説明

メルカプト基含有重合体

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、特に耐水・耐湿性の要求される接着剤、塗料、架橋剤、シーラントとして有用なメルカプト基含有重合体に関する。
〔従来の技術〕
ポリエンとポリチオールが活性光線の照射により重合体を形成することはよく知られており〔ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエテイ(J.Am.Chem.Soc.)第70巻、第993頁(1948年)〕、ポリエンの炭素−炭素不飽和二重結合とポリチオールのメルカプト基の化学当量を変えたり、ポリエンとポリチオールの官能基数を変えることによつて、エラストマー状から樹脂状まで種々の硬化物が得られる。
〔発明が解決しようとする問題点〕
上記のポリチオールとして用いられているものは、特公昭47-3269号公報に開示されているチオグリコール酸やチオプロピオン酸の多価アルコールエステルがほとんどである。しかし、これらの物質は低分子であるため、粘度が非常に低く、厚みが必要となる部分では、シーラント、架橋剤、接着剤、塗料等として用いることはできない。また、分子内にエステル結合をもつため、多湿下で容易に加水分解を受けるという欠点を有している。粘度を高くする方法としては特公昭57-1535号公報に開示されているように、ポリチオールとポリエポキシドをポリチオール過剰で反応させる方法があるが、この報告の中でも上記のエステル基含有ポリチオールが用いられているため加水分解の問題は解決されていない。
本発明の目的は、優れた耐水、耐湿性を有し、かつ粘度調節の容易なメルカプト基含有重合体を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明を概説すれば、本発明はメルカプト基含有重合体に関する発明であつて、下記一般式I:

(式中t、w及びxは1〜5の整数、nは零又は1の数、Aは酸素又は硫黄、Rはエステル結合をもたない2価又は3価の残基を示す)で表される繰返し単位を有し、末端が−SH基であり、かつ分子量が350〜50万であることを特徴とする。
上記のメルカプト基含有重合体は、一般式II:

(但し、Rは式Iと同義であり、mは2又は3の整数を示す)で表されるエステル結合をもたないポリエポキシドのエポキシ基に、一般式III:HS■CtH2t−A■wCxH2x−SH ……〔III〕 (但し、t、w、x、Aは前記式Iに同じ)で表されるポリチオールのメルカプト基を反応させることによつて得ることができる。
この反応は、逐次反応で進行する場合もある。
本発明のメルカプト基含有重合体の代表的な例としては、下記各式で表されるものが挙げられる。






(但し、uは1〜950の整数)




上記の一般式IIで表されるポリエポキシドとしては、ビスフエノールA型エポキシド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジプロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ビスフエノールS型エポキシド、ジシクロペンタジエン・フエノリツクポリマーエポキシ樹脂、ビスフエノールF型エポキシド、臭素化ビスフエノールF型エポキシド、水添ビスフエノールA型エポキシド、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
また、上記の一般式IIIで表されるポリチオールとしては、ジグリコールジメルカプタン、トリグリコールジメルカプタン、テトラグリコールジメルカプタン、チオジグリコールジメルカプタン、チオトリグリコールジメルカプタン、チオテトラグリコールジメルカプタンなどが挙げられるが、これらの多価チオールに限定されるものではない。また、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。特に好ましいものは25℃における粘度が1〜10,000cpsのものである。
上記のポリエポキシドとポリチオールによるメルカプト基含有重合体の合成は、温度0℃以上で両者を混合、かくはんすることによつて行われる。また、必要に応じて、触媒を使用することも可能であり、その例には「熱硬化性樹脂」第2巻、第140頁(1981年)等に挙げられているような第三アミンや第三ホスフイン等がある。メルカプト基とエポキシ基のモル比は、メルカプト基/エポキシ基が1.1〜100が好ましい。特に好ましくは1.4〜20である。モル比が1.1未満では、ゲル化及びメルカプト基の消失が起こる。モル比が100を越えるとエポキシドによる改質が認められない。また、モル比を変えることによつてこのメルカプト基含有重合体の粘度は、非常に幅広くかつ自由に調整できる。なお、この反応は、メルカプト基を過剰にしているため、生成物は、i)未反応のポリチオール ii)ポリエポキシド1分子がポリチオールと反応したもの iii)両末端のポリチオール反応残基の間にポリエポキシド−ポリチオール反応体を繰返し単位としてもつもの、の混合物の状態で得られる場合がほとんどである。したがつて、これらの中から単一の化合物を得たい場合には、カラム等で分取する必要がある。また、このメルカプト基含有重合体は、エステル結合を分子内にもたないため、加水分解を受けず、特に、耐水・耐湿性の要求される接着剤、塗料、架橋剤、シーラントとして利用することができる。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例1 3lのガラス製反応器にトリグリコールジメルカプタン947g、ビスフエノールA型エポキシド553g(−SH/エポキシ=3.3)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フエノール1.2gを入れ、温度150℃に加熱し、かくはんしながら8時間反応させた。生成物のテトラヒドロフラン溶液をGPC(ゲルパーミエーシヨンクロマトグラフイー)によつて分析すると、分子量180程度(トリグリコールジメルカプタン)から13000の間に分布し、重量平均分子量()は2500、数平均分子量()は1200を示した。DSC(示差走査熱量分析)によりこの生成物のガラス転移温度を測定したところ、−71℃であつた。また、粘度は25℃において1300cps、メルカプト基の濃度は4.3mmol/gであつた。第1図に、赤外線吸収(IR)スペクトルを示した。すなわち第1図は本実施例1による重合体のIRスペクトルを波数(cm-1、横軸)と透過率(%、縦軸)との関係で示すグラフである。
このメルカプト基含有重合体を温度70℃、湿度80%の条件で30日間放置し、耐湿性について検討したが何の変化も観察されなかつた。
実施例2 トリグリコールジメルカプタン760g、ビスフエノールA型エポキシド740g(−SH/エポキシ=2.0)を用いた以外、実施例1と同様に反応させた。生成物のは4500、は1900、ガラス転移温度は−48℃、粘度は46000cps、メルカプト基濃度は2.4mmol/gであつた。また、IRスペクトルは実施例1と同様の吸収を示した。耐湿性についても実施例1と同様の結果が得られた。
実施例3 トリグリコールジメルカプタン635g、ビスフエノールA型エポキシド865g(−SH/エポキシ=1.4)を用いた以外実施例1と同様に反応させた。生成物のは7300、は2900、ガラス転移温度は−26℃、粘度は210万cps、メルカプト基濃度は1.2mmol/gであつた。また、IRスペクトルは実施例1と同様の吸収を示した。耐湿性についても実施例1と同様の結果が得られた。
実施例4 トリグリコールジメルカプタン1129g、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート371g(−SH/エポキシ=3.3)を用い、120℃で8時間反応させた。生成物のは1300、は750、粘度は900cps、メルカプト基濃度は5.6mmol/gであつた。第2図にIRスペクトルを示した。すなわち、第2図は本実施例4による重合体のIRスペクトルを波数(cm-1、横軸)と透過率(%、縦軸)との関係で示すグラフである。また、耐湿性については、実施例1と同様な方法で検討したが、何の変化も観察されなかつた。
実施例5 トリグリコールジメルカプタン969g、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート531g(−SH/エポキシ=2.0)を用いた以外、実施例4と同様に行つた。生成物のは1500、は860、粘度は20万cps、メルカプト基濃度は3.6mmol/gであつた。また、IRスペクトルは実施例4と同様の吸収を示した。耐湿性についても、実施例4と同様の結果が得られた。
実施例6 チオジグリコールジメルカプタン883g、ビスフエノールF型エポキシド617g(−SH/エポキシ=3.3)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フエノール1.2gを3lのガラス製反応器に入れ、温度140℃に加熱し、窒素雰囲気下でかくはんしながら10時間反応させた。生成物のは3100、は1400、ガラス転移温度は−73.7℃、粘度は2400cps、メルカプト基濃度は4.8mmol/gであつた。第3図にIRスペクトルを示した。すなわち第3図は本実施例6による重合体のIRスペクトルを波数(cm-1、横軸)と透過率(%、縦軸)との関係で示すグラフである。
実施例7 チオジグリコールジメルカプタン971g、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル529g(−SH/エポキシ=3.3)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フエノール1.2gを3lのガラス製反応器に入れ、温度140℃に加熱し窒素雰囲気下でかくはんしながら12時間反応させた。生成物のガラス転移温度は−89.5℃、粘度は200cps、メルカプト基濃度は5.3mmol/gであつた。第4図にIRスペクトルを示した。すなわち第4図は本実施例7による重合体のIRスペクトルを波数(cm-1、横軸)と透過率(%、縦軸)との関係で示すグラフである。
比較例1 トリグリコールジメルカプタン135g、ビスフエノールA型エポキシド1365g(−SH/エポキシ=0.2)を用いた以外、実施例1と同様に行つた。この生成物においてメルカプト基の存在は認められなかつた。
比較例2 トリグリコールジメルカプタン1485g、ビスフエノールA型エポキシド15g(−SH/エポキシ=200)を用いた以外、実施例1と同様に行つた。この生成物のメルカプト基濃度は、11mmol/gで、トリグリコールジメルカプタンと同じであつた。
比較例3 トリス−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート トリス−β−メルカプトプロピオネート1186g、ビスフエノールA型エポキシド314g(−SH/エポキシ=4.0)を用い、温度80℃にて10時間反応させた。得られた生成物を実施例1と同様の耐湿試験にかけた後IR測定を行つた。このスペクトルより(アルコールのC-O伸縮に基づくピーク)/(エステルのC-O伸縮に基づくピーク)を求め耐湿試験前と比較したところ、耐湿試験後の方が大きな値を示し、エステル結合の加水分解が確認された。
比較例4 トリメチロールプロパントリス(メルカプトプロピオネート)1262g、ノボラツク型エポキシド238g(−SH/エポキシ=10)を用い、温度110℃で5時間反応させた。この生成物の加水分解性を比較例3と同様に検討したところ、同じくアルコールの増加(すなわちエステルの減少)が観察された。
〔発明の効果〕
以上の様に、本発明のメルカプト基含有重合体は、粘度を非常に高くすることも可能であり、厚みが必要となる部分での、シーラント、架橋剤、接着剤、塗料として有用である。また、加水分解を受けないため、耐水・耐湿性の要求される分野での使用も十分可能である。
【図面の簡単な説明】
第1図〜第4図は、いずれも本発明のメルカプト基含有重合体の1例の赤外線吸収スペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】下記一般式I:

(式中t、w及びxは1〜5の整数、nは零又は1の数、Aは酸素又は硫黄、Rはエステル結合をもたない2価又は3価の残基を示す)で表される繰返し単位を有し、末端が−SH基であり、かつ分子量が350〜50万であることを特徴とするメルカプト基含有重合体。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2511274号
【登録日】平成8年(1996)4月16日
【発行日】平成8年(1996)6月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−190192
【出願日】昭和62年(1987)7月31日
【公開番号】特開平1−36622
【公開日】平成1年(1989)2月7日
【出願人】(999999999)電気化学工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開昭61−76522(JP,A)