説明

メルカプト基含有物質検知装置及び方法

【課題】メチルメルカプタン、硫化水素等のメルカプト基含有物質に対して高い識別性を有し且つ高感度で検知することのできるメルカプト基含有物質検知装置を提供する。
【解決手段】マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合され、メルカプト基含有物質と反応することにより蛍光収率が増大する蛍光物質と、メルカプト基含有物質とを反応させる反応部と、
蛍光物質とメルカプト基含有物質との反応生成物に励起光を照射する光源と、
反応生成物が発する蛍光を受光し、その蛍光光度に応じた電気信号を出力する蛍光検出部と
を備えることを特徴とするメルカプト基含有物質検知装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メルカプト基含有物質を検知する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレやキッチン等の悪臭成分は、メチルメルカプタン(CH−SH)、硫化水素(H−SH)等のメルカプト基(SH基)を有する物質であり、快適な住環境を維持するには、これら物質のガス濃度が数ppb〜数ppmの範囲で検知できる装置が必要とされている。
そこで、硫化水素やメルカプタン類を検知する検知装置として、酸化物半導体を感応層として用いるものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、オキシン金属錯体やポルフィリン金属錯体を蛍光物質として用いる検知装置も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
一方、チオール基を有する物質を蛍光標識する化合物として、2−ピリジルアミノエチルマレイミド塩酸塩等が知られており、この化合物はチオール基と結合することにより蛍光を発するという性質を有している(例えば、特許文献3を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−245726号公報
【特許文献2】特開平4−335141号公報
【特許文献3】特開平6−122679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される酸化物半導体を用いた従来の検知装置では、感度が低いため、人間の嗅覚のメルカプト基含有物質に対する限界濃度、例えば、メチルメルカプタンの濃度として0.7ppb程度を検知できず、また、酸化物半導体が芳香族揮発性有機化合物とも反応してしまうため、識別性が低いという課題がある。
特許文献2に記載される従来の検知装置では、悪臭物質濃度が高くなるほど蛍光光度が減少するので、感度が十分に得られないという課題がある。
特許文献3には、2−ピリジルアミノエチルマレイミド塩酸塩等を検知装置に応用することは何ら記載されていない。
従って、発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、メチルメルカプタン、硫化水素等のメルカプト基含有物質に対して高い識別性を有し且つ高感度で検知することのできるメルカプト基含有物質検知装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係るメルカプト基含有物質検知装置は、マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合されメルカプト基含有物質と反応することにより蛍光収率が増大する蛍光物質とメルカプト基含有物質とを反応させる反応部と、蛍光物質とメルカプト基含有物質との反応生成物に励起光を照射する光源と、反応生成物が発する蛍光を受光し、その蛍光光度に応じた電気信号を出力する蛍光検出部とを備えたものである。
また、この発明に係るメルカプト基含有物質検知方法は、マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合され、メルカプト基含有物質と反応することにより蛍光収率が増大する蛍光物質とメルカプト基含有物質とを反応させ、その反応生成物を励起したときの蛍光光度を測定し、測定された蛍光光度に基づいてメルカプト基含有物質の濃度を求めるものである。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、メチルメルカプタン、硫化水素等のメルカプト基含有物質に対して高い識別性を有し且つ高感度で検知することのできるメルカプト基含有物質検知装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるメルカプト基含有物質検知装置の構成を説明するための図である。図1において、実施の形態1に係るメルカプト基含有物質検知装置は、マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合され、メルカプト基含有物質と反応することにより蛍光収率が増大する蛍光物質を含む蛍光膜からなる反応部1と、蛍光膜に対して励起光を照射できるように配置された光源2と、蛍光物質とメルカプト基含有物質との反応生成物が発する蛍光を受光し、その蛍光光度に応じた電気信号を出力する蛍光検出部3と、反応部1と蛍光検出部3との間に配置され、光源2からの励起光L1を吸収または反射して透過させず且つ反応生成物が発する蛍光L2を選択的に透過させる光学フィルタ4と、蛍光検出部3から出力された電気信号に基づいてメルカプト基含有物質の濃度を算出する演算部5とを備えている。反応部1は、アルミ板、ガラス板等の基板6上に形成されている。また、反応部1は、光源2からの励起光L1及び反応生成物が発する蛍光L2を透過可能な反応セル9内に配置されており、この反応セル9には、サンプルガスを導入するためのサンプルガス導入管7とサンプルガスを排出するためサンプルガス排出管8とが接続されている。さらに、蛍光検出部3は、受光素子10と光検出回路基板11とから構成されており、この光検出回路基板11は信号線を介して演算部5に接続されている。ここで用いる蛍光物質の蛍光機能団としては、ポルフィリン骨格、ピレン骨格またはクマリン骨格を有することが好ましく、ポルフィリン骨格が更に好ましい。
【0008】
次に、上記のように構成されたメルカプト基含有物質検知装置のメルカプト基含有物質の検知方法について説明する。まず、サンプルガスが、サンプルガス導入管7を介して反応セル9に導入される。サンプルガス中にメチルメルカプタン等のメルカプト基含有物質が含まれる場合には、メルカプト基含有物質と蛍光物質とが反応し、その反応生成物は光源2から照射される励起光L1により励起されて蛍光L2を発するようになる。ここで発せられた蛍光L2は、光学フィルタ4を透過して受光素子10へ入射し、受光素子10が、蛍光光度に応じた電気信号(電圧又は電流)を出力する。光源2としては、マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合された蛍光物質を十分に励起させることが可能であればよく、紫外光または可視光が好ましく、コストを低減する観点から400〜450nmの波長範囲の可視光が更に好ましい。
例えば、マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合された蛍光物質として、下記式(1):
【0009】
【化1】

で表される化合物(ポルフィリン骨格を有する化合物)を用いる場合、中心波長430nmの青色光を照射できる青色発光ダイオードを光源2として用いることで、反応生成物(メルカプトマレイミドポルフィリン)が約620nmにピークを有する赤色の蛍光を発するようになる。この蛍光の波長は、代表的な受光素子であるフォトダイオードの最も感度の高い領域であるため、低コストで高感度の検出が可能となる。
【0010】
次に、受光素子10から出力された電気信号は、光検出回路基板11に送られ、ここで増幅された後、演算部5に送られる。演算部5では、送られてきた電気信号に基づいて、サンプルガス中のメルカプト基含有物質の濃度が算出される。ここでのメルカプト基含有物質の濃度の算出方法としては、例えば、蛍光光度とサンプルガス中のメルカプト基含有物質の濃度との間に相関があることを利用して、メルカプト基含有物質の濃度と電圧又は電流との関係を示す検量線を予め作成しておき、送られてきた電気信号と検量線とを比較して求める方法等が挙げられる。このような算出方法を採用する場合、演算部5は、送られてきた電気信号を記憶する機能、検量線と比較する機能等を有していることが望ましい。
一方、励起光L1の一部は、蛍光膜や反応セル9によって反射または散乱され、反射・散乱光L3となって受光素子10に向かうが、光学フィルタ4により遮光(カット)されて受光素子10には殆ど入射されない。受光素子10は、一般的に波長依存性はあるものの光が入射すれば電気信号を出力してしまうため、本実施の形態のように反射・散乱光L3の光路に光学フィルタ4を配置することで、励起光の影響を抑えて蛍光の強弱を感度良く検出することが可能となる。上記したような式(1)蛍光物質及び青色発光ダイオードを用いる構成の場合、光学フィルタ4として青色カットフィルタ(例えば、赤色光のみを透過するバンドパスフィルタや青色光のみを遮光するローパスフィルタ等)を、蛍光膜と受光素子10との間であって、光源2から蛍光膜に照射される励起光L1をなるべく遮光しない位置に配置すればよい。なお、上記したフィルタは、色素を用いたり蒸着積層膜を用いたりすることにより実現されている。なお、発光ダイオードの種類によっては、1000nm程度の近赤外線を出すものもあるので、そのような発光ダイオードを光源2として用いる場合には、赤外線カットフィルタや近赤外線カットフィルタを、青色光カットフィルタに積層させるか、あるいは光源2と蛍光膜との間に適宜配置することが望ましい。
【0011】
このように本実施の形態1によれば、特定の蛍光物質とメルカプト基含有物質との反応生成物を励起したときの蛍光光度からメルカプト基含有物質の濃度を算出しているので、メルカプト基含有物質以外の物質の影響を殆ど受けずに高い感度でメルカプト基含有物質を検知することができる。
このようなメルカプト基含有物質検知装置は、冷蔵庫、冷暗室等の食料貯蔵における腐敗モニター、室内外の悪臭モニター、あるいはメルカプト基含有物質で着臭されたガスの漏れ検知器として好適に用いることができ、更には、悪臭発生時にのみ運転するといった空気清浄装置や換気装置の運転制御に適用することもできる。
【0012】
実施の形態2.
図2は、本発明の実施の形態2によるメルカプト基含有物質検知装置の構成を説明するための図である。図2において、実施の形態2に係るメルカプト基含有物質検知装置では、受光素子10の受光面上に光学フィルタ4及び蛍光膜からなる反応部1がこの順に積層されて、反応部1、光学フィルタ4及び蛍光検出部3が一体化されている。そのため、反応生成物から発せられる蛍光が受光素子10に効率よく入射される。また、これら受光素子10、光学フィルタ4及び蛍光膜のうち、蛍光膜のみが反応セル9内に配置されている。そして、光源2は、蛍光膜に対して励起光を照射できるように、蛍光膜が光学フィルタ4と接する面の反対側に配置されている。なお、より高い感度を得る観点から、受光素子の受光面と光学フィルタ4と蛍光膜とは平行に密着積層されていることが好ましい構成である。その他の構成および検知方法については実施の形態1に係るメルカプト基含有物質検知装置と同じ構成であるので、本実施の形態では、図1と同一部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0013】
反応生成物が発する蛍光はあらゆる方向に発せられるため、受光素子の受光面と蛍光膜との間の距離が大きくなるほど受光素子に入射する蛍光光度は低下するが、実施の形態2のように受光素子の受光面上に光学フィルタ及び蛍光膜を順次積層することにより、反応生成物から発せられる蛍光が受光素子に効率よく入射されるので、極めて高い感度でメルカプト基含有物質を検知することができる。
なお、実施の形態2では、蛍光膜を反応セル9内に配置したが、図3に示すように、サンプルガスが蛍光物質と接触できるように反応セル9の底面に穴12を適宜設け、この底面にOリング13等を介して蛍光膜が密着するように配置してもよい。このように蛍光膜を反応セル9外に配置することで、蛍光膜の交換を容易にすることができる。
【0014】
実施の形態3.
実施の形態3に係るメルカプト基含有物質検知装置では、反応セル内に、蛍光物質を難揮発性有機溶媒に溶解または懸濁してなる蛍光物質溶液が支持体に保持された蛍光物質溶液保持部からなる反応部が、図1における基板6およびその上に形成された反応部1の代わりに配置されている。ここで用いられる難揮発性有機溶媒とは、蛍光物質を溶解または懸濁させることができ、殆ど揮発しないものであればよく、例えば、ジメチルスルホキシドが挙げられる。蛍光物質は、蛍光光度をより増大させる観点から飽和濃度に近くなるように難揮発性有機溶媒に溶解または懸濁させることが望ましい。また、蛍光物質溶液を保持するための支持体としては、セルロース、アセチルセルロース、ガラス繊維などの繊維からなるろ紙や不織布、ガラス塗布シリカ基板(通常薄層クロマトフラフィーに用いられるもの)、アルミ板やガラス板に電気分解やフッ酸溶解により微小孔を生じさせたもの等が挙げられ、これらの支持体に蛍光物質溶液を滴下したり、塗布したり、あるいは含浸させることにより蛍光物質溶液保持部を形成すればよい。蛍光物質溶液保持部は、枠に入れて固定してもよいし、あるいはアルミ板、ガラス板等の基板に接着してもよい。その他の構成および検知方法については実施の形態1に係るメルカプト基含有物質検知装置と同じ構成であるので、本実施の形態では説明を省略する。
【0015】
本実施の形態3によれば、蛍光物質が難揮発性有機溶媒中でフリーの状態になっているため、メルカプト基含有物質との搬送速度や蛍光収率を増大させることができ、より高い感度でメルカプト基含有物質を検知することができる。
【実施例】
【0016】
本発明の効果を実験により確認したので、以下にその内容を具体的に説明する。
<実施例1>
[蛍光物質(マレイミドポルフィリン)の合成]
5,10,15,20−テトラキス−(4−アミノフェニル)−21H,23H−ポルフィン(東京化成工業株式会社製) 100mg(0.148mmol)及び無水マレイン酸(東京化成工業株式会社製) 145mg(1.48mmol)をジクロロメタン(関東化学株式会社製) 500mlに加え、24時間還流を行った。放冷後、沈殿を吸引濾過により回収した。さらに、真空下で乾燥して中間体を得た。
得られた中間体 20mg(0.02mmol)及び塩化亜鉛(関東化学株式会社製) 50mg(0.38mmol)を、ベンゼン(関東化学株式会社製) 27mlとN,N−ジメチルホルムアミド(関東化学株式会社製) 3mlとの混合溶液に加え、懸濁溶液を調製した。この溶液に1,1,1,3,3,3,−ヘキサメチルジシラザン(東京化成工業株式会社製) 400μl(1.89mmol)を加えると、溶液は透明になった。10時間還流を行った。放冷後、沈殿物を吸引濾過により除去し、濾液中のベンゼンを減圧下で留去した。残りのN,N−ジメチルホルムアミド溶液を冷水に注ぎ、冷却した。生じた沈殿を吸引濾過により回収した。さらに、真空下で乾燥し、目的物質であるマレイミドポルフィリンを得た。この反応スキームを図4に示す。また、マレイミドフェニルポルフィリンのH−NMR(300MHz)スペクトルを図5に示す。なお、NMR用重水素化溶媒は、MERK社から購入したジメチルスルホキシドを使用した。目的物質が得られていることが確認された。なお、上記合成では溶媒としてジクロロメタンを用いたが、酢酸あるいはクロロホルムを用いても合成することができた。ただし、収率の観点から、ジクロロメタンを用いることが好ましい。
【0017】
[蛍光膜(マレイミドポルフィリン膜)の作製]
メルカプト基含有物質検知装置で用いる蛍光膜は以下のように作製した。アセトニトリルにポリスチレンを加えた後、ゆっくり撹拌してポリスチレン溶液を調製した。このポリスチレン溶液に、上記で合成したマレイミドポルフィリンのエタノール溶液を加え、ゆっくり撹拌した。このとき空気が入らないようにした。これをスライドガラス上に塗布した後、自然に乾燥させて、マレイミドポルフィリンからなる蛍光膜を得た。
【0018】
[サンプルガスの調製]
サンプルガスは以下のように調製した。メルカプト基含有物質であるメルカプトエタノール(分子量78、比重1.114)をエタノールに体積比で0.1%になるように溶解させ、メルカプトエタノール溶液を調製した。次いで、フッ素樹脂製臭い捕集袋(10L)に、1μLのメルカプトエタノール溶液をマイクロシリンジで滴下した後、無臭エアを用いて約9Lに膨らませた。メルカプトエタノール溶液が全て揮発するのを待ち、無臭エアを加えて全体を10Lにした。温度は25℃とした。モル数=圧力×体積/(気体定数×絶対温度)であるので、ニオイ捕集袋中の気体の全モル数は、1×10/(0.0821×(273.15+25)=0.41モルである。一方、メルカプトエタノールのモル数は、0.001×0.001×1.114/78=1.4×10−8モルである。よって、このサンプルガス中のメルカプトエタノール濃度は、1.4×10−8/0.41×10=35ppbである。エアポンプにより、このサンプルガスと無臭エアとを適宜混合して、0、1、2、5、10、20及び35ppbの7つのサンプルガスを得た。
【0019】
[メルカプト基含有物質検知装置を用いたメルカプト基含有物質の検知実験]
図1に示したものと同じ構成のメルカプト基含有物質検知装置(光源:中心波長430nmの青色光を照射できる青色発光ダイオード)を用いて、上記で調製したサンプルガスの検知を行った。このときのメルカプトエタノール濃度と応答量(電圧)との関係を図6に示す。メルカプトエタノール濃度が0のときにも応答しているが、これは、光学フィルタを透過した励起光によるもの及び未反応のマレイミドポルフィリンからの蛍光と考えられる。前者の原因は、光学フィルタが青色光を完全には遮断しなかったこと及び光源が微量ながらも青色よりも波長の長い光を出しているためである。後者の原因は、マレイミド基によるポルフィリンの蛍光消光が不完全なためである。しかしながら、非常に希薄なメルカプトエタノールに対して、濃度と応答量との間に直線関係が得られた。すなわち、本発明によるメルカプト基含有物質検知装置を用いることにより、サンプルガス中のメルカプト基含有物質濃度を高感度に検出することができた。エタノールに対しては全く応答しなかった。
【0020】
なお、本実施例では、メルカプト基含有物質としてメルカプトエタノールを用いたが、4大生活悪臭物質の一つといわれる硫化水素(これはメルカプト基に水素が付加したもの)を用いても蛍光光度が増加したことから、硫化水素の検出も可能である。硫化水素としては、硫化鉄(II)100mgに希塩酸を加え、発生した硫化水素を水上置換により捕集したものを使用した。
【0021】
また、メチルメルカプタン(これはメルカプト基にメチル基が付加したもの)や他の物質でも同様の効果が得られると推定される。実際、腐敗した食品(生サンマ、焼きサンマ、生キャベツ、焼きキャベツ、生キュウリ、生牛肉、焼き牛肉、ご飯等)と同一の容器に入れても蛍光を発した。これらの腐敗した食品から、メチルメルカプタンや硫化水素が発生していたと考えられる。
【0022】
また、本実施例で用いたマレイミドポルフィリンは、ポルフィリン中心金属として亜鉛を含むが、硫酸等でマレイミドポルフィリンを処理して亜鉛を除去したマレイミドポルフィリンを用いると、蛍光光度が増大し感度が向上する効果があると推定される。ただし、亜鉛を除去したマレイミドポルフィリンは分解される確率も増加するため安定性が悪くなると推定される。
【0023】
また、本実施例では、マレイミド基が3個導入されたマレイミドポルフィリンについて示したが、1、2又は4個の場合にも同様の効果が得られるものと確信している。また、マレイミド基が1個のフェニル基を介してポルフィリン骨格に結合されている化合物を示したが、2個又は3個のフェニル基を介して結合されている化合物、あるいはマレイミド基がポルフィリン骨格に直接結合されている化合物の場合にも同様の効果が得られるものと確信している。また、本実施例では、マレイミド基は、ポルフィリン骨格に結合したフェニル基のパラ位に付加されている。この場合、上述したように未反応のマレイミドポルフィリンも蛍光を僅かに発するが、フェニル基のメタ位またはオルト位に付加することにより、未反応マレイミドポルフィリンの蛍光光度を低下させることができた。さらには、フェニル基の代わりに、メチレン基(−CH−)が1個〜4個程度連なったものや、他の機能原子団の場合にも同様の効果が得られるものと確信している。
【0024】
また、本実施例では、蛍光物質として、マレイミドポルフィリンを用いたが、マレイミドピレンやマレイミドクマリンを用いても同様の効果が得られることを確認している。例えば、マレイミドクマリンとしての7−ジメチルアミノ−3−(4’−マレイミドジルフェニル)−4−メチルクマリンをジメチルスルホキシドに溶解させて蛍光物質溶液とした。高純度ろ紙またはガラス塗布シリカ基板に蛍光物質溶液を滴下し、蛍光物質溶液保持部を作製した。図1に示したメルカプト基含有物質検知装置の反応部および基板の代わりに、蛍光物質溶液保持部を反応セル内に配置した。このメルカプト基含有物質検知装置(光源:380〜420nmの波長範囲の光を照射できる発光ダイオード)を用いて、マレイミドポルフィリンの場合と同様にサンプルガスの検知を行ったところ、440〜500nmの青色の蛍光が検出された。光源を360〜380nmの波長範囲の光を照射できる発光ダイオードに変えても、上記と同様に青色の蛍光が検出された。また、サンプルガスを導入する代わりに、腐敗食品と同一の容器に入れても蛍光が検出された。ところが、蛍光物質溶液を乾燥させて同様の操作を行うと、青色の蛍光の検出感度が低下した。これは、蛍光物質が、難揮発性有機溶液中でフリーの状態になっていることが、メルカプト基含有物質との搬送速度増加や蛍光収率増加に寄与しているためと推定される。マレイミドクマリンは、マレイミドポルフィリンの場合と異なり、励起光源として紫外光を用いる必要があるので、コストが高くなる。
なお、マレイミドピレンの場合には、励起波長は340nm程度の紫外線になるため、光源として発光ダイオードを用いることはできない。そのために、紫外線ランプを用いる必要があるが、将来、この波長の紫外線を発する発光ダイオードが開発されると当然これを使用できる。光学フィルタは、蛍光物質から発せられる蛍光を透過するものを用いる必要がある。
なお、その他の蛍光機能団であっても、マレイミド基を導入することによって、同様の効果が期待できる。
【0025】
また、本実施例では、マレイミドポルフィリンのエタノール溶液をスライドガラス上に塗布、乾燥して得られるマレイミドポルフィリン膜を用いたが、以下の(1)及び(2)に示す方法により作製したマレイミドポルフィリン膜でも同様の結果が得られた。
(1)シリカゲルを塗布したガラス基板に、マレイミドポルフィリンのエタノール溶液を滴下し、乾燥させてマレイミドポルフィリンからなる蛍光膜を得る。
(2)純アルミニウム基板と白金基板とを硫酸水溶液に浸漬し、直流電源により、アルミニウム基板を正電位に、白金基板に負電位を印加する。すると、アルミニウム基板は次第に曇りが出てくる。この状態になったところで蒸留水により洗浄し乾燥する。これに、マレイミドポルフィリンのエタノール溶液を滴下し、乾燥させてマレイミドポルフィリン膜を得る。
【0026】
<実施例2>
図3に示したものと同じ構成のメルカプト基含有物質検知装置を用いて、実施例1と同様の実験を行った。このときの応答量(電圧)は、実施例1の場合に比べて10倍以上大きくなった。ただし、メルカプトエタノールを含まない場合の応答量も4倍以上になった。これは光学フィルタが完全に光源からの励起光を除去できていないからである。しかしながら、いわゆるSN比として、2.5倍向上した。このように、光学フィルタは、光源からの励起光を完全に遮光する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1によるメルカプト基含有物質検知装置の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態2によるメルカプト基含有物質検知装置の構成を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態2によるメルカプト基含有物質検知装置の変形例を説明するための図である。
【図4】実施例1で用いるマレイミドポルフィリンの合成スキームである。
【図5】実施例1で用いるマレイミドポルフィリンのNMRスペクトルである。
【図6】実施例1におけるメルカプトエタノールの濃度と電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 反応部、2 光源、3 蛍光検出部、4 光学フィルタ、5 演算部、6 基板、7 サンプルガス導入管、8 サンプルガス排出管、9 反応セル、10 受光素子、11 光検出回路基板、12 穴、13 Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合され、メルカプト基含有物質と反応することにより蛍光収率が増大する蛍光物質と、メルカプト基含有物質とを反応させる反応部と、
蛍光物質とメルカプト基含有物質との反応生成物に励起光を照射する光源と、
反応生成物が発する蛍光を受光し、その蛍光光度に応じた電気信号を出力する蛍光検出部と
を備えることを特徴とするメルカプト基含有物質検知装置。
【請求項2】
前記蛍光機能団がポルフィリン骨格を有することを特徴とする請求項1に記載のメルカプト基含有物質検知装置。
【請求項3】
前記反応部は、前記蛍光物質を難揮発性有機溶媒に溶解または懸濁してなる蛍光物質溶液が支持体に保持された蛍光物質溶液保持部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のメルカプト基含有物質検知装置。
【請求項4】
前記反応部と前記蛍光検出部との間に配置され、反応生成物が発する蛍光を選択的に透過させる光学フィルタを更に備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のメルカプト基含有物質検知装置。
【請求項5】
前記反応部、前記光学フィルタ及び蛍光検出部がこの順に積層されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のメルカプト基含有物質検知装置。
【請求項6】
前記蛍光物質が、下記式:
【化1】

で表されることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のメルカプト基含有物質検知装置。
【請求項7】
マレイミド基が直接または他の機能原子団を介して蛍光機能団に結合され、メルカプト基含有物質と反応することにより蛍光収率が増大する蛍光物質と、メルカプト基含有物質とを反応させ、その反応生成物を励起したときの蛍光光度を測定し、測定された蛍光光度に基づいてメルカプト基含有物質の濃度を求めることを特徴とするメルカプト基含有物質を検知する方法。
【請求項8】
前記蛍光機能団がポルフィリン骨格を有することを特徴とする請求項7に記載のメルカプト基含有物質を検知する方法。
【請求項9】
前記蛍光物質が、下記式:
【化2】

で表されることを特徴とする請求項7又は8に記載のメルカプト基含有物質を検知する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−116240(P2008−116240A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297635(P2006−297635)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】