メラニン合成促進物質の製造方法、メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品

【課題】メラニンの合成を促進しうる新しい技術を提供する。
【解決手段】メラニン合成促進物質の製造方法。一例では、原料となるステビア植物の植物組織を乾燥・粉砕する乾燥粉砕工程S100と、乾燥粉砕工程S100で得られた乾燥ステビア粉末を発酵させる発酵工程S102と、発酵したステビア粉末(以下、単に発酵ステビアと称する)から、エタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る抽出工程S104と、発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程S106と、エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程S108と、を有する。
【解決手段】メラニン合成促進物質の製造方法。一例では、原料となるステビア植物の植物組織を乾燥・粉砕する乾燥粉砕工程S100と、乾燥粉砕工程S100で得られた乾燥ステビア粉末を発酵させる発酵工程S102と、発酵したステビア粉末(以下、単に発酵ステビアと称する)から、エタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る抽出工程S104と、発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程S106と、エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程S108と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニンの合成を促進しうる技術に関し、例えば、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法、メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品に好適に適用されうる。
【発明の背景】
【0002】
毛髪の色は、毛髪を産生する毛母細胞にあるメラノサイト(色素細胞)が合成するメラニンの色である。老化、ストレス、病気、遺伝等によって、メラノサイトのメラニン合成能力が低下すると、毛髪へのメラニンの供給が減少し、毛髪の白化、所謂白髪が生じることとなる。
【0003】
従来、白髪を目立たなくするために様々な毛髪着色料(染毛剤)が開発されている。染毛剤として、例えば、酸化染毛剤が広く利用されている。酸化染毛剤は、毛髪の表皮(キューティクル)を開き、毛髪内部に色素を注入させることで、毛髪を着色するものである。酸化染毛剤では、キューティクルを開いて色素を注入させるため、酸化染毛剤を用いて染毛した毛髪は、傷みやすく、つやや潤いがなくなり、櫛通りが悪くなってしまう。
【0004】
そこで、酸化染毛剤に、カチオン性高分子、両性高分子およびアニオン性高分子を含有させることにより、毛髪の柔軟性、しっとり感またはなめらかさを向上させる染毛剤が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−193772号公報
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術を利用したとしても、毛髪の表面のキューティクルを開いて色素を注入しなければ染毛できないことに変わりないので、毛髪へのダメージを完全に無くすことは困難である。また、白髪自体が無くなるわけではないので、毛髪が伸びてくると、先端の染めた部分と頭皮側の染めていない部分(白髪の部分)との色の差が目立つようになり、違和感を生じてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、メラニンの合成を促進しうる新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の具現化形態の一例として、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法であって、発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、を含む製造方法を開示する。
【0009】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、発酵ステビアの抽出液を分画して得られるエタノール可溶画分をさらに分画した脂溶性画分にメラニンの合成を促進させる作用があることを見いだした。したがって、例えば、毛髪を産生する毛母細胞のメラノサイトに上記脂溶性画分を適用することで、毛髪の表面からではなく、毛髪の内部にメラニンを含ませることができ、今後生えてくる毛髪の白化を抑制することが可能となる。
【0010】
上記第1分画工程の前段に、乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る抽出工程と、を含んでもよい。
【0011】
上記の発酵工程および抽出工程を経て得られた発酵ステビア抽出液は、上記製造方法にてメラニン合成促進物質を得るための発酵ステビア抽出液として好適である。
【0012】
上記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分であってもよい。
【0013】
30〜100%エタノール可溶画分から分画した脂溶性画分は、メラニン合成促進物質として特に優れている。
【0014】
本発明の具現化形態の別の例に従う、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質は、発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む。
【0015】
本発明の具現化形態の別の例に従う皮膚外用剤は、上記メラニン合成促進物質の製造方法により製造された、メラニン合成促進物質を含む。上記皮膚外用剤は、化粧料であっても、医薬部外品であっても、医薬品であっても、白髪予防用医薬品であってもよい。
【0016】
本発明の具現化形態の別の例として、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法を開示する。この製造方法は、発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、を有する。
【0017】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、発酵ステビアの抽出液を分画して得られるエタノール可溶画分をさらに分画した脂溶性画分にチロシナーゼを活性化させる機能があることを見いだした。チロシナーゼは、メラニンの合成過程に不可欠な酵素であるため、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分を、メラノサイトに適用することでメラノサイトのメラニン合成能力を向上させることが可能となる。
【0018】
またメラニンの合成過程であるチロシンからL―DOPA(3,4-dihydroxy-L-phenylalanine)への合成は、チロシナーゼによって行われる。L−DOPAは、神経伝達物質であるドーパミンの前駆体であり、血液脳関門を通過することが可能であるため、パーキンソン病等に有用な薬剤として用いられている。したがって、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分は、チロシンからL−DOPAへの合成を促進させることができ、将来的にパーキンソン病等に好適な薬剤として適用することができる可能性がある。
【0019】
上記第1分画工程の前段に、乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る抽出工程と、を含んでもよい。
【0020】
上記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分であってもよい。
【0021】
本発明の具現化形態の一例に従う、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質は、発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む。
【0022】
本発明の具現化形態の一例に従う医薬品は、上記チロシナーゼ活性物質の製造方法により製造された、チロシナーゼ活性物質を含む。
【0023】
上述したメラニン合成促進物質の製造方法の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品にも適用可能である。
【0024】
実施形態によっては、チロシナーゼを活性化させることでメラニンの合成を促進させることができ、今後生えてくる毛髪の内部にメラニンを含ませて、毛髪の白化を抑制することが可能となる。実施形態には、例えば、メラニン合成促進物質の製造方法、メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施例に従うメラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法を説明するための説明図である。
【図2】メラニンの生合成経路を説明するための説明図である。
【図3】B16メラノーマを用いたメラニン合成量の比較実験の実験手順を説明するための説明図である。
【図4】脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとの生存細胞数を説明するための説明図である。
【図5】脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとのメラニン量を説明するための説明図である。
【図6】無細胞系におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。
【図7】チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図である。
【図8】脂溶性画分を添加したマッシュルームチロシナーゼとコントロールのマッシュルームチロシナーゼとのドーパキノンの合成量を説明するための説明図である。
【図9】細胞内におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。
【図10】チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図である。
【図11】脂溶性画分の上清とコントロールの上清とによるドーパキノンの合成量を説明するための説明図である。
【好適な実施形態の説明】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0027】
<実施例:メラニン合成促進物質の製造方法>
図1は、一実施例に従うメラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法を説明するための説明図である。図1に示すように、本実施例に従うメラニン合成促進物質の製造方法は、ステビア植物組織を乾燥させて粉砕する工程(乾燥粉砕工程:S100)と、乾燥粉砕工程S100により得られた乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる工程(発酵工程:S102)と、発酵工程S102により得られた発酵ステビアから、エタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る工程(抽出工程:S104)と、抽出工程(S104)により得られた抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る工程(第1分画工程:S106)と、第1分画工程(S108)により得られたエタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る工程(第2分画工程:S108)と、第2分画工程(S108)により得られた脂溶性画分を減圧し、濃縮乾固させる工程(濃縮乾固工程:S110)とを含む。以下に、各工程の構成を詳細に説明する。
【0028】
(乾燥粉砕工程S100)
乾燥粉砕工程S100は、原料となるステビア植物の植物組織を乾燥・粉砕する工程である。本実施例の原料の一つであるステビア植物は、南米のパラグアイを原産とするキク科の多年生植物である。また、ステビア植物の学名はステビア・レバウディアナ・ベルトニー(Stevia Rebaudiana Bertoni(学術名))である。ステビア植物を日本で栽培する場合、2月から5月にかけて、種、株苗あるいは挿し木苗を定植し、栽培を開始することが多い。収穫は、ステビア植物が十分に成熟する、10月から11月上旬頃にかけて行われることが多い。
【0029】
本実施例における、メラニン合成促進物質は、このステビア植物の植物組織をよく乾燥させ、それを細かく粉砕して作った乾燥したステビア植物組織の粉末(以下、単に、乾燥ステビア粉末と称する)を原料として用いる。粉末といっても、各片の大きさが概ね1cm以下になるように粉砕してあれば十分である。また、ステビア植物の葉部および茎部を選別して使用することが好ましい。
【0030】
ステビア植物の葉部及び茎部の乾燥には、できるだけ換気の行き届いた室内にて、常温にて行うことが望ましく、急激に熱をかけたりすることは、好ましくない。
【0031】
(発酵工程S102)
発酵工程S102は、乾燥粉砕工程S100で得られた乾燥ステビア粉末を発酵させる工程である。乾燥ステビア粉末の発酵は、乾燥ステビア粉末に水と酵母を加えて撹拌し、放置することにより行うことができる。発酵工程S102において加える水は、発酵に必要なだけの量があればよく、全体が湿る程度の量で十分である。酵母としては、サッカロマイセス(Saccharomyces)類を用いることが好ましい。
【0032】
乾燥ステビア粉末の発酵は、「完全に」行うことが好ましい。発酵していないステビア粉末を舐めてみると甘い味がするが、完全に発酵したステビア粉末には甘さが認められない。したがって、完全に甘さが感じられなくなるまで発酵を進めることが望ましい。完全に発酵させるには、常温の場合でおよそ1〜4週間の放置期間が必要である。
【0033】
具体的に、発酵工程S102において、まず乾燥ステビア粉末に水分を含ませ、さらに、酵母(例えば、サッカロマイセス)を加え、常温にて1〜4週間、水分を補給しながら発酵を継続させる。そして、ステビア粉末を口に含み、その甘味を感じなくなったときを「完全」に発酵したとみなす。
【0034】
(抽出工程S104)
発酵工程S102で得られた発酵したステビア粉末(以下、単に発酵ステビアと称する)から、エタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る工程である。発酵工程S102で得られた発酵ステビアから抽出した抽出液は、メラニンの合成を促進させる機能またはチロシナーゼを活性化させる機能を有する。本実施例において、発酵ステビアから抽出を行う際に用いる溶媒をエタノールとすることが重要である。これは、後の第1分画工程S108において、エタノール可溶画分を分画するためである。
【0035】
抽出は、30%程度のエタノール水溶液を準備し、これに発酵ステビアを加え、穏やかに撹拌しながら数時間〜数日、常温にて浸潤させて行う。発酵ステビアを30%程度のエタノール水溶液に浸潤させたものを、140メッシュ程度の濾紙で濾過して得られた濾液を抽出液とする。そして、本実施例では、この抽出液をさらに60℃程度で減圧濃縮することにより、抽出液を濃縮する。
【0036】
(第1分画工程S106)
第1分画工程S106は、抽出工程S104で得られた濃縮した抽出液(以下、単に濃縮抽出液と称する)を分画して、エタノール可溶画分を得る工程である。第1分画工程S106において、エタノール可溶画分を分画するために、イオン交換樹脂(合成吸着剤)を用いる。本実施例における第1分画工程S106では、DIAION(登録商標)HP20を充填したカラムに濃縮抽出液を通すことで、濃縮抽出液からエタノール可溶画分を分画する。
【0037】
第1分画工程S106で得るエタノール可溶画分は、好ましくは、30〜100%エタノール可溶画分であり、より好ましくは70〜100%エタノール可溶画分であり、さらに好ましくは85%エタノール可溶画分である。
【0038】
(第2分画工程S108)
第2分画工程S108は、第1分画工程S106で得られたエタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る工程である。第2分画工程S108において、脂溶性画分を分画するために、弱陰イオン交換樹脂を用いる。本実施例における第2分画工程S108では、DIAION(登録商標)WA30を充填したカラムにエタノール可溶画分を通すことで、エタノール可溶画分から脂溶性画分を分画する。
【0039】
本実施例の第2分画工程S108では、まず、DIAION(登録商標)WA30を充填したカラムに、第1分画工程S106で得られたエタノール可溶画分を通し、DIAION(登録商標)WA30に吸着しなかったものを脂溶性画分とする。かかる脂溶性画分がメラニン合成促進物質として機能する。
【0040】
(濃縮乾固工程S110)
濃縮乾固工程S110は、第2分画工程S108において得られた脂溶性画分を濃縮・乾固する工程である。濃縮乾固工程S110は、保存・運搬しやすいように、第2分画工程S108で分画された脂溶性画分を減圧濃縮乾固する。
【0041】
以上説明した、乾燥粉砕工程S100、発酵工程S102、抽出工程S104、第1分画工程S106、第2分画工程S108、濃縮乾固工程S110を経ることによりメラニン合成促進物質を製造することができる。
【0042】
また、本実施例にかかる上記脂溶性画分は、メラニンの合成過程において必要不可欠な酵素であるチロシナーゼを活性化することでメラニンの合成を促進する。したがって、上記脂溶性画分はチロシナーゼ活性物質としても機能する。
【0043】
<評価>
図2は、メラニンの生合成経路を説明するための説明図である。図2に示すように、メラニンは、チロシンを出発物質として合成される。例えば、メラノサイトにおいて、血中から供給されたチロシンは、銅含有酵素であるチロシナーゼによって酸化されて、L−DOPAに合成される。さらにL−DOPAも、チロシナーゼによって酸化されてドーパキノンに合成される。そして、ドーパキノンは自動的に酸化されて、ドーパクロム、メラニンへと合成される。
【0044】
そこで、上記製造方法で製造されたメラニン合成促進物質またはチロシナーゼ活性物質のメラニン合成の促進を評価すべく以下の実験を行った。
【0045】
(B16メラノーマ(マウス黒色腫細胞株)におけるメラニン合成量の測定)
図3は、B16メラノーマを用いたメラニン合成量の比較実験の実験手順を説明するための説明図である。図3に示すように、まず、B16メラノーマに上記製造方法により製造した脂溶性画分を添加した培地で、0.3×105cells/well、37℃、5%CO2下で96時間培養を行った。またコントロールとしてB16メラノーマに脂溶性画分を添加しない培地で、上記培養条件と同様の条件で培養を行った。
【0046】
そして、脂溶性画分を添加したB16メラノーマ、コントロールのB16メラノーマそれぞれを、培養皿から回収し、Trypan Blue染色法を用いて生存細胞数を計数した。
【0047】
図4は、脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとの生存細胞数を説明するための説明図である。図4中、棒グラフに付加したエラーバーは標準偏差(mean±S.D.)を示す。図4に示すようにコントロールのB16メラノーマの生存細胞数(1.37×106個/well(標準偏差0.12))と脂溶性画分を添加したB16メラノーマの生存細胞数(1.17×106個/well(標準偏差0.15))にはほとんど差が無いため、脂溶性画分を添加したことによりB16メラノーマの死滅が促進することはないことが分かる。
【0048】
また、培養皿から回収された培養後のB16メラノーマに、1NのNaOHを添加し、75℃、90分でインキュベートし、培養後のB16メラノーマを溶解して、溶解液を得た。そして、波長405nmで、かかる溶解液の吸光度を測定してメラニンの濃度を算出した。なお、405nmはメラニンの吸収波長である。また、ここでは認証された合成メラニンを使用して検量線を作成した。
【0049】
図5は、脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとのメラニン量を説明するための説明図であり、図5(a)は、1細胞あたりのメラニン合成量を、図5(b)は、1wellあたりのメラニン合成量を示す。図5中、棒グラフに付加したエラーバーは標準偏差(mean±S.D.)を示す。図5(a)に示すように、コントロールのB16メラノーマは、1細胞あたり、30.34pg(標準偏差4.83)のメラニンを含有しており、脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1細胞あたり、55.00pg(標準偏差6.93)のメラニンを含有している。したがって、コントロールのB16メラノーマと比較して脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1細胞あたり、約1.6倍の量のメラニンを合成していることが分かる。また図5(b)に示すように、コントロールのB16メラノーマは、1wellあたり、41.27μg(標準偏差3.47)のメラニンを含有しており、脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1wellあたり、63.48μg(標準偏差5.28)のメラニンを含有している。したがって、コントロールのB16メラノーマと比較して脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1wellあたり、約1.5倍の量のメラニンを合成していることが分かる。
【0050】
これにより、上記製造方法で製造した脂溶性画分は、メラニンの合成を促進することが分かった。したがって、上記製造方法で製造した脂溶性画分(メラニン合成促進物質)を、メラノサイトに適用することでメラノサイトのメラニン合成能力を向上させることが可能となる。つまり、毛髪を産生する毛母細胞のメラノサイトに上記脂溶性画分を適用することで、毛髪の白化を抑制することができる。
【0051】
(無細胞系におけるチロシナーゼ活性測定)
図6は、無細胞系におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。図6に示すように、まず、100pg/mL、100ng/mL、100μg/mLとなるように、超音波を照射しながら脂溶性画分を、0.1MのPBS(Phosphate Buffered Saline)(pH6.8)で溶解した。そして、100pg/mL、100ng/mL、100μg/mLの脂溶性画分の溶液それぞれに200 unit/mLのマッシュルームチロシナーゼを添加し、37℃で10分インキュベートした。またコントロールとして0.1MのPBS(pH6.8)に200 unit/mLのマッシュルームチロシナーゼを添加し、37℃で10分インキュベートした。
【0052】
そして、マッシュルームチロシナーゼを添加した脂溶性画分、マッシュルームチロシナーゼを添加したコントロール、それぞれに2mM、L―DOPAを添加し、37℃に保ち、20分経過後まで、1分ごとに波長475nmで吸光度を測定した。なお、475nmはドーパキノンの吸収波長である。
【0053】
図7は、チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図であり、図8は、脂溶性画分のチロシナーゼ活性率を説明するための説明図である。
【0054】
図7に示す式に、0分時点における脂溶性画分を添加したマッシュルームチロシナーゼとL−DOPAとの混合液(以下、単に脂溶性画分の混合液と称する)の吸光度、20分時点における脂溶性画分の混合液の吸光度、0分時点におけるコントロールを添加したマッシュルームチロシナーゼとL−DOPAとの混合液(以下、単にコントロールの混合液と称する)の吸光度、および20分時点におけるコントロールの混合液の吸光度を代入することにより、脂溶性画分のチロシナーゼ活性化率(%)を算出することができる。
【0055】
図8に示すように、コントロール(100%(標準偏差9.90))と比較して、脂溶性画分はチロシナーゼ活性率が高くなった。また、脂溶性画分を100pg/mL添加した場合のチロシナーゼ活性率は105.99%(標準偏差10.46)、100ng/mL添加した場合のチロシナーゼ活性率は114.30%(標準偏差14.08)、100μg/mL添加した場合のチロシナーゼ活性率は118.06%(標準偏差8.02)となった。したがって、脂溶性画分は、濃度依存的にチロシナーゼを活性することが分かった。
【0056】
これにより、無細胞系において、上記製造方法で製造した脂溶性画分は、チロシナーゼを活性化することが分かった。
【0057】
(細胞内におけるチロシナーゼ活性測定)
図9は、細胞内におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。図9に示すように、まず、B16メラノーマに上記製造方法により製造した脂溶性画分を100μg/mLの濃度となるように添加した培地で、0.3×105cells/well、37℃、5%CO2下で96時間培養を行った。またコントロールとしてB16メラノーマに脂溶性画分を添加しない培地で、上記培養条件と同様の条件で培養を行った。
【0058】
そして、培地を除去し、脂溶性画分を添加したB16メラノーマ、コントロールのB16メラノーマそれぞれを、PBSで洗浄した。PBSで洗浄した、脂溶性画分を添加したB16メラノーマ、コントロールのB16メラノーマそれぞれを、細胞溶解タンパク抽出試薬(例えば、東洋ビーネット株式会社製Cell−LyEX1)を用いて溶解した。
【0059】
細胞溶解タンパク抽出試薬を用いて得られた細胞溶解液を回収し、15000g、4℃で15分間遠心分離を行い、上清を得た。
【0060】
得られた上清のタンパク質定量(Lowly法)を行い、培地に含まれる血清が完全に除去されたことを確認した。
【0061】
そして、得られた脂溶性画分を添加したB16メラノーマの細胞溶解液の上清(以下、単に脂溶性画分の上清と称する)、コントロールのB16メラノーマの細胞溶解液の上清以下、単にコントロールの上清と称する)、それぞれに2mM、L―DOPAを添加し、37℃に保ち、60分経過後まで、10分ごとに波長475nmで吸光度を測定した。
【0062】
図10は、チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図であり、図11は、脂溶性画分の上清のチロシナーゼ活性率を説明するための説明図である。図10に示す式に、0分時点における脂溶性画分の上清とL−DOPAとの混合液の吸光度、60分時点における脂溶性画分の上清とL−DOPAとの混合液の吸光度、0分時点におけるコントロールの上清とL−DOPAとの混合液の吸光度、および60分時点におけるコントロールの上清とL−DOPAとの混合液の吸光度を代入することにより、脂溶性画分の上清のチロシナーゼ活性化率(%)を算出することができる。
【0063】
図11に示すように、コントロール(100%(標準偏差2.66))と比較して、脂溶性画分のチロシナーゼ活性率は、131.55%(標準偏差19.67)となり、脂溶性画分の上清は、コントロールの上清と比較してチロシナーゼを131.55%活性化することが分かった。
【0064】
以上説明したように、細胞内においても、上記製造方法で製造した脂溶性画分は、チロシナーゼを活性化することが分かった。チロシナーゼは、メラニンの合成過程に不可欠な酵素であるため、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分を、メラノサイトに適用することでメラノサイトのメラニン合成能力を向上させることが可能となる。したがって、毛髪を産生する毛母細胞のメラノサイトに上記脂溶性画分を適用することで、毛髪の表面からではなく、毛髪の内部にメラニンを含ませることができ、今後生えてくる毛髪の白化を抑制することが可能となる。
【0065】
またメラニンの合成過程であるチロシンからL―DOPAへの合成は、チロシナーゼによって行われる。L−DOPAは、神経伝達物質であるドーパミンの前駆体であり、血液脳関門を通過することが可能であるため、パーキンソン病等に有用な薬剤として用いられている。したがって、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分は、チロシンからL−DOPAへの合成を促進させることができ、将来的にパーキンソン病等に好適な薬剤(医薬品)として適用することができる可能性がある。
【0066】
以上、本実施例に従うメラニン合成促進物質の製造方法およびチロシナーゼ活性物質の製造方法の詳細と、その製造方法により製造されるメラニン合成促進物質およびチロシナーゼ活性物質の効果を証明する実験結果を示した。上述した実験結果から、得られたメラニン合成促進物質が驚くべきメラニン合成促進効果を有することが示され、また、得られたチロシナーゼ活性物質が驚くべきチロシナーゼ活性効果を有することが示された。したがって、上記のメラニン合成促進物質またはチロシナーゼ活性物質のいずれか一方または両方は、皮膚外用剤、例えば、化粧料や医薬部外品、医薬品、白髪予防用医薬品等の幅広い応用が可能なものであり、特に、白髪またはそれに近い症状を呈する者や、パーキンソン病等の神経疾患またはそれに近い症状を呈する者に好適な皮膚外用剤、化粧料、医薬部外品、医薬品、白髪予防用医薬品に応用が期待できる。
【0067】
ここで、本明細書中に記載した白髪予防用医薬品という用語は造語であるが、髪などの体毛の地毛の色(元の毛の色)の発現を促進せしめうる剤という意味である。実施例によっては、その剤のチロシナーゼ活性作用またはメラニン合成促進作用により、体毛の白化を防止したり遅らせたり、さらには色を濃くしたりという効果が期待できる。通常、加齢と共に体毛の色は薄くなり、終には白色となることが多いが、実施例によっては、そのような加齢変化の進行を防止したり遅らせたり、または逆転させたりという効果が期待できるということである。このため、実施例によっては、本発明を利用する剤を、老化を防止する抗老化剤と言い表してもよい場合があるだろう。
【0068】
本発明によるメラニン合成促進物質またはチロシナーゼ活性物質のいずれか一方または両方は、化粧料においては、毛の色を地毛の色に戻す白髪予防用医薬品(毛の老化を防止する抗老化毛剤)、頭髪用化粧品、整髪料、養毛料、頭皮料、毛髪着色料、洗髪料、ヘアリンス、皮膚用化粧品・化粧水、化粧液、クリーム、乳液、日焼け、日焼け止め、洗浄料、ひげそり、むだ毛そり、フェイシャルリンス、パック、化粧用油、ボディリンス、マッサージ料、仕上用化粧品・ファンデーション、化粧下地、おしろい、口紅、アイメークアップ、頬化粧料、ボディメークアップ、オーデコロン・香水、浴用化粧料、爪化粧料、ボディパウダー等、また医薬品においては、散剤・細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、桿剤、ペンシル剤、内容液剤、外用液剤、エキス剤、硬膏剤、坐剤、エアゾール、ガス剤、薬品吸着剤、眼科用剤、注射剤、絆創膏剤等幅広く使用可能である。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲を逸脱せずに、各種の変更または修正を行いうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0070】
なお、本明細書のメラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法およびチロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的に進めることも可能である。
【0071】
本発明は、例えば、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法、メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
S100 …乾燥粉砕工程
S102 …発酵工程
S104 …抽出工程
S106 …第1分画工程
S108 …第2分画工程
S110 …濃縮乾固工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニンの合成を促進しうる技術に関し、例えば、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法、メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品に好適に適用されうる。
【発明の背景】
【0002】
毛髪の色は、毛髪を産生する毛母細胞にあるメラノサイト(色素細胞)が合成するメラニンの色である。老化、ストレス、病気、遺伝等によって、メラノサイトのメラニン合成能力が低下すると、毛髪へのメラニンの供給が減少し、毛髪の白化、所謂白髪が生じることとなる。
【0003】
従来、白髪を目立たなくするために様々な毛髪着色料(染毛剤)が開発されている。染毛剤として、例えば、酸化染毛剤が広く利用されている。酸化染毛剤は、毛髪の表皮(キューティクル)を開き、毛髪内部に色素を注入させることで、毛髪を着色するものである。酸化染毛剤では、キューティクルを開いて色素を注入させるため、酸化染毛剤を用いて染毛した毛髪は、傷みやすく、つやや潤いがなくなり、櫛通りが悪くなってしまう。
【0004】
そこで、酸化染毛剤に、カチオン性高分子、両性高分子およびアニオン性高分子を含有させることにより、毛髪の柔軟性、しっとり感またはなめらかさを向上させる染毛剤が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−193772号公報
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術を利用したとしても、毛髪の表面のキューティクルを開いて色素を注入しなければ染毛できないことに変わりないので、毛髪へのダメージを完全に無くすことは困難である。また、白髪自体が無くなるわけではないので、毛髪が伸びてくると、先端の染めた部分と頭皮側の染めていない部分(白髪の部分)との色の差が目立つようになり、違和感を生じてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、メラニンの合成を促進しうる新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の具現化形態の一例として、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法であって、発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、を含む製造方法を開示する。
【0009】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、発酵ステビアの抽出液を分画して得られるエタノール可溶画分をさらに分画した脂溶性画分にメラニンの合成を促進させる作用があることを見いだした。したがって、例えば、毛髪を産生する毛母細胞のメラノサイトに上記脂溶性画分を適用することで、毛髪の表面からではなく、毛髪の内部にメラニンを含ませることができ、今後生えてくる毛髪の白化を抑制することが可能となる。
【0010】
上記第1分画工程の前段に、乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る抽出工程と、を含んでもよい。
【0011】
上記の発酵工程および抽出工程を経て得られた発酵ステビア抽出液は、上記製造方法にてメラニン合成促進物質を得るための発酵ステビア抽出液として好適である。
【0012】
上記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分であってもよい。
【0013】
30〜100%エタノール可溶画分から分画した脂溶性画分は、メラニン合成促進物質として特に優れている。
【0014】
本発明の具現化形態の別の例に従う、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質は、発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む。
【0015】
本発明の具現化形態の別の例に従う皮膚外用剤は、上記メラニン合成促進物質の製造方法により製造された、メラニン合成促進物質を含む。上記皮膚外用剤は、化粧料であっても、医薬部外品であっても、医薬品であっても、白髪予防用医薬品であってもよい。
【0016】
本発明の具現化形態の別の例として、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法を開示する。この製造方法は、発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、を有する。
【0017】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、発酵ステビアの抽出液を分画して得られるエタノール可溶画分をさらに分画した脂溶性画分にチロシナーゼを活性化させる機能があることを見いだした。チロシナーゼは、メラニンの合成過程に不可欠な酵素であるため、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分を、メラノサイトに適用することでメラノサイトのメラニン合成能力を向上させることが可能となる。
【0018】
またメラニンの合成過程であるチロシンからL―DOPA(3,4-dihydroxy-L-phenylalanine)への合成は、チロシナーゼによって行われる。L−DOPAは、神経伝達物質であるドーパミンの前駆体であり、血液脳関門を通過することが可能であるため、パーキンソン病等に有用な薬剤として用いられている。したがって、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分は、チロシンからL−DOPAへの合成を促進させることができ、将来的にパーキンソン病等に好適な薬剤として適用することができる可能性がある。
【0019】
上記第1分画工程の前段に、乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る抽出工程と、を含んでもよい。
【0020】
上記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分であってもよい。
【0021】
本発明の具現化形態の一例に従う、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質は、発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む。
【0022】
本発明の具現化形態の一例に従う医薬品は、上記チロシナーゼ活性物質の製造方法により製造された、チロシナーゼ活性物質を含む。
【0023】
上述したメラニン合成促進物質の製造方法の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品にも適用可能である。
【0024】
実施形態によっては、チロシナーゼを活性化させることでメラニンの合成を促進させることができ、今後生えてくる毛髪の内部にメラニンを含ませて、毛髪の白化を抑制することが可能となる。実施形態には、例えば、メラニン合成促進物質の製造方法、メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施例に従うメラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法を説明するための説明図である。
【図2】メラニンの生合成経路を説明するための説明図である。
【図3】B16メラノーマを用いたメラニン合成量の比較実験の実験手順を説明するための説明図である。
【図4】脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとの生存細胞数を説明するための説明図である。
【図5】脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとのメラニン量を説明するための説明図である。
【図6】無細胞系におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。
【図7】チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図である。
【図8】脂溶性画分を添加したマッシュルームチロシナーゼとコントロールのマッシュルームチロシナーゼとのドーパキノンの合成量を説明するための説明図である。
【図9】細胞内におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。
【図10】チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図である。
【図11】脂溶性画分の上清とコントロールの上清とによるドーパキノンの合成量を説明するための説明図である。
【好適な実施形態の説明】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0027】
<実施例:メラニン合成促進物質の製造方法>
図1は、一実施例に従うメラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法を説明するための説明図である。図1に示すように、本実施例に従うメラニン合成促進物質の製造方法は、ステビア植物組織を乾燥させて粉砕する工程(乾燥粉砕工程:S100)と、乾燥粉砕工程S100により得られた乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる工程(発酵工程:S102)と、発酵工程S102により得られた発酵ステビアから、エタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る工程(抽出工程:S104)と、抽出工程(S104)により得られた抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る工程(第1分画工程:S106)と、第1分画工程(S108)により得られたエタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る工程(第2分画工程:S108)と、第2分画工程(S108)により得られた脂溶性画分を減圧し、濃縮乾固させる工程(濃縮乾固工程:S110)とを含む。以下に、各工程の構成を詳細に説明する。
【0028】
(乾燥粉砕工程S100)
乾燥粉砕工程S100は、原料となるステビア植物の植物組織を乾燥・粉砕する工程である。本実施例の原料の一つであるステビア植物は、南米のパラグアイを原産とするキク科の多年生植物である。また、ステビア植物の学名はステビア・レバウディアナ・ベルトニー(Stevia Rebaudiana Bertoni(学術名))である。ステビア植物を日本で栽培する場合、2月から5月にかけて、種、株苗あるいは挿し木苗を定植し、栽培を開始することが多い。収穫は、ステビア植物が十分に成熟する、10月から11月上旬頃にかけて行われることが多い。
【0029】
本実施例における、メラニン合成促進物質は、このステビア植物の植物組織をよく乾燥させ、それを細かく粉砕して作った乾燥したステビア植物組織の粉末(以下、単に、乾燥ステビア粉末と称する)を原料として用いる。粉末といっても、各片の大きさが概ね1cm以下になるように粉砕してあれば十分である。また、ステビア植物の葉部および茎部を選別して使用することが好ましい。
【0030】
ステビア植物の葉部及び茎部の乾燥には、できるだけ換気の行き届いた室内にて、常温にて行うことが望ましく、急激に熱をかけたりすることは、好ましくない。
【0031】
(発酵工程S102)
発酵工程S102は、乾燥粉砕工程S100で得られた乾燥ステビア粉末を発酵させる工程である。乾燥ステビア粉末の発酵は、乾燥ステビア粉末に水と酵母を加えて撹拌し、放置することにより行うことができる。発酵工程S102において加える水は、発酵に必要なだけの量があればよく、全体が湿る程度の量で十分である。酵母としては、サッカロマイセス(Saccharomyces)類を用いることが好ましい。
【0032】
乾燥ステビア粉末の発酵は、「完全に」行うことが好ましい。発酵していないステビア粉末を舐めてみると甘い味がするが、完全に発酵したステビア粉末には甘さが認められない。したがって、完全に甘さが感じられなくなるまで発酵を進めることが望ましい。完全に発酵させるには、常温の場合でおよそ1〜4週間の放置期間が必要である。
【0033】
具体的に、発酵工程S102において、まず乾燥ステビア粉末に水分を含ませ、さらに、酵母(例えば、サッカロマイセス)を加え、常温にて1〜4週間、水分を補給しながら発酵を継続させる。そして、ステビア粉末を口に含み、その甘味を感じなくなったときを「完全」に発酵したとみなす。
【0034】
(抽出工程S104)
発酵工程S102で得られた発酵したステビア粉末(以下、単に発酵ステビアと称する)から、エタノール水溶液を用いて抽出を行い、抽出液を得る工程である。発酵工程S102で得られた発酵ステビアから抽出した抽出液は、メラニンの合成を促進させる機能またはチロシナーゼを活性化させる機能を有する。本実施例において、発酵ステビアから抽出を行う際に用いる溶媒をエタノールとすることが重要である。これは、後の第1分画工程S108において、エタノール可溶画分を分画するためである。
【0035】
抽出は、30%程度のエタノール水溶液を準備し、これに発酵ステビアを加え、穏やかに撹拌しながら数時間〜数日、常温にて浸潤させて行う。発酵ステビアを30%程度のエタノール水溶液に浸潤させたものを、140メッシュ程度の濾紙で濾過して得られた濾液を抽出液とする。そして、本実施例では、この抽出液をさらに60℃程度で減圧濃縮することにより、抽出液を濃縮する。
【0036】
(第1分画工程S106)
第1分画工程S106は、抽出工程S104で得られた濃縮した抽出液(以下、単に濃縮抽出液と称する)を分画して、エタノール可溶画分を得る工程である。第1分画工程S106において、エタノール可溶画分を分画するために、イオン交換樹脂(合成吸着剤)を用いる。本実施例における第1分画工程S106では、DIAION(登録商標)HP20を充填したカラムに濃縮抽出液を通すことで、濃縮抽出液からエタノール可溶画分を分画する。
【0037】
第1分画工程S106で得るエタノール可溶画分は、好ましくは、30〜100%エタノール可溶画分であり、より好ましくは70〜100%エタノール可溶画分であり、さらに好ましくは85%エタノール可溶画分である。
【0038】
(第2分画工程S108)
第2分画工程S108は、第1分画工程S106で得られたエタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る工程である。第2分画工程S108において、脂溶性画分を分画するために、弱陰イオン交換樹脂を用いる。本実施例における第2分画工程S108では、DIAION(登録商標)WA30を充填したカラムにエタノール可溶画分を通すことで、エタノール可溶画分から脂溶性画分を分画する。
【0039】
本実施例の第2分画工程S108では、まず、DIAION(登録商標)WA30を充填したカラムに、第1分画工程S106で得られたエタノール可溶画分を通し、DIAION(登録商標)WA30に吸着しなかったものを脂溶性画分とする。かかる脂溶性画分がメラニン合成促進物質として機能する。
【0040】
(濃縮乾固工程S110)
濃縮乾固工程S110は、第2分画工程S108において得られた脂溶性画分を濃縮・乾固する工程である。濃縮乾固工程S110は、保存・運搬しやすいように、第2分画工程S108で分画された脂溶性画分を減圧濃縮乾固する。
【0041】
以上説明した、乾燥粉砕工程S100、発酵工程S102、抽出工程S104、第1分画工程S106、第2分画工程S108、濃縮乾固工程S110を経ることによりメラニン合成促進物質を製造することができる。
【0042】
また、本実施例にかかる上記脂溶性画分は、メラニンの合成過程において必要不可欠な酵素であるチロシナーゼを活性化することでメラニンの合成を促進する。したがって、上記脂溶性画分はチロシナーゼ活性物質としても機能する。
【0043】
<評価>
図2は、メラニンの生合成経路を説明するための説明図である。図2に示すように、メラニンは、チロシンを出発物質として合成される。例えば、メラノサイトにおいて、血中から供給されたチロシンは、銅含有酵素であるチロシナーゼによって酸化されて、L−DOPAに合成される。さらにL−DOPAも、チロシナーゼによって酸化されてドーパキノンに合成される。そして、ドーパキノンは自動的に酸化されて、ドーパクロム、メラニンへと合成される。
【0044】
そこで、上記製造方法で製造されたメラニン合成促進物質またはチロシナーゼ活性物質のメラニン合成の促進を評価すべく以下の実験を行った。
【0045】
(B16メラノーマ(マウス黒色腫細胞株)におけるメラニン合成量の測定)
図3は、B16メラノーマを用いたメラニン合成量の比較実験の実験手順を説明するための説明図である。図3に示すように、まず、B16メラノーマに上記製造方法により製造した脂溶性画分を添加した培地で、0.3×105cells/well、37℃、5%CO2下で96時間培養を行った。またコントロールとしてB16メラノーマに脂溶性画分を添加しない培地で、上記培養条件と同様の条件で培養を行った。
【0046】
そして、脂溶性画分を添加したB16メラノーマ、コントロールのB16メラノーマそれぞれを、培養皿から回収し、Trypan Blue染色法を用いて生存細胞数を計数した。
【0047】
図4は、脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとの生存細胞数を説明するための説明図である。図4中、棒グラフに付加したエラーバーは標準偏差(mean±S.D.)を示す。図4に示すようにコントロールのB16メラノーマの生存細胞数(1.37×106個/well(標準偏差0.12))と脂溶性画分を添加したB16メラノーマの生存細胞数(1.17×106個/well(標準偏差0.15))にはほとんど差が無いため、脂溶性画分を添加したことによりB16メラノーマの死滅が促進することはないことが分かる。
【0048】
また、培養皿から回収された培養後のB16メラノーマに、1NのNaOHを添加し、75℃、90分でインキュベートし、培養後のB16メラノーマを溶解して、溶解液を得た。そして、波長405nmで、かかる溶解液の吸光度を測定してメラニンの濃度を算出した。なお、405nmはメラニンの吸収波長である。また、ここでは認証された合成メラニンを使用して検量線を作成した。
【0049】
図5は、脂溶性画分を添加したB16メラノーマとコントロールのB16メラノーマとのメラニン量を説明するための説明図であり、図5(a)は、1細胞あたりのメラニン合成量を、図5(b)は、1wellあたりのメラニン合成量を示す。図5中、棒グラフに付加したエラーバーは標準偏差(mean±S.D.)を示す。図5(a)に示すように、コントロールのB16メラノーマは、1細胞あたり、30.34pg(標準偏差4.83)のメラニンを含有しており、脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1細胞あたり、55.00pg(標準偏差6.93)のメラニンを含有している。したがって、コントロールのB16メラノーマと比較して脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1細胞あたり、約1.6倍の量のメラニンを合成していることが分かる。また図5(b)に示すように、コントロールのB16メラノーマは、1wellあたり、41.27μg(標準偏差3.47)のメラニンを含有しており、脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1wellあたり、63.48μg(標準偏差5.28)のメラニンを含有している。したがって、コントロールのB16メラノーマと比較して脂溶性画分を添加したB16メラノーマは、1wellあたり、約1.5倍の量のメラニンを合成していることが分かる。
【0050】
これにより、上記製造方法で製造した脂溶性画分は、メラニンの合成を促進することが分かった。したがって、上記製造方法で製造した脂溶性画分(メラニン合成促進物質)を、メラノサイトに適用することでメラノサイトのメラニン合成能力を向上させることが可能となる。つまり、毛髪を産生する毛母細胞のメラノサイトに上記脂溶性画分を適用することで、毛髪の白化を抑制することができる。
【0051】
(無細胞系におけるチロシナーゼ活性測定)
図6は、無細胞系におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。図6に示すように、まず、100pg/mL、100ng/mL、100μg/mLとなるように、超音波を照射しながら脂溶性画分を、0.1MのPBS(Phosphate Buffered Saline)(pH6.8)で溶解した。そして、100pg/mL、100ng/mL、100μg/mLの脂溶性画分の溶液それぞれに200 unit/mLのマッシュルームチロシナーゼを添加し、37℃で10分インキュベートした。またコントロールとして0.1MのPBS(pH6.8)に200 unit/mLのマッシュルームチロシナーゼを添加し、37℃で10分インキュベートした。
【0052】
そして、マッシュルームチロシナーゼを添加した脂溶性画分、マッシュルームチロシナーゼを添加したコントロール、それぞれに2mM、L―DOPAを添加し、37℃に保ち、20分経過後まで、1分ごとに波長475nmで吸光度を測定した。なお、475nmはドーパキノンの吸収波長である。
【0053】
図7は、チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図であり、図8は、脂溶性画分のチロシナーゼ活性率を説明するための説明図である。
【0054】
図7に示す式に、0分時点における脂溶性画分を添加したマッシュルームチロシナーゼとL−DOPAとの混合液(以下、単に脂溶性画分の混合液と称する)の吸光度、20分時点における脂溶性画分の混合液の吸光度、0分時点におけるコントロールを添加したマッシュルームチロシナーゼとL−DOPAとの混合液(以下、単にコントロールの混合液と称する)の吸光度、および20分時点におけるコントロールの混合液の吸光度を代入することにより、脂溶性画分のチロシナーゼ活性化率(%)を算出することができる。
【0055】
図8に示すように、コントロール(100%(標準偏差9.90))と比較して、脂溶性画分はチロシナーゼ活性率が高くなった。また、脂溶性画分を100pg/mL添加した場合のチロシナーゼ活性率は105.99%(標準偏差10.46)、100ng/mL添加した場合のチロシナーゼ活性率は114.30%(標準偏差14.08)、100μg/mL添加した場合のチロシナーゼ活性率は118.06%(標準偏差8.02)となった。したがって、脂溶性画分は、濃度依存的にチロシナーゼを活性することが分かった。
【0056】
これにより、無細胞系において、上記製造方法で製造した脂溶性画分は、チロシナーゼを活性化することが分かった。
【0057】
(細胞内におけるチロシナーゼ活性測定)
図9は、細胞内におけるチロシナーゼ活性を測定するための実験手順を説明するための説明図である。図9に示すように、まず、B16メラノーマに上記製造方法により製造した脂溶性画分を100μg/mLの濃度となるように添加した培地で、0.3×105cells/well、37℃、5%CO2下で96時間培養を行った。またコントロールとしてB16メラノーマに脂溶性画分を添加しない培地で、上記培養条件と同様の条件で培養を行った。
【0058】
そして、培地を除去し、脂溶性画分を添加したB16メラノーマ、コントロールのB16メラノーマそれぞれを、PBSで洗浄した。PBSで洗浄した、脂溶性画分を添加したB16メラノーマ、コントロールのB16メラノーマそれぞれを、細胞溶解タンパク抽出試薬(例えば、東洋ビーネット株式会社製Cell−LyEX1)を用いて溶解した。
【0059】
細胞溶解タンパク抽出試薬を用いて得られた細胞溶解液を回収し、15000g、4℃で15分間遠心分離を行い、上清を得た。
【0060】
得られた上清のタンパク質定量(Lowly法)を行い、培地に含まれる血清が完全に除去されたことを確認した。
【0061】
そして、得られた脂溶性画分を添加したB16メラノーマの細胞溶解液の上清(以下、単に脂溶性画分の上清と称する)、コントロールのB16メラノーマの細胞溶解液の上清以下、単にコントロールの上清と称する)、それぞれに2mM、L―DOPAを添加し、37℃に保ち、60分経過後まで、10分ごとに波長475nmで吸光度を測定した。
【0062】
図10は、チロシナーゼ活性化率を評価するための式を示す図であり、図11は、脂溶性画分の上清のチロシナーゼ活性率を説明するための説明図である。図10に示す式に、0分時点における脂溶性画分の上清とL−DOPAとの混合液の吸光度、60分時点における脂溶性画分の上清とL−DOPAとの混合液の吸光度、0分時点におけるコントロールの上清とL−DOPAとの混合液の吸光度、および60分時点におけるコントロールの上清とL−DOPAとの混合液の吸光度を代入することにより、脂溶性画分の上清のチロシナーゼ活性化率(%)を算出することができる。
【0063】
図11に示すように、コントロール(100%(標準偏差2.66))と比較して、脂溶性画分のチロシナーゼ活性率は、131.55%(標準偏差19.67)となり、脂溶性画分の上清は、コントロールの上清と比較してチロシナーゼを131.55%活性化することが分かった。
【0064】
以上説明したように、細胞内においても、上記製造方法で製造した脂溶性画分は、チロシナーゼを活性化することが分かった。チロシナーゼは、メラニンの合成過程に不可欠な酵素であるため、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分を、メラノサイトに適用することでメラノサイトのメラニン合成能力を向上させることが可能となる。したがって、毛髪を産生する毛母細胞のメラノサイトに上記脂溶性画分を適用することで、毛髪の表面からではなく、毛髪の内部にメラニンを含ませることができ、今後生えてくる毛髪の白化を抑制することが可能となる。
【0065】
またメラニンの合成過程であるチロシンからL―DOPAへの合成は、チロシナーゼによって行われる。L−DOPAは、神経伝達物質であるドーパミンの前駆体であり、血液脳関門を通過することが可能であるため、パーキンソン病等に有用な薬剤として用いられている。したがって、チロシナーゼを活性化する上記脂溶性画分は、チロシンからL−DOPAへの合成を促進させることができ、将来的にパーキンソン病等に好適な薬剤(医薬品)として適用することができる可能性がある。
【0066】
以上、本実施例に従うメラニン合成促進物質の製造方法およびチロシナーゼ活性物質の製造方法の詳細と、その製造方法により製造されるメラニン合成促進物質およびチロシナーゼ活性物質の効果を証明する実験結果を示した。上述した実験結果から、得られたメラニン合成促進物質が驚くべきメラニン合成促進効果を有することが示され、また、得られたチロシナーゼ活性物質が驚くべきチロシナーゼ活性効果を有することが示された。したがって、上記のメラニン合成促進物質またはチロシナーゼ活性物質のいずれか一方または両方は、皮膚外用剤、例えば、化粧料や医薬部外品、医薬品、白髪予防用医薬品等の幅広い応用が可能なものであり、特に、白髪またはそれに近い症状を呈する者や、パーキンソン病等の神経疾患またはそれに近い症状を呈する者に好適な皮膚外用剤、化粧料、医薬部外品、医薬品、白髪予防用医薬品に応用が期待できる。
【0067】
ここで、本明細書中に記載した白髪予防用医薬品という用語は造語であるが、髪などの体毛の地毛の色(元の毛の色)の発現を促進せしめうる剤という意味である。実施例によっては、その剤のチロシナーゼ活性作用またはメラニン合成促進作用により、体毛の白化を防止したり遅らせたり、さらには色を濃くしたりという効果が期待できる。通常、加齢と共に体毛の色は薄くなり、終には白色となることが多いが、実施例によっては、そのような加齢変化の進行を防止したり遅らせたり、または逆転させたりという効果が期待できるということである。このため、実施例によっては、本発明を利用する剤を、老化を防止する抗老化剤と言い表してもよい場合があるだろう。
【0068】
本発明によるメラニン合成促進物質またはチロシナーゼ活性物質のいずれか一方または両方は、化粧料においては、毛の色を地毛の色に戻す白髪予防用医薬品(毛の老化を防止する抗老化毛剤)、頭髪用化粧品、整髪料、養毛料、頭皮料、毛髪着色料、洗髪料、ヘアリンス、皮膚用化粧品・化粧水、化粧液、クリーム、乳液、日焼け、日焼け止め、洗浄料、ひげそり、むだ毛そり、フェイシャルリンス、パック、化粧用油、ボディリンス、マッサージ料、仕上用化粧品・ファンデーション、化粧下地、おしろい、口紅、アイメークアップ、頬化粧料、ボディメークアップ、オーデコロン・香水、浴用化粧料、爪化粧料、ボディパウダー等、また医薬品においては、散剤・細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、桿剤、ペンシル剤、内容液剤、外用液剤、エキス剤、硬膏剤、坐剤、エアゾール、ガス剤、薬品吸着剤、眼科用剤、注射剤、絆創膏剤等幅広く使用可能である。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲を逸脱せずに、各種の変更または修正を行いうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0070】
なお、本明細書のメラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法およびチロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的に進めることも可能である。
【0071】
本発明は、例えば、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法、メラニン合成促進物質、皮膚外用剤、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法、チロシナーゼ活性物質、および医薬品に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
S100 …乾燥粉砕工程
S102 …発酵工程
S104 …抽出工程
S106 …第1分画工程
S108 …第2分画工程
S110 …濃縮乾固工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法であって、
発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、
前記エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、
を含むメラニン合成促進物質の製造方法。
【請求項2】
前記第1分画工程の前段に、
乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、前記抽出液を得る抽出工程と、
を含む請求項1に記載のメラニン合成促進物質の製造方法。
【請求項3】
前記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分である請求項1または2に記載のメラニン合成促進物質の製造方法。
【請求項4】
発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された、メラニン合成促進物質を含む、皮膚外用剤。
【請求項6】
化粧料である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
医薬部外品である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項8】
医薬品である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項9】
白髪予防用医薬品である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項10】
チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法であって、
発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、
前記エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、
を含むチロシナーゼ活性物質の製造方法。
【請求項11】
前記第1分画工程の前段に、
乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、前記抽出液を得る抽出工程と、
を含む請求項10に記載のチロシナーゼ活性物質の製造方法。
【請求項12】
前記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分である請求項10または11に記載のチロシナーゼ活性物質の製造方法。
【請求項13】
発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質。
【請求項14】
請求項10から12のいずれか1項に記載の製造方法により製造された、チロシナーゼ活性物質を含む、医薬品。
【請求項1】
メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質の製造方法であって、
発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、
前記エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、
を含むメラニン合成促進物質の製造方法。
【請求項2】
前記第1分画工程の前段に、
乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、前記抽出液を得る抽出工程と、
を含む請求項1に記載のメラニン合成促進物質の製造方法。
【請求項3】
前記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分である請求項1または2に記載のメラニン合成促進物質の製造方法。
【請求項4】
発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進物質。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された、メラニン合成促進物質を含む、皮膚外用剤。
【請求項6】
化粧料である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
医薬部外品である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項8】
医薬品である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項9】
白髪予防用医薬品である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項10】
チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質の製造方法であって、
発酵ステビアの抽出液を分画してエタノール可溶画分を得る第1分画工程と、
前記エタノール可溶画分をさらに分画して脂溶性画分を得る第2分画工程と、
を含むチロシナーゼ活性物質の製造方法。
【請求項11】
前記第1分画工程の前段に、
乾燥したステビア植物組織に酵母および水を加えて発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程により得られた発酵ステビアからエタノール水溶液を用いて抽出を行い、前記抽出液を得る抽出工程と、
を含む請求項10に記載のチロシナーゼ活性物質の製造方法。
【請求項12】
前記第1分画工程において得られるエタノール可溶画分は、30〜100%エタノール可溶画分である請求項10または11に記載のチロシナーゼ活性物質の製造方法。
【請求項13】
発酵ステビアの抽出液を分画することにより得られるエタノール可溶画分をさらに分画して得た脂溶性画分を含む、チロシナーゼを活性化させるチロシナーゼ活性物質。
【請求項14】
請求項10から12のいずれか1項に記載の製造方法により製造された、チロシナーゼ活性物質を含む、医薬品。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】




【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【公開番号】特開2011−136976(P2011−136976A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17510(P2010−17510)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 日本研究皮膚科学会 第34回年次学術大会.総会 会頭 橋本 隆 刊行物名 日本研究皮膚科学会 第34回年次学術大会.総会 プログラム・抄録集 The 34th Annual Meeting of the Japanese Society for Investigative Dermatology PROGRAM 発行年月日 平成21年11月10日
【出願人】(599047125)株式会社シャローム (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 日本研究皮膚科学会 第34回年次学術大会.総会 会頭 橋本 隆 刊行物名 日本研究皮膚科学会 第34回年次学術大会.総会 プログラム・抄録集 The 34th Annual Meeting of the Japanese Society for Investigative Dermatology PROGRAM 発行年月日 平成21年11月10日
【出願人】(599047125)株式会社シャローム (5)
【Fターム(参考)】
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