説明

メラニン生成抑制効果を有する乳酸菌およびその用途

【課題】メラニン生成抑制作用に優れた新規な乳酸菌を提供すること、並びに当該乳酸菌を化粧料等に利用すること。
【解決手段】リューコノストック属(Leuconostoc)に属し、メラニン生成抑制作用を有する乳酸菌、並びに当該乳酸菌を有効成分として含有するメラニン生成抑制剤及び外用組成物の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規乳酸菌、並びに当該乳酸菌の菌体抽出物または自己消化物を含有するメラニン生成抑制剤及び外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニン産生細胞(メラノサイト)におけるメラニン生成は、肌の美容の観点だけではなく皮膚の老化や疾病発現にも関わる現象である。従来、メラニン生成を行うチロシナーゼの活性を阻害することによりメラニンの生成を抑制する物質、例えば、ビタミンC、コウジ酸、システイン、アルブミン、ハイドロキシキノン、グルタチオン等を有効成分とした美白剤などが知られている。
【0003】
微生物を用いた美白化粧料や美白外用剤の有効成分としては、酢酸菌(特許文献1参照)などが報告されている。また、乳酸菌の中では、これまでにラクトバチルス属を有効成分とする美容または美肌効果を有する組成物が報告されているが(特許文献2参照)、リューコノストック属を利用したメラニン生成抑制剤または美白化粧料はいまだ知られていない。
【0004】
乳酸菌は、様々な生理的効用を有することが知られており、例えば、整腸作用や免疫賦活作用等の生理活性を奏することが知られている。このような乳酸菌の効用は、近年、プロバイオティクス効果などへの期待から、広く関心を集めている。また、清酒製造における生もと系酒母では、酵母の増殖に先立ち乳酸菌群の遷移が起こることが知られているが、生もと系酒母から分離された乳酸菌株には免疫調節効果や血中脂質の上昇抑制効果など様々な機能性があることも報告されている。
【0005】
植物性原料から得られる乳酸菌は菌の利用できる糖の種類が多く、過酷な環境でも生き抜くことができるなど、動物性原料から得られる乳酸菌とは異なる能力を有する。その作用効果は、菌株特異的であり、同じ種類でも菌株ごとにその効果は異なる。その中には有用な菌株が数多く存在することが期待されるため、植物性原料から分離される乳酸菌の新たな用途への利用に高い関心が集まっている。
【0006】
しかしながら、植物性原料から分離される乳酸菌、特に米と米麹を原料とする生もとより分離される乳酸菌については、あまり研究されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−215605号公報
【特許文献2】特開2008−179601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、乳酸菌の新たな機能を見出し、それを応用することを課題とする。特に、優れたメラニン生成抑制作用を有する乳酸菌を見出すこと、更にこれを美白剤等の外用組成物に応用することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決することを主な目的として検討を重ねた結果、米と米麹を原料とする生もとから分離した乳酸菌の中から、特定の菌株が優れたメラニン生成抑制を有すること、細胞毒性が低いことなどを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、次の事項に関する。
項1.リューコノストック属(Leuconostoc sp.)に属し、メラニン生成抑制作用を有する乳酸菌。
項2.ヒト由来皮膚細胞に、菌体抽出物が10mg/mlとなるように菌体抽出物懸濁液を2日おきに添加して、3日おきに培地交換を行って、37℃のCO2インキュベーターで17日間培養した場合に、滅菌水を添加して同様の条件で培養したネガティブコントロールと比較して、メラニン生成量が20%以上抑制されることを特徴とする、項1記載の乳酸菌。
項3.リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)である、項1または2に記載の乳酸菌。
項4.リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)のLK-28株(受託番号FERM P-21882)またはLK-103株(受託番号FERM P-21884)である、項1〜3のいずれかに記載の乳酸菌。
項5.項1〜4のいずれかに記載の乳酸菌又はその抽出物を含有するメラニン生成抑制剤。
項6.項1〜4のいずれかに記載の乳酸菌又はその抽出物を含有する外用組成物。
項7.化粧料または医薬部外品である、項6に記載の組成物。
項8.美白用化粧料または医薬部外品である、項6に記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、優れたメラニン生成抑制作用を有する乳酸菌を提供する。特にメラニン生成抑制効果が高く、かつ細胞毒性の低い、優れた新しい乳酸菌を提供する。
【0012】
更に本発明は、当該乳酸菌を含有するメラニン生成抑制剤、該メラニン生成抑制剤を有効成分とする外用組成物、特に化粧料または医薬部外品などに用いられる組成物を提供する。
【0013】
本発明の乳酸菌を含有するメラニン生成抑制剤および外用組成物を皮膚に用いることにより、UV照射などによるメラニン生成が抑制され、優れた美白効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1において、本発明の乳酸菌(メタノール抽出物)のメラニン生成抑制作用効果を示した写真である。
【図2】図2は、実施例1において、本発明の乳酸菌(自己消化物)のメラニン生成抑制作用効果を示した写真である。
【図3】図3は、実施例2における各サンプルのメラニン相対量を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例3のB16マウスメラノーマ細胞を用いた細胞毒性試験の結果を表すグラフである。
【図5】図5は、実施例3のヒト皮膚三次元モデルを用いた細胞毒性試験の結果を表すグラフである。
【図6】図6は、参考例における各サンプルのチロシナーゼ活性阻害を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0016】
1.本発明乳酸菌
本発明の乳酸菌は、リューコノストック属(Leuconostoc sp.)に属し、メラニン生成抑制作用を有する乳酸菌である。より好ましくは、メラニン生成抑制作用を有するリューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)である。
【0017】
本発明の乳酸菌の好適な単離源は、生もと酒母、特に米と米麹を原料とする生もと、米麹などである。
【0018】
本発明の乳酸菌は、生もとなどから単離したリューコノストック属(Leuconostoc sp.)に属する乳酸菌の中から、メラニン生成抑制能を検定して強いメラニン生成抑制を示す菌株を選択することによって得ることができる。
【0019】
より具体的には、例えば、後記実施例に示した方法によってメラニン生成抑制能を検定し、強いメラニン生成抑制を示す菌株を選択すればよい。すなわち、ヒト由来皮膚細胞に、菌体の数抽出物が10mg/mlとなるように菌体抽出物懸濁液を2日おきに添加して、3日おきに培地交換を行って、37℃のCO2インキュベーターで17日間培養した場合に、滅菌水を添加して同様の条件で培養したネガティブコントロールと比較して、メラニン生成量が20%以上抑制されることを特徴とする乳酸菌を選択する。より好ましくは、同様の条件下で、メラニン生成量を20〜25%抑制する乳酸菌を選択する。
【0020】
優れたメラニン生成抑制作用を有する好適な菌の具体例は、本発明者らが、生もとから新たに単離・同定し、かつ寄託した菌株であり、リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)のLK-28株またはLK-103株(以下、単にLK-28株またはLK-103株と称することもある)と命名される乳酸菌である。これらの菌株は、平成21年12月14日又は平成22年1月4日に、日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6に住所を有する独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託された(それぞれ受託番号は、LK-28株:FERM P-21882、LK-103株:FERM P-21884)。
【0021】
これらの菌株の菌学的性質は、以下のとおりである。
【0022】
(1)培地上での生育状況
本菌株は、MRS培地を用いて、30℃で、1〜2日、通性嫌気条件で静置培養する際に、良好又は普通の生育を示す。
【0023】
(2)科学的性質
本菌株は、グラム陽性の球菌であり、カタラーゼ陰性、糖類より乳酸およびエタノール、二酸化炭素を産生(ヘテロ乳酸発酵)する。
【0024】
(3)形態的特徴
コロニーは、前記MRS培地を用いて、30℃で、1〜2日培養する場合、直径1〜2mm、色調が白色の形態となる。形は円形で、隆起状態は半レンズ状である。周縁は全縁で、表面の形状はスムーズである。また、不透明で、粘稠性である。変異や培養条件、生理的状態によるコロニー形態の変化はない。
【0025】
本発明の乳酸菌は優れたメラニン生成抑制作用を有する。細胞毒性も低く、さらに、生もとより分離される乳酸菌であり、長年にわたる醸造に関わる微生物であるため安全性にも優れる。
【0026】
これら本発明の乳酸菌の培養は、一般的な乳酸菌の培養方法で可能である。本乳酸菌の培養方法については、本乳酸菌が良好に生育する条件であれば特に制限はないが、例えば、MRS培地等を用いて、静置培養又はpHを一定に制御した中和培養で行う方法などが例示される。
【0027】
2.メラニン生成抑制剤
本発明のメラニン生成抑制剤は、前記本発明乳酸菌又はその抽出物を含有すること特徴とする。
【0028】
本発明のメラニン生成抑制剤は本発明乳酸菌又はその抽出物を有効成分として含み、該メラニン生成抑制剤の調製は、公知の方法に従って行うことができる。また、本発明乳酸菌又はその抽出物そのものをそのままメラニン生成抑制剤として使用することもでき、本発明の効果を奏する範囲内で、各種担体や添加剤、他の薬効成分と共に提供することもできる。
【0029】
本発明乳酸菌は、特に生菌として含まれる必要はない。通常の一般的加熱滅菌操作によって滅菌されたものとして含まれていてもよく、死菌として含まれていてもよい。さらに2種以上の乳酸菌を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、本発明乳酸菌は、例えば、乳酸菌の培養液、培養物の粗精製品乃至精製品、破砕物、自己消化物、それらの凍結乾燥品などとして用いることも可能である。さらには、本発明乳酸菌の凍結乾燥菌体等を適当なコーティング剤などで加工してもよい。
【0031】
前記培養液は、例えば代表的には、各菌株に適した培地、例えばMRS培地などを用いて、30℃で1〜2日間程度培養することにより得ることができる。
【0032】
また菌体は前記培養後に、例えば培養液を7000rpm、4℃、10分間遠心分離して集菌することによって得ることができる。これらは常法に従い精製することができる。
【0033】
前記破砕物、培養物の粗精製品乃至精製品などは、通常用いられる方法によって得ることができる。
【0034】
前記自己消化物は、乳酸菌を培養、集菌し洗浄した後、滅菌水に懸濁して40℃で1〜3日間静置して得ることができる。
【0035】
また、本発明乳酸菌の抽出物も通常の微生物抽出方法を用いて得ることができる。例えば代表的には、前記培養液から集菌して得た菌体を滅菌水に懸濁した後に再度遠心分離により集菌し、菌体を洗浄し、凍結乾燥し、それを抽出溶媒に懸濁して攪拌し、遠心分離して菌体を除去することによって得ることができる。
【0036】
抽出溶媒としては、炭素数1〜5程度(好ましくは炭素数1〜3程度)のアルコール、水、または当該アルコールと水との混合物が挙げられる。混合物を使用する場合は、アルコール:水の割合は、通常、1:3〜3:1程度である。
【0037】
該抽出物はそのまま用いてもよく、濃縮乾固等して用いてもよい。
【0038】
本発明のメラニン生成抑制剤は、前記乳酸菌の菌体または菌体抽出物などを実質的に単独で含むものであってもよく、あるいは培地や蒸留水等に懸濁したものであってもよい。
【0039】
なお、本発明のメラニン生成抑制剤は、後述の通り外用組成物として好適に用いられるが、化粧料などの外用組成物に用いるという観点からは、製剤安定性が高い抽出物を用いることが好ましい。
【0040】
本発明のメラニン生成抑制剤は、化粧料、医薬部外品、医薬、各種製剤等の外用組成物にメラニン生成抑制作用有効量を添加配合して用いることができる。
【0041】
メラニン生成抑制作用有効量は、外用組成物の種類やその中に含まれる成分の種類、目的によって異なり、前記効果を奏する限り、特に制限されるものではないが、一般的には、外用組成物全体に、菌数換算で菌数が1×1011〜1×1015、好ましくは1×1013〜1×1014個前後程度の範囲で存在するような量を例示することができる。ここで、菌数換算とは、菌自体を用いる場合はその菌数、菌抽出物を用いる場合は、調製する際に原料として使用した菌数をいう。特に、抽出物の場合では、外用組成物中に乾燥重量で、菌体が例えば100〜500mg/ml程度となるように調製する。
【0042】
生菌数の測定は、菌培養用の寒天培地に希釈した試料を塗布して37℃下で静置培養を行い、生育したコロニー数を計測することにより算出する。この生菌数と濁度とは相関するため、予め生菌数と濁度との相関を求めておくと、生菌数の測定に代えて濁度を測定することによって前記生菌数を計数できる。前記乳酸菌の配合量は、前記量を目安として、調製される本発明メラニン生成抑制剤の形態、利用する乳酸菌の種類などに応じて適宜変更することができる。
【0043】
本発明のメラニン生成抑制剤は、メラニンの産生を抑制する優れた作用を有し、美白を効果とする化粧料の有効成分として、または美白剤等の医薬部外品の有効成分として、使用することができる。
【0044】
3.本発明外用組成物
本発明の外用組成物は、本発明のメラニン生成抑制剤を外用組成物として調製することにより、化粧料、医薬部外品または医薬などの形態で提供される。
【0045】
本発明の外用組成物を化粧料または医薬部外品等の形態で提供する場合には、前記有効成分に加えて、薬学的又は香粧学的に許容される担体または基剤と共に提供することができる。さらに、必要に応じて通常使用し得る添加物を加えて常法により所望の形態に調製すればよい。
【0046】
更に、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種の界面活性剤、色素(染料、顔料)、香料、防腐剤、殺菌剤(抗菌剤)、増粘剤、酸化防止剤、清涼化剤、防臭剤、pH調整剤等の各種添加剤を配合してもよい。また、必要に応じて、保湿剤、紫外線吸収剤、紫外線錯乱剤、ビタミン類、植物エキス、皮膚収斂剤、細胞賦活剤、血行促進剤、皮膚機能亢進剤等の外用剤に配合される公知の薬効成分を配合することもできる。このような添加剤の例は、医薬部外品原料規格、日本汎用化粧品原料集、化粧品種別許可基準、化粧品原料基準外成分規格、CTFA等に記載されている。
【0047】
前記外用組成物は、皮膚や粘膜に適用可能である限り、その形態については、特に制限されるものではない。一例として、液状、乳液状、粉末状、固形状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、ムース状、顆粒状、錠剤状、ゲル状、ゼリー状、ペースト状、ジェル状、エアゾール状、スプレー状、リニメント剤、パック剤等の形態を挙げることができる。
【0048】
また、前記外用組成物は、例えば、基礎化粧料(例えば、乳液、クリーム、ローション、美容液、オイル及びパック等)、清拭剤、清浄剤(例えば、洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等)等として調製することができる。
【0049】
本発明のメラニン生成抑制剤を外用組成物として調製する場合、該組成物中の前記有効成分の配合割合については、前述する割合の範囲内で適宜設定すればよい。
【0050】
化粧料または医薬部外品などの外用組成物として調製された前記メラニン生成抑制剤は、その使用を通して、皮膚や粘膜に適用されることによって、メラニン生成抑制作用を発揮することができる。当該外用組成物を適用する量並びに回数については、有効成分の種類や濃度、使用者の年齢や性別、適用形態、期待される程度等に応じて、有効量を、一日に1〜3回程度、皮膚や粘膜に適用すればよい。
【0051】
本発明の外用組成物は、好適には美白用外用組成物として用いられ、特に、美白用化粧料または医薬部外品などとして好ましく用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例や比較例等を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0053】
なお、本発明において、「%」は、特に言及しない限り、「w/v(%)」(重量/容量(%))を意味する。
実施例1:メラニン生成抑制効果試験
1.乳酸菌メタノール抽出物の調製
乳酸菌は、菊正宗酒造株式会社の生もと製造場において生もとから分離した各種菌株を使用した。
【0054】
MRS液体培地(Lactobacilli MRS Broth(Difco, カタログ番号:288130、培地pH6.5)に乳酸菌を各々植菌し、30℃で一晩静置培養した。この前培養液をMRS液体培地に2%(v/v)接種し、30℃で24時間静置培養した。培養後、7000 rpm、10分間遠心分離し、集菌した。さらに菌体を滅菌水に懸濁して7000 rpm、10分間遠心分離して菌体を洗った後、凍結乾燥させた。凍結乾燥菌体をメタノールに懸濁し、室温で10分間攪拌し抽出した後、7000 rpm、10分間遠心分離して上清を回収した。この操作をさらに2回繰り返し、回収した上清を全て合わせて濃縮乾固させた。得られた抽出物の乾燥重量を測定し、重量を元に60%(v/v)エタノールまたは滅菌水に懸濁して使用した。
【0055】
2.B16マウスメラノーマ細胞を用いたメラニン生成抑制効果試験
10%(v/v) 牛胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)にB16マウスメラノーマ細胞F0株(DSファーマバイオメディカル)を懸濁した。1.8×105 cells/dishとなるように60 mmディシュに細胞を播種し、37℃のCO2インキュベーターで一晩培養した。その後、各ディシュに各々の乳酸菌メタノール抽出物を乾燥重量で0.1 mg/mlとなるように添加し、72時間培養を行った。ネガティブコントロールとして、乳酸菌メタノール抽出物のかわりにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH:7.4)を加えたもの、ポジティブコントロールとしてコウジ酸(終濃度で0.2 mM、1 mM)を添加したもので同様に試験を行った。
【0056】
培養終了後、各ディシュの培地を吸引除去しPBSで2回洗浄したのち、トリプシンで細胞を壁面から剥がして回収した。回収した細胞をカウントして細胞数を揃えたのち、96穴プレートのウェルに分注し目視により細胞の白色化度を評価した。
【0057】
(結果)
結果を図1に示す。図1中、最上段の左から2及び3番目のウェルにはコウジ酸(ポジティブコントロール)を添加しており、最上段の左から1番目左端のウェルにはPBS(ネガティブコントロール)を添加しており、それ以外の下3段(上から2段目、3段目、及び最下段)のウェルには各乳酸菌のメタノール抽出物を添加している。この結果、リューコノストック・メセンテロイデスLK-103株及びLK-28株ではネガティブコントロールと比較して明らかに細胞の白色化が認められ、これらの乳酸菌はメラニン生成抑制効果が格段に優れていることが確認された。
【0058】
3.乳酸菌自己消化物のメラニン生成抑制効果
メラニン生成抑制効果の高かった菌株(LK-103株)を選抜し、該菌株の自己消化物についてもメラニン生成抑制効果を調べた。
【0059】
前記メタノール抽出の調製の場合と同様にして乳酸菌を培養し、集菌した。菌体を滅菌水に懸濁して洗ったのち、培養した培地の1/100量の滅菌水に菌体を懸濁した。その後、40℃のインキュベーターで72時間静置したのち、15000 rpm、10分間遠心分離し、上清を回収した。これを濃縮乾固させ、得られた自己消化物の乾燥重量を測定し、重量を元に滅菌水に懸濁して使用した。
【0060】
得られたLK-103株の自己消化物(乾燥重量で、それぞれ終濃度0.1 mg/ml、0.2 mg/ml、0.4 mg/ml)を用いて、前記メタノール抽出物の場合と同様にしてメラニン生成抑制効果試験を行った。
【0061】
(結果)
結果を図2に示す。LK-103株の自己消化物を添加した場合でも、細胞の白色化が認められた。
【0062】
実施例2:ヒト皮膚三次元モデルを用いたメラニン生成抑制効果試験
LK-103株を用いて、ヒト皮膚三次元モデルにおけるメラニン生成抑制効果を調べた。
【0063】
クラボウより購入したヒト皮膚三次元モデル(MEL-312-B)と、長期維持培地(EPI-100LLMM)を使用して行った。滅菌水に懸濁した乳酸菌メタノール抽出物(乾燥重量で、それぞれ1 mg/ml、10 mg/ml、50 mg/ml、100 mg/ml)を皮膚モデルカップ内に50 μlずつ2日おきに添加し、3日おきに培地交換を行って17日間37℃のCO2インキュベーターで培養した。ネガティブコントロールとして、乳酸菌メタノール抽出物のかわりに滅菌水のみを添加したもの、ポジティブコントロールとしてコウジ酸(10 mg/ml)を添加したもので同様に試験を行った。
【0064】
培養終了後、ピンセットを用いて皮膚モデルをカップからメンブレンごと剥がし、200 μlの2 N NaOHを添加して80℃で2.5時間処理した。15000 rpm、20分間遠心分離し、上清の405 nmの吸光度を測定した。合成メラニン(SIGMA)を用いて同様に処理して検量線を作成し、各サンプルのメラニン量を算出した。
(結果)
図3に各サンプルのメラニン相対量を示す。乳酸菌体メタノール抽出物を添加したものでは、濃度依存的にメラニン量の減少が見られ、メラニン生成が抑制されていることが示めされた。
【0065】
実施例3:細胞毒性試験
(1)B16マウスメラノーマ細胞
10%(v/v) FBSを含むDMEM培地にB16マウスメラノーマ細胞F0株を懸濁した。2×103 cells/wellとなるように96穴プレートに細胞を播種し、37℃のCO2インキュベーターで1〜2時間培養した。細胞がプレートに吸着したことを確認し、培地を吸引除去して乳酸菌(LK-103株)メタノール抽出物(乾燥重量で、それぞれ終濃度0.02 mg/ml、0.1 mg/ml、0.2 mg/ml、0.5 mg/ml)を添加した培地に交換したのち、37℃のCO2インキュベーターで72時間培養した。ネガティブコントロールとして、乳酸菌メタノール抽出物のかわりにPBSを添加したもの、ポジティブコントロールとしてコウジ酸(終濃度で0.2 mM、0.5 mM、1 mM)を添加したもので同様に試験を行った。
【0066】
培養終了後、培地を吸引除去して抽出物を添加していない培地と交換し、PBSで5 mg/mlに調製したMTT溶液を10 μlずつ添加したのち、37℃のCO2インキュベーターで3時間培養した。その後、10% SDSを100 μlずつ添加して一晩静置し、プレートリーダーで550 nmの吸光度を測定した。吸光度の値から、ネガティブコントロールを100%としたときの細胞生存率を算出した。
【0067】
(結果)
図4に、LK-103株の菌体メタノール抽出物を添加したときの細胞生存率を示した。この結果から、LK-103株の菌体メタノール抽出物は、メラニン産生抑制効果が見られた濃度で細胞毒性が見られないことがわかった。
【0068】
(2)ヒト皮膚三次元モデル
クラボウより購入したヒト皮膚三次元モデル(EPI-212)を使用して行った。滅菌水に懸濁した乳酸菌(LK-103株)メタノール抽出物(乾燥重量で、それぞれ1 mg/ml、10 mg/ml、50 mg/ml、100 mg/ml)を皮膚モデルカップ内に50 μlずつ添加し、24時間、37℃のCO2インキュベーターで培養した。ネガティブコントロールとして、乳酸菌メタノール抽出物のかわりに滅菌水のみを添加したもの、ポジティブコントロールとしてコウジ酸(10 mg/ml)を添加したもので同様に試験を行った。
【0069】
培養終了後、皮膚モデルカップ内のサンプルをPBSで洗い流し、アッセイ培地で1 mg/mlに調製したMTT溶液を300 μlずつ分注した24穴プレートのウェルに皮膚モデルカップを入れて37℃のCO2インキュベーターで3時間培養した。その後、皮膚モデルカップを2 mlのイソプロパノールに浸漬して室温で一晩静置し、ホルマザンを抽出した。抽出液の550 nmの吸光度を測定し、ネガティブコントロールを100%としたときの細胞生存率を算出した。
【0070】
(結果)
図5に結果を示す。この結果から、LK-103株の菌体メタノール抽出物は、メラニン産生抑制効果が見られる濃度で細胞毒性がないことがわかった。
【0071】
参考例:チロシナーゼ活性阻害試験
10%(v/v) FBSを含むDMEM培地にB16マウスメラノーマ細胞F0株を懸濁した。4×103 cells/wellとなるように96穴プレートのウェルに細胞を播種し、37℃のCO2インキュベーターで一晩培養した。翌日、培地を吸引除去し、乳酸菌(LK-103株)メタノール抽出物(乾燥重量で、それぞれ終濃度0.2 mg/ml、0.4 mg/ml)を添加した培地に交換して、37℃のCO2インキュベーターで72時間培養を行った。ネガティブコントロールとして、乳酸菌メタノール抽出物の変わりにPBSを添加したもの、ポジティブコントロールとしてコウジ酸(終濃度で0.2 mM、1 mM、2 mM)を添加したもので同様に試験を行った。
【0072】
培養終了後、培地を吸引除去しPBSで2回洗ったのち、1% Triton X-100含有PBSを100 μlずつ添加して細胞を破砕し、チロシナーゼ粗酵素溶液として使用した。このチロシナーゼ粗酵素溶液75 μlに0.1% L-DOPA含有PBSを75 μlずつ加え、37℃で3時間反応させたのち、405 nmの吸光度を測定し、メラニン生成量からチロシナーゼ活性を算出した。また、PIERCE社製BCA Protein Assay Kitにて各ウェルのタンパク量を測定し、単位タンパク量当りで計算して比較を行った。
【0073】
(結果)
結果を図6に示した。ポジティブコントロールであるコウジ酸では濃度依存的にチロシナーゼ活性の阻害が見られたが、菌体メタノール抽出物ではチロシナーゼ活性の阻害は見られなかった。この試験により、本発明の乳酸菌は、従来の美白有効成分の有するチロシナーゼ活性阻害とは異なる作用機序を有する可能性が示唆された。
【受託番号】
【0074】
FERM P-21882
FERM P-21884

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リューコノストック属(Leuconostoc sp.)に属し、メラニン生成抑制作用を有する乳酸菌。
【請求項2】
ヒト由来皮膚細胞に、菌体抽出物が10mg/mlとなるように菌体抽出物懸濁液を2日おきに添加して、3日おきに培地交換を行って、37℃のCO2インキュベーターで17日間培養した場合に、滅菌水を添加して同様の条件で培養したネガティブコントロールと比較して、メラニン生成量が20%以上抑制されることを特徴とする、請求項1記載の乳酸菌。
【請求項3】
リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)である、請求項1または2に記載の乳酸菌。
【請求項4】
リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)のLK-28株(受託番号FERM P-21882)またはLK-103株(受託番号FERM P-21884)である、請求項1〜3のいずれかに記載の乳酸菌。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の乳酸菌又はその抽出物を含有するメラニン生成抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の乳酸菌又はその抽出物を含有する外用組成物。
【請求項7】
化粧料または医薬部外品である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
美白用化粧料または医薬部外品である、請求項6に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−168520(P2011−168520A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32986(P2010−32986)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所 社団法人日本生物工学会 刊行物名 第61回 日本生物工学会大会講演要旨集 発行年月日 2009年8月25日
【出願人】(592179241)菊正宗酒造株式会社 (3)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】