説明

メルカプトアセチルトリグリシン用のリガンド保護の改良

本発明は、式VIのメルカプトアセチルトリグリシンダイマー、還元剤および場合によりトランスファー・リガンドを含む溶液に放射性核種を添加し、かくして得られる溶液を加熱する段階を含む、放射性核種で標識されたメルカプトアセチルトリグリシンの製造方法に関する。本発明は、メルカプトアセチルトリグリシンダイマーおよびこの方法におけるその使用、この方法を実施するためのキット、およびこの方法から得られる製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、放射性核種で標識されたメルカプトアセチルトリグリシンの製造方法に関する。本発明はさらに、S−保護メルカプトアセチルトリグリシン化合物およびこの方法で使用するためのキット、および放射性標識化メルカプトアセチルトリグリシンを含む製剤に関する。
【0002】
Tc−99mで標識されたメルカプトアセチルトリグリシン(MAG3)は、診断用放射性医薬である。それは、適する還元剤およびトランスファー・リガンドと共に、ベチアチド(betiatide)(N−[N−[N−[(ベンゾイルチオ)アセチル]グリシル]グリシル]グリシン)を含む凍結乾燥粉末として供給される。滅菌ナトリウム過テクネチウム酸Tc−99mを用いる再構成の後、形成されるTc−99mメルチアチド(mertiatide)(ジナトリウム[N−[N−[N−(メルカプトアセチル)グリシル]グリシル]グリシナト−(2−)−N,N',N”,S']オキソテクネテート(2−))は、静脈内投与に適する。
【0003】
Tc−99mメルチアチドは、例えば、成人および小児の腎不全、尿路閉塞および結石などの先天性および後天性の腎臓異常の診断に使用するための、腎臓造影剤である。腎臓全体および腎皮質について、腎機能、部分機能(split function)、腎血管造影図およびレノグラム(renogram)曲線に関する情報を提供することは、診断の助けになる。それはさらに、移植後の腎臓の機能観察に使用され、そこでは反復して造影剤が投与される。
【0004】
わずかに酸性条件(pH5−6)での99mTc−メルカプトアセチルトリグリシン(MAG3)錯体の製造において、チオールはベンゾイル基により保護され、次いで、それは10分間の沸騰段階の間に除去され、金属中心への配位を可能にする。その潜在的毒性のために、最終的製剤に安息香酸がないことが、より好都合であり得る。
【0005】
従って、本発明の目的は、放射性核種で標識されたメルカプトアセチルトリグリシンの溶液の代替的製造方法を提供することである。
【0006】
本発明に至る研究の中で、メルカプトアセチルトリグリシン自体を「保護基」として使用できることが見出された。再構成すると、Tc−99mおよびMAG3−ダイマーの両方が同時に還元され、所望の生成物を与える。
【0007】
従って、本発明は、式VI
【化1】

のメルカプトアセチルトリグリシンダイマー、還元剤および場合によりトランスファー・リガンドを含む溶液に放射性核種を添加し、かくして得られる溶液を加熱する段階を含む、放射性核種で標識されたメルカプトアセチルトリグリシンの製造方法に関する。
【0008】
放射性標識化メルカプトアセチルトリグリシンが溶液中で得られる。好ましい実施態様では、メルカプトアセチルトリグリシンダイマー、還元剤および場合によりトランスファー・リガンドを含む溶液は、凍結乾燥物から再構成により得られる。
【0009】
本発明の方法で使用するための放射性核種は、メルチアチド錯体に結合できるいかなる放射性核種でもあり得、放射線診断または放射線治療の目的に適し、好ましくはテクネチウム−99mである。Tc−99mは診断適用に最も望ましい放射性標識であるので、テクネチウム−99mは好ましい放射性核種である。それは、低エネルギー(140KeV)放射を発し、それは、標準的放射線測定器具と組み合わせて使用するのに、良好に適する。加えて、それは高価ではなく、その半減期は約6時間しかなく、このことは、その崩壊におけるベータ粒子の放射の欠如と共に、非常に低いミリキュリー当たりの放射線量をもたらす。これらの特性のために、Tc−99mは核医薬におけるツールとして理想的である。テクネチウムは99mTc−過テクネチウム酸として適当に添加される。
【0010】
還元剤は、第一スズ塩、好ましく塩化第一スズ(II)である。他の例は、Fe(III)−、Sb(III)−、Mo(III)−およびW(III)−塩である。トランスファー・リガンドは、酒石酸ナトリウム、グリシン、クエン酸塩、マロン酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、ピロリン酸塩、グルコヘプトン酸塩から適切に選択される。これらのなかで、酒石酸塩が好ましい。
【0011】
Tc−99m錯体は、溶液を80−120℃、好ましくは100℃に、5−60分間、好ましくは約10分間加熱するときにのみ形成されることが判明した。
本発明の方法は、ベンゾイル保護基の使用を回避する。
【0012】
本発明はさらに、式VIのメルカプトアセチルトリグリシンのダイマーおよび本方法におけるその使用に関する。
【0013】
本発明はまた、式VIのメルカプトアセチルトリグリシンのダイマー、還元剤および場合によりトランスファー・リガンドを含む、放射性標識化メルカプトアセチルトリグリシン錯体を製造するためのキットを提供する。
【0014】
好ましい実施態様では、キットは、凍結乾燥形態で、
MAG3−ダイマー0.05mg
塩化第一スズ(II)、2aq、0.14mg
酒石酸二ナトリウム、2aq、17.2mg
を含む。
【0015】
本キットは凍結乾燥形態である。なぜなら、より良好な安定性および長い有効期間(shelf-life)が得られるからである。
【0016】
そのさらなる態様では、本発明は、本方法により得られる、放射性核種で標識されたメルカプトアセチルトリグリシンの製剤に関する。このメルカプトアセチルトリグリシンはベンゾイル保護基で保護されていないので、得られる製剤は、注射用製剤(injectable)として安息香酸を含有せず、同時に生理的に許容し得るpHで製剤化される(患者への注射に先立ち中和する必要がない)。
【0017】
本製剤は、通常の構成成分をさらに含んでもよい。例えば、適する還元剤が必要である。実際の製剤は、塩化スズを含有でき、一方、酒石酸二ナトリウムは、Tc(V)酸化状態の安定化剤として機能でき、同時に配位子を移動させる。得られる生成物は、同等かまたは高い放射線化学的純度および安定性を有し、同等かまたは長い有効期間を有する。
【0018】
本発明を以下の実施例で例示説明する。そこでは、以下の図を参照する:
図1は、MAG3ダイマー前駆体のH−NMRスペクトルを示す。
図2は、MAG3ダイマー前駆体の13C−NMRスペクトルを示す。
図3は、MAG3ダイマーの13C−NMRスペクトルを示す。
図4は、MAG3ダイマーのH−NMRスペクトルを示す。
図5は、MAG3ダイマーのHPLCプロフィールを示す。
図6は、MAG3ダイマーおよびそのモノマーを共注入することにより得られるHPLCクロマトグラムを示す。
図7は、(1)標識後の公定品(official product)である Technescan MAG3 について、そして(2)本ダイマーを有効成分として含有する標識化された「湿性」製剤について得られる、2つのHPLCクロマトグラムの例を示す。
【0019】
実施例
実施例1
メルカプトアセチルトリグリシン−ダイマー(MAG3)(VI)の合成および特徴分析
【化2】

【0020】
合成経路
1.活性化エステルVの合成および特徴分析
乾燥ジクロロ−メタン30ml中のジチオグリコール酸(I)2.0g(10.96mmol)の溶液を氷浴中で0℃に冷却する。N−ヒドロキシスクシンイミド(II)(2.78g、24.2mmol)および1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチル−カルボジイミド塩酸塩(EDCl.HCl、IV)4.64g(24.2mmol)を添加し、反応混合物を0℃、窒素下で30分間、後に室温で1時間撹拌する。溶媒を蒸発させ、固体残渣を水で3回洗浄する。活性化エステルを真空乾燥し、最初にカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離剤としてジクロロメタン中の10%メタノールを用いる)により、最後に酢酸エチルからの再結晶により、精製する。精製生成物(2g、5.4mmol)を、収率49%で得る。
【0021】
1212の元素分析:
【表1】

【0022】
図1は、H−NMRスペクトルを示す。対応する化学シフトは、以下の通りである:
1. 3.90 ppm (s, 4H, S-CH2)
2. 2.84 ppm (s, 8H, CH2)
3. 1.58 ppm, (s, CDCl3に含まれるH2O)
CDCl3, 7.24 ppm
【0023】
図2は、13C−NMRスペクトルを示す。対応する化学シフトは、以下の通りである:
1. 168.76; 165.10 ppm (CO)
2. 38.70; 25.58 ppm (CH2)
CDCl3, 77.0 ppm
【0024】
2.MAG3ダイマー((MAG3))の合成および特徴分析
【化3】

【0025】
THF10ml中の活性化エステル(V)200mg(0.53mmol)の溶液を、氷浴上で0℃に冷却する。水1ml中のトリグリシン(VI)(201mg、1.06mmol)の懸濁液および1N水酸化ナトリウム1mlを、上記の溶液にゆっくりと添加する。反応混合物を室温で2時間撹拌し、黄色の溶液を得、それを真空乾燥してTHFを除去する。残っている水性溶液を、沈殿が始まるまで、2N HClで酸性化する(∀3ml)。形成される沈殿を濾過により収集し、濾液のpHが5になるまで水で数回洗浄する。得られる白色固体を、真空乾燥し、最終生成物195mg(0.37mmol)を得る。収率は69%である。この段階は、水酸化ナトリウム(NaOH)の代わりに、トリエチルアミン(NEt)でも実施できる。そのときは、収率はやや低く、59%である。
【0026】
3.(MAG3)の精製
粗生成物を、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)の3.5%溶液6mlに溶解する。白色沈殿が出現するまで2N塩酸を添加する。固体を濾過し、濾液のpHが5になるまで水で数回洗浄する。生成物を終夜真空乾燥する。
【0027】
4.(MAG3)の特徴分析
4.1C162410の元素分析:
【表2】

【0028】
4.2エルマン試験
リン酸バッファー(0.1M、pH8)中のシステインの標準溶液から、較正曲線を作成した。サンプルをリン酸バッファー(0.1M、pH8)に溶解し、濃度2mMとした。412nmで吸光度を測定し、遊離チオール(SH)の濃度を較正曲線から算出した。
(MAG3)2の2つのバッチを、分光光度法により分析した。
【表3】

【0029】
4.3NMR分光法
4.3.113C−NMRスペクトル
図3は、13C−NMRスペクトルを示す。化学シフトは、以下の通りである:
C1, 171.16 ppm; C2, 169.14 ppm; C3, 169.01 ppm; C7, 168.38 ppm; C4, 42.36 ppm; C5, 41.88 ppm; C6, 41.76 ppm; C8, 40.60 ppm; DMSO, 39.5 ppm
【0030】
4.3.2H−NMR
図4は、H−NMRスペクトルを示す。化学シフトは、以下の通りである:
1. 12.53 ppm (1H, s, br, OH)
2. 8.31 ppm (1H, tr., JN-H, 6Hz, N-H); 8.19 ppm (1H, tr., JN-H, 6Hz, N-H); 8.12 ppm (1H, tr., JN-H, 6Hz, N-H)
3. 3.78 ppm (2H, d., JH-H, 6Hz, CH2); 3.74 ppm (4H, d., JH-H, 6Hz, 2CH2)
4. 3.56 ppm (2H, s, S-CH2)
DMSO, 2.49 ppm
【0031】
4.4HPLC分析
以下のパラメーターを使用した:
【表4】

結果を図5に示す。
【0032】
(MAG3)のジスルフィド結合の還元により得られる単量体であるメルカプトアセチルトリグリシンを、親化合物と共注入し、図6に示すクロマトグラムを得た。
【0033】
実施例2
製剤の実験
存在するMAG3キットに関してキット製剤の組成を変更しないために、塩化スズを還元剤として、酒石酸ナトリウムをトランスファー・リガンドとして使用した。99mTcO4−の存在下、10分間の沸騰段階の後、MAG3ダイマー0.5mg、酒石酸ナトリウム二水和物17.1mgおよびSn(II)Cl0.047mgを含有する製剤を、60ないし70%の99mTc−MAG3で得た。
【0034】
標準的な Technescan MAG3 製剤(参照)は、以下を含有する:
ベンゾイルメルカプトアセチルトリグリシン(ベンゾイルMAG3)1mg
塩化スズ(II)0.04mg
酒石酸二ナトリウム16.9mg
【0035】
本発明のMAG3−ダイマー製剤は、例えば、以下を含有する:
MAG3−ダイマー0.05mg
塩化スズ(II)0.14mg
酒石酸二ナトリウム17.2mg
【0036】
図7は、(1)標識後の局方品である Technescan MAG3 について、そして(2)本ダイマーを有効成分として含有する標識化された「湿性」製剤について得られる、2つのHPLCクロマトグラムの例を示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、MAG3ダイマー前駆体のH−NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は、MAG3ダイマー前駆体の13C−NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、MAG3ダイマーの13C−NMRスペクトルを示す。
【図4】図4は、MAG3ダイマーのH−NMRスペクトルを示す。
【図5】図5は、MAG3ダイマーのHPLCプロフィールを示す。
【図6】図6は、MAG3ダイマーおよびそのモノマーを共注入することにより得られるHPLCクロマトグラムを示す。
【図7】図7は、(1)標識後の局方品である Technescan MAG3 について、そして(2)本ダイマーを有効成分として含有する標識化された「湿性」製剤について得られる、2つのHPLCクロマトグラムの例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種で標識化されたメルカプトアセチルトリグリシンの製造方法であって、式VI
【化1】

のメルカプトアセチルトリグリシンダイマー、還元剤および場合によりトランスファー・リガンドを含む溶液に放射性核種を添加し、かくして得られる溶液を加熱する段階を含む、製造方法。
【請求項2】
メルカプトアセチルトリグリシンダイマー、還元剤および場合によりトランスファー・リガンドを含む溶液が、凍結乾燥物からの再構成により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
放射性核種がテクネチウム−99mである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
テクネチウムが99mTc−過テクネチウム酸として添加される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
還元剤が、第一スズ塩、好ましくは塩化第一スズから選択される、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
トランスファー・リガンドが、酒石酸ナトリウム、グリシン、クエン酸塩、マロン酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、ピロリン酸塩、グルコヘプトン酸塩から選択される、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
溶液を80−120℃、好ましくは100℃に加熱する、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
溶液を5−60分間、好ましくは約10分間加熱する、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の方法において使用するための、式VIのメルカプトアセチルトリグリシンのダイマー。
【請求項10】
式VIのメルカプトアセチルトリグリシンのダイマー、還元剤および場合によりトランスファー・リガンドを含む、放射性標識化メルカプトアセチルトリグリシン錯体を製造するためのキット。
【請求項11】
還元剤が、スズ塩、好ましくは塩化スズである、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
トランスファー・リガンドが、酒石酸ナトリウム、グリシン、クエン酸塩、マロン酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、ピロリン酸塩、グルコヘプトン酸塩から選択される、請求項10または請求項11に記載のキット。
【請求項13】
0.01−0.10mg、好ましくは0.05mgのMAG3−ダイマー
0.05−0.25mg、好ましくは0.14mgの塩化スズ(II)
10−20mg、好ましくは17.2mgの酒石酸二ナトリウム
を含む、請求項11または請求項12に記載のキット。
【請求項14】
凍結乾燥形態である、請求項10ないし請求項13のいずれかに記載のキット。
【請求項15】
放射性核種で標識され、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の方法により得ることができる、メルカプトアセチルトリグリシンの製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−537152(P2007−537152A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553253(P2006−553253)
【出願日】平成17年2月11日(2005.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/004349
【国際公開番号】WO2005/079864
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(595181003)マリンクロッド・インコーポレイテッド (203)
【氏名又は名称原語表記】Mallinckrodt INC.
【Fターム(参考)】