説明

メラトニン受容体発現増強剤及びその製造方法

【課題】メラトニン受容体の発現を十分に増強することができるメラトニン受容体発現増強剤を提供すること。
【解決手段】チョウジ、ユーカリ、タチジャコウソウ及びラベンダーからなる群より選択される少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として含有する、メラトニン受容体発現増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラトニン受容体発現増強剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間に脳の松果体から分泌されるホルモンであるメラトニンは、視交差上核に作用することにより体内リズムを調整し、自然睡眠を誘導することが知られている(非特許文献1)。近年の研究においては、メラトニンが、こうした体内リズムを調整する作用だけでなく、老化及び疾病の要因とされる酸化ストレスを軽減する作用も有していること(非特許文献2)が明らかにされている。さらには、メラトニンは、皮膚のバリア機能の回復を促進する生理作用をも有していることが明らかになっている(特許文献1)。
【0003】
一方、I型メラトニン受容体の発現が皮膚の真皮繊維芽細胞及び表皮角化細胞をはじめ広範な組織で認められている(非特許文献3〜6)。
【0004】
メラトニンの生理作用に関しては、メラトニン受容体の関与も示唆されている。メラトニンは、メラトニン受容体に働きかけることにより、皮膚組織において酸化ストレスに対する防御効果だけでなく、バリア機能の回復を促進する効果を通して、皮膚機能の維持に寄与する重要な生理活性物質として理解されている。
【0005】
しかしながら、血中のメラトニンは加齢とともに減少していくことが知られている(非特許文献7)。そのため、皮膚組織においてメラトニンによる抗酸化ストレス、又は皮膚機能の維持を持続的に被ることは極めて困難であると考えられている。この点を克服する為、従来、外部からのメラトニン供給による皮膚の機能の維持を目的に、メラトニンを配合した化粧料及び皮膚外用剤が検討されている(例えば、特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−175687号公報
【特許文献2】特開昭61−221104号公報
【特許文献3】特開2002−326922号公報
【特許文献4】特開2004−107261号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Clin Sleep Med. 3, S17-23 (2007)
【非特許文献2】Toxicology. 278, 55-67 (2010) (abstract)
【非特許文献3】Cell Mol Life Sci. 59, 1706-13 (2002)
【非特許文献4】Prog Neurobiol. 85, 335-53 (2008)
【非特許文献5】Biomed Pharmacother. 60, 97-108 (2006)
【非特許文献6】Exp Dermatol. 17, 713-30 (2008)
【非特許文献7】J Pineal Res. 3, 379-88 (1986) (abstract)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、メラトニンそのものを皮膚に塗布することで皮膚機能の維持を図る方法においては、その用法上、通常ヒトが維持するメラトニンの血中濃度(10pM〜1nM)を著しく超えた濃度で皮膚の機能を保護する効果が認められているに過ぎない(特許文献1)。一般的な外用剤の成分組成からみれば、これは極端に高濃度である。内用剤としてメラトニンを用いた場合、過度の摂取により睡眠障害及び腹痛等の急性な副作用があることが一部知られていることから、高濃度のメラトニンの皮膚への塗付により、予期せぬ副作用が引き起こされる懸念がある。また、メラトニンのような抗酸化物質は、高い反応性を有していることから、保存中に酸化及び分解等の化学変化を受け易い。そのため、生体内でラジカル消去のためのメラトニンの有効量を維持することは困難である。
【0009】
ところで、メラトニン受容体の発現が増強すると、皮膚における生理的な条件下でのメラトニンに対する感受性が鋭敏化すると考えられている。したがって、メラトニンそのものを投与しなくとも、酸化ストレス防御及び表皮バリア機能の回復等のメラトニンの生理作用を増強できることが十分に期待される。
【0010】
そこで、本発明は、メラトニン受容体の発現を十分に増強することができるメラトニン受容体発現増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、自然界にある植物を鋭意探索及び評価した結果、チョウジ(フトモモ科フトトモ属植物)及びユーカリ(フトモモ科ユーカリ属植物)等のフトモモ科植物、並びに、タチジャコウソウ(シソ科イブキジャコウソウ属植物)及びラベンダー(シソ科ラヴァンデュラ属植物)等のシソ科植物の抽出物が、メラトニン受容体の発現を増強する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、チョウジ、ユーカリ、タチジャコウソウ及びラベンダーからなる群より選択される少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として含有する、メラトニン受容体発現増強剤を提供する。
【0013】
本発明によれば、上記特定の植物の抽出物を用いたことにより、メラトニン受容体の細胞膜上での発現を十分に増強することが可能である。
【0014】
別の側面において、本発明は、チョウジ、ユーカリ、タチジャコウソウ及びラベンダーからなる群より選択される少なくとも1種の植物から抽出物を抽出する工程を有する、抽出物を含有するメラトニン受容体発現増強剤の製造方法に関する。
【0015】
上記本発明に係る製造方法により得られるメラトニン受容体発現増強剤は、メラトニン受容体の細胞膜上での発現を十分に増強することができる。
【0016】
本発明に係る製造方法において、10〜30℃で上記植物から抽出物を抽出することが好ましい。
【0017】
上記抽出溶媒は、好ましくは、アルコール、水及びこれらの混合溶媒から選択される。上記植物は、好ましくはチョウジ又はユーカリである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、メラトニン受容体の発現を十分に増強することができる。メラトニン受容体の発現を増強することにより、メラトニン自体の投与を必ずしも必要とすることなく、メラトニンの生理作用を増強することができる。皮膚はその構造上表皮と真皮に大別される。真皮の機能維持を担う繊維芽細胞の酸化ストレス防御能の低下は、皮膚の弾性低下及びしわの形成に結びつくことから、真皮の繊維芽細胞においてメラトニンによる酸化ストレス防御が重要であると考えられる。この様な観点から、繊維芽細胞を用いてI型メラトニン受容体の発現を増強する天然物素材の探索を行った。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて評価した、含水エタノールによって抽出した植物抽出物のI型メラトニン受容体の発現量に対する影響を示すグラフである。
【図2】正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて評価した、熱水によって抽出した植物抽出物のI型メラトニン受容体の発現量に対する影響を示すグラフである。
【図3】正常ヒト表皮角化細胞を用いて評価した、含水エタノールによって抽出したチョウジ抽出物のI型メラトニン受容体の発現量に対する影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態に係るメラトニン受容体発現増強剤は、チョウジ、ユーカリ、タチジャコウソウ及びラベンダーからなる群より選択される少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として含有し、これら抽出物自体をそのままメラトニン受容体発現増強剤として用いることもできる。本実施形態に係るメラトニン発現増強剤の有効成分は、好ましくはチョウジ及びユーカリ、より好ましくはチョウジである。
【0022】
抽出物は、植物体のどの部分から抽出されたものであってもよい。チョウジの場合、地上部が好ましく、花芽部がより好ましい。ユーカリの場合、地上部が好ましく、茎葉部がより好ましい。タチジャコウソウの場合、地上部が好ましく、茎葉部がより好ましい。ラベンダーの場合、地上部が好ましく、花芽部がより好ましい。植物を採取後そのまま用いてもよいし、天日乾燥及び陰干乾燥等の乾燥処理をしてから用いてもよい。好ましくは、乾燥後に粉末状にしたものを用いる。
【0023】
抽出に供する植物は、どのような形態であってもよいが、裁断されている細片又は粉砕されている粉末であることが抽出の効率向上の観点から好ましい。溶媒抽出の方法及び手段は制限されない。植物の抽出物は、溶媒抽出により得られた抽出液自体であってもよいし、抽出液を濃縮若しくは希釈して、又は抽出液中の溶媒を留去して得た、濃縮液、希釈液、乾燥物又は顆粒物等であってもよい。
【0024】
抽出物の調製方法は特に限定されない。例えば、種々の適当な抽出溶媒中に植物を低温、室温又は加温下で浸漬することにより、抽出物が抽出される。
【0025】
抽出溶媒は特に限定されない。抽出溶媒は、有機溶媒であってもよいし、水でもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及びt−ブタノール等の低級アルコール、グリセリン、プロピレングリコール及び1,3−ブチレングリコール等の液状多価アルコール、アセトン等のケトン類、酢酸エチルエステル等のエステル類等の有機溶媒が挙げられる。これら抽出溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組合せて用いられる。本実施形態においては、アルコール、水及びこれらの混合溶媒が好ましい。アルコールは好ましくはエタノール及び/又はメタノールである。水とエタノールとの混合溶媒(含水エタノール)が特に好ましい。抽出溶媒を含水エタノールにすることで、抽出後の溶媒除去の操作が容易になる傾向がある。含水エタノールにおけるエタノールの濃度は、0〜100容量%が好ましく、90容量%がより好ましい。
【0026】
抽出溶媒の量は、特に限定されないが、例えば乾燥植物1g当たり20mL程度とされる。
【0027】
抽出溶媒がアルコールを含む場合、抽出温度は10〜30℃が好ましく、20℃〜25℃がより好ましい。抽出時間は、植物体の部位、乾燥の有無及び量、並びに、抽出溶媒の種類及び量によって変動するため必ずしも限定されないが、1日〜5日間が好ましく、2日〜4日間がより好ましい。
【0028】
抽出溶媒が水である場合、抽出温度は50〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。抽出時間は1時間〜5時間が好ましく、2時間〜4時間がより好ましい。
【0029】
抽出液を濾過後、抽出液中の溶媒をエバポレーターにより除去した後、残渣を水に懸濁したものを凍結乾燥等の方法により乾燥して、抽出物が得られる。得られる抽出物は粉末状であることが多い。
【0030】
本実施形態に係るメラトニン受容体発現増強剤は、外用及び内用のいずれの用途にも用いることができる。I型メラトニン受容体の発現を増強し、例えば、表皮バリア機能をより効果的に回復促進させようとすることを考慮すれば、皮膚又はその目的部位への接触及び接近が容易な皮膚外用組成物として増強剤を利用することがより好ましい。皮膚外用組成物としては、例えば洗顔クリーム、化粧水及び乳液等の化粧料が挙げられる。メラトニン受容体発現増強剤の量は、皮膚外用組成物の全量に対して好ましくは0.0001〜10質量%、より好ましくは0.001〜1質量%である。
【0031】
皮膚外用組成物は、界面活性剤、油脂類、多価アルコール、低級アルコール、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤(水酸化カリウム、クエン酸等)、香料、色素、及び水等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
界面活性剤としてはポリオキシエチレン(以下、POE−と略す)オクチルドデシルアルコール及びPOE−2−デシルテトラデシルアルコール等のPOE−分岐アルキルエーテル、POE−オレイルアルコールエーテル及びPOE−セチルアルコールエーテル等のPOE−アルキルエーテル、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート及びソルビタンモノラウレート等のソルビタンエステル、POE−ソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンモノイソステアレート及びPOE−ソルビタンモノラウレート等のPOE−ソルビタンエステル、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート及びグリセリルモノミリステート等のグリセリン脂肪酸エステル、POE−グリセリルモノオレエート、POE−グリセリルモノステアレート及びPOE−グリセリルモノミリステート等のPOE−グリセリン脂肪酸エステル、POE−ジヒドロコレステロールエステル、POE−硬化ヒマシ油及びPOE−硬化ヒマシ油イソステアレート等のPOE−硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、POE−オクチルフェノールエーテル等のPOE−アルキルアリールエーテル、グリセロールモノステアレート(自己乳化型モノステアリン酸グリセリン及び親油型モノステアリン酸グリセリン等)、グリセロールモノイソステアレート及びグリセロールモノミリステート等のグリセロールエステル、POE−グリセロールモノイソステアレート及びPOE−グリセロールモノミリステート等のPOE−グリセロールエーテル、ジグリセリルモノステアレート、デカグリセリルデカステアレート、デカグリセリルデカイソステアレート及びジグリセリルジイソステアレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル、並びに、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸及びオレイン酸等の高級脂肪酸とカリウム、ナトリウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びアミノ酸等との塩、エーテルカルボン酸の上記アルカリ塩、N−アシルアミノ酸の塩、N−アシルサルコン酸塩、並びに、高級アルキルスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、アルキルアミン塩、ポリアミン、アミノアルコール脂肪酸有機シリコーン油脂及びアルキル4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、並びに、レシチン、ベタイン誘導体(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等)等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0033】
油脂類としては、ヒマシ油、オリーブ油、カカオ油、椿油、ヤシ油、木ロウ、ホホバ油、グレープシード油及びアボガド油等の植物油脂類、ミンク油及び卵黄油等の動物油脂類、ミツロウ、鯨ロウ、ラノリン、カルナウバロウ及びキャンデリラロウ等のロウ類、流動パラフィン、スクワレン、マイクロクリスタリンワックス、セレシンワックス、パラフィンワックス及びワセリン等の炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸及びベヘニン酸等の天然及び合成脂肪酸類、セタノール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルデカノール、オレイルアルコール及びラウリルアルコール等の天然及び高級アルコール類、並びに、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸オクチルドデシル、乳酸ミリスチル及びコレステロールオレート等のエステル類が挙げられる。
【0034】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン及びテトラグリセリン等のポリグリセリン、並びに、グルコース、マルトース、マルチトース、ショ糖、フルクトース、キシリトース、ソルビトール(ソルビット)、マルトトリオース、スレイトール及びエリスリトール等の糖アルコールが挙げられる。
【0035】
増粘剤としては、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、硅酸アルミニウム、マルメロ種子の抽出物、トラガントガム、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸ナトリウム等の天然高分子物質、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、可溶性デンプン及びカチオン化セルロース等の半合成高分子物質、並びに、カルボキシビニルポリマー及びポリビニルアルコール等の合成高分子物質が挙げられる。
【0036】
紫外線吸収剤としては、パラアミノ安息香酸、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、ブチルメトキシベンゾイルメタン、グリセリル−モノ−2−エチルヘキサノイル−ジ−パラメトキシベンゾフェノン、ジガロイルトリオレエート、2−2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、エチル−4−ビスヒドロキシプロピルアミノベンゾエート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、パラメトキシケイ皮酸エチルヘキシル、サリチル酸−2−エチルヘキシル、グリセリルパラアミノベンゾエート、サリチル酸ホモメチル、オルトアミノ安息香酸メチル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、アミル−パラ−ジメチルアミノベンゾエート、2−フェニルベンゾイミダゾール−5−スルフォン酸及び2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルフォン酸等が挙げられる。
【0037】
防腐剤としては、安息香酸塩、サリチル酸塩、ソルビン酸塩、デヒドロ酢酸塩、パラオキシ安息香酸エステル、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル、3,4,4’−トリクロロカルバニリド、塩化ベンザルコニウム、ヒノキチオール、レゾルシン、及び、エタノール等が挙げられる。
【0038】
酸化防止剤としては、トコフェロール、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドログアヤレチン酸及び没食子酸プロピル等が挙げられる。
【0039】
キレート剤としては、エデト酸ナトリウム及びクエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0040】
これらの添加成分の中には、本実施形態に係るメラトニン受容体発現増強剤の安定性又は経皮吸収性を高めることにより、本実施形態に係る皮膚外用組成物の有効性をより向上させる働きをもつものもある。皮膚外用組成物の剤型は任意であり、可溶系、乳化系及び粉末分散系等いずれでもよい。皮膚外用組成物は、化粧水、乳液、クリーム及びパック等の基礎化粧料はもちろん、ファンデーション等のメーキャッブ化粧料等に幅広く利用できる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
製造例1:チョウジ抽出物の調製
(含水エタノール抽出)
チョウジの花芽を乾燥して細切にしたもの(5g)に、90容量%のエタノールを含む含水エタノールを100mL加え、25℃にて3日間放置することにより、抽出を行った。その後、濾過によって回収した抽出液から、抽出溶媒(含水エタノール)をエバポレーターで除去した。残渣を一度水に懸濁後、凍結乾燥により更に水を除去して、含水エタノールにより抽出したチョウジ抽出物を得た。
(熱水抽出)
チョウジの花芽を乾燥して細切にしたもの(5g)に、水100mLを加え、85℃に加熱しながら、3時間の抽出を行った。その後、濾過によって回収した抽出液から凍結乾燥により水を除去して、熱水により抽出したチョウジ抽出物を得た。
【0043】
製造例2:ユーカリ抽出物の調製
ユーカリの葉を乾燥して細切にしたもの(5g)から、製造例1と同様の操作により、含水エタノール又は熱水により抽出したユーカリ抽出物を得た。
【0044】
製造例3:タチジャコウソウ抽出物の調製
タチジャコウソウの葉を乾燥して細切にしたもの(5g)から、製造例1の含水エタノール抽出と同様の操作により、含水エタノールにより抽出したタチジャコウソウ抽出物を得た。
【0045】
製造例4:ラベンダー抽出物の調製
ラベンダーの花を乾燥して細切にしたもの(5g)から、製造例1の含水エタノール抽出と同様の操作により、含水エタノールにより抽出したラベンダー抽出物を得た。
【0046】
試験例1:ヒトの正常皮膚繊維芽細胞を用いたI型メラトニン受容体の発現量の評価
I型メラトニン受容体の発現を増強する作用(I型メラトニン受容体発現増強作用)を有する物質は、細胞内のI型メラトニン受容体の量を増加させることが報告されている。そこで、タンパク質レベルの発現量を比較する方法として広く用いられているウエスタンブロッティング法にしたがって、細胞上にあるI型メラトニン受容体の発現の量を対照群と比較することにより、I型メラトニン受容体の発現の増強作用を確認した。
【0047】
試験には正常なヒト成人の皮膚由来の線維芽細胞(正常ヒト皮膚線維芽細胞:NHDF)を用いた。10容量%のウシ胎児血清(GIBCO社製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(GIBCO社製)に、正常ヒト皮膚線維芽細胞を懸濁し、100mm培養シャーレに播種した。培養は、COインキュベーター(95容量% 空気/5容量% 二酸化炭素)内、37℃の条件下で行った。
【0048】
上記細胞がコンフルエントになるまで培養した後、シャーレから培地を除去し、製造例1で得た含水エタノールにより抽出したチョウジ抽出物が含まれる試料添加培地に交換した。すなわち、シャーレから上記のように培養した培地を除去し、チョウジ抽出物が濃度20μg/mLとなるように添加された、1容量%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地をシャーレに入れ、培養した。培養は、COインキュベーター(95容量% 空気、5容量% 二酸化炭素)内、37℃の条件下で24時間行った。
【0049】
このように24時間培養された細胞をPBS(phosphate buffered saline)で洗浄し、スクレーパーにより回収した。遠心分離機により1000rpmで5分間遠心した後、上清を除去した。RIPA Lysis Buffer(登録商標;Millipore社製)に終濃度1mMのNaF、終濃度5mMのNaVO、終濃度10μMのMG132試薬(Calbiochem社)、及びプロテアーゼ阻害剤(商品名:Complete protease inhibitor cocktail、登録商標;Roche社製)を添付の説明書に従い1×の濃度になるよう加えて、細胞溶解液を調製した。この細胞溶解液50μLに上記細胞を懸濁し、ピペッティングにより細胞を溶解した。その後、ソニケーションにより細胞を十分に溶解し、Pierce BCA Protein Assay Kit(登録商標;Thermo Scientific社)により細胞が溶解したサンプル中のタンパク質の量を定量した。得られた値をもとに、30μg/10μLの濃度となるようにサンプルを調製し、そこにSDS(ドデシル硫酸ナトリウム、sodium dodecyl sulfate)サンプルバッファー(50mM Tris−HCl(pH6.8)、2容量%SDS、6容量%β―メルカプトエタノール、10容量%グリセロール、及びブロモフェノールブルー適量)を添加して、100℃で5分間煮沸した。こうして得られたサンプル(タンパク質サンプル)をウエスタンブロッティングへ供した。
【0050】
次に、泳動用ゲルを以下の手順で作製した。まず、30質量%アクリルアミド溶液(6mL)、1.5M Tris−HCl(pH 8.8)溶液(3.8mL)、ミリQ水(5mL)、10質量%SDS(150μL)、APS(過硫酸アンモニウム、ammonium persulfate)(125μL)、TEMED(テトラメチルエチレンジアミン、tetramethylethylenediamine)(12μL)をそれぞれ50mlの遠心チューブに加え、よく攪拌させた後、100mm×80mmのゲル作製用ガラスプレートに注ぎ、重合反応を行い、分離ゲルを形成させた。形成された分離ゲルではアクリルアミドの濃度が12%となる。続いて30質量%アクリルアミド溶液(0.75mL)、0.5M Tris−HCl(pH 6.8)溶液(1.9mL)、ミリQ水(4.8mL)、10質量%SDS(75μL)、APS(62.5μL)、TEMED(6μL)をそれぞれ50mL遠心チューブに加え、よく攪拌させた後、上記分離ゲルの上に重ね、コームを挿した後、室温20分放置することで濃縮用ゲルを重合反応させた。このようにして最終的に使用する泳動用ゲルを得た。
【0051】
作製したゲルを泳動装置(日本エイドー社製)へ取り付け、上述の方法で調製した、チョウジ抽出物を含む培地で培養した細胞のタンパク質サンプルを1レーンにタンパク質の量が30μgとなるように添加し、泳動をおよそ1時間半行った。その後、iBLOT(登録商標;Invitrogen社製)を用いて、ゲル内で分離したタンパク質をポリフッ化ビニリデンの膜(PVDF膜)(Millipore社製)へ転写した。タンパク質が転写されたPVDF膜を、10容量%ウマ血清(GIBCO社)が溶解したPBST(PBS+0.05容量%Tween20)溶液中に室温で2時間浸すことでウマ血清由来のタンパク質をPVDF膜に吸着させ、ブロッキングを行った。
【0052】
次に、I型メラトニン受容体に対するヤギ由来の抗体(Abcam社製、濃度0・5mg/ml、カタログ番号 ab87639)を5容量%のウマ血清を含むPBS溶液で1000倍に希釈して一次抗体反応液を用意した。これに上記PVDF膜を浸し、4℃で3日間、一次抗体を反応させた。その後、PVDF膜に対して、PBST溶液で5分間の洗浄を3回行った。HRP(horse radish peroxidase)が結合した抗ヤギ免疫グロブリン抗体(Vector Laboratories社製、濃度1mg/ml、カタログ番号 PI−9500)を5容量%のウマ血清を含むPBS溶液で50000倍に希釈して二次抗体反応液を用意した。これに上記PVDF膜を室温で2時間浸すことで二次抗体を反応させた。次いで、PVDF膜に対してPBST溶液で5分間の洗浄を4回行った後、ECL Plus Western Blotting Detection System(登録商標;GE Healthcare社製)を用いて、発光基質との反応を行った。その後、LAS4000mini(商品名、Fujifilm社製)を用いて、I型メラトニン受容体の量を反映する発光強度を検出した。
【0053】
チョウジ(製造例1)以外の植物の含水エタノール抽出物、すなわちユーカリ抽出物(製造例2)、タチジャコウソウ抽出物(製造例3)及びラベンダー抽出物(製造例4)についても、チョウジ抽出物と同様に、乾燥固形物の量で終濃度20μg/mlの抽出物が含まれるように調製したダルベッコ改変イーグル培地を準備した。この当該培地を用いて細胞を培養した。24時間の培養後、タンパク質サンプルを作製し、チョウジ抽出物を含む培地で培養した細胞から作製したタンパク質サンプルと共に評価に供した。
【0054】
一方、これらの植物抽出物を添加しない1容量%ウシ胎児血清を含む培地により培養された細胞についても同様の方法でタンパク質サンプルを作製し、対照サンプルとして上記植物抽出物を含む培地で培養した細胞から作製したタンパク質サンプルと共に評価に供した。
【0055】
上述のI型メラトニン受容体の発現を補正する目的で、内部標準タンパク質であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素の発現の量もモニターした。すなわち、I型メラトニン受容体の代わりに、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素に対するウサギ由来の抗体(Cell Signalling社製、カタログ番号 2118)を5容量%のウマ血清を含むPBS溶液で2000倍希釈した一次抗体反応液に、上記と同様の方法でタンパク質サンプルを転写したPVDF膜を浸し、室温で1時間一次抗体反応をさせた。その後、上記と同様の洗浄過程を経て、HRPが結合した抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Cell Signalling社製、カタログ番号 7074)を5容量%のウマ血清を含むPBS溶液で2000倍希釈させたものにPVDF膜を室温で2時間浸すことで二次抗体反応を行った。その後、洗浄過程を経て、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素の量を反映する発光強度の検出を行った。
【0056】
各培養条件におけるI型メラトニン受容体の発現の量は、Scion Imageソフト(商品名、Scion社製)を用い、I型メラトニン受容体に該当する39kDa付近のバンドの発光強度を、内部標準タンパク質であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素に該当するバンドの発光強度で除する方法により数値化した。これらの値を、植物の抽出物を添加せずに培養した細胞から得られたタンパク質サンプル(対照サンプル)における上記発光強度を100%とした場合の比率(%)を表1に示す。また、対照サンプルを1とした場合の値で表した発現の増加量(発現増加量)を図1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1及び図1から明らかなように、含水エタノールにより抽出したチョウジ抽出物、ユーカリ抽出物、タチジャコウソウ抽出物、又はラベンダー抽出物によるNHDFにおけるI型メラトニン受容体の発現量は、いずれも対照サンプルと比較して、I型メラトニン受容体の発現の増強作用が認められた。
【0059】
熱水により抽出したチョウジ抽出物及びユーカリ抽出物についても、含水エタノール抽出物と同様な手順により、I型メラトニン受容体発現の増強作用の評価を行った。その結果を表2及び図2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2及び図2から明らかなように、熱水により抽出したチョウジ抽出物、又はユーカリ抽出物によるNHDFにおけるI型メラトニン受容体の発現量は、対照サンプルと比較して、I型メラトニン受容体の発現の増強効果が認められた。チョウジ抽出物の場合、熱水抽出物と比較して、含水エタノール抽出物によってより顕著なI型メラトニン受容体の発現の増強効果がみられた。一方、ユーカリ抽出物の場合、含水エタノール抽出物と比較して、熱水抽出物によってより顕著なI型受容体の発現の増強効果がみられた。
【0062】
試験例2:正常ヒト表皮角化細胞を用いたI型メラトニン受容体の発現量の評価
表皮においては、角化細胞が主要な構成細胞であり、角化細胞の酸化ストレスの防御能の低下は、真皮の繊維芽細胞と同様に皮膚の老化に結びつく。また、表皮のバリア機能に角化細胞が主体的に関与していると考えられることから、バリア機能を維持する上で、表皮角化細胞におけるメラトニンによる酸化ストレスの防御及びバリア機能の強化が重要であると考えられる。この様な観点から、含水エタノール抽出物の中で最も顕著にメラトニン受容体発現増強作用を示したチョウジ抽出物を用いて、表皮角化細胞におけるI型メラトニン受容体の発現増強作用を評価した。
【0063】
正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて行った試験と同様の方法で、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を用いて、含水エタノールにより抽出したチョウジ抽出物についてI型メラトニン受容体発現増強作用の評価を行った。ただし、培地としてダルベッコ改変イーグル培地に代えて、正常ヒト表皮角化細胞の増殖用無血清液体培地(クラボウ社製、商品名:Humedia−KG2)を用いた。チョウジ抽出物の濃度は、20μg/mLに代えて5μg/mL又は10μg/mLとした。培地には表皮角化細胞の増殖に必要なインスリン、hEGF(ヒト上皮細胞成長因子、human epidermal growth factor)、ハイドロコーチゾン、並びに、抗菌剤としてゲンタマイシン及びアンフォテリシンBを添加した。試験結果を表3及び図3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3及び図3から明らかなように、チョウジ抽出物によるNHEKにおけるI型メラトニン受容体の発現量は、チョウジ抽出物の濃度に依存して増大した。チョウジ抽出物によれば、表皮角化細胞においてもメラトニンによる皮膚の酸化ストレスに対する防御効果、又はバリア機能の回復の促進への寄与が期待できることが確認された。
【0066】
実施例1:洗顔クリームの製造
製造例1で得たI型メラトニン受容体発現増強剤(含水エタノールにより抽出したチョウジ抽出物)を用いて、以下の処方の洗顔クリームを調製した。成分A(表4)、成分B(表5)、及び成分C(表6)の合計が100質量%となるように、各成分A〜Cを以下の割合で処方した。まず、成分Aの混合物を加熱溶解して80℃に保持した。次いで、別途80℃で加熱溶解した成分Bの混合物を成分Aの混合物に添加して充分に撹拌した。その後、撹拌しながら冷却を行い、50℃にて成分Cの混合物を加え、洗顔クリームを得た。
【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
実施例2:化粧水の製造
合計が100質量%となるように下記表7に示す成分を処方した。全ての成分を室温にて混合及び撹拌して均一な溶液とし、pHを5.5に調整して、化粧水を得た。
【0071】
【表7】

【0072】
実施例3:乳液の製造
成分D(表8)、成分E(表9)、及び成分F(表10)の合計が100質量%となるように、各成分D〜Fを以下の割合で処方した。まず、成分Dの混合物を加熱溶解して80℃に保持した。次いで、別途、80℃で加熱溶解した成分Eの混合物を成分Dの混合物に添加して充分に撹拌した。その後、撹拌しながら冷却し、50℃にて成分Fの混合物を加え、乳液を得た。
【0073】
【表8】

【0074】
【表9】

【0075】
【表10】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョウジ、ユーカリ、タチジャコウソウ及びラベンダーからなる群より選択される少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として含有する、メラトニン受容体発現増強剤。
【請求項2】
前記抽出物が、アルコール、水及びこれらの混合溶媒から選択される抽出溶媒により前記植物から抽出したものである、請求項1に記載のメラトニン受容体発現増強剤。
【請求項3】
前記植物が、チョウジ又はユーカリである、請求項1又は2に記載のメラトニン受容体発現増強剤。
【請求項4】
チョウジ、ユーカリ、タチジャコウソウ及びラベンダーからなる群より選択される少なくとも1種の植物から抽出物を抽出する工程を有する、抽出物を含有するメラトニン受容体発現増強剤の製造方法。
【請求項5】
アルコール、水及びこれらの混合溶媒から選択される抽出溶媒により前記植物から前記抽出物を抽出する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記植物が、チョウジ又はユーカリである、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
10〜30℃で前記植物から前記抽出物を抽出する、請求項4〜6のいずれか一項に記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171949(P2012−171949A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38395(P2011−38395)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】