説明

メラニン生成抑制剤、化粧剤、皮膚外用剤、医薬部外品および抗癌剤

【課題】効果的にメラニン生成を抑制できるメラニン生成抑制剤、化粧剤、皮膚外用剤、医薬部外品および抗癌剤の提供。
【解決手段】ベオミケス酸を含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤であって、特に、前記ベオミケス酸の含有量が50〜200μg/mlであるメラニン生成抑制剤であり、化粧剤、皮膚外用剤、医薬部外品および抗癌剤として適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚のメラニン生成を抑制させるメラニン生成抑制剤、化粧剤、皮膚外用剤、医薬部外品および抗癌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メラニンとは、フェノール類物質が高分子化して色素となったものの総称である。ヒトの皮膚においては、紫外線やその他の刺激により、皮膚中の色素細胞が活性化されメラニン量が増加し、皮膚の色素沈着が生じ、しみ(肝斑)やそばかす(雀卵斑)などの肌のトラブルとなる。
このようなメラニン生成を抑制するメラニン生成抑制剤については、従来から研究されてきたが、効果については不十分である。
【0003】
また、以前からムシゴケ科に属する地衣類からの抽出物には、メラニン生成を抑制する成分が含まれていることは知られている(特許文献1参照)。
しかし、ムシゴケ科に属する地衣類は多数あり、また、その中で特にどの地衣類の抽出物が有効なのか判明していないため、効果的にメラニン生成抑制効果を奏する抑制剤を得ることは困難であり、実用性に乏しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−182731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の問題点に鑑み、本発明は、効果的にメラニン生成を抑制できるメラニン生成抑制剤、化粧剤、皮膚外用剤、医薬部外品および抗癌剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のメラニン生成抑制剤は、ベオミケス酸を含有することを特徴としている。
【0007】
また、前記ベオミケス酸の含有量が50〜200μg/mlであることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、このようなメラニン生成抑制剤を配合した化粧剤、皮膚外用剤、医薬部外品および抗癌剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメラニン生成抑制剤は、ベオミケス酸を含有していることにより、効果的にメラニン生成を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のメラニン抑制剤のチロシナーゼ遺伝子発現抑制作用を示す図。
【図2】本発明のメラニン抑制剤のメラニン生成抑制作用を示す図。
【図3】試験例および比較例のメラニン濃度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ベオミケス酸は、下記化学式(1)で示される化合物である。
【化1】

前記ベオミケス酸の含有量としては、50〜200μg/ml、好ましくは50〜100μg/ml含まれることが好ましい。
含有量が50μg/mlより低い場合には、メラニン抑制に効果がなく、200μg/mlを超えて含まれる場合には、細胞に対してダメージを与えるためである。
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明のメラニン抑制剤は、ベオミケス酸を有効成分として含有するものである。
ベオミケス酸は、トキワムシゴケ(学名:Thamnolia subuliformis (Ehrh.) W.Culb.)から抽出して精製したものを使用してもよく、また合成したものを使用してもよい。
【0013】
トキワムシゴケから抽出する場合には、抽出する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、トキワムシゴケを乾燥しあるいは生のまま粉砕や細断して、溶媒を用いて直接抽出する方法や、圧搾処理方法や、圧搾後の残渣にさらに溶媒を加えて抽出する方法などが使用できる。
【0014】
抽出溶媒としても特に限定されるものではなく、通常用いられる溶媒であれば任意に用いることができる。たとえば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等の有機溶媒類等であり、それらは単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0015】
抽出方法としては、前記溶媒中にトキワムシゴケの地衣体の乾燥物を裁断したものを824時間、好ましくは8〜12時間、0〜30℃、好ましくは0℃〜10℃、さらに好ましくは4℃程度の抽出時間および溶媒温度で抽出することができる。
また、抽出後に抽出液を蒸発乾固することで固体の抽出物とすることもできる。
【0016】
本発明のメラニン生成抑制剤中にベオミケス酸を、50〜100μg/ml含有させるために、前記トキワムシゴケの抽出物(蒸発乾固)はメラニン生成抑制剤中に100〜200μg/ml程度配合されることが好ましい。
【0017】
本発明のメラニン生成抑制剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種任意成分を必要に応じて適宜配合することができる。
このような任意成分として、たとえば、一般に化粧料で用いられ、或いは医薬部外品、医薬品等の皮膚外用剤に用いられる各種任意成分をとして使用する場合には精製水、エタノール、油性成分、保湿剤、増粘剤、防腐剤、乳化剤、薬効成分、粉体、紫外線吸収剤、色素、香料、乳化安定剤等を挙げることができる
【0018】
また、本発明のメラニン生成抑制剤の形態は、液状、乳液、軟膏、クリーム、ゲル、エアゾール等外皮に適用可能な性状のものであれば問われるものではなく、必要に応じて適宜基剤成分等を配合して所望の形態を調製することができる。また、本発明のメラニン生成抑制剤は、医薬品、医薬部外品又は化粧品等の多様な分野において適用可能である。
【0019】
本発明のメラニン生成抑制剤は、色素沈着疾患の治療や予防に用いることが可能であり、具体的には、しみ(肝斑)、そばかす(雀卵斑)、日焼けによる色素沈着や、老人性色素斑の治療や予防等に広く用いることができる。
【0020】
本発明のメラニン生成抑制剤がメラニン生成を抑制するしくみは下記のような理由だと考えられる。
【0021】
哺乳類においては皮膚のメラニン生成がおきるしくみとして、細胞中のチロシンが、チロシナーゼによって酸化されてドーパ(L−DOPA)になり、さらにドーパキノンへ代謝されるが、一般的なメラニン生成抑制剤はこのチロシナーゼ活性を阻害するものが良く知られている。
一方、メラニン生成が促進される経路は複数あり、例えば紫外線などの刺激によって、チロシナーゼ遺伝子の転写因子をリン酸化する物質が増え、色素細胞をコントロールするチロシナーゼ遺伝子の発現が増加され、メラニン生成が促進されるという経路もある。
すなわち、チロシナーゼ遺伝子の発現を抑制すれば、チロシナーゼの増加も抑制でき、その結果メラニン生成も抑制できる。
【0022】
本発明のメラニン生成抑制剤は、チロシナーゼを阻害するのではなくチロシナーゼ遺伝子の発現を抑制することでメラニン生成を抑制するものである。
このことを確認するために、本発明のメライン生成抑制剤をDMSO(ジメチルスルホキシド)等の溶媒で希釈し、マッシュルームチロシナーゼとともに25℃、10分間インキュベートした反応液に基質としてのL−DOPAを加えて反応させた液の吸光度を、分光光度計で測定したところ、チロシナーゼ活性は阻害されていないという結果がでた。
すなわち、本発明のメライン生成抑制剤ではチロシナーゼ活性を阻害することによって、メラニン生成を抑制するのではないということが確認された。
【0023】
一方、本発明のメラニン生成抑制剤は、チロシナーゼ遺伝子の発現を抑制することが判明している。
以下の実施例で、本発明のメラニン生成抑制剤のチロシナーゼ遺伝子の発現抑制について具体的に説明する。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明のメラニン生成抑制剤のチロシナーゼ遺伝子の発現抑制およびメラニン生成抑制について説明する。
【0025】
[チロシナーゼ遺伝子発現抑制]
(試料の作製)
トキワムシゴケの乾燥物(株式会社栃本天海堂製、製品名:雪茶)5gを、手でちぎりアセトン500mlに浸漬し、4℃、約10時間抽出した液を濾紙で濾過した抽出液を得た。この抽出液をエバポレーター(東京理化器械株式会社製、製品名:EYELA ROTARY EVAPOLATOR N-N SERIES)で窒素気流下において蒸発乾固化させて、粉末を425mg得た。
【0026】
(B16細胞へのインキュベーション)
上記試料を、DMEM培地(SIGMA社製)500mlに、High Glucose(FBS(ウシ胎児血清)50mlにペニシリン2mlを加えたもの)からなる培地に10μl/ml添加し、37℃、二酸化炭素気流下で1時間インキュベートした後、ホルスコリン(FSK)のDMSO溶液を20mMを2μl添加した。さらに添加後37℃で6日間インキュベートした。
尚、ホルスコリンは、紫外線照射刺激と同様に、細胞のαメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH)の分泌を促す作用がある。
【0027】
(RNA抽出)
インキュベートから6日後に培地を除き、リン酸緩衝液で洗浄し、RNA抽出用チューブに入れて遠心分離(12000rpm、10分間)し、上清300mlを取り出す。
この上清をRNA抽出機(QIAGEN社製、Migtration System 12GC)にかけてRNAを抽出した。
試薬キット、および試薬は下記のものを使用した。
試薬キット:EZ1 RNA Universal tissue Kit(QIAGEN社製)
試薬:QIAzol Lysis Reagent クロロホルム
【0028】
(cDNA合成)
抽出したRNAを濃度1μgになるように調整し、下記試薬キットおよび試薬を使用してcDNAを合成した。
試薬キット:Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit (Rosch社製)
試薬:
(1) Transcriptor Reverse Transcriptase 20U/μl
(2) Transcriptor RT Reaction Buffer(5×)
20U/μl
(3) Protector RNase Inhibitor 40U/μl
(4) Deoxynucleptide Mix 10mM
each dATP dCTP dGTP dTTP
(5) Random Hexamer Primer 600μl
【0029】
(PCR反応)
上記cDNA5μlを下記装置、試薬キットおよび試薬を用いて,94℃、1分(94℃ 45秒、56℃ 45秒、72℃ 2分)×28サイクルの条件でPCR反応を行った。
使用装置:PCR Tharmal Cycler(TaKaRa社製)
試薬キット:Expand high Fidelity PCR system(Rosch社製)
試薬:
(1)Expand high Fidelity Enzyme mix
(2)Expand high Fidelity Buffer 10×conc.
with 15mM MgCl2 2.5mM dNTP mix(OMG)
mTyr primer F,R 10p
dH20
【0030】
(電気泳動)
PCR反応の後、反応液5μlに染色液を加え、100v、30分の電気泳動を行った後(使用装置:My Run(Cosmo Bio 社製))、さらにゲルの蛍光部分を切り取り、ゲルを溶かし、50℃、10分加熱した。
DNA吸着用のカラムに通した後、遠心分離(3000rmp,1分)にかけ、洗浄したものをPCR産物として、DNAリガーゼと混合してライゲーションした後、大腸菌に導入した。
この大腸菌をLB培地(IPTG5μl、X−Gal 60μl)に入れ、培養した後、さらに、このDNAを回収し、再度アガロースゲルで電気泳動にかけ、チロシナーゼ遺伝子の発現を測定した結果を図1に示す。
尚、上記PCR産物の結果(1)の比較として、ホルスコリン(FSK)を添加していないもの(2)、試料を添加せずに培養したもの(3)、および試料もホルスコリン(FSK)も添加していないもの(4)も電気泳動にかけた。
さらに、B16細胞自体がダメージをうけていないことを示すために、別の遺伝子36B4遺伝子の発現もそれぞれ測定した。
【0031】
図1に示すように、試料を添加した場合にはチロシナーゼ遺伝子の発現を抑制している。一方、36B4遺伝子の発現は抑制されておらず、細胞自体はダメージをうけていないことがあきらかである。
【0032】
[メラニン生成抑制]
(薄層クロマトグラフィー(TLC)による分画)
上記チロシナーゼ遺伝子の発現測定と同様の試料1mlを薄層クロマトグラフィー(TLC)で分画した。
展開溶媒として、ヘキサン:t−メチルブチルエーテル:ギ酸=140:72:18(v/v/v)を使用した。
発色試薬としては10%(v/v)硫酸を使用した。
使用プレートとしてシリカゲル(silica gel 60F254)を使用した。
分画は各5mlずつ50本採取した。
さらに、各分画を薄層クロマトグラフィー(TLC)にかけ、Rf0.25スポットを分取して、分画することによって、単一のベオミケス酸を得た。
【0033】
(B16細胞へのインキュベーション)
上記単一のベオミケス酸を濃度が100mg/ml、50mg/mlになるようにエタノールに懸濁したサンプル、および上記試料の粉末をエタノールで懸濁したアセトン抽出物(ベオミケス酸としての濃度51mg/ml)を試験例1から3として前記と同様にB16マウスメラノーマ細胞に37℃で3日間インキュベートした。
比較例として、培地にB16細胞のみ添加したもの(比較例1:ブランク)、およびB16とFSKのみ添加したもの(比較例2:コントロール)を用意し、同様に37℃3日間インキュベートした。
このときの結果を図2に示す。
【0034】
細胞のみの比較例2はメラニンが生成されておらず、細胞になにも添加せずにFSKを添加した比較例2はメラニンが多く生成されていることがわかる。
一方、試験例1乃至3はメラニンの生成が明確に抑制されている。
【0035】
(メラニンの定量)
前記B16細胞にインキュベートした各実施例および比較例の吸光度を測定して、各メラニン量を定量した。
まず、各実施例比較例のB16細胞を培養したプレートを、リン酸緩衝液で洗浄して、培地を除き、リン酸緩衝液を再度1ml添加し、ピペッティングで細胞を完全に剥がし、その細胞懸濁液した。
その懸濁液を10000rpmで 10分間遠心分離して、リン酸緩衝液を除き、1モルNaOHを300μl添加した。
ホモジナイザーを用いて細胞が見えなくなるまで破砕し、45℃で2時間インキュベートした後、メタノール:クロロホルム混合液(1:2)を100μl添加して、さらによく攪拌した。その後、さらに12000rpmで10分遠心分離し、その上清を100μlずつ3つを96穴マイクロプレートに分注し、405nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。
一方、検量線はメラニン(商品名:メラニン、MP Biomedicals社製)を1M NaOHに懸濁して、各濃度にして、これにメタノール:クロロホルム混合液(1:2)を100μl添加して、よく攪拌した。
この液を、吸光度405nmで測定し、検量線を作成した。
この検量線から、各比較例試験例のメラニンの量を算出した結果を図2に示す。
【0036】
この結果から、各試験例は比較例1にくらべて生成されたメラニンの量が少ないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベオミケス酸を含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。
【請求項2】
前記ベオミケス酸の含有量が50〜200μg/mlである請求項1に記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載のメラニン生成抑制剤を含むことを特徴とする化粧剤。
【請求項4】
前記請求項1または請求項2に記載のメラニン生成抑制剤を含むことを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項5】
前記請求項1または請求項2に記載のメラニン生成抑制剤を含むことを特徴とする医薬部外品。
【請求項6】
前記請求項1または請求項2に記載のメラニン生成抑制剤を含むことを特徴とする抗癌剤。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−6853(P2012−6853A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142601(P2010−142601)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(505314022)独立行政法人医薬基盤研究所 (17)
【出願人】(000151966)株式会社桃谷順天館 (3)
【Fターム(参考)】