説明

メラニン生成抑制剤

【課題】既存の美白剤に比して優れた効果を有し、安全性にも優れたメラニン生成抑制剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。


(式中、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成抑制剤及びこれを含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
しみ、そばかすは、メラニンの生成と排泄のバランスが崩れ、表皮細胞にメラニンが過剰に蓄積したものである。これらの原因は、炎症、ホルモンのバランス、遺伝的要因等、様々であるが紫外線の影響により助長される。増加した色素沈着を緩和するのが美白剤である。このうち、皮膚の黒化やしみ、そばかすを防ぎ、本来の白い肌を保つための美白化粧料に応用されているものとしては、コウジ酸やアスコルビン酸誘導体等が知られている。しかしながら、これらは美白効果の程度や製剤中での安定性の面等で問題を残しており、これまでに提案されている美白剤は必ずしも満足に足りるものではなかった。一方、フェノール性水酸基を有する化合物は、メラニン生成の律速酵素であるチロシナーゼの活性を阻害することが知られており、本構造を有する数種の化合物が美白剤として提案されている(特許文献1〜3)。しかしながら、これらの化合物についても、そのチロシナーゼ阻害活性は十分でなく、効果の面で課題を残している現状がある。
【0003】
4−(3−ヒドロキシブチル)フェノールの3−ヒドロキシブチル基の3位の水素原子が炭化水素基で置換された化合物としては、炭化水素基がメチル基である下式(2)、2−プロペニル基である下式(3)で示される化合物に限り、医薬品中間体やペプチド合成用樹脂への応用(特許文献4、5)、及び有機合成反応に関する検証実験に用いられた数例の知見(非特許文献1〜3)があるのみであり、本化合物自体の生理活性は未知であり、皮膚外用剤への応用等の提案もされていない。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−107539号公報
【特許文献2】特開昭63−8314号公報
【特許文献3】特許3340935号公報
【特許文献4】特表2001−525399号公報
【特許文献5】特開平3−290406号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of The American Chemical Society,1958,80(12),pp.3073−3076
【非特許文献2】Tetrahedron Letters,1992,32(3),pp.4639−4642
【非特許文献3】Organometallics,1995,14(1),pp.4697−4709
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、既存の美白剤に比して優れた効果を有し、安全性にも優れたメラニン生成抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記事情を解決するために鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表される化合物が、フェノール性水酸基を活性部位とする既存の美白剤よりも優れたメラニン生成抑制効果及び美白効果を有し、安全性も高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤を提供するものである。
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示す。)
【0013】
また、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物を含有する皮膚外用剤を提供するものである。
また、本発明は、メラニン生成抑制のための上記一般式(1)で表される化合物を提供するものである。
また、本発明は、メラニン生成抑制のための上記一般式(1)で表される化合物の使用を提供するものである。
また、本発明は、メラニン生成抑制剤製造のための上記一般式(1)で表される化合物の使用を提供するものである。
また、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物を皮膚に適用することを特徴とするメラニン生成抑制方法を提供するものである。
また、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする美白剤を提供するものである。
また、本発明は、美白のための上記一般式(1)で表される化合物を提供するものである。
また、本発明は、美白のための上記一般式(1)で表される化合物の使用を提供するものである。
また、本発明は、美白剤製造のための上記一般式(1)で表される化合物の使用を提供するものである。
また、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物を皮膚に適用することを特徴とする美白方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に用いる化合物(1)は、優れた美白作用を有し、メラニン生成抑制剤として有用であり、かつ安全性にも優れており、良好な美白作用を有する皮膚外用剤を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
【0016】
本発明で用いられる上記一般式(1)で表される化合物において、その式中Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基である。炭化水素基は飽和であっても不飽和であってもよく、またアミノ基や水酸基等の置換基を有していてもよい。具体的な炭素数1〜8の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ビニル基、n−プロピル基、イソプロピル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチ
ル基、n−ペンチル基、ジメチルアリル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、これらの範囲内であれば、メラニン生成抑制効果に優れる。これらの炭化水素のうちメラニン生成抑制効果及び安全性の点から、炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数2〜8の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基がより好ましく、炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基がさらに好ましく、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、ビニル基がさらに好ましい。
【0017】
本発明で用いられる一般式(1)で表される化合物の製造方法は、公知の合成方法により得られる4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノンやラズベリー等の4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノンを含有する植物の抽出物から分離精製したものを出発原料として用い、公知の有機合成反応により製造することができる。例えば、4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノンを、テトラヒドロフラン溶媒中、目的とする化合物に応じた鎖長の炭化水素基を有するGrignard試薬と反応させる方法等がある。また、ラズベリー等の植物抽出物を適当な方法により処理した後、目的とする化合物を分離精製することにより得ることもできる。
【0018】
上記方法等により得られる式(1)の化合物には、光学異性体が存在するが、(+)体、(−)体いずれか単独でも、またそれらの混合物を用いることもできる。
【0019】
また、本発明では、上記一般式(1)で表される化合物のうち、いずれか1種類を単独で用いてもよいし、又はそれらの2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0020】
本発明の化合物(1)は、後記実施例に示すように優れたメラニン生成抑制作用を有しており、メラニン生成抑制剤及び美白剤として有用である。また、細胞毒性も軽微であることから、皮膚外用剤として様々な製剤に、特に皮膚の美白を目的とする美白化粧料に効果的かつ安全に配合することが可能である。
【0021】
本発明の一般式(1)で表される化合物を皮膚外用剤に配合して用いる場合、その美白作用及び安全性の点から、通常は皮膚外用剤の総量を基準として、好ましくは0.0001〜20質量%、より好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%の範囲内の含有量とすることができる。
【0022】
本発明の一般式(1)で表される化合物を、そのメラニン生成抑制作用に基づき、美白化粧料に配合する場合、そのメラニン生成抑制作用の強化又は補助の観点から、既に公知であるハイドロキノン、アルブチン、エラグ酸、ビタミンC又はその誘導体(例えば、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、アスコルビン酸イソパルミチン酸エステル、アスコルビン酸エチルエステル等)、ビフェニル誘導体(例えば、デヒドロジクレオソール、2,2’−ジヒドロキシ−5,5’−ジプロピルビフェニル等)、特許第3340935号に記載の4−(4−ヒドロキシフェニル−)−2−ブタノン又はその誘導体、4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノール又はその誘導体等のメラニン生成抑制剤、火棘エキス、ジオスコレアコンポジータエキス、ニワトコエキス、岩白菜エキス、カミツレ抽出物、アデノシン5’−1−リン酸又はその塩、リノール酸誘導体、ビタミンB3又はその誘導体、トラネキサム酸、トラネキサム酸塩、トラネキサム酸誘導体等の美白剤を適宜組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明の皮膚外用剤には、上記の他、ヒアルロン酸、多価アルコール、糖アルコール等の保湿剤、タール系色素、酸化鉄等の着色顔料、パラベン等の防腐剤、脂肪酸石けん、アルキル硫酸塩等の陰イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、テトラアルキルアンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤、ベタイン型、スルホベタイン型、スルホアミノ酸型、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム等の両イオン性界面活性剤、レシチン、リゾフォスファチジルコリン等の天然系界面活性剤、ゼラチン、カゼイン、デンプン、アラビアガム、カラヤガム、グアガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、クインスシード、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム等の天然高分子、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース等の半合成高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、そのコポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキシドポリマー等の合成高分子、キサンテンガム等の増粘剤、酸化チタン等の顔料、ジブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤等を、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜配合することができる。
【0024】
本発明の皮膚外用剤の剤型は、本発明の化合物が安定的に配合できるのであれば特に限定されず、例えばローション等の液状、ゲル、乳液、クリーム等の乳化状、シート状、スティック状、適当な賦刑剤等を用いた顆粒状や粉末状の剤型が挙げられる。乳化状のものとしては、油中水型、水中油型、マルチエマルジョンのいずれの形状のものであってもよい。また、入浴剤として使用することもできる。
【0025】
本発明及び本発明の好ましい実施態様の具体例を以下に示す。
<1>下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【0026】
【化4】

【0027】
(式中、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示す。)
<2>メラニン生成抑制のための上記一般式(1)で表される化合物。
<3>メラニン生成抑制のための上記一般式(1)で表される化合物の使用。
<4>メラニン生成抑制剤製造のための上記一般式(1)で表される化合物の使用。
<5>上記一般式(1)で表される化合物を皮膚に適用することを特徴とするメラニン生成抑制方法。
<6>上記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする美白剤。
<7>美白のための上記一般式(1)で表される化合物。
<8>美白のための上記一般式(1)で表される化合物の使用。
<9>美白剤製造のための上記一般式(1)で表される化合物の使用。
<10>上記一般式(1)で表される化合物を皮膚に適用することを特徴とする美白方法。
<11>上記一般式(1)で表される化合物を含有する皮膚外用剤。
<12>一般式(1)中のRが、炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は炭素数2〜8の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、好ましくは炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は炭素数2〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、より好ましくは炭素数2〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は炭素数2〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、さらに好ましくは、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基又はビニル基である<1>〜<11>のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤、化合物、使用、方法等。
<13>一般式(1)で表される化合物の含有量が、皮膚外用剤の総量を基準として、0.0001〜20質量%、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である<11>又は<12>記載の皮膚外用剤。
<14>美白化粧料である<11>〜<13>のいずれかに記載の皮膚外用剤。
<15>さらに、ハイドロキノン、アルブチン、エラグ酸、ビタミンC又はその誘導体(例えば、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、アスコルビン酸イソパルミチン酸エステル、アスコルビン酸エチルエステル等)、ビフェニル誘導体(例えば、デヒドロジクレオソール、2,2’−ジヒドロキシ−5,5’−ジプロピルビフェニル等)、特許第3340935号に記載の4−(4−ヒドロキシフェニル−)−2−ブタノン又はその誘導体、4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノール又はその誘導体等のメラニン生成抑制剤、火棘エキス、ジオスコレアコンポジータエキス、ニワトコエキス、岩白菜エキス、カミツレ抽出物、アデノシン5’−1−リン酸又はその塩、リノール酸誘導体、ビタミンB3又はその誘導体、トラネキサム酸、トラネキサム酸塩、トラネキサム酸誘導体等の美白剤を含有する<11>〜<14>のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【実施例】
【0028】
以下、製造例、試験例、及び実施例に基づいて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下に記載の4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノン、各Grignard試薬及び反応溶媒等は一般の試薬として流通しているものを用いた。また、NMRはCD3OD又はCDCl3を測定溶媒とし、日本電子社製のJEOL JNM−LA400により測定した。MSはアジレントテクノロジー社製の5975C MSDを装着したGCシステムを用いて測定した。
【0029】
製造例:一般式(1)で示される各種化合物の合成
一般式(1)の化合物は、一般的なGrignard反応の条件に基づいて合成した。即ち、4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノンと目的とする化合物に応じた適当な鎖長の炭化水素のマグネシウムハライドを窒素雰囲気下、氷冷しながら反応させた後、さらに室温にて12〜24時間攪拌した。得られた粗生成物を塩化アンモニウム水溶液等で処理した後、酢酸エチル又はジエチルエーテルで抽出し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。
【0030】
4−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル)フェノール:無色針状結晶
13C−NMR(100MHz,CD3OD)δ(ppm):156.2,134.9,130.1,116.1,71.3,47.3,30.9,29.2
MS(m/z):180(M+
【0031】
4−(3−ヒドロキシ−3−メチルペンチル)フェノール:白色非晶質
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ(ppm):153.9,134.6,129.4,115.4,73.4,43.3,34.4,29.5,26.4,8.3
MS(m/z):194(M+
【0032】
4−(3−ヒドロキシ−3−メチルヘプチル)フェノール:白色非晶質
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ(ppm):153.6,134.7,129.4,115.2,72.8,43.9,41.8,29.4,26.9,26.2,23.3,14.1
MS(m/z):222(M+
【0033】
4−(3−ヒドロキシ−3,4,4−トリメチルペンチル)フェノール:白色非晶質
13C−NMR(100MHz,CD3OD)δ(ppm):156.2,135.5,130.2,116.1,77.1,40.1,39.1,30.6,25.9,20.7
MS(m/z):222(M+
【0034】
4−(3−ヒドロキシ−3−メチルノニル)フェノール:白色非晶質
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ(ppm):153.7,134.6,129.3,115.3,73.0,43.8,42.0,31.8,29.9,29.4,26.9,23.9,22.6,14.1
MS(m/z):250(M+
【0035】
4−(3−ヒドロキシ−3−メチルウンデシル)フェノール:白色非晶質
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ(ppm):153.7,134.5,129.3,115.3,73.1,43.8,42.0,31.9,30.2,29.6,29.4,29.3,26.9,24.0,22.7,14.1
MS(m/z):278(M+
【0036】
4−(3−ヒドロキシ−3−メチル−4−ペンテニル)フェノール:白色非晶質
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ(ppm):153.7,144.6,134.1,129.3,115.3,112.2,73.7,44.1,29.4,27.8
MS(m/z):192(M+
【0037】
試験例1:B16メラノーマ細胞を用いたメラニン生成抑制試験
上記製造例で得られた4−(3−ヒドロキシ−3−メチルペンチル)フェノール、4−(3−ヒドロキシ−3−メチルヘプチル)フェノール、4−(3−ヒドロキシ−3−メチルノニル)フェノール、4−(3−ヒドロキシ−3−メチルウンデシル)フェノールについて、下記に示す試験を行った。尚、比較対照として、美白作用が公知のフェノール系化合物である4−(3−ヒドロキシブチル)フェノールを用いた。
【0038】
(試験方法)
B16メラノーマ細胞を、10vol%牛胎児血清含有MEM培地で、12穴培養プレートに1×104個/wellとなるように播種し、常法にて24時間前培養した。前培
養後、各評価試料を各種濃度で添加した試験培地と培地交換し、72時間培養を行った。試験培地としては、上記の前培養用培地にテオフィリンを2mmol/Lとなるように添加したものを使用した。培養後、細胞を回収し、10vol%ジメチルスルホキシドを含有する1mol/L水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、溶解液のOD475値を測定してメラニン量の指標とした。同時に、Coomasie Plus Protein Assay Kit(PIERCE社製)を用いて、溶解液の総タンパク質量を定量し、タンパク質量当たりのメラニン量を算出した。
【0039】
(IC50
算出したタンパク質量当たりのメラニン量に基づき、下式により各種添加濃度毎にメラニン生成抑制率を求めた。
メラニン生成抑制率(%)=(A−B)/A×100
(A:試料無添加時のタンパク質量当たりのメラニン量、B:試料添加時のタンパク質量当たりのメラニン量)
次に、横軸に試料添加濃度、縦軸にメラニン生成抑制率をプロットしたグラフを作成し、このグラフから各評価試料がメラニン生成を50%抑制する濃度(IC50)を決定した。
【0040】
結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果から、本発明の各化合物は優れたメラニン生成抑制効果を有することが示された。また、4−(3−ヒドロキシ−3−メチルペンチル)フェノール及び4−(3−ヒドロキシ−3−メチルヘプチル)フェノールは、細胞毒性が低く、安全性の面でも特に優れていることが確認された。
【0043】
試験例2:3次元培養皮膚モデルを用いたメラニン生成抑制試験
上記製造例で得られた4−(3−ヒドロキシ−3−メチルペンチル)フェノール及び4−(3−ヒドロキシ−3−メチルペンテニル)フェノールについて下記に示すメラニン生成抑制試験を行った。尚、比較対照として、美白作用が公知のフェノール系化合物である4−(3−ヒドロキシブチル)フェノールを用いた。
【0044】
(試験方法)
メラニン細胞含有培養皮膚モデル(MEL−300、Asian Doner、倉敷紡績株式会社製)の皮膚モデルカップに被験物質溶液0 .2mLを入れ、皮膚モデルを製品添付のLLMM培地を用いて13日間培養した後、皮膚モデルを洗浄し、AlamarBlue(Molecular Probe社製)試薬を用いた蛍光測定(Excitation:560nm、Emmition:590nm)により生存率を測定した後、各皮膚モデル中のメラニン合成量を測定した。メラニン合成量は、各皮膚モデルをPBSに浸漬して細胞層を分離後、PBS及び含水エタノールで洗浄し、2mol/LNaOH水溶液0.2mLを加えて100℃、3時間の条件でメラニン抽出した溶液の比色測定(405nm)により求めた。
【0045】
結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果から、本発明の化合物は、公知のフェノール系化合物と比して良好な美白作用を有することが示された。尚、上記試験濃度においては、いずれの化合物にも顕著な細胞毒性は検出されなかった。
【0048】
試験例3:美白実用試験
上記製造例で得られた4−(3−ヒドロキシ−3−メチルペンチル)フェノールを配合した下記表3に示す組成のスキンローション(実施例1)を常法に従って調製し、下記方法により美白実用試験を行った。尚、比較対照として、美白作用が公知であるアルブチンを配合した下記表3に示す組成のスキンローション(比較例1)を用いた。
【0049】
(試験方法)
被験者20名の左右の前腕屈側部皮膚に紫外線を3時間(1日1.5時間で2日連続)照射した。照射後より被験者の左前腕屈側部皮膚には、実施例のスキンローションを、1日朝夕1回ずつ13週間連続で塗布した。また右前腕屈側部皮膚には、比較例のスキンローションを同様の条件で塗布した。最終塗布終了時に、左右の前腕屈側部皮膚の連用前後における美白の程度に関し、専門判定員により評価した。尚、評価結果は、美白効果が確認された被験者を「美白効果あり」とし、その人数で示した。
【0050】
【表3】

【0051】
結果を下記表4に示す。本結果から、本発明の4−(3−メトキシペンチル)フェノールを配合したスキンローションは、比較例1のアルブチンを配合したスキンローションと比較して美白化粧料として非常に優れていることが示された。なお、試験期間中、実施例1のスキンローションを塗布した部位に、皮膚刺激反応及び皮膚感作反応が認められた被験者はおらず、本発明品が溶液の製剤の形態においても安全であることが確認された。
【0052】
【表4】

【0053】
試験例4:美白実用試験
上記製造例で得られた4−(3−ヒドロキシ−3−メチルペンテニル)フェノールを配合した下記表5に示す組成のスキンクリーム(実施例2)を下記製造方法に従って調製し、前記方法により美白実用試験を行った。尚、比較対照として、美白作用が公知である4−(3−ヒドロキシブチル)フェノールを配合した下記表5に示す組成のスキンクリーム(比較例2)を用いた。
【0054】
(製造方法)
表5に記載のA成分を混合したものを加熱溶解して温度を80℃とし、これにB成分を注入乳化した後、攪拌しながら30℃まで冷却した。
【0055】
【表5】

【0056】
結果を下記表6に示す。本結果から、本発明の4−(3−メトキシペンテニル)フェノールを配合したスキンクリームは、比較例2の4−(3−ヒドロキシブチル)フェノールを配合したスキンクリームと比較して、美白化粧料として非常に優れていることが示された。尚、試験期間中、実施例2のスキンクリームを塗布した部位に、皮膚刺激反応及び皮膚感作反応が認められた被験者はおらず、本発明品が乳化製剤の形態においても安全であることが確認された。
【0057】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の化合物は、優れたメラニン生成抑制効果と安全性を有し、幅広い剤型、例えばローション類、乳液類、クリーム類、パック類、入浴剤等の皮膚外用剤に応用することが可能である、また、優れた美白作用を有することから、皮膚の美容の面において非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
一般式(1)中のRが炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル基である請求項1記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物を含有する皮膚外用剤。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示す。)
【請求項4】
一般式(1)中のRが炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル基である請求項3記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
美白化粧料である請求項3又は4に記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2013−32335(P2013−32335A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−100641(P2012−100641)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】