メラノソーム輸送抑制剤及びその方法
【課題】トラネキサム酸の新たな作用を見出し、新たな製剤を提供すること。
【解決手段】トラネキサム酸を含有するメラノソーム輸送抑制剤、ならびに、トラネキサム酸およびニコチン酸アミドを含有する経口用組成物。
【解決手段】トラネキサム酸を含有するメラノソーム輸送抑制剤、ならびに、トラネキサム酸およびニコチン酸アミドを含有する経口用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノサイトからケラチノサイトへのメラニン顆粒であるメラノソームの輸送抑制剤およびメラノソーム輸送の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の色素沈着(皮膚黒化)は、表皮基底層にあるメラノサイト内のメラノソームと呼ばれる小器官(オルガネラ)の中でメラニンの合成が盛んになり、周囲の表皮角化細胞(以下、ケラチノサイトと称す)にメラニンが輸送され、ケラチノサイト中に貯蔵されることによって起こる。
【0003】
色素沈着抑制という目的を達成する手段として、(1)メラニンの生成を抑制するためのチロシナーゼ阻害剤、(2)メラニンの増殖抑制剤、(3)メラノサイト活性化因子の阻害剤、(4)メラノサイトで生成されたメラノソームのケラチノサイトへの輸送抑制剤、さらには、色素沈着抑制とは言えないが(5)ケラチノサイトに蓄積したメラニンを排泄する皮膚ターンオーバー促進剤、などの使用が有効であることが判っている。しかし、これまでは(1)のチロシナーゼ活性阻害剤に主眼をおいて研究が進められてきた感があり、(2)〜(4)については必ずしも充分とは言えない。
【0004】
特に、(4)のメラノサイトで生成されたメラノソームのケラチノサイトへの輸送抑制剤についてはほとんど知られておらず、これまでに、ニコチン酸アミドおよびレクチンが知られているにすぎないのが現状である(例えば、非特許文献1参照)。肉眼的な皮膚の色は、主にメラノサイト内のメラノソームの量ではなく、ケラチノサイトに輸送されたメラノソームの量に左右されるため、当該輸送抑制剤は色素沈着抑制剤又は抑制方法として有効な手段の一つと考えられる(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
トラネキサム酸は抗プラスミン剤として、抗出血、抗アレルギー、抗炎症効果などを有し、医療用医薬品やOTC医薬品に使用されている。トラネキサム酸を慢性蕁麻疹患者に投与したところ、たまたま併発していた肝斑が消退したとの報告がなされ、色素沈着症の一つである肝斑の治療に用いられるようになってきた。この作用機序は未だに不明であるが、プラスミンによるメラニン生成促進因子の遊離・活性化阻害作用や、メラノサイト増殖抑制作用によるものと言われている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
パンテノール、ピリドキシン塩酸塩及びニコチン酸アミドを含有する美白用皮膚外用剤に、更に美白成分を配合した組成物が記載されており、美白成分として数多く列挙されている中でトラネキサム酸が記載されているものの、当該4成分の併用については何一つ具体的な言及がされておらず立証データも開示されてはいない(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
これまでに、トラネキサム酸のメラノソームのケラチノサイトへの輸送抑制作用については知られておらず、示唆もされていない。また、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを含有する経口用医薬組成物も知られておらず、その併用効果ついて記載された文献も見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-176810号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】フレグランスジャーナルVol.33 No.11 2005 p.88-95
【非特許文献2】フレグランスジャーナルVol.33 No.5 2005 p.55-59
【非特許文献3】ファルマシア Vol.44 No.5 2008 p.437-442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、トラネキサム酸の新たな作用を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、当該目的を達成するために鋭意研究を行った結果、トラネキサム酸に優れたメラノソーム輸送抑制作用が発現することを新たに見出した。当該作用は、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することでより一層優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)トラネキサム酸を含有するメラノソーム輸送抑制剤、
(2)さらにニコチン酸アミドを含有する(1)に記載の抑制剤、
(3)経口投与されうる(1)または(2)に記載の抑制剤、
(4)トラネキサム酸およびニコチン酸アミドを含有する経口用医薬組成物、
(5)トラネキサム酸によるメラノソーム輸送の抑制方法、ならびに、
(6)トラネキサム酸を経口投与する工程を含む、(5)に記載の方法、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、トラネキサム酸を含有するメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソーム輸送抑制剤は、生成したメラニンが表皮の角化細胞に輸送されることを抑制することができるため、肝斑以外の色素沈着性疾患に対しても適用できる。更に、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することにより一層優れた色素沈着抑制作用が発現するため、メラノソーム輸送抑制剤、又は、メラノソーム輸送抑制方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】メラノサイトからケラチノサイトへのメラノソーム輸送の割合を示す図である。図中、無処置とは、ケラチノサイトとメラノサイトの共培養は行うが、トリプシンの処理をしない群、ケラチノサイトのみとは、ケラチノサイトのみの培養であってトリプシン無処理群、Controlとは、本測定系の全工程を含むが、培地に被験物質を加えない群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に使用されるトラネキサム酸は、第15改正日本薬局方2008に収載されている。
【0016】
トラネキサム酸がメラノソーム輸送抑制能を有しているか否かは、後述の試験例にもあるとおり、
(1)ケラチノサイト及びメラノサイトを共培養し、
(2)トラネキサム酸を培養液に添加し、
(3)共培養後に、ケラチノサイトに特異的に結合する標識された抗体、および、メラノソームに特異的に結合する標識された抗体であって、該標識がケラチノサイトに特異的に結合する標識された抗体の標識とは異なる標識である抗体、を添加し、
(4)フローサイトメーターにより該抗体が結合したケラチノサイト中の該抗体が結合したメラノソームを検出し、
(5)メラノソームの検出量が対照((2)においてトラネキサム酸を添加していない系)と比較し、メラノソームの検出量が対照よりも少ないか否かで判断することができる。
例えば、トラネキサム酸を添加した系でのメラノソーム検出量が、対照と比較して少ない場合は、トラネキサム酸はメラノソーム輸送抑制能を有すると判断する。
【0017】
本発明の抑制剤が、経口投与されうる製剤(内服用製剤)である場合、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、ゼリー剤などを挙げることができ、外用剤である場合、クリーム剤、軟膏、ローション剤、ゲル剤などを挙げることができる。これらの製剤化にあたっては、公知の製剤技術により行うことができ、製剤添加物は、例えば、内服用製剤では賦形剤、崩壊剤、結合剤、甘味剤、矯味剤、滑沢剤などを適宜用いればよく、外用剤では乳化剤、ゲル化剤、油性成分、等張化剤、pH調整剤、保存剤、清涼化剤などを適宜用いればよい。
【0018】
本発明の抑制剤が内服用製剤である場合、トラネキサム酸の投与量は、投与される患者の体重、年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、好ましくは1日50〜3000mgである。また、トラネキサム酸の投与方法も特に限定されないが、1日あたり、好ましくは50〜3000mg、より好ましくは100〜2500mg、さらにより好ましくは250〜2000mgを1日1〜3回に分けて投与できる。
【0019】
本発明の抑制剤が外用剤である場合、トラネキサム酸の含有量は、適用される患者の年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、好ましくは0.5〜20重量%である。また、適用方法も特に限定されないが、1〜10重量%のトラネキサム酸を含有する製剤を1日1〜3回塗布することが好ましい。
【0020】
本発明の抑制剤はさらにニコチン酸アミドを含有することが好ましい。ニコチン酸アミドは第15改正日本薬局方2008に収載されている。
【0021】
本発明の抑制剤が内服用製剤である場合、ニコチン酸アミドの投与量は、投与される患者の体重、年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、1日、好ましくは、6〜400mg、より好ましくは12〜300mgである。
【0022】
本発明の抑制剤が外用剤である場合、ニコチン酸アミドの含有量は、適用される患者の年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10%である。
【実施例】
【0023】
1.製剤例
1.1 錠剤
以下の組成(1日量として6錠)で、常法によりフィルムコーティング錠を製造する。
【0024】
【表1】
【0025】
1.2 顆粒剤
以下の組成(1日量として1包)で、常法により顆粒剤を製造する。
【0026】
【表2】
【0027】
1.3 カプセル剤
以下の組成(1日量として3カプセル)で、常法によりカプセル剤を製造する。
【0028】
【表3】
【0029】
1.4 ゲル剤
以下の組成で、常法によりゲル剤を製造する。
【0030】
【表4】
【0031】
1.5 軟膏
以下の組成で、常法によりゲル剤を製造する。
【0032】
【表5】
【0033】
1.6 乳液
以下の組成で、常法により乳液(100g)を製造する。
【0034】
【表6】
【0035】
1.7 クリーム
以下の組成で、常法によりクリーム乳液(100g)を製造する。
【0036】
【表7】
【0037】
1.8 ローション剤
以下の組成で、常法によりローション剤(100g)を製造する。
【0038】
【表8】
【0039】
2.試験例
(1)市販のヒト正常ケラチノサイト(NHEK(F)、クラボウ社)を4000cells/cm2で播種・培養し、セミコンフルエントの状態で、HEPES緩衝液(クラボウ社)で1回洗浄の後、0.025%トリプシン-EDTA(クラボウ社)処理によって回収した。
(2)ケラチノサイト単独の培養にはMedium154S(クラボウ社)に増殖添加剤HKGS(クラボウ社)を加えた培地を用いた。
(3)ヒト正常メラノサイト(NHEM(NB)Moderately、クラボウ社)を7000cells/cm2の密度で播種・培養し、培養開始数日後、HEPES緩衝液(クラボウ社)で1回洗浄の後、0.025%トリプシン-EDTA(クラボウ社)処理によって回収した。
(4)回収した両細胞を浮遊液の状態で、ケラチノサイト:メラノサイト=5:1の比で混合し、5000cells/cm2の密度で共培養を開始した。共培養にはMedium154S(クラボウ社)に増殖添加剤HKGS(クラボウ社)を加えた培地を用いた。共培養2日目に培養フラスコから培地のみを吸引した後、ブタ由来トリプシン(Sigma社)0.166mg/mL(300U/mL)を培養フラスコに添加して45秒間処理し、トリプシン中和液(クラボウ社)を添加して中和した。トリプシンを添加しない系では、トリプシン添加および中和工程は省略した。その後、被験物質(トラネキサム酸、ニコチン酸アミド、またはトラネキサム酸とニコチン酸アミドの併用)を加えた培地、または被験物質を加えていない培地に置き換え、さらに3日間培養した。
(5)共培養開始から5日後、HEPESで1回洗浄を行ない、0.025%トリプシン-EDTA(クラボウ社)処理により細胞を回収した後、細胞数を500000cells/tubeに調整し、2%パラホルムアルデヒド/PBSを加え、室温で20分間固定した。
(6)遠心後、細胞を回収し、0.5%サポニン・0.5%BSA/PBSで室温、10分間処理した後、FITC標識マウス抗ヒトサイトケラチン抗体(PROGEN Biotechnik社製)およびPE標識マウス抗リコンビナントMelan-A抗体(Santa Cruz社製)を加え、室温で1時間振盪した。
(7)2%パラホルムアルデヒド/PBSに液を交換後、セルストレーナー付きFACS解析用チューブ(FALCON社)中に滴下して、Cell Lab Quanta SC MPL(ベックマンコールター社)にて解析した。
(8)FITC標識されたケラチノサイトを選別し、ケラチノサイトに取り込まれたメラノソーム表面に存在するMelan-A認識した抗体のPE蛍光強度を、メラノソーム移送量とした。
【0040】
(試験結果)
以上の方法によって得られたメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの輸送量を調べた結果を表9に示す。メラノソーム輸送抑制剤を添加しない場合に較べて、当該阻害効果が公知のニコチン酸アミドにて、メラノソーム取込量が減少することが確認でき、本試験方法の妥当性が検証できる。
【0041】
表9より、トラネキサム酸を添加するとメラノソーム取込量が用量依存的に抑制されていることが認められ、トラネキサム酸にメラノソーム輸送抑制作用を有することが判明した。
【0042】
さらに、図1により、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することにより、トラネキサム酸単独、あるいはニコチン酸アミド単独に比べて一層優れたメラノソーム輸送抑制作用を有することが判明した。
【0043】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の、トラネキサム酸を含有するメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソーム輸送抑制剤は、生成したメラニンが表皮の角化細胞に輸送されることを抑制することができるため、肝斑以外の色素沈着性疾患に対しても適用できる。更に、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することにより一層優れた色素沈着抑制作用が発現するため、メラノソーム輸送抑制剤、又は、メラノソーム輸送抑制方法として有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノサイトからケラチノサイトへのメラニン顆粒であるメラノソームの輸送抑制剤およびメラノソーム輸送の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の色素沈着(皮膚黒化)は、表皮基底層にあるメラノサイト内のメラノソームと呼ばれる小器官(オルガネラ)の中でメラニンの合成が盛んになり、周囲の表皮角化細胞(以下、ケラチノサイトと称す)にメラニンが輸送され、ケラチノサイト中に貯蔵されることによって起こる。
【0003】
色素沈着抑制という目的を達成する手段として、(1)メラニンの生成を抑制するためのチロシナーゼ阻害剤、(2)メラニンの増殖抑制剤、(3)メラノサイト活性化因子の阻害剤、(4)メラノサイトで生成されたメラノソームのケラチノサイトへの輸送抑制剤、さらには、色素沈着抑制とは言えないが(5)ケラチノサイトに蓄積したメラニンを排泄する皮膚ターンオーバー促進剤、などの使用が有効であることが判っている。しかし、これまでは(1)のチロシナーゼ活性阻害剤に主眼をおいて研究が進められてきた感があり、(2)〜(4)については必ずしも充分とは言えない。
【0004】
特に、(4)のメラノサイトで生成されたメラノソームのケラチノサイトへの輸送抑制剤についてはほとんど知られておらず、これまでに、ニコチン酸アミドおよびレクチンが知られているにすぎないのが現状である(例えば、非特許文献1参照)。肉眼的な皮膚の色は、主にメラノサイト内のメラノソームの量ではなく、ケラチノサイトに輸送されたメラノソームの量に左右されるため、当該輸送抑制剤は色素沈着抑制剤又は抑制方法として有効な手段の一つと考えられる(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
トラネキサム酸は抗プラスミン剤として、抗出血、抗アレルギー、抗炎症効果などを有し、医療用医薬品やOTC医薬品に使用されている。トラネキサム酸を慢性蕁麻疹患者に投与したところ、たまたま併発していた肝斑が消退したとの報告がなされ、色素沈着症の一つである肝斑の治療に用いられるようになってきた。この作用機序は未だに不明であるが、プラスミンによるメラニン生成促進因子の遊離・活性化阻害作用や、メラノサイト増殖抑制作用によるものと言われている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
パンテノール、ピリドキシン塩酸塩及びニコチン酸アミドを含有する美白用皮膚外用剤に、更に美白成分を配合した組成物が記載されており、美白成分として数多く列挙されている中でトラネキサム酸が記載されているものの、当該4成分の併用については何一つ具体的な言及がされておらず立証データも開示されてはいない(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
これまでに、トラネキサム酸のメラノソームのケラチノサイトへの輸送抑制作用については知られておらず、示唆もされていない。また、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを含有する経口用医薬組成物も知られておらず、その併用効果ついて記載された文献も見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-176810号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】フレグランスジャーナルVol.33 No.11 2005 p.88-95
【非特許文献2】フレグランスジャーナルVol.33 No.5 2005 p.55-59
【非特許文献3】ファルマシア Vol.44 No.5 2008 p.437-442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、トラネキサム酸の新たな作用を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、当該目的を達成するために鋭意研究を行った結果、トラネキサム酸に優れたメラノソーム輸送抑制作用が発現することを新たに見出した。当該作用は、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することでより一層優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)トラネキサム酸を含有するメラノソーム輸送抑制剤、
(2)さらにニコチン酸アミドを含有する(1)に記載の抑制剤、
(3)経口投与されうる(1)または(2)に記載の抑制剤、
(4)トラネキサム酸およびニコチン酸アミドを含有する経口用医薬組成物、
(5)トラネキサム酸によるメラノソーム輸送の抑制方法、ならびに、
(6)トラネキサム酸を経口投与する工程を含む、(5)に記載の方法、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、トラネキサム酸を含有するメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソーム輸送抑制剤は、生成したメラニンが表皮の角化細胞に輸送されることを抑制することができるため、肝斑以外の色素沈着性疾患に対しても適用できる。更に、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することにより一層優れた色素沈着抑制作用が発現するため、メラノソーム輸送抑制剤、又は、メラノソーム輸送抑制方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】メラノサイトからケラチノサイトへのメラノソーム輸送の割合を示す図である。図中、無処置とは、ケラチノサイトとメラノサイトの共培養は行うが、トリプシンの処理をしない群、ケラチノサイトのみとは、ケラチノサイトのみの培養であってトリプシン無処理群、Controlとは、本測定系の全工程を含むが、培地に被験物質を加えない群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に使用されるトラネキサム酸は、第15改正日本薬局方2008に収載されている。
【0016】
トラネキサム酸がメラノソーム輸送抑制能を有しているか否かは、後述の試験例にもあるとおり、
(1)ケラチノサイト及びメラノサイトを共培養し、
(2)トラネキサム酸を培養液に添加し、
(3)共培養後に、ケラチノサイトに特異的に結合する標識された抗体、および、メラノソームに特異的に結合する標識された抗体であって、該標識がケラチノサイトに特異的に結合する標識された抗体の標識とは異なる標識である抗体、を添加し、
(4)フローサイトメーターにより該抗体が結合したケラチノサイト中の該抗体が結合したメラノソームを検出し、
(5)メラノソームの検出量が対照((2)においてトラネキサム酸を添加していない系)と比較し、メラノソームの検出量が対照よりも少ないか否かで判断することができる。
例えば、トラネキサム酸を添加した系でのメラノソーム検出量が、対照と比較して少ない場合は、トラネキサム酸はメラノソーム輸送抑制能を有すると判断する。
【0017】
本発明の抑制剤が、経口投与されうる製剤(内服用製剤)である場合、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、ゼリー剤などを挙げることができ、外用剤である場合、クリーム剤、軟膏、ローション剤、ゲル剤などを挙げることができる。これらの製剤化にあたっては、公知の製剤技術により行うことができ、製剤添加物は、例えば、内服用製剤では賦形剤、崩壊剤、結合剤、甘味剤、矯味剤、滑沢剤などを適宜用いればよく、外用剤では乳化剤、ゲル化剤、油性成分、等張化剤、pH調整剤、保存剤、清涼化剤などを適宜用いればよい。
【0018】
本発明の抑制剤が内服用製剤である場合、トラネキサム酸の投与量は、投与される患者の体重、年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、好ましくは1日50〜3000mgである。また、トラネキサム酸の投与方法も特に限定されないが、1日あたり、好ましくは50〜3000mg、より好ましくは100〜2500mg、さらにより好ましくは250〜2000mgを1日1〜3回に分けて投与できる。
【0019】
本発明の抑制剤が外用剤である場合、トラネキサム酸の含有量は、適用される患者の年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、好ましくは0.5〜20重量%である。また、適用方法も特に限定されないが、1〜10重量%のトラネキサム酸を含有する製剤を1日1〜3回塗布することが好ましい。
【0020】
本発明の抑制剤はさらにニコチン酸アミドを含有することが好ましい。ニコチン酸アミドは第15改正日本薬局方2008に収載されている。
【0021】
本発明の抑制剤が内服用製剤である場合、ニコチン酸アミドの投与量は、投与される患者の体重、年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、1日、好ましくは、6〜400mg、より好ましくは12〜300mgである。
【0022】
本発明の抑制剤が外用剤である場合、ニコチン酸アミドの含有量は、適用される患者の年齢、性別などにより異なるため特に限定されないが、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10%である。
【実施例】
【0023】
1.製剤例
1.1 錠剤
以下の組成(1日量として6錠)で、常法によりフィルムコーティング錠を製造する。
【0024】
【表1】
【0025】
1.2 顆粒剤
以下の組成(1日量として1包)で、常法により顆粒剤を製造する。
【0026】
【表2】
【0027】
1.3 カプセル剤
以下の組成(1日量として3カプセル)で、常法によりカプセル剤を製造する。
【0028】
【表3】
【0029】
1.4 ゲル剤
以下の組成で、常法によりゲル剤を製造する。
【0030】
【表4】
【0031】
1.5 軟膏
以下の組成で、常法によりゲル剤を製造する。
【0032】
【表5】
【0033】
1.6 乳液
以下の組成で、常法により乳液(100g)を製造する。
【0034】
【表6】
【0035】
1.7 クリーム
以下の組成で、常法によりクリーム乳液(100g)を製造する。
【0036】
【表7】
【0037】
1.8 ローション剤
以下の組成で、常法によりローション剤(100g)を製造する。
【0038】
【表8】
【0039】
2.試験例
(1)市販のヒト正常ケラチノサイト(NHEK(F)、クラボウ社)を4000cells/cm2で播種・培養し、セミコンフルエントの状態で、HEPES緩衝液(クラボウ社)で1回洗浄の後、0.025%トリプシン-EDTA(クラボウ社)処理によって回収した。
(2)ケラチノサイト単独の培養にはMedium154S(クラボウ社)に増殖添加剤HKGS(クラボウ社)を加えた培地を用いた。
(3)ヒト正常メラノサイト(NHEM(NB)Moderately、クラボウ社)を7000cells/cm2の密度で播種・培養し、培養開始数日後、HEPES緩衝液(クラボウ社)で1回洗浄の後、0.025%トリプシン-EDTA(クラボウ社)処理によって回収した。
(4)回収した両細胞を浮遊液の状態で、ケラチノサイト:メラノサイト=5:1の比で混合し、5000cells/cm2の密度で共培養を開始した。共培養にはMedium154S(クラボウ社)に増殖添加剤HKGS(クラボウ社)を加えた培地を用いた。共培養2日目に培養フラスコから培地のみを吸引した後、ブタ由来トリプシン(Sigma社)0.166mg/mL(300U/mL)を培養フラスコに添加して45秒間処理し、トリプシン中和液(クラボウ社)を添加して中和した。トリプシンを添加しない系では、トリプシン添加および中和工程は省略した。その後、被験物質(トラネキサム酸、ニコチン酸アミド、またはトラネキサム酸とニコチン酸アミドの併用)を加えた培地、または被験物質を加えていない培地に置き換え、さらに3日間培養した。
(5)共培養開始から5日後、HEPESで1回洗浄を行ない、0.025%トリプシン-EDTA(クラボウ社)処理により細胞を回収した後、細胞数を500000cells/tubeに調整し、2%パラホルムアルデヒド/PBSを加え、室温で20分間固定した。
(6)遠心後、細胞を回収し、0.5%サポニン・0.5%BSA/PBSで室温、10分間処理した後、FITC標識マウス抗ヒトサイトケラチン抗体(PROGEN Biotechnik社製)およびPE標識マウス抗リコンビナントMelan-A抗体(Santa Cruz社製)を加え、室温で1時間振盪した。
(7)2%パラホルムアルデヒド/PBSに液を交換後、セルストレーナー付きFACS解析用チューブ(FALCON社)中に滴下して、Cell Lab Quanta SC MPL(ベックマンコールター社)にて解析した。
(8)FITC標識されたケラチノサイトを選別し、ケラチノサイトに取り込まれたメラノソーム表面に存在するMelan-A認識した抗体のPE蛍光強度を、メラノソーム移送量とした。
【0040】
(試験結果)
以上の方法によって得られたメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの輸送量を調べた結果を表9に示す。メラノソーム輸送抑制剤を添加しない場合に較べて、当該阻害効果が公知のニコチン酸アミドにて、メラノソーム取込量が減少することが確認でき、本試験方法の妥当性が検証できる。
【0041】
表9より、トラネキサム酸を添加するとメラノソーム取込量が用量依存的に抑制されていることが認められ、トラネキサム酸にメラノソーム輸送抑制作用を有することが判明した。
【0042】
さらに、図1により、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することにより、トラネキサム酸単独、あるいはニコチン酸アミド単独に比べて一層優れたメラノソーム輸送抑制作用を有することが判明した。
【0043】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の、トラネキサム酸を含有するメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソーム輸送抑制剤は、生成したメラニンが表皮の角化細胞に輸送されることを抑制することができるため、肝斑以外の色素沈着性疾患に対しても適用できる。更に、トラネキサム酸とニコチン酸アミドを併用することにより一層優れた色素沈着抑制作用が発現するため、メラノソーム輸送抑制剤、又は、メラノソーム輸送抑制方法として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸を含有するメラノソーム輸送抑制剤。
【請求項2】
さらにニコチン酸アミドを含有する請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
経口投与されうる請求項1または2に記載の抑制剤。
【請求項4】
トラネキサム酸およびニコチン酸アミドを含有する経口用医薬組成物。
【請求項5】
トラネキサム酸によるメラノソーム輸送の抑制方法。
【請求項6】
トラネキサム酸を経口投与する工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項1】
トラネキサム酸を含有するメラノソーム輸送抑制剤。
【請求項2】
さらにニコチン酸アミドを含有する請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
経口投与されうる請求項1または2に記載の抑制剤。
【請求項4】
トラネキサム酸およびニコチン酸アミドを含有する経口用医薬組成物。
【請求項5】
トラネキサム酸によるメラノソーム輸送の抑制方法。
【請求項6】
トラネキサム酸を経口投与する工程を含む、請求項5に記載の方法。
【図1】
【公開番号】特開2010−159252(P2010−159252A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280158(P2009−280158)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]