説明

メラニン生成阻害剤

【課題】皮膚の色素沈着を防止するメラニン生成阻害剤およびα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤に関し、食品由来で、安価、安全でかつ有効性の高い阻害剤を提供することである。
【解決手段】ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物およびホタテ貝柱の蛋白質加水分解物から得られたLeu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Aspからなるアミノ酸配列を有するペプチドを有効成分とする新規メラニン生成阻害剤、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤を提供し、さらに、これらを含有する美白化粧料、医薬、及び機能性食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を有効成分として含有する、メラニン生成阻害剤、及び該加水分解物から得られたメラニン生成阻害能を有するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から市場にある美白化粧品の多くは、表皮メラニン細胞(メラノサイトともいう)においてメラニンの合成に働くチロシナーゼの活性を阻害するなどの働きを持つ。また、メラニン生成に対して促進的に働くエンドセリン-1の働きを抑える作用が、カミツレの花から抽出して得られるカミツレエキスにあり(非特許文献1)、新しいタイプの美白化粧品として実用化されている。さらに、エンドセリン-1の合成に関わるエンドセリン変換酵素の働きを阻害する植物抽出物(特許文献1)が知られている。
一方、α-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)は脳下垂体で生成されるペプチドホルモンで、前駆体プロオピオメラノコルチンからプロセシングにより生成される。また、皮膚ケラチノサイトもα-メラノサイト刺激ホルモンを産生し、紫外線(UVB)やインターロイキン-1の刺激で産生量が上昇することが報告されている(非特許文献2)。α-メラノサイト刺激ホルモンは脊椎動物一般に表皮メラニン細胞のチロシナーゼを活性化し、メラニン産生を増加させる(非特許文献3)。このことから、α-メラノサイト刺激ホルモンは紫外線による色素沈着の要因の一つとなっている。また、脳においては、α-メラノサイト刺激ホルモンは食物摂取を減少させるなど、中枢神経系や免疫系の機能にも関わっていることが知られている。
【0003】
このように、α-メラノサイト刺激ホルモンの阻害は、紫外線による色素沈着の防止を可能とするほか、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤は食物摂取など中枢神経系や免疫系の機能の調節にも役立ち、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害に関する研究は、現在、盛んになされている。
従来、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害物質(アンタゴニスト)としては、例えば、以下のようなものが報告されている。
His-D-Arg-Ala-Trp-D-Phe-Lys-NH2(配列番号2)、His-D-Trp-Ala-Trp-D-Phe-Lys-NH2(配列番号3)、His-D-Trp-Arg-Trp-D-Phe-Lys-NH2(配列番号4)、His-Phe-Arg-Trp-D-Phe-Lys-NH2(配列番号5)などα-メラノサイト刺激ホルモンのアナログ(非特許文献4)、
D-Trp-Arg-Leu-NH2(配列番号6)、D-Trp-Arg-Nle-NH2(配列番号7)などコンビナトリアルケミストリーによるもの(非特許文献5)、
D-Trp-Arg-Leu(配列番号7)、D-Trp-Arg-Nle(配列番号8)、D-Trp-Arg-Nva(配列番号9)、D-Trp-Arg-Met(配列番号10)、D-Trp-Arg-D-Nle(配列番号11)、D-Trp-Lys-Nle(配列番号12)、D-Trp-D-Arg-Nle(配列番号13)、D-Trp-Leu-Nle(配列番号14)、D-Trp-Nle-Nle(配列番号15)、D-Phe-Arg-Nle(配列番号16)、Tyr-Arg-Nle(配列番号17)、Ac-D-Trp-Arg-Nle(配列番号18)のアミノ酸配列を有するα−メラノサイト刺激ホルモンのアンタゴニスト(特許文献2)、
D-1-ナフチルアラニル-Arg-LeuNH2(配列番号19)、D-2-ナフチルアラニル-Arg-LeuNH2(配列番号20)、L-1-ナフチルアラニル-Arg-LeuNH2(配列番号21)またはL-2-ナフチルアラニル-Arg-LeuNH2(配列番号22)のようなペプチド誘導体またはその塩(特許文献3)。
【0004】
このようにα-メラノサイト刺激ホルモン阻害物質は種々知られているが、上記した物質は何れも化学合成されたものであり、化学合成によらない安価で安全性の高いα-メラノサイト刺激ホルモン阻害物質は常に求められている。
これとは別に、メラニン生成促進剤及びこれを含有する頭髪用化粧料として、貝類のエッセンスを使用するものも知られている(特許文献4)。これはホタテ貝のむき身を50%アセトン抽出し、得られた抽出液から不溶物をろ過で取り除いた後の濾液を減圧乾固するものであり、得られたものは美白とは逆の効果を有し、その活性物質は非蛋白質成分と考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開2000-302633号公報
【特許文献2】特許公表平10−512580号公報
【特許文献3】特許 国際公開番号 WO00/64926号公報
【特許文献4】特開平7-285874号公報
【非特許文献1】Pigment Cell Research,1997年,10巻,p. 218-228
【非特許文献2】The Journal of Clinical Investigation,1994年,93巻,p. 2258-2262
【非特許文献3】Proceedings of the National Academy of Sciences USA,1995年,92巻,p. 1789-1793
【非特許文献4】Peptides,1994年,15巻,p. 627-632
【非特許文献5】Proceedings of the National Academy of Sciences USA,1995年,92巻,p. 2894-2898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、食用原料由来の安全、安価でかつ有効性の高い新規なメラニン生成阻害剤、特にα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤を提供する点にあり、また、その有効成分を特定し、該成分を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、各種の魚介類を材料に、メラニン生成阻害剤を鋭意探索した結果、ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物およびホタテ貝柱の蛋白質加水分解物が、メラニン生成を阻害し、該阻害がα-メラノサイト刺激ホルモンの作用を阻害することに基づくものであることを見いだすとともに、さらに研究を進めた結果、このような作用が上記蛋白質加水分解物中のLeu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Asp(配列番号1)からなる配列を有するペプチドに起因するものであることを突き止め、本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0008】
(1) ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とするメラニン生成阻害剤。
(2) 上記タンパク質加水分解物がサーモリシンによる加水分解物である、(1)に記載のメラニン生成阻害剤。
(3) ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤。
(4) 上記タンパク質加水分解物がサーモリシンによる加水分解物である(3)に記載のα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤。
(5) 配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有し、かつメラニン生成阻害能を有するペプチド。
(6) 上記(5)に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とするメラニン生成阻害剤。
(7) 上記5に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とするα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明で使用されるホタテ貝柱の蛋白質加水分解物は食用のホタテ貝を材料としており、安全性に優れている。ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物および該加水分解物から得られたLeu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Asp(配列番号1)からなるアミノ配列を有するペプチドはメラニン生成阻害活性、特にα-メラノサイト刺激ホルモン阻害活性を有する。したがって、本発明によれば、より有用なメラニン生成阻害剤、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤、美白化粧料、及び機能性食品が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、上記発明について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜実施し得る。
本発明は、ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を有効成分として含有するメラニン生成阻害剤、及びα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤に関し、さらに該加水分解物から得られたLeu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Asp(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加され他アミノ酸配列を有し、かつメラニン生成阻害活性を有するペプチド(以下、これらをまとめて本発明のペプチドという場合がある。)、及び該ペプチドを有効成分として含有する上記薬剤に関するものである。これらは美白化粧料、医薬、及び機能性食品において特に有用なものとして用いられ得る。
【0011】
ホタテ貝(帆立貝、学名Patinopecten yessoensis)は、イタヤガイ科に分類される二枚貝の一種で、食用として重要な貝類の一つである。日本では東北地方から北海道、オホーツク海まで分布し、浅い海の砂底に生息する。本発明に使用するホタテ貝の産地は、特に限定されるものではない。
本発明に使用できるホタテ貝柱は、ホタテ貝の貝柱を採取し、凍結乾燥したのち、超臨界二酸化炭素抽出装置で脂質成分を除去した残渣として得ることができる。超臨界二酸化炭素抽出のほかにも、n-ヘキサン、アセトン、エチルアルコールなどを用いて定法により脂質成分を除去した貝柱を得ることができる。
【0012】
以下に、本発明のホタテ貝柱の蛋白質加水分解物得る方法、および本発明のペプチドをホタテ貝柱より単離精製する方法を具体的に説明する。
ホタテ貝柱を裁断し、トリス塩酸緩衝液を加え、ホモジェナイズ処理する。得られたホモジェネートに対し、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%のプロテアーゼを添加し、20〜70℃で0.5〜24時間攪拌して酵素による加水分解反応を行なわせる。
その後、15分間煮沸し、ろ過により不溶物を除去し、反応により生じた沈殿物をろ過して除去することにより、ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を得ることができる。得られた加水分解物は、例えば、限外濾過膜を用いて、未分解の蛋白質を除去してもよい。あるいは、逆浸透膜を用いて脱塩してもよい。上記プロテアーゼとしては、微生物由来のプロテアーゼ、例えば、Bacillus thermoproteolyticus Rokko、Bacillus subtilis、Bacillus megaterium、Pseudomonas aeruginosa等を由来とするプロテアーゼが挙げられる。具体的には、Bacillus thermoproteolyticus Rokko由来のサーモリシン(シグマ社製)が好適に使用されうる。
【0013】
本発明のペプチドは、例えば、限外濾過膜、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムによる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の常套的手段により上記ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を精製することにより得ることができる。より具体的には、ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物をセファデックスLH−20カラムなどのゲル濾過カラムに負荷し、30%メタノールで溶出してメラニン生成阻害活性を有する画分を回収する。次いで、この画分を逆相カラムを使用したHPLCに供し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む0〜60%のアセトニトリル水溶液の直線濃度勾配溶出により分画し、メラニン生成阻害活性を有する画分を回収する。回収した活性画分を減圧乾固することにより、メラニン生成阻害活性を有する本発明のペプチドを得ることができる。
【0014】
本発明のペプチドは同一アミノ酸配列を有する他の蛋白質をプロテアーゼで限定的に加水分解して得ることもできる。さらに、本発明のペプチドは有機化学的な合成方法によりアミノ酸を段階的に導入する通常のペプチド合成法や、あるいは遺伝子工学的手法を用いても生産することができる。本発明のペプチドをペプチド合成法によって得る場合は、固相ペプチド合成法または液相ペプチド合成法を用いればよく、例えば泉屋信夫著「ペプチド合成の基礎と実験」(丸善発行)などに記載されている方法に準じて行えばよい。また、本発明のペプチドを、遺伝子工学的方法により得る場合は、該ペプチドをコードする遺伝子を含むDNAを挿入した組み換え体DNAにより、宿主細胞を形質転換または形質導入し、得られた組み換え宿主を用いて生産させるという自体公知の手法により行うことができる。
【0015】
本発明のペプチドまたはその塩は、そのままで、または通常用いられる固体担体、液体担体、乳化分散剤等により錠剤、粉剤、水和剤、乳剤、カプセル剤等の形に製剤化してメラニン生成阻害剤あるいはα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤として使用することができる。上記担体としては、水、ゼラチン、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、ラクトース、アラビアゴム、植物油等が挙げられる。上記本発明のペプチドの塩としては、製剤学上許容されうる酸付加塩および塩付加塩である。製剤学上許容されうる酸付加塩として、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸との塩等が挙げられ、また製剤学上許容されうる塩付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム、エタノールアミン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等のアミン類との塩等が挙げられる。
【0016】
ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物あるいは該加水分解物から得られた、Leu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Aspからなるアミノ酸配列を有するペプチドは表皮メラニン細胞ともいう)におけるα-メラノサイト刺激ホルモンの作用を阻害する作用および/またはメラニン生成を阻害する効果を奏する。従って、ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物あるいは該加水分解物から得られた上記ペプチドは、表皮メラニン細胞に有効に作用させることにより、表皮メラニン細胞におけるα-メラノサイト刺激ホルモンの作用阻害および/またはメラニンの生成阻害により改善されうる被検体の状態、症状または疾患を改善、予防または治療することができる。このような状態、症状または疾患としては、例えば、皮膚の黒色化、シミ、ソバカス等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるホタテ貝柱の蛋白質加水分解物あるいは該加水分解物から得られたペプチドは、化粧料、医薬又は機能性食品の有効成分として以下の形態で使用することができる。
本発明の加水分解物あるいはペプチドを美白化粧料の有効成分として使用する場合は、本発明の加水分解物および/またはペプチドそれ自体を直接適用してもよく、また、溶液状、可溶化状、乳化状、粉末状、ペースト状、ムース状、ジェル状にして、化粧水、乳液、クリーム、パック、軟膏等として、例えば皮膚外用剤の形態で、皮膚に適用することができる。
【0018】
また、本発明の加水分解物あるいはペプチドを美白化粧料の有効成分として使用する場合には必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、通常、化粧料や医薬部外品、外用医薬品等の製剤に使用される成分、すなわち、精製水、アルコール類、水溶性高分子、油剤、界面活性剤、ゲル化剤、保湿剤、ビタミン類、抗菌剤、香料、塩類、PH調整剤等を加えることができる。
本発明のペプチド(乾燥重量)の美白化粧料(全重量)中の含有量は、0.01重量%〜50重量%が好ましく、より好ましくは0.1重量%〜10重量%である。本発明の加水分解物を用いる場合、美白化粧料中のペプチドが上記含有量になる量で含有させる。
本発明の加水分解物あるいはペプチドを美白化粧料の有効成分として用いる場合、本発明の抽出物の投与量は、特に限定されるものではなく、例えば、皮膚に直接塗布して用いる場合には、本発明のペプチドを0.1重量%〜10重量%含有する化粧品を1日あたり1〜4回塗布する。
【0019】
本発明の加水分解物あるいはペプチドを美白効果のある医薬の有効成分として使用する場合は、本発明の加水分解物あるいはペプチドを公知の医薬用担体と組み合わせて製剤化することができる。投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、軟膏剤、貼付剤、坐剤、吸入剤、注射剤、点滴剤等の非経口剤として、または錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤として使用される。経皮吸収剤は、例えば外用医薬品等の製剤に使用される成分、すなわち、精製水、アルコール類、水溶性高分子、油剤、界面活性剤、ゲル化剤、保湿剤、ビタミン類、抗菌剤、香料、塩類、PH調整剤等を加えることができる。経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造される。本発明のペプチドの添加量は、添加対象物の種類、投与経路、剤形等の諸条件によって異なるが、例えば、医薬製剤(全重量)中に1.0重量%〜80重量%であり、加水分解物の場合は、ペプチドに換算して上記と同様な量になるように添加する。
【0020】
本発明の加水分解物あるいはペプチドの投与量は、特に限定されるものではなく、例えば、皮膚の黒色化、シミ、ソバカス等の程度、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができる。例えば、経皮吸収投与の場合には1日あたり1〜4回塗布することが好ましい。
本発明のペプチド自体あるいは加水分解物中の他のペプチドは、食用であるホタテ貝由来のものであるため人体に悪影響を与えない。したがって、本発明の加水分解物あるいはペプチドの投与量の許容範囲は極めて広い。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0022】
実施例1(ホタテ貝柱の加水分解物の製造)
北海道産のホタテから貝柱を採取し、凍結乾燥機を用いて72時間凍結乾燥した。次に、超臨界二酸化炭素抽出法により、蛋白質成分と脂質成分に分画する目的で、凍結乾燥したホタテ貝柱約15gを抽出容器内の焼結金属製内筒に入れ、超臨界二> 酸化炭素抽出装置に接続した。二酸化炭素ポンプ流量3 ml/minとし、温度80℃、圧力20 MPaで4時間抽出を行い、脂質成分を分離した蛋白質成分を14.8 g回収した。このホタテ貝柱蛋白質成分1 gに50 mlの50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.2、5 mM CaCl2を含む)を加え、ポリトロンホモジェナーザーによりホモジェナイズ処理した。得られたホモジェネートにサーモリシン(Bacillus thermoproteolyticus Rokko由来、シグマ社より購入) 50 mgを加えて攪拌しつつ、37℃で4時間の反応を行うことにより、加水分解した。分解後、15分間煮沸し、ろ過により不溶物を除去したものをホタテ貝柱サーモリシン分解物とした。
【0023】
実施例2(ホタテ貝柱の加水分解物による培養B16-F1マウスメラノーマ細胞のメラニン生成阻害)
B16-F1マウスメラノーマ細胞(大日本住友製薬株式会社より購入)を15%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)に7.5 x 104 cells/mlになるように分散させ、24穴(1穴2cm2)のプレートの各穴に1 mlずつ分注した。これに2μM α-メラノサイト刺激ホルモン 50μlと被検液50μlを添加した。なお、被検液は0から20 mg/mlの濃度のホタテ貝柱加水分解物を含む50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.2、5 mM CaCl2を含む)からなる。5% CO2存在下、37℃で培養を開始し、2日後に培地とα-メラノサイト刺激ホルモン、被検液の交換を行い、さらに1日間培養を行った。その後、培地中のメラニン量を測定する目的で、培養上清200μlを回収して、96穴のプレートに入れ、直ちにマイクロプレートリーダーで405 nmの吸光度を測定した。次に、各穴の残りの培養上清を吸引除去し、PBS(-)溶液1 mlで各穴を洗浄した。PBS(-)溶液をよく除去した後、細胞内のメラニン量を測定する目的で、1 N水酸化ナトリウム水溶液200μlを各穴に添加し、18時間静置した。
【0024】
このプレートを10分間ほど軽く浸透した後、各穴の水酸化ナトリウム水溶液180μlを96穴のプレートの各穴に移し、マイクロプレートリーダーで405 nmの吸光度を測定した。対照区(α-メラノサイト刺激ホルモン無添加、ホタテ貝柱加水分解物濃度ゼロの被検液を添加)のメラニン量を100%とした数値の比較を図1に示す。結果はn=4の平均値(平均値±標準偏差)で示した。また、α-メラノサイト刺激ホルモン添加区のなかで、加水分解物濃度ゼロの被検液添加区と加水分解物含有被検液添加区との間に有意差が認められた場合は*p<0.05、***p<0.001で示した。図1Aは細胞内メラニン量の変化を、図1Bは培地中のメラニン量の変化を示す。ホタテ貝柱の加水分解物はα-メラノサイト刺激ホルモン添加により上昇するマウスメラノーマ細胞のメラニン生成を細胞内、培地中とも阻害した。次に、被検液の細胞増殖に対する影響をロッシュ社のMTT (3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイキットにより測定した。その結果、この濃度範囲のホタテ貝柱の加水分解物は細胞増殖に対して影響のないことが確認できた。
【0025】
実施例3(ホタテ貝柱の加水分解物による培養正常ヒト表皮メラニン細胞のメラニン生成阻害)
正常ヒト新生児包皮表皮メラニン細胞(Darkly)(凍結状態でクラボウ株式会社より購入)をMedium254 + HMGS-2培地(0.2 %v/vウシ脳下垂体抽出液、0.5 %v/vウシ胎児血清、3 ng/ml hFGF-B、5 x 10-7 Mハイドロコーチゾン、5μg/mlインスリン、5μg/mlトランスフェリン、3μg/mlヘパリン、10 nMエンドセリン-1を含む、クラボウ株式会社より購入)にて、75 cm2フラスコ中で、5% CO2存在下、37℃で、1日置きに培地を交換しつつ8日間培養を行った。定法によりトリプシン/EDTA溶液で細胞を剥がし、Medium254 + HMGS-2培地に7.5 x 104 cells/mlになるように分散させ、24穴プレートの各穴に1 mlずつ分注した。これに被検液50μlを添加した。なお、被検液は0から20 mg/mlの濃度のホタテ貝柱加水分解物を含む50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.2、5 mM CaCl2を含む)からなる。5% CO2存在下、37℃で培養を開始し、1日置きに培地と被検液の交換を行い、8日間培養を行った。その後、各穴の培養上清を吸引除去し、PBS(-)溶液1 mlで各穴を洗浄した。PBS(-)溶液をよく除去した後、細胞内のメラニン量を測定する目的で、1 N水酸化ナトリウム水溶液200μlを各穴に添加し、18時間静置した。このプレートを10分間ほど軽く浸透した後、各穴の水酸化ナトリウム水溶液180μlを96穴のプレートの各穴に移し、マイクロプレートリーダーで405 nmの吸光度を測定した。
【0026】
対照区(ホタテ貝柱加水分解物濃度ゼロの被検液を添加)のメラニン量を100%とした数値の比較を図2に示す。結果はn=4(対照区はn=8)の平均値(平均値±標準偏差)で示した。また、対照区と加水分解物含有被検液添加区との間に有意差が認められた場合は*p<0.05、***p<0.001で示した。図2に細胞内メラニン量の変化を示す。培養正常ヒト表皮メラニン細胞においても、ホタテ貝柱の加水分解物は0.25 mg/ml以上の濃度でメラニン生成阻害効果を示した。同様の実験における0.08 mg/mlの濃度のアルブチンのメラニン生成抑制効果を図2の右端に示した。なお、被検液の細胞増殖に対する影響をMTTアッセイキットにより測定した結果、この濃度範囲のホタテ貝柱の加水分解物は細胞増殖に対して影響のないことが確認できた。
【0027】
実施例4(ホタテ貝柱の加水分解物からのメラニン生成阻害ペプチドの精製)
試験例1で得られたホタテ貝柱の加水分解物溶液20mlを遠心式エバポレーターで10mlに濃縮したものを、セファデックスLH-20カラム(26×900mm、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に負荷し、流速0.45 ml/minの30%メタノール水溶液で溶出した。9 ml/フラクションで分画し、各フラクションを遠心式エバポレーターで減圧下に1.8 mlに濃縮した。試験例2とほぼ同じ方法(ただし、ウシ胎児血清濃度は10%)で測定したメラニン生成阻害活性の最も強いフラクション(No. 17)をDevelosil C30-UG-5カラム( C30逆相カラム、4.6 mm×250 mm、野村化学株式会社製)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに分画した。即ち、No. 17のフラクションをさらに3倍濃縮し、それを20μlずつ3回に分けてHPLCカラムに導入し、溶出は0.1%トリフルオロ酢酸を含む0〜60%のアセトニトリル水溶液の直線濃度勾配溶出(流速1 ml/min、0〜60%の勾配を45 分間で行なう)により行い、溶出液の210 nmの吸光度をモニターしつつ6個のピークを分画した。
【0028】
分取した各ピークを遠心式エバポレーターで減圧下に溶媒を除去し、それぞれのメラニン生成阻害活を測定したところ、最初の大きなピークには細胞変性傾向が認められ、他のピークは僅かながらメラニン生成を抑制する傾向が認められた。このうち、15.9分の保持時間に溶出されてくるペプチドの活性が最も強く、その構造をプロテインシークエンサー491型(アプライドバイオシステムズ社)により解析したところ、Leu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Aspで表されるアミノ酸配列からなるペプチドであることが判明した。
次に、これと同一の配列を有するペプチドを化学合成し、化学合成ペプチドのHPLCピークの保持時間を、加水分解液から得られたペプチドの保持時間と比較したところ一致することが確認できた。
【0029】
実施例5(ペプチドLeu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Aspによる培養B16-F1マウスメラノーマ細胞のメラニン生成阻害)
試験例2と同様に、B16-F1マウスメラノーマ細胞を15%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に7.5x104 cells/mlになるように分散させ、24穴のプレートの各穴に1 mlずつ分注した。これに2μM α-メラノサイト刺激ホルモン 50μlを添加し、さらに0から100μMの濃度のペプチド(Leu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Asp)の水溶液(被検液)50μlを添加した。5% CO2存在下、37℃で培養を開始し、2日後に培地と被検液の交換を行い、さらに1日間培養を行った。その後、培地中のメラニン量を測定する目的で、培養上清200μlを回収して、96穴のプレートに入れ、直ちにマイクロプレートリーダーで405 nmの吸光度を測定した。また、各穴の残りの培養上清を吸引除去し、PBS(-)溶液1 mlで各穴を洗浄した。PBS(-)溶液をよく除去した後、細胞内のメラニン量を測定する目的で、1 N水酸化ナトリウム水溶液200μlを各穴に添加し、18時間静置した。このプレートを10分間ほど軽く浸透した後、各穴の水酸化ナトリウム水溶液180μlを96穴のプレートの各穴に移し、マイクロプレートリーダーで405 nmの吸光度を測定した。
【0030】
対照区(α-メラノサイト刺激ホルモン無添加、ペプチド濃度ゼロの被検液を添加)のメラニン量を100%とした数値の比較を図3に示す。結果はn=4の平均値(平均値±標準偏差)で示した。また、α-メラノサイト刺激ホルモン添加区のなかで、ペプチド濃度ゼロの被検液添加区とペプチド含有被検液添加区との間に有意差が認められた場合は**p<0.01、***p<0.001で示した。図3Aは細胞内メラニン量の変化を、図3Bは培地中のメラニン量の変化を示す。添加したペプチドLeu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Aspはα-メラノサイト刺激ホルモン添加により上昇するマウスメラノーマ細胞のメラニン生成を細胞内、培地中とも阻害した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ホタテ貝柱の加水分解物による培養B16-F1マウスメラノーマ細胞のメラニン生成を阻害する効果を示す図である。図中でα-メラノサイト刺激ホルモンをα-MSHと表す。
【図2】ホタテ貝柱の加水分解物による培養正常ヒト表皮メラニン細胞のメラニン生成を阻害する効果を示す図である。
【図3】ペプチドLeu-Glu-Glu-Glu-Gln-Glu-Ser-Lys-Ser-Aspによる培養B16-F1マウスメラノーマ細胞のメラニン生成を阻害する効果を示す図である。図中でα-メラノサイト刺激ホルモンをα-MSHと表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とするメラニン生成阻害剤。
【請求項2】
上記タンパク質加水分解物がサーモリシンによる加水分解物である、請求項1に記載のメラニン生成阻害剤。
【請求項3】
ホタテ貝柱の蛋白質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする、α-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤。
【請求項4】
上記タンパク質加水分解物がサーモリシンによる加水分解物である、請求項3に記載のα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤。
【請求項5】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有し、かつメラニン生成阻害能を有するペプチド。
【請求項6】
請求項5に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とするメラニン生成阻害剤。
【請求項7】
請求項5に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とするα-メラノサイト刺激ホルモン阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−35525(P2009−35525A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203351(P2007−203351)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】