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メラノーマの転移抑制剤
説明

メラノーマの転移抑制剤

【課題】本発明は、実用的なメラノーマ転移抑制剤やメラノーマ転移抑制方法を提供することや、実用的なメラノーマ転移抑制剤調製のための使用を提供することや、メラノーマ転移抑制剤の実用的なスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】メラノーマ転移抑制剤やメラノーマ転移抑制方法やメラノーマ転移抑制剤調製のための使用については、SIRT1阻害作用物質を用いる。また、メラノーマ転移抑制剤のスクリーニング方法については、被検物質の存在下で、SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性を測定する工程;測定の結果得られたヒストンデアセチラーゼ活性の値を、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値と比較する工程;及び、被検物質の存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値が、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値より低い場合に、その被検物質をメラノーマ転移抑制剤と評価する工程;を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノーマ転移抑制剤、メラノーマ転移抑制方法、メラノーマ転移抑制剤調製のための使用、メラノーマ転移抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラノーマ(悪性黒色腫)は、メラノサイト(メラニン色素産生細胞)が癌化して生じる悪性腫瘍であり、全身の皮膚、粘膜のほか、目、脊髄、脳等の臓器にも発生する。メラノーマは早期の段階から転移が生じ易く、化学療法や放射線療法にも抵抗性であるため、悪性度の高い腫瘍として知られている(非特許文献1および2)。そのため、メラノーマの治療は基本的には外科的手術に頼らざるを得ないが、転移が生じると外科的手術でも処置し切れなくなる場合が多く、有効な治療法が求められている。
【0003】
SIRT1は、NADを補酵素とするクラスIIIに属するヒストンデアセチラーゼであり、酵母や線虫、ショウジョウバエで過剰発現をおこなうと寿命が延長するSir2遺伝子の哺乳類ホモログである。SIRT1は、ヒストンH3やH4のアセチル化されたリシン残基を脱アセチル化する他、各種の転写因子を調節して細胞の死、分化、代謝などに関与することが近年の研究によりしだいに明らかにされつつある。例えば、SIRT1が、転写因子p53を脱アセチル化してp53活性を抑制することによりアポトーシスを抑えたり、転写因子FOXOsを脱アセチル化して細胞の酸化ストレスに対する耐性を高める他、核内受容体PPARγの転写を抑えて脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制したり、転写コアクチベータPGC−1αを活性化して糖の新生を促進しさらにミトコンドリアでの酸化的リン酸化を促進させたりすることが明らかにされている。
【0004】
非特許文献3には、SIRT1遺伝子の発現を阻害すると、転写因子FOXO1を介して血管新生が抑制されることが記載されている。また、非特許文献4には、SIRT2が細胞運動に関係することが示唆されている。しかし、SIRT2は、SIRT1と類似のNAD+-dependent HDACドメイン及びCdkリン酸化部位を持つが、他の部分は全く異なる別の遺伝子産物である(非特許文献4の図1D参照)。
【0005】
しかし、SIRT1を阻害すると、メラノーマの転移を抑制することについては何ら知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「化学療法の領域」、2003年、S−1、第19巻、p.224−231
【非特許文献2】Oncogene, 22, p3138-3151 (2003)
【非特許文献3】Genes & Development, 21 p2644-2658 (2007)
【非特許文献4】The Journal of Cell Biology, Vol. 180, No. 5, p915-929 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、実用的なメラノーマ転移抑制剤やメラノーマ転移抑制方法を提供することや、実用的なメラノーマ転移抑制剤調製のための使用を提供することや、メラノーマ転移抑制剤の実用的なスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ニコチンアミド、スプリトマイシン、SIRT1に対するsiRNA等のSIRT1阻害作用物質が、メラノーマ細胞の細胞移動を阻害すること、及び、SIRT1阻害作用物質が、in vivoにおいて、メラノーマ細胞の転移を抑制すること等を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)SIRT1阻害作用物質を含有するメラノーマ転移抑制剤や、(2)SIRT1阻害作用物質が、ニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinol、SIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNA、SIRT1に対するmiRNAからなる群から選択されることを特徴とする上記(1)に記載のメラノーマ転移抑制剤に関する。
【0010】
また本発明は、(3)SIRT1阻害作用物質を投与することを特徴とするメラノーマ転移抑制方法や、(4)SIRT1阻害作用物質が、ニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinol、SIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNA、SIRT1に対するmiRNAからなる群から選択されることを特徴とする上記(3)に記載のメラノーマ転移抑制方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、(5)SIRT1阻害作用物質のメラノーマ転移抑制剤調製のための使用や、(6)SIRT1阻害作用物質が、ニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinol、SIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNA、SIRT1に対するmiRNAからなる群から選択されることを特徴とする上記(5)に記載の使用に関する。
【0012】
また本発明は、(7)以下の工程を有することを特徴とするメラノーマ転移抑制剤のスクリーニング方法;被検物質の存在下で、SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性を測定する工程;測定の結果得られたヒストンデアセチラーゼ活性の値を、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値と比較する工程;被検物質の存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値が、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値より低い場合に、その被検物質をメラノーマ転移抑制剤と評価する工程;に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のメラノーマ転移抑制剤やメラノーマ転移抑制方法は、メラノーマの転移を効果的に抑制することができる。そのメラノーマ転移抑制効果は、in vivoにおいても実証されているため、非常に実用性が高い。本発明のメラノーマ転移抑制剤やメラノーマ転移抑制方法を用いてメラノーマの転移を抑制すると、メラノーマ除去手術後の再発率を低減させたり、メラノーマの悪化を抑制・遅延させたりすることができるため、メラノーマの治療の可能性を顕著に向上させることが可能となる。また、本発明のメラノーマ転移抑制剤のスクリーニング方法は、実用性の高いメラノーマ転移抑制剤を効率良くスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】メラノーマ細胞及びメラノブラストの細胞質におけるSIRT1の発現を示す図である。図1A:MM418細胞、B16F1細胞及びB16F10細胞において、SIRT1に関するRT−PCRを行なった結果を示す図である。図1B:B16F1細胞、B16F10細胞及びCOS SIRT1細胞において、SIRT1等に関するウエスタンブロットを行なった結果を示す図である。図1C:B16F1細胞、MM418細胞及びメラノブラスト細胞における蛍光免疫染色の結果を示す図である。図1D:B16F1細胞の核画分、細胞質画分及びミトコンドリア画分のそれぞれに対して、SIRT1等に関するウエスタンブロットを行なった結果を示す図である。
【図2】B16F1メラノーマ細胞群におけるWound healingに対する、ニコチンアミド(NA)及びニコチンアミドジヌクレオチド(NAD)の影響を示す図である。図2左:スクラッチ直後(0h)及び24時間後(24h)のwounded areaの観察結果を示す図である。図2右:0h時点のwounded areaの面積を100%としたときの、24h時点でのwounded areaの面積の割合(%)の平均値を示す図である。
【図3】B16F10メラノーマ細胞群におけるWound healingに対する、ニコチンアミド(NA)の影響を示す図である。図3左:スクラッチ直後(0h)及び24時間後(10h)のwounded areaの観察結果を示す図である。図3右:0h時点のwounded areaの面積を100%としたときの、10h時点でのwounded areaの面積の割合(%)の平均値を示す図である。
【図4】SIRTファミリー阻害物質が、B16F1メラノーマ細胞の細胞移動を阻害することを示す図である。図4左:ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図4右:電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を示す図である。
【図5】SIRTファミリー活性化物質が、B16F1メラノーマ細胞の細胞移動を促進することを示す図である。図5左:ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図5右:電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を示す図である。
【図6】SIRTファミリー調節物質(SIRTファミリー活性化物質及び阻害物質)が、B16F10メラノーマ細胞の細胞移動に影響することを示す図である。図6左:ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図6右:電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を示す図である。
【図7】SIRTファミリー調節物質(SIRTファミリー活性化物質及び阻害物質)が、MM418ヒトメラノーマ細胞の細胞移動に影響することを示す図である。図7左:ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図7右:電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を示す図である。
【図8】B16F1細胞に関するCell Proliferation Assayの結果を示す図である。
【図9】SIRT1−siRNAが、B16F1メラノーマ細胞の細胞移動を阻害することを示す図である。図9左上:SIRT1−siRNA発現B16F1細胞(si−1)、レンチウイルスベクター導入B16F1細胞(C4)、及び、B16F1細胞(C)において、SIRT1に関するRT−PCRを行なった結果を示す図である。図9左下:スクラッチ直後(0h)及び24時間後(24h)のwounded areaの観察結果を示す図である。図9右:0h時点のwounded areaの面積を100%としたときの、24h時点でのwounded areaの面積の割合(%)の平均値を示す図である。
【図10】SIRT1−siRNAが、B16F1メラノーマ細胞の細胞移動を阻害することを示す図である。図10左:ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図10右:電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を示す図である。
【図11】SIRT2〜7のsiRNAが、B16F1メラノーマ細胞の細胞移動に影響しないことを示す図である。図11左:ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図11右:電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を示す図である。
【図12】in vivoにおける、B16F1細胞の移植アッセイの方法の概略を示す図である。
【図13】NA投与群及びコントロール群のマウスにおける腫瘍径の推移及び生存マウス数の推移の結果を示す図である。図13の上段:NA投与群及びコントロール群のマウスにおける腫瘍径の平均の推移を示す図である。図13の下段:NA投与群及びコントロール群のマウスにおける生存数の推移を示す図である。
【図14】移植アッセイにおいて、メラノーマ細胞の腹腔内浸潤又はリンパ節転移の存在が確認されたマウスのみについて、その累積生存率をコントロール群(C)とNA投与群(N)に分けて比較した結果を示す図である。
【図15】移植アッセイにおいて、正常組織へのメラノーマ細胞の浸潤が確認されたマウス(Invasion(+)のマウス)の割合(%)を両群について算出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のメラノーマ転移抑制剤としては、SIRT1阻害作用物質を含有している限り特に制限されず、また本発明のメラノーマ転移抑制方法としては、SIRT1阻害作用物質を投与する方法であれば特に制限されず、そしてまた、本発明の使用としては、SIRT1阻害作用物質をメラノーマ転移抑制剤の調製のために使用する方法であれば特に制限されない。後述の実施例の結果から明らかなように、SIRT1を阻害すれば、メラノーマ転移を抑制し得るからである。本発明におけるSIRT1阻害作用物質としては、いずれかの哺乳動物のSIRT1の活性(好ましくはヒストンデアセチラーゼ活性)を阻害する物質である限り特に制限されないが、例えばニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinol、SIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNA、SIRT1に対するmiRNAを好適に例示することができ、中でもニコチンアミド、スプリトマイシン、SIRT1に対するsiRNAをより好適に例示することができ、安全性や入手の容易性や投与の容易性の観点から、ニコチンアミド、スプリトマイシンをさらに好適に例示することができる。上記のニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinolは、市販のものを使用することができる。また、上記のSIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNAは、SIRT1の配列情報に基づいて、適宜設計し、そのメラノーマ細胞転移抑制効果を確認することにより、得ることができる。
【0016】
本発明のメラノーマ転写抑制剤では、2種類以上のSIRT1阻害作用物質を併用してもよい。また、上記の哺乳動物としては、特に制限されないが、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等を好適に例示することができ、中でもヒトをより好適に例示することができる。
【0017】
ある被検物質が、SIRT1阻害作用物質であるかどうかは、被検物質の存在下で、SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性を測定する工程;測定の結果得られたヒストンデアセチラーゼ活性の値を、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値と比較する工程;被検物質の存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値が、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値より低い場合に、その被検物質をSIRT1阻害作用物質と評価する工程;を有する方法により、容易に確認することができる。上記のSIRT1タンパク質は、公知のSIRT1の配列情報に基づいて、所望の哺乳動物からSIRT1遺伝子を単離し、該遺伝子を適当な発現ベクターにインテグレイトして発現させた後、そのSIRT1を単離することによって容易に入手することができる。SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性は、SIRT1の基質であるアセチル化されたp53の382番目のリシン又は320番目のリシンを含む蛍光標識ペプチド(Biomol社製)等を用いて測定することができる。
【0018】
本発明におけるSIRT1阻害作用物質のメラノーマ転移抑制効果を確認する方法としては、特に制限されないが、メラノーマ細胞をコンフルエントになるまで培養し、メラノーマ細胞の層を形成させる工程;メラノーマ細胞の層に被検物質を添加する工程;被検物質の添加から一定時間経過後に、メラノーマ細胞の層をスクラッチする工程;スクラッチした部分(スクラッチ部分)を、スクラッチから一定時間経過後に観察して、メラノーマ細胞のスクラッチ部分への移動の程度を測定する工程;メラノーマ細胞のスクラッチ部分への移動の程度を、被検物質非添加の場合の程度と比較する工程;メラノーマ細胞のスクラッチ部分への移動の程度が、被検物質非添加の場合の程度と比較して低い場合に、その被検物質をメラノーマ転移抑制剤と評価する工程;を有する方法(Wound Healing Assay)や、メラノーマ細胞が浸潤し得る組成物の表面にメラノーマ細胞を接触させ、被検物質存在下でのメラノーマ細胞の浸潤の程度を測定する工程;メラノーマ細胞の浸潤の程度を、被検物質非存在下の場合の程度と比較する工程;メラノーマ細胞の浸潤の程度が、被検物質非存在下の場合の程度と比較して低い場合に、その被検物質をメラノーマ転移抑制剤と評価する工程;を有する方法(Invasion Assay)を好適に例示することができる。上記のWound Healing Assayにおける「スクラッチ部分への移動の程度」としては、スクラッチ直後におけるスクラッチ部分の面積と比較したときの、スクラッチから一定時間経過後のスクラッチ部分の面積の低下の程度を好適に用いることができ、上記のInvasion Assayにおける「メラノーマ細胞が浸潤し得る組成物」としては、マトリジェルを好適に用いることができる。上記のWound Healing Assay及びInvasion Assayとして、より具体的には、後述の実施例2に記載の方法、及び、実施例3に記載の方法をそれぞれ好適に例示することができる。
【0019】
本発明に用いるSIRT1阻害作用物質における、好ましいメラノーマ転移抑制効果としては、後述の実施例2に記載のWound Healing Assayと同様の方法において、スクラッチから24時間後のスクラッチ部分(wounded area)の面積が、コントロールの場合のその面積に対して、1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましい。また、後述の実施例3に記載のInvasion Assayと同様においては、48時間インキュベートした後の浸潤細胞数が、コントロールの場合と比較して、2分の1以下であることが好ましく、3分の1以下であることがより好ましい。また、後述の実施例6に記載のin vivo移植アッセイと同様の方法においては、投与群の総マウス数に対するInvasion(+)のマウス(転移を生じているマウス)数の割合が、コントロール群におけるその割合の2分の1以下であることが好ましく、3分の1以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明のメラノーマ転移抑制剤は、所望のメラノーマ転移抑制効果が得られる限り、前述のSIRT1阻害作用物質の他に、他のメラノーマ転移抑制剤や抗がん剤等の任意成分をふくんでいてもよい。
【0021】
本発明のメラノーマ転移抑制剤に含有されるSIRT1阻害作用物質は、常法によって適宜の製剤とすることができる。製剤の剤型としては散剤、顆粒剤などの固形製剤であってもよいが、優れたメラノーマ転移抑制効果を得る観点からは、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤とすることが好ましい。前述の液剤の製造方法としては、例えばSIRT1阻害作用物質を溶剤と混合する方法や、さらに懸濁化剤や乳化剤を混合する方法を好適に例示することができる。以上のように、本発明におけるSIRT1阻害作用物質を製剤とする場合には、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤などの任意成分を配合することができる。
【0022】
本発明のメラノーマ転移抑制剤の投与方法としては、所望のメラノーマ転移抑制剤が得られる限り特に制限されず、静脈内投与、経口投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等を例示することができる。また、本発明のメラノーマ転移抑制剤の投与量や投与回数や投与濃度は、投与対象のメラノーマ状態や投与対象の体重等に応じて、適宜調節することができる。なお、本発明のメラノーマ転移抑制剤を抗がん剤と併用すると、メラノーマの治療の可能性を顕著に向上させることが可能となるため好ましい。
【0023】
本発明のメラノーマ転移抑制剤の転移抑制対象となるメラノーマ(悪性黒色腫)の種類としては、特に制限されないが、悪性黒子型、末端黒子型、結節型、表在拡大型のいずれであってもよい。また、本発明のメラノーマ転移抑制剤の投与対象となる哺乳動物としては、特に制限されないが、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等を好適に例示することができ、中でもヒトをより好適に例示することができる。また、本発明のメラノーマ転移抑制剤に含有されるSIRT1阻害作用物質が阻害作用を発揮するSIRT1の由来である哺乳動物の種類は、該メラノーマ転移抑制剤の投与対象となる哺乳動物の種類と一致していることが、より安定して優れたメラノーマ転移抑制効果を得る観点から、好ましい。
【0024】
本発明のメラノーマ転移抑制方法におけるSIRT1阻害作用物質やその投与方法については、メラノーマ転移抑制剤について前述したのと同様である。また、本発明のメラノーマ転移抑制剤調製のための使用におけるSIRT1阻害作用物質やそれをメラノーマ転移抑制剤に調製する方法も、メラノーマ転移抑制剤について前述したのと同様である。
【0025】
本発明のメラノーマ転移抑制剤のスクリーニング方法としては、被検物質の存在下で、SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性を測定する工程;測定の結果得られたヒストンデアセチラーゼ活性の値を、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値と比較する工程;及び、被検物質の存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値が、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値より低い場合に、その被検物質をメラノーマ転移抑制剤と評価する工程;を有している限り特に制限されない。このような本発明のメラノーマ転移抑制剤のスクリーニング方法によれば、SIRT1阻害作用物質を効率良くスクリーニングすることができ、すなわち、実用性の高いメラノーマ転移抑制剤を効率良くスクリーニングすることができる。
【0026】
上記の、被検物質の存在下で、SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性を測定する工程としては、特に制限されないが、SIRT1の基質であるアセチル化されたp53の382番目のリシン又は320番目のリシンを含む蛍光標識ペプチド(Biomol社製)等を被検物質の存在下で用いることによって、SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性を測定することを好適に例示することができる。
【0027】
この他、本発明には、メラノーマの転移抑制における、SIRT1阻害作用物質の使用も含まれる。この使用におけるSIRT1阻害物質の使用方法については、メラノーマ転移抑制剤について前述したのと同様である。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[メラノーマ細胞におけるSIRT1の局在]
通常の培養細胞においては、SIRT1は核で発現していることが知られている。メラノーマ細胞におけるSIRT1の局在を調べるために、MM418細胞(ヒトメラノーマ細胞株)、B16F1細胞(マウスメラノーマ細胞株;低転移性)、B16F10細胞(マウスメラノーマ細胞;高転移性)を用意して、以下の実験を行なった。なお、上記の3種類の細胞は、札幌医科大学皮膚科学講座から入手した。札幌医科大学皮膚科学講座は、MM418細胞をQueensland Institute of Medical Research, Brisbane, Australiaから譲り受け、B16F1細胞及びB16F10細胞をAmerican Type Culture Collectionから購入した。
【0030】
1.RT−PCR
MM418細胞、B16F1細胞及びB16F10細胞のそれぞれから、常法にしたがってトータルRNAを抽出した。SIRT1を増幅し得るプライマーセットを用いて、常法にしたがって、前述のトータルRNAに対してRT−PCRを行なった。その結果を、図1Aに示す。図1Aから分かるように、いずれのメラノーマ細胞においても、SIRT1に相当する位置にバンドが確認された。
【0031】
2.トータルタンパク質に対するウエスタンブロット
B16F1細胞、B16F10細胞及びCOS SIRT1細胞(COS細胞に、SIRT1を発現する発現ベクターを導入した細胞)のそれぞれから、常法にしたがってトータルタンパク質を抽出した。得られたトータルタンパク質をSDS−PAGEにて電気泳動して分離した後、分離したタンパク質をメンブレンにトランスファーした。このメンブレンをブロッキングバッファーにてブロッキングした後、洗浄バッファーにて洗浄を行なった。洗浄したメンブレンに、SIRT1特異的な1次抗体を添加してインキュベートしてから洗浄し、次いで、HRPで標識した2次抗体を添加してインキュベートを行なった後、洗浄した。洗浄したメンブレンに、HRPの発色基質を添加した。メンブレン上の発色の様子を観察した結果を図1Bに示す。図1Bに示されているように、B16F1細胞及びB16F10細胞のいずれの場合も、ポジティブコントロールであるCOS SIRT1細胞の場合と同様の位置に、SIRT1のバンドが検出された。なお、内部標準として、GAPDHの検出を行うことによって、各レーンのトータルタンパク質量が同等であることを確認した。以上の結果より、B16F1細胞及びB16F10細胞において、SIRT1が実際に発現していることが確認できた。
【0032】
3.蛍光免疫染色
メラノーマ細胞におけるSIRT1の局在を調べるために、以下の方法で免疫蛍光染色を行なった。
【0033】
B16F1細胞及びMM418細胞を用意した。また、メラニン細胞の前駆細胞であるメラノブラストも用意した。メラノブラストは、生後1日のマウスの皮膚から単離培養して得た。得られた細胞がメラノブラストであることの確認は、そのマーカーであるTRP1の発現を確認することによって行なった。前述のB16F1細胞、MM418細胞、メラノブラストの3種類の細胞のそれぞれについて、SART1特異的抗体及び赤色蛍光標識したその2次抗体;チロジナーゼ(tyrosinase)特異的抗体及び緑色蛍光標識したその2次抗体;又は、Hoechist;を用いて染色を行なった。その結果を図1Cに示す。なお、「Merge」とは、「SIRT1」、「チロジナーゼ」、「Hoechist」にて染色した結果を重ね合わせたものを示す。図1Cの結果から分かるように、Hoechistにて染色された核の周囲の細胞質において、SIRT1やチロジナーゼが発現していることが示された。また、メラノーマ細胞と同様に、メラノブラストにおいても、SIRT1は細胞質で優位に発現していることが示された。
【0034】
4.核画分、細胞質画分及びミトコンドリア画分に対するウエスタンブロット
メラノーマ細胞におけるSIRT1の局在を調べるために、B16F1細胞の核画分、細胞質画分及びミトコンドリア画分のそれぞれに対して、ウエスタンブロットを試みた。具体的には以下のような方法で行なった。
【0035】
B16F1細胞を破砕した後、遠心分離法によって、核画分、細胞質画分、及び、ミトコンドリア画分を得た。それぞれの画分について、実施例1の2.と同様の方法でウエスタンブロットを行なった。その結果を図1Dに示す。図1Dから分かるように、SIRT1は、細胞質画分において特に検出された。なお、各画分が、核画分、細胞質画分、ミトコンドリア画分であることを確認するために、核マーカータンパク質であるLamin A/C、細胞質マーカータンパク質であるc−AST、ミトコンドリアマーカータンパク質であるm−ASTの発現の検出も行った。以上の結果より、B16F1細胞において、SIRT1は細胞質にて発現していることが示された。
【実施例2】
【0036】
[Wound Healing Assay]
SIRT1が、メラノーマ細胞の細胞移動に関与しているかどうかを調べるために、以下のような方法でWound Healing Assayを行なった。
【0037】
サンプル薬剤として、SIRT1等のSIRTファミリーの阻害物質であるニコチンアミド(NA)を5mM含む溶液;SIRT1の活性化物質であるニコチンアミドジヌクレオチド(NAD)を1mM含む溶液;蒸留水(コントロール:control);の3種類を用意した。24ウェルプレートの各ウェルに、B16F1細胞を同量ずつ播種した。5%FBSを添加したダルベッコ変法イーグル培地(DME)を各ウェルに添加して、コンフルエントになるまで約一晩培養し、その後、前述と同様の培地を用いて各ウェルの培地を交換した。次いで、サンプル薬剤をウェルに投与して、B16F1細胞をサンプル薬剤に暴露し、24時間後にイエローチップで細胞の層をスクラッチした。スクラッチした部分(wounded area)を、スクラッチしてから0h、4h、6h、10h、12h及び24h後に顕微鏡で観察し、0h時点でのwounded areaの面積を100%としたときの、各時点でのwounded areaの面積の割合(%)を測定した。スクラッチした部分についてのこの測定は、各サンプルの1本のwoundについて、それぞれ3〜5個所ずつ行なった。スクラッチ直後(0h)及び24時間後(24h)のwounded areaの観察結果を図2左に示す。また、0h時点のwounded areaの面積を100%としたときの、24h時点でのwounded areaの面積の割合(%)の平均値を図2右に示す。図2左及び右の結果から分かるように、SIRT1阻害物質であるNAを添加した場合は、24h時点でもwounded areaの面積は0h時点とほとんど変わらなかったが、コントロールの場合は、24h時点でのwounded areaの面積が0h時点のそれと比較して有意に(約30%弱)低下し、SIRT1活性化物質であるNADを添加した場合は、24h時点のwounded areaの面積が0h時点のそれと比較して顕著に(約50%)低下した。すなわち、SIRT1活性を活性化すると、スクラッチ後のwounded areaの面積の低下が促進され、SIRT1活性を阻害すると、スクラッチ後のwounded areaの面積の低下が抑制されることが示された。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。
【0038】
B16F1細胞に代えて、B16F10細胞を用いたこと、サンプル薬剤として、前述の5mMのNA溶液及びコントロール液を用いたこと、及び、wounded areaを比較する時点を0hと10hとしたこと以外は、上記の方法と同じ方法でWound Healing Assayを行なった。スクラッチ直後(0h)及び10時間後(10h)のwounded areaの観察結果を図3左に示す。また、0h時点のwounded areaの面積を100%としたときの、10h時点でのwounded areaの面積の割合(%)の平均値を図3右に示す。図3左及び右の結果から分かるように、SIRT1阻害物質であるNAを添加した場合は、10h時点のwounded areaの面積が0h時点のそれと比較してわずかに(約10%)低下しただけであったが、コントロールの場合は、10h時点でのwounded areaの面積が、0h時点のそれと比較して顕著に(約55%)低下した。すなわち、B16F10細胞を用いた場合も、B16F1細胞を用いた場合と同様に、SIRT1活性を阻害すると、スクラッチ後のwounded areaの面積の低下が抑制されることが示された。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。
【0039】
以上のWound Healing Assayの結果は、SIRT1活性の程度が低くなるにつれて、メラノーマ細胞株の細胞移動(cell migration)が阻害されること、及び、SIRT1の活性の程度が高くなるにつれて、メラノーマ細胞株の細胞移動が促進されることを表すものであり、SIRT1がメラノーマ細胞株の細胞移動に関与していることが明らかとなった。
【実施例3】
【0040】
[Invasion Assay(Matrigel Assay)]
メラノーマ細胞の細胞移動を、浸潤性の観点から評価するために、以下のような方法でInvasion Assayを行なった。
【0041】
まず、サンプル薬剤として、NAを5mM含む溶液;NADを1mM含む溶液;SIRT1等のSIRTファミリーの阻害物質であるスプリトマイシン(SP)を100μM含む溶液;SIRT1の活性化物質であるレスベラトロール(RES)を10nM含む溶液;蒸留水(コントロール:control);の5種類を用意した。次に、12ウェルプレートのウェル内にセルカルチャーインサート(cell culture insert)を置いた。市販のものを50倍希釈したマトリジェルを、1ウェルあたり50μlずつ添加して、セルカルチャーインサートをコーティングした。次いで、その12ウェルプレートをクリーンベンチ内で2時間乾燥し、ウェル内に残った液体は吸引して除去した。セルカルチャーインサートを、いずれかのサンプル薬剤を添加した浸潤アッセイ用培地(FBS(−)DEM)に37℃で2時間浸してインキュベートして、マトリジェルを再膨化させた。そのセルカルチャーインサート上に、1ウェルあたり50000個のメラノーマ細胞を播種した後、セルカルチャーインサートの下層の培地をFBS(+)DEMに変換して、37℃で48時間インキュベートした。セルカルチャーインサートに付着した細胞をメタノールで固定してギムザ染色を行い、セルカルチャーインサートの下面(細胞を播種した面の逆側の面)に浸潤した細胞(以下、「浸潤細胞」ともいう。)を顕微鏡にて顕微鏡撮影し、その顕微鏡写真の浸潤細胞数を目視により計測した。この計測は、各サンプルにつき、顕微鏡写真5〜6枚ずつを用いて行なった。
【0042】
細胞として、B16F1細胞を用い、サンプル薬剤として、NAを5mM含む溶液;SPを100μM含む溶液;蒸留水(コントロール:control);を用いたInvasion Assayの結果を図4に示す。図4左の3つのパネルは、ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を表し、図4右には電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を表す。図4から分かるように、SIRT1の阻害物質であるNAやSPを添加した場合は、コントロールの場合と比較して浸潤細胞の数が有意に低下することが示された。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。
【0043】
また、細胞として、B16F1細胞を用い、サンプル薬剤として、NAを5mM含む溶液;NADを1mM含む溶液;RESを10nM含む溶液;蒸留水(コントロール:control);を用いたInvasion Assayの結果を図5に示す。図5左の4つのパネルは、ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を表し、図5右には電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を表す。図5から分かるように、SIRT1の阻害物質であるNAを添加した場合は、コントロールの場合と比較して浸潤細胞の数が有意に低下し、SIRT1の活性化物質であるNADやRESを添加した場合は、コントロールの場合と比較して浸潤細胞の数が有意に増加することが示された。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。
【0044】
さらに、細胞として、B16F10細胞を用い、サンプル薬剤として、NAを5mM含む溶液;SPを1μM含む溶液;NADを1mM含む溶液;蒸留水(コントロール:control);を用いたInvasion Assayの結果を図6に示す。図6左の4つのパネルは、ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を表し、図6右には電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を表す。図6から分かるように、SIRT1の阻害物質であるNAやSPを添加した場合は、コントロールの場合と比較して浸潤細胞の数が有意に低下し、SIRT1の活性化物質であるNADを添加した場合は、コントロールの場合と比較して浸潤細胞の数が有意に増加することが示された。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。
【0045】
また、細胞として、MM418細胞を用い、サンプル薬剤として、NAを5mM含む溶液;SPを1μM含む溶液;蒸留水(コントロール:control);を用いたInvasion Assayの結果を図7に示す。図7左の3つのパネルは、ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を表し、図7右には電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を各サンプル薬剤についてグラフ化した結果を表す。図7から分かるように、SIRT1の阻害物質であるNAやSPを添加した場合は、コントロールの場合と比較して浸潤細胞の数が有意に低下することが示された。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。
【0046】
以上のInvasion Assayの結果は、SIRT1活性の程度が低くなるにつれて、メラノーマ細胞株の浸潤が阻害されること、及び、SIRT1の活性の程度が高くなるにつれて、メラノーマ細胞株の浸潤が促進されることを表している。これにより、SIRT1がメラノーマ細胞株の細胞移動に関与していることが、浸潤の面からも確認された。
【実施例4】
【0047】
[MTT Assay(Cell Proliferation Assay)]
上記実施例2のWound Healing Assayや上記実施例3のInvasion Assayの結果が、コントロール以外のサンプル薬剤の細胞毒性によるものでないことを確認するために、以下のような方法でMTT Assayを行なった。
【0048】
まず、サンプル薬剤として、NAを5mM含む溶液;SPを100μM含む溶液;NADを1mM含む溶液;RESを10nM含む溶液;蒸留水(コントロール:control);の5種類を用意した。次に、96ウェルプレートの各ウェルに、B16F1細胞を1×10cellずつ播種し、さらに、各ウェルにいずれか1種類のサンプル薬剤を添加して24時間インキュベートした。それから、各ウェルの培養液を、サンプル薬剤を含まない通常の培養液に交換した後、MTT溶液(PBS中にMTTを5mg/mlで含む溶液)を各ウェルに20μlずつ添加して、3時間インキュベートした。各ウェルから培養液を除去してから、各ウェルにDMSを100μlずつ添加して、ウェルプレートを10分間程度振とうした。次いで、570nmの波長にて各ウェルの溶液の吸光度を測定した。吸光度の測定は、各サンプルについて3〜6ウェルずつに対して行なった。
【0049】
コントロールにおける吸光度を100%としたときの、各サンプル薬剤における吸光度の値(平均)を、図8に示す。図8から分かるように、いずれのサンプル薬剤の場合も、コントロールの場合と有意差は見られなかった。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。これにより、上記実施例2のWound Healing Assayや上記実施例3のInvasion Assayの結果が、コントロール以外のサンプル薬剤の細胞毒性によるものでないことが示された。
【実施例5】
【0050】
[Sirt1-siRNA Assay]
SIRT1が実際に細胞移動に関与しているかどうかを調べるために、SIRT1のsiRNA(以下、「SIRT1−siRNA」ともいう)を用いて、Sirt1-siRNA Assayを試みることとした。そこで、Sirt1-siRNA Assayに先立って、SIRT1−siRNAを細胞内で発現する細胞株を作製した。
【0051】
1.SIRT1−siRNA発現B16F1細胞の作製
マウスSIRT1のヌクレオチド配列情報(Genbankアクセッションナンバー;NM_019812)に基づいて、SIRT1−siRNAを設計した。その配列を配列番号1に示す。このSIRT1−siRNAは、ショートヘアピン型のsiRNAであり、マウスSIRT1 cDNA(Genbankアクセッションナンバー;AY377984)のコード領域の1645〜1664番目のヌクレオチド配列を標的配列としている。このSIRT1−siRNAをレンチウイルスベクターにインテグレイトして、SIRT1−siRNA/レンチウイルスベクターを作製した。このSIRT1−siRNA/レンチウイルスベクターを、B16F1細胞に感染させることにより、細胞内でSIRT1−siRNAを発現する細胞(以下、「SIRT1−siRNA発現B16F1細胞」という)を得た。また、コントロールとして、レンチウイルスベクターをB16F1細胞に感染させることにより、B16F1細胞(C4)を得た。なお、前述のレンチウイルスベクターは、国立神経センターより譲り受けたものであり、Araki T, Sasaki Y, Milbrandt J. Increased nuclear NAD biosynthesis and SIRT1 activation prevent axonal degeneration. Science. 2004 Aug 13;305(5686):1010-3.に記載されているレンチウイルスベクターと同じものである。
【0052】
2.SIRT1−siRNA発現B16F1細胞におけるRT−PCR
次に、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞において、SIRT1の発現が低下していることを確認するために、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞(si−1)、レンチウイルスベクター導入B16F1細胞(C4)(コントロール)、及び、B16F1細胞(C)(コントロール)のそれぞれについて、上記実施例1の1.記載の方法と同様の方法でSIRT1に関するRT−PCRを行なった。その結果を図9の左上に示す。図9の左上から分かるように、レンチウイルスベクター導入B16F1細胞(C4)(コントロール)やB16F1細胞(C)(コントロール)の場合と比較して、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞(si−1)では、SIRT1の発現が低下していることが示された。これにより、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞(si−1)内では、SIRT1−siRNAが発現しており、SIRT1の発現が低下していることが分かった。
【0053】
3.SIRT1−siRNA発現B16F1細胞におけるWound Healing Assay
次に、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞の細胞移動が低下しているかどうかを調べるために、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞(si−1)、及び、レンチウイルスベクター導入B16F1細胞(C4)(コントロール)について、上記実施例2記載の方法と同様の方法でWound Healing Assayを行なった。スクラッチした部分(wounded area)を、スクラッチしてから0h及び24h後に顕微鏡で観察し、0h時点でのwounded areaの面積を100%としたときの、各時点でのwounded areaの面積の割合(%)を測定した。スクラッチした部分についてのこの測定は、各サンプルの1本のwoundについて、それぞれ3〜5個所ずつ行なった。スクラッチ直後(0h)及び24時間後(24h)のwounded areaの観察結果を図9左下に示す。また、0h時点のwounded areaの面積を100%としたときの、24h時点でのwounded areaの面積の割合(%)の平均値を図9右に示す。図9の左下及び右から分かるように、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞では、細胞移動が有意に低下していることが示された。なお、同様の実験を計3回繰り返したところ、同様の結果を得た。
【0054】
4.SIRT1−siRNA発現B16F1細胞におけるInvasion Assay
SIRT1−siRNA発現B16F1細胞の細胞移動を、浸潤性の観点から評価するために、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞(si−1)及びレンチウイルスベクター導入B16F1細胞(C4)(コントロール)について、上記実施例3記載の方法と同様の方法でInvasion Assayを行なった。その結果を図10に示す。図10左の2つのパネルは、ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を表し、図10右には電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を細胞の種類ごとにグラフ化した結果を表す。図10から分かるように、SIRT1−siRNA発現B16F1細胞においては、コントロールの細胞と比較して、浸潤細胞の数が有意に低下することが示された。
【0055】
5.SIRT2〜7のsiRNAを発現するB16F1細胞におけるInvasion Assay
B16F1細胞において、SIRT1以外のSIRTファミリーであるSIRT2〜SIRT7の発現を低下させた場合に、浸潤性がどのように変化するかを調べるために、SIRT2〜SIRT7のいずれかのsiRNAを細胞内で発現する細胞についてInvasion Assayを試みることとした。そこで、そのInvasion Assayに先立って、SIRT2〜SIRT7のいずれかのsiRNAを細胞内で発現する細胞を作製した。
【0056】
マウスSIRT2〜7のそれぞれのヌクレオチド配列情報に基づいて、SIRT2のsiRNA(以下、「SIRT2−siRNA」ともいう)、SIRT3のsiRNA(以下、「SIRT3−siRNA」ともいう)、SIRT4のsiRNA(以下、「SIRT4−siRNA」ともいう)、SIRT5のsiRNA(以下、「SIRT5−siRNA」ともいう)、SIRT6のsiRNA(以下、「SIRT6−siRNA」ともいう)及びSIRT7のsiRNA(以下、「SIRT7−siRNA」ともいう)を設計した。これらのSIRT2〜7のsiRNAを、それぞれ市販のFSP−siベクターにインテグレイトして、SIRT2−siRNA/FSP−siベクター、SIRT3−siRNA/FSP−siベクター、SIRT4−siRNA/FSP−siベクター、SIRT5−siRNA/FSP−siベクター、SIRT6−siRNA/FSP−siベクター、SIRT7−siRNA/FSP−siベクターを作製した。作製したこれらのベクターを、B16F1細胞にトランスフェクションすることにより、細胞内でSIRT2−siRNAを発現する細胞(以下、「SIRT2−siRNA発現B16F1細胞」ともいう)、細胞内でSIRT3−siRNAを発現する細胞(以下、「SIRT3−siRNA発現B16F1細胞」ともいう)、細胞内でSIRT4−siRNAを発現する細胞(以下、「SIRT4−siRNA発現B16F1細胞」ともいう)、細胞内でSIRT5−siRNAを発現する細胞(以下、「SIRT5−siRNA発現B16F1細胞」ともいう)、細胞内でSIRT6−siRNAを発現する細胞(以下、「SIRT6−siRNA発現B16F1細胞」ともいう)、及び、細胞内でSIRT7−siRNAを発現する細胞(以下、「SIRT7−siRNA発現B16F1細胞」ともいう)を得た。これらのSIRT2−siRNAを発現する細胞、SIRT3−siRNAを発現する細胞、SIRT4−siRNAを発現する細胞、SIRT5−siRNAを発現する細胞、SIRT6−siRNAを発現する細胞、及び、SIRT7−siRNAを発現する細胞を併せて、「SIRT2〜7−siRNA発現B16F1細胞」ともいう。また、コントロールとして、FSP−siベクターをB16F1細胞にトランスフェクションすることにより、FSP−siベクター導入B16F1細胞を得た。
【0057】
SIRT2〜7−siRNA発現B16F1細胞の細胞移動を、浸潤性の観点から評価するために、SIRT2−siRNA発現B16F1細胞(SIRT2−si)、SIRT3−siRNA発現B16F1細胞(SIRT3−si)、SIRT4−siRNA発現B16F1細胞(SIRT4−si)、SIRT5−siRNA発現B16F1細胞(SIRT5−si)、SIRT6−siRNA発現B16F1細胞(SIRT6−si)、SIRT7−siRNA発現B16F1細胞(SIRT7−si)、及び、FSP−siベクター導入B16F1細胞(FSP−si)(コントロール)について、上記実施例3記載の方法と同様の方法でInvasion Assayを行なった。その結果を図11に示す。図11左の9つのパネルは、ギムザ染色したセルカルチャーインサートの下面のマトリジェルを電子顕微鏡で観察した結果を表し、図11右には電子顕微鏡にて目視により計測した浸潤細胞の数(平均)を細胞の種類ごとにグラフ化した結果を表す。図11から分かるように、SIRT2〜7−siRNA発現B16F1細胞のいずれの場合も、コントロールと比較して、有意な差は見られなかった。
【実施例6】
【0058】
[in vivoにおける、B16F1細胞の移植アッセイ]
SIRT1阻害作用物質を投与することによって、in vivoにおけるメラノーマ転移が実際に抑制されるかどうかを確認するために、図12に概略した方法で、B16F1細胞の移植アッセイを行なった。具体的には、以下のような方法で移植アッセイを行なった。
【0059】
4週齢の雌のC57BL6マウスを20〜24匹用意し、それぞれのC57BL6マウスの右側腹部を剃毛した。コントロール群として、10〜13匹のC57BL6マウスの腹腔に0.1ccの生理食塩水を投与し、治療群(NA投与群)として10〜12匹のC57BL6マウスの腹腔に0.1ccのNA(in PBS)を0.5mg/gで投与した。生理食塩水又はNAを投与するのと同時に、各マウスの右側腹部に、B16F1細胞(in DME)を0.1cc/匹(1×10個/匹)ずつ皮下注射した。翌日以降は、コントロール群のマウスには、前述したのと同様に0.1ccの生理食塩水を各マウスに腹腔内投与し、治療群のマウスには、前述したのと同様に0.1ccのNA(in PBS)を0.5mg/gで各マウスに腹腔内投与した。B16F1細胞の皮下注射以降、マウスが死亡するまで、各マウスの腫瘍径(tumor size)(mm)の計測と、両群中の生存マウス数(The number of survival mouse)の確認とを、毎日行なった。死亡したマウスは、解剖して、メラノーマ細胞(B16F1細胞)の腹腔内浸潤又はリンパ節転移の有無を目視で確認した。以上の移植アッセイを、3回繰り返した。両群のマウスにおける腫瘍径の推移及び生存マウス数の推移の結果を図13に示す。図13の上段の3つのパネルは、NA投与群のマウスにおける腫瘍径の平均の推移と、コントロール群のマウスにおける腫瘍径の平均の推移を示す。図13の上段の結果から分かるように、1回目と3回目の移植アッセイでは、コントロール群のマウスにおける腫瘍径の方がNA投与群のそれよりも若干上回る傾向を示したが、2回目の移植アッセイでは、NA投与群のマウスにおける腫瘍径の方がコントロール群のそれよりも若干上回る傾向を示しており、両群の腫瘍径の推移に有意差は見られなかった。また、図13の下段の3つのパネルは、両群における生存マウス数の推移を示す。図13の下段の結果から分かるように、NA群のマウスの生存数の推移と、コントロール群のマウスの生存数の推移にはそれほどの差は見られなかった。
【0060】
また、上記の移植アッセイにおけるマウスの死因は、腫瘍死よりも、ストレスによると思われる消化管出血、或いは腫瘍からの出血死が多かった。そこで、上記の移植アッセイにおいて、メラノーマ細胞の腹腔内浸潤又はリンパ節転移の存在が確認されたマウスのみについて、その累積生存率をコントロール群(C)とNA投与群(N)に分けて比較した結果を図14に示す。図14から分かるように、この場合のコントロール群の累積生存日数は、21日から36日くらいの間に分布しており、その平均生存日数は28.38日であったのに対し、NA投与群の累積生存日数は18日から45日くらいの間に分布しており、その平均生存日数は37.556日であった。すなわち、メラノーマ細胞の腹腔内浸潤又はリンパ節転移の存在が確認されたマウスに関しては、NA投与群では、コントロール群に対して有意な延命効果が示された。
【0061】
また、上記の移植アッセイにおいて、正常組織へのメラノーマ細胞の浸潤が確認されたマウス(Invasion(+)のマウス)の割合(%)を両群について算出した結果を図15に示す。図15から分かるように、コントロール群においては、該群の総マウス数に対するInvasion(+)のマウス(転移を生じているマウス)数の割合が31.4%であったのに対し、NA投与群(NA群)におけるその割合は11.8%であった。すなわち、NA投与群におけるInvasion(+)のマウス数の割合は、コントロール群におけるその割合の約3分の1であった。これにより、SIRT1の阻害物質(NA)を投与すると、メラノーマ細胞の転移抑制効果が得られることが、in vivoにおいて実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SIRT1阻害作用物質を含有するメラノーマ転移抑制剤。
【請求項2】
SIRT1阻害作用物質が、ニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinol、SIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNA、SIRT1に対するmiRNAからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のメラノーマ転移抑制剤。
【請求項3】
SIRT1阻害作用物質を投与することを特徴とするメラノーマ転移抑制方法。
【請求項4】
SIRT1阻害作用物質が、ニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinol、SIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNA、SIRT1に対するmiRNAからなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載のメラノーマ転移抑制方法。
【請求項5】
SIRT1阻害作用物質のメラノーマ転移抑制剤調製のための使用。
【請求項6】
SIRT1阻害作用物質が、ニコチンアミド、スプリトマイシン、sirtinol、SIRT1に対するsiRNA、SIRT1に対するアンチセンスRNA、SIRT1に対するmiRNAからなる群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
以下の工程を有することを特徴とするメラノーマ転移抑制剤のスクリーニング方法。
被検物質の存在下で、SIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性を測定する工程;
測定の結果得られたヒストンデアセチラーゼ活性の値を、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値と比較する工程;
被検物質の存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値が、被検物質の非存在下におけるSIRT1のヒストンデアセチラーゼ活性の値より低い場合に、その被検物質をメラノーマ転移抑制剤と評価する工程;

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−76998(P2012−76998A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18598(P2009−18598)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成二十年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業「さっぽろバイオクラスター構想”BIO−S”」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(307014555)北海道公立大学法人 札幌医科大学 (31)
【Fターム(参考)】