説明

メンテナンス装置および液体噴射装置

【課題】保湿面が傾斜している場合であっても、保湿面の広範囲を湿潤させることができる液体噴射装置の保湿キャップ等のキャッピング手段に用いるメンテナンス装置を提供する。
【解決手段】メンテナンス装置は、水平面に対して傾斜するとともに液体を噴射する噴射口が形成された液体噴射ヘッドの該噴射口を封止するキャッピング手段として機能する保湿キャップ50をメンテナンスするためのメンテナンス装置において、前記保湿キャップ50は、前記噴射口と対向する対向面と機能する保湿面52を有し、前記保湿キャップ50内を保湿状態に保守するために前記対向面に供給される保守液を前記保湿面52上において拡散させる保守液拡散構造を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンターなどの液体噴射装置の噴射口を保湿するための保湿キャップに用いるメンテナンス装置に関する。また、同メンテナンス装置を備えた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、噴射ヘッドから液体を噴射させる液体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。インクジェット式プリンターは、インク(液体)を収容するインクカートリッジから噴射ヘッドにインクを供給し、そのインクを噴射ヘッドの噴射口から記録用紙に噴射することにより印刷を行うようになっている。
【0003】
インクジェット式プリンターでは、噴射ヘッド内でインクが乾燥して固化するとインクの噴射不良を引き起こす可能性があるため、噴射口を常に湿潤状態に保つ必要がある。そのため、印刷が行われない状態においては、噴射口を囲うように保湿キャップを噴射ヘッドにはめることにより、噴射口を湿潤状態に保つことが行われる。より詳細には、噴射ヘッドの噴射口を保湿するための保湿面を内部に有する保湿キャップを用い、この保湿キャップの保湿面を噴射口に近接させた態様で噴射口を覆うことにより該噴射口を保湿するようにしている。
【0004】
ここで、この保湿キャップでは保湿面を湿潤状態に保つ必要がある。そのため、例えば特許文献1には、タンクに貯蔵された保守液の水頭と、保湿キャップの位置とを調節することにより、水頭差を利用して、保湿キャップ内部に保守液を供給し、保湿キャップ内部を湿潤させる技術が提示されている。また、噴射口が水平面に対して傾斜して配置されている液体噴射装置が、例えば特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−101634号公報
【特許文献2】特開2006−192679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に記載されている噴射口が水平面に対して傾斜して配置されている液体噴射装置においては、噴射口が傾斜しているため、噴射口に近接させる保湿面も噴射口の傾斜に対応して傾斜して配置される。
【0007】
保湿面が水平に配置されていれば、特許文献1のように、水頭差を利用して、保湿キャップ内部に保守液を供給することにより保湿面を均一に湿潤させることは容易である。しかし保湿面が傾斜している場合、単純に保守液を供給しても、保湿面のうち、相対的に高い位置にある部分を十分に湿潤させることが困難であるため、問題となる。
【0008】
本発明は、係る問題を解決するために成されたもので、保湿キャップの保湿面が傾斜している場合であっても、その保湿面の広範囲を湿潤させることができるメンテナンス装置を提供することにある。また、係るメンテナンス装置を備えた液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のメンテナンス装置は、水平面に対して傾斜するとともに液体を噴射する噴射口が形成された液体噴射ヘッドの該噴射口を封止するキャッピング手段をメンテナンスするためのメンテナンス装置において、前記キャッピング手段は、前記噴射口と対向する対向面を有し、前記キャッピング手段内を保湿状態に保守するために前記対向面に供給される保守液を前記対向面上において拡散させる保守液拡散構造を備える。
【0010】
上記構成によると、保守液を対向面上に拡散させる保守液拡散構造を有するため、対向面が傾斜している場合であっても、広く対向面を湿潤させることができる。対向面が保守液により湿潤していれば、対向面を噴射口に近接させた態様で噴射口を保湿キャップで覆うことにより、容易に噴射口を湿潤状態に保つことができる。
【0011】
本発明のメンテナンス装置において、前記保守液拡散構造は、前記保守液を重力方向と交差する前記対向面の幅方向に拡散させて投射する投射口を含んで構成されていることが好ましい。
【0012】
上記構成によると、保守液拡散構造は保守液を重力方向と交差する対向面の幅方向に拡散させて対向面上に投射する投射口を含んでいるため、保守液拡散構造を簡易に構成することができる。
【0013】
ここで、幅方向とは、より詳しくは対向面と水平面が交わることによって決定される直線の方向である。また、保守液を対向面上に重力方向と交差する該対向面の幅方向に拡散させて投射する投射口とは、例えば、矩形状の開口形状が幅方向に延設された投射口が例示される。
【0014】
本発明のメンテナンス装置において、前記投射口は、前記保守液を複数箇所に拡散して投射するための複数の孔により構成されていることが好ましい。
上記構成によると、複数の孔により保守液の投射口を構成することにより、簡易な構成で、保守液を対向面の幅方向における複数箇所に拡散させて投射することができる。また、投射口を水平方向に延設された1つの穴で形成する場合に比して、投射口の面積を小さくすることが容易であるため、保守液の投射量が小さい場合であっても、保守液を対向面の幅方向に拡散させて投射することが容易である。
【0015】
本発明のメンテナンス装置において、前記保守液拡散構造は、前記保守液を前記対向面上に投射するための投射口に向けて前記対向面側から突出した突出部材を含んで構成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によると、保守液拡散構造は、対向面側から突出した突出部材を備えるため、投射口の形状に関わらず、保守液を拡散することができる。
本発明のメンテナンス装置において、前記突出部材は、前記投射口から投射された前記保守液を受ける液受け面が重力方向と交差する前記対向面の幅方向に沿って延設された形状をしていることが好ましい。
【0017】
上記構成によると、対向面の幅方向に沿って延設された液受け面により保守液の流れる流路を形成することが容易に可能となるため、保守液を幅方向に容易に拡散させることができる。
【0018】
本発明のメンテナンス装置において、前記突出部材において前記保守液を受ける液受け面は、重力方向と交差する前記対向面の幅方向での両端部が中央部よりも重力方向において上方かつ前記対向面に沿った方向に屈曲した形状をしていることが好ましい。
【0019】
上記構成によると、突出部材における液受け面により保守液の流れる流路を形成することができるため、保守液を幅方向に容易に拡散することができる。また、対向面が傾斜している場合には、重力により鉛直方向にも、保守液を拡散させることが可能となる。更に、液受け面は重力方向と交差する対向面の幅方向での両端部が中央部よりも重力方向において上方かつ対向面に沿った方向に屈曲しているため、対向面が傾斜している場合には、保守液の流路を鉛直方向において上方かつ対向面に沿った方向に向わせることができる。
【0020】
本発明の液体噴射装置は、液体を噴射する噴射口が形成された液体噴射ヘッドと、上記構成のメンテナンス装置とを備える。この構成によれば、上記構成のメンテナンス装置における作用効果と同様の作用効果を享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係るインクジェット式プリンターの全体図である。
【図2】本発明を具体化した一実施形態に係るインクジェット式プリンターの保湿キャップ用のメンテナンス装置を説明する模式図である。
【図3】図2に示したメンテナンス装置を説明する図であって、(a)は断面図であり、(b)は保湿キャップ側から見た投射口カバーの図であり、(c)は投射口側から見た保湿キャップの図である。
【図4】第2の実施形態におけるメンテナンス装置を説明する図であって、(a)は断面図であり、(b)は保湿キャップ側から見た投射口カバーの図であり、(c)は投射口側から見た保湿キャップの図である。
【図5】第3の実施形態におけるメンテナンス装置を説明する図であって、(a)は断面図であり、(b)は保湿キャップ側から見た投射口カバーの図であり、(c)は投射口側から見た保湿キャップの図である。
【図6】第4の実施形態におけるメンテナンス装置を説明する図であって、(a)は断面図であり、(b)は保湿キャップ側から見た投射口カバーの図であり、(c)は投射口側から見た保湿キャップの図である。
【図7】第5の実施形態におけるメンテナンス装置を説明する図であって、(a)は断面図であり、(b)は保湿キャップ側から見た投射口カバーの図であり、(c)は投射口側から見た保湿キャップの図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の液体噴射装置をインクジェット式プリンターとして具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。なお、以下の説明において、方向および向きは、特に断らない場合、図1に矢印記号により表示したものを使用するものとする。また、図中に表示していないが、図1の紙面に対して直交する方向を長手方向とし、長手方向において、紙面に対して手前方向を左向き、奥手方向を右向きと記す。
【0023】
図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンターはその主要部を脚部11に支持された略矩形箱型のフレーム12の内部に備えている。同フレーム12内にはプラテン14が長手方向に延設されている。また、プラテン14に対向する位置には、噴射ヘッド20が噴射口21をプラテン14側に向けた態様で、長手方向に往復可能に設置されている。フレーム12の上部には、ロール状の記録用紙31が着脱可能に保持されている。記録用紙31の一方端は、ローラー16に案内されて、プラテン14と噴射口21との間を通り、フレーム12の下方外部に設置された巻取り装置32によって巻き取られている。ローラー16、巻取り装置32はモーター13を介して制御部15により制御されているため、同じく制御部15により制御されている噴射ヘッド20と連動させて回転させることが可能である。また、噴射ヘッド20には、図示略のインクカートリッジより印刷用インクが供給される。
【0024】
印刷状態においては、噴射ヘッド20が長手方向において左右に移動しつつ印刷用インクを噴射口21より記録用紙31に噴射することにより印刷が行われる。また、ローラー16および巻き取り装置が、印刷動作に連動して記録用紙31を巻取り装置32側に移動させることにより、印刷が連続的に行われるとともに、印刷後の記録用紙31が、巻取り装置32により保持される。
【0025】
ところで、噴射ヘッド20内、特に噴射口21は外気と接しているため、インクを噴射していない状態、即ち印刷が行われていない状態においては、インクが乾燥して固化する可能性がある。インクが噴射ヘッド20内で固化すると印刷時においてインクの噴射不良を引き起こす可能性がある。そこで、印刷終了時には、噴射ヘッド20内部に洗浄液を流すとともに洗浄することにより、インクの残留を防止する。その後、噴射口21を囲うように保湿キャップ50をはめることにより噴射口21を湿潤状態に保つことが行われる。この保湿キャップ50が本発明のキャッピング手段として機能する。なお、本実施形態においては、保湿キャップ50が洗浄後の洗浄液を受け止める受容手段を兼ねている。
【0026】
そのため、図2に示すように、この保湿キャップ50の内部には、保湿部材51が備えられている。保湿キャップ50を噴射ヘッド20に被せた状態において、湿潤状態に保たれた保湿部材51が噴射口21に近接して、噴射口21および噴射ヘッド20内部の乾燥を防止する。このとき、保湿部材51の噴射口21に対向して近接する面が本発明における対向面として機能する保湿面52である。
【0027】
保湿面52を湿潤状態に保つため、更には、保湿面52を清浄に保つため、保湿キャップ50は定期的にメンテナンスされる必要がある。そのため、このプリンターには保湿キャップ50をメンテナンスするためのメンテナンス装置が備えられている。その構造を以下に説明する。
【0028】
メンテナンス装置は、保湿面を保守する保守液を保湿面に供給する保守液供給機構60と、保守液を保湿面52上に拡散させる拡散構造としての投射口65とを備えている。
保守液は保守液タンク61に貯蔵されている。保守液タンク61からは保守液通路62が延設されておりバルブ63を介して、保湿面上に保守液を投射する投射口65に連絡されている。なお、保守液通路62には枝通路67および大気開放バルブ64が設けられている。保守液供給機構60はこのように保守液タンク61、保守液通路62、バルブ63、大気開放バルブ64、投射口65を備えている。
【0029】
一方、拡散構造は、投射された保守液が保湿面52の幅方向に拡散させて投射されるように形成された投射口65を含んで構成されている。例えば、図3(c)に示されるように、投射された保守液が、保湿面52上において、保湿面52が重力方向と交差する幅方向に拡散する構成であればよい。幅方向とは、保湿面52が水平面と交わることにより決定される直線の方向である。本実施形態においては、投射口65から投射された保守液が保湿面52に略垂直に当たる構成であるため、図3(b)に示されるように、水平方向に延設された楕円に形状された投射口65を含むことにより拡散構造を構成することができる。
【0030】
保湿キャップ50のメンテナンス方法を、図2および図3を用いて説明する。図2に示すように、噴射ヘッド20に被せられていた保湿キャップ50が取り外され、保守液供給機構60の投射口65に保湿面52が対向する位置に、保湿キャップ50が移動する。次に、投射口65を保持するとともにカバーする投射口カバー66に保湿面52が近接する態様で、保湿キャップ50が移動した後、バルブ63が開放される。ここで、保守液タンク61の内部は加圧されているため、バルブ63が解放されると、保守液通路62、バルブ63、を介して投射口65から保守液が保湿面52に向けて投射される。投射された保守液が保湿面52上を流れてゆく経路を、図3(a)に矢印で示す。
【0031】
図3(b)に示されるように、投射口65は、幅方向に延設された楕円形状であるため、保守液は保湿面52の幅方向に拡散して投射される。従って、図3(c)に示されるように、投射された保守液も、保湿面52上において、幅方向に延設された楕円形状に拡散する。ここで、保湿面52は水平面に対して傾斜しており、保湿液はその上部に投射されるため、楕円形状に拡散した保守液の大部分は、矢印にて示したように、保湿面52に沿って下方に移動し、保湿面52を広く湿潤させる。また、保守液の一部は、矢印にて示したように、保湿面52に沿って上方および左右にも移動するため、保湿面52を一層広く湿潤させる。
【0032】
なお、保湿キャップ50の底部には、保湿面52を保湿後に過剰となった保湿液を排出するための保守液排出路53およびポンプ54を備える保守液排出構造が更に備えられている。この保守液排出構造が保湿液を適時排出することにより、保湿液が保湿面側から外部にこぼれ出ることが防止されている。また、保守液投射後に保守液通路62内に残留した保守液は、バルブ63を閉めた状態で大気開放バルブ64を開けることで、排出される。
【0033】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、保守液を保湿面52上に拡散させる拡散構造を有する。更に、保湿面52が傾斜しているため、広く保湿面52を湿潤させることができる。保湿面52が保守液により湿潤していれば、保湿面52を噴射口21に近接させた態様で噴射口21を保湿キャップで覆うことにより、容易に噴射口21を湿潤状態に保つことができる。
【0034】
(2)上記実施形態では、保守液拡散構造は保守液を重力方向と交差する保湿面52の幅方向に拡散させて投射する投射口65を含んでいるため、別段の部材を用いることなく、拡散構造を構成することができる。
【0035】
(3)上記実施形態では、また、保守液が保湿面52の幅方向に拡散させて投射されるため、一点に投射される場合に比して広く保湿面52を湿潤させることが可能となる。また、保湿面52が傾斜しているため、重力により保湿面52の下部にも、保守液を拡散させることが可能となり、一層広く保湿面52を湿潤させることができる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る液体噴射装置をインクジェット式プリンターとして具体化した第2の実施形態を図4を用いて説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態の拡散構造を変更したのみの構成であるため、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0037】
第2の実施形態においても、拡散構造は、保守液を保湿面52の幅方向に拡散させて保湿面52上に投射する投射口65を含んでいる。具体的には、図4(b)に示されるように、投射口65は保守液を複数箇所に拡散して投射するための複数の孔により構成されている。
【0038】
保湿キャップ50のメンテナンス時において、保守液は、保湿面52の幅方向に拡散した複数の箇所に投射されるため、図4(c)に示すように、投射された保守液は、保湿面52上において、幅方向に並んだ複数の小円状に拡散する。小円状に拡散した保守液の大部分は、図4(a)および図4(c)に、矢印にて示したように、保湿面52に沿って下方に移動し、保湿面52を広く湿潤させる。また、保守液の一部は付勢された力により、矢印にて示したように、保湿面52に沿って上方および左右にも移動するため、保湿面52を一層広く湿潤させる。
【0039】
上記実施形態によれば、第1の実施形態に記載の(1)〜(3)の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(4)上記実施形態では、投射口65は保守液を複数箇所に拡散して投射するための複数の孔により構成されているため、保守液を保湿面52の幅方向に拡散させて投射することが容易にできる。また、投射口65を水平方向に延設された1つの穴で形成する場合に比して、投射口65の面積を小さくすることが容易であるため、保守液の投射量が小さい場合であっても、保守液を保湿面の幅方向に拡散させて投射することが容易である。
【0040】
(第3の実施形態)
次に、本発明に係る液体噴射装置をインクジェット式プリンターとして具体化した第3の実施形態を図5を用いて説明する。なお、第3の実施形態は、第1の実施形態の拡散構造を変更したのみの構成であるため、共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0041】
第3の実施形態においては、拡散構造は、保湿面から投射口方向に突出した突出部材を備える。具体的には、図5(a)および図5(c)に示すように、保湿キャップ50の内側底面55より保湿部材51を貫く態様で延設され、保湿面52から投射口65に向けて略四角柱形状の傾斜型の突出部材71が突出している。傾斜型の突出部材71の突出端には上方が削られたような形態で傾斜が設けられている。この傾斜部が投射された保守液を受ける液受け面72となっている。また、図5(b)に示すように、投射口65の形状は円形孔である。
【0042】
保湿キャップ50のメンテナンス時において、保守液は、傾斜型の突出部材71の突出端に形成された液受け面72上に投射される。投射口65の形状が、通常用いられる円形孔であるため、図5(c)に示すように、投射された保守液は、液受け面72上において、小円状に拡散する。その後、小円状に拡散した保守液の大部分は、図5(a)および図5(c)に、矢印にて示すように、液受け面72を駆け上がるように上方および左右に移動し、保湿面52の上部を広く湿潤させる。続いて、重力により、保湿面52に沿って下方に移動し、保湿面52の下部を湿潤させる。また、保守液の一部は液受け面72を駆け上がることなく、液受け面72直下の保湿面52を湿潤させる。
【0043】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、保守液を保湿面52上に拡散させる拡散構造を有する。更に、保湿面52が傾斜しているため、広く保湿面52を湿潤させることができる。保湿面52が保守液により湿潤していれば、保湿面52を噴射口21に近接させた態様で噴射口21が覆うことにより、容易に噴射口21を湿潤状態に保つことができる。
【0044】
(2)上記実施形態では、拡散構造は、保湿面52から投射口65方向に突出した傾斜型の突出部材71を備えるため、投射口65の形状に関わらず、保守液を拡散することができる。
【0045】
(第4の実施形態)
次に、本発明に係る液体噴射装置をインクジェット式プリンターとして具体化した第4の実施形態を図6を用いて説明する。なお、第4の実施形態は、第3の実施形態の突出部の形状を変更したのみの構成であるため、共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0046】
第4の実施形態においても、拡散構造は、保湿面から投射口方向に突出した突出部材を備える。具体的には、図6(a)および図6(c)に示すように、保湿キャップ50の内側底面55より保湿部材51を貫く態様で延設され、保湿面52から投射口65に向けて平板型の突出部材73が突出している。上述の第3の実施形態において突出部材が略角柱状であったのに対し、平板型の突出部材73は、保守液を受ける液受け面74が保湿面52の幅方向に沿って延設された平板型の形状をしている点で異なっている。より具体的には、投射口65側から見た平板型の突出部材73の形状は、図6(c)に示すように、保湿面52の幅方向を長辺とする長方形となる。また、図6(b)に示すように、投射口65の形状は円形孔である。
【0047】
保湿キャップ50のメンテナンス時において、保守液は、平板型の突出部材73の突出端の上部の保湿面52上に投射される。投射口65の形状が、通常用いられる円形であるため、図6(c)に示すように、投射された保守液は、保湿面52上において、小円状に拡散する。その後、小円状に拡散した保守液の大部分は、図6(a)および図6(c)に、矢印にて示すように、重力によって、保湿面52に沿って下方に移動した後、液受け面74上を保湿面52に沿って幅方向に移動する。その後、液受け面74の幅方向の左右端に達した保湿液は、保湿面52に拡散しながら、重力によって保湿面52に沿って下方に移動することにより、保湿面52の下部を湿潤させる。また、保守液の一部は流路上に平板型の突出部材73の突出端を乗り越えるように、下方に移動することにより、平板型の突出部材73直下の保湿面52を湿潤させる。
【0048】
上記実施形態によれば、第3の実施形態に記載の(1)および(2)の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(3)上記の実施形態では、保湿面52の幅方向に延設された形状に沿って投射された保守液の流れる流路を形成することが容易となるため、保守液を幅方向に容易に拡散することができる。特に、保湿面52が幅方向に大きく、第3の実施形態に示した傾斜型の突出部材によっては十分に左右部分を湿潤させることができない場合に有効である。
【0049】
(第5の実施形態)
次に、本発明に係る液体噴射装置をインクジェット式プリンターとして具体化した第5の実施形態を図7を用いて説明する。なお、第5の実施形態は、第4の実施形態の突出部の形状を変更したのみの構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0050】
第5の実施形態においても、拡散構造は、保湿面から投射口方向に突出した突出部材を備える。具体的には、図7(a)および図7(c)に示すように、保湿キャップ50の内側底面55より保湿部材51を貫く態様で延設され、保湿面52から投射口65に向けてU字状の突出部材75が突出している。上述の第4の実施形態において、平板型の突出部材73は保守液を受ける液受け面74が保湿面52の幅方向に沿って延設された形状であった。それに対し、第5の実施形態においてU字状の突出部材75は、液受け面76の両端部が中央部よりも鉛直方向において上方かつ保湿面52に沿った方向に屈曲した形状をしている点において異なっている。より具体的には、投射口65側から見たU字状の突出部材75の形状はいわゆるU字形状となる。また、図7(b)に示すように、投射口65の形状は円形孔である。
【0051】
保湿キャップ50のメンテナンス時において、保守液は、U字状の突出部材75の突出端の上部の保湿面52上に投射される。投射口65の形状が、円形であるため、図7(c)に示すように、投射された保守液は、保湿面52上において、小円状に拡散する。その後、小円状に拡散した保守液の大部分は、図7(a)および図7(c)に、矢印にて示すように、重力によって、保湿面52に沿って下方に移動しようとするが、流路上にU字状の突出部材75が突出し、下方に移動できないため保湿面52に沿って、液受け面76上を幅方向において中央部から左右に向かい移動する。その後、液受け面76の両端部が上方に屈曲しているため、保守液も上方に移動する。こうして液受け面76の幅方向の各々の端部に達した保湿液は、保湿面52に拡散しながら、重力によって保湿面52に沿って下方に移動することにより、保湿面52の下部を湿潤させる。また、保守液の一部は流路上にU字状の突出部材75の突出端を乗り越えるように、下方に移動することにより、U字状の突出部材75直下の保湿面52を湿潤させる。
【0052】
上記実施形態によれば、第4の実施形態に記載の(1)〜(3)の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(4)上記の実施形態では、液受け面76の両端部が中央部よりも上方かつ保湿面52に沿った方向に屈曲して形状をしている。また、保湿面52が傾斜しているため、保守液の流路を重力方向において上方かつ保湿面52に沿った方向に向わせることができる。従って、第4の実施形態において、保湿面52の上部が十分に湿潤しないときに特に有効となる。
【0053】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・第1および第2の実施形態では、投射口65の形状により、拡散構造が構成されているが、併せて突出部材を備えても良い。例えば第3〜第5に示された突出部材71,73,75と同様の突出部材を備えることにより、保守液を一層拡散させることが可能となる。
【0054】
・第3の実施形態では、突出部材71の突出端には上方が削られたような形態で液受け面72が形成されているが、他の構成であっても良い。投射された保守液を拡散させれば良いのであるから、投射される保守液の付勢強度や投射位置、あるいは保湿面52の傾斜角に対応して最適な形状を取ることができる。傾斜角を変化させても良いし、液受け面72を半球状にしてもよい。
【0055】
・第5の実施形態では、U字形状の突出部材75を有しているが、他の構成であっても良い。突出部材の液受け面の幅方向の両端部が中央部よりも上方かつ保湿面52に沿った方向に屈曲している形状を有ればよいのであるから、例えば、中央部に屈曲部を持ついわゆるV字形状であってもよい。係る形状であっても同様の効果を奏する。
【0056】
・第4および第5の実施形態では、液受け面74および76が傾斜型にしていないが、第3の実施形態同様に傾斜型としても良い。係る構成の場合は保守液を斜面上に投射しても良い。
【0057】
・第3第の実施形態では、傾斜した液受け面72上に保守液が投射される一方、第4および第5の実施形態では、突出部材73,75の突出端の上部の保湿面52上に保守液が投射されるが、他の構成であってもよい。例えば、保守液の一部が突出端の直下の保湿面52上に投射される構成としても良い。係る構成によれば、突出端の直下の保湿面52を直接的に湿潤させることができる。
【0058】
・上記実施形態では、保守液タンク61の内部が加圧されることにより、保守液は加圧されて投射口65から保湿キャップ50に投射されるが、他の構成であっても良い。例えば、水頭圧を利用して加圧されて投射されても良いし、保守液通路62の間にポンブを設置することにより加圧されて投射されていても良い。
【0059】
・上記実施形態では、保湿キャップ50が洗浄後の洗浄液を受け止める受容手段を兼ねているが、それぞれ独立して設けられていても良い。係る構成とすれば、保守液は、保湿面52を保湿する機能のみ有すればよく、特段に洗浄機能がなくてもよい。
【0060】
・上記実施形態では、保湿面52は保湿部材51に設けられているが、他の構成であっても良い。例えば、保湿能力に問題がなければ、保湿部材51を割愛し、保湿キャップ50の内側底面55に保湿面52を設けても良い。係る構成によると、部材構成を簡略化できるとともに、コストダウンに資する。
【0061】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
11…脚部、12…フレーム、13…モーター、14…プラテン、15…制御部、16…ローラー、20…噴射ヘッド(液体噴射ヘッド)、21…噴射口、31…記録用紙、32…巻取り装置、50…保湿キャップ(キャッピング手段)、51…保湿部材、52…保湿面(対向面)、53…保守液排出路、54…ポンプ、55…内側底面、60…保守液供給機構、61…保守液タンク、62…保守液通路、63…バルブ、64…大気開放バルブ、65…投射口、66…投射口カバー、67…枝通路、71…傾斜型の突出部材、72…液受け面、73…平板型の突出部材、74…液受け面、75…U字状の突出部材、76…液受け面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に対して傾斜するとともに液体を噴射する噴射口が形成された液体噴射ヘッドの該噴射口を封止するキャッピング手段をメンテナンスするためのメンテナンス装置において、
前記キャッピング手段は、前記噴射口と対向する対向面を有し、
前記キャッピング手段内を保湿状態に保守するために前記対向面に供給される保守液を前記対向面上において拡散させる保守液拡散構造を備えることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
前記保守液拡散構造は、前記保守液を重力方向と交差する前記対向面の幅方向に拡散させて投射する投射口を含んで構成されている請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記投射口は、前記保守液を複数箇所に拡散して投射するための複数の孔により構成されている請求項2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
前記保守液拡散構造は、前記保守液を前記対向面上に投射するための投射口に向けて前記対向面側から突出した突出部材を含んで構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のメンテナンス装置。
【請求項5】
前記突出部材は、前記投射口から投射された前記保守液を受ける液受け面が重力方向と交差する前記対向面の幅方向に沿って延設された形状をしている請求項4に記載のメンテナンス装置。
【請求項6】
前記突出部材において、前記保守液を受ける液受け面は、重力方向と交差する前記対向面の幅方向での両端部が中央部よりも重力方向において上方かつ前記対向面に沿った方向に屈曲した形状をしている請求項4に記載のメンテナンス装置。
【請求項7】
液体を噴射する噴射口が形成された液体噴射ヘッドと、請求項1〜6のうちいずれか1項に記載のメンテナンス装置とを備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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