説明

モキシフロキサシンおよびデキサメタゾンリン酸エステルを含む局所眼用または局所耳用溶液製剤

モキシフロキサシンおよびデキサメタゾンリン酸エステルの、局所眼用および局所耳用溶液組成物が開示される。本発明の組成物は、モキシフロキサシンおよびデキサメタゾンの水溶性の組成物である。この組成物は、安定性があり、保存された、複数回用量の溶液組成物である。この組成物は、眼または耳に局所的に投与可能で、モキシフロキサシン塩酸塩と、デキサメタゾンリン酸エステルと、エデト酸二ナトリウムと、イオン性等張化剤と、ホウ酸と、非イオン性界面活性剤と、塩化ベンザルコニウムまたはソルビトールのいずれか一方とから実質的になる。この組成物は7.5〜8.1のpHを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼または耳への局所投与に好適なモキシフロキサシンおよびデキサメタゾンリン酸エステルの溶液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
モキシフロキサシンは、既知の抗菌性化合物である。例として、米国特許第4,990,517号および同第5,607,942号を参照されたい。モキシフロキサシンを含む局所的に投与可能な眼用溶液は、Alcon Laboratories,Inc.から、塩基として0.5%のVIGAMOX(登録商標)(モキシフロキサシンHCl眼用溶液)として市販されている。米国特許第6,716,830号を参照されたい。この’830特許は、特に眼、耳、および鼻の組織に局所適用するために処方された組成物を開示している。’830特許は、必要に応じて抗炎症剤を含むモキシフロキサシン組成物を開示している。開示された抗炎症剤は、ステロイド系および非ステロイド系の抗炎症剤を含む。’830特許によると、眼用および耳用に使用するための好ましいステロイド系の抗炎症剤は、デキサメタゾン、ロテプレドノール、リメキソロン、プレドニゾロン、フルオロメトロン、およびヒドロコルチゾンを含む。モキシフロキサシンおよびデキサメタゾン(微粒子化した)を含み、pHが5.5である懸濁液組成物が、’830特許の実施例2で提供されている。’830特許は、モキシフロキサシンおよびデキサメタゾンリン酸エステルを含む溶液組成物については特に何も開示していない。
【0003】
デキサメタゾンリン酸エステルはデキサメタゾンの既知の1つの形態である。例として、米国特許第2,939,873号を参照されたい。デキサメタゾンのこの形態は、局所眼用および局所耳用の組成物中で用いられてきた。たとえば、米国特許第5,679,665号を参照されたい。
【0004】
求められているのは、眼および耳への局所投与に好適な、安定性があり、保存された、複数回用量のモキシフロキサシンおよびデキサメタゾンの溶液組成物である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の組成物は、モキシフロキサシンおよびデキサメタゾンの水溶性の組成物である。この組成物は、安定性があり、保存された、複数回用量の溶液組成物である。この組成物は、眼または耳に局所的に投与可能で、モキシフロキサシン塩酸塩と、デキサメタゾンリン酸エステルと、エデト酸二ナトリウムと、イオン性等張化剤と、ホウ酸と、非イオン性界面活性剤と、塩化ベンザルコニウムまたはソルビトールのいずれか一方とから実質的になる。この組成物は7.5〜8.1のpHを有する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
特に明記のない限り、全ての成分の濃度は%質量/体積(%w/v)の単位で示すものとする。
【0007】
モキシフロキサシンは、好ましくは本発明の組成物中に薬学的に許容される塩の形態で存在する。最も好ましくは、モキシフロキサシンはモキシフロキサシン塩酸塩の形態で存在する。この組成物は、遊離塩基として約0.5%に相当する量でモキシフロキサシンを含む。本発明の組成物中のモキシフロキサシン塩酸塩の量は0.5〜0.6%であり、最も好ましくは0.545%であり、これは、塩基として0.5%のモキシフロキサシンに相当する。
【0008】
モキシフロキサシンに加えて、本発明の水溶性の組成物はデキサメタゾンリン酸エステルを含む。デキサメタゾンリン酸エステルはデキサメタゾンの所要の形態である。21−アルコール形態または21−酢酸形態などのデキサメタゾンの他の既知の形態では、組成物を溶液組成物にすることができない。懸濁液組成物は眼または耳への局所投与用として溶液組成物ほど望ましくはない。懸濁液は眼の組織または耳の組織に溶液ほどは浸透しないからである。本発明の組成物はデキサメタゾンリン酸エステルを約0.1〜0.12%の量で含む。好ましくは、本発明の組成物はデキサメタゾンリン酸エステルの薬学的に許容される塩を約0.1〜0.12%のデキサメタゾンリン酸エステルに相当する量で含む。たとえば、本発明の組成物はデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムを0.10〜0.132%の量で含んでもよい。最も好ましくは、本発明の組成物は0.11%のデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムを含み、これは0.1%のデキサメタゾンリン酸エステルに相当する。好ましくは、本発明の組成物はデキサメタゾンをデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムの形態で含む。
【0009】
本発明の組成物はホウ酸を0.2〜0.4%の量で、好ましくは0.3%の量で含む。
【0010】
本発明の組成物中にエデト酸二ナトリウムが0.005〜0.02%の量で存在する。最も好ましくは、エデト酸二ナトリウムは0.01%の量で存在する。
【0011】
最終組成物が270〜330mOsm/Kgの重量モル浸透圧濃度を有するのに十分な量で、イオン性等張化剤が本発明の組成物に加えられる。好ましくは、イオン性等張化剤は塩化ナトリウムであり、0.5〜0.75%の量で存在する。最も好ましくは、本発明の組成物は0.62%のNaClを含む。
【0012】
本発明の組成物は、ポリソルベート界面活性剤、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドのブロック共重合体の界面活性剤(たとえばプルロニック界面活性剤またはテトロニック界面活性剤)、またはチロキサポールなどの耳用および眼用に許容される非イオン性界面活性剤を含む。好ましくは、この組成物は非イオン性界面活性剤を0.04〜0.06%の量で含む。最も好ましくは、非イオン性界面活性剤はチロキサポールであり、本発明の組成物中のチロキサポールの量は0.05%である。
【0013】
この組成物は、塩化ベンザルコニウムおよびソルビトールからなる群から選択される、保存剤成分または保存性を高める成分を含む。好ましくは、本発明の組成物は、局所耳用投与用として意図される場合には塩化ベンザルコニウムを含み、局所眼用投与用として意図される場合にはソルビトールを含む。組成物中の塩化ベンザルコニウムの量は、含む場合、0.005〜0.015%であり、好ましくは0.01%である。本発明の組成物中のソルビトールの量は、含む場合、0.1〜0.3%であり、好ましくは0.2%である。
【0014】
本発明の水溶液のpHは眼用に許容されるpH調整剤を用いて調整される。眼用に許容されるpH調整剤は既知であり、塩酸(HCl)および水酸化ナトリウム(NaOH)を含むがこれらに限定されるものではない。本発明の組成物は、所望するpHを得るために、好ましくはNaOHまたはHClを含む。本発明の組成物は、商業的に許容される有効期間中、組成物を安定に保持するために狭いpH領域内で処方され、管理される。本発明の組成物はpH7.5〜8.1を有し、最も好ましくは7.8〜8.0を有する。
【0015】
本発明の組成物は、好ましくは、眼または耳に液滴を送達するために設計された複数回用量のプラスチック容器に充填される。好ましくは、プラスチックは低密度ポリエチレン(low density polyethylene:LDPE)またはポリプロピレンである。最も好ましくは、プラスチックはLDPEである。
【0016】
以下の実施例は本発明を説明することを意図するものであるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
【0018】
【数1】

(実施例2)
【0019】
【数2】

(実施例3)
【0020】
【数3】

(実施例4)
【0021】
【数4】

(実施例5)
実施例4の組成物の3ロットに対して物理的安定性試験(透明性、目視検査による沈殿物、およびpH安定性)を実施した。組成物の諸試料は8mLの不透明なLDPEのボトルに入れて以下の条件で保管した。すなわち、4℃/35%の相対湿度;25℃/40%の相対湿度;25℃/40%の相対湿度(ボトルを水平状態に保管);30℃/65%の相対湿度;40℃/<25%の相対湿度;光キャビネット(25℃/40%の相対湿度で、総照度は少なくとも120万ルクス時であり、近紫外線エネルギーの総和は少なくとも200ワット時/平方メートルである);光キャビネットおよび段ボール箱中のLDPEのボトルに格納;−20℃で28時間凍結した後30℃で28時間融解を1週間で、合計では1週間に3サイクルというサイクル条件(cycling conditions:CY)、である。結果を表1〜3に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

(実施例6)
実施例4の組成物中の種々の濃度のチロキサポールの安定効果を凍結融解サイクル試験で調査した。各サイクルは、−20℃で24時間、その後室温で24時間、からなるものとした。組成物は、エチレンオキサイドガスを用いて滅菌したLDPE容器またはガラス容器に入れて保管した。結果を表4(LDPE容器)および表5(ガラス容器)に示す。
【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

(実施例7)
モキシフロキサシンおよびデキサメタゾンリン酸エステルの下記の溶液組成物の物理的安定性を試験した。結果を以下の表6〜9に示す。
【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
【表8】

【0030】
【表9】

(実施例10)
実施例2の組成物に保存効力試験を実施した。米国薬局方(United States Pharmacopeia:USP)および欧州薬局方(European Pharmacopoeia:Ph.Eur.)に記載されている方法に従い、生物チャレンジ試験を用いて抗菌保存効力を測定した。諸試料に下記の1種以上の既知量を接種した。すなわち、グラム陽性の増殖性細菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538)およびグラム陰性の増殖性細菌(Pseudomonas aeruginosa ATCC 9027およびEscherichia coli ATCC 8739)、酵母(Candida albicans ATCC 10231)ならびにカビ(Aspergillus niger ATCC 16404)である。その後試料を指定された時間間隔で取り出し、製剤中に意図的に導入した生物をこの抗菌保存系が死滅させるか、または増殖を阻止することが可能であるかどうかを測定した。抗菌作用の速度またはレベルはUSPおよび/またはPh.Eur.の眼用製剤用の保存効力基準に準拠して測定している。
【0031】
眼用製剤用の公定の保存基準は以下に示す通りである。
【0032】
【数5】

【0033】
【数6】

微生物チャレンジ試験の結果を以下の表10に示す。
【0034】
【表10】

(実施例11)
実施例4の組成物に実施例10に記載したものと同じ保存効力試験を実施した。さらに、種々の濃度の塩化ベンザルコニウムを含む類似の組成物を試験した。この諸組成物および保存効力試験の結果を表11に示す。
【0035】
【表11】

本発明は、特定の好ましい実施形態を参照することにより説明してきた。しかし当然のことながら、本発明は、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、本発明の他の具体的な形態または変更形態において具現化されてもよい。したがって、本発明の範囲は上述の説明よりもむしろ添付の特許請求の範囲によって示されているので、上記の実施形態は全ての点で実例となるものであり、限定的なものではないとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)0.5〜0.6%(w/v)のモキシフロキサシンまたはその薬学的に許容される塩と、
b)0.10〜0.12%(w/v)のデキサメタゾンリン酸エステル、または0.10〜0.12%(w/v)のデキサメタゾンリン酸エステル(dexamethsone phosphate)に相当する量のその薬学的に許容される塩と、
c)0.005〜0.02%(w/v)のエデト酸二ナトリウムと、
d)0.5〜0.75%(w/v)の塩化ナトリウムと、
e)0.2〜0.4%(w/v)のホウ酸と、
f)0.1〜0.3%(w/v)のソルビトールまたは0.005〜0.015%の塩化ベンザルコニウムのいずれか一方と、
g)0.04〜0.06%(w/v)の量の非イオン性界面活性剤と、
h)前記組成物がpH7.5〜8.1を有するのに十分な量のpH調整剤と、
i)水と、
から実質的になる、水溶性の、保存された、複数回用量の、局所的に投与可能な、眼用または耳用の溶液組成物。
【請求項2】
前記組成物が眼用組成物であって、前記組成物が
a)0.545%(w/v)のモキシフロキサシン塩酸塩と、
b)0.11%(w/v)のデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムと、
c)0.01%(w/v)のエデト酸二ナトリウムと、
d)0.5〜0.75%(w/v)の塩化ナトリウムと、
e)0.3%(w/v)のホウ酸と、
f)0.2%(w/v)のソルビトールと、
g)0.05%(w/v)のチロキサポールと、
h)前記組成物がpH7.8〜8.0を有するのに十分な量のNaOHまたはHClと、
i)水と、
から実質的になる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が耳用組成物であって、前記組成物が
a)0.545%(w/v)のモキシフロキサシン塩酸塩と、
b)0.11%(w/v)のデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムと、
c)0.01%(w/v)のエデト酸二ナトリウムと、
d)0.5〜0.75%(w/v)の塩化ナトリウムと、
e)0.3%(w/v)のホウ酸と、
f)0.01%(w/v)の塩化ベンザルコニウムと、
g)0.05%(w/v)のチロキサポールと、
h)前記組成物がpH7.8〜8.0を有するのに十分な量のNaOHまたはHClと、
i)水と、
から実質的になる請求項1に記載の組成物。


【公表番号】特表2011−504881(P2011−504881A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535114(P2010−535114)
【出願日】平成20年11月24日(2008.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/084532
【国際公開番号】WO2009/070530
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】