説明

メロン黄化えそウイルス弱毒株およびその製造方法、ならびに該弱毒株の接種によるウリ科植物における黄化えそ病の防除方法

【課題】メロン黄化えそウイルス(MYSV)弱毒株およびその製造方法、ならびに当該弱毒ウイルスの接種によるウリ科植物における黄化えそ病の防除方法を提供する。
【解決手段】(a)MYSVを自然界での宿主植物以外の植物の葉に接種する工程、(b)MYSVを接種した植物を高温処理する工程、および(c)接種葉からMYSV弱毒株を選抜、回収する工程、からなるMYSV弱毒株の製造方法、および上記製造方法によって得られ、特定のアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖を有するMYSV弱毒株。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メロン黄化えそウイルス弱毒株およびその製造方法、ならびに該弱毒株の接種によるウリ科植物における黄化えそ病の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キュウリやメロンなどのウリ科植物の栽培において、メロン黄化えそウイルス(Melon yellow spot virus;以下、MYSVという場合がある)の感染によって引き起こされる黄化えそ病の発生は、作物の収量や品質の低下を招き、生産者に深刻な打撃を与えている。我が国では、現在までに関東以西の各地で発生が確認されている。高知県では、キュウリ露地栽培の90%以上、施設栽培の約80%の圃場で黄化えそ病が発生しており、その被害が大きくなっている。
【0003】
黄化えそ病の発生を防ぐためには、MYSVの媒介虫であるミナミキイロアザミウマの防除が一般的に行われている。殺虫剤の散布や防虫ネットなどによる侵入防止対策が行われているものの、ミナミキイロアザミウマは殺虫剤に対する感受性の低下が著しく、殺虫剤を散布しても十分な防除効果が得られない場合が多い。また、ミナミキイロアザミウマは微小な昆虫であるので、防虫ネットを利用して侵入防止対策を施したとしても、多くの場合、防虫ネットの隙間などから侵入してMYSVを媒介する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記事情に鑑みて、ウリ科植物に予防的に接種することによって黄化えそ病に対する抵抗性を付与し、黄化えそ病の発生を抑制するMYSV弱毒株を開発するべく、鋭意研究を行ってきた。MYSV強毒株を感染させたタバコ属植物を高温処理し、接種葉からMYSVを回収、選抜したところ、強毒株に対して干渉効果を有するMYSV弱毒株を取得し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、下記に関するものである:
[1]以下の工程を含む、メロン黄化えそウイルス(MYSV)弱毒株の製造方法:
(a)MYSVを自然界での宿主植物以外の植物の葉に接種する工程、
(b)MYSVを接種した植物を高温処理する工程、および
(c)接種葉からMYSV弱毒株を選抜、回収する工程;
[2]自然界での宿主植物以外の植物がニコチアナ グルチノサである、[1]記載の製造方法;
[3][1]または[2]記載の製造方法によって得ることができるMYSV弱毒株;
[4]配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖を有する、[3]記載のMYSV弱毒株;
[5]配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数が、
(a)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖;
(b)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列または(a)のアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖;および
(c)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖
からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、[4]記載のMYSV弱毒株;
[6]RdRpのN末端から189番目のアミノ酸がイソロイシン、255番目のアミノ酸がアラニン、1640番目のアミノ酸がグリシン、1692番目のアミノ酸がバリン、2015番目のアミノ酸がプロリンであり、G/Gタンパク質のN末端から86番目のアミノ酸がグルタミン酸、163番目のアミノ酸がプロリン、336番目のアミノ酸がバリン、371番目のアミノ酸がフェニルアラニン、621番目のアミノ酸がリシン、935番目のアミノ酸がロイシンであり、NSsタンパク質のN末端から15番目のアミノ酸がフェニルアラニンである、[5]記載のMYSV弱毒株;
[7]配列番号6〜8で示す塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖を有する、[3]記載のMYSV弱毒株;
[8]配列番号6〜8で示す塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数が、
(a)配列番号6〜8で示す塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖;
(b)配列番号6〜8で示す塩基配列または(a)の塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖;および
(c)配列番号6〜8で示す塩基配列と60%以上の同一性を有する塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖
からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、[7]記載のMYSV弱毒株;
[9]前記RNAまたはその相補鎖の塩基配列が、RdRpのN末端から189番目のアミノ酸がイソロイシン、255番目のアミノ酸がアラニン、1640番目のアミノ酸がグリシン、1692番目のアミノ酸がバリン、2015番目のアミノ酸がプロリンであり、G/Gタンパク質のN末端から86番目のアミノ酸がグルタミン酸、163番目のアミノ酸がプロリン、336番目のアミノ酸がバリン、371番目のアミノ酸がフェニルアラニン、621番目のアミノ酸がリシン、935番目のアミノ酸がロイシンであり、NSsタンパク質のN末端から15番目のアミノ酸がフェニルアラニンとなるような塩基配列である、[8]記載のMYSV弱毒株;
[10]SA08−8である、[3]記載のMYSV弱毒株;
[11][3]〜[10]のいずれかに記載のMYSV弱毒株をウリ科植物に接種することを特徴とする、ウリ科植物における黄化えそ病の防除方法;
[12]ウリ科植物がキュウリ、メロン、スイカ、シロウリ、トウガン、ユウガオまたはニガウリから選択される、[11]記載の防除方法;
[13][3]〜[10]のいずれかに記載のMYSV弱毒株を接種することによって得ることができる、黄化えそ病抵抗性のウリ科植物;ならびに
[14]キュウリ、メロン、スイカ、シロウリ、トウガン、ユウガオまたはニガウリから選択される、[13]記載のウリ科植物。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、MYSV強毒株に対して干渉効果を有するMYSV弱毒株を提供することができる。また、本発明のMYSV弱毒株をウリ科植物に接種することによって、ウリ科植物に黄化えそ病に対する抵抗性を付与することができ、媒介虫の防除といった間接的な手段ではない、直接的な手段による黄化えそ病の防除が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、MYSV強毒野生株を接種したキュウリ(A)およびMYSV弱毒株を接種したキュウリ(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、1つの態様において、メロン黄化えそウイルス(MYSV)弱毒株の製造方法に関するものである。本発明のMYSV弱毒株の製造方法は、
(a)MYSVを自然界での宿主植物以外の植物の葉に接種する工程、
(b)MYSVを接種した植物を高温処理する工程、および
(c)接種葉からMYSV弱毒株を選抜、回収する工程
を含んでもよい。本発明において、MYSVは、ブニヤウイルス科に属するトスポウイルス(tospovirus)属に分類されるものであって、ミナミキイロアザミウマなどのアザミウマ類によって媒介されるものをいう。本明細書において、宿主植物に感染することによってMYSVによる病害、例えば、子葉にてえそ斑点、本葉にて葉脈透過、葉脈えそ、モザイク、果実にてモザイク、奇形などの病徴を生じる黄化えそ病などを引き起こすものをMYSV強毒株といい、宿主植物に感染しても病害を引き起こさないか、または病害が抑制されているものをMYSV弱毒株という。また、本発明により製造されたMYSV弱毒株は、MYSV強毒株に対して干渉効果を有する。本発明によれば、宿主植物に感染することによって黄化えそ病などの病害を引き起こし得るMYSV強毒株などのMYSVからMYSV弱毒株を製造することができる。
【0009】
本発明において、MYSV弱毒株を製造するためにMYSVを接種する植物は、MYSVの自然界での宿主植物以外の植物であり、その種類は特に限定されるものではない。例示すれば、キュウリ、メロン、スイカ、シロウリ、ニガウリなどのウリ科植物以外の植物が挙げられ、例えば、ニコチアナ グルチノサ(Nicotiana glutinosa)などのタバコ属植物であってもよい。また、MYSVの接種は、自然界での宿主植物以外の植物のいずれの部位に対して行ってもよく、例えば、葉に対して接種してもよい。また、上記植物へのMYSVの接種は、当該分野で通常用いられる手段を用いて接種してもよく、例えば、カーボンランダム法などを用いて汁液接種してもよい。
【0010】
MYSVを接種した上記植物は、次いで、高温処理に供される。高温処理は、当該分野において病原性ウイルスから当該ウイルスの弱毒株を作出する場合に通常使用され得る条件下で行ってもよく、例えば、30〜38℃で5〜20日間、好ましくは32〜36℃で10〜18日間、より好ましくは34℃で14日間栽培してもよい。
【0011】
通常、タバコモザイクウイルス(TMV)をニコチアナ グルチノサに接種すると、植物の抵抗性反応によって感染は接種部分のみに留まり、局部病斑を形成する。しかし、TMVを接種したニコチアナ グルチノサに高温処理を行うと抵抗性反応が発揮されず、全身に感染が広がることが知られている(Oguni et al. 1983. Induction of attenuated strain of tobacco mosaic virus by serial passage through Nicotiana glutinosa plants alternately infected with the virus systemically at 30-38C and locally at 25C)。しかしながら、MYSVをニコチアナ グルチノサの葉に接種し、高温処理に供したところ、MYSVの感染は全身に広がらず、接種葉に局部病斑を形成するのみであることを本発明者らは確認した。本発明において、高温処理に供した上記植物のいずれの部位からMYSV弱毒株を選抜、回収してもよいが、好ましくは、この接種葉からMYSV弱毒株を選抜、回収する。MYSV弱毒株の選抜、回収は、当該分野にて通常用いられる方法に従ってもよく、例えば、ニコチアナ グルチノサの接種葉から回収したウイルスを、局部病斑を形成することが知られているセンニチコウに接種することによって、ウイルス株ごとに単離してもよい。さらに、センニチコウの局部病斑部分からウイルスを回収し、キュウリなどの宿主植物に接種し、MYSVの感染が確認された宿主植物について、黄化えそ病の病徴の有無またはその程度を肉眼で確認し、MYSV弱毒株の選抜を行ってもよい。MYSV感染の有無は、当該分野において通常用いられる手段に従って確認すればよく、例えば、MYSVに対する血清を用いたELISAなどによって確認してもよい。また、MYSV弱毒株の選抜・回収する工程は、1回行うだけでもよいが、MYSVによる病害を全く示さないか、または病害がより抑制された所望のMYSV株が得られるまで適宜繰り返してもよい。
【0012】
また、本発明は、別の態様において、本発明の製造方法によって得ることができるMYSV弱毒株に関する。本発明のMYSV弱毒株は、宿主植物に感染してもMYSVによる病害、例えば、子葉でのえそ斑点、本葉での葉脈透過、葉脈えそ、モザイク、もしくは果実でのモザイク、奇形などの黄化えそ病に特有の病徴を引き起こさないか、または病害が抑制されているので、本発明のMYSV弱毒株をウリ科植物などの植物に接種した場合、植物の収量および品質に重大な影響を及ぼさない。一方で、本発明のMYSV弱毒株はMYSV強毒株に対して干渉効果を有するので、本発明のMYSV弱毒株は、接種した植物にMYSVによる病害に対する抵抗性を付与することができる。
【0013】
また、本発明のMYSV弱毒株は、配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖を有するものでもよい。あるいは、本発明のMYSV弱毒株は、配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数が、(a)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖、(b)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列または(a)のアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖、および(c)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、上記MYSV弱毒株でもよい。
詳細には、本発明のMYSV弱毒株は、配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖を有するものであるか、あるいは、配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数(例えば、2もしくは3)が、(a)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列において、1または数個(例えば、2、3、4、5、6、7、8もしくは9個)のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖;(b)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列または(a)のアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖;および、(c)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列と80%以上(好ましくは、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%)の同一性を有するアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、上記MYSV弱毒株でもよい。なお、上記MYSV弱毒株において、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)のN末端から189番目のアミノ酸はイソロイシン、255番目のアミノ酸はアラニン、1640番目のアミノ酸はグリシン、1692番目のアミノ酸はバリン、2015番目のアミノ酸はプロリンであり、G/Gタンパク質のN末端から86番目のアミノ酸はグルタミン酸、163番目のアミノ酸はプロリン、336番目のアミノ酸はバリン、371番目のアミノ酸はフェニルアラニン、621番目のアミノ酸はリシン、935番目のアミノ酸はロイシンであり、NSsタンパク質のN末端から15番目のアミノ酸はフェニルアラニンであってもよい。
【0014】
また、本発明のMYSV弱毒株は、配列番号6〜8で示す塩基配列含むRNAまたはその相補鎖を有するものであってもよい。あるいは、本発明のMYSV弱毒株は、配列番号6〜8で示す塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数が、(a)配列番号6〜8で示す塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖、(b)配列番号6〜8で示す塩基配列または(a)の塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖、および(c)配列番号6〜8で示す塩基配列と60%以上の同一性を有する塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、上記MYSV弱毒株でもよい。
詳細には、本発明のMYSV弱毒株は、配列番号6〜8で示す塩基配列含むRNAまたはその相補鎖を有するものであるか、あるいは、配列番号6〜8で示す塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数(例えば、2もしくは3)が、(a)配列番号6〜8で示す塩基配列において、1または数個(例えば、6、9、12、15、18、21、24もしくは27個)の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖、(b)配列番号6〜8で示す塩基配列または(a)の塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖、および(c)配列番号6〜8で示す塩基配列と60%以上(好ましくは、70%、80%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%)の同一性を有する塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、上記MYSV弱毒株でもよい。なお、上記MYSV弱毒株において、前記RNAまたはその相補鎖の塩基配列は、RdRpのN末端から189番目のアミノ酸がイソロイシン、255番目のアミノ酸がアラニン、1640番目のアミノ酸がグリシン、1692番目のアミノ酸がバリン、2015番目のアミノ酸がプロリンであり、G/Gタンパク質のN末端から86番目のアミノ酸がグルタミン酸、163番目のアミノ酸がプロリン、336番目のアミノ酸がバリン、371番目のアミノ酸がフェニルアラニン、621番目のアミノ酸がリシン、935番目のアミノ酸がロイシンであり、NSsタンパク質のN末端から15番目のアミノ酸がフェニルアラニンとなるような塩基配列であってもよい。
【0015】
上記ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーションおよび/またはハイブリダイゼーション後の洗浄に用いる溶液の組成、温度などによって決定され得る条件であって、当業者によって適宜設定され得る。例えば、J. Sambrook et al.,“Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition”, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されるような条件が挙げられる。例えば、6×SSC、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.5% SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAを含む溶液中、50℃、より好ましくは68℃にてプローブとハイブリダイズさせた後で、2×SSC、0.1% SDSの溶液中で室温にて洗浄してもよいが、ストリンジェンシーを増大させるために、好ましくは0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄してもよい。あるいは、ハイブリダイズさせた後で、65℃で、2×SSPE(Frederick M. Ausubel et al., “Current Protocols in Molecular Biology”, 1987, John Wiley & Sons, Hoboken NJ.に記載)および0.1% SDSを含む溶液中で15分を2回、次いで0.5×SSPEおよび0.1% SDSを含む溶液中でさらに15分を2回、さらに0.1×SSPEおよび0.1% SDSを含む溶液中で15分を2回洗浄してもよく、あるいは、65℃で、2×SSPE、0.1% SDSおよびホルムアミド(5〜50%)を含む溶液中で15分を2回、0.5×SSPE、0.1% SDSおよびホルムアミド(5〜50%)を含む溶液中でさらに15分を2回、次いで0.1×SSPE、0.1% SDSおよびホルムアミド(5〜50%)を含む溶液中で15分を2回洗浄を行ってもよい。
【0016】
上記アミノ酸配列および塩基酸配列の相同性は、例えば、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング(株)製)、GENETYX((株)ジェネティクス製)を用いて測定することができる。
【0017】
また、本発明のMYSV弱毒株は、本明細書においてSA08−8と命名するウイルス株であってもよい。なお、このSA08−8は、特許法施行規則第27条の3の規定に従い、本出願人が分譲可能であることを保証する。
【0018】
また、本発明は、さらなる態様において、本発明のMYSV弱毒株をウリ科植物に接種することを特徴とする、ウリ科植物における黄化えそ病の防除方法に関する。上述のように、本発明のMYSV弱毒株は、接種によって、接種した植物に黄化えそ病などのMYSVによる病害に対する抵抗性を付与することができる。そのため、本発明のMYSV弱毒株を予防的に接種することによって、黄化えそ病などのMYSVによる病害を予防または軽減することができる。MYSV弱毒株を接種する植物としては、キュウリ、メロン、スイカ、シロウリ、トウガン、ユウガオ、ニガウリなどのウリ科植物が挙げられる。
【0019】
さらに、本発明は、もう1つの態様において、本発明のMYSV弱毒株を接種することによって得ることができる、黄化えそ病抵抗性のウリ科植物に関する。上述のように、本発明のMYSV弱毒株はMYSV強毒株に対して干渉効果を有するので、MYSVを接種することによって、接種した植物に黄化えそ病などのMYSVによる病害に対する抵抗性を付与することができる。本発明によってMYSVによる病害に対する抵抗性を付与し得る植物としては、キュウリ、メロン、スイカ、シロウリ、トウガン、ユウガオ、ニガウリなどのウリ科植物が挙げられる。
【0020】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、実施例はあくまで例示説明であって、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
MYSV弱毒株の作出
植物ウイルスから当該ウイルスの弱毒株を作出する方法として、低温処理、紫外線照射または局部病斑形成植物への連続接種などの方法が当該分野において知られている。MYSV弱毒株を作成するにあたり、これらの方法を試みた。しかしながら、病原性の低い弱毒株を選抜することはできなかった。植物ウイルス弱毒株の作出方法として、高温処理を用いる方法も知られている。しかし、通常行われている全身感染寄主植物(MYSVの場合、キュウリが該当する)を利用した高温処理では、病原性の低いMYSV弱毒株を選抜することはできなかった。また、タバコモザイクウイルス弱毒株の作出方法として知られている局部感染寄主植物(ニコチアナ グルチノサ(Nicotiana glutinosa))に接種して高温処理をし、その上位葉に移行したウイルスから選抜する方法は、MYSVが上位葉へ移行しないので適用不可能であった。
【0022】
そこで、キュウリに黄化えそ症状を発現するMYSV強毒株(C95S)をタバコ属植物の一種であるニコチアナ グルチノサにカーボンランダム法によって汁液接種し、34℃で14日間高温処理した。高温処理した後で、接種葉を磨砕することによって、接種葉からウイルスを回収した。回収したウイルスを含む汁液を、センニチコウに汁液接種した。接種葉に形成された局部病斑から単離したウイルスをキュウリに接種して、病原性の低いMYSV弱毒株の選抜を繰り返した。センニチコウを用いたウイルス単離を4回、キュウリによる選抜を13回行った。子葉でのえそ斑点、および本葉での葉脈透過、葉脈えそ、モザイクなどの黄化えそ病に特有の病徴を呈さないキュウリについて、MYSV感染の有無を、ELISA法によって確認したところ、キュウリに対して病原性を示さないMYSV弱毒株(SA08−8)を選抜した。なお、上記ウイルス株は、特許法施行規則第27条の3の規定に従い、本出願人が分譲可能であることを保証する。
【実施例2】
【0023】
MYSV弱毒株の接種による黄化えそ病抵抗性の付与
1次接種としてMYSV弱毒株(SA08−8)をキュウリ(品種:ZQ−7)の子葉に汁液接種し、その22日後(本葉3〜4枚展開期)にMYSV弱毒株の感染を確認した。次いで、2次接種として強毒株のMYSV(C05T)を最頂葉に接種した。比較のために、1次接種のみで2次接種を行わなかったものと、1次接種せずに2次接種のみ行ったものも調製した。
その結果を、表1に示す。1次接種としてMYSV弱毒株を接種したものでは、2次接種の有無に関わらず、一部の株で軽微なモザイク症状が認められたにとどまったのに対し、1次接種せずに2次接種のみ行ったものでは、ほとんどの株に強い黄化えそ症状が認められた。
【0024】
【表1】

【実施例3】
【0025】
MYSV弱毒株のゲノムRNA配列決定
Takeuchi et al. (2009) First report of Melon yellow spot virus infecting balsam pear ( Momordica charantia L.) in Japan,Journal of General Plant Pathology Volume 75, 154-156に記載された方法に準じてMYSV弱毒株(SA08−8)のゲノムRNA配列を決定し、アミノ酸配列を推定した。親ウイルス株C95Sおよび強毒野生株C05Tと比較した結果、RNA依存RNA複製酵素(RdRp)で5か所、G/Gタンパク質で6か所およびNSsタンパク質で1か所、SA08−8に特徴的なアミノ酸が確認された。
【0026】
【表2】

【実施例4】
【0027】
現地実証試験における干渉効果の確認(ハウスでの防除試験)
弱毒ウイルス(SA08−8)を子葉に汁液接種したキュウリ(品種:ZQ−7)の苗と、無接種のキュウリの苗とをビニルハウスで栽培し、強毒ウイルスに対する干渉効果を調査した。ハウスには伝染源として強毒系統のMYSV(T1−13)を接種したキュウリ苗を同時に定植した。葉の症状について0〜4の5段階(0:無病徴、1:生育に影響を及ぼさない程度のモザイク・退緑、2:えそ症状、3:葉全面のえそ、4:枯死)で調査し、発病の推移をみた。その結果を、表3に示す。無接種キュウリでは9月上旬より病徴が認められ始め、生育に悪影響を及ぼすと考えられる指数2以上の症状が徐々に増加したが、弱毒ウイルス接種キュウリでは、初期から軽度の症状が見られたものの、栽培終了時まで指数2以上の症状はほとんど認められなかった。なお、強毒ウイルスを接種したキュウリでは、栽培初期から強いウイルス症状が認められた。このことから、弱毒ウイルスを接種することで強毒ウイルスに対する干渉効果が発揮され、黄化えそ病の予防が可能であることが明らかとなった。
【0028】
【表3】

【実施例5】
【0029】
現地実証試験における干渉効果の確認(強毒発生圃場での暴露試験)
弱毒ウイルス(SA08−8)を子葉に汁液接種したキュウリ(品種:ZQ−7)の苗と、無接種のキュウリの苗とを、強毒系統のMYSVが発生している圃場に持ち込み、7日後に回収して施設内で栽培し、回収20日後の葉の症状を0〜4の5段階(0:無病徴、1:生育に影響を及ぼさない程度のモザイク・退緑、2:えそ症状、3:葉全面のえそ、4:枯死)で調査した。その結果を、表4に示す。無接種のキュウリでは全株で程度3の激しい症状が発現したが、弱毒ウイルス接種株では生育に問題ないと考えられる程度1の症状が認められたのみであった。このことから、弱毒ウイルスを接種することで強毒ウイルスに対する干渉効果が発揮され、強毒ウイルスによる症状の発現を抑えることが可能であることが明らかとなった。
【0030】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、MYSV強毒株に対して干渉効果を有するMYSV弱毒株を提供することができる。また、本発明のMYSV弱毒株をウリ科植物に接種することによって、ウリ科植物に黄化えそ病に対する抵抗性を付与することができ、媒介虫の防除といった間接的な手段ではない、直接的な手段による黄化えそ病の防除が可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0032】
SEQ ID NO: 1: RNA dependent RNA polymerase amino acid sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 2: GN/GC protein amino acid sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 3: NSs amino acid sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 4: NSm amino acid sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 5: Nucleocapsid amino acid sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 6: RNA dependent RNA polymerase gene-encoding sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 7: GN/GC protein gene-encoding sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 8: NSs gene-encoding sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 9: NSm gene-encoding sequence of Melon yellow spot virus
SEQ ID NO: 10: Nucleocapsid gene-encoding sequence of Melon yellow spot virus

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、メロン黄化えそウイルス(MYSV)弱毒株の製造方法:
(a)MYSVを自然界での宿主植物以外の植物の葉に接種する工程、
(b)MYSVを接種した植物を高温処理する工程、および
(c)接種葉からMYSV弱毒株を選抜、回収する工程。
【請求項2】
自然界での宿主植物以外の植物がニコチアナ グルチノサである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法によって得ることができるMYSV弱毒株。
【請求項4】
配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖を有する、請求項3記載のMYSV弱毒株。
【請求項5】
配列番号1〜3で示すアミノ酸配列をそれぞれコードするRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数が、
(a)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖;
(b)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列または(a)のアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖;および
(c)配列番号1〜3で示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするRNAまたはその相補鎖
からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、請求項4記載のMYSV弱毒株。
【請求項6】
RdRpのN末端から189番目のアミノ酸がイソロイシン、255番目のアミノ酸がアラニン、1640番目のアミノ酸がグリシン、1692番目のアミノ酸がバリン、2015番目のアミノ酸がプロリンであり、G/Gタンパク質のN末端から86番目のアミノ酸がグルタミン酸、163番目のアミノ酸がプロリン、336番目のアミノ酸がバリン、371番目のアミノ酸がフェニルアラニン、621番目のアミノ酸がリシン、935番目のアミノ酸がロイシンであり、NSsタンパク質のN末端から15番目のアミノ酸がフェニルアラニンである、請求項5記載のMYSV弱毒株。
【請求項7】
配列番号6〜8で示す塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖を有する、請求項3記載のMYSV弱毒株。
【請求項8】
配列番号6〜8で示す塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖の1つまたは複数が、
(a)配列番号6〜8で示す塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖;
(b)配列番号6〜8で示す塩基配列または(a)の塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAと相補的な塩基配列を有するRNAまたはその相補鎖;および
(c)配列番号6〜8で示す塩基配列と60%以上の同一性を有する塩基配列を含むRNAまたはその相補鎖
からなる群より選択されるRNAまたはその相補鎖である、請求項7記載のMYSV弱毒株。
【請求項9】
前記RNAまたはその相補鎖の塩基配列が、RdRpのN末端から189番目のアミノ酸がイソロイシン、255番目のアミノ酸がアラニン、1640番目のアミノ酸がグリシン、1692番目のアミノ酸がバリン、2015番目のアミノ酸がプロリンであり、G/Gタンパク質のN末端から86番目のアミノ酸がグルタミン酸、163番目のアミノ酸がプロリン、336番目のアミノ酸がバリン、371番目のアミノ酸がフェニルアラニン、621番目のアミノ酸がリシン、935番目のアミノ酸がロイシンであり、NSsタンパク質のN末端から15番目のアミノ酸がフェニルアラニンとなるような塩基配列である、請求項8記載のMYSV弱毒株。
【請求項10】
SA08−8である、請求項3記載のMYSV弱毒株。
【請求項11】
請求項3〜10のいずれか1項に記載のMYSV弱毒株をウリ科植物に接種することを特徴とする、ウリ科植物における黄化えそ病の防除方法。
【請求項12】
ウリ科植物がキュウリ、メロン、スイカ、シロウリ、トウガン、ユウガオまたはニガウリから選択される、請求項11記載の防除方法。
【請求項13】
請求項3〜10のいずれか1項に記載のMYSV弱毒株を接種することによって得ることができる、黄化えそ病抵抗性のウリ科植物。
【請求項14】
キュウリ、メロン、スイカ、シロウリ、トウガン、ユウガオまたはニガウリから選択される、請求項13記載のウリ科植物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−155903(P2011−155903A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20229(P2010−20229)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、農林水産省、平成21年度新たな農林水産施策を推進する実用技術開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【Fターム(参考)】