説明

メラニン産生抑制剤

【課題】しみ形成の大きな要因としてメラノサイトにおけるメラニン産生の促進がある。そこでチロシナーゼ活性阻害を有し、美白剤の有効成分として使用可能なメラニン産生抑制物質を探索し、それを用いたメラニン産生抑制剤を提供する。
【解決手段】細胞内の乳酸が増加すると、メラニンの産生量が減少することが報告されている。細胞内の乳酸を増加させる方法の一つとして、最終生成物が乳酸となる解糖系生成物に注目して検討した結果、解糖系生成物はB16メラノーマ細胞のメラニン産生を顕著に抑制することが確認され、リン脂質を併用することでメラニン産生抑制作用、経皮吸収促進効果のあるメラニン産生抑制剤になり得ることを見出し、本発明の完成に至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
美白作用が期待できるメラニン産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚のシミ、ソバカスは、日焼け等により組織中にメラニンが産生することに起因している事が知られている。そして、メラニンは、チロシンがチロシナーゼにより酵素的に酸化された後、数段階の反応を経て形成される事も知られている。従って、チロシナーゼの活性を阻害することにより、メラニンの産生を抑制し、皮膚のシミ、ソバカス等の発生を抑制する事ができる。チロシナーゼの活性を阻害する物質として、アルブチン、コウジ酸、カゼイン加水分解物等が知られており、美白剤の有効成分として使用されている。また、チロシナーゼ活性阻害を有し、美白剤の有効成分として使用可能な物質を求めて探索が進められているのが現状である。
【0003】
新規な美白剤としては、糸状菌が生産するイソニトリル化合物、乳酸菌が生産するリン酸化多糖類、ナフトール配糖体およびそれを含有する美白外用剤組成物等が公知である。(特許文献1、2、3、4,5参照)
【0004】
最近注目されている報告としては、乳酸により、メラニン産生律速酵素であるチロシナーゼの発現量が抑制され、その結果メラニン量が減少することが報告されている。(非特許文献1参照)
【0005】
また、細胞内の乳酸が増加すると、メラニンの産生量が減少することが文献にて報告されている。(非特許文献2参照)
【特許文献1】特開平9−249524号公報
【特許文献2】特開平7−236491号公報
【特許文献3】特開平7−242525号公報
【特許文献4】特開平7−242687号公報
【特許文献5】特開2003―238585号公報
【非特許文献1】J Invest Dermatol. 1993 Feb;100(2 Suppl):150S-155S Tyrosinase gene transcription and its control by melanogenic inhibitors. Ando S, Ando O, Suemoto Y, Mishima Y.
【非特許文献2】J Biol Chem. 2002 Apr 26;277(17):14821-8. Epub 2002 Jan 25. Abnormal acidification of melanoma cells induces tyrosinase retention in the early secretory pathway. Halaban R, Patton RS, Cheng E, Svedine S, Trombetta ES, Wahl ML, Ariyan S, Hebert DN.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しみ形成の大きな要因としてメラノサイトにおけるメラニン産生の促進がある。そこでチロシナーゼ活性阻害を有し、美白剤の有効成分として使用可能なメラニン産生抑制物質を探索し、それを用いたメラニン産生抑制剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
細胞内の乳酸が増加すると、メラニンの産生量が減少することが報告されている。乳酸によるメラニン産生抑制作用は、上記非特許文献1、2より公知であるが、より上流の過程に作用する試料を探索し、細胞内の乳酸を増加させる方法を検討した。細胞内の乳酸を増加させる方法の一つとして、最終生成物が乳酸となる解糖系生成物に注目して検討した結果、解糖系生成物はB16メラノーマ細胞のメラニン産生を顕著に抑制することが確認され、リン脂質を併用することでメラニン産生抑制作用、経皮吸収促進効果のあるメラニン産生抑制剤になりうる事を見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、乳酸、エタノールを除く解糖系生成物とリン脂質とを含有したメラニン産生抑制剤である。該メラニン産生抑制剤は、さらに、美白剤を含有すると効果が向上する。また、本発明のメラニン産生抑制剤は、皮膚外用剤であることができる。
本発明によれば、解糖系生成物の経皮吸収促進を高め、細胞内により多くの解糖系生成物を供給することで、細胞内の乳酸を増加させることができ、メラニン産生抑制剤として生体内でメラニン産生抑制を効率良く発現させることができる。更にビタミンC等既知美白剤を併用することでメラニン産生抑制の相剰効果を発揮させる。
【発明の効果】
【0009】
解糖系生成物とリン脂質を併用したメラニン産生抑制剤はメラニン産生抑制作用、経皮吸収促進効果のいずれも効果が顕著である結果であった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる解糖系生成物とは、糖の代謝経路である解糖系で代謝される化合物である。解糖系(glycolysis pathway)はほとんど全ての生物に共通に存在するグルコース代謝系から、さらにピルビン酸、エタノール、又は乳酸まで分解される代謝経路を意味するが、なかでもグルコース代謝系が好ましい。反応は細胞質で行われる。
【0011】
前記解糖系生成物としては、具体的に、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸、フルクトース−1,6−ビスリン酸、ジヒドロキシアセトリン酸、グリセルアルデヒド3−リン酸、1,3-ビスホスホグリセリン酸、3−ホスホグリセリン酸、2−ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、エノールピルビン酸、ピルビン酸があげられる。なお、乳酸、エタノールは除かれる。
【0012】
解糖系生成物の配合量は,メラニン産生抑制剤全量中、0.001〜2質量%が好ましい。
【0013】
本発明に用いるリン脂質としては、その種類に特に限定されることなく、また飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸を問わず脂肪酸構成にも限定されない。
【0014】
リン脂質としては、大豆、卵黄等から得られるレシチン、リゾレシチンおよびまたはこれらの水素添加物、水酸化物等の誘導体を用いることができる。またホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン等を用いることができる。
【0015】
リン脂質の配合量は,メラニン産生抑制剤全量中0.01〜20質量%が好ましく,さらに好ましくは0.05〜10質量%である。
本発明においては、解糖系生成物、リン脂質と共に美白剤を併用することにより、相剰的なメラニン産生抑制作用が認められる。
【0016】
好適な美白剤としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、アスコルビン酸硫酸エステルナトリウム、アスコルビン酸グリセリル(ポリグリセリル)エーテル類、アスコルビン酸グリセリル(ポリグリセリル)エステル類、アスコルビン酸グルコシド(グリコシド)類、アスコルビン酸アルキルエステル類、アスコルビン酸アルキルエーテル類等のビタミンC類およびその誘導体、コウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス、イオウ等が挙げられる。
また、油溶性甘草エキス、クワエキス、シャクヤクエキス、トウキエキス、ワレモコウエキス、マロニエ樹皮エキス、カミツレエキス等の植物抽出物、更には、リノール酸、リノレン酸、乳酸、トラネキサム酸等も好ましい。
【0017】
美白剤の配合量は,メラニン産生抑制剤全量中0.001〜5質量%が好ましく,さらに好ましくは0.01〜2質量%である。
【0018】
本発明のメラニン産生抑制剤には、本発明の効果を損なわない範囲でその他化粧品、医薬部外品などの皮膚外用剤に配合される成分を配合することができる。
【0019】
例えば、動植物油由来の硬化油、天然由来のロウ、炭化水素系の油相成分、動植物由来の油相成分、シリコーン系の油相成分、高級アルコール、増粘剤、紫外線吸収剤、粉体、顔料、多価アルコール、糖、高分子化合物、生理活性成分、溶媒、酸化防止剤、香料、防腐剤等を配合することができる。
【0020】
本発明のメラニン産生抑制剤は、好ましくは皮膚外用剤として化粧料等に好適に応用する事ができる。皮膚外用剤の使用形態としては、例えば軟膏、クリーム、ローション、貼付剤等が挙げられる。外用剤の基剤としては、公知の外用基剤で良く、特に限定されない。
【0021】
本発明に係る解糖系生成物とリン脂質を含有したメラニン産生抑制剤は、細胞内取り込み効率に優れ、特に皮膚浸透性に優れ、表皮基底層に局在するメラノサイト及び周辺メラノサイト内で効果的なメラニン産生抑制を促進する。
【実施例1】
【0022】
本発明を詳細に説明するが、本発明の技術範囲が実施例に限定されるものではない。
(試験例) B16メラノーマ細胞のトータルメラニン産生に対する作用の評価
実験方法
1.B16マウス メラノーマF0株(B16F0)を1.0×104 cells/wellの細胞密度で6穴プレートに播種した。
2.24時間5 % FBS含有DMEMにて培養後、所定の濃度の試料を含有した5 % FBS含有DMEMに交換した。
3.さらに6日間培養後、細胞をトリプシン処理にて剥離し、細胞ペレットを作成した。このとき目視判定にて細胞ペレットの色調をスコア化(5段階スコア:1白−5黒)した。
4.またメラニンの生成量は、アルカリ可溶化法にて測定した。細胞ペレットを5 %トリクロロ酢酸、エタノール/ジエチルエーテル溶液(3:1)、ジエチルエーテルで洗浄した後、1 N水酸化ナトリウムを添加して加熱溶解(100 ℃, 5分)後、マイクロプレートリーダーを用いて430nmの吸光度を測定した。メラニン量は、合成メラニン(シグマ)を標準品として作成した検量線から算出した。全細胞のタンパク量でメラニン量を除することによって単位タンパク量あたりのメラニン量を算出した。

試験結果
【0023】
解糖系生成物単独および解糖系生成物とレシチン併用によるメラニン産生抑制の結果を表 1〜11に示した。
表中(Conc.:濃度、Mean:平均値、p (t-test):有意差検定、SD:標準偏差)を意味する。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【0030】
【表7】

【0031】
【表8】

【0032】
【表9】

【0033】
【表10】

【0034】
【表11】

【0035】
表 1〜11に示した結果より、B16メラノーマ細胞のトータルメラニン産生に対する作用の評価は、コントロールに比べ解糖系生成物単独、解糖系生成物とレシチン併用のメラニン産生抑制剤の方がメラニン産生抑制作用がある結果であった。また、解糖系生成物単独より解糖系生成物とレシチン併用によるメラニン産生抑制剤の方がメラニン産生抑制作用、経皮吸収促進効果のいずれも効果が顕著である結果であった。
【0036】
次に、本発明の皮膚外用剤の応用例を表12示す。尚、配合量は質量%である。
次の処方で皮膚外用剤(美容液)を調製した。調製方法は、以下に示す成分を室温で撹拌混合し、皮膚外用剤(美容液)を調製した。
【0037】
【表12】

【0038】
次に各試料について下記方法に従って肌荒れ改善効果テストを行った。
(1)肌荒れ改善効果テスト
【0039】
試験対象者として10名のパネラーの前腕部に1×1cmの照射部位を試料の数だけ設定し(本使用テストの場合はブランク、解糖系生成物、解糖系生成物+レシチンの計3箇所)、それぞれの箇所に各試料を0.05mlずつ均一に塗布した。その後、人工紫外光源として東芝UV−Bランプ(SE−30E)を0.7mW/?強度になるようセットし、試料を塗布した各部位にそれぞれ3分間照射した。こうして紫外線を照射した24時間後に、照射部位の炎症の程度を60倍の接触型肌拡大ビデオで観察、評価した。その結果を表13に示す。
【0040】
【表13】

【0041】
表13の結果から、実際にパネラーで使用テストした場合、ブランク、レシチンフリーの解糖系生成物に比較して、解糖系生成物+レシチンを含む皮膚外用剤(美容液)は光老化の進行を抑制し、顕著なメラニン産生抑制効果が認められた。
【0042】
他の皮膚外用剤応用例を以下に示す。これらの皮膚外用剤は何れも皮膚への解糖系生成物の経皮吸収性を高め、外用塗布による表皮下部でのメラニン産生抑制を効率的に誘導し、光老化の進行を抑制する効果があることが確認された。


[クリーム]
成分 配合量(質量%)
ステアリン酸 5.0
スクワラン 2.0
流動パラフィン 3.0
トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 10.0
グルコース−6−リン酸 1.5
レシチン 5.0
アルブチン 1.0
グリセリンモノオレート 2.0
ポリオキシエチレン(20モル) 2.5
ソルビタンモノオレイン酸エステル
1,3−ブチレングリコール 5.0
グリセリン 2.0
ビタミンE 0.05
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残量
[エッセンス]
成分 配合量(質量%)
グリセリン 3.0
ジプロピレングリコール 10.0
エタノール 15.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
ヒアルロン酸ナトリウム 0.5
水酸化カリウム 0.1
ポリオキシエチレン(20モル) 1.0
ソルビタンモノオレイン酸エステル
ポリオキシエチレン(20モル) 1.0
オクチルドデシルエーテル
オリーブ油 0.2
グルコース−6−リン酸 0.1
レシチン 1.0
アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム 0.1
防腐剤 適量
EDTA・3Na 適量
香料 適量
精製水 残量
【産業上の利用可能性】
【0043】
解糖系生成物とリン脂質を併用したメラニン産生抑制剤はメラニ
ン産生抑制作用、経皮吸収促進効果のいずれも効果が顕著である結果であった。このメラニン産生抑制剤を用いて細胞内の乳酸を増加させ、生体内でメラニン産生抑制を効率良く発現させることができる製剤として皮膚外用剤の開発に繋げる事が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸、エタノールを除く解糖系生成物とリン脂質とを含有したメラニン産生抑制剤。
【請求項2】
さらに、美白剤を含有した請求項1記載のメラニン産生抑制剤。
【請求項3】
皮膚外用剤である、請求項1又は2に記載のメラニン産生抑制剤。

【公開番号】特開2006−1866(P2006−1866A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178422(P2004−178422)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000226437)日光ケミカルズ株式会社 (60)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】