)の、親株の染色体DNA上の、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAの改変により得られる、親株よりサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの生産量が向上した微生物としては、親株の染色体DNA上に存在するサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の転写調節領域又はプロモーター領域の塩基配列において1塩基以上、好ましくは1〜10塩基、より好ましくは1〜5塩基、さらに好ましくは1〜3塩基の塩基が置換しているプロモーター領域を有しているため、親株のサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質またはフォスフォパンテテイントランスフェラーゼ活性を有する蛋白質の生産量と比較して、該蛋白質の生産量が向上している微生物をあげることができる。
【0029】
上記(b)の親株をサーファクチン合成酵素をコードするDNAで形質転換して得られる微生物としては:
[7]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の蛋白質をコードするDNA;
[8]配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列を有するDNA;又は
[9]配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAより選ばれ、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA;
を用いて親株を形質転換して得られる微生物をあげることができる。
【0030】
また、上記(b)の親株をフォスフォパンテテイントランスフェラーゼをコードするDNAで形質転換して得られる微生物としては:
[10]上記[4]〜[6]のいずれかに記載の蛋白質をコードするDNA;
[11]配列番号6または8で表される塩基配列からなるDNA;又は
[12]配列番号6または8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA;
を用いて親株を形質転換して得られる微生物をあげることができる。
【0031】
サーファクチン合成酵素をコードするDNAで親株を形質転換する場合、[7]〜[9]に記載のDNAのうち、1つのみを選択して形質転換してもよいし、2つ以上を選択して同時に親株を形質転換してもよい。
また、配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列を有するDNAの代わりに、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを用いることもできる。
【0032】
さらに、サーファクチン合成酵素をコードする[7]〜[9]のDNAと、フォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする[10]〜[12]のDNAとを任意に組み合わせて選択して同時に親株を形質転換してもよい。
サーファクチン合成酵素を生産する能力を有しない微生物を親株として用いるときは、配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列を有するDNAのすべて、配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするDNAのすべて、あるいは、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAまたは配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを親株に形質転換することが望ましい。
【0033】
上記(b)の親株をサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAで形質転換して得られる微生物としては、外来のサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAをi)染色体DNA上に有する微生物、及びii)染色体DNA外に有する微生物をあげることができる。すなわち、i)の微生物は、親株がサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを染色体DNA上に保有していない場合は、新たに導入された該DNAを1つ又は2つ以上、染色体DNA上に有する微生物であり、親株がサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを元来染色体DNA上に保有する場合には、新たに導入された該DNAを含む2つ以上のサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを染色体DNA上に有する微生物である。ii)の微生物は、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAをプラスミドDNA上に有する微生物である。
【0034】
また、親株が元来生産するフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼが不活性型の場合は、親株の染色体DNA上の不活性型のフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAに換えて、上記のフォスフォパンテテイニル」トランスフェラーゼをコードするDNAを導入することによっても、本願の製造法で用いられる微生物を取得することができる。
【0035】
不活性型のフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの例としては、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、不活性型フォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAとしては、配列番号10で表される塩基配列からなるDNAをあげることができる。不活性型のフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼを元来生産する微生物としては、バチルス・ズブチリス168株をあげることができる。
【0036】
上記の「ハイブリダイズする」とは、特定の塩基配列を有するDNA又は該DNAの一部にDNAがハイブリダイズすることである。したがって、該特定の塩基配列を有するDNA又はその一部は、ノーザン又はサザンブロット解析のプローブとして用いることができ、またPCR解析のオリゴヌクレオチドプライマーとして使用できるDNAである。プローブとして用いられるDNAとしては、少なくとも100塩基以上、好ましくは200塩基以上、より好ましくは500塩基以上のDNAをあげることができ、プライマーとして用いられるDNAとしては、少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上のDNAをあげることができる。
【0037】
DNAのハイブリダイゼーション実験の方法はよく知られており、例えば当業者であれば本願明細書に従い、ハイブリダイゼーションの条件を決定することができる。該ハイブリダイゼーションの条件は、モレキュラー・クローニング第2版、第3版(2001年)、Methods for General and Molecular Bacteriolgy, ASM Press(1994)、Immunology methods manual, Academic press(Molecular)に記載の他、多数の他の標準的な教科書に従っておこなうことができる。
【0038】
上記の「ストリンジェントな条件」とは、DNAを固定化したフィルターとプローブDNAとを50%ホルムアミド、5×SSC(750mmol/lの塩化ナトリウム、75mmol/lのクエン酸ナトリウム)、50mmol/lのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、及び20μg/lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で、42℃にて一晩インキュベートした後、例えば約65℃の0.2×SSC溶液中で該フィルターを洗浄する条件が好ましいが、より低いストリンジェント条件を用いることもできる。ストリンジェンな条件の変更は、ホルムアミドの濃度調整(ホルムアミドの濃度を下げるほど低ストリンジェントになる)、塩濃度及び温度条件の変更により可能である。低ストリンジェント条件としては、例えば6×SSCE(20×SSCEは、3mol/lの塩化ナトリウム、0.2mol/lのリン酸二水素ナトリウム、0.02mol/lのEDTA、pH7.4)、0.5%のSDS、30%のホルムアミド、100μg/lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベートした後、50℃の1×SSC、0.1%SDS溶液を用いて洗浄する条件をあげることができる。また、さらに低いストリンジェントな条件としては、上記した低ストリンジェント条件において、高塩濃度(例えば5×SSC)の溶液を用いてハイブリダイゼーションを行った後、洗浄する条件をあげることができる。
【0039】
上記した様々な条件は、ハイブリダイゼーション実験のバックグラウンドを抑えるために用いるブロッキング試薬を添加、又は変更することにより設定することもできる。上記したブロッキング試薬の添加は、条件を適合させるために、ハイブリダイゼーション条件の変更を伴ってもよい。
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば上記したBLASTやFASTA等を用いて上記したパラメータ等に基づいて計算したときに、配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列からなるDNAまたは配列番号6もしくは8で表される塩基配列からなるDNAと少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
2.本発明で用いられる微生物の調製
(1)サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が親株より高い微生物の調製
本発明で用いられる微生物のうち、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの比活性が、親株の当該蛋白質より高い微生物は、サーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAをin vitroにおける変異剤を用いた変異処理、又はエラープローンPCRなどに供することにより該DNAに変異を導入した後、該変異DNAを公知の方法[Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 97, 6640 (2000) ]を用いて親株の染色体DNA上に存在する変異導入前の当該蛋白質をコードするDNAと置換または親株の染色体DNA上の任意の位置に挿入することにより該変異DNAを発現する改変体を作成し、上記した方法により親株と改変体のサーファクチン合成酵素活性またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を比較することにより取得することができる。
【0040】
また、本発明で用いられる微生物のうち、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの生産量が親株より高い微生物は、親株が有する当該蛋白質をコードする遺伝子の転写調節領域及びプロモーター領域、例えば該蛋白質の開始コドンの上流側200bp、好ましくは100bpの塩基配列を有するDNAをin vitroにおける変異処理、又はエラープローンPCRなどに供することにより該DNAに変異を導入した後、該変異DNAを親株の染色体DNA上に存在する変異導入前の当該蛋白質の転写調節領域及びプロモーター領域と公知の方法[Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 97, 6640 (2000)]を用いて置換することにより変異型の転写調節領域又はプロモーター領域を有する改変体を作成し、RT−PCR又はノーザンハイブリダイゼーションなどにより、親株と改変体のサーファクチン合成酵素をコードする遺伝子またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の転写量を比較する方法、又はSDS−PAGEなどにより親株と改変体のサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの生産量を比較する方法により確認することができる。
【0041】
また、親株のサーファクチン合成酵素をコードする遺伝子またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域を公知の強力なプロモーター配列と置換することによっても、親株よりサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの生産量が向上した微生物を取得することもできる。
【0042】
そのようなプロモーターとしては、バチルス属に属する微生物中で発現させるためのxylAプロモーター[Appl. Microbiol. Biotechnol., 35, 594-599 (1991)]ならびにCorynebacterium属に属する微生物中で発現させるためのP54-6プロモーター[Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679 (2000) ]、エシェリヒア・コリで機能するtrpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター、Ptrpを2つ直列させたプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーターおよびlet Iプロモーターなどのプロモーター、などをあげることができる。
【0043】
上述の通り、親株がサーファクチン合成酵素を生産する能力を有しない場合にも、以下に述べる方法と同様の方法によって、親株にサーファクチン合成酵素を生産する能力を付与することにより、本発明の製造法で用いられるサーファクチン合成酵素活性が親株より高い微生物を取得することができる。
以下に、サーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAの取得法、及び親株を該DNAで形質転換して得られる微生物の調製法について詳細に説明する。
(a)サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAの取得
サーファクチン合成酵素をコードするDNAは、例えば配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAの塩基配列、フォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAは配列番号7または9で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAの塩基配列に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、バチルス・ズブチリスなどの微生物の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた、微生物、好ましくはバチルス・ズブチリスの染色体DNAを鋳型としたPCR[PCR Protocols, Academic Press (1990)]により取得することができる。
【0044】
各種の遺伝子配列データベースに対して配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAの塩基配列と、または配列番号7もしくは9で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAの塩基配列と、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有する配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列に基づき、該塩基配列を有する微生物の染色体DNA、cDNAライブラリー等から上記した方法によりサーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを取得することもできる。
【0045】
取得したDNAをそのまま、あるいは適当な制限酵素などで切断し、常法によりベクターに組み込み、得られた組換え体DNAを宿主細胞に導入した後、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばジデオキシ法 [Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 74, 5463 (1977)] 又は3700 DNAアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。
【0046】
上記のベクターとしては、pBluescriptII KS(+)(ストラタジーン社製)、pDIRECT[Nucleic Acids Res., 18, 6069 (1990)]、pCR-Script Amp SK(+)(ストラタジーン社製)、pT7Blue(ノバジェン社製)、pCR II(インビトロジェン社製)及びpCR-TRAP(ジーンハンター社製)などをあげることができる。
宿主細胞としては、エシェリヒア属に属する微生物などをあげることができる。エシェリヒア属に属する微生物としては、例えば、E. coli XL1-Blue、E. coli XL2-Blue、E. coli DH1、E. coli MC1000、E. coli ATCC 12435、E. coli W1485、E. coli JM109、E. coli HB101、E. coli No.49、E. coli W3110、E. coli NY49、E. coli MP347、E. coli NM522、E. coli BL21、E. coli ME8415等をあげることができる。
【0047】
組換え体DNAの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69, 2110 (1972)] 、プロトプラスト法(特開昭63-248394)、エレクトロポレーション法 [Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)] 等をあげることができる。
塩基配列を決定した結果、取得されたDNAが部分長であった場合は、該部分長DNAをプローブに用いた、染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション法等により、全長DNAを取得することができる。
【0048】
更に、決定されたDNAの塩基配列に基づいて、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成装置等を用いて化学合成することにより目的とするDNAを調製することもできる。
上記のようにして取得されるサーファクチン合成酵素をコードするDNAとして、例えば、配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA、配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列を有するDNA、ならびに配列番号1で表される塩基配列を有するDNAをあげることができる。
【0049】
同様に、上記のようにして取得されるフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAとして、例えば、配列番号7または9で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA、および配列番号6または8で表される塩基配列からなるDNAをあげることができる。
(b)サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼを発現するプラスミドベクターで形質転換された微生物の取得
上記(a)の方法で得られるサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAをもとにして、必要に応じて、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製する。また、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする部分の塩基配列を、宿主細胞での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することにより、該蛋白質の発現量が向上した形質転換体を取得することができる。
【0050】
該DNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換え体DNAを作製する。
該組換え体DNAを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が宿主細胞、すなわち親株より向上した形質転換体を得ることができる。
【0051】
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自律複製可能又は染色体中への組込みが可能で、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性をコードするDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
サーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを有する組換え体DNAは、宿主細胞中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、サーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNA、転写終結配列より構成された組換え体DNAであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0052】
発現ベクターとしては、バチルス属に属する微生物で機能するpHY300PLK(タカラバイオ社製)、pCG1、pCG2、pCG4、pCG11、pCE52、pCE53、pCE54(特開昭57−134500号公報、特開昭57−183799号公報、特開昭58−105999号公報)などのコリネバクテリウム属に属する微生物またはアースロバクター属に属する微生物で自律複製できるプラスミド、cold(タカラバイオ社製)、pCDF-1b、pRSF-1b(いずれもノバジェン社製)、pMAL-c2x(ニューイングランドバイオラブス社製)、pGEX-4T-1(ジーイーヘルスケアバイオサイエンス社製)、pTrcHis(インビトロジェン社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-30(キアゲン社製)、pET-3(ノバジェン社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200[Agric. Biol. Chem., 48, 669 (1984)]、pLSA1[Agric. Biol. Chem., 53, 277 (1989)]、pGEL1[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 82, 4306 (1985)]、pBluescriptII SK(+)、pBluescript II KS(-)(ストラタジーン社製)、pTrS30 [エシェリヒア・コリ JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrS32 [エシェリヒア・コリ JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pPAC31 (WO98/12343)、pUC19 [Gene, 33, 103 (1985)]、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、pPA1(特開昭63-233798)等のエシェリヒア・コリで機能するベクターを例示することができる。
【0053】
プロモーターとしては、エシェリヒア・コリで機能するtrpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター、Ptrpを2つ直列させたプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーターおよびlet Iプロモーターなどのプロモーター、バチルス属に属する微生物中で発現させるためのxylAプロモーター[Appl. Microbiol. Biotechnol., 35, 594-599 (1991)]ならびにコリネバクテリウム属に属する微生物中で発現させるためのP54-6プロモーター[Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679 (2000)]などをあげることができる。
【0054】
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
サーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを発現ベクターに結合させた組換え体DNAにおいては、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0055】
このような組換え体DNAとしては、例えば後述するpHY_sfp3009及びpHY_sfp6633をあげることができる。
該組換え体DNAの宿主としては、メナキノンを生産する能力を有する限り特に限定されないが、該親株としては例えばバチルス属、エシェリヒア属、コリネバクテリウム属、またはアースロバクター属に属する微生物をあげることができる。
【0056】
本発明の製造法によって製造されるメナキノンが、例えばメナキノン-7であるときは、親株としては好ましくはバチルス属に属する微生物、より好ましくはバチルス・ズブチリスをあげることができ、さらに好ましくはバチルス・ズブチリス168株、バチルス・ズブチリスNBRC3009株、バチルス・ズブチリス ATCC6633株、バチルス・ズブチリス ATCC21778株、バチルス・ズブチリス ATCC6051株、バチルス・ズブチリス ATCC21394株、バチルス・ズブチリス ATCC27505株、バチルス・ズブチリス ATCC15841株をあげることができる。
【0057】
本発明の製造法によって製造されるメナキノンが、例えばメナキノン-4であるときは、親株としては好ましくはアースロバクター属に属する微生物、より好ましくはアースロバクター・ニコチアナエをあげることができ、さらに好ましくはアースロバクター・ニコチアナエ KS-8-18株((FERM BP-8232)、 特開昭61-265097号公報)、アースロバクター・ニコチアナエATCC14929株をあげることができる。
(c)サーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAが染色体DNAに組み込まれた微生物の取得
上記(a)の方法で得られるサーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを、染色体DNAの任意の位置に組み込むことにより、サーファクチン合成酵素またはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が親株より高い微生物を取得することもできる。
【0058】
サーファクチン合成酵素をコードするDNAまたはフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするDNAを微生物の染色体DNAの任意の位置に組み込む方法としては、相同組換えを利用した方法をあげることができ、具体的には、Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 97, 6640 (2000) に記載の方法をあげることができる。
3.本発明のメナキノンの製造法
上記2記載の方法で調製することができる微生物を培地に培養し、該培地中にメナキノンを生成、蓄積させ、培養物からメナキノンを採取することによりメナキノンを製造することができる。
【0059】
上記の本発明のメナキノンの製造法では、メナキノン同属体のうち、微生物が生産することのできるメナキノンであればいずれのメナキノンも製造することができるが、好ましくはメナキノン-7またはメナキノン-4、より好ましくはメナキノン-7を製造することができる。
該微生物は、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える天然培地又は合成培地培を用いて培養することができる。
【0060】
炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体、及びその消化物等を用いることができる。
【0061】
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
培養は、通常振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機又は有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
【0062】
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0063】
培養物中に蓄積されたメナキノンの採取は、活性炭やイオン交換樹脂などを用いる通常の方法あるいは、有機溶媒による抽出、結晶化、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等により行うことができる。なお、菌体内にメナキノンが蓄積する場合には、例えば菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清からイオン交換樹脂法などによって、メナキノンを採取することができる。
【0064】
以下に、本願発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0065】
バチルス・ズブチリス形質転換体の調製
(1)sfp遺伝子発現株の調製
バチルス・ズブチリス 168株、メナキノン‐7(以下、MK-7と称す)を分泌することが知られているバチルス・ズブチリス NBRC3009株(Eur. J. Biochem. 192: 219, 1990)およびサーファクチン生産能を有することが知られているバチルス・ズブチリス ATCC6633株(Proc Natl Acad Sci U S A. 96: 13294, 1999)の3種のバチルス・ズブチリスより、UltraClean Microbial DNA Isolation Kit(MO BIO社製)を用いて、染色体DNAをそれぞれ単離精製した。
【0066】
それぞれの染色体DNAを鋳型とし、配列番号12および13で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーとして、Pyrobest DNA Polymerase (タカラバイオ社)を用いてPCRを行った。PCRの反応液の調製および反応条件はPyrobest DNA Polymeraseに添付のプロトコルに従った。
得られた3種の株由来のsfp遺伝子を含むDNA断片および大腸菌/枯草菌シャトルベクターpHY300PLK(タカラバイオ社製)を、それぞれ制限酵素SalIおよびEcoRI (タカラバイオ社製)で切断後、アガロースゲル電気泳動により分離し、精製した。
【0067】
精製して得られたsfp遺伝子を含む断片をそれぞれpHY300PLKのSalI−EcoRI切断断片とDNA Ligation Kit(タカラバイオ社製)を用いてライゲーションし、得られた反応液でエシェリヒア・コリDH5α株(Toyobo社)をそれぞれ形質転換した。50mg/Lのアンピシリンを含むL培地プレート(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天、pH7.2に調製)上に生育したコロニーを形質転換体として選択し、それぞれの形質転換体からプラスミドDNAを抽出した。
【0068】
バチルス・ズブチリス168株のsfp遺伝子をクローニングしたプラスミドをpHY_sfp168、バチルス・ズブチリスNBRC3009株のsfp遺伝子をクローニングしたプラスミドをpHY_sfp3009、バチルス・ズブチリスATCC6633株のsfp遺伝子をクローニングしたプラスミドをpHY_sfp6633とそれぞれ命名した。
さらに、バチルス・ズブチリスの形質転換に使用するコンカテマー化したプラスミドを得るため、上記で取得した3種類のプラスミドおよびpHY300PLKを用いてエシェリヒア・コリ JM101株を形質転換した。得られた形質転換株からプラスミドDNAを抽出し、それらを用いて、バチルス・ズブチリス168株を形質転換した。バチルス・ズブチリスの形質転換は、Anagnostopoulosらの方法[J. of Bacteriol., 81:741, 1961]に従って行った。テトラサイクリンを10 mg/Lの濃度で添加した寒天培地を用いてバチルス・ズブチリス168株の形質転換体を選択した。
【0069】
pHY300PLKを保有する形質転換体を168/pHY300PLK株、pHY_sfp168を保有する形質転換体を168/ pHY_sfp168株、pHY_sfp3009を保有する形質転換体を168/ pHY_sfp3009株、pHY_sfp3009を保有する形質転換体を168/ pHY_sfp6633株とそれぞれ命名した。
(2)srfAA遺伝子が破壊されたバチルス・ズブチリス168株の造成
srfAA遺伝子はサーファクチン合成酵素の1つをコードする遺伝子であり、配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767で表される塩基配列を有するDNAである。以下の手順で配列番号1で表される塩基配列中の塩基番号1〜10767で表される塩基配列からなるsrfAA遺伝子のORFにおいて、塩基番号1976〜4487番目の塩基が欠失し、そこにクロラムフェニコール耐性遺伝子を含むDNA断片が挿入されたDNA断片を取得した。
【0070】
まず、プラスミドpBD64(J. Bacteriol. 141: 246, 1980)を鋳型として、配列番号14および15で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして、PCRを行い、1036bpのDNA断片を増幅した。得られた反応液から増幅したDNA断片をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。
次に、バチルス・ズブチルス168株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号16および17で表される塩基配列からなる合成DNA、配列番号18および19で表される塩基配列からなる合成DNAをそれぞれプライマーセットとして用いてPCRを行った。それぞれのPCRでは、いずれも約1.5kbのDNA断片が増幅しており、それらDNAをQIAquick PCR Purification Kitを用いて精製した。
【0071】
次に、上記PCRで得られた1036bpのDNA断片および2種類の約1.5kbのDNA断片を全て混合して鋳型として用い、配列番号20および21で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用いてPCRを行い、鋳型として用いた3種類のDNA断片が連結した4.0kbのDNA断片を取得した。このPCRによって得られたDNA断片は、srfAA遺伝子のORF内に2.5kbの欠失を有し、その欠失部位にプラスミドpBD64由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子を含むDNA断片が挿入された構造となっている。
【0072】
上記で得られた4.0kbのDNA断片を用いて、Anagnostopoulosらの方法によりバチルス・ズブチリス168株を形質転換し、30 mg/Lのクロラムフェニコールを含む寒天培地を用いて形質転換体を選択した。
得られた形質転換体の染色体DNAを単離し、srfA遺伝子近傍の塩基配列を有する適当なプライマーを用いてPCR反応を行うことにより染色体上に目的の構造のDNA断片が挿入されていることを確認した。この株を、168ΔsrfA株と命名した。
【0073】
168ΔsrfA株を、pHY300PLK、pHY_sfp168、pHY_sfp3009およびpHY_sfp6633でそれぞれ形質転換した。得られた形質転換株を168ΔsrfA/pHY300PLK株、168ΔsrfA/ pHY_sfp168株、168ΔsrfA / pHY_sfp3009株と、168ΔsrfA / pHY_sfp6633株と、それぞれ命名した。
【実施例2】
【0074】
MK-7生産試験(1)
168/pHY300PLK株、168/pHY_sfp168株、168/pHY_sfp3009株および168/pHY_sfp6633株をそれぞれ寒天培地上で37℃、24時間、生育させた。寒天培地には、必要に応じて10 mg/Lのテトラサイクリンまたは30 mg/Lのクロラムフェニコールを添加した。上記寒天培地上で生育した形質転換体1白金耳をとり5mLのL培地が入っている試験管に植菌し、37℃で24時間、振盪培養した。得られた培養液0.5mLを、MK-7生産性評価用培地[グルコース50g、MgSO4七水和物500mg、グルタミン酸Na一水和物14.96 g、KH2PO4 1g、K2HPO4 3 g、NaCl 0.46 g、ビオチン100 μg、FeSO4 10 mg、CaCl2 10 mg、MnSO4 1mg、CuSO4 0.2 mg、ZnSO4 1 mg、L-トリプトファン100 mgを水1Lに含む、ただしグルコースおよびMgSO4は、そのほかの混合物とは別に高圧蒸気滅菌し、冷却した後に混合]5mLが入っている試験管に植菌し、37℃で48時間振盪培養した。
【0075】
培養終了後の菌体が均一に懸濁した状態の培養物を「全ブロス試料」とし、全ブロス試料を4℃で遠心分離して得られる、培養物中のバチルス・ズブチリス菌体が沈殿、除去された上清を「ブロス上清試料」とした。全ブロス試料およびブロス上清試料、それぞれを等量の2-ブタノールと混合したものに全ブロス試料およびブロス上清試料のガラスビーズを添加し、室温でVIAL MIXER VIX-100(TAITEC社製)によって20分間激しく振盪した後、遠心分離により2-ブタノール相と水相を分離し、上層に得られる2-ブタノール相にMK-7を抽出した。
【0076】
上記で得た2−ブタノール抽出液中のMK-7濃度をHPLCにより分析した。HPLC分析は、分離カラムにDevelosil ODS-HG-5(4.6×250mm)(野村化学社製)、ガードカラムにDevelosil ODS-HG-5(4.0×10mm)(野村化学社製)、メタノール : n-ヘキサンを体積比80 : 20で混合した移動層を使用し、カラム温度35℃、流速1mL/分で分離を行い、波長275nmにおける吸光度を測定した。
【0077】
その結果、表1に示すように、バチルス・ズブチリスNBRC3009株由来のsfp遺伝子を発現する68/pHY_sfp3009株およびバチルス・ズブチリスATCC6633株由来のsfp遺伝子を発現する168/pHY_sfp6633株は、168/pHY300PLK株や168/pHY_sfp168株に対して、全ブロス試料中のMK-7量および全ブロス試料中のMK-7量に対するブロス上清試料中のMK-7量の割合(分泌率)が増加していた。
【0078】
【表1】

【実施例3】
【0079】
MK-7生産試験(2)
実施例2と同様の評価方法を用いて、完全なsrfAA遺伝子を有する株(168/pHY_sfp168株、168/pHY_sfp3009株、168/pHY_sfp6633株)と実施例1の(2)で作製したsrfAA遺伝子が破壊された株(168ΔsrfA/pHY_sfp168株、168ΔsrfA/pHY_sfp3009株、168ΔsrfA /pHY_sfp6633株)のMK-7生産性を評価した。
【0080】
結果を表2に示した。168 /pHY_sfp3009株や168/pHY_sfp6633株に比べ、srfAA遺伝子が破壊された168ΔsrfA/pHY_sfp3009株や168ΔsrfA/pHY_sfp6633株では、全ブロス試料中のMK-7量、ブロス上清試料中のMK-7量および全ブロス試料中のMK-7量に対するブロス上清試料中のMK-7量の割合(分泌率)が低下した。
【0081】
【表2】

【実施例4】
【0082】
MK-7生産試験(3)
実施例2と同様の評価方法を用いて、培養開始時にサーファクチン(和光純薬社製)を添加した場合と添加しない場合の、168/pHY_sfp168株および168/pHY_sfp3009株のMK-7生産性を評価した。
その結果を表3に示す。168/pHY_sfp168株ではサーファクチンの濃度に依存して全ブロス試料中のMK-7量、ブロス上清試料中のMK-7量、全ブロス試料中のMK-7量に対するブロス上清試料中のMK-7量の割合(分泌率)が増加したのに対し、168/pHY_sfp3009株ではサーファクチンの添加によって各試料中のMK-7量に変動は見られなかった。
【0083】
【表3】

【0084】
以上の結果から、細胞内でサーファクチンを生産させることによりメナキノンの生産性が大幅に向上することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の方法により、効率的にメナキノンを製造することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0086】
配列番号12−人工配列の説明:合成DNA
配列番号13−人工配列の説明:合成DNA
配列番号14−人工配列の説明:合成DNA
配列番号15−人工配列の説明:合成DNA
配列番号16−人工配列の説明:合成DNA
配列番号17−人工配列の説明:合成DNA
配列番号18−人工配列の説明:合成DNA
配列番号19−人工配列の説明:合成DNA
配列番号20−人工配列の説明:合成DNA
配列番号21−人工配列の説明:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチンを生産する能力が親株より高い微生物を培地に培養し、該培地中にメナキノンを生成、蓄積させ、該培地中からメナキノンを採取することを特徴とする、メナキノンの製造法。
【請求項2】
メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチンを生産する能力が親株より高い微生物がメナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチン合成酵素活性が親株より高い微生物である、請求項1記載のメナキノンの製造法。
【請求項3】
メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチン合成酵素活性が親株より高い微生物が以下の[1]〜[6]のいずれかに記載の蛋白質の活性が親株より高い微生物である、請求項2記載のメナキノンの製造法。
[1]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
[2]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質、
[3]配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性があるアミノ酸配列からなり、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質、
[4]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、
[5]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつフォスフォパンテテイントランスフェラーゼ活性を有する蛋白質、
[6]配列番号7または9で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性があるアミノ酸配列からなり、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
【請求項4】
メナキノンを生産する能力を有し、かつサーファクチン合成酵素活性が親株より高い微生物が以下の[7]〜[12]のいずれかに記載のDNAで形質転換された微生物、又は該DNAの発現調節配列を改変することにより該遺伝子の発現が増強された微生物である、請求項2記載のメナキノンの製造法。
[7]請求項3の[1]〜[3]のいずれかに記載の蛋白質をコードするDNA、
[8]配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列を有するDNA、
[9]配列番号1で表される塩基配列の塩基番号1〜10767、10780〜21543、21580〜25404、および25433〜26161のいずれかで表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつサーファクチン合成酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
[10]請求項3の[4]〜[6]のいずれかに記載の蛋白質をコードするDNA、
[11]配列番号6または8で表される塩基配列からなるDNA、
[12]配列番号6または8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフォスフォパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
【請求項5】
メナキノンがメナキノン−4またはメナキノン−7である、請求項1〜4のいずれかに記載のメナキノンの製造法。



【公開番号】特開2010−200682(P2010−200682A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50463(P2009−50463)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】