説明

メラノコルチン受容体結合ミメティボディ、組成物、方法及び使用

メラノコルチン受容体結合ミメティボディポリペプチドが開示される。これらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、これらのポリヌクレオチドを含む又はミメティボディを発現する細胞、並びにこれらの製造方法及び使用方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国仮特許出願第60/621,960号(2004年10月25日出願)への優先権を主張する、米国特許出願第11/257,851号(2005年10月25日出願)の一部継続出願である。本願はまた、米国仮特許出願第60/972,018号(2007年9月13日出願)の利益を主張する。上記出願のそれぞれの全内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、メラノコルチン受容体結合ミメティボディ(mimetibodies)、ミメティボディをコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含む又はミメティボディを発現する細胞、並びにこれらの製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
肥満は、体のサイズに対する過度の脂肪量の割合により明らかになる慢性疾患である。今日、3人に1人のアメリカ人が過体重(肥満度指数(BMI)>25kg/m2)であると考えられており、米国疾病管理予防センター(the United States Centers for Disease Control and Prevention)(CDC)が、肥満が流行病のレベルに達しつつあると宣言することとなった(カミングス(Cummings)及びシュウォーツ(Schwartz)、Annu.Rev.Med.、54:453〜471頁(2003年))。肥満の治療の重要性は、この疾患が、特に2型糖尿病、うっ血性心不全、変形性関節症、及び睡眠時無呼吸症といった疾患を発症させる根本原因、又は危険因子であるという事実によって強調されている。
【0004】
加えて、肥満は、肥満、アテローム性脂質異常症、高血圧、及びインスリン耐性によって特徴づけられる病状である「メタボリックシンドローム」に関係している。米国において、メタボリックシンドロームはますます多くの人々に影響を与えている。重要なことに、体重の軽度の減少(初期体重の5〜10%)であってもメタボリックシンドロームの疾患を有意に改善することができ、かつ肥満に関連する疾患を発症する危険因子を減少させることができることが示された(ウィング(Wing)ら、Arch.Intern.Med.、147:1749〜1753頁(1987年);ツォミレフト(Tuomilehto)ら、New Engl.J.Med.、344:1343〜1350頁(2001年);ノウラー(Knowler)ら、New Engl.J.Med.、346:393〜403頁(2002年);フランツ(Franz)ら、Diabetes Care 25:148〜198頁(2002年))。加えて、ある文化においては、しばしば肥満者に付随する社会的不名誉に起因して、肥満の治療はメンタルヘルスの観点から重要である場合がある。
【0005】
メラノコルチン受容体は、ヒト及び齧歯類の両方において、全体的なエネルギーバランス及び肥満を調節する重要な役割を果たす。αメラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)は、メラノコルチン系の重要な構成成分である13アミノ酸ペプチドホルモンである。α−MSHは、下垂体により放出されるプロオピオメラノコルチン(POMC)のタンパク質プロセシングによって作り出される。α−MSHはメラノコルチン4受容体(MC4R)と高親和性で結合するが、メラノコルチン受容体3(MC3R)及びメラノコルチン受容体5(MC5R)とも低親和性で結合する。MC4Rは、α−MSH結合によって刺激されると食糧摂取量を減らして脂肪の酸化を増加させる、脳に見られるG結合タンパク質受容体である。最終的には、MC4Rなどのメラノコルチン受容体の刺激によって重量喪失がもたらされる。
【0006】
ヒト及び齧歯類において、メラノコルチン系の異なる構成成分の突然変異機能の喪失は、肥満及び関連する疾患と密接に相関している。マウスでは、POMC、又はMC4R及びMC3R内の変異は、肥満、インスリン耐性、及び過食症を引き起こす(グッドフェロー(Goodfellow)及びサンダース(Saunders)、Curr.Topics Med.Chem.3:855〜883頁(2003年);フサール(Huszar)ら、Cell 88:131〜141頁(1997年);ヤスウェン(Yaswen)ら、Nat.Med.5:1066〜1070頁(1999年))。男性において、POMC又はMC4R内の変異は、増加した食糧摂取量に伴う肥満の発症を引き起こす(クリューデ(Krude)ら、Nat.Genet.19:155〜157頁(1998年);イョオ(Yeo)ら、Nature Genetics 20:111〜112頁(1998年);ブランソン(Branson)ら、New Engl.J.Med.348:1096〜1103頁(2003);ヴェス(Vaisse)ら、J.Clin.Invest.106):253〜262頁(2000);ホー(Ho)及びマッケンジー(MacKenzie)、J.Biol.Chem.275:35816〜35822頁(1999年))。
【0007】
重量喪失はメラノコルチン系活性の薬理学的刺激によって生じ得る。齧歯類において、MC4Rなどのメラノコルチン受容体の薬理学的刺激は、食糧摂取量の低下、エネルギー消費の増加、及び重量喪失を引き起こす(ピアーロズ(Pierroz)ら、Diabetes 51:1337〜1345頁(2002年))。男性において、非肥満男性のMC4Rを刺激するためにα−MSHを鼻内に投与すると、体脂肪の喪失に起因して体重の減少を引き起こすが、除脂肪体重の減少ではない(フェーム(Fehm)ら、J.Clin.Endo.Metabol.86:1144〜1148頁(2001年))。
【0008】
肥満は現在さまざまな異なる対策で治療されているが、ある程度の成功しか得られていない。これらの対策には、主に、「ライフスタイル」を変えること(例えば、ダイエット及びエクササイズ)、低分子系による薬物療法、又は胃の一部分の外科切除(胃バイパス手術)が含まれる。更に、α−MSHのような減量刺激メラノコルチン受容体結合ペプチドの血清半減期は極めて短いので、調剤としての使用は限られている。
【0009】
α−MSHはまた、男性の勃起活性を向上させる役割を果たす。合成メラノコルチン受容体のアクチベーター分子であるメラノタンII(MTII)でメラノコルチン受容体を標的にすると、勃起不全を増強するという予期せぬ副作用を引き起こした(20)。MTIIはまた、選択的MC4受容体アゴニストとは対照的に、性的刺激なしに齧歯類及びヒトの勃起を惹起することが示されている。したがって、MC3及びMC4受容体は共に、完全な勃起促進性の勃起に必要である可能性がある。臨床上のデータは、MTII誘導体であるPT−141(ブレメラノチド(bremelanotide))を経鼻又は皮下投与した後に、健康な男性被験者の統計的に有意な勃起反応が見られたことを示した(22、23)。男性勃起不全(ED)は現在のところ、主に、バイアグラ(VIAGRA)(登録商標)、シアリス(CIALIS)(登録商標)、及びレビトラ(LEVITRA)(登録商標)などのPDE−5阻害剤で治療されている。しかしながら、これらの薬剤は、性的活動の約1時間前に経口摂取する必要がある。
【0010】
ブレメラノチドは、女性の性的機能不全(FSD)の治療に用いるためにも試験されている。米国泌尿器疾患財団(the American Foundation for Urologic Disease)は、FSDを「十分な性的興奮を得る又は維持することが持続的に又は反復的にできずに個人的なストレスを引き起こす。これは、主観的興奮の欠如、又は生殖器若しくはその他の身体反応の欠如と表現することができる。」と定義している。FSDは、次の4つの要素からなる:性的欲求低下障害、女性の性的興奮障害(FSAD)、無オルガスム症、及び性交疼痛症。FSDのいくつかの形態は、女性集団の約43パーセントに蔓延していると思われる。ラウマン(Laumann)ら、JAMA281、537〜544頁(1999年)。
【0011】
α−MSHは、局所炎症の最も顕著な媒介物のいくつかに起因する炎症を抑制するサイトカイン拮抗物質としても作用する(31)。例えば、α−MSHは、炎症性サイトカイン及びケモカインの生成及び作用を抑制する(32、33)。α−MSHは、細胞傷害性一酸化窒素(NO)及びネオプテリン(34、35)、プロスタグランジンE合成(37)のマクロファージ生成も抑制する。α−MSHはまた、末梢β2アドレナリン受容体に依存して下行抗炎症神経経路を活性化させ(38)、かつインターロイキン−10の生成を増加させる(39)。
【0012】
アレルギー性炎では、非特異的刺激物質及びサイトカインによって誘導される急性皮膚炎において、α−MSHペプチドの抗炎症効果が確認された(42〜46)。接触過敏症の誘導及び誘発の抑制効果に加え、α−MSHは、IL−10放出を介してハプテン特異的寛容をマウスに誘導する(47)。
【0013】
痛風性(急性)関節炎において、ACTHは、痛風性関節炎のラットモデルに抗炎症効果をもたらした。同じ著者は、MC3Rサブタイプを標的にすることは、ヒトの痛風性関節炎、及び場合によってはその他の急性関節炎の臨床管理に有用であり得ることも示した(48)。関節リウマチにおいて、前臨床のアジュバント誘発関節炎を有していたラットをα−MSHで治療すると、関節変形を有意に軽減した。α−MSHの有効性は、プレドニゾロンの有効性と同様であると報告された。
【0014】
炎症性腸疾患において、硫酸デキストラン誘導大腸炎を有するマウスに投与されたα−MSHは、便潜血を減少させ、かつプラシーボを受けたマウスと比較して重量喪失は少なかった(51)。α−MSH投与は、トリニトロベンゾスルホン酸によってラットに誘導された急性及び慢性大腸炎のいずれにおいても、大腸の肉眼的病変を減少させた(52)。
【0015】
両側性腎虚血のマウスモデルでは、α−MSHは、虚血によって引き起こされた腎障害を有意に軽減した(32)。
【0016】
肝炎及び線維症において、α−MSH遺伝子治療は、CCl4処理マウスの確立した肝線維症を食い止めた(60)。別の研究では、α−MSHは、TNF−α、並びに好中球及び単球ケモカインに関して、全身的なNOの生産、肝臓の好中球浸潤、及び増加した肝臓のmRNAの存在量を抑制した(33)。
【0017】
虚血脳障害(脳卒中)において、α−MSH治療は、一過性脳虚血の後の脳内の炎症性サイトカイン遺伝子発現を消滅させ、全身投与されたメラノコルチンが脳虚血に神経保護的効果を発揮し得ることを示している。この研究は、α−MSHが、脳内のTNF−αの活性化、並びに動脈閉塞及び再かん流後のILlβ遺伝子発現を軽減させることを示した(40)。別の研究では、メラノコルチンは、CNSメラノコルチン4(MC4)受容体を活性化させることにより、脳虚血によって起こる炎症、アポトーシス(DNA損傷を含む)、並びに組織病理学的及び行動学的結果に対して、広い治療領域を有する強力な保護作用をもたらした(41)。
【0018】
末梢神経障害において、α−MSH及びACTHは、両方のペプチドが、生体外の胎児脊髄のスライスからの軸索成長を用量依存的やり方で刺激したことを証明した(53)。更に、α−MSHは、分離されたラットの脊髄ニューロン及び感覚ニューロンからの萌芽及び神経突起の伸長を促進した(55)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述の疾患の更なる治療の必要性、具体的には、潜在的に作用が速やかに発現し、α−MSH等のメラノコルチン受容体結合ペプチドの短い血清半減期を克服するメラノコルチン受容体結合分子の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様は、式(I)に従ったポリペプチドであって、
(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)
(I)
式中、Mpは、配列番号87、89、91、93、95、97又は282の生物学的に活性なメラノコルチン受容体結合分子断片であり、Lkはポリペプチド又は化学連鎖であり、V2は免疫グロブリン可変領域のC末端部分であり、Hgは免疫グロブリン可変ヒンジ領域の少なくとも一部分であり、CH2は免疫グロブリン重鎖のCH2定常領域であり、CH3は免疫グロブリン重鎖のCH3定常領域であり、yは0又は1であり、tは独立して1〜10の整数である。
【0021】
本発明の別の態様は、配列番号121、123、127、129、132、134、137、139、142、144、147、149、152、154、157、159、162、164、167、169、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、232、234、237、239、242、244、251、253、256、258、261、263、266、又は268に示される配列を有するポリペプチドを含むポリペプチドである。
【0022】
本発明の別の態様は、配列番号212に示される配列を有するポリペプチドである。
【0023】
本発明の別の態様は、配列番号120、122、126、128、131、133、136、138、141、143、146、148、151、153、156、158、161、163、166、168、171、173、176、178、181、183、186、188、191、193、196、198、201、203、206、208、211、213、216、218、221、223、226、228、231、233、236、238、241、243、250、252、255、257、260、262、265、若しくは267に示される配列を有するポリヌクレオチド、又は配列番号120、122、126、128、131、133、136、138、141、143、146、148、151、153、156、158、161、163、166、168、171、173、176、178、181、183、186、188、191、193、196、198、201、203、206、208、211、213、216、218、221、223、226、228、231、233、236、238、241、243、250、252、255、257、260、262、265、若しくは267に示される配列と相補的な配列を有するポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである。
【0024】
本発明の別の態様は、配列番号121、123、127、129、132、134、137、139、142、144、147、149、152、154、157、159、162、164、167、169、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、232、234、237、239、242、244、251、253、256、258、261、263、266、又は268に示される配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである。
【0025】
本発明の別の態様は、本発明のミメティボディ組成物を含む医薬組成物である。
【0026】
本発明の別の態様は、本発明のミメティボディ組成物を細胞、組織又は臓器と接触させることを含む、細胞、組織又は臓器の中のメラノコルチン受容体の生物活性を修飾する方法である。
【0027】
本発明の別の態様は、本発明のミメティボディ組成物をそれを必要とする患者に投与することを含む、少なくとも1つのメラノコルチン受容体媒介疾患を調節する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】メラノコルチン受容体結合ミメティボディポリペプチドの要素。
【図2】メラノコルチン受容体結合ミメティボディの略画。
【図3】メラノコルチン受容体結合α−MSHミメティボディのアミノ酸(配列番号62)及びcDNA(配列番号61)の配列。個々のミメティボディ要素のアミノ末端部分には下線が引かれている。
【図4】競合結合アッセイにおいてMC4Rに結合しているα−MSHミメティボディ。
【図5】高レベルのMC4Rを発現する細胞中のMC4Rのα−MSHミメティボディ活性化。
【図6】低レベルのMC4Rを発現する細胞中のMC4Rのα−MSHミメティボディ活性化。
【図7】α−MSHミメティボディの媒介による動物の食糧摂取量の減少。
【図8】α−MSHミメティボディの媒介による動物の体重の減少。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書に引用される特許及び特許出願を含むがこれらに限定されない全ての刊行文献は、参照により、完全に説明されているごとくに本願に組み込まれる。
【0030】
本発明は、メラノコルチン受容体に結合する性質、及び抗体免疫グロブリン分子の異なるイソタイプ、例えばIgA、IgD、IgE、IgG、又はIgM、及びそれらの任意のサブクラス、例えばIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4、あるいはそれらの組合せを模倣する性質を有する、本明細書において後に一般的に「ミメティボディ」と呼ばれるポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態において、本発明のミメティボディポリペプチドは、α−メラノサイト刺激ホルモンペプチド(α−MSH)配列を含有し、メラノコルチン受容体結合α−MSHミメティボディと称される。このようなα−MSHミメティボディポリペプチドは、メラノコルチン受容体4(MC4R)に結合し、等しい及び低い親和性でMC3R及びMC5Rにそれぞれ結合することができる。このようなメラノコルチン受容体結合の1つの結果は、メラノコルチン受容体活性の刺激又は抑制であり得る。メラノコルチン受容体活性の刺激又は抑制は、メラノコルチン受容体媒介疾患の治療に有用であり得る。
【0031】
一実施形態において、本発明のポリペプチドは一般式(I)を有し、
(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)
(I)
式中、Mpは、メラノコルチン受容体結合分子であり、Lkはポリペプチド又は化学連鎖であり、V2は免疫グロブリン可変領域のC末端部分であり、Hgは免疫グロブリン可変ヒンジ領域の少なくとも一部分であり、CH2は免疫グロブリン重鎖のCH2定常領域であり、CH3は免疫グロブリン重鎖のCH3定常領域であり、yは0又は1であり、tは独立して1〜10の整数である。
【0032】
本明細書で使用するとき、「メラノコルチン受容体結合分子」は、ホモサピエンスMC4R(配列番号77)などの少なくとも1つのメラノコルチン受容体と結合することができる分子を意味する。その他のホモサピエンスメラノコルチン受容体の例には、MCR1(配列番号71)、MCR2(配列番号73)、MCR3(配列番号75)、及びMCR5(配列番号79)が挙げられる。所与のペプチド鎖は、それが既知のメラノコルチン受容体配列又は既知のメラノコルチン受容体の成熟体に対して、少なくとも85%のアミノ酸配列同一性を有する場合は「メラノコルチン受容体」であり、Gタンパク質結合受容体として作用し得る。2つのペプチド鎖のパーセント同一性は、ベクター(Vector)NTIバージョン9.0.0(インビトロジェン社(Invitrogen Corp.)、カリフォルニア州カールスバッド(Carslbad, CA))のアラインX(AlignX)モジュールのデフォルト設定を使用して、ペアワイズアラインメントで決定することができる。例示のメラノコルチン受容体結合分子は、(配列番号2)に示されるアミノ酸配列を有する13アミノ酸α−MSHペプチドである。その他のメラノコルチン受容体結合分子は、配列番号2の生物学的に活性な断片と、メラノコルチン受容体に結合することができるその他のアミノ酸配列とを含む。本明細書で使用するとき、用語「生物学的に活性な断片」は、MC4Rなどのメラノコルチン受容体に結合することができるα−MSHペプチドの部分を指す。ペプチド配列HFRW(配列番号81)は、α−MSHペプチド配列SYSMEHFRWGKPV(配列番号2)の代表的な「生物学的に活性な断片」である。HFRW断片は、合成メラノコルチン受容体アクチベーター分子メラノタンII(MTII)の構造に組み込まれてきた(ファン(Fan)ら、Nature 385:165〜168頁(1997年))。
【0033】
本発明のミメティボディポリペプチドにメラノコルチン受容体結合分子を組み込むことで、幅広い親和性でのメラノコルチン受容体への結合が提供される。本発明のミメティボディポリペプチドは、約10-7、10-8、10-9、10-10、10-11又は10-12M以下のKdでメラノコルチン受容体に結合することができる。aMSHペプチド、MTIIペプチド、及びaMSHミメティボディに関して得られるIC50値の範囲は、それぞれ、260〜400nM、5〜30nM及び200〜300nMであった。メラノコルチン受容体に対するミメティボディポリペプチドの親和性は、任意の好適な方法を用いて実験的に決定することができる。そのような方法は、ビアコア(Biacore)若しくはキネクサ(KinExA)計測手段、ELISA又は競合結合アッセイを用いてもよい。所望の親和性で特定のメラノコルチン受容体に結合するミメティボディポリペプチドは、当業者に既知の技術によって、変異体又は断片のライブラリーから選択することができる。
【0034】
配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するα−MSHペプチドは、他のメラノコルチン受容体結合分子を得るために修飾することができる。そのような修飾は、ペプチドにC−[X]n−Cモチーフを組み込んで、ジスルフィド結合の形成を介してペプチドを配座的に制限することを含んでもよい。C−[X]n−Cモチーフにおいて、Cはシステイン残基であり、Xはアミノ酸残基であり、nは、必要な配座的制約を達成するのに必要な整数である。この場合、nは、少なくて1残基、多くて50であり得る。代表的なC−[X]n−C修飾ペプチド配列は、配列番号4、6、8、10、89、91、93、95、及び97に示される。必要であれば、C−[X]n−C修飾ペプチド配列を更に修飾して、成熟ミメティボディのN末端切り取りを防ぐことができる。例えば、配列番号4又は配列番号97は、N末端S−Y−S配列を除去して、それぞれ配列番号282又は配列番号271に示されるようなG−Gでそこを置換するように修飾され得る。
【0035】
修飾は、ペプチドにWa−[X]n−Waモチーフを組み込んで、トリプトファンジッパーの形成を介してペプチドを配座的に制限することを更に含んでもよい。Wa−[X]n−Waモチーフにおいて、Wはトリプトファン残基であり、Xはアミノ酸であり、aは、通常は2であるが、1〜10であることができる整数であり、nは、必要な配座的制約を達成するのに必要な整数である。この場合、nは、少なくて1残基、多くて50であり得る。代表的なWa−[X]n−Waペプチドは、配列番号12、14、16及び18に示される。更に、α−MSHペプチドに存在する配列HFRW(配列番号81)もまた、この配列の任意の残基を、F、H、W及びMの任意の1つで置換することで修飾されてもよい。例えば、HFRW(配列番号81)はFHWM(配列番号83)に置換することができる。
【0036】
本発明のポリペプチドでは、リンカー部分(Lk)は、ミメティボディに別の配向性及び結合特性をもたせることにより、構造的柔軟性を提供する。代表的なリンカーは、非ペプチド化学結合、又はペプチド結合でリンクされた1〜20個のアミノ酸を含み、アミノ酸は、20個の自然発生アミノ酸、又はその他のアミノ酸(例えば、D−アミノ酸、非自然発生アミノ酸又は自然発生希少アミノ酸)から選択される。リンカー部分は、グリシン、アラニン及びセリンなどの、立体障害のないアミノ酸の大部分を含むことができ、GS、ポリGS(例えば、GSGS(配列番号20))、GGSG(配列番号22)、GSGGGS(配列番号24)、GSGGGSG(配列番号26)、GSSG(配列番号28)、GGGS(配列番号85)、GGGGS(配列番号99)、GGGGSGGGGS(配列番号101)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号103)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号105)、若しくは任意の組合せ、又はこれらのポリマーを含むことができる。本発明の範囲内のその他の代表的なリンカーは、20残基よりも長くてもよく、グリシン、アラニン及びセリン以外の残基を含んでもよい。
【0037】
本発明のポリペプチドにおいて、V2は、重鎖可変領域などの免疫グロブリン可変領域のカルボキシ末端ドメインの一部分である。代表的なV2アミノ酸配列は、GTLVTVSS(配列番号32)、TLVAVSS(配列番号34)及びTLVTVSS(配列番号249)である。
【0038】
本発明の(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)ミメティボディポリペプチドは、「y」V2ポリペプチドを含んでもよい(式中、yは0(ゼロ)又は1である)。配列番号127、129、132、134、137、139、142、144、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、256、259、261、264、266、又は269に示されるアミノ酸配列は、1個のV2ポリペプチドを含むミメティボディポリペプチドの例である。別の言い方をすれば、これらのミメティボディポリペプチドは、式、(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)の例である(式中、yは1である)。配列番号60、62、121、123、147、149、152、154、157、159、162、164、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、232、234、237、239、242、244、251、又は253のアミノ酸配列は、V2ポリペプチドが欠如したミメティボディポリペプチドの例である。換言すれば、これらは、式、(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)のミメティボディポリペプチドである。
【0039】
本発明のポリペプチドにおいて、Hgは、重鎖可変領域などの免疫グロブリン可変領域のヒンジドメインの一部分である。代表的なHgアミノ酸配列には、EPKSCDKTHTCPPCP(配列番号36)、EPKSADKTHTCPPCP(配列番号38)、ESKYGPPCPSCP(配列番号40)、ESKYGPPCPPCP(配列番号42)、CPPCP(配列番号44)及びCPSC(配列番号46)が挙げられる。
【0040】
Hgアミノ酸配列は修飾され得る。このような修飾は、O−結合グリコシル化の潜在部位を除去することができる。このような修飾はまた、本発明のポリペプチドの凝集又は多量体を形成させる場合があるシステイン残基を除去することができる。
【0041】
本発明のミメティボディのO−結合グリコシル化を最小限にする1つの方法は、本発明のポリペプチドのHg部分のThr残基をAla残基に置換することである。Hgアミノ酸配列EPKSCDKTHACPPCP(配列番号107)は、このようなThrからAlaへの置換の例であり、このHgの特異的置換は、配列番号62の位置59のThrをAlaに置換することで得ることもできる。
【0042】
本発明のミメティボディの凝集又は多量体化を最小限にする1つの方法は、本発明のポリペプチドのHg部分のCys残基をAla残基に置換することである。Hgアミノ酸配列EPKSADKTHTCPPCP(配列番号109)は、このようなCysをAlaに置換する例であり、このHgの特異的置換は、配列番号62の位置54のCysをAlaに置換することで得ることもできる。
【0043】
本発明のミメティボディポリペプチドのHgアミノ酸配列の修飾は、単独で、又は組み合わせて行うことができる。Hgアミノ酸配列EPKSADKTHACPPCP(配列番号111)は、上記の置換の両方を組み合わせており、配列番号62の、位置54のCysをAlaに置換すること、及び位置59のThrをAlaに置換することで得ることができる。当業者は、本発明のミメティボディのO−グリコシル化部位、及び凝集又は多量体化に関連する部位を除去する置換を行うのに使用することができるその他のアミノ酸残基を、認識するであろう。このような部位は、アミノ酸残基の除去によっても欠失され得る。
【0044】
本発明のポリペプチドにおいて、CH2は、免疫グロブリン重鎖のCH2定常領域である。代表的なCH2アミノ酸配列には、
APELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAK(配列番号48)、
APEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAK(配列番号50)、
APEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAK(配列番号52)、
APEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAK(配列番号54)、
APEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLSSPIEKTISKAK(配列番号117)、及び
APEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAK(配列番号246)
が挙げられる。
【0045】
本発明のポリペプチドにおいて、CH3は、免疫グロブリン重鎖のCH3定常領域である。代表的なCH3アミノ酸配列には、
GQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号56)、
GQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号58)、及び
GQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号119)が挙げられる。本発明のポリペプチドのCH3領域が、特定の組換えシステムで発現されるときにC末端アミノ酸が切り取られる場合があることは、当業者には認識されよう。
【0046】
本発明のミメティボディポリペプチドにおいて、Hg、CH2又はCH3は、IgG1又はIgG4サブクラスのものであってもよい。配列は、もしもそれが、γ1又はγ4重鎖からそれぞれ形成される又は生じるものである場合は、IgG1又はIgG4サブクラスのものであってもよい。所与の種の既知のγ1又はγ4重鎖配列と少なくとも80%同一であるならば、所与のペプチド鎖は、γ1又はγ4重鎖である。2つのペプチド鎖のパーセント同一性は、ベクター(Vector)NTIバージョン9.0.0(インビトロジェン社(Invitrogen Corp.)、カリフォルニア州カールスバッド(Carslbad, CA))のアラインX(AlignX)モジュールのデフォルト設定を使用して、ペアワイズアラインメントで決定することができる。
【0047】
本発明のミメティボディポリペプチドにおいて、Hg、CH2又はCH3は、個々に、IgG1又はIgG4サブクラスのものであってもよい。本発明のミメティボディは、各サブクラスからのHg、CH2又はCH3要素の組合せを更に含んでよい。例えば、HgはIgG4サブクラスのものであってもよく、CH2及びCH3はIgG1サブクラスのものであってもよい。あるいは、Hg、CH2及びCH3は、全てIgG4又はIgG1サブクラスのものであってもよい。ポリペプチドEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号65)は、Hg(配列番号65の残基1〜15)、CH2(配列番号65の残基16〜125)、及びCH3(配列番号65の残基126〜232)が全てIgG1サブクラスのものであるポリペプチドの例である。
【0048】
IgG1及びIgG4サブクラスは、ヒンジ領域のシステインの数が異なる。ほとんどのIgG型抗体、例えばIgG1は、2つの同一重(H)鎖と2つの同一軽(L)鎖から形成されるホモ二量体分子であり、典型的にはH22と略記される。したがって、これらの分子は一般に、重鎖間ジスルフィド結合の形成により、抗原結合に関しては二価であり、IgG分子の両抗原結合性(Fab)アームは同一の結合特異性を有する。これに対し、IgG4イソタイプ重鎖は、重鎖間又は重鎖内いずれかのジスルフィド結合をも形成することが可能なそれらのヒンジ領域にCPSC(配列番号46)モチーフを含有している、即ち、CPSCモチーフ中の2つのCys残基は、他のH鎖中の対応するCys残基とジスルフィド結合し得るか(間)、又は所与のCPSCモチーフ内の2つのCys残基が相互にジスルフィド結合し得る(内)。ヒンジ領域に重鎖内結合を有するそれらのIgG4分子におけるHLペアは、互いに共有的に会合されないので、それらはHL単量体に解離することができ、次に、これが他のIgG4分子から誘導されるHL単量体と再会合して、二重特異性の、ヘテロ二量体IgG4分子を形成する。生体内のイソメラーゼ酵素は、このプロセスを容易にすることができる。二重特異性IgG抗体では、抗体分子の2つのFab「アーム」は、それらが結合するエピトープにおいて異なる。IgG4のヒンジ領域内のSer残基をProと置換することで、「IgG1様挙動」がもたらされる、即ち、当該分子は重鎖間の安定したジスルフィド結合を形成し、したがって、他のIgG4分子でのHL交換を起こしにくい。
【0049】
本発明のミメティボディポリペプチドは、ジスルフィド結合形成に関与し、かつミメティボディポリペプチドのHg−CH2−CH3部分に存在する部位の修飾により、よりIgG4様、又はIgG1様にすることができる。このような部位は、他のアミノ酸の除去、欠失、挿入、又は他のアミノ酸での置換によって修飾されてもよい。典型的には、ジスルフィド結合に関連するモチーフに存在するシステイン残基は、除去又は置換される。これらの部位を除去することで、ミメティボディHg−CH2−CH3ドメインの非共有結合二量化を許しつつ、ミメティボディ産生宿主細胞の中に存在するその他のシステイン含有タンパク質との共有ジスルフィド結合、又はIgG4系構築体内の重鎖内ジスルフィド結合を回避することができる。このような部位の修飾は、2つの異なるM部分を有する二重特異性のミメティボディポリペプチドの形成を可能にすることができ、又はそのような二重特異性の種の形成を防ぐことができる。
【0050】
IgG1及びIgG4サブクラスはまた、補体依存性細胞傷害(CDC)及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介するそれらの能力において異なる。CDCは、補体存在下での標的細胞の溶解である。補体活性化経路は、補体系(C1q)の第1構成成分が同種抗原と複合した分子に結合することで開始する。IgG1は、補体カスケード及び続くCDC活性の強力な誘導物質である一方、IgG4は、ほとんど補体誘導活性を有さない。ADCCは細胞性プロセスであり、ADCCに関与するFc受容体(FcRs)を発現する非特異性の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)は、標的細胞上の結合型抗体を認識し、その後標的細胞の溶解を引き起こす。IgG1サブクラスは、ADCCに関与するFc受容体に高親和性で結合しADCCに寄与する一方、IgG4は、そのような受容体に弱く結合するのみであり、ADCC誘導活性はほとんど有さない。ミメティボディポリペプチドを細胞殺滅なしに細胞に送達することが可能であるので、ADCCなどのエフェクター機能を活性化させるIgG4の相対的不能が望ましい。
【0051】
ミメティボディポリペプチドのHg−CH2−CH3部分に存在するCDC及びADCCに関与する部位を変化させることにより、本発明のミメティボディポリペプチドのCDC及びADCC活性を修飾することができる。このような部位は、他のアミノ酸の除去、欠失、挿入、又は他のアミノ酸での置換によって修飾されてもよい。本発明のミメティボディにおいて、CDCに関与する部位、例えばC1q結合部位は、典型的には除去ないしは別の方法で修飾されて、CDC活性を最小限にする。更に、本発明のミメティボディでは、ADCCに関与するFc受容体結合部位もまた同様に修飾されてよい。広くは、このような修飾は、ADCC活性に関与するFc受容体結合部位を本発明のミメティボディから除去する。Leu残基を本発明のポリペプチドのCH2部分のAla残基で置換するのは、本発明のポリペプチドのADCC活性を最小限にすることが可能な修飾の一例である。CH2アミノ酸配列APEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAK(配列番号52)及びAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLSSPIEKTISKAK(配列番号54)は、(これら配列の中の)残基4及び5におけるこのようなLeuからAlaへの置換の例である。更に、V1ドメインは、シグナルペプチドの切断の後ペプチドのN末端が遊離し、N末端がアセチラーゼなどの酵素に到達可能でありかつ酵素によって修飾され得るように、除去することができる。
【0052】
IgG4及びIgG1イソタイプの抗体は共に、FcRnサルベージ受容体結合部位を含有する。FcRnサルベージ受容体は、体腔及び血管の内部を覆うもののような内皮細胞層全体にIgG型抗体を再循環又は運搬することにより、体内のIgG抗体値を維持するのを助ける。FcRnサルベージ受容体は、内皮細胞に入ったIgGsを非特異性の飲作用によって結合し、細胞のリソソーム内でこれらIgG抗体分子が分解されるのを防止して、これを行う。このようなFcRn受容体の活性の結果は、FcRn結合部位を有する分子の血清半減期が、このような部位が欠如していること以外は同一である分子と比較して長くなることである。
【0053】
ヒンジ領域のSerからProへの置換、及びIgG骨格でのCH2ドメインのLeuからAlaへの置換を含む、本発明の代表的な成熟ミメティボディポリペプチドは、配列番号211〜215及び250〜254に示される核酸配列及びアミノ酸配列を有する。具体的には、配列番号212及び214は、それぞれシグナル配列を有さない又は有する、配列番号4に示されるようなMp配列、及び配列番号101に示されるようなLk配列を有する、ミメティボディポリペプチドのアミノ酸配列を示す。配列番号211及び213は、これらのポリペプチドをコードする代表的な核酸配列を示す。更に、配列番号251及び253は、それぞれシグナル配列を有さない又は有する、配列番号282に示されるようなMp配列、及び配列番号101に示されるようなLk配列を有する、ミメティボディポリペプチドのアミノ酸配列を示す。配列番号250及び252は、これらのポリペプチドをコードする代表的な核酸配列を示す。
【0054】
本発明のミメティボディのHg−CH2−CH3部分は、CH2領域とCH3領域との接合部にFcRn結合部位を含有するのが望ましい。このようなFcRn部位は、α−MSHだけのようなメラノコルチン受容体結合分子と比べて、本発明のミメティボディの血清半減期を長くし、並びにその他の薬物速度論的特性を改善することが予想される。本発明のミメティボディにおいて、FcRn部位は、アミノ酸の除去、欠失、挿入、又は置換によって修飾又は加えられてもよい。典型的には、このような修飾は、所与の部位のFcRnへの結合を改善するために用いられる。ヒトのFcRn結合部位の一例は、IgG1及びIgG4抗体の両方に見られる配列MISRTPTVLHQHNHY(配列番号69)である。その他のFcRn結合部位は当業者には周知である。
【0055】
IgG4及びIgG1のような異なるイソタイプを有する抗体は、グリコシル化部位を含有してもよい。これらの部位のグリコシル化は、抗体分子の特性及び活性を変化させることができる。抗体分子は、N−グリコシル化又はO−グリコシル化であってよい。窒素原子を含有する抗体アミノ酸残基の側鎖(例えば、Asn)のN−グリコシル化は、N−グリコシル化抗体分子に細胞溶解活性を与えることによって、ADCCなどの抗体のFcエフェクター機能を調節することができる。このADCCに関連する細胞溶解活性は、このようなN−グリコシル化抗体によってもたらされる細胞溶解を引き起こす。あるいは、抗体分子は、酸素原子を含有するアミノ酸残基側鎖(例えば、Ser又はThr)の修飾によってO−グリコシル化されてもよい。O−グリコシル化は、血清からのO−グリコシル化抗体分子の、増加したレクチン媒介クリアランスを介して、抗体分子の血清半減期を短くすることができる。更に、O−グリコシル化は、様々な抗体分子間のO−グリコシル化の程度が異なることに起因して、抗体多様性を望ましくなく高める可能性がある。最後に、O−グリコシル化及びN−グリコシルは共に、結合親和性及び免疫原性などの抗体分子の構造依存特性を変化させることができる。
【0056】
それらが模倣する抗体分子と同様に、本発明のミメティボディポリペプチドもまた、N−グリコシル化及びO−グリコシル化によって翻訳後修飾されてもよい。ほとんどの場合、細胞溶解活性を最小限にするするために、本発明のミメティボディのN−グリコシル化を制限するのが望ましい。N−グリコシル化は、典型的にはN−グリコシル化されているAsn等のアミノ酸残基の除去又は置換によって制限され得る。レクチン媒介クリアランス、ミメティボディの多様性、並びに結合親和性及び免疫原性のような構造依存性のミメティボディの特性の変化を最小限にするために、ミメティボディのO−グリコシル化を制限するのも望ましい。本発明のミメティボディにおけるO−結合グリコシル化を最小限にするための1つの方法は、本発明のポリペプチドのV2部分のThr残基をAla残基に置換することである。V2アミノ酸配列TLVAVSS(配列番号34)は、このようなThrからAlaへの置換の例であり、このV2の特異的置換は、配列番号62の位置47のThrをAlaに置換することで得ることもできる。当業者はまた、グリコシラーゼ酵素活性の調節を含む、N−結合及びO−結合グリコシル化を制御するその他の方法を認識するであろう。
【0057】
本発明のミメティボディポリペプチドの単量体構造、Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3は、「t個の」その他の単量体(tは1〜10の整数である)に結合されることができる。このような結合は、非共有結合性相互作用、又はCys−Cysジスルフィド結合などの共有結合を介して発生し得る。このようにして、本発明のポリペプチドの二量体及び高次多量体などの多重体構造を形成することができる。本発明のポリペプチドの二量化は、MC4Rなどのメラノコルチン受容体に対するこれらポリペプチドの親和性を高めることが予想される。本明細書で使用するとき、用語「多量体」は、四次構造を有し、かつ2つ以上のサブユニットの結合によって形成される分子を意味する。
【0058】
式IIに示されるように、本発明のポリペプチドは、任意に、アミノ末端に、V1と称される免疫グロブリン可変領域のアミノ末端部分を含むことができる。
【0059】
(V1−Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)
(II)
代表的なV1アミノ酸配列は、QIQ、QVQ、QIQGG(配列番号113)、及びQIQGGGG(配列番号115)を含む。
【0060】
本発明のポリペプチドは、タンパク質分泌を容易にするのに必要な分泌シグナル、又は細胞中のタンパク質輸送に必要なその他のシグナルを更に含んでもよい。代表的な分泌シグナル配列は、MAWVWTLLFLMAAAQSIQA(配列番号69)である。当業者はその他の分泌シグナルを認識するであろう。
【0061】
一実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号60、62、121、123、127、129、132、134、137、139、142、144、147、149、152、154、157、159、162、164、167、169、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、232、234、237、239、242、又は244、251、253、256、258、261、263、266、又は268に示される配列を有するポリペプチドを含む。これらの配列は、アミノ末端分泌シグナル配列を有する、又は配列が欠如している、メラノコルチン受容体結合α−MSHポリペプチドを例示している。配列番号62は、一般式(II)の(V1−Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)メラノコルチン受容体結合α−MSHポリペプチドを示しており、これは、そのアミノ末端に融合される分泌シグナルMAWVWTLLFLMAAAQSIQA(配列番号69)を有する。配列番号60は、一般式(I)の(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)メラノコルチン受容体結合α−MSHポリペプチドを示す。配列番号60には分泌シグナルは存在しない。
【0062】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのメラノコルチン受容体結合ミメティボディをコードするポリヌクレオチドを含む、当該ポリヌクレオチドに相補的な、又は当該ポリヌクレオチドと有意な同一性を有するポリヌクレオチドである。本発明の他の態様は、メラノコルチン受容体結合ミメティボディをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド分子を含むベクターを含む。異なる態様において、本発明は、本発明のベクターを含む細胞、又は本発明のミメティボディポリペプチドを発現する細胞を提供する。ポリヌクレオチド、ベクター、及び細胞を使用して、本発明のミメティボディポリペプチドを製造する。
【0063】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号59、61、120、122、126、128、131、133、136、138、141、143、146、148、151、153、156、158、161、163、166、168、171、173、176、178、181、183、186、188、191、193、196、198、201、203、206、208、211、213、216、218、221、223、226、228、231、233、236、238、241、243、250、252、255、257、260、262、265、若しくは267に示される配列を有するポリヌクレオチド、又は配列番号59、61、120、122、126、128、131、133、136、138、141、143、146、148、151、153、156、158、161、163、166、168、171、173、176、178、181、183、186、188、191、193、196、198、201、203、206、208、211、213、216、218、221、223、226、228、231、233、236、238、241、243、250、252、255、257、260、262、265、若しくは267に示される配列と相補的な配列を有するポリヌクレオチドを含む。配列番号59は、一般式(I)の(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)メラノコルチン受容体結合α−MSHポリペプチドをコードするcDNAであり、これはシグナル配列を欠如している。配列番号61は、一般式(II)の(V1−Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)メラノコルチン受容体結合α−MSHポリペプチドをコードするcDNAであり、これは、そのアミノ末端に融合される分泌シグナルを有する。
【0064】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号配列番号60、62、121、123、127、129、132、134、137、139、142、144、147、149、152、154、157、159、162、164、167、169、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、232、234、237、239、242、244、251、253、256、258、261、263、266、又は268に示される配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。配列番号60、62、121、123、127、129、132、134、137、139、142、144、147、149、152、154、157、159、162、164、167、169、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、232、234、237、239、242、244、251、253、256、258、261、263、266、又は268に示されるポリペプチド配列をコードする代表的な核酸配列は、それぞれ、配列番号59、61、120、122、126、128、131、133、136、138、141、143、146、148、151、153、156、158、161、163、166、168、171、173、176、178、181、183、186、188、191、193、196、198、201、203、206、208、211、213、216、218、221、223、226、228、231、233、236、238、241、243、250、252、255、257、260、262、265、又は267に示される。
【0065】
本発明のポリペプチドと実質的に同一であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが更に提供される。ポリペプチドとの関係において、用語「実質的に同一」とは、所与のポリペプチド配列が、本発明のポリペプチド配列、具体的にはVl−Mp−Lk−V2−Hg領域と、アミノ酸残基が少なくとも50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約95〜98%同一であることを意味する。2つのポリペプチド配列間のパーセント同一性は、ベクター(Vector)NTIバージョン9.0.0(インビトロジェン社(Invitrogen Corp)、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad, CA))のアラインX(AlignX)モジュールのデフォルト設定を使用して、ペアワイズアラインメントで決定することができる。上記のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、当業者には認識されよう。
【0066】
典型的には、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のミメティボディポリペプチドの調製のために発現ベクターの中で用いられる。本発明の範囲内のベクターには、真核生物発現に必要な要素を提供し、CMVプロモータ駆動ベクターなどのウイルス性プロモータ駆動ベクター、例えば、pcDNA3.1、pCEP4、及びそれらの誘導体と、バキュロウイルス発現ベクターと、ドロソフィラ発現ベクターと、ヒトIg遺伝子プロモータなどの哺乳類遺伝子プロモータによって駆動される発現ベクターと、が挙げられる。他の例としては、T7プロモータ駆動ベクターなどの原核生物発現ベクター、例えば、pET41と、ラクトースプロモータ駆動ベクターと、アラビノース遺伝子プロモータ駆動ベクターと、が挙げられる。
【0067】
本発明はまた、本発明のミメティボディを発現する、又は本発明のベクターを含む細胞に関する。本発明のミメティボディポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームは、配列番号63、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、254、259、264、又は269のヌクレオチド残基1601で始まるプラス鎖リーディングフレームの翻訳によって識別される得る。本明細書において例示された、本発明のミメティボディポリペプチドの様々なシグナルペプチド、V1、Mp、V2、Hg、CH2、及びCH3部分もまた、これらのオープンリーディングフレーム中に存在し、かつ多重配列アラインメント又は当該分野において周知のその他の方法などの標準的な配列分析方法を用いて識別することが可能である。このような細胞は原核生物又は真核生物であり得る。代表的な真核生物細胞は哺乳類細胞であり、例えば、COS−1、COS−7、HEK293、BHK21、CHO、BSC−1、HepG2、653、SP2/0、NS0、293、ヒーラ、骨髄腫、リンパ腫細胞、又はこれらの任意の誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。最も好ましくは、真核生物細胞は、HEK293、NS0、SP2/0、又はCHO細胞である。大腸菌は代表的な原核生物細胞である。本発明による細胞は、トランスフェクション、細胞融合、不死化、又は当該技術分野において周知のその他の手順によって産生され得る。細胞の中にトランスフェクトされたポリヌクレオチドは、染色体外であってもよく、又は細胞の染色体の中に安定的に組み込まれてもよい。
【0068】
本発明のミメティボディは、ポリペプチドのHg−CH2−CH3部分の修飾によって、所与の宿主細胞に、より適合性とすることができる。例えば、本発明のミメティボディを大腸菌などのバクテリア細胞の中で組換え発現させる場合、Hg要素中のPro−Ala配列は、大腸菌の酵素プロリンイミノペプチダーゼによる消化を防止するために除去されてもよい。同様に、Hg要素の一部分を、本発明のミメティボディ中で欠失若しくは他のアミノ酸で置換して、選択された宿主細胞中で発現される産物の多様性を防止することができる。
【0069】
本発明は、ミメティボディポリペプチドの製造方法を更に提供し、本方法は、本発明の細胞を培養する工程と、本発明の発現したミメティボディポリペプチドを精製する工程とを含む。生体外転写及び翻訳に必要なもののような細胞構成成分を使用して、本発明のポリペプチドを発現させることもできる。本発明は、上記両方の方法により製造されるミメティボディを包含する。発現したミメティボディポリペプチドは、これらに限定されるものではないが、プロテインA精製、硫酸アンモニウム若しくはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン若しくは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイト(hydroxylatpatite)クロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含む、当該技術分野において周知の方法で、細胞又は細胞構成成分系システムより回収かつ精製され得る。高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chroatography)(HPLC)も精製に使用することができる。典型的には、精製はいくつかの異なる方法の組合せを必要とする。
【0070】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのミメティボディポリペプチドの有効量と、製薬上許容できる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物である。用語「有効量」は、概して、有効な治療、即ち、そのための処置が探求された症状又は障害の部分的又は完全な軽減に必要なミメティボディの量を指す。当該組成物は、肥満及び以下に記載のその他の疾患を治療するのに有用な少なくとももう1つの化合物、タンパク質、又は組成物を所望により含み得る。組成物中の製薬上許容できる担体又は希釈剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、コロイド、又は粉末であり得る。当業者は、その他の製薬上許容できる担体又は希釈剤を認識するであろう。
【0071】
本発明の別の態様は、本発明の医薬組成物を細胞、組織又は臓器と接触させることを含む、細胞、組織又は臓器の中のメラノコルチン受容体の生物活性を修飾する方法である。本方法を用いて、脳、脳組織、又は脳細胞の中のメラノコルチン受容体活性を修飾することができる。あるいは、本発明の方法を用いて、筋肉などのその他の体皮細胞若しくは組織、又は胃などのその他の臓器の中のメラノコルチン受容体活性を修飾することができる。当業者は、使用することができるその他の細胞、組織又は臓器を認識するであろう。
【0072】
本発明の別の態様は、本発明の医薬組成物をそれを必要とする患者に投与することを含む、少なくとも1つのメラノコルチン受容体媒介疾患を調節する方法である。本発明の医薬組成物は、任意の好適な経路で投与することができる。そのような経路は、くも膜下腔、鼻孔内、末梢(例えば、皮下、筋肉内、皮内、静脈内)、又は当該技術分野において既知の任意のその他の手段であってよい。上述のように、メラノコルチン受容体の異常活性は、肥満及び2型糖尿病などの多くの病態に関わってきた。MC4Rの刺激は重量喪失を引き起こすことができる一方で、抑制は体重増加をもたらし得る。本発明のミメティボディポリペプチドは、男性及び女性の勃起不全、炎症、うっ血性心不全、中枢神経系障害、神経損傷、感染病、肺疾患、皮膚疾患、発熱及び疼痛等の、その他のメラノコルチン受容体媒介疾患を調節するために使用することもできる。
【0073】
以下の実施例を参照して本発明を更に説明する。これらの実施例は単に本発明の局面を具体的に説明するためのもであり、本発明の制限であることを意図するものではない。
【実施例】
【0074】
(実施例1)
α−MSHミメティボディ及び発現ベクター構成体
分泌シグナル配列、α−MSHペプチド配列、リンカー配列、VH配列、ヒンジ配列、ヒトIgG1H2配列、及びヒトIgG1H3配列を含むα−MSHミメティボディタンパク質を設計した(図3及び配列番号62)。解析データ、例えば、質量分析により、成熟ポリペプチドが生成されたことが確認された(G1/G1形状で61、344.6)。このα−MSHミメティボディタンパク質をコードする核酸配列(図3;配列番号61)を、標準的分子生物学技術を用いて生成した。α−MSHミメティボディ配列をコードする核酸配列をp2389発現ベクターにサブクローニングして、α−MSHミメティボディ発現ベクター(配列番号63)を生成した。
【0075】
(実施例2)
α−MSHミメティボディ発現
α−MSHミメティボディをHEK293E細胞中に一過性に発現させた。細胞を標準条件で培養し、かつリポフェクタミン(Lipofectamine)2000(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad, CA))を使用して、製造業者の指示通りに、α−MSHミメティボディ発現ベクターで一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を無血清培地配合物に移して、5日間培養した。次に、培地を取り除き、遠心分離にかけてデブリスを除去した。製造業者の指示通りに、浄化した培地をプロテインA−セファロース(Protein A-Sepharose)(商標)(HiTrap rProtein A FF、アマシャム・バイオサイエンシス(Amersham Biosciencies)、ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway, NJ))でインキュベートし、プロテインA−セファロース(商標)複合物からタンパク質を溶出した。次に、溶出したタンパク質溶液を、スーパーロース(Superose)(商標)12サイズ排除クロマトグラフィー(スーパーロース(Superose)12 10/300GL、アマシャム・バイオサイエンシス(Amersham Biosciencies)、ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway, NJ)))を介して、標準方法を用いて更に精製した。続いて、カラム溶離液をSDS−PAGEにかけ、銀及びコマジーブルー染色で可視化した。次に、ウエスタンブロットを調製し、ブロットをFc特異的一次抗体又はα−MSH特異的一次抗体のいずれかでプローブした。このウエスタンブロット及びSDS−PAGE染色の結果は共に、一過性にトランスフェクしたHEK293細胞から、2つのポリペプチド鎖から構成される精製されたα−MSHミメティボディが得られたことを示した。
【0076】
(実施例3)
α−MSHミメティボディはMC4Rに結合する
α−MSHミメティボディはMC4Rに結合し、MC4R結合の放射性標識[Nle(4)、D−Phe(7)]−α−MSH(NDP−α−MSH)アゴニスト分子と競合することができる(図4)。MC4Rはα−MSHの受容体である。HEK293細胞膜(パーキン・エルマー・ライフ・アンド・アナリティカル・サイエンシス(Perkin Elmer Life and Analytical Sciences)、マサチューセッツ州ボストン(Boston, MA))中の組み替えにより発現されたMC4Rに結合するα−MSHを、増加する量の非標識MC4Rアゴニスト(陽性対照)及びヒト抗体のFcドメイン(陰性対照)が、図4に示されるような[125I]−NDP−α−MSHを含有するアッセイ混合物に加えられた競合(competive)結合アッセイで検査した。非標識MC4Rアゴニストは、メラノタンII(MTII;α−MSH類似体)、α−MSH、及びNDP−α−MSHであった。競合(competive)結合アッセイによって評価すると、MC4Rに結合するα−MSHミメティボディは、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中で4oC、−20oC、及び−80oCで2週間貯蔵した後も安定していた。
【0077】
シンチレーション近接アッセイ(Scintillation Proximity Assays)(登録商標)(アマシャム・バイオサイエンシス(Amersham Biosciencies)、ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway, NJ))を使用して、アッセイ製造業者の指示通りに、競合結合アッセイを実施した。アッセイ混合物は、EC80、即ち、〜0.5nMの[125I]−NDP−α−MSH、0.1μgのMC4R膜、1mMのMgS04、1.5mMのCaCl2、25mMのHepes、0.2%のBSA、1mMの1,10−フェントロリン(phenthroline)を含んでおり、蛋白質分解酵素抑制剤混合物(ローチェ・ダイアグノスティックス社(Roche Diagnostics Corp.)、インディアナ州インディアナポリス(Indianapolis, IN))及びSPAビーズの量はアッセイ製造業者によって推奨されていた。シンチレーション近接アッセイ(Scintillation Proximity Assays)(登録商標)ビーズから出射された光を、パッカード・トップ・カウントNXT計器(Packard Top Count NXT Instrument)(パーキン・エルマー・ライフ・アンド・アナリティカル・サイエンシス(Perkin Elmer Life and Analytical Sciences)、マサチューセッツ州ボストン(Boston, MA))を使用して5分間測定した。
【0078】
(実施例4)
α−MSHミメティボディはMC4Rを活性化する
α−MSHミメティボディはMC4Rシグナルを活性化して、MC4Rを発現するCHOK1細胞内のcAMP生成を増加させることができる(図5及び図6)。MC4Rは、7回膜貫通(7TM)Gタンパク質結合受容体である。配位子又はアゴニストによってMC4Rを活性化すると、サイクリックAMPレベル(cAMP)の上昇を引き起こす。
【0079】
MC4R発現ベクターで安定的にトランスフェクトされ、MC4Rを発現する、2つの異なるクローナルCHOK1細胞株を使用して、MC4R受容体活性化アッセイを実施した。クローン2(図6)と比べて、クローン1(図5)はMC4Rを高レベル発現した。クローン1及びクローン2細胞を、標準培養条件を用いて単層として、約100,000細胞/ウェルの濃度まで成長させ、次に、図5及び図6に示されるように、増加した量(0〜100μM)のα−MSH、MTII、又はα−MSHミメティボディで15分間インキュベートした。続いて細胞を溶解して、cAMP−スクリーン・ダイレクト(cAMP-Screen Direct)(商標)化学発光イムノアッセイシステム(Chemiluminescent Immunoassay System)(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)、カリフォルニア州フォスターシティ(Foster City, CA))を使用して、製造業者の指示通りに、cAMPアッセイを実施した。クローン1(図5)及びクローン2(図6)を使用したcAMPアッセイのEC50値を、下記の表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
(実施例5)
α−MSHミメティボディ投与により動物の食糧摂取量及び体重が減少する
ラット(Rattus norvegicus)の脳心室にα−MSHミメティボディを投与すると、動物の食糧摂取量(図7)及び体重(図8)が減少する。左側脳室の中に外科的に挿入されたカニューレを介して、脳室内注入(ICV)によってα−MSHミメティボディを脳心室に供給した。
【0082】
体重が250g〜350gの雄のスプラーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)又はウィスター(Wistar)ラットの中にカニューレを外科的に挿入した。カニューレ配置の座標は以下の通りであった:ブレグマから−0.8mm、腹側から−4.5mm、及び前後方向から−1.5。動物は術後7〜10日で正常な状態に戻った。ストレスを最小限にするために、毎日の操作及び模擬注入の両方によって、動物を実験手順に慣れさせた。加えて、動物に明暗サイクルの逆転を受けさせた。
【0083】
カニューレが適切に配置されたかをアンギオテンシンII試験で確認した。試験は、カニューレを介して10ngのアンギオテンシンIIをICV投与して、ラットが30分以内に水を5〜10mL飲んだ場合に、カニューレが適切に配置されたと確認した。このアンギオテンシンII試験に合格した動物だけが食糧摂取量実験に使用された。
【0084】
動物を18〜24時間絶食させ、その後、α−MSHミメティボディ、α−MSH(陽性対照)、又はPBS(陰性対照)を、カニューレを介して脳心室に、注入速度9μL/分で投与した。各治療群は最低で7動物であった。処置及び投与量は図7及び図8に示される通りであった。
【0085】
餌及び水は、注入後に動物に与えられた。摂取した餌及び水の量を、注入後0時間、4時間、24時間、48時間、及び72時間毎に測定した(図7)。注入後72時間の体重を図8に示されるように測定した。
【0086】
本発明はここに完全に記述されているが、添付の請求項の趣旨及び範囲を逸脱せずに、本発明に対する多くの変更及び修正をなし得ることは、当業者にとって明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)に従ったポリペプチドであって、
(Mp−Lk−(V2)y−Hg−CH2−CH3)(t)
(I)
式中、Mpは、配列番号87、89、91、93、95、97又は282の生物学的に活性なメラノコルチン受容体結合分子断片であり、Lkはポリペプチド又は化学連鎖であり、V2は免疫グロブリン可変領域のC末端部分であり、Hgは免疫グロブリン可変ヒンジ領域の少なくとも一部分であり、CH2は免疫グロブリン重鎖のCH2定常領域であり、CH3は免疫グロブリン重鎖のCH3定常領域であり、yは0又は1であり、tは独立して1〜10の整数である、ポリペプチド。
【請求項2】
Mpが、配列番号87、89、91、93、95、97又は282に示されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、少なくとも1つのメラノコルチン受容体に結合する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記メラノコルチン受容体がメラノコルチン4受容体である、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号121、123、127、129、132、134、137、139、142、144、147、149、152、154、157、159、162、164、167、169、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、232、234、237、239、242、244、251、253、256、258、261、263、266、又は268に示される配列を有するポリペプチドを含むポリペプチド。
【請求項6】
配列番号212に示される配列を有するポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号120、122、126、128、131、133、136、138、141、143、146、148、151、153、156、158、161、163、166、168、171、173、176、178、181、183、186、188、191、193、196、198、201、203、206、208、211、213、216、218、221、223、226、228、231、233、236、238、241、243、250、252、255、257、260、262、265、若しくは267に示される配列を有するポリヌクレオチド、又は配列番号120、122、126、128、131、133、136、138、141、143、146、148、151、153、156、158、161、163、166、168、171、173、176、178、181、183、186、188、191、193、196、198、201、203、206、208、211、213、216、218、221、223、226、228、231、233、236、238、241、243、250、252、255、257、260、262、265、若しくは267に示される配列と相補的な配列を有するポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項9】
配列番号121、123、127、129、132、134、137、139、142、144、147、149、152、154、157、159、162、164、167、169、172、174、177、179、182、184、187、189、192、194、197、199、202、204、207、209、212、214、217、219、222、224、227、229、232、234、237、239、242、244、251、253、256、258、261、263、266、又は268に示される配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項11】
配列番号125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、254、259、264、又は269に示される配列を有するポリヌクレオチドを含む、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリペプチドを発現する細胞。
【請求項13】
請求項10に記載のベクターを含む細胞。
【請求項14】
前記細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)由来の細胞である、請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
請求項13に記載の細胞を培養する工程と、発現したポリペプチドを精製する工程とを含む、ポリペプチドの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の少なくとも1つのポリペプチドの有効量と、製薬上許容できる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の医薬組成物を細胞、組織又は臓器と接触させることを含む、該細胞、該組織又は該臓器の中のメラノコルチン受容体の生物活性を修飾する方法。
【請求項18】
請求項16に記載の医薬組成物をそれを必要とする患者に投与することを含む、少なくとも1つのメラノコルチン受容体媒介疾患を調節する方法。
【請求項19】
前記メラノコルチン受容体媒介疾患が、肥満、男性勃起不全、女性の性的機能不全、炎症状態、又は線維症である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記炎症状態が、アレルギー性炎、痛風性関節炎、関節リウマチ、炎症性腸疾患、虚血後の腎損傷、肝炎、虚血脳障害又は末梢神経障害である、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−501963(P2011−501963A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532235(P2010−532235)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/081734
【国際公開番号】WO2009/134281
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】