説明

メニエール病治療薬

【課題】 糖又は糖アルコールを有効成分とする従来のメニエール病治療薬は、大量に内服する必要があり、投与量の削減は困難であった。そのため、効果発現までに長時間を要する上、長期投与に適さないなどの問題点があった。その理由を解明し、投与量の削減を図りつつ、安全で、しかしながら確実に、且つ迅速に作用を発現し、長期投与にも適したメニエール治療薬を開発することにある。
【解決手段】 主薬である、糖又は糖アルコールの内耳に対する効果を、術側、正常側の双方で観測し、主薬の投与量を削減することで、血漿浸透圧、血漿AVPの上昇を阻止して、内リンパ水腫減荷効果が安全且つ確実に発現することを確認した。治療に関係のない添加剤を可能な限り排除して、添加剤による血漿浸透圧、血漿AVPの上昇をも阻止し、主薬が少量であっても、その効果を確実に発現させることに成功した。主薬の量を削減することで、大量投与に伴う副作用に阻止できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスリトールを含有するメニエール病治療薬であって、主薬である単糖類、又はその糖アルコールの量を削減させることにより、確実な内リンパ水腫減荷効果を発現させ、同時に主薬の大量投与による全身及び局所における副作用を抑制したメニエール病治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
メニエール病の病因は未だ不明の部分が多いが、その病態が内リンパ水腫であることはメニエール病患者の剖検例の組織学的検討の結果から、広く知られている(非特許文献1)。この内リンパ水腫は、内リンパ液の産生過剰や吸収障害など、内耳の水代謝の異常によって内リンパ液が貯留することで形成され、耳鳴、難聴、めまい、耳閉感等のメニエール病の特徴的な症状が発現するとされる。したがって、この内リンパ水腫を減荷することがメニエール病治療の目標となると考えられている(非特許文献2)。
【0003】
歴史的には、メニエール病の治療薬として、内リンパ水腫の減荷を目的として、尿素や浸透圧利尿剤であるグリセロール、マンニトールなどの糖アルコールが用いられてきた。糖及び糖アルコールの多くは、投与後浸透圧作用を発現することから、浸透圧利尿剤、浸透圧下剤として用いられてきた。浸透圧効果による脱水作用を有する薬剤として、瀉下作用を有するソルビトール、マンニトール、浸透圧利尿剤としてのマンニトール、グリセオール等がある。病態が内リンパ水腫であるメニエール病の治療においても、この脱水作用により水腫軽減が可能であると考えられた。すなわち、これらの薬剤は、経口投与後に内外リンパ液の浸透圧勾配を生じることから、内リンパ腔の容積が減少し、内リンパ腔虚脱効果、または内リンパ水腫減荷効果が生じると考えられたのである。
【0004】
しかし、現在まで糖アルコールを治療に用いようとして、多くの試行錯誤がなされているにもかかわらず、臨床応用されるだけの成果を得るには到っていない(非特許文献3、4、5)。
【0005】
1990年代以降、水チャネルの存在が各臓器において次々と確認された。腎臓と比較的よく似た組織構造を有する内耳においても、内耳液の産生、吸収の機序解明に関する研究が進み、内耳にもアクアポリン(水チャネルタンパク質)の存在が確認された(非特許文献6)。近年、内耳の水代謝を司るものの1つとして、アルギニンバゾプレシンーアクアポリン2(arginine vasopressin-aquaporin 2)システムが注目されている(非特許文献7)。ところが、バゾプレシン2型受容体拮抗剤であるOPC31260を全身投与したところ、期待されたほどの内リンパ水腫減荷効果は認められず、逆に正常耳に内リンパ水腫を形成する結果となった。これは強い利尿作用により脱水状態に陥ったためであると判った(非特許文献8)。
【0006】
臨床的にはメニエール病患者では、急性期に抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone, ADH)のアルギニンバゾプレシン(arginine vasopressin、以後AVP)の上昇が報告されている(非特許文献9)。AVPはストレスホルモンの1つであり、この結果は、メニエール病はストレス時に発症しやすいとされる疫学的事実によく符合する。また、プライエル反射正常のモルモットの皮下にミニポンプでAVP1mu/kg/分を連続投与したところ、明らかな内リンパ水腫が形成された(非特許文献10)。表1に示すとおり、AVP皮内投与量に比例して血漿AVPが上昇し、組織学的には内リンパ腔の面積が増加(内リンパ水腫の形成)した。AVP1mu/kg連続投与の場合、血清AVPは正常人の血漿AVPの数倍(メニエール病の急性期の血清AVPとほぼ同値)に上昇し、極めて危険な状態になった (非特許文献10) 。
【0007】
【表1】

【0008】
上記のように血漿AVPを上昇させることにより、正常な内耳においても内リンパ水腫を生じた事実から考えて、内リンパ液の吸収障害など、何らかの素因を有するメニエール病患者においては、治療にあたっては、ストレスや脱水などによりAVPが上昇しないよう、特に留意しなくてはならない。
【0009】
元来、糖又は糖アルコールは浸透圧下剤として用いられてきたことからも推測されるように、糖又は糖アルコールは、一度に大量を経口投与すると消化器官において浸透圧勾配を生じ、下痢など胃腸症状を発現し、一般的な胃腸薬が効果を示さない重篤な下痢が生じる。この場合には脱水症状が続発し、抗利尿ホルモンのAVPが10〜15倍にも上昇することが報告されている(非特許文献11)。上記の通り、AVP上昇は内リンパ水腫を形成することから、糖又は糖アルコールの止瀉に成功しなければ、その内リンパ水腫減荷効果は下痢に続発する脱水により相殺されると考えられる。したがって、糖又は糖アルコールをメニエール病治療に用いる場合には、下痢などの消化器症状を発現させないように、細心の注意が必要である。
【0010】
特許文献1には、4単糖アルコールであるエリスリトール単味を有効成分とするメニエール病治療薬が記載されている。発明者らは、エリスリトールを添加したスポーツ飲料を大量に摂取したことで一過性の激しい下痢が発現したことが報告されていることから、止瀉を図らずには治療効果は到底期待できないと考えた。
【0011】
研究の結果、エリスリトールに限らず、糖又は糖アルコールの多くは単味で大量投与すると、その瀉下作用ゆえに、内リンパ水腫減荷効果は発現しないことを見出した(特許文献2、3、4)。糖又は糖アルコールに多糖類を添加することで、糖又は糖アルコールの止瀉を実現でき、そのことで血漿AVPの急激な上昇を阻止して、その結果内リンパ水腫の減荷に成功したことを確認した。単糖類又はそのアルコール類に多糖類を添加した場合、投与後3時間で作用が発現し、迅速に作用発現するメニエール病治療薬の開発に成功した(特許文献2、3、4)。
【0012】
さらに糖又は糖アルコールは浸透圧利尿剤としても作用し、脱水を助長して、結果としてAVPが上昇する。腎臓は内耳とよく似た構造で、10種類以上確認されているアクアポリンのうち、ほぼ共通のアクアポリンが存在し、水代謝を司っている(非特許文献12)。したがって、内耳にのみ糖又は糖アルコールを作用させようとすると、手術により内耳に直接薬物を注入又は持続点滴するような局所投与以外は考えられない。内服による全身投与が患者にとって好ましいが、現時点では利尿効果のみを的確に遮断する方法はないので、止瀉を完全にすることは重要な意味がある。
【0013】
糖又は糖アルコールには、各々に固有の最大無作用量が知られており、0.2〜0.5g/kgの範囲にあって、これを超えなければ下痢は起こりにくいとされている。従来のメニエール病治療薬は、大量(1回量21〜30g)を1日に3回内服するが、これはまさに最大無作用量を超える量を、治療のために毎回摂取していることを意味する。投与量を少なくして、確実な治療効果を発現させることが望まれている。
【0014】
ところが、メニエール病治療の場合に限らず、糖または糖アルコールを医薬として用いる場合に特徴的なことは、大量投与を必要とすることである。糖又は糖アルコールは血中に移行して作用部位に到達し、浸透圧効果を発現し、薬物代謝酵素の影響を受けずに、そのまま尿中に排泄される。治療に必要な浸透圧効果を発現するためには大量の糖又は糖アルコールを内服せざるを得ないとされてきた。大量投与に伴い、副作用も心配されるが、単糖類又はそのアルコール類はそれぞれ、その分子の大きさや化学的、生物学的性質で消化吸収には違いがあり、消化器症状を含め、副作用は一様ではない。
【0015】
例えば、炭素数が3の糖アルコールであるグリセロールは作用部位に到達するのが早く、投与後約2時間で内リンパ腔減荷作用が生じるが、約6時間後にはリバウンド現象(内リンパ水腫形成)が生じ、治療効果は期待できない(非特許文献4)。この現象は動物実験において、組織学的にも確認できた(非特許文献5)。また、全身的な副作用として肝障害が生じることが知られている。
【0016】
炭素数4の糖アルコールであるエリスリトールは約90%が小腸で吸収され、代謝されることなく尿に排泄される。残りの10%が大腸に移動するが、大腸の微生物は発酵させることができず、そのまま排泄されると報告されている(非特許文献14)。人体だけなく、腸内微生物によっても代謝されないことは「ノンカロリー」(最大カロリー0.2Kcal/g)という点で好ましいが、大量に服用した場合には、未分解の糖は全体量の10%といえども重篤な下痢を引き起こすことになる。しかし、多糖類を添加することで止瀉に成功すれば、投与後2〜3時間で減荷作用を生じた(特許文献2)。作用部位に達するのが、グリセロールに次いで早いと思われる。さらに膨満感など、他の胃腸症状も生じず、リバウンド現象もなかった。(特許文献2)。
【0017】
糖又は糖アルコールの多くがすぐれた甘味を有し、ショ糖の代替甘味料として用いれば、口腔内で細菌、酵素による有機酸の生成がほとんど無いので虫歯の発生原因とならず、抗ウ触効果(並びにウ蝕予防効果)が期待できる。中でも、炭素数5のキシリトールはすぐれた甘味を有し、さらにウ触を直接防止する作用が報告されているが、イヌなどの動物では肝障害が報告されている(非特許文献15)。
【0018】
現在、メニエール病治療薬として我が国で臨床応用されている糖アルコールは、イソソルビド(1,2:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)で炭素数が6の糖アルコールであるが、2カ所の架橋があるため、分子径が短い部位が存在し、生体膜を透過しやすいと考えられている。同じ炭素数6のマンニトール、ソルビトールなどと比較すると減荷作用発現に好ましいと考えられる(非特許文献13)。
【0019】
イソソルビトールは瀉下作用が比較的弱いもので、重大な副作用も報告されていないが、独特の苦みがある。イソソルビトール製剤(興和創薬(株)製:一般名イソソルビド)は、イソソルビトール含有率は70%の水溶液である。1回服用量が30ml以上で、1日3回服用する必要があり、服用量が大量であることから、服用に困難を感じる患者が多く、服用を中断する例もある。苦みを和らげるために甘味成分、風味を添加しているが、味の改善に必ずしも成功していない。
【0020】
イソソルビトール製剤のさらに重大な問題点の1つは作用発現まで、経口投与後約6時間を要することである。この現象は動物実験でも確認できた(非特許文献13)。3単糖であるグリセロールが効果発現まで約2時間(非特許文献5)、4単糖であるエリスリトールは、止瀉に成功すれば3時間で効果が発現する(特許文献2)ことに比べて、作用発現まで長時間を要する。この理由は分子径や瀉下作用では説明できない。
【0021】
減荷作用は浸透圧作用によるものであるから、作用の強さは投与する薬剤のモル数に比例するが、作用発現には作用部位に到達する必要があり、作用発現の速さは糖または糖アルコールの分子径、分子構造を考慮しなくてはならない。また、糖又は糖アルコールの大量投与に伴い、副作用の危険も高まるため、選択する場合には、その性質を詳細に検討しなくてはならない。さらに、添加物にも留意しなくてはならない。
【0022】
また、より根本的な問題点は、長期に服用を続けると血漿AVPの上昇が続く(非特許文献16)ことから、長期連続服用は危険を伴うことである。
【0023】
そこで、従来のイソソルビトール製剤がなぜ作用発現までに長時間を要するのか、長期に服用を続けた場合、下痢をしていないにもかかわらず血漿AVPが上昇するのかを調べその問題点を改良して、より迅速に効果が発現し、且つリバウンド現象のない薬剤の開発を試みた。
【特許文献1】特開平11−180863
【特許文献2】特許第3947796号
【特許文献3】特願2007−127390(特許第4081131号)
【非特許文献1】切替一郎、耳鼻咽喉科学
【非特許文献2】小松崎篤編、Client 21、
【非特許文献3】Angelborg C. et al: Hyperosmotic Solutions and hearing in Me niere’s disease. Am J Otol. 3: 200-2(1982)
【非特許文献4】Matsubara H et al: Rebound phenomenon in glycerol test. Acta Otolaryngol Suppl. 419: 115-22(1984)
【非特許文献5】Takeda T et al: The rebound phenomenon of glycerol-induced c hanges in the endolymphatic space. Acta Otolaryngol 119: 341-4(1999)
【非特許文献6】Sawada S et al: Aquaporin-1 (AQP1) is expressed in the stri a vascularis of rat cochlea. Hearing Res. 181:15-9(2003)
【非特許文献7】Sawada S et al: Aquaporin-2 regulation by vasopressin in the rat inner ear. Neuroreport 13: 1127-9(2002)
【非特許文献8】Takeda T:The effects of V2 antagonist (OPC-31260) on endoly mphatic hydrops. Hear Res. 183: 9-18, (2003)
【非特許文献9】Takeda T et el: Antidiuretic hormone (ADH) and endolymphatic hydrops. Acta Otolaryngol Suppl 519: 219-22,(1995)
【非特許文献10】Takeda T et al: Endolymphatic hydrops induced by chronic a dministration of vasopressin. Hear Res. 140:1-6, (2000)
【非特許文献11】Safwate A et al: Renin-aldosterone system and arginine vas opressin in diarrhoeic calves. Br Vet J 147:533-7,(1991)
【非特許文献12】Kwon TH, Nielsen S. et al.: Physiology and pathophysiology of renal aquaporins. Semin Nephrol 21:231-8, (2001)
【非特許文献13】Kakigi A et al:Time course of dehydratic effects of isoso rbide on experimentally induced endolymphatic hydrops in guinea pigs. OR L J Otorhinolaryngol Relat Spec 66:291-296 (2004)
【非特許文献14】Arrigoni E, Human gut microbiota does not ferment erythrit ol. Br J Nutr 2005 Nov;94(5):643-6.
【非特許文献15】Dunayer EK, Gwaltney-Brant SM. Acute hepatic failure and c oagulopathy associated with xylitol ingestion in eight dogs. J Am Vet Me d Assoc. 229(7):1113-7. (2006).
【非特許文献16】Kakigi A et al:Antidiuretic hormone and osmolality in iso sorbide therapy and glycerol test. ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec . 68:279-82. (2006)
【非特許文献17】Robertson GL et al:The osmoregulation of vasopressin. Ki dney International 10:25-37.(1976)
【非特許文献18】Wise B L. et al: The effects of isosorbide on serum and c erebrospinal fluid osmolality and on the spinal fluid pressure in man. J Neuro-surg. 28:124-8(1968).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
糖又は糖アルコールを有効成分とする従来のメニエール病治療薬は、減荷効果発現までに長時間を要するものやリバウンド現象が生じるものであった。そこで、本発明が解決しようとする課題の第1は、従来の治療薬が作用発現までに長時間要する理由を突き止め、その改良を図ることにある。
【0025】
従来のメニエール病治療薬は、大量(1回量21〜30g)を1日に3回内服するため、服用が困難であるだけでなく、糖又は糖アルコールの最大無作用量を超える量を毎回、治療のために投与していることになる。さらに、2週間程度にわたって経口投与するため、糖又は糖アルコール固有の副作用のおそれがあった。大量投与を長期に続けると血漿浸透圧及び血漿AVPの高値が継続して、治療に逆行する。
【0026】
本願発明者は、多糖類を添加することで糖又は糖アルコールの水腫減荷作用を発現させることに成功した(特許文献2)が、正常側に虚脱を生じる場合があり、その程度は糖又は糖アルコールにより程度に違いがあることも判った。患者は内リンパ液の吸収障害など、発症の素因を有する可能性が高く、糖アルコール類の強い作用で健側の内リンパ腔容積が大きく変化することは好ましくないと考えられる。そこで、本発明が解決しようとする課題の第2は、各々の糖又は糖アルコール類の性質を考慮して、出来る限りその投与量を削減することで、安全で、しかしながら確実に、且つ迅速に作用を発現し、長期投与にも適したメニエール病治療薬を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、従来のメニエール病治療薬は溶解補助剤、甘味料など添加剤を安易に配合していた事実を突き止めた([実施例1−1])。添加剤の配合された従来の薬剤は、水腫側には減価効果を生じるものの、正常側には軽度ながら、内リンパ水腫を生じることを発見した([実施例1−4])。
【0028】
次に、イソソルビトール単味を投与した場合は正常側の水腫形成は軽度で、虚脱効果(治療効果につながる効果)は認められなかった([実施例1−2])。発明者は、このイソソルビトールの投与量が少ない可能性があると考え、3〜6倍の大量に投与したところ、従来のイソソルビトール製剤と同程度の水腫を形成し、大量投与は逆効果であることが判った([実施例1−3])。
【0029】
本発明者は、この理由を次のように考えた。すなわち、薬剤が血中に移行すると血漿浸透圧が上昇し、連動して血漿AVPが上昇する(非特許文献17、18)。浸透圧作用を有し、下痢や利尿を起こす糖又は糖アルコールを可能な限り削減することが好ましい。さらに添加剤も主薬と同様、血中に移行すると血漿AVPを上昇させる。したがって、主薬を極力削減すると同時に、且つメニエール病治療に直接効果のない添加剤は必要最小限にとどめるべきであることが判った。
【0030】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のエリスリトールを経口投与されるように用いられる(ただし、エリスリトールに対し1〜30質量%の多糖類を、併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とする、エリスリトールを含有するメニエール病治療薬。
【0031】
本発明において、糖又はアルコール(以下、「糖アルコール類」ということもある。)としては、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、キシロース、ソルビトール、イソソルビトール、マンニトールなどの単糖類又はその糖アルコールが挙げられる。
【発明の効果】
【0032】
薬剤の投与量は、個人差、病状の重篤度などにあわせて適宜調節されなくてはならず、投与量を削減しても、同等または同等以上の効果が得られることは臨床で頻繁に遭遇することである。しかし、本発明で投与量を削減する意味は、そのようないわゆる「医師のさじ加減」とは異なる。本発明の本質は、投与薬剤量が従来のままでは治療効果が十分には発現せず、投与量を削減して初めて治療効果が確実に増強することを発見し、証明したことで、大量投与による様々な問題を一挙に解決する治療薬を開発したことにある。
【0033】
まず、投与量を削減することによって、糖アルコール類独特の浸透圧瀉下作用の発現も阻止することに成功した。最大無作用量を超える大量の糖アルコール類の投与は、下痢による脱水を生じ、血漿AVPを上昇させて、メニエール病治療効果に逆行することが判った。多糖類を添加することで止瀉を図ることに成功した(特許文献2)が、投与量の大幅な削減が最も効果的であることは疑う余地がない。
【0034】
さらに糖アルコール類及び添加物が血中に移行することによって、血漿浸透圧が上昇し、これに比例して血漿AVPが上昇するところを、投与総量を削減することによって、血漿浸透圧、血漿AVPの上昇阻止を実現し、そのことで内耳における治療効果を向上させた。加えて、健(正常)側への影響も小さいことから、局所に安全な治療の開発に成功した。局所のみならず、投与量の削減は糖アルコール自体の全身的副作用を阻止するためにもより好ましく、全身的にも安全な治療薬を開発することに成功した。
【0035】
また、投与量の削減は長年の必須命題であり、本発明はそれを解決した。内耳で浸透圧効果を発現するには薬剤の大量投与が必要であるとされてきた。そのため、大量に投与しても毒性が少なく、且つ消化管で消化分解されないものとして、糖アルコール類が候補に挙がったが、その投与量は、[0025]で示したとおり、21〜30g、その嵩は粉剤の形では1回量が50〜70ml、液体でも、ほぼ同量で、経口投与量の削減は長年の課題であった。本発明者は多糖類を添加することで嵩を小さくすることに成功した(特許文献2)が、投与量を大幅に削減することで、最も効果的に嵩を小さくすることができた。
【0036】
本発明の本質は、投与量を削減しても治療効果が発現する薬剤を開発したことではなく、投与量を削減することが、確実な治療効果発現には必須であることを発見し、その治療薬を開発したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
糖アルコール類の投与量は、病態によるが成人1日あたり0.15〜0.75g/kg以下、好ましくは0.15〜0.6g/kgであり、より好ましくは0.15〜0.5g/kg、さらに好ましくは0.15〜0.4g/kg、0.15〜0.35g/kgであって、これを1ないし数回、例えば3回に分けて投与する。または、1投与単位あたり3〜15g含有する製剤、好ましくは3〜12g含有する製剤、より好ましくは3〜10g、さらに好ましくは3〜8g、3〜7g含有する製剤を1日3回服用するものとする。
【0038】
以下に、実施例及び参考例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実験計画をたてるに当たり、動物愛護が叫ばれる社会的事情にも配慮し、大量の動物を灌流固定(と殺)することは避けるよう工夫した。なお、糖アルコール類、または糖アルコール類に多糖類を配合したものを投与した動物は、一度のみの利用にとどめた。
【0039】
便の状態(すなわち、固さや形状および腸内の便の間隔)の判定基準は表2に記載のとおりである。
【0040】
【表2】

【0041】
蒸留水を3日間以上投与した群の便の固さ及び性状を「正常便」:評価点3として、表2の1)に示すとおり、「やや軟便」:評価点2、「軟便」:評価点1、「泥状便」:評価点0とした。なお、モルモットの場合は飼料の形状から水様便はない。泥状便はヒトでは水様便に当たり、モルモットの軟便はヒトでは泥状便と軟便を含むものに相当する。
【0042】
開腹による消化器内部の詳細な観察と、体外に排出された便の観察を対比すると、便の固さのみの観察では下痢などの消化器症状は判定できないことが判った。したがって、便の固さに加え、量や形、大きさ、表面の滑らかさ等を評価し、腹部の視診、手指による触診で、腹部の膨満感やガスの発生、ガスの移動、さらに下腹部に圧を加えることで容易に排便するかどうかなど、詳細に検討し、評価した。
【0043】
現在我が国で臨床に用いられている治療薬はイソソルビトール(興和創薬(株)製:一般名イソソルビド)で、表示によるとイソソルビトール含有率は70%の水溶液である。この1回服用量は30mlで、イソソルビトールの含有量は21gである。この溶液はイソソルビトールを安定に溶解させるため、溶解補助剤、安定化剤が添加され、さらに内服しやすい味に整えるため甘味料、香料などが添加されていると思われる。
【実施例1】
【0044】
イソソルビド製剤(以下、IB従来品、〈IB〉ともいう)とIB単味の水溶液の内リンパ容積に対する影響を調べ、比較した。
【0045】
[1−1:IB従来製剤の添加物について]
イソソルビトール21gを蒸留水に溶解させ、安定的に溶解させるためキサンタンガムを必要量添加して、30mlとした。この水溶液の重量を〈IB〉の重量と比較した。
処方1
イソソルビトール 21g
キサンタンガム 0.15g
蒸留水
30ml
【0046】
処方1の水溶液の重量は34.74gで、一方〈IB〉30mlの重量は36.67gであった。添加物の重量は2.08g(約9.9重量%)と判った。糖アルコール類は消化管から吸収され、血中に移行する。その結果血漿浸透圧が上昇し、その上昇にほぼ比例して血漿AVPが上昇する(非特許文献17)。添加物も血漿浸透圧上昇作用を発現するので、必要最小限にするのが望ましいが、果たして〈IB〉は添加物について十分な吟味がなされた上で選択されたものか、また添加量は必要最小限であるかは疑問である。
【0047】
〈IB〉の問題点を詳細に検討し、合わせて添加物が本来の目的である内リンパ水腫減荷効果にどのような影響を与えるのかを調べた。イソソルビトールなど糖アルコール類投与後、胃腸症状は灌流固定の際に、大腸、結腸、直腸の状態を精査し、便の形成状況については、1)便の固さと形2)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態の2点について特に観察し、表2の基準により判定した。
【0048】
灌流固定後、側頭骨を摘出し、トリクロロ酢酸で脱灰、アルコール系列で脱水、パラフィン・セロイジンの2重包埋を行った。薄切により得た蝸牛軸切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で主に正常側(右側)を中心に蝸牛組織の観察、ライスネル膜の長さと内リンパ腔の面積の変化を観察、計測を行った。各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を下記の計算式により積分して、蝸牛毎に膜の伸展率、内リンパ嚢の面積増加率を求めた。正常側の左側では内リンパ腔の容積変化から、内リンパ腔虚脱効果を評価した。組織作成法、計測法、評価法の詳細は非特許文献4(Takeda T et al: Acta Otolaryngol 119: 341-4(1999)と同様である。
【0049】
【数1】

【0050】
【数2】

【0051】
[1−2:イソソルビトール(IB)のみを投与した場合]
モルモット50匹を6群に分け、各群に次に示すように薬物の投与を行った。IBの投与量は実験的内リンパ水腫動物の減荷に有効な量である2.8g/kg(非特許文献13)とした。これは、メニエール病患者に投与される21〜30g/回に相当すると考えられる。水溶液は1回投与量が8ml/kgとなるように調整した。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第1群:対照群 蒸留水 3時間後
第2群:IB2H群 IB2.8g/kg 2時間後
第3群:IB3H群 同 3時間後
第4群:IB4H群 同 4時間後
第5群:IB6H群 同 6時間後
第6群:IB12H群 同 12時間後
【0052】
A)胃腸症状についての検討
結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
便の固さは灌流時点に排出された便と直腸部分の便を観察し、評価した。対照群はすべて正常便であった。IB2H群は直腸付近では正常な便が形成されていたが、次第に軟便に移行していた(便の固さ、配列は各々P<0.01、P<0.001、Mann-Whitney U検定)。大きさは不整、間隔もバラバラで不定になっており、不快な胃腸症状の発現が推定された。3、4、6時間後に下痢は重篤になり(各々P<0.01、P<0.001、P<0.01、Mann-Whitney U検定)、便の配列も不規則になった(いずれもP<0.001、Mann-Whitney U検定)。便の間隔が開いた箇所には、腸管内への穿刺により、ガスの発生が認められた。IB12H群では全動物でほぼ正常な固さの便が形成されていた。
【0055】
以上から、IB投与による下痢及び胃腸症状は2〜4時間で重篤なものとなり、6時間後も継続しているが、12時間後にはおおよそ正常に復することが判った。
【0056】
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
各群の正常側における膜の伸展率(IR-L)、面積増加率(IR-S)の平均±標準偏差を表4に示し、比較検討した。
【0057】
【表4】

【0058】
投与後2時間後には内リンパ水腫が形成され、増加率が約12%を超えるものが8匹中7匹となった(P<0.001、t−検定)。しかし、3時間後には対照群と同等程度のものが3匹、5〜8%の虚脱(容積の減少)が認められるものが3匹、容積増加率が約14%のものが2匹と、内リンパ腔の容積にはバラツキが大きかった。結果として対照群との有意差は認められなかったが、第2群と比較すると容積は有意に減少しており(各々、P<0.01、t−検定)、IBによる減荷効果が発現したと言える。4時間後には内リンパ腔の容積の平均は再び増加するが、対照群と比べ、有意差はなかった。同様の状態が12時間後まで続いた。一方ライスネル膜は2時間目、4時間目で有意に伸張していた(P<0.05)。
【0059】
IB単味を2g/kg(50%水溶液)内服した場合、内服直後から血清浸透圧が上昇し始め、その後40ないし90分後に17〜30mOsm/liter上昇してピークになり、約6〜7時間で元に復する(非特許文献18)。Becker(Becker B:Isosorbide: An oral hyperosmotic agent. Arch. Ophthalmol. 78:147-50.)も同様に、経口投与後1〜2時間後に19〜30mOsm/liter上昇すると報告している。非特許文献17及び表1(非特許文献10)を考え合わせると、明らかな水腫が形成されるに十分な上昇である。一方脳脊髄液(以下、CSF)浸透圧の上昇は3例のみの観察結果であるが、1〜2時間後から上昇し始め4時間後も高い値を保っている(非特許文献18)。
【0060】
表4に示すとおり、経口投与後2時間で内リンパ水腫が形成されたことは、血漿浸透圧と同期して血漿AVPが上昇したためであると考えられる。また、内耳の構造は、血液脳関門に似た関門が存在するが、CFSの浸透圧が投与後2時間目以後に上昇し始めること、及び分子の大きさを考慮すると3時間目以降に内リンパ腔虚脱効果が発現することは当然と言える。
【0061】
[1−3:イソソルビトール(IB)単味を大量投与した場合]
グリセロールが2時間後に正常側の内リンパ腔容積を減少(虚脱)させること(非特許文献5)から、イソソルビトールの投与量が少ないために、十分な減荷効果を発揮していない可能性もあると考えた。そこで、IBの量をグリセロール検査に用いられるグリセロールと等量の8.5g/kg(非特許文献5での投与量)、さらに倍量の17g/kgに増量して、消化器症状と正常側の内リンパ腔の容積変化を観察した。結果を表5、6に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
【表6】


IB*:イソソルビトール8.5g/kg
IB**:イソソルビトール17.0g/kg
【0064】
IBを増量することにより、約半数の動物に軟便、泥状便の重度の下痢の症状が認められ、便の間隔も不整になった(いずれも、P<0.001、Mann-Whitney U検定)。IBの投与量に比例して症状は重篤になった。腸内にガスの貯留も認められた。内リンパ水腫は蒸留水投与群、IB通常量投与群(第3群)と比較して著明になった(P<0.001、t−検定)。血漿浸透圧が上昇した結果であることが推測され、安全性確保のため、投与量の削減が必要であることは歴然であった。
【0065】
[1−4:イソソルビトール従来品を投与した場合]
正常な便をしているモルモット40匹を4群に分け、第10群〜13群には〈IB〉をIBが2.8g/kgとなるように投与し、投与後各々3時間目、4時間目、6時間目(〈IB〉の減荷効果が最大となる投与後6時間後(非特許文献13)、12時間目に灌流固定し、組織を採取して内リンパ減荷効果を観察、評価した。消化器症状は灌流時まで継続して行った。便の固さは灌流時のものである。いずれの群も、1回の投与量は8ml/kgとなるように調製した。
【0066】
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第10群:〈IB〉3H群 イソソルビトール2.8g/kg含有 3時間後
第11群:〈IB〉4H群 同 4時間後
第12群:〈IB〉6H群 同 6時間後
第13群:〈IB〉12H群 同 12時間後
【0067】
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、形状の観察結果を表7に示す。
【0068】
【表7】

【0069】
〈IB〉投与群では2時間後に便が軟化し始め、3〜4時間後(第10、11群)に下痢症状は最悪となり、6時間後(第12群)にはいくらか改善していた。いずれの群も蒸留水を投与した対照群と比べると下痢症状は有意に悪化(P<0.01、Mann-Whitney U検定)し、IB単味の群(第2〜5群)と比べると有意差は認められなかった(Mann-Whitney U検定。第12群(〈IB〉6H群)では、形成された便の長さは60.2±15.8cmであるが、10匹中9匹は便の間隔はバラバラまたは泥状で、約20〜40cmの間隔が開いている箇所も散見され、腸管内にはガスが発生していたことから、かなりの胃腸症状が現れていたものと推測される。対照群と比較すると、第10〜12群で有意差が認められた(いずれもP<0.001、Mann-Whitney U検定)。下痢等の胃腸症状が出現していたことが分かる。この事実は、〈IB〉投与後に患者が時折訴える下痢、膨満感、ゴロゴロ感などの消化器症状と符合する。12時間後には便の固さは正常に戻っていたが、間隔が一定に戻っていたのは10匹中僅か2匹で、第1群と比較し有意差が認められた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。しかし、最も症状が悪化した3時間後と比較すると回復が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。
【0070】
B)内リンパ腔の容積変化
正常側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を表8に示す。
【0071】
【表8】

【0072】
第10群(〈IB〉3時間後)は対照群と有意差はないが、4時間後、6時間後には内リンパ水腫が形成された。第10群はIBのみを投与した第3群と比べると、内リンパ腔の容積は有意に増加していた(P<0.05)。4時間目(第11群)は内リンパ腔容積の増加傾向がさらに明らかになり、対照群と比べ有意差が存在し(対照群に対しP<0.05)、内リンパ水腫が認められた。ライスネル膜は3、4時間目に有意に伸展していた(P<0.05)。
【0073】
[実施例1]の[1−2]で、IBは瀉下作用の小さいため、わずかながら内リンパ腔容積を減少させる傾向を示した。ところが、[1−3]でIBを3倍、6倍に増量すると、瀉下作用が増し、内リンパ腔容積は増加傾向を示した。IBの大量投与により血漿浸透圧、血漿AVPが上昇したためと考えられる。また、IB単味で2.8g/kg投与すると、3時間後には内リンパ腔の容積は減少傾向を示すにもかかわらず、添加物が配合された従来品の〈IB〉では同量投与しても3時間後には容積が増加傾向にあった([実施例1−4])。
【0074】
これらの事実こそが、〈IB〉は下痢が軽度であるにもかかわらず、投与後3時間では虚脱効果が発現しない理由であり、治療効果(内リンパ水腫減荷効果)発現まで6時間(非特許文献13)かかる理由であると思われる。すなわち、過剰な添加剤により糖アルコール単味の場合よりも血漿浸透圧がさらに上昇するため、血漿AVPの上昇も大きく(非特許文献17、18)、結果として糖アルコール類が元来有する内リンパ腔容積の減少効果が最も著しく現れる2〜3時間後にはその効果を相殺して、内リンパ水腫を形成したと考えられる。添加物は浸透圧の上昇を招くが、分子が大きく内リンパ腔虚脱効果を発現しなかったと考えられる。6時間後に容積が減少したが、これは6時間目には血漿浸透圧が元に復する(非特許文献18)ためであろう。血漿浸透圧、血漿AVPが正常範囲に復してから、外リンパ腔に残留する分子の浸透圧作用により、初めて減荷効果を発現すると考えられるのである。
【0075】
これは不必要な、または必要以上の添加物に起因するものであり、不必要な添加物は治療に逆行することが判った。この事実は、[実施例3−2−a]でもさらに検証する。IBは瀉下作用が小さいため、単味でも一定の減荷作用が発現するが、決して優れた減荷作用を有しているとは言えず、製剤化した〈IB〉はIB自体が弱いながらも有する減荷作用を発現させることに成功しているとは決して言えないことが分かった。添加剤は極力削減し、必要最小限にとどめるべきである。
【0076】
IBを大量に投与すると、血漿浸透圧、血漿AVPの上昇はより大きくなるため、明らかな内リンパ水腫を形成した([実施例1−3])。このことから、主薬である糖アルコール類の投与量も極力削減しなくてはならない。
【0077】
発明者はIB以外の糖アルコール類は、止瀉が可能になれば優れた減荷作用を有することを見出した(特許文献2)。これらは優れた甘味を有することから内服しやすく、味を調整するための添加物等も必要としないことから、止瀉のための適切な配合を考えることにより、効果が最大に発現する方法を考案した。
【0078】
[実施例2]〜[実施例8]では、糖アルコール類を様々に変えて、その内リンパ腔の容積(正常側)に与える効果を観察する。
【実施例2】
【0079】
モルモットの左側のみに内リンパ嚢閉鎖術を施行し、「実験的内リンパ水腫モデル動物」を作成した。内リンパ嚢の閉鎖は内リンパ嚢の骨外部分を双極性電気凝固器(bipolar electrocoagulator)で焼却することで行った。内リンパ液の吸収に重要な役割を演じる内リンパ嚢を焼灼することで内リンパ液の吸収障害がもたらされ、実験的内リンパ水腫が形成される。この水腫は進行的に形成され、その大きさは約2週間ないし1ヶ月後にはほぼ一定となって、数ヶ月間持続する。術式の詳細は既報(非特許文献8)と同様である。内リンパ腔容積の計測は正常側の右側、術側の左側ともに行なった。
【0080】
なお、[実施例1]の第1、3、5、10、12群の左側は内リンパ嚢閉鎖術を施行しており、内リンパ水腫減荷効果を観察し、計測を行った。
【0081】
内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連(〔実施例1−2−C〕、〔実施例1−4−C〕)の結果を、表9、表10に示す。
【0082】
【表9】


IB単味投与の場合(〔実施例1−2−C〕)
【0083】
【表10】


IB従来製剤投与の場合(〔実施例1−4−C〕)
【0084】
正常側から推測できたことではあったが、IB単味、〈IB〉双方とも、3時間後には有意な減荷効果は認められず、6時間後に減荷効果が認められた。
【0085】
IB2.8g/kgにペクチン(Pec)を0.3g/kg添加し、経口投与して消化器症状を観察し、決められた時間経過後に灌流固定して、内リンパ水腫減荷効果を観察した(IB+P*群)。さらに、投与量をIB、Pec共に半量にして観察した(IB+P**群)。結果を以下の表11、12、13と術側の測定結果を図1、2、3に示す。
【0086】
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第14群:IB+P*3H群 イソソルビトール2.8g/kg含有 3時間後
第15群:IB+P*6H群 同 6時間後
第16群:IB+P**3H群 同 3時間後
第17群:IB+P**6H群 同 6時間後
【0087】
A)胃腸症状についての検討
結果を表11に示す。
【0088】
【表11】

【0089】
Pecを添加することで、投与量の多少に関わらず、3時間後、6時間後には止瀉効果が認められた(いずれも、P<0.05、P<0.01)。便の排列も6時間後には改善が認められた(いずれも、P<0.05、P<0.01)。
【0090】
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
各群の正常側における膜の伸展率(IR-L)、面積増加率(IR-S)の平均±標準偏差を表12に示し、比較検討した。
【0091】
【表12】

【0092】
正常側には、いずれの群も軽度の虚脱が認められるが、投与量を半減した16群では虚脱は認められなかった。また、全ての群で明らかな水腫が認められた例はなく、IB従来品と比較し、安全であることが確認された。
【0093】
C)内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
結果を、表13、図1、図2、図3に示す。
【0094】
【表13】

【0095】
閉鎖術による実験的水腫の形成程度は数%から百数十%とバラツキが大きく、膜の伸展率、面積増加率の平均±標準偏差を比較することでは、IBの減荷効果、その経時変化などを検討することには困難がある。図1、2、3は横軸に膜の伸展率、縦軸に面積増加率をとり、各動物群毎に術側の2変数の散布図と回帰直線を示したものである。内リンパ水腫が生ずると、内リンパ腔の体積が増加し、ライスネル膜が伸展する。図1から、蒸留水を投与した対照群術側では、この両者の間に統計学的に1次相関が存在すると推計される。薬剤投与により水腫の減荷が起こると、膜が伸展しているにもかかわらず、内リンパ腔の面積増加が少なくなり、回帰直線が下方に移動することになる。図1はIB+Pecの経時的変化(第14,15群)を比較するためのもので、図2、3はIB+Pの通常量投与群とIB+Pecを半減して投与した群を、各々3時間後(第14,16群)、6時間後(第15,17群)に分けて、減荷効果の経時的変化を観察し、比較したものである。
【0096】
Pecを添加した群の術側においては、投与後3時間目には減荷効果が認められ、6時間後も継続していた。有意差は表13に示すとおりで、投与量を半減しても、十分な減荷効果が認められた。又、各々対応するIB単味の群と比較すると、有意に減荷作用が優れていた。IBの投与量を削減しても効果に差は殆どないが、これは、投与量を削減することで、瀉下作用、利尿作用が減弱し、血漿浸透圧の上昇を阻止できた成果であると考えられる。
【0097】
D)全身状態への影響の検討
対象と方法)体重280〜320mgのモルモットで、正常な便をしている16匹を、4グループに分け、第1グループ(5匹)には生理食塩水のみ、第2グループにはIB半量、第3グループにはIB2.8g/kg+Pec0.3g/kg、第4グループにはIB+P**(IB1.4g/kg+Pec0.15g/kg)を投与した。投与後、3時間でギロチンを用いて断頭、採血し、明細書中の非特許文献8に記載された方法で、血漿AVPと血漿浸透圧を測定した。投与薬剤と検査結果を表14に示す。参考に実施例3のEry単味を投与した群の血漿AVPと血漿浸透圧を示した。水溶液の1回の投与量は8ml/kgとなるように調整した。
【0098】
【表14】

【0099】
投与量と下痢、血漿AVP値の検討をおこなった。IB単味を2.8g/kg投与した群では血漿浸透圧は30〜40mOsm、血漿AVPは10〜12pg/ml上昇した(いずれも、P<0.05、t−検定)。Pecを添加した群(第14群)では下痢症状は現れず、血漿浸透圧は15〜40mOsm、血漿AVPは1.5〜4pg/ml上昇し、血漿AVPの上昇はわずかであった(IB単味の群との有意差はP<0.05、t−検定)。IB、Pecともに半量にするとさらに便の性状は好ましいものとなり、血漿浸透圧は12〜15mOsm上昇したが、血漿AVP上昇は認められなかった(蒸留水投与群とは有意差なし。IB単味の群との有意差はP<0.05、t−検定)。
【0100】
血漿浸透圧の測定結果は、上記の非特許文献18と一致する。[0059]に記したとおり、非特許文献18は、IB単味を2g/kg(50%水溶液)内服した場合、内服後から40ないし90分後に17〜30mOsm/liter上昇すると報告している。また、Beckerも同様に、経口投与後1〜2時間後に19〜30mOsm/liter上昇すると報告している。非特許文献17及び表1(非特許文献10)を考え合わせると、明らかな水腫が形成されるに十分な上昇である。止瀉を図り、且つ投与量を半減することで、水腫形成も阻止できると考えられる。
【0101】
実施例3のEry単味の群では全動物が泥状便となり、血漿浸透圧、血漿AVPは非常に高値をとる(後述の表19)。表14に示したとおり、IBにPecを添加した第14群、第15群、さらに半量投与した第16群、第17群では血漿浸透圧、血漿AVPは、上記のとおり有意に低い値をとる。正常側にはさほど水腫や虚脱を生じず、安全であり、術側には減荷効果を発揮することと整合性があり、好ましい治療薬であると結論できる。
【実施例3】
【0102】
糖アルコール類として4単糖アルコールであるエリスリトールを選び、消化器症状と併せて、内リンパ腔の容積に与える効果、全身状態に与える危険性についても観察し、評価した。
【0103】
[実施例3]は、3グループに分かれる。実施例3−1、50匹、実施例3―2−a、20匹、実施例3−2−b、50匹の3グループに分け、実施例3−1では、Eryのみを投与し、投与後の便、消化器症状の変化と内耳及び内リンパ腔の容積を調べ、特許文献2の術側の結果と比較検討した。実施例3−2−aでは、Eryに多糖類としてペクチン(Pec)を添加した薬剤を経口投与し、同様の観察を行って、内リンパ腔虚脱効果を発現する量を調べ、血漿浸透圧及び血漿AVPと虚脱効果には、特許文献2の結果と共通する相関関係かあることを見出した。実施例3−2−bではその効果の経時的変化、さらに虚脱が生じることは好ましくないため、Ery、Pec共に投与量を2分の1〜4分の1に減量して、その効果を観察し、虚脱が小さくなることを見出した。術側にも確実な内リンパ水腫減荷効果が発現していることを確認した。
【0104】
[3−1:エリスリトール(Ery)単味を投与した場合]
モルモット60匹を各群10匹ずつ6群に分け、各群に次に示すように薬物の投与を行った。Ery水溶液は1回投与量が8ml/kgとなるように調整した。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第 1群:対照群 蒸留水8ml/kg 3時間後
第18群:E1H群 Ery2.8g/kg 1時間後
第19群:E2H群 同 2時間後
第20群:E3H群 同 3時間後
第21群:E6H群 同 6時間後
第22群:E12H群 同 12時間後
【0105】
A)胃腸症状についての検討
結果を表15に示す。
【0106】
【表15】

【0107】
ア)便の固さの判定
便の固さは灌流時点に排出された便と直腸部分の便を観察し、評価した。対照群はすべて正常便であった。E1H,E2H群は直腸付近では正常な便が形成されていたが、次第に軟便に移行していた。E3H,E6H群はすべて泥状便であった。E6H群の5匹中1匹は泥状便にわずかな軽回が認められたが、形は形成されていなかった。E12H群では全動物でほぼ正常な固さの便が形成されていた。
【0108】
イ)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態
対照群では55.0±8.8cmで、便の大きさは一定で、その間隔も一定であったが、E1H群では一部軟便で、大きさは不整、間隔もバラバラになっているなど不定になっており、不快な胃腸症状の発現が推定された。便の形成された長さは22.8±6.9cmであった。E2H〜E6H群では一部軟便に近い部分もあったが、腸内はほぼ泥状便で満たされており、便の形成は0cmであった。投与後12時間のE12H群では、ほぼ一定の形をした便が66.0±12.1cm形成されていた。便の間隔は対照群では通常約0.7〜1cmでほぼ一定であるところ、E12H群の一部の動物では8〜10cmの箇所もあり、不定で、便の間隔が開いた箇所には、腸管内への穿刺により、ガスの発生が認められた。
【0109】
以上から、Ery投与による下痢は2〜3時間で重篤なものとなり、6時間後も継続しているが、12時間後にはおおよそ正常に復することが判った。
【0110】
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
特許文献2に示したとおり、術側においてはEryは単味では全く減荷作用を示さなかった。表16に正常側の膜の伸展率(IR-L)、面積増加率(IR-S)の平均±標準偏差を示し、比較検討した。灌流固定後の脱灰、脱水、包埋、染色、光学顕微鏡での観察、計測は実施例1と同様に行った。
【0111】
【表16】

【0112】
Ery投与後1時間目にはライスネル膜が伸展し、2時間目には明らかな内リンパ水腫が形成されて、6時間後まで継続しており、対照群と比し、有意差が存在した(各々P<0.01、P<0.05、P<0.01,t−検定)。12時間後には水腫が存在する動物もいたが、正常に復したものもあり、有意差は認められなかった。
【0113】
糖アルコール類投与により期待された減荷効果は、単味で投与した場合には術側には認められず(特許文献2)、正常側には内リンパ水腫が形成されたことが判った。その理由としては、瀉下効果に随伴する脱水による、血漿AVPの上昇(非特許文献11)、血漿浸透圧の上昇に伴う血漿AVPの上昇(非特許文献17、18)が考えられる。
【0114】
[3−2:エリスリトール(Ery)にペクチン(P)を添加し投与した場合]
モルモット20匹を各群10匹ずつ2群に分け、各群に次に示すように薬物投与を行い、一定時間経過後に灌流固定した。
【0115】
[3−2−a:ペクチン(P)の添加量による効果の違いを観察する]
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第23群:E+P0.1g群 Ery2.8g/kg+P0.1g/kg 3時間後
第24群:E+P3H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 3時間後
灌流固定の際、大腸、結腸、直腸の状態、特に便の形成状況を観察した。
【0116】
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、間隔の判定と便の形成された長さは上記の2グループに分けて観察した。そ
の結果を表17に示す。
【0117】
【表17】

【0118】
実施例3−1のE3H群(Pecを添加せずEryのみ投与、3時間後)は10匹すべてが泥状便であったが、第23群(E+P0.1g群:Pec0.1g/kg添加)では10匹中、泥状便の動物が5匹、軟便の動物が3匹で、肛門から2〜3cm程度の便の形がみられた。残りの2匹はやや軟便で、23cm、42cmの便が形成されていたが、その間隔は不定で、間隔が10cm以上開いているところもあった。10匹の平均は7.3±13.3cmであった。第24群(E+P3H群:Pec0.5g/kg添加)では3匹が泥状便、他の7匹のうち軟便、やや軟便が各1匹、3匹は正常な固さで止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。しかし、これら7匹の便の間隔はいずれも不定であった。形成された便の長さの平均(10匹)は19.2±21.7であった。
【0119】
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
術側にはPecを0.5g/kg添加することでEryの減荷効果が発現することを確認した(特許文献2)。そこで、次に正常側において、Pecの添加量の差による内リンパ腔の容積の変化の違いを検討するため、各群の膜の伸展率、面積変化率の平均と標準偏差を比較検討した。結果は表18に示す。
【0120】
【表18】

【0121】
第23群(Pec0.1g/kg添加、約3.6重量%添加)は内リンパ水腫を形成していた(対照群と比較し有意差が認められた。P<0.05)が、Pecを0.5g/kg添加した第24群は内リンパ腔の容積は減少(虚脱)した(対照群に対し、P<0.05。Ery単味の第20群に対し、P<0.01,t−検定)。
【0122】
多糖類のペクチンの添加量は0.1g/kgでは、十分な止瀉を図れず、内リンパ水腫減荷効果は発現しなかった(特許文献2)。正常側では内リンパ水腫を形成した(P<0.01、t−検定)。Pecを0.5g/kg添加すると、8耳中3耳の内リンパ腔容積が約10%増加し、水腫を形成したが、その他は、5耳が5〜10%減少した。15%減少した例も2耳あり、バラツキが大きかったが、虚脱を起こす傾向が認められ(P<0.01、t−検定)、投与量の削減が望ましいと思われた。そこで、投与量を半量にしたところ、十分な効果を得た([3−3−b])。
【0123】
C)全身状態への影響の検討
対象と方法)体重280〜320mgのモルモットで、正常な便をしている20匹を、4グループに分け、第1グループには生理食塩水のみ、第2グループにはEry単味、第3グループにはEry+Pec0.1g/kg、第4グループにはEry+Pec0.5g/kgを投与した。投与後、3時間でギロチンを用いて断頭、採血し、明細書中の非特許文献8に記載された方法で、血中AVPを測定した。投与薬剤と検査結果を表19に示す。Ery投与量はいずれも2.8g/kgで、水溶液の1回の投与量は8ml/kgとなるように調整した。
【0124】
【表19】

【0125】
ア)下痢と血漿AVP値の検討
多糖類を糖アルコールに対し約3.6重量%配合(Pec0.1g/kg)した場合は、重度の下痢症状が発現し(表17)、血漿AVPが高値をとる(表19)が、一方、17.9重量%配合(Pec0.5g/kg)した場合は、5匹中3匹は便は正常で、血漿AVPも低下する(表19)。非特許文献10、表1に示したとおり、血漿AVPの値と内リンパ容積の増加率は比例する。表19(血漿AVPの値)と、先の表19に示す組織学検討結果、すなわち、Ery単味の群は血漿AVPが高値をとり、内リンパ水腫を形成したという事実は、非特許文献10、表1と整合性がある。
【0126】
Pec0.5g/kgでは血漿AVPが比較的低く、糖アルコールの浸透圧効果が発現し、虚脱現象が認められたものと考えられる。多糖類の添加量が少ない場合には下痢が生じ、脱水が続発するが、十分な添加により内リンパ腔の容積減荷効果が認められた。
【0127】
血漿浸透圧は特殊な要因がなければ、投与薬剤のモル数に比例して上昇する。Ery単味の群では浸透圧は58mOsm/liter、Pecを0.1g/kg添加した群では45mOsm/liter上昇したが、0.5g/kg添加した群では37mOsm/literの上昇でとどまっている。Pecの添加が不十分な場合の浸透圧上昇は激しい下痢による脱水に起因するものである。しかしながら治療に必要な量のEryとPecの投与により血漿浸透圧が大きく上昇することも分かった。したがって、添加物も含め薬剤の投与量の削減は、治療効果発現のための重要な課題である。
【0128】
[3−2−b:ペクチン(P)を0.5g/kg添加し、投与後の経時的変化を観察、さらにEry、Pec共に投与量を1/2、1/4に減量して効果を観察する]第3−2−aグループの結果から、Pecを0.5g/kg添加することで、脱水状態に陥るおそれもなく、安全に確実な内リンパ水腫減荷効果の発現が期待できることが判った(特許文献2)ので、次にモルモット50匹を各群10匹ずつ5群に分け、次に示すように薬物投与を行い、消化器症状を観察して、一定時間経過後に灌流固定した。第27〜29群は、EryとPecの混和懸濁液を2〜4倍に希釈し、EryとPecの投与量を2分の1、4分の1に減量した。なお、第25、26群の左側は内リンパ嚢閉鎖術を施行している。薬剤の1回投与量は全群とも8ml/kgである。
【0129】
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第25群:E+P6H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 6時間後
第26群:E+P12H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 12時間後
第27群:E+P/2・3H群 Ery1.4g/kg+P0.25g/kg 3時間後
第28群:E+P/2・6H群 Ery1.4g/kg+P0.25g/kg 6時間後
第29群:E+P/4・3H群 Ery0.7g/kg+P0.125g/kg 3時間後
【0130】
A)胃腸症状についての検討
結果を表20に示す。
【0131】
【表20】

【0132】
3−2−aの第24群(3時間後)では泥状便は3匹、投与後6時間で灌流した第25群では、1匹が泥状便、2匹が軟便で下痢症状が軽回した。実施例3−1のEryのみの第20群(3時間後)では、10匹とも泥状便、第21群(6時間後)では7匹が泥状便であることからすると、下痢の防止効果は顕著である(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。6時間後の第25群は3時間後の第24群と比較すると有意差はなかった(Mann-Whitney U検定)が、形成された便の長さは30.8±23.6cm(10匹の平均)で明らかな回復が認められた。第26群(12時間後)では全動物が正常便であった。注目すべきは便の間隔が10匹中9匹で一定であることで、Eryのみの第22群(E12H群:12時間後)と比べ、有意に胃腸症状の改善が認められた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。
【0133】
EryとPecの量を2分の1または4分の1にすると、Eryの瀉下作用はさらに軽くなり、消化管内の便の配列も規則的で、自覚症状も軽いものと推測された。Eryのみの群(20群、21群)と比較すると、いずれも有意な改善が見られた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。EryとPecを通常量投与した24群、25群と比較すると、2分の1に減量した27群、28群には明らかな有意差は認められず、4分の1に減量した29群と24群との間には認められた(便の形成した長さ、固さ、間隔、各々P<0.001、P<0.05、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。
【0134】
Pecを添加することで、3時間後、6時間後の結果が示すとおり、腸内のガスも認められず、ガス発生も抑制されて、不快な胃腸症状を極力抑えることができ、かつ早期に正常に復していたことが12時間後(第22群)の結果からも確認できた。
【0135】
EryとPecを2分の1または4分の1に減ずると、通常量を投与した場合と比較して、下痢症状はさらに軽回した。特に第27群、第28群、第29群で、便が形成されており、便の配列が規則的になる傾向が認められたことから、消化器症状が著明に改善したことが推測された。
【0136】
B)内リンパ腔の容積変化:正常側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
表21に各群の伸展率と面積増加率の平均と標準偏差を示す。
【0137】
【表21】

【0138】
3−2−aに示したとおり、第24群(3時間後)は対照群(蒸留水)、E3H群(Eryのみ)と比べ容積が有意に減少、すなわち虚脱が生じていた(各々P<0.05、P<0.01,t−検定)。さらに第25群(6時間後)も対照群、E3H群と比較し、有意に虚脱している(各々P<0.01、P<0.001,t−検定)。第26群(12時間後)は対照群、E3H群と比較し有意差が認められなかった。以上から、投与後3時間で虚脱が明らかとなり、6時間後にも継続していたが、12時間後にはほぼ正常に復していたことが判った。
【0139】
Eryの瀉下作用は投与後3時間をピークに、6時間後には軽回する。したがって下痢による脱水で血漿AVPは3時間後には上昇し、6時間後には下がるものと考えられる。さらに、血漿浸透圧も考慮しなくてはならない。血漿浸透圧は内服直後から上昇し始め、その後40ないし90分後にピークになり、約6〜7時間で元に復する(非特許文献18)。それに伴い血漿AVPも同期して変動する。
【0140】
一方作用発現に必要な内耳の浸透圧は、1〜2時間後から上昇し始め4時間後も高い値を保っていると思われる。その間は、血漿AVPが上昇し、下痢による脱水による上昇と相まって、Eryの減荷作用を相殺するものと考えられる(第19〜22群、後述の第20L、21L群)。
【0141】
EryとPecの量を2分の1または4分の1にすると、同様に内リンパの虚脱が生じる。第20〜22群の蒸留水投与群、Eryのみの投与群と比較し、有意差が認められた(P<0.001,t−検定)。EryとPecの通常量投与した群と比べ、有意差は認められないが、Ery投与量が少ないにもかかわらず、同等の虚脱作用が発現した。その理由は、Eryの瀉下作用は殆ど認められなくなること、さらに投与量が少ないことから血漿浸透圧の上昇が僅かで済むことで、減荷作用発現に好ましいと考えられる。
【0142】
C)内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
結果を、表22、図4に示す。
【0143】
【表22】

【0144】
第27L群(1/2に減量、3時間後)は対照群、Ery単味のE3H群と比べ、有意に減荷効果が認められた(いずれもP<0.001、ANCOVA)。第28群(1/2、6時間後)も対照群、E6H群と比べ有意差が存在し(いずれもP<0.001、ANCOVA)、依然として減荷効果が認められた。さらに、EryとPecを通常量の投与した第24L群、第25L群と比較すると、これらの間には有意差は認められなかった(ANCOVA)。このことから投与量を2分の1に減量しても、通常量投与した場合と同等の、強力な減荷効果を発現し、約6時間継続することが判った。また、第27群と第28群の間には有意差(P<0.001、ANCOVA)が存在することから、減荷効果は持続しているものの、次第に減弱していることか判る。この結果は3−2−bの正常側の結果から予想されるものであった。
【実施例4】
【0145】
IBにアルジネートナトリウム(Al)を添加し投与して、様々な添加物が配合されている従来品の〈IB〉と比較を行なった。
【0146】
正常な便をしているモルモット30匹を3群に分け、第30、31群には、アルジネートナトリウム0.11g/kg、無機塩0.09g/kgを添加して調整したゲル製剤(イソソルビトール2.8g/kg)の投与を行ない、投与後3時間目と6時間目(〈IB〉の減荷効果が最大となる投与後6時間後(非特許文献13))に灌流固定した(以下、IB+Al*群ともいう)。第32群にはAlを0.3g/kgを添加し、3時間後に灌流固定して(以下、IB+Al**群ともいう)、各々の組織を採取して内リンパ容積変化を観察、評価した。消化器症状は灌流時まで継続して行った。便の固さは灌流時のものである。いずれの群も、1回の投与量は4ml/kgとなるように調製した。組織作成などの手順、及び計測は、非特許文献4と同様の方法で行なった。
【0147】
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第30群:IB+Al*群 IB2.8g/kg+Al+無機塩 3時間後
第31群:IB+Al*群 同 6時間後
第32群:IB+Al**群 IB2.8g/kg+Al0.3g/kg 3時間後
【0148】
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、形状の観察結果を表23に示す。
【0149】
【表23】

【0150】
IB単味の群、〈IB〉投与群では約半数の動物が軟便または泥状便となり、ガスの発生など消化器症状が発現した。それに対し、IB+Al*群は3時間後(第23群)の便の固さは、やや軟便がわずかに2匹で、他の8匹は正常便で、便の間隔も不整、バラバラなものは〈IB〉と比べ少なかった事から、〈IB〉(第10群)と比べ、止瀉作用が有意に優れ(P<0.05)、消化器症状も軽かったことが推測される(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。6時間後(第31群)には全ての動物が正常な固さの便で、その間隔は6匹が一定であり、消化器症状は〈IB〉(第12群)と比べ有意に軽かったことが分かった(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。
【0151】
IB+Al**群は3時間後(第32群)の便の固さは、やや軟便が7匹中わずかに1匹で、便の間隔も不整、バラバラなものは〈IB〉と比べ少なかった(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。IB+Al*群(第30群)と比較し、Alの添加量は多いが、有意差は認められなかった(Mann-Whitney U検定)。
【0152】
B)内リンパ腔の容積変化:正常側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を表24に示す。
【0153】
【表24】

【0154】
第10群、第11群、第12群(各々〈IB〉3、4、6時間後)は対照群と比較すると、容積が増加する傾向があり、特に第11群(4時間後)は有意差が存在した([実施例1−4])。しかし、Alを0.11g/kg添加した第30群、第31群は、容積が減少する傾向が現れた。対照群とは有意差が存在し(P<0.05、t−検定)、軽度ではあるが虚脱が認められた。投与後3時間目の第25群はIB単味の第3群と比べ有意差は認められなかったが、〈IB〉の第7群と比べると明らかに容積か減少していた(P<0.01,t−検定)。6時間目の31群はIB単味の第5群、〈IB〉の第12群と比較し有意差が存在した(各々P<0.01、P<0.01、t−検定)。Alを0.3g/kg添加した第32群では、容積はさらに減少した。対照群とは有意差が存在し(P<0.05、t−検定)、虚脱が認められた(対照群と比べP<0.01、IB単味の第5群、〈IB〉の第12群と比べ、いずれもP<0.001、t−検定)。しかしIB+Al*群(第31群)の間には有意差はなかった(t−検定)。
【0155】
これらの事実から、IB+Al*群の虚脱(減荷)効果は、投与後3時間で確実に出現し(P<0.05,t−検定)、6時間が経過しても効果は持続していた(P<0.05,t−検定)。従来品の〈IB〉と比較しても投与後3時間における効果が有意に大きく(P<0.01,t−検定)、作用の発現が迅速であることが分かった。IB+Al**群は、さらに減荷作用は強い傾向があったが、IB+Al*群を比べ、有意差はなかった。
【0156】
6時間後では有意差はないが、従来品と比べ容積は減少しており、便の性状と消化管内のガスの発生状況から、瀉下作用を含め、胃腸症状の改善に成功したことが明らかであるので、より少ない量で消化器官に負担をかけることなく、十分な効果が期待できることが予想される。また、添加物の量は〈IB〉の約4分の3であることも比較的良好な減荷効果が発現した要因であろう。しかしながら、Eryと比較するとIBの減荷効果は小さいことが判った。
【0157】
C)内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
結果を、表25に示す。
【0158】
【表25】

【0159】
第30L群(3時間後)は対照群、IB従来品投与後3時間目の第10L群と比べ、有意に減荷効果が認められた(いずれもP<0.001、ANCOVA)。第31群(6時間後)も対照群、〈IB〉6H群と比べ有意差が存在し(いずれもP<0.01、ANCOVA)、依然として減荷効果が認められた。
【実施例5】
【0160】
糖アルコール類としてグリセロールを選び、多糖類としてカルボキシメチルセルロースナトリウムと組み合わせて、内リンパ腔の容積に与える効果を観察した。非特許文献4ではグリセロールをグリセロールテストを行う場合の投与量(非特許文献1、2)である12ml/kg投与し、経時的変化を観察した。結果は表26に示すとおりである。
【0161】
【表26】

【0162】
グリセロールを投与すると、分子径が小さいため、2時間後には外リンパ腔に達し、外リンパ圧が上昇することから、浸透圧効果により内リンパ腔は有意に虚脱(減荷)した(対照群と比し、P<0.001、Mann-Whitney U検定)。その後グリセロール分子はライスネル膜を通過し、内リンパ腔に入るため、内リンパ圧が上昇してリバウンド現象が発現すると考えられている(非特許文献5、上記段落[0015])。
【0163】
〔グリセロール(Gly)とカルボキシメチルセルロース(CMC)〕
上記のGlyの量は検査に用いる量である。そこで、Glyを約3分の1に減じ、経時的変化を観察した。モルモット12匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、3時間経過後に灌流固定した。止瀉効果の結果を表27、組織学的検討結果を表28に示す。
【0164】
【表27】

【0165】
CMCを添加(10重量%)により、止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)
【0166】
【表28】

【0167】
多糖類としてCMCを投与した群では、グリセロール単味の群と比較し、有意に内リンパ腔の虚脱が認められた(P<0.001、t−検定)。なお、術側ではCMCを投与した群では、Gly単味の群と比較し、有意差が認められた(P<0.01、ANCOVA、特許文献3)。
【実施例6】
【0168】
〔キシリトール(XL)とキサンタンガム(XG)〕
モルモット12匹を6匹ずつ2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、3時間経過後に灌流固定した。止瀉効果の評価結果を表29、組織学的検討結果を表30に示す。
【0169】
【表29】

【0170】
XG添加(7.1重量%)により、止瀉効果が認められた(P<0.05、Mann-Whitney U検定)
【0171】
【表30】

【0172】
多糖類として、XGを添加した群では、XL単味の群と比較し、内リンパ腔の容積の減少が認められた(P<0.01、t−検定)。なお、術側ではXL単味の群と比較し、明らかな内リンパ水腫減荷効果が認められた(P<0.01、ANCOVA、特許文献3)。
【実施例7】
【0173】
[キシロース(XS)とキサンタンガム(XG)〕
モルモット12匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、3時間間経過後に灌流固定した。これらの結果のうち、止瀉効果の結果を表31、組織学的検討結果を表32に示す。
【0174】
【表31】

【0175】
XGを添加(7.1重量%)により、止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。3時間目には手指により、下腹部に圧を加えても排便しにくくなった。便の配列は一定ではなかったが、2〜3cmの間隔が空いている程度で、ガスの発生は顕著ではなかった。
【0176】
【表32】

【0177】
多糖類として、XGを添加した群では、XS単味の群と比較し、著明な虚脱(減荷)が認められた(P<0.001,t−検定)。第23群が著明な減荷効果を現わしたことは、XSの消化管からの独特な吸収過程によるものとも考えられるが、吸収過程に関しては異論もあり、今後の検討課題である。なお、術側ではXS単味の群と比較し、著明な減荷効果が認められた(P<0.001、特許文献3)。
【実施例8】
【0178】
[イソソルビトール(IB)と寒天〕
モルモット7匹に、次に示すように薬物投与を行い、3時間経過後に灌流固定した。止瀉効果の結果を表33、組織学的検討結果を表34に示す。
【0179】
【表33】

【0180】
寒天を添加(10.7重量%)することにより、止瀉効果が認められた(P<0.05、Mann-Whitney U検定)
【0181】
【表34】

【0182】
寒天の添加によりIB単味、〈IB〉と比較し、内リンパ腔の容積減少(虚脱)に有意差は認められなかった(Mann-Whitney U検定)。なお、術側ではIB単味の群と比べ明らかな内リンパ水腫減荷効果が認められた(P<0.01、ANCOVA、特許文献3)。さらに、〈IB〉群と比べても明らかな内リンパ水腫減荷効果が認められた(P<0.01、ANCOVA)。
【0183】
〔参考例:多糖類の止瀉作用について〕
多糖類としては、キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ペクチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、カラギーナンなどが挙げられる。また分子量の大きい多糖類(キサンタンガムなど)の方が少量で強力な止瀉作用を示す傾向が認められた。摂取量が少なくて済むため、摂取が容易で不都合が少ない。
【0184】
キサンタンガムに代表されるグループには、他にグァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガムなどがあるが、これらは粘度の高いものほど止瀉作用が高い傾向が認められた。しかし、摂取して3〜5時間に便の量が約2分の1〜3分の1に減少し、形態も不整で大きさも小さくなる傾向があり、視診で腹部の膨満感、触診でガスの発生が認められ、ゴロゴロ感があることが推測された。このグループから2種以上を組み合わせると飛躍的に粘度が増すため、止瀉作用も向上した。この現象を利用し、複数種組み合わせることで、より少ない配合量で、十分な止瀉効果を発現させること、同時に、排便が減るという副作用を軽減することが可能となることを見出した。
【0185】
ペクチンは比較的大量に添加しなくては十分な止瀉作用を現わさなかったが、整腸作用に優れており、便の量は何も投与されていない動物と同程度で、形態や性状も同じであった。大量に添加すると、便の表面はより滑らかになり、排便は容易で腹部の膨満感などの症状も認められなかった。ペクチンに代表されるグループには、アルジネートナトリウム、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カラギーナンなどがあり、粘度が高いものほど止瀉作用が強い傾向があった。
【0186】
必要に応じてこれらの多糖類を1種または2種以上を添加して止瀉を図るが、2種以上組み合わせる場合、上記2つのグループから適宜選択して組み合わせ、添加することにより、止瀉と同時に整腸作用をはかることが可能になることを見出した。また、同じグループの中から複数種組み合わせる等、様々の組み合わせが可能で、添加量を少なくしつつ、場合によっては流れをよくすることもできることから、摂取しやすくするなどの優れた性質を新たに発揮させ、それを生かしつつ、同時に胃腸症状の軽減又は消失を目指すことが可能であることも判った。
【0187】
多糖類の配合量は、糖アルコール類に対し1〜30重量%、2〜20重量%、3〜20重量%であり、また上限値を15重量%、10重量%、5重量%として、1〜15重量%、2〜10重量%などとすることもできる。多糖類の配合量が上記範囲を外れると瀉下効果が十分に達成され難い場合も生じる。
【0188】
〔参考例1〕
下痢をすれば血漿AVPが上昇し(非特許文献11)、血漿AVPが上昇すると内リンパ水腫を形成することは、非特許文献10で示したとおりであるが、実施例3の3−2−aグループの結果から、先の段落[0119]〜[0122]で述べたように、止瀉に成功すれば血漿AVPの上昇はわずかで、内リンパ減荷効果が確実に発現することが確認された。これらのことを踏まえれば、止瀉効果が図ることができれば、内リンパ水腫減荷効果は発現することは明らかである。
【0189】
糖アルコール類と多糖類の組み合わせをさらに換えて止瀉に成功するかどうかを調べた。糖アルコール類として、エリスリトール、ソルビトール、イソソルビトール、マンニトールに、多糖類として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、グァーガム、アラビアガムを任意に組み合わせた。
【0190】
〔1−1: マンニトールとカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット8匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察した。結果を表35に示す。
【0191】
【表35】

【0192】
マンニトールによる下痢は、約7.1重量%のCMCの添加により、有意に軽回した(P<0.05、Mann-Whitney U検定)。腹部の膨満感、ガスの発生は殆ど認められなかった。
【0193】
〔1−2: ソルビトールとグァーガム(Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表36に示した。
【0194】
【表36】

【0195】
グァーガムを10重量%添加して、2匹が正常便、2匹がやや軟便となり、ソルビトールによる下痢を止瀉することにほぼ成功した(P<0.05、Mann-Whitney U検定)。しかし、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部に軽度の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れた。下腹部を圧迫すると、形が不整で、通常の2分の1以下の小さい便が少しずつ排泄された。
【0196】
〔1−3: エリスリトールとアラビアガム(Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表37に示し、E3H群と比較検討した。
【0197】
【表37】

【0198】
アラビアガムを20重量%添加しても、エリスリトールによる下痢を止瀉することは出来なかった(有意差なし)。40重量%添加すると、下痢はいくらか軽回した(P<0.01、Mann-Whitney U検定)が、より確実な止瀉が望まれるところである。両群とも、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れたが、泥状便がわずかに排泄されるだけで、不快な状態が推測された。
【0199】
〔1−4: エリスリトールとグァーガム(Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット15匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表38に示し、E3H群と比較検討した。
【0200】
【表38】

【0201】
グァーガムを5重量%、10重量%添加してもエリスリトールによる下痢を止瀉することは出来なかった。20重量%添加して、2匹が正常便、2匹がやや軟便でほぼ止瀉に成功した(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。しかし、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れた。下腹部を圧迫すると、形が不整で、通常の2分の1以下の小さい便が少しずつ排泄されるだけで、不快な状態が推測された。
【0202】
〔1−5: イソソルビトール(IB)とカラギーナン〕
正常な便をしているモルモット7匹に、10.7重量%のカラギーナンを添加したIB水溶液(8ml/kg)を投与し、その後6時間、便を観察した。結果を表39に示す。
【0203】
【表39】

【0204】
IBによる下痢症状は約10.7重量%のカラギーナンを添加することによって改善した。イソソルビトールは単味でも瀉下作用が他の糖アルコール類ほど強くないが、カラギーナン添加により、泥状便、軟便が認められなかったことは有効であったと考えられる。視診触診により、腹部の膨満は認められず、消化器症状は軽かったものと推定された。
【0205】
多糖類にはイ)キサンタンガム(XG)に代表されるように止瀉効果に優れたものと、ロ)ペクチン(Pec)に代表される整腸作用に優れたものがある。
【0206】
〔イ)XGに代表されるグループ〕について
キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガムなどがこのグループに属する。止瀉作用は、キサンタンガムが最も強く、アラビアガムが緩やかで、懸濁液の粘度が高くなると一般に止瀉作用も強力になった。一方で、摂取後3〜5時間後には便の量が減少する傾向がある。
【0207】
〔ロ)ペクチン(Pec)に代表されるグループ〕について
ペクチン、アルジネートナトリウム、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、ヒドロキシプロピルセルロースなどがある。Pecはじめ、このグループの多糖類は整腸作用が優れているが、止瀉に比較的大量を要するため、添加量が多くなる欠点がある。しかし、大量を添加しても、便の表面は滑らかで排泄量も通常かそれ以上で、排便に障害はなく、視診、触診でも腹部の膨満感、ゴロゴロ感が生じず、動物も苦しがる様子がなかった。Pecより粘性の高い寒天、アルジネートナトリウムはPecより止瀉効果に優れ、CMCはPecとほぼ同程度の止瀉作用を示した。
【0208】
〔イ)XGに代表されるグループとロ)Pecに代表されるグループから1種ずつ選び、
組み合わせた場合〕
各々の多糖類の特質を吟味し、異なった特徴を持つイ)、ロ)の2つのグループの多糖類を1種ずつ組み合わせることで、より少量で的確な止瀉効果を発現させつつ、胃腸症状を生じずに、形の整った便を通常量排泄させることを可能にすることを見出した。さらに、XG+CMC、GG+CMCなど、組み合わせによっては流れを良くすることも見出した。これは嚥下が困難な患者への投与に適しており、経管栄養の患者への投与にも、水溶液にして微小チューブで支障なく投与することが可能である。
【0209】
〔イ)XGに代表されるグループから2種以上組み合わせた場合〕
イ)XGに代表されるグループの多糖類は、2種以上を組み合わせると飛躍的に粘度が増すことが出来る。例えば同じ0.5%の溶液の場合、グァーガム単味の粘度に対し、XG1:グァーガム3の粘度は数倍〜数十倍と、飛躍的に高くなり、0.5%XG溶液とほぼ同じまたはそれ以上に粘調になることが知られている。同様の現象は他の多糖類の組み合わせでも、粘性を飛躍的に高めることも知られている。これによって、投与量を削減することが可能である。実際に複数種組み合わせたところ、少ない添加量でも、止瀉作用を向上させ、且つ腹部の膨満感、ゴロゴロ感も軽くすることを見出した。
【0210】
〔ロ)Pecに代表されるグループから2種以上組み合わせた場合〕
Pecを単独に加えた場合の問題点は、止瀉を実現するために大量に添加しなくてはならないことである。Pecのグループから2種以上を組み合わせることで各々の特質を生かしながら、添加量も比較的少量で止瀉作用を発現することを見出した。また、Pecやアルジネートナトリウム等を糖アルコール溶液に混和するとゲル状になり、添加量が増えるとパサパサして一体感がなくなり、嚥下が困難になる場合もあるが、CMCを加えることでその問題点が解決することを見出した。
【0211】
他に、3種以上の多糖類を組み合わせて、〔イ)XGに代表されるグループから2種とロ)Pecに代表されるグループから1種選び、組み合わせた場合〕、〔イ)XGに代表されるグループから1種とロ)Pecに代表されるグループから2種選び、組み合わせた場合〕があり、各々の利点を生かし、欠点を補うことが可能である。
【0212】
[参考例2]
2種以上の多糖類を添加することにより、1種の多糖類の添加量より少量で確実な止瀉効果を得られるかどうかを調べた。
【0213】
〔2−1:エリスリトールとXG+ペクチン(Pec)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、粘度が非常に高いXGと親水性の高いPecとを表40のように組みあせてEryに投与し、6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
【0214】
【表40】

【0215】
XG0.09g/kg+Pec0.2g/kgを組み合わせること(多糖類合計で10.4重量%)で、Pecのみ添加した場合(17.8%)より少量で、XGの止瀉作用とPecの整腸作用とを同時に発現させることが出来た。XGだけを添加した場合、止瀉作用は強力であるが、腹部膨満が認められ、便の排泄量が減るが、2種を組み合わせることで下腹部に強く圧を加えても、動物は苦しむこともなく、表面の滑らかな便が出てきたことで、目的を達したことが確認出来た(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。
【0216】
〔2−2:エリスリトールとキサンタンガム(XG)+グァーガム(GG)(XGグループから2種選び、組み合わせた場合)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、XGグループで粘度が非常に高いXGと比較的粘度の低いGGを表4のように組みあせてエリスリトールに投与し、6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
【0217】
【表41】

【0218】
XG0.03g/kg、GG0.06g/kgを組み合わせること(多糖類合計で3.2重量%)では十分な止瀉効果は認められず、いずれも増量して、XG0.06g/kg、GG0.09g/kgを組み合わせること(多糖類合計で5.4重量%)で、有意な止瀉効果が認められた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。便は形が不整で、排泄量は約2分の1に減少したが、腹部膨満は認められず、下腹部に強く圧を加えても、動物は苦しむこともなかった。
【実施例9】
【0219】
〔エリスリトールとキサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、Eryに、XG、Pec、CMCとを表45のように組みあせて添加して、3時間目まで便と消化器症状の観察後、3時間目に灌流、便の配列などと共に、消化器官の観察を行い、側頭骨を取り出して組織学的に検討した。
【0220】
A)胃腸症状についての検討
結果を表4に示す。
【0221】
【表42】


XG:0.06g/kg,Pec: 0.15g/kg,CMC:0.2g/kg
便の固さは灌流時に判定したものである
【0222】
XG0.06g/kg+Pec0.15g/kg+CMC0.2g/kg(多糖類合計で14.6重量%)で、ほぼ完全な止瀉を達成できた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。XG単独を添加した場合には投与後便の量が減少し、腸内でガス発生が認められたが、ペクチングループから2種を加えることで、そのような問題点が生じることなく、止瀉に成功した。消化管内の観察においても、便の配列は、6匹中2匹は形成された便の間隔が4〜7cmのところもあり、僅かながらガスの発生も認められたが、全体的には、ほぼ規則的になり、胃腸症状は軽回したものと推測された(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。形成された便の長さも57.0±19.6cmで、蒸留水のみ投与の55.0± 8.8cmに近い値となった。
【0223】
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側)及び内リンパ水腫減荷効果(術側)
各群の伸展率と面積増加率の平均と標準偏差の結果を表4に示す。
【0224】
【表43】

【0225】
エリスリトールのみを投与したE3H群(3時間後)と比較し、3種の多糖類を添加したE+3P群では有意に虚脱(減荷)されている(P<0.05)。また、多糖類としてPec1種のみを0.5g(17.9重量%)添加した第24群と比較するとわずかに上方に移動しているが、有意差はなく、十分な減荷効果を発揮していることが判った(特許第4081131号)。
【0226】
Pecは整腸作用に優れるが、止瀉を図るには添加量が多くなりがちであり、粘度が高くなることは避けられないが、CMCを添加することで、流れがよくなり、摂取時の口当たり、舌触りなどに優れた材質になった。違和感なく摂取でき、経管栄養や、飲料に応用範囲が広がる。
【0227】
単糖又はその糖アルコール類に対し、多糖類を複数種組み合わせることで、多糖類1種類を添加する場合と比べ、飛躍的に止瀉効果を高め、かつ不快な胃腸症状の軽減、又は防止をはかることができた。添加物を削減する目的を達成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】イソソルビトール(IB)の内リンパ水腫減荷効果の経時的変化を、散布図と回帰直線により示した図である。IB投与後3時間目では、回帰直線は蒸留水と比較して下方に移動するが、有意差は認められない(ANCOVA)。投与後6時間後には有意な減荷作用が認められた(P<0.01、ANCOVA)。○:IR-S(蒸留水) = 3.276 + 1.22 * IR-L(蒸留水); R^2 = .983、■:IR-S(IB単味,3hr)= 6.542 + 1.011 * IR-B(IB単味,3hr); R^2 = .987、□:IR-S(IB単味,6hr) = 7.347 + .742 *IR-L (IB単味,6hr); R^2 = .901
【0229】
【図2】イソソルビトール(IB)にびペクチン(Per)を添加し、通常投与量、及び半量投与し、3時間目の内リンパ水腫減荷効果を比較した。散布図と回帰直線を示す。IB単味の投与では、蒸留水と比較し有意差は認められなかったが、Perを添加した群の減荷効果は蒸留水、IB単味群と比較し、有意差が認められた(P<0.01、ANCOVA)。半量に減量しても同程度の減荷効果が認められた(P<0.01、ANCOVA)。○:IR-S(蒸留水) = 3.276 + 1.22 * IR-L(蒸留水); R^2 = .983、●:IR-S(IB単味,3hr)= 6.542 + 1.011 * IR-B(IB単味,3hr); R^2 = .987、■:IR-S(IB+P,3hr) = .303 + .701 * (IB+P,3hr); R^2 = .794、□:IR-S(IB+P2分の1,3hr) =1.429 + .761 * IR-L(IB+P2分の1,3hr); R^2 = .858
【0230】
【図3】イソソルビトール(IB)にびペクチン(Per)を添加し、通常投与量、及び半量投与し、6時間目の内リンパ水腫減荷効果を比較した。散布図と回帰直線を示す。IB単味の投与では、蒸留水と比較し減荷効果が認められた(P<0.01)。Perを添加した群では蒸留水、IB単味群と比較し、有意差が認められた(各々P<0.01、P<0.05、ANCOVA)。半量に減量しても、同程度の減荷効果が認められたことから、効果は持続していることが判る(いずれもP<0.01、ANCOVA)。減量することによって減荷効果は損なわれることがなかった。○:IR-S(蒸留水) = 3.276 + 1.22 * IR-L(蒸留水); R^2 = .983、●:IR-S(IB単味,6hr)= 3.11 + .914 * IR-B(IB単味,3hr); R^2 = .961、■:IR-S(IB+P,6hr) = -2.141 + .862* (IB+P,6hr); R^2 = .874。□:IR-S(IB+P2分の1,6hr) = -8.778 + .973 * IR-L(IB+P2分の1,6hr); R^2 = .945
【0231】
【図4】エリスリトール(E)及びペクチン(P)の投与量を2分の1に減量して、内リンパ水腫減荷効果の経時変化を、散布図と回帰直線により示した図である。2分の1に減量した群の回帰直線は通常量の群と有意差は認められなかったことから、減量しても十分な減荷作用が期待できる。投与後6時間後にも蒸留水と比較して有意な減荷作用が認められた。:IR-S(蒸留水) = 4.011 + 1.212 * IR-L(蒸留水); R^2 = .987、●:IR-S(Ery単味) = 2.407 + 1.309 * IR-L(Ery単味); R^2 = .974、■:IR-S(E+P,3hr) = -15.925 + .79 * IR-L(E+P,3hr); R^2 = .771、×:IR-S(E+P6時間) = -16.508 + 1.314 * IR-L(E+P6時間); R^2 = .784、□:IR-S(E+P2分の1,3hr) = -1.834 + .559 * IR-L(E+P2分の1,3hr); R^2 = .547 。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のエリスリトールを経口投与されるように用いられる(ただし、エリスリトールに対し1〜30質量%の多糖類を、併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とする、エリスリトールを含有するメニエール病治療薬。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−148825(P2011−148825A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97047(P2011−97047)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2010−255729(P2010−255729)の分割
【原出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(505273660)
【Fターム(参考)】