説明

メラニン生成系の生体内物質を阻害する薬剤

【課題】天然物由来の、安価、安全でかつ有効性の高いエンドセリン-1産生阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、及びα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤の提供。
【解決手段】メラニン生成系の生体内物質を阻害する薬剤である、ヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤、ヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するセリンプロテアーゼ阻害剤及びキリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻熱水抽出物を有効成分として含有する、メラニン生成系の生体物質を阻害する薬剤、具体的にはエンドセリン-1産生阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、及びα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から市場にある美白化粧品の多くは、メラノサイト(表皮メラニン細胞ともいう)においてシミ、ソバカスの原因となるメラニンの生成に働くチロシナーゼ(またはポリフェノールオキシダーゼ)の活性を阻害する有効成分を含む。チロシナーゼ阻害活性のある物質としては、コウジ酸、アルブチン、L-アスコルビン酸がよく知られている。チロシナーゼ阻害活性のある物質としては、他にフェルラ酸、カフェー酸、o-クマル酸、p-クマル酸、ケイ皮酸及びその誘導体、安息香酸などが古くから報告されている(非特許文献1、2、3)。そして、このようなフェルラ酸などの物質は植物に多く存在することから、植物抽出液に美白作用のある物質を探索する試みが広く行われている。
【0003】
海藻抽出物にメラニン生成阻害物質を求める試みも多くなされている。例えば、実施例として海藻抽出物のチロシナーゼ阻害作用が記載(一部B16メラノーマ細胞でのメラニン生成阻害も記載)されている特許公報として特許文献1〜7がある。このうち、特許文献3、4にはヒジキ抽出物のチロシナーゼ阻害活性が、特許文献6にはキリンサイ抽出物のチロシナーゼ阻害活性が実施例中に記載されている。さらに、メラニン生成抑制剤及び美白剤を開示した特許文献8には、細切りした海藻をリン酸緩衝生理食塩水で撹拌するなどして得たカイメンソウ、イワヒゲ、ハリアミジ、ヤナギモク、ソゾ、ダルス、フシツナギ、サンゴモ、エゾノネジモク、イシモズク、ヒジキ、アシスジモク、ヘラヤハズ、ホンダワラの抽出物について、B16メラノーマ細胞でのメラニン生成抑制効果及びヒトでの美白効果が実施例に記載されている。化粧料組成物を開示する特許文献9では、海藻乾燥物を80℃の精製水にて5時間抽出し濾過した、ウミウチワ、コンブ、ヒジキ、ヒバマタ、ワカメ、キリンサイ、コトジツノマタ、スギノリ、ヒジリメン、テングサ、アオノリ、アナアオサの抽出液について、B16メラノーマ細胞でのメラニン生成抑制効果及びヒトでの美白効果が実施例に記載されている。
【0004】
このように、メラニン生成阻害剤として、種々の化合物や生物資源抽出物が研究されている。一方、皮膚におけるメラニン生成は先ず細胞増殖因子やホルモンなどの生体内物質がメラノサイトを刺激することによって引き起こされる。
【0005】
メラニン生成に対して促進的に働く生体内物質としてエンドセリン-1(ET-1)が知られている。エンドセリン-1は主に血管内皮細胞が産生する強力な血管収縮ペプチドであり、21残基のアミノ酸からなる。エンドセリン-1は血管内皮細胞に存在するエンドセリン変換酵素の働きでビッグエンドセリンから生成する。エンドセリン-1は標的細胞のエンドセリン受容体(ETA受容体及びETB受容体)を介してホスホリパーゼCの活性化、カルシウムチャンネルの開口など多様な細胞内シグナル伝達系を活性化する。その結果、ホルモン・神経伝達物質分泌調節、細胞増殖・分化作用などさまざまな作用が奏される。一般的に、エンドセリン-1の濃度上昇は高血圧症や心疾患などの原因となる。エンドセリン-1はまた、血管以外の種々の組織細胞で産生され、様々な生理的役割を担っている。例えば、紫外線が肌にあたると、ケラチノサイト(表皮角化細胞とも言う)でエンドセリン-1が産生され(非特許文献4)、産生されたエンドセリン-1は、メラノサイトを刺激して、シミ、ソバカスの原因となるメラニンを盛んに生成させる。したがって、ケラチノサイトのエンドセリン-1の産生を抑制することができればシミ、ソバカスを治療または予防することができる。
【0006】
かかる市場の要求に応えるべく、エンドセリン-1産生抑制剤が研究されてきた。従来エンドセリン-1産生抑制剤として検討されたものは化学合成品が中心であるが、安全性を考慮すれば天然物で同様の効果を有するものが望まれる。これまでに天然物として、赤ワイン抽出物に含まれるポリフェノール(ピセアタンノール、デルフィニジンなど)(非特許文献5)、大豆イソフラボン(ゲニステイン)(非特許文献6)、ルテオリン及びクダモノトケイソウ抽出物(特許文献10、非特許文献7)が血管内皮細胞に対するエンドセリン-1の産生抑制剤として検討されている。一方、エンドセリン変換酵素の働きを阻害する植物抽出物が記載された特許文献として、セイヨウサンザシ、ワレモコウなどの植物の抽出物を有効成分とするエンドセリン変換酵素阻害剤(特許文献11、非特許文献8)がある。一方、カミツレの花から抽出して得られるカミツレエキスにはエンドセリン-1の働きを抑える作用があり(非特許文献9)、結果としてメラニンの生成を抑制することから新しいタイプの美白化粧品として実用化されている。
【0007】
また、スクテラレイン(scutellarein)、ユウパフォリン(eupafolin)、及びシネンセチン(sinensetin)がケラチノサイトのエンドセリン-1産生を抑制することが報告されている(特許文献12)。さらに、ヒトリシズカ抽出物(特許文献13)やハヤトウリ果実抽出物(特許文献14)が紫外線照射で刺激したケラチノサイトのエンドセリン-1産生を抑制する効果が報告されている。
【0008】
近年、多くのエンドセリン生合成阻害薬やエンドセリン受容体拮抗薬の各種疾患の治療薬としての有効性も研究されており、例えばエンドセリン受容体拮抗薬は、薬理学的研究試薬として、さらには高血圧、肺高血圧、血管狭窄、動脈硬化、慢性心不全等の慢性循環器疾患の治療薬として極めて有効であることも確認されている(非特許文献19)。またエンドセリン生合成阻害薬であるエンドセリン変換酵素(ECE)阻害薬(CGS26393、CGS30084、CGS34226、FR901533等)についても、高血圧、脳血管攣縮、慢性心不全等に対する治療や、虚血・再灌流による肝障害の抑制等に有効であることが知られている(例えば非特許文献20)。
【0009】
α-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)は脳下垂体で生成されるペプチドホルモンであり、前駆体プロオピオメラノコルチンからプロセシングにより生成される。また、皮膚ケラチノサイトもα-メラノサイト刺激ホルモンを産生し、さらに紫外線(UVB)やインターロイキン-1の刺激でその産生量が上昇することが報告されている(非特許文献10)。α-メラノサイト刺激ホルモンは脊椎動物一般にメラノサイトのチロシナーゼを活性化し、メラニン生成を増加させる(非特許文献11)。このことから、α-メラノサイト刺激ホルモンは紫外線による色素沈着の要因の一つとなっている。一方、脳においては、α-メラノサイト刺激ホルモンは食物摂取を減少させるなど、中枢神経系や免疫系の機能にも関わっていることが知られている。
【0010】
α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤の研究も進められており、食欲不振改善等の効果についても検討されている。しかし従来α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤として検討されたものはHis-D-Arg-Ala-Trp-D-Phe-Lys-NH2(非特許文献12)のようなα-メラノサイト刺激ホルモンのアナログなど化学合成品が中心であり、安全性を考慮すれば天然物で同様の効果を有するものが望まれる。
【0011】
表皮へのメラニンの移動を抑制する作用を有する美白剤の検討も種々行われている。メラニンは、メラノサイトに存在するメラノソームと呼ばれる小胞の中で合成・貯蔵される。メラニン色素を貯蔵したメラノソームは細胞内を移動し、メラノサイト樹状突起(デンドライト)を介して表皮のケラチノサイトに取り込まれる(すなわち、貪食される)。このとき、ケラチノサイトの膜表面上の蛋白質プロテアーゼ活性化受容体2(PAR-2)がセリンプロテアーゼにより開裂、活性化されることにより、貪食が活性化される(非特許文献13、14)。デンドライト伸長抑制剤も種々研究され、セイヨウノコギリソウに含有されるセンタウレイジン(centaureidin)などが報告されている(非特許文献15)。またメラノソームの貪食を抑制したりPAR-2経路に作用(セリンプロテアーゼ阻害、PAR-2アンタゴニスト)したりする化合物、植物抽出物、食品由来物質などが種々研究されている(特許文献15〜20)。
【0012】
皮膚は表皮、真皮、脂肪層(皮下組織)の3層からなり、表皮は皮膚の3層構造の最も外側にある。表皮を構成する主な細胞は、ケラチノサイトであり、分裂能力を持つ細胞は最下層の基底層に存在し、有棘層、顆粒層、角質層へと分化していく。表皮の外側の部分である角質層は、ケラチンという丈夫なタンパク質でできており、水をはじき、細菌、ウイルス、その他の異物が体内に侵入するのを防いでいる。一方、基底層にはメラノサイトが点在する。紫外線があたるとメラノサイトからメラニン色素が生成される。
【0013】
このように、角質層は異物が体内に侵入するのを防いでいることから、従来から美白作用を目的とした化合物の評価によく使われているチロシナーゼ阻害活性が確認された化合物や、B16メラノーマやメラノサイトなどの培養細胞系でメラニン生成阻害活性の確認された化合物が、実際にin vivoで、皮膚の角質層を透過してメラノサイトまで達して美白作用を奏するとは限らない。
【0014】
正常ヒト皮膚3次元モデルはケラチノサイトとメラノサイトから構成された多層かつ高度に分化した皮膚モデルで、ヒト皮膚に近い3次元構造を有しており、目視で黒化を観察でき、また、メラニンを抽出・定量することもできる(非特許文献16)。特に、この皮膚モデルではサンプルカップ内に被検試料を導入することで、角質層の上から浸透する被検試料の美白などの効果を判定することができる(非特許文献17)。また、チロシナーゼ阻害物質の美白効果を評価する他に、ヒト皮膚3次元モデルではエンドセリン-1を産生させるケラチノサイトが存在することからエンドセリン-1産生阻害物質による美白効果の評価が可能である。さらに、ヒト皮膚3次元モデルでは、培地中にα-メラノサイト刺激ホルモンを添加することから、α-メラノサイト刺激ホルモンの働きを阻害することによる美白効果を評価することも可能である。また、ヒト皮膚3次元モデルはケラチノサイトとメラノサイトから構成されているので、メラニンの移動を抑制する美白剤の評価も可能である。
【0015】
前述のようにメラニン生成系の生体物質の阻害に効果のある物質は種々知られているが、天然物由来のエンドセリン-1産生阻害剤、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤、メラニンの移動抑制をもたらすセリンプロテアーゼ阻害剤はあまり知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平1−224308号公報
【特許文献2】特開平2−88592号公報
【特許文献3】特開平2−124810号公報
【特許文献4】特開平4−95012号公報
【特許文献5】特開平4−95013号公報
【特許文献6】特開2002−60316号公報
【特許文献7】特開2007−204369号公報
【特許文献8】特開平10−330219号公報
【特許文献9】特開2001−139419号公報
【特許文献10】特開2005−75766号公報
【特許文献11】特開2000−302633号公報
【特許文献12】特開2007−2239657号公報
【特許文献13】特開2008−88073号公報
【特許文献14】特開2008−94737号公報
【特許文献15】特表2001−502360号公報
【特許文献16】特開2006−124355号公報
【特許文献17】特開2006−273808号公報
【特許文献18】特開2006−273809号公報
【特許文献19】特開2006−347926号公報
【特許文献20】特開2008−143796号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Journal of Agricultural and Food Chemistry,1993年,41巻,pp. 526-531
【非特許文献2】Journal of Agricultural and Food Chemistry,1996年,44巻,pp. 1668-1675
【非特許文献3】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2002年,50巻,pp. 1400-1403
【非特許文献4】FEBS letters,1995年,371巻,pp. 188-190
【非特許文献5】Nature,2001年,414巻,pp. 863-864
【非特許文献6】Atherosclerosis,2002年,163巻,pp. 339-347
【非特許文献7】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2005年,69巻,pp. 1613-1615
【非特許文献8】Biological & Pharmaceutical Bulletin,2001年,24巻,pp. 688-692
【非特許文献9】Pigment Cell Research,1997年,10巻,pp. 218-228
【非特許文献10】The Journal of Clinical Investigation,1994年,93巻,pp. 2258 -2262
【非特許文献11】Proceedings of the National Academy of Sciences USA,1995年,92巻,pp. 1789-1793
【非特許文献12】Peptides,1994年,15巻,pp. 627-632
【非特許文献13】Experimental Cell Research ,2000年,254巻,pp.25-32
【非特許文献14】Journal of Cell Science,2000年,113巻,pp.3093-3101
【非特許文献15】Biochimica et Biophysica Acta,2006年,1760巻,pp.487-494
【非特許文献16】Analytical Biochemistry, 2003年,318巻,pp. 260-269
【非特許文献17】Skin Pharmacology and Applied Skin Physiology, 2002年,15巻,pp. 18-30
【非特許文献18】Abstract of the 1999 annual meeting of the society of investigative dermatology., J. Invest. Dermatol., 1999年, 112巻, p. 629
【非特許文献19】後藤勝年及び宮内卓、「エンドセリン研究の新しい展開−受容体拮抗薬の臨床応用への展望−」、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)、2003年、Vol.121、pp.91-101
【非特許文献20】Uhlmann D et al., Microvasc. Res., (2001) 62: p.43-54
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、天然物由来の、エンドセリン-1産生阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、及びα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ね、海藻抽出物についてエンドセリン-1産生阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、及びα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤を探索した結果、ヒジキ熱水抽出物がエンドセリン-1産生阻害活性及びセリンプロテアーゼ阻害活性を有すること、及びキリンサイ熱水抽出物がα-メラノサイト刺激ホルモン阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]ヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有する、メラニン生成系生体物質阻害剤。
[2]ヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤である、上記[1]の阻害剤。
[3]ヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するセリンプロテアーゼ阻害剤である、上記[1]の阻害剤。
[4]キリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤である、上記[1]の阻害剤。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの阻害剤を含む美白化粧料。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、天然物由来の薬剤を用いて、顕著なエンドセリン-1産生阻害活性、セリンプロテアーゼ阻害活性、及びα-メラノサイト刺激ホルモン阻害活性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液が培養血管内皮細胞におけるエンドセリン-1産生を阻害することを示した図である。横軸に示すヒジキ煮汁脱塩粉末の濃度(mg/ml)は、KRB緩衝液380μlに2.5〜10 mg/mlの希釈試験試料溶液20μlを加えた総量400μl中のヒジキ煮汁脱塩粉末の終濃度を表す。
【図2】ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液を添加した培養血管内皮細胞におけるMTT試験の結果を示す図である。ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液に細胞毒性がないことが示されている。横軸に示すヒジキ煮汁脱塩粉末の濃度(mg/ml)は、反応液総量中の終濃度を表す。
【図3】キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液のα-メラノサイト刺激ホルモン阻害作用を示す図である。図中でα-メラノサイト刺激ホルモンをα-MSHと表す。横軸に示すα-MSHの濃度(μM)及びキリンサイ熱水抽出物の濃度(mg/ml)は、反応液総量中の終濃度を表す。
【図4】α-メラノサイト刺激ホルモン無添加の培養B16-F1マウスメラノーマ細胞では、キリンサイ熱水抽出物はメラニン生成を阻害しないことを示した対照実験の結果を示す図である。横軸に示すキリンサイ熱水抽出物の濃度(mg/ml)は、反応液総量中の終濃度を表す。
【図5】アルブチン水溶液のメラニン生成阻害作用を示した図である。
【図6】キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液を添加したB16-F1マウスメラノーマ細胞におけるMTT試験の結果を示す図である。キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液に細胞毒性がないことが示されている。図中でα-メラノサイト刺激ホルモンをα-MSHと表す。横軸に示すα-MSHの濃度(μM)及びキリンサイ熱水抽出物の濃度(mg/ml)は、反応液総量中の終濃度を表す。
【図7】ヒジキ煮汁粉末水溶液がヒト皮膚3次元モデルにおけるメラニン生成を阻害することを示した図である。メラニン量の相対値をモデルカップの横に示した。
【図8】ヒジキ煮汁粉末水溶液がヒト皮膚3次元モデルにおいて、メラニンの移動を抑制することを示した図である。
【図9】キリンサイ熱水抽出物がヒト皮膚3次元モデルにおけるメラニン生成を阻害することを示した図である。メラニン量の相対値をモデルカップの横に示した。
【図10】キリンサイ熱水抽出物脱塩粉末水溶液及びヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液がヒト皮膚3次元モデルにおけるメラニン生成を阻害することを示した図である。メラニン量の相対値をモデルカップの横に示した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、ヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有する、メラニン生成系生体物質阻害剤を提供する。本発明において「メラニン生成系生体物質阻害剤」とは、in vivoでメラニン生成に関与する各種生体物質の産生又は活性を阻害する薬剤を意味する。メラニン生成系生体物質阻害剤は多くの疾患、症状等の治療又は改善に有効であることが知られている。本発明においてメラニン生成系生体物質阻害剤としては、例えば、エンドセリン-1産生阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤等が挙げられる。本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤は、より好ましくは、ヒジキ熱水抽出物(ヒジキ煮汁など)を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤、及びヒジキ熱水抽出物(ヒジキ煮汁など)を有効成分として含有するセリンプロテアーゼ阻害剤である。本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤は、より好ましくは、キリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤である。
【0024】
ヒジキ(Sargassum fusiforme (Harvey) Setchell)は、褐藻類ヒバマタ目ホンダワラ科ヒジキ属に分類される海藻であり、主に食材として利用される。干したヒジキに真水を加えて煮沸し、渋みや色素を溶出、天日乾燥して食材とする。収穫前は褐色をしているが、煮沸すると黒くなる。根、茎、葉を持ち、茎の部分だけにしたものを長ひじき、芽の部分だけにしたものを芽ひじきという。
【0025】
キリンサイ(Eucheuma denticulatum (Burman) Collins et Harvey)は紅藻類スギノリ目ミリン科キリンサイ属に分類される海藻である。キリンサイは、食品の増粘剤などとして広く利用されている粘質多糖類カラギーナンを多く含んでいる。キリンサイは日本では四国、九州から沖縄県及び東シナ海に広く分布している。
本発明において使用可能なヒジキ及びキリンサイの品種及び産地は、特に限定されるものではない。
【0026】
本発明において「ヒジキ熱水抽出物」とは、ヒジキの植物体全体、又はその根、茎、及び葉のうちの1つ以上から水又は水性溶媒中での加熱抽出により得られる抽出液又はその処理物(例えば濃縮液、ゲル、懸濁液、粉末等)をいう。加熱抽出に用いる水性溶媒は、水に適当量の他の1種又は2種以上の成分(例えば、塩、アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、1,3-ブタンジオール等)、酸、ミネラル等)が混合したものであってよく、例えば海水であってもよい。加熱抽出は、70℃以上、好ましくは90℃以上で煮ることにより行うことが好ましい。ヒジキ熱水抽出物の好ましい例としては、ヒジキ煮汁が挙げられる。ヒジキ煮汁は、ヒジキ加工の水煮工程で出るものを利用できる。ヒジキ熱水抽出物の別の例として、ヒジキの植物体全体、又は根、茎、葉を別々にして細断するか又はミキサー等で細かく破砕した後、蒸留水を加えて約4〜15分間煮沸して熱水抽出し、冷却後に遠心分離又は濾過により不溶物を除去して得られる溶液(上清又は濾液など)も用いることができる。ヒジキ煮汁等のヒジキ熱水抽出物は、例えば乾燥(凍結乾燥、減圧下での乾燥等)により粉末化してもよい。ヒジキ熱水抽出物はまた、脱塩してもよく、例えば常法により脱塩した後に乾燥してもよい。
【0027】
本発明において「キリンサイ熱水抽出物」とは、キリンサイの植物体全体、又はその根、茎、及び葉のうちの1つ以上から水又は水性溶媒中での加熱抽出により得られる抽出液又はその処理物(例えば濃縮液、ゲル、懸濁液、粉末等)をいう。加熱抽出に用いる水性溶媒は、水に適当量の他の1種又は2種以上の成分(例えば、塩、アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、1,3-ブタンジオール等)、酸、ミネラル等)が混合したものであってよく、例えば海水であってもよい。加熱抽出は、70℃以上、好ましくは90℃以上で煮ることにより行うことが好ましい。ヒジキ熱水抽出物の好ましい例として、キリンサイの植物体全体、又はその根、茎、葉を別々にして細断するか又はミキサー等で細かく破砕した後、蒸留水を加えて約4〜15分間煮沸して熱水抽出し、冷却後に遠心分離または濾過により不溶物を除去して得られる溶液(上清又は濾液など)も用いることができる。キリンサイ熱水抽出物は、例えば乾燥(凍結乾燥、減圧下での乾燥等)により粉末化してもよい。ヒジキ熱水抽出物はまた、脱塩してもよく、例えば常法により脱塩した後に乾燥してもよい。
【0028】
これらのヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物はメラニン生成系生体物質阻害作用を有することから、ヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有する製剤はメラニン生成系生体物質阻害剤として提供される。
【0029】
当該熱水抽出物のメラニン生成系生体物質阻害作用としては、例えば、エンドセリン-1産生阻害作用、セリンプロテアーゼ阻害作用、及びα-メラノサイト刺激ホルモン阻害作用が挙げられる。当該熱水抽出物のエンドセリン-1産生阻害作用は、公知の任意の方法により確認すればよいが、後述の実施例に記載されるように、例えば血管内皮細胞の培養細胞と市販のエンドセリン-1測定キットを用いて確認することができる。また当該熱水抽出物のセリンプロテアーゼ阻害作用は、公知の任意の方法により確認すればよいが、後述の実施例に記載されるように、セリンプロテアーゼとして例えばトリプシンを使用し、合成基質としてベンゾイル-アルギニン-p-ニトロアニリドを用いた反応系で確認することができる。また当該熱水抽出物のα-メラノサイト刺激ホルモン阻害作用は、公知の任意の方法により確認すればよいが、後述の実施例に記載されるように、例えばマウスメラノーマ細胞とα-メラノサイト刺激ホルモンを用いた反応系で確認することができる。
【0030】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤の1つの実施形態としては、ヒジキ熱水抽出物及び/又はキリンサイ熱水抽出物(好ましくはヒジキ熱水抽出物)を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤がある。とりわけヒジキ煮汁を始めとするヒジキ熱水抽出物は、in vivo又はin vitroでエンドセリン-1を産生する細胞(ケラチノサイト、血管内皮細胞など)に作用してエンドセリン-1産生を強力に阻害する効果を有する。このため、本発明に係るヒジキ熱水抽出物(ヒジキ煮汁など)を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤は、エンドセリン-1産生細胞に有効に作用させることにより、エンドセリン-1の産生、増加又は異常活性等に起因して生じる被験体の状態、症状又は疾患を改善、予防又は治療するために用いることができる。エンドセリン-1の産生、増加又は異常活性等に起因して生じる状態、症状または疾患としては、限定するものではないが、皮膚の黒色化、シミ、ソバカス等、高血圧、肺高血圧、脳血管攣縮、血管狭窄、動脈硬化、慢性心不全等の慢性循環器疾患、虚血・再灌流に伴う臓器障害(肝障害等)などが挙げられる。
【0031】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤の別の実施形態としては、ヒジキ熱水抽出物及び/又はキリンサイ熱水抽出物(好ましくはヒジキ熱水抽出物)を有効成分として含有するセリンプロテアーゼ阻害剤がある。とりわけヒジキ煮汁を始めとするヒジキ熱水抽出物は、in vivo又はin vitroでセリンプロテアーゼの活性を強力に阻害する。本発明に係るヒジキ熱水抽出物(ヒジキ煮汁など)を有効成分として含有するセリンプロテアーゼ阻害剤は、セリンプロテアーゼの活性を阻害することにより、セリンプロテアーゼの産生、増加又は異常活性等に起因して生じる被験体の状態、症状又は疾患を改善、予防又は治療するために用いることができる。セリンプロテアーゼの産生、増加又は異常活性等に起因して生じる状態、症状または疾患としては、限定するものではないが、マスト細胞顆粒内に豊富に含まれるセリンプロテアーゼであるトリプターゼによる各種のアレルギー疾患、炎症などが挙げられる。
【0032】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤の別の実施形態としては、ヒジキ熱水抽出物及び/又はキリンサイ熱水抽出物(好ましくはキリンサイ熱水抽出物)を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤がある。とりわけキリンサイ熱水抽出物は、in vivo又はin vitroでα-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)の作用(活性)を強力に阻害する効果を有する。キリンサイ熱水抽出物はまた、メラノサイトに有効に作用して、メラノサイトにおけるα-メラノサイト刺激ホルモンの作用阻害に基づくメラニンの生成阻害を引き起こすことができる。従って、本発明に係るキリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤は、α-メラノサイト刺激ホルモンの産生、増加又は異常活性等に起因して生じる被験体の状態、症状又は疾患を改善、予防又は治療するために用いることができる。α-メラノサイト刺激ホルモンの産生、増加又は異常活性等に起因して生じる状態、症状または疾患としては、限定するものではないが、皮膚の黒色化、シミ、ソバカス、食欲不振等などが挙げられる。
【0033】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤、例えばヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤、ヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するセリンプロテアーゼ阻害剤、及びキリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤は、それぞれの阻害対象のメラニン生成系生体物質を用いた生物学的反応試験において、反応阻害試薬としても用いることができる。
【0034】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤は、当該阻害活性を利用すべく、様々な製品に用いることができる。例えば、本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤は、化粧料、医薬又は食品等に配合して使用することができる。これにより、当該阻害活性に基づく薬効等を得ることもできる。
【0035】
例えば、本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤は、化粧料に含めて使用することができる。化粧料としては、本発明の抽出物それ自体を直接適用してもよい。この化粧料はまた、溶液状、可溶化状、乳化状、粉末状、ペースト状、ムース状、ジェル状の化粧用組成物であってよい。その化粧料は、化粧水、乳液、クリーム、パック、軟膏等として、例えば皮膚外用剤の形態で、皮膚に適用することができる。化粧料は、任意の種類のものであってよく、限定するものではないが例えば美白化粧料、日焼け止め化粧料、しわ取り用化粧料、頭髪化粧料、入浴用化粧料等が挙げられる。本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤は、メラニン生成を阻害できることから、美白化粧料や日焼け止め化粧料に含めることも好ましい。
【0036】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤を美白化粧料の有効成分として使用する場合には必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料や医薬部外品、外用医薬品等の製剤に通常使用される成分、例えば、精製水、アルコール類、水溶性高分子、油剤、界面活性剤、ゲル化剤、保湿剤、ビタミン類、抗菌剤、香料、塩類、PH調整剤等をさらに加えることができる。本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤を含有する美白化粧料は、その包装に皮膚の美白作用を奏する旨の表示が付されたものであってよい。
【0037】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤の有効成分であるヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物(乾燥重量)の化粧料(全重量)中の含有量は、1重量%〜50重量%が好ましく、より好ましくは2.5重量%〜20重量%である。本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤を皮膚に直接塗布して用いる場合には、有効成分であるヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物を2.5重量%〜20重量%含有する化粧品を1日あたり1〜4回塗布することができる。
【0038】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤はまた、任意の医薬製剤(医薬組成物)の有効成分として使用することもできる。この医薬製剤は、メラニン生成系生体物質阻害用、例えばエンドセリン-1産生阻害用、セリンプロテアーゼ阻害用、又はα-メラノサイト刺激ホルモン阻害用であってよい。より具体的には、この医薬製剤は、例えば、上述したような、エンドセリン-1の産生、増加又は異常活性等に起因して生じる被験体の状態、症状又は疾患の改善、予防又は治療用の医薬製剤であってよい。この医薬製剤はまた、例えば、上述したような、セリンプロテアーゼの産生、増加又は異常活性等に起因して生じる被験体の状態、症状又は疾患の改善、予防又は治療用の医薬製剤であってよい。この医薬製剤は、例えば、上述したような、α-メラノサイト刺激ホルモンの産生、増加又は異常活性等に起因して生じる被験体の状態、症状又は疾患の改善、予防又は治療用の医薬製剤であってよい。この医薬製剤は、肌の美白用の医薬製剤であってもよい。
【0039】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤を含む医薬製剤は、本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤を公知の医薬用担体と組み合わせて製剤化することができる。投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、軟膏剤、貼付剤、坐剤、吸入剤、注射剤、点滴剤等の非経口剤として、または錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤として使用されうる。経皮吸収剤は、例えば外用医薬品等の製剤に使用される成分、すなわち、精製水、アルコール類、水溶性高分子、油剤、界面活性剤、ゲル化剤、保湿剤、ビタミン類、抗菌剤、香料、塩類、PH調整剤等を加えることができる。経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造されうる。本発明の有効成分であるヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物の添加量(乾燥重量)は、投与対象、投与経路、剤形等の諸条件によって異なるが、例えば、医薬製剤(全重量)中に1.0重量%〜80重量%含有させることができる。本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤の有効成分であるヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物の投与量(乾燥重量)は、特に限定されるものではなく、例えば、症状の程度(美白用であれば皮膚の黒色化、シミ、ソバカス等の程度)、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができる。例えば、経皮吸収投与の場合には1日あたり1〜4回塗布することが好ましく、経口投与の場合には1日当たり10 mg/kg〜200 mg/kg投与することが好ましい。
【0040】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤はまた、機能性食品、特定保健用食品等の各種食品製品の有効成分として使用することもできる。このような食品は、メラニン生成系生体物質阻害用、例えばエンドセリン-1産生阻害用、セリンプロテアーゼ阻害用、又はα-メラノサイト刺激ホルモン阻害用であってよい。このような食品は、メラニン生成系生体物質阻害作用、例えばエンドセリン-1産生阻害作用、セリンプロテアーゼ阻害作用、又はα-メラノサイト刺激ホルモン阻害作用に基づく被験体の状態、症状又は疾患の改善若しくは予防のためのものであってもよい。このような食品は、美白用であってもよい。このような食品は、例えば皮膚の美白作用を奏する旨の表示がその包装に付されたものであってもよく、清涼飲料、乳酸飲料、スープ、ジャム、菓子類等の各種形態をとることができる。
【0041】
本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤の有効成分であるヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物の食品中の添加量(乾燥重量)は食品の形態により異なるが、例えば、10重量%〜90重量%含有させることができる。食品には他の有効成分や食品添加剤等も添加することができる。本発明に係るメラニン生成系生体物質阻害剤の有効成分であるヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物の投与量(乾燥重量)は、特に限定されるものではなく、年齢、性別、体重、食品の形態などに応じて適宜決定することができ1日当たり10 mg/kg〜200 mg/kgであることが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
[実施例1](ヒジキ煮汁を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤の製造)
ヒジキ煮汁は、一般的なヒジキ加工工程で得られるものを用いた。具体的には、収穫したヒジキを水道水で水洗いし、鍋に入れたヒジキに対して等量〜数倍程度の水を加えて約20分間煮沸して煮汁を得た。
【0043】
調製したヒジキの煮汁(10 L)を凍結乾燥し、338 gの粉末(粉末A)を得た。この粉末を0.1 g/mlの濃度となるよう蒸留水に溶かし、濾過(10 μmフィルター)を行った。回収した濾液10 mlを電気透析装置(旭化成社製マイクロ・アシライザー, S1)でイオン交換膜カートリッジ(AC-220-20)を用いて電流が0.02 A以下になるまで脱塩を行った。脱塩後の溶液を遠心エバポレーターを用いて減圧下で乾燥することにより298 mgの粉末(粉末B)を得た。
【0044】
[実施例2](キリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤の製造)
キリンサイ熱水抽出物を調製するため、まずキリンサイ全草を塩抜きし、凍結乾燥後、遠心粉砕機(MRK-Retsch, ZM100)で粉砕し0.5 mmのメッシュを通過した粉末を得た。この粉末1.8 gを90 mlの蒸留水中に分散させ、湯浴中で10分間煮沸し熱水抽出し、直ちに冷却した。この熱水抽出液全量について、限外濾過膜を通過させ、回収した溶液を遠心式エバポレーターを用いて減圧下で乾燥することにより103 mgの粉末(粉末C)を得た。
【0045】
さらに、上記の熱水抽出液について限外濾過膜を通過させ、回収した溶液全量を、電気透析装置(旭化成社製マイクロ・アシライザー, S1)でイオン交換膜カートリッジ(AC-220-20)を用いて電流が0.02 A以下になるまで脱塩を行った。脱塩後の溶液を遠心エバポレーターを用いて減圧下で乾燥することにより63.3 mgの粉末(粉末D)を得た。
【0046】
[実施例3](ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液の培養血管内皮細胞におけるエンドセリン-1産生阻害活性及び細胞毒性の有無の確認)
正常ブタ大動脈血管内皮細胞(継代数2、25 cm2培養フラスコ入り、DSファーマバイオメディカル社より購入)を、CS-C培地(D-MEM培地とハムF12培地を1 : 1に等比混合した培地に、10% FBS、15mM HEPES、酸性FGF、及びヘパリンを添加した培地。DSファーマバイオメディカル社より購入)に分散させ、コラーゲンをコーティングした24穴(ウェル)(1穴が2 cm2)のプレート1枚に添加して、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で培養した。4日間の培養後、プレートの各穴の培地を捨て、クレブス-リンゲル重炭酸(KRB)緩衝液(129 mM NaCl、5 mM NaHCO3、4.8 mM KCl、1.2 mM KH2PO4、1.0 mM CaCl2、1.2 mMMgSO4、2.8 mM グルコース、0.1% ウシ血清アルブミン、10 mM HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸)、pH 7.4)1 mlを用いて、各穴を2回洗浄した。
【0047】
洗浄後、KRB緩衝液380μlに試験試料溶液(実施例1で得られたヒジキ煮汁脱塩粉末(粉末B)を2.5〜10 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解した水溶液(ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液)、又は対照として蒸留水)20μlを加えた溶液400μlを各穴に添加し、5% CO2存在下の加湿状態で、37℃、3時間静置した。なお、試料添加時における細胞数は1穴あたり4.0 x 105個であった。
【0048】
次いで、各穴より上清300μlを回収して、エンドセリン-1濃度を、エンドセリン-1測定キット-IBL(株式会社免疫生物研究所より購入)を用いた酵素免疫測定法により測定した。その結果を図1に示す。図1は、3時間の静置後の上清中のエンドセリン-1濃度(pg/ml)を、n = 3の平均値(平均値±標準偏差、群間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)で示した。ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液添加区について、対照区と比較して、エンドセリン-1の産生が有意に阻害されたことが確認された。
【0049】
さらに試験試料溶液の細胞毒性の有無を検査した。まず、上記で各穴より上清300μlを回収した後の24穴プレートから、残りのKRB緩衝液を除去し、各穴をRPMI 1640培地(フェノールレッド不含、10%ウシ胎児血清含有)で2回洗浄した後、RPMI 1640培地を各穴に360μl添加した。これにロッシュ社のMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイキットに添付されているMTT試薬を40μl添加することにより、MTT試験を行い、細胞生存率を調べた。試験試料添加区についてマイクロプレートリーダーで測定した570nmでの吸光度を、対照区の吸光度を100%とした相対値(n=3の平均値±標準偏差)で表した。それを図2に示す。その結果、細胞生存率の低下は認められず、この濃度範囲のヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液には細胞毒性は認められなかった。
【0050】
[実施例4](ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液のセリンプロテアーゼ阻害活性の確認)
セリンプロテアーゼとしてブタ膵臓由来トリプシン(和光純薬工業より購入)、その合成基質としてBAPA(ベンゾイル-アルギニン-p-ニトロアニリド)を用い、96穴のマイクロプレートを使用して、以下の通りセリンプロテアーゼ阻害活性試験を行った。
【0051】
試験試料溶液(実施例1で得られたヒジキ煮汁脱塩粉末(粉末B)を1.0〜10 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解したもの(ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液)、又は対照として蒸留水)10 μlをマイクロプレートの各穴に加え、これに30μg/mlのブタ膵臓由来トリプシン(10mM CaCl2を含む50 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したもの)50μlを加えて25℃で5分間振とうした。次に、0.75 mM BAPA(10mM CaCl2及び0.67% (v/v) DMSOを含む50 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したもの)100μlを加えて25℃で20分間振とうした。45%酢酸 50μlを加えて反応を停止させた後、405 nmでの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。n=4で行ったこの試験において、トリプシンの活性を50%阻害する試験試料の濃度をIC50値とした。ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液添加区ではトリプシン活性阻害作用が認められ、そのIC50値は190μg/mlであった。同じ試験で、陽性対照物質として試験したロイペプチンのIC50値は0.11μg/mlであった。
【0052】
次に、セリンプロテアーゼとしてヒト肺由来トリプターゼ(和光純薬工業より購入)を用いて、セリンプロテアーゼ阻害活性試験を行った。合成基質はトリプシンを用いた実験と同様にBAPA(ベンゾイル-アルギニン-p-ニトロアニリド)を用いた。試験試料溶液(実施例1で得られたヒジキ煮汁脱塩粉末(粉末B)を1, 2, 4 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解したもの(ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液)、又は対照として蒸留水)10 μlを96穴マイクロプレートの各穴に加え、これに10μgタンパク質/mlのヒト肺由来トリプターゼ(0.15 M NaCl、10 mM CaCl2、50μg/ml ヘパリンを含む40 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.1)に溶解)50μlを加えて混合し、25℃で5分間保温した。次に、0.75 mM BAPA(0.15 M NaCl、10 mM CaCl2、50μg/ml ヘパリン、1.0% (v/v) DMSOを含む40 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.1)に溶解)100μlを加えて25℃で20分間保温した。45%酢酸50μlを加えて反応を停止させ、BAPAの分解で生じるパラニトロアニリンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。なお、HPLCは、カラムとして、μBondasphere 5μC18 300Åカラム(3.9×150 mm;ウォーターズ社製)を使用し、溶出液として、0.1%トリフルオロ酢酸を含む0〜63%(V/V)のアセトニトリル水溶液の直線濃度勾配(20分間)を使用し、流速1 ml/minの条件で、405 nmの紫外部吸収を検出することにより実施した。この実験において、ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液添加区ではトリプターゼ活性阻害作用が認められ、250μg/mlの濃度でトリプターゼ活性を20%阻害した。なお、同じ試験で、陽性対照物質として試験した0.6 μg/mlのロイペプチンはトリプターゼ活性を68%阻害した。
【0053】
[実施例5](キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液のα-メラノサイト刺激ホルモン阻害活性及び細胞毒性の有無の確認)
B16-F1マウスメラノーマ細胞(DSファーマバイオメディカル社より購入)を15%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)に7.5 x 104 細胞/mlになるように分散させ、24穴のプレートの各穴に1 mlずつ分注した。炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で培養を開始し、1日後に各穴の培地を除去し、新たなDMEM培地(0.9 ml)に置き換えた。これに2μM α-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH) 50μlと試験試料溶液(実施例2で得られたキリンサイ熱水抽出物の乾燥粉末(粉末C)を2〜8 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解した水溶液(キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液)、又は対照として蒸留水)50μlを添加し、さらに2日間培養を行った。細胞内メラニン量を測定する目的で、各穴の培養上清を吸引除去し、PBS(-)溶液1 mlで各穴を洗浄した。PBS(-)溶液をよく除去した後、細胞内のメラニン量を測定する目的で、1N水酸化ナトリウム水溶液200μlを各穴に添加し、18時間静置した。このプレートを10分間ほど軽く浸透した後、各穴の水酸化ナトリウム水溶液180μlを96穴のプレートの各穴に移し、マイクロプレートリーダーで405 nmでの吸光度を測定した。陰性対照として、α-メラノサイト刺激ホルモン無添加におけるキリンサイ熱水抽出物粉末水溶液についても上記と同じ実験条件でメラニン量を測定した。さらに、比較のために試験試料として終濃度100〜400μMのアルブチンを用いて同様にメラニン量を測定した。
【0054】
測定された試験試料添加区及びα-メラノサイト刺激ホルモン添加対照区の細胞内メラニン量は、α-メラノサイト刺激ホルモン無添加の対照区のメラニン量を100%とした相対値(平均値±標準偏差、α-メラノサイト刺激ホルモン添加の対照区はn=8、その他はn=4)で表した。また、α-メラノサイト刺激ホルモン添加対照区と試験試料添加区との間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001で示した。
【0055】
図3に示すように、キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液は、α-メラノサイト刺激ホルモン添加により上昇するB16マウスメラノーマ細胞のメラニン生成を阻害した。一方、図4に示すように、α-メラノサイト刺激ホルモン無添加の場合、同一濃度範囲のキリンサイ熱水抽出物粉末水溶液は、メラニン生成阻害効果をもたらさなかった。一方、図5に示すように100〜400μMのアルブチンにはメラニン生成阻害作用が認められた。これらの結果から、キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液がα-メラノサイト刺激ホルモンの作用(活性)を阻害することが確認できた。
【0056】
次に、試験試料の細胞毒性を検査する目的で、B16-F1マウスメラノーマ細胞を上記と同じ方法でα-メラノサイト刺激ホルモン及び試験試料溶液を加えて培養し、細胞増殖に対する影響をロッシュ社のMTTアッセイキットにより測定するMTT試験を行った。試験試料添加区及びα-メラノサイト刺激ホルモンを添加した対照区についてマイクロプレートリーダーで測定した570 nmでの吸光度を、α-メラノサイト刺激ホルモン無添加の対照区の吸光度を100%とした相対値(平均値±標準偏差、α-メラノサイト刺激ホルモン添加の対照区はn=8、その他はn=4)で表した。それを図6に示す。その結果、この濃度範囲のキリンサイ熱水抽出物粉末水溶液は、細胞増殖に対して悪影響を及ぼさず、細胞生存率を低下させなかったことから、細胞毒性を有しないことが確認された。
【0057】
[実施例6](正常ヒト皮膚3次元モデルにおけるヒジキ煮汁粉末水溶液のメラニン生成阻害作用、メラニン移動抑制作用及び細胞毒性の有無の確認)
クラボウ株式会社から購入した正常ヒト皮膚3次元モデル(MEL-300-Bキット、Black donor)を用いて試験を行った。6穴プレートの各穴に長期維持培地EPI-100LLMM(bFGF及びα-メラノサイト刺激ホルモン含有、クラボウ株式会社から購入)を0.9 mlずつ添加した。この6穴プレートへ上記キットの皮膚モデルカップをピンセットで移し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で1時間培養した。次に、別の6穴プレートの各穴の中央にステンレスワッシャーを2枚重ねて置き、これに長期維持培地EPI-100LLMMを5 mlずつ入れた。このワッシャー上に、皮膚モデルカップをピンセットで移し、モデルカップ内に試験試料溶液(実施例1で調製したヒジキ煮汁の乾燥粉末(粉末A)を5〜40 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解した水溶液(ヒジキ煮汁粉末水溶液)、1 mg/mlのアルブチン水溶液、又は対照として蒸留水)100μlを添加し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で12日間培養した。培養期間中、試験試料溶液及び培地は2日毎に新鮮なものに交換した。培養12日目に皮膚モデルカップをピンセットで24穴のプレートに移し、各カップをDulbecco-PBS溶液で3回洗浄し、洗浄液を除去した後に24穴プレートに並べたカップの写真撮影を行った。その写真を図7に示す。また、ヒジキ煮汁粉末水溶液のメラニン移動抑制作用を確認する目的で、各カップの顕微鏡写真を撮影した。それを図8に示す。
【0058】
次に、皮膚モデルカップのメラニンを非特許文献18に記載の方法に従い、以下の通り抽出し、定量した。まず皮膚モデルカップを24穴のプレートに移し、各皮膚モデルカップ内に1% SDS、0.05 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 6.8)を0.45 ml添加し、これに5 mg/mlのプロテアーゼKを20μl添加し、密閉して室温で3時間反応させた。カップ中の溶液と細胞を全て1.5 mlのチューブに回収し、45℃で一晩反応させた。次に、ヒジキ煮汁粉末水溶液に微量に含まれている黒色の色素を洗浄除去する目的で、対照区を含めすべての1.5 mlチューブを15,000rpmで15分間遠心し、上清を捨てた。このチューブに0.05 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 6.8)を0.45 ml添加し、攪拌した後、再度同じ条件で遠心し、上清を捨てた。もう一度、上記緩衝液を加え、攪拌、遠心し、上清を捨てる作業を行った。このチューブに、1% SDS、0.05 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl緩衝液(pH 6.8)を0.45 ml添加し、さらに5 mg/mlのプロテアーゼKを20μl添加し、45℃で4時間反応させた。次に、500 mM炭酸ナトリウムを50μl添加し、次いで30%過酸化水素水を10μl添加し、80℃で30分間反応させた後、冷却した。次に、クロロホルム:メタノール(2:1)を100μl添加し、10000 x gで10分間遠心した。上清100μlを回収し、96穴のプレートに移し、マイクロプレートリーダーで405 nmでの吸光度を測定した。試験試料添加区のメラニン量を、対照区(蒸留水)のメラニン量を100%とした相対値(n=3又は6の平均値±標準偏差、対照区と20 mg/mlのヒジキ煮汁粉末水溶液添加区はn=6、その他はn=3)で表し、表1及び図7の皮膚モデルカップの横に記載した。また、試験試料添加区と対照区との間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001で示した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1及び図7に示される皮膚モデルカップの写真及びメラニン量に示されるように、ヒジキ煮汁粉末水溶液添加区とアルブチン添加区では、明瞭なメラニン生成阻害作用が認められた。
【0061】
図8に示されるように、対照区(図8A)及びアルブチン添加区(図8B)とは異なりヒジキ煮汁粉末水溶液添加区(図8C)ではメラニン(写真中で黒く示されている)が拡散せずにメラノサイトの周辺に留まっているのが確認された。このため、ヒジキ煮汁粉末水溶液が皮膚内でのメラニンの移動を抑制する効果を有することが確認された。
【0062】
次に、試験試料溶液の細胞毒性を検査する目的で、上記と同じ方法で別途、皮膚モデルカップに試験試料(20 mg/mlの上記ヒジキ煮汁粉末水溶液、又は対照として蒸留水、いずれもn=6)100μlを加えて12日間培養した。24穴プレートの各穴に300μlのMTT溶液(MTT-100キット、クラボウ株式会社から購入)を加え、これにDulbecco-PBS溶液で3回洗浄した皮膚モデルカップをピンセットで移し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で3時間静置した。次に、皮膚モデルカップをPBS溶液で軽く洗浄した後、別の24穴プレートに移した。この各穴に、2 mlのMTT抽出液(MTT-100キット、クラボウ株式会社から購入)を加え、振とうしながら室温で2時間抽出した。この抽出液を96穴プレートの各穴にそれぞれ200μlずつ加え、マイクロプレートリーダーで570 nmでの吸光度を測定した。対照区の570 nmでの吸光度を100%とした場合の20 mg/mlヒジキ煮汁粉末水溶液添加区の吸光度の相対値は104±6%であり、細胞毒性は認められなかった。
【0063】
[実施例7](キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液の正常ヒト皮膚3次元モデルでのメラニン生成阻害作用及び細胞毒性の有無の確認)
実施例6と同様に、クラボウ株式会社から購入した正常ヒト皮膚3次元モデル(MEL-300-Bキット、Black donor)を用いて以下の試験を行った。6穴プレートの各穴に長期維持培地EPI-100LLMM(bFGF及びα-メラノサイト刺激ホルモン含有、クラボウ株式会社から購入)を0.9 mlずつ添加した。この6穴プレートへ皮膚モデルカップをピンセットで移し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で1時間培養した。次に、別の6穴プレートの各穴の中央にステンレスワッシャーを2枚重ねて置き、これに長期維持培地EPI-100LLMMを5 mlずつ入れた。このワッシャー上に、皮膚モデルカップをピンセットで移し、モデルカップ内に試験試料溶液(実施例2で調製したキリンサイ熱水抽出物の乾燥粉末(粉末C)を2.5〜10 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解した水溶液(キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液)、1 mg/mlのアルブチン水溶液、又は対照として蒸留水)100μlを添加し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で10日間培養した。培養期間中、試験試料溶液及び培地は2日毎に新鮮なものに交換した。培養10日目に皮膚モデルカップをピンセットで24穴のプレートに移し、各カップをDulbecco-PBS溶液で3回洗浄し、洗浄液を除去した後に24穴プレートに並べたカップの写真撮影を行った。その写真を図9に示す。
【0064】
次に、皮膚モデルカップのメラニンを非特許文献18に記載の方法に従い、以下の通り抽出し、定量した。皮膚モデルカップを24穴のプレートに移し、各皮膚モデルカップ内に1% SDS、0.05 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 6.8)を0.45 ml添加し、これに5 mg/mlのプロテアーゼKを20μl添加し、密閉して室温で3時間反応させた。カップ中の溶液と細胞を全て1.5 mlのチューブに回収し、45℃で一晩反応させた。再度5 mg/mlのプロテアーゼKを20μl添加し、45℃で4時間反応させた。次に、500 mM炭酸ナトリウムを50μl添加し、次いで30%過酸化水素水を10μl添加し、80℃で30分間反応させた後、冷却した。次に、クロロホルム:メタノール(2:1)を100μl添加し、10000 x gで10分間遠心した。上清100μlを回収し、96穴のプレートに移し、マイクロプレートリーダーで405 nmでの吸光度を測定した。試験試料添加区のメラニン量を、対照区(蒸留水添加)のメラニン量を100%とした相対値(n=3の平均値±標準偏差、ただし対照区はn=6)で表し、表2及び図9の皮膚モデルカップの横に記載した。また、試験試料添加区と対照区との間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001で示した。
【0065】
【表2】

【0066】
表2及び図9に示される皮膚モデルカップの写真及びメラニン量に示されるように、キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液添加区とアルブチン添加区では、明瞭なメラニン生成阻害作用が認められた。
【0067】
次に、試験試料溶液の細胞毒性を検査する目的で、上記と同じ方法で別途、皮膚モデルカップに試験試料(10 mg/mlの上記キリンサイ熱水抽出物粉末水溶液、又は対照として蒸留水、いずれもn=6)100μlを加えて12日間培養した。24穴プレートの各穴に300μlのMTT溶液(MTT-100キット、クラボウ株式会社から購入)を加え、これにDulbecco-PBS溶液で3回洗浄した皮膚モデルカップをピンセットで移し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で3時間静置した。次に、皮膚モデルカップをPBS溶液で軽く洗浄した後、別の24穴プレートに移した。この各穴に、2 mlのMTT抽出液(MTT-100キット、クラボウ株式会社から購入)を加え、振とうしながら室温で2時間抽出した。この抽出液を96穴プレートの各穴にそれぞれ200μlずつ加え、マイクロプレートリーダーで570 nmでの吸光度を測定した。対照区での570 nmの吸光度を100%とした場合の20 mg/mlのキリンサイ熱水抽出物粉末水溶液添加区の吸光度の相対値は107±3%であり、細胞毒性は認められなかった。
【0068】
[実施例8](キリンサイ熱水抽出物脱塩粉末水溶液及びヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液の正常ヒト皮膚3次元モデルでのメラニン生成阻害作用の確認)
実施例6と同様に、クラボウ株式会社から購入した正常ヒト皮膚3次元モデル(MEL-300-Bキット、Black donor)を用いて試験を行った。6穴プレートの各穴に長期維持培地EPI-100LLMM(bFGF及びα-MSH含有、クラボウ株式会社から購入)を0.9 mlずつ添加した。この6穴プレートへ皮膚モデルカップをピンセットで移し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で1時間培養した。次に、別の6穴プレートの各穴の中央にステンレスワッシャーを2枚重ねて置き、これに長期維持培地EPI-100LLMMを5 mlずつ入れた。このワッシャー上に、皮膚モデルカップをピンセットで移し、モデルカップ内に試験試料溶液(実施例1で調製したヒジキ煮汁脱塩粉末(粉末B)を10〜20 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解した水溶液(ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液)、実施例2で調製したキリンサイ熱水抽出物の脱塩粉末(粉末D)を2.5〜10 mg/mlの濃度で蒸留水に溶解した水溶液(キリンサイ熱水抽出物脱塩粉末水溶液)、1 mg/mlのアルブチン水溶液、又は対照として蒸留水)100μlを添加し、炭酸ガスインキュベーターにて5% CO2存在下の加湿状態で、37℃で12日間培養した。培養期間中、試験試料溶液及び培地は2日毎に新鮮なものに交換した。培養12日目に皮膚モデルカップをピンセットで24穴のプレートに移し、各カップをDulbecco-PBS溶液で3回洗浄し、洗浄液を除去した後に24穴プレートに並べたカップの写真撮影を行った。その写真を図10に示す。
【0069】
次に、皮膚モデルカップのメラニンを非特許文献18の方法に従い、以下の通り抽出し、定量した。皮膚モデルカップを24穴のプレートに移し、各皮膚モデルカップ内に1% SDS、0.05 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl緩衝液(pH 6.8)を0.45 ml添加し、これに5 mg/mlのプロテアーゼKを20μl添加し、密閉して室温で3時間反応させた。カップ中の溶液と細胞を全て1.5 mlのチューブに回収し、45℃で一晩反応させた。再度5 mg/mlのプロテアーゼKを20μl添加し、45℃で4時間反応させた。次に、500 mM炭酸ナトリウムを50μl添加し、次いで30%過酸化水素水を10μl添加し、80℃で30分間反応させた後、冷却した。次に、クロロホルム:メタノール(2:1)を100μl添加し、10000 x gで10分間遠心した。上清100μlを回収し、96穴のプレートに移し、マイクロプレートリーダーで405 nmでの吸光度を測定した。試験試料添加区のメラニン量を、対照区(蒸留水添加)のメラニン量を100%とした相対値(n=3の平均値±標準偏差、ただし対照区はn=6)で表し、表3及び図10の皮膚モデルカップの横に記載した。また、試験試料添加区と対照区との間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001で示した。
【0070】
【表3】

【0071】
表3及び図10に示される皮膚モデルカップの写真及びメラニン量に示されるように、キリンサイ熱水抽出物脱塩粉末水溶液添加区及びアルブチン添加区において、明瞭なメラニン生成阻害作用が認められた。ヒジキ煮汁脱塩粉末水溶液添加区については、実施例6で行ったような煮汁の黒色色素を洗浄する作業を省略したことがメラニン量に影響し高めのメラニン量測定値となったが、それでもなおメラニン生成阻害作用が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明で使用されるヒジキ煮汁等のヒジキ熱水抽出物及びキリンサイ熱水抽出物はいずれも食用の海藻由来であり、安全性に優れている。ヒジキ煮汁等は高いエンドセリン-1産生阻害作用およびセリンプロテアーゼ阻害作用を有し、キリンサイ熱水抽出物は高いα-メラノサイト刺激ホルモンの働きを阻害する作用を有している。このため本発明に係るエンドセリン-1産生阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤は、該作用に基づく循環器疾患の治療薬、食欲不振症等の治療薬、メラニン生成阻害剤、美白剤等の美白化粧料、及び機能性食品等の提供に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒジキ熱水抽出物又はキリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有する、メラニン生成系生体物質阻害剤。
【請求項2】
ヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するエンドセリン-1産生阻害剤である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
ヒジキ熱水抽出物を有効成分として含有するセリンプロテアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項4】
キリンサイ熱水抽出物を有効成分として含有するα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の阻害剤を含む美白化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−79768(P2011−79768A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232751(P2009−232751)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(595102178)沖縄県 (36)
【Fターム(参考)】