説明

モザイク荷電膜およびその製造方法

【課題】カチオン性重合体のドメインとアニオン性重合体のドメインとが膜の表裏面まで連通しており、塩の透過流速が大きく、また基材を用いなくても機械的強度に優れたモザイク荷電膜の製造方法を提供する。
【解決手段】カチオン性重合体を含むカチオン繊維とアニオン性重合体を含むアニオン繊維とを織成して織布とし、該織布に熱プレス処理を行うことにより前記カチオン繊維と前記アニオン繊維とを熱接着させてシートを形成し、該シートを架橋処理してモザイク荷電膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モザイク荷電膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モザイク荷電膜は、カチオン交換ドメインとアニオン交換ドメインが交互に配列し、各ドメインが膜の一面から他面まで連続した荷電構造を有する膜である。モザイク荷電膜は、かかる荷電構造によって、外部からの電流を必要とすることなく対象溶液中の低分子量イオンの透過を促進することができる。カチオン交換ドメインとアニオン交換ドメインが交互に並べられると、各ドメインが帯びる電荷が互いに逆であるため、膜の両側の塩溶液部分が抵抗となる電気回路ができる。その回路に流れる電流のようにカチオンとアニオンがそれぞれカチオン交換ドメイン、アニオン交換ドメインを通って輸送されることで循環電流が生じ、塩の輸送が促進される。このことはモザイク荷電膜が、外部からの電流が必要な、一種類の固定電荷を有するイオン交換膜と異なり、イオン輸送を引き起こす機構を膜自体に内在させていることを意味する。
【0003】
モザイク荷電膜として種々の手法により作製したものが報告されている。特許文献1には、ブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用して作製したモザイク荷電膜を用いる有機化合物の脱塩方法が記載されている。しかしながら、ブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用してモザイク荷電膜を作製する方法は、所望の構造のブロック共重合体を得るために高度な技術が必要であり、操作も煩雑なため、高コストになり、工業的に実用性のある大面積のモザイク荷電膜を効率よく安価に製造することは困難である。また、カチオン交換ドメインおよびアニオン交換ドメインがそれぞれ膜の一面から他面まで連続するように構造形成することは困難であるため、高い塩選択透過性を達成することは困難である。
【0004】
特許文献2には、膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液に陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程;および前記ポリマー分散液を基材上に塗布および延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程を行うことを特徴とする、モザイク荷電膜の製造方法が記載されている。この方法により得られたモザイク荷電膜は、圧透析実験において圧力上昇とともに塩透過量も増加することが記載されている。しかし、このモザイク荷電膜では膜マトリックスとイオン交換樹脂との界面において水や中性溶質の漏れが生じる上、カチオン交換ドメインおよびアニオン交換ドメインがそれぞれ膜の一面から他面まで連続するように構造形成することは困難であるため、高い塩選択透過性を達成することは困難である。
【0005】
特許文献3には、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーのいずれか一方のイオン性ポリマーが形成する架橋連続相中に、連続相形成ポリマーと少なくとも反対イオン性のポリマーが平均粒子径0.01〜10μmの架橋粒子として分散してなるカチオン性ポリマードメインとアニオン性ポリマードメインからなるモザイク荷電膜を製造する方法において、前記膜の連続相を形成するいずれか一方のイオン性ポリマーの溶液に少なくとも連続相形成ポリマーと反対イオン性のポリマーの球状微粒子を分散させた分散液を用いて膜を形成し、該膜中の少なくとも連続相を架橋させ、次いで水または水溶液浸漬処理することを特徴とするモザイク荷電膜の製造方法が記載されている。この方法で製造される膜は、ドメインサイズや膜厚の調製が容易であり、また最大の利点は比較的容易に大面積の膜の作製が可能である点である。しかし、この製造方法では、平均粒子径が小さい重合体微粒子を調製しなければならず、高度な技術および長時間を要するといった問題がある。しかも得られるモザイク荷電膜は、含水性の高いミクロゲルで構成されているため、耐圧性が非常に低く、特に構造上、膜マトリックスと陽、陰ミクロゲル界面との接着性が完全ではないため、高い電解質透過性を有するモザイク荷電膜の作製が困難であり、また機械的強度も十分とは言えない。そのため、拡散透析用の膜としては使用可能であるものの、圧透析用の膜としては使用に耐えないか、もしくは耐久性に極めて劣るといった欠点を有する。また、球状微粒子として分散させた一方のイオン性ポリマーが膜の一面から他面まで連続するように構造形成することが困難であるため、高い塩選択透過性を達成することは困難である。
【0006】
非特許文献1には、積層法によって作製されたモザイク荷電膜が記載されている。当該積層法では、ポリビニルアルコールとポリアニオンから陽イオン交換膜を、ポリビニルアルコールとポリカチオンから陰イオン交換膜を作製し、これらをポリビニルアルコールを接着剤として交互に貼り合わせることにより積層荷電ブロックを作製し、得られたブロックを積層面と垂直にラボカッターで切断した後、架橋処理を行うことによって、約150μmの膜厚を有する積層モザイク荷電膜を作製している。このようにして得られた積層モザイク荷電膜のKClの塩流束JKClは3.0×10−9mol・cm−2・s−1、電解質選択透過性αは2300と非常に高い値を示すことが記載されている。引張強度は荷電層と平行な方向で5.7MPaであったが、垂直方向で2.7MPaであり、拡散透析用には使用可能であるが、圧透析用に使用するには、より強度を高める必要がある。
【0007】
非特許文献2には、ポリビニルアルコールを膜マトリックスとするポリマーブレンド法によって作製されたモザイク荷電膜が記載されている。当該ポリマーブレンド法では、ポリビニルアルコールとイタコン酸基を含有するビニル化合物を2mol%共重合組成として含有する変性PVAポリアニオンの水溶液に、イタコン酸基のカルボキシル基からの水素イオンの解離を抑制するために塩酸を加えて酸性にした溶液と、ポリビニルアルコールとポリアリルアミン塩酸塩水溶液とを混合することでポリマーブレンド水溶液を調製した。この溶液をガラス板などにキャストして膜を得た後、化学的架橋を行うことによってモザイク荷電膜を得ている。このようにして得られたモザイク荷電膜のKClの塩流束JKClは1.7×10−8mol・cm−2・s−1であり、電解質選択透過性αは48を示すことが記載されているが、より高い電解質選択透過性が望まれている。また、酸性溶液では塩選択透過性が低下するという問題も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−203613号公報
【特許文献2】特開2006−297338号公報
【特許文献3】特開平8−155281号公報
【特許文献4】特開昭59−187003号公報
【特許文献5】特開昭59−189113号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Membr.Sci.,Vol.310,p.466(2008).
【非特許文献2】繊維学会予稿集 Vol.56,No.1,p.33(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、カチオン性重合体のドメインとアニオン性重合体のドメインとがいずれも膜の表裏面まで連続しており、塩の透過流速が大きく、また機械的強度に優れたモザイク荷電膜の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、カチオン性重合体を含むカチオン繊維とアニオン性重合体を含むアニオン繊維とを織成して織布とし、該織布に熱プレス処理を行うことにより前記カチオン繊維と前記アニオン繊維とを熱接着させてシートを形成し、該シートを架橋処理することを特徴とするモザイク荷電膜の製造方法を提供することによって解決される。
【0012】
このとき、前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が親水性重合体であることが好適であり、前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が、イオン基を含有するポリビニルアルコールであることが好適である。前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が、イオン性単量体を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有する、ブロック共重合体またはグラフト共重合体であることが好適であり、前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が0.1モル%以上のイオン性単量体単位を含有することが好適である。前記カチオン繊維および/またはアニオン繊維がマルチフィラメントであって、その単繊維の平均径が10〜100μmであることが好適であり、前記カチオン繊維および/またはアニオン繊維を湿式紡糸法により得ることが好適である。また、1.2倍から20倍の全延伸倍率で延伸することにより前記カチオン繊維および/またはアニオン繊維を得ることも好適である。
【0013】
また、上記課題は、カチオン性重合体を含むカチオン繊維とアニオン性重合体を含むアニオン繊維とを織成して織布とし、該織布に熱プレス処理を行うことにより前記カチオン繊維と前記アニオン繊維とを熱接着してシートを形成し、該シートが架橋処理されてなることを特徴とするモザイク荷電膜を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のモザイク荷電膜の製造方法により、塩の透過流束が大きく、かつ機械的強度に優れたモザイク荷電膜を容易に作製することができる。こうして得られるモザイク荷電膜は、カチオン性重合体のドメインとアニオン性重合体のドメインとがいずれも膜の表裏面まで連通しており、塩の透過流速が大きく、また機械的強度に優れる。また、電解質と非電解質の分離や、電解質の除去(脱塩)などを効率よく行うことができ、拡散透析にも圧透析にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】圧透析試験装置を示した図である。
【図2】本発明で用いられた紡糸装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、カチオン性重合体を含むカチオン繊維とアニオン性重合体を含むアニオン繊維とを織成し、得られた織布に対して熱プレス処理を行うことにより前記カチオン繊維と前記アニオン繊維とを熱接着させてシートを形成し、該シートを架橋処理することを特徴とするモザイク荷電膜の製造方法である。これにより、塩の透過流速が大きく、かつ機械的強度に優れたモザイク荷電膜を容易に作製することができる。こうして得られるモザイク荷電膜は、カチオン性重合体のドメインとアニオン性重合体のドメインとがいずれも膜の表裏面まで連続しており、塩の透過流速が大きく、また機械的強度に優れる利点を有する。特に、延伸された繊維を用いることにより、カチオン性重合体およびアニオン性重合体が配向結晶化されてミクロ相分離によるイオン基の集中が生じるとともに、含水率を下げて荷電密度を上げることができ、モザイク荷電膜の性能を向上させることができる。
【0017】
本発明で用いられるカチオン性重合体は、分子鎖中にカチオン基を含有する重合体である。当該カチオン基は主鎖、側鎖、末端のいずれに含まれていても構わない。カチオン基としては、アンモニウム基、イミニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基などが例示される。また、アミノ基やイミノ基のように、水中において少なくともその一部が、アンモニウム基やイミニウム基に変換し得る官能基も、カチオン基に含まれる。この中で、工業的に入手し易い観点から、アンモニウム基が好ましい。アンモニウム基としては、1級アンモニウム基(アンモニウム基)、2級アンモニウム基(アルキルアンモニウム基等)、3級アンモニウム基(ジアルキルアンモニウム基等)、4級アンモニウム基(トリアルキルアンモニウム基等)のいずれを用いることもできるが、4級アンモニウム基(トリアルキルアンモニウム基等)がより好ましい。カチオン性重合体は、1種類のみのカチオン基を含有していてもよいし、複数種のカチオン基を含有していてもよい。また、カチオン基の対アニオンは特に限定されず、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオンなどが例示される。この中で、入手の容易性の点から、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオンがより好ましい。カチオン性重合体は、1種類のみの対アニオンを含有していてもよいし、複数種の対アニオンを含有していてもよい。
【0018】
本発明で用いられるカチオン性重合体は、上記カチオン基を含有する構造単位のみからなる重合体であってもよいし、上記カチオン基を含有しない構造単位をさらに含む重合体であってもよい。また、これらの重合体は架橋性を有するものであることが好ましい。カチオン性重合体は、1種類のみの重合体からなるものであってもよいし、複数種のカチオン性重合体を含むものであってもよい。また、これらカチオン性重合体と別の重合体との混合物であっても構わない。ここでカチオン性重合体以外の重合体はアニオン性重合体でないことが望ましい。
【0019】
カチオン性重合体としては、以下の一般式(1)〜(8)の構造単位を有するものが例示される。
【0020】
【化1】

[式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表わす。R、R、Rは、相互に連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい。Zは−O−、−NH−、または−N(CH)−を表し、Yは酸素、窒素、硫黄またはリン原子を含んでもよい総炭素数1〜8の二価の連結基を表す。Xはアニオンを表す。]
【0021】
一般式(1)中の対アニオンXとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオンなどが例示される。一般式(1)で表わされる構造単位を含有するカチオン性重合体しては、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなど3−(メタ)アクリルアミド−アルキルトリアルキルアンモニウム塩の単独重合体または共重合体などが例示される。
【0022】
【化2】

[式中、Rは水素原子またはメチル基を表わす。R、R、R、およびXは一般式(1)と同義である。]
【0023】
一般式(2)で表わされる構造単位を含有するカチオン性重合体としては、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩の単独重合体または共重合体などが例示される。
【0024】
【化3】

[式中、R、R、およびXは一般式(1)と同義である。]
【0025】
【化4】

[式中、R、R、およびXは一般式(1)と同義である。]
【0026】
一般式(3)および一般式(4)で表わされる構造単位を含有するカチオン性重合体としては、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどジアリルジアルキルアンモニウム塩が環化重合して得られる単独重合体または共重合体が例示される。
【0027】
【化5】

[式中、nは0または1を表わす。RおよびRは一般式(1)と同義である。]
【0028】
一般式(5)で表わされる構造単位を含有するカチオン性重合体としては、アリルアミンの単独重合体または共重合体が例示される。
【0029】
【化6】

[式中、nは0または1を表わす。R、R、R、およびXは一般式(1)と同義である。]
【0030】
一般式(6)で表わされる構造単位を含有するカチオン性重合体としては、アリルアミン塩酸塩などアリルアンモニウム塩の単独重合体または共重合体が例示される。
【0031】
【化7】

[式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは−CH(OH)CH−、−CHCH(OH)−、−C(CH)(OH)CH−、−CHC(CH)(OH)−、−CH(OH)CHCH−、または−CHCHCH(OH)−を表す。Eは−N(Rまたは−N(R・Xを表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。Xはアニオンを表す。]
【0032】
一般式(7)で表わされる構造単位を含有するカチオン性重合体として、N−(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ジメチルアミンまたはその4級アンモニウム塩の単独重合体または共重合体、N−(4−アリルオキシ−3−ヒドロキシブチル)ジエチルアミンまたはその4級アンモニウム塩の単独重合体または共重合体が例示される。
【化8】

[式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基、Rは水素原子、メチル基、およびエチル基をそれぞれ表わす。]
【0033】
一般式(8)で表わされる構造単位を含有するカチオン性重合体として、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等が例示される。
【0034】
本発明で用いられるアニオン性重合体は、分子鎖中にアニオン基を含有する重合体である。当該アニオン基は主鎖、側鎖、末端のいずれに含まれていても構わない。アニオン基としては、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基などが例示される。また、スルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基のように、水中において少なくともその一部が、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基に変換し得る官能基も、アニオン基に含まれる。この中で、イオン解離定数が大きい点から、スルホネート基が好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみのアニオン基を含有していてもよいし、複数種のアニオン基を含有していてもよい。また、アニオン基の対カチオンは特に限定されず、水素イオン、アルカリ金属イオン、などが例示される。この中で、設備の腐蝕問題が少ない点から、アルカリ金属イオンが好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみの対カチオンを含有していてもよいし、複数種の対カチオンを含有していてもよい。
【0035】
本発明で用いられるアニオン性重合体は、上記アニオン基を含有する構造単位のみからなる重合体であってもよいし、上記アニオン基を含有しない構造単位をさらに含む重合体であってもよい。また、これらの重合体は架橋性を有するものであることが好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみの重合体からなるものであってもよいし、複数種のアニオン性重合体を含むものであってもよい。また、これらアニオン性重合体と別の重合体との混合物であっても構わない。ここでアニオン性重合体以外の重合体はカチオン性重合体でないことが望ましい。
【0036】
アニオン性重合体としては、以下の一般式(9)および(10)の構造単位を有するものが例示される。
【0037】
【化9】

[式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Gは−SOH、−SO、−POH、−PO、−COHまたは−COを表す。Mはアンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンを表す。]
【0038】
一般式(9)で表わされる構造単位を含有するアニオン性重合体としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の単独重合体または共重合体などが例示される。
【0039】
【化10】

[式中、Rは水素原子またはメチル基を表わし、Tは水素原子がメチル基で置換されていてもよいフェニレン基またはナフチレン基を表わす。Gは一般式(9)と同義である。]
【0040】
一般式(10)で表わされる構造単位を含有するアニオン性重合体としては、p−スチレンスルホン酸ナトリウムなどp−スチレンスルホン酸塩の単独重合体または共重合体などが例示される。
【0041】
また、アニオン性重合体としては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などのスルホン酸またはその塩の単独重合体または共重合体、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸、その誘導体またはその塩の単独重合体または共重合体なども例示される。
【0042】
一般式(9)または(10)において、Gは、より高い荷電密度を与えるスルホネート基、スルホン酸基、ホスホネート基、またはホスホン酸基であることが好ましい。また一般式(9)および一般式(10)中、Mで表わされるアルカリ金属イオンとしてはナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられる。
【0043】
カチオン性重合体またはアニオン性重合体から選択されるイオン性重合体が、共重合体である場合の共重合成分としては、ビニルアルコール成分が好適なものとして挙げられる。カチオン基またはアニオン基から選択されるイオン基を含有する重合体と、カチオン基またはアニオン基から選択されるイオン基を含有しない重合体との混合物を用いる場合、イオン基を含有しない重合体としてはイオン基を含有する重合体と親和性の高いものが好適に用いられる。具体的には、ポリビニルアルコールおよびポリアクリルアミドからなる群から選択される1種が好適に用いられる。その中でも、架橋性の高さからポリビニルアルコールがより好適に用いられる。
【0044】
本発明により得られるモザイク荷電膜においては、カチオン性重合体およびアニオン性重合体が親水性重合体であることが好ましく、このことにより被処理液中の有機汚染物質の付着による汚染を抑制できる利点を有する。ここでカチオン性重合体およびアニオン性重合体が親水性重合体であるとは、上記カチオン性重合体およびアニオン性重合体であるために必要な官能基がない構造において親水性を有することを意味する。このように、カチオン性重合体およびアニオン性重合体が親水性重合体であることにより、親水性度の高いモザイク荷電膜が得られ、被処理液中の有機汚染物質がモザイク荷電膜に付着して膜の性能を低下させる問題を低減できる。また、膜強度が高くなる。
【0045】
親水性のカチオン性重合体としては、カチオン基を含有するポリビニルアルコール、カチオン基を含有するセルロース誘導体、カチオン基を含有するポリアクリルアミド、カチオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物、カチオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しないセルロース誘導体との混合物、カチオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しないポリアクリルアミドとの混合物などが例示される。この中で、カチオン基を含有するポリビニルアルコール、またはカチオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物であることが好ましい。ポリビニルアルコール単位を有する重合体を用いることが、モザイク荷電膜の強度、物理的または化学的架橋性の点から好ましい。その中でも、入手容易である点から、メタクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩とポリビニルアルコール成分との共重合体、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩とポリビニルアルコール成分との共重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とポリビニルアルコール成分との共重合体、メタクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩の重合体とポリビニルアルコールとの混合物、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩の重合体とポリビニルアルコールとの混合物、またはジアリルジアルキルアンモニウム塩の重合体とポリビニルアルコールとの混合物が特に好ましい。カチオン基を含有するポリビニルアルコール、またはカチオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物においては、カチオン性重合体中の単量体単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合が、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。カチオン性重合体が親水性重合体である場合、1種類の親水性重合体であってもよいし、複数種の親水性重合体の混合物であってもよい。また、親水性重合体と非親水性重合体との混合物であってもよい。また、親水性または非親水性のカチオン性重合体以外の重合体を含んでいても良い。ここでカチオン性重合体以外の重合体はアニオン性重合体でないことが望ましい。
【0046】
親水性のアニオン性重合体としては、アニオン基を含有するポリビニルアルコール、アニオン基を含有するセルロース誘導体、アニオン基を含有するポリアクリルアミド、アニオン基を含有する重合体とアニオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物、アニオン基を含有する重合体とアニオン基を含有しないセルロース誘導体との混合物、アニオン基を含有する重合体とアニオン基を含有しないポリアクリルアミドとの混合物などが例示される。この中で、アニオン基を含有するポリビニルアルコール、またはアニオン基を含有する重合体とアニオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物であることが好ましい。ポリビニルアルコール単位を有する重合体を用いることが、モザイク荷電複層膜の強度、物理的または化学的架橋の点から好ましい。その中でも、入手容易である点から、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩成分とビニルアルコール成分との共重合体、p−スチレンスルホン酸塩成分とビニルアルコール成分との共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩の重合体とポリビニルアルコールとの混合物、またはポリスチレンスルホン酸塩の重合体とポリビニルアルコールとの混合物が特に好ましい。アニオン基を含有するポリビニルアルコール、またはアニオン基を含有する重合体とアニオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物においては、アニオン性重合体中の単量体単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合が、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。アニオン性重合体が親水性重合体である場合、1種類の親水性重合体であってもよいし、複数種の親水性重合体の混合物であってもよい。また、親水性重合体と非親水性重合体との混合物であってもよい。また、親水性または非親水性のカチオン性重合体以外の重合体を含んでいても良い。ここでアニオン性重合体以外の重合体はカチオン性重合体でないことが望ましい。
【0047】
本発明において、前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が、イオン基を含有するポリビニルアルコールであることが好ましい。中でも、カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体として、イオン性単量体を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有する、ブロック共重合体またはグラフト共重合体が好適に用いられ、ブロック共重合体がより好適に用いられる。こうすることにより、イオン性重合体がミクロ相分離して、モザイク荷電膜全体の強度の向上、膜の膨潤度の抑制、および形状保持についての機能を担うポリビニルアルコール成分と、陽イオンまたは陰イオンを透過させる機能を担うイオン性単量体を重合してなる重合体成分とが役割分担でき、モザイク荷電膜のイオン透過機能と寸法安定性とを両立することができる。イオン性単量体を重合してなる重合体成分の構造単位は特に限定されないが、前記一般式(1)〜(10)で表わされるものなどが例示される。この中で、入手容易である点から、カチオン性重合体としては、メタクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有するブロック共重合体、ビニルベンジルトリアルキル塩を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有するブロック共重合体、またはジアリルジアルキルアンモニウム塩を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有するブロック共重合体が好ましく用いられる。また、アニオン性重合体としては、p−スチレンスルホン酸塩を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有するブロック共重合体、または2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有するブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0048】
本発明で用いられるイオン性単量体を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有するブロック共重合体の製造方法は主に次の2つの方法に大別される。すなわち、(1)所望のブロック共重合体を製造した後、特定のブロックにイオン基を結合させる方法、および(2)少なくとも1種類のイオン性単量体を重合させて所望のブロック共重合体を製造する方法である。このうち、(1)については、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下、1種類または複数種の単量体をブロック共重合させ、次いでブロック共重合体中の1種類または複数種の重合体成分にイオン基を導入する方法、(2)については、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下、少なくとも1種類のイオン性単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体を製造する方法が工業的な容易さから好ましい。特に、ブロック共重合体中のポリビニルアルコール成分とイオン性単量体を重合してなる重合体成分の各成分の種類や量を容易に制御できることから、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下、少なくとも1種類のイオン性単量体をラジカル重合させてブロック共重合体を製造する方法が好ましい。こうして得られるイオン性単量体を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有するブロック共重合体には、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールが未反応のまま含まれていても構わない。
【0049】
これらのブロック共重合体の製造に用いられる、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体は、例えば、特許文献4などに記載されている方法により得ることができる。すなわち、チオール酸の存在下にビニルエステル系単量体、例えば酢酸ビニルをラジカル重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化する方法が挙げられる。このようにして得られる末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールと、イオン性単量体とを用いてブロック共重合体を得る方法としては、例えば、特許文献5などに記載された方法が挙げられる。すなわち、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの存在下にイオン性単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体を得ることができる。このラジカル重合は公知の方法、例えばバルク重合、溶液重合、パール重合、乳化重合などによって行うことができるが、末端にメルカプト基を含有するポリビニルアルコールを溶解し得る溶剤、例えば水やジメチルスルホキシドを主体とする媒体中で行うのが好ましい。また、重合プロセスとしては、回分法、半回分法、連続法のいずれをも採用することができる。
【0050】
イオン性重合体のイオン性単量体単位の含有量は特に限定されないが、イオン性重合体のイオン性単量体単位の含有量、すなわち、イオン性重合体中の単量体単位の総数に対するイオン性単量体単位の数の割合が、0.1モル%以上であることが好ましい。イオン性単量体単位の含有量が0.1モル%未満だと、モザイク荷電膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。イオン性単量体単位の含有量が0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましい。また、イオン性単量体単位の含有量は50モル%以下であることが好ましい。イオン性単量体単位の含有量が50モル%を超えると、モザイク荷電膜の膨潤度が高くなり、モザイク荷電膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。イオン性単量体単位の含有量が30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。イオン性重合体が、イオン基を含有する重合体とイオン基を含有しない重合体との混合物である場合や、イオン基を含有する重合体の複数種の混合物である場合のイオン性単量体単位の含有量は、混合物中の単量体単位の総数に対するイオン性単量体単位の数の割合をいう。
【0051】
カチオン性重合体またはアニオン性重合体から選択されるイオン性重合体における、イオン基以外の部分の構造単位は、それぞれ独立に選択することができるが、カチオン性重合体とアニオン性重合体とが、同一の構造単位を有することが好ましい。これにより、ドメイン同士の間の親和性が高くなるため、モザイク荷電膜の機械的強度が増大する。同一の構造単位を、カチオン性重合体およびアニオン性重合体の両方が、50モル%以上有していることが好ましく、70モル%以上有していることがより好ましい。
【0052】
また、親水性であることから、同一の構造単位がポリビニルアルコール単位であることが特に好ましい。カチオン性重合体およびアニオン性重合体がビニルアルコール単位を有することにより、グルタルアルデヒドなどの架橋処理剤によりドメイン同士の間を化学的に架橋することができるので、モザイク荷電膜の機械的強度をさらに高くすることもできる。
【0053】
同一の構造単位がビニルアルコール単位である場合の具体例として、カチオン性重合体のドメインが、カチオン基を含有するポリビニルアルコール、またはカチオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物からなり、アニオン性重合体のドメインが、アニオン基を含有するポリビニルアルコール、またはアニオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しないポリビニルアルコールとの混合物からなる場合が挙げられる。
【0054】
本発明において、カチオン基またはアニオン基から選択されるイオン基を含有するポリビニルアルコールは、イオン性単量体とビニルエステル系単量体を共重合し、これを常法によりけん化して得られる。ビニルエステル系単量体は、ラジカル重合可能なものであれば使用できる。例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられる。この中でも、酢酸ビニルが好ましい。
【0055】
イオン性単量体とビニルエステル系単量体とを共重合させる方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。それらの方法の中でも、無溶媒で行う塊状重合法、またはアルコールなどの溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。溶液重合法を採用して共重合反応を行う際に、溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。共重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、5℃〜180℃の範囲が適当である。
【0056】
イオン性単量体とビニルエステル系単量体とを共重合させることによって得られたビニルエステル系重合体は、次いで、公知の方法にしたがって溶媒中でけん化され、イオン基を含有するポリビニルアルコールへと導かれる。
【0057】
ビニルエステル系重合体のけん化反応の触媒としては通常アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましい。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和しても良く、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などが挙げられる。
【0058】
イオン基を含有するポリビニルアルコールのけん化度は特に限定されないが、40〜99.9モル%であることが好ましい。けん化度が40モル%未満だと、結晶性が低下し、モザイク荷電膜の強度が不足するおそれがある。けん化度が60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。通常、けん化度は99.9モル%以下である。このとき、前記ポリビニルアルコールが複数種のポリビニルアルコールの混合物である場合のけん化度は、混合物全体としての平均のけん化度をいう。なお、ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K6726に準じて測定した値である。本発明で用いられるイオン基を含有しないポリビニルアルコールのけん化度も、上記範囲であることが好ましい。
【0059】
イオン基を含有するポリビニルアルコールの粘度平均重合度(以下単に重合度と言うことがある)は特に限定されないが、50〜10000であることが好ましい。重合度が50未満だと、実用上でモザイク荷電膜が十分な強度を保持できないおそれがある。重合度が100以上であることがより好ましい。重合度が10000を超えると印刷に用いる重合体溶液の粘度が高すぎて扱えないおそれがある。重合度が8000以下であることがより好ましい。このとき、前記ポリビニルアルコールが複数種のポリビニルアルコールの混合物である場合の重合度は、混合物全体としての平均の重合度をいう。なお、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて測定した値である。本発明で用いられるイオン基を含有しないポリビニルアルコールの重合度も、上記範囲であることが好ましい。
【0060】
本発明のモザイク荷電膜の製造方法は、カチオン性重合体を含むカチオン繊維とアニオン性重合体を含むアニオン繊維とを織成することを特徴とする。これにより、カチオン性重合体のドメインとアニオン性重合体のドメインとがいずれも膜の表裏面まで連続することができるとともに、得られるモザイク荷電膜の機械的強度を向上させることができる。本発明において、カチオン繊維とアニオン繊維とを織成する方法としては特に限定されず、平織、綾織、朱子織等が挙げられる。カチオン性重合体のドメインとアニオン性重合体のドメインとをできるだけ均等に交互に配置させる観点から平織であることが好ましい。
【0061】
織成するにあたっては、カチオン繊維とアニオン繊維とを交互に配置することが好ましく、かかる観点から、例えば、経糸にカチオン性重合体を含む繊維を用いた場合には、緯糸にアニオン性重合体を含む繊維を用いることが好ましい。あるいは、経緯糸にカチオン性重合体を含む繊維とアニオン性重合体を含む繊維とが交互に配置されるようにして織成することも好適な実施態様である。ここで、本発明者らは、得られるモザイク荷電膜において、カチオンの荷電密度とアニオンの荷電密度との存在比を等しくした方が、モザイク荷電膜の性能を向上させることが可能になることを確認している。また、得られるモザイク荷電膜の機械的強度をより向上させる観点から、カチオン繊維およびアニオン繊維以外の繊維を混織させても構わない。このような繊維としては、例えば、レーヨン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。
【0062】
本発明で用いられるカチオン繊維およびアニオン繊維は、マルチフィラメントであってもモノフィラメントであっても構わないが、得られるモザイク荷電膜に欠陥ができにくい観点からマルチフィラメントであることが好ましい。本発明で用いられるカチオン繊維およびアニオン繊維がマルチフィラメントであって、その単繊維の平均径が10〜100μmであることが好ましい。該単繊維の平均径が10μm未満の場合、紡糸が困難となるおそれがあり、15μm以上であることがより好ましい。一方、単繊維の平均径が100μmを超える場合、得られるモザイク荷電膜に欠陥が発生するおそれがあり、80μm以下であることがより好ましい。なお、単繊維の平均径(μm)は、後述する実施例から分かるように、長さ10mの単繊維の重量(I)(g)を測定した後に計算式から単繊維の半径rを求め、単繊維の平均径(μm)を算出した。
【0063】
本発明で用いられるカチオン繊維およびアニオン繊維を湿式紡糸法により得ることが好ましい。すなわち、カチオン性重合体またはアニオン性重合体を含む紡糸原液をノズルから吐出し、凝固液中に導入して凝固させることによってカチオン繊維またはアニオン繊維を得る方法が好適に採用される。ノズルから吐出された紡糸原液は、凝固液中に導入されるが、均一に凝固する観点から、ノズルの吐出口から凝固液の液面までの間に一定距離の空間(エアギャップ)を設け、該空間を通った後に凝固液中に導入される乾湿式紡糸法を採用しても構わない。
【0064】
紡糸原液に用いられる溶媒としては、カチオン性重合体またはアニオン性重合体を溶解させることができるのであれば特に限定されず、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、グリセリン、エチレングリコール等からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。断糸がなく安定に紡糸する観点から、吐出前に紡糸原液を紡糸原液タンク中で数十分から数時間程度静置させることにより脱泡することが好ましい。
【0065】
上記紡糸原液をノズルから吐出する際、得られるカチオン繊維およびアニオン繊維の寸法に応じて、ノズルの孔径や孔数が適宜選択される。例えば、得られるカチオン繊維またはアニオン繊維がマルチフィラメントである場合、ノズルの孔数が数十から数百となるように適宜選択される。また、紡糸原液をノズルから吐出する際に、紡糸原液を加熱することが好ましい。好適な紡糸原液の温度は、50〜100℃であり、加熱することによって紡糸原液の粘度が低下して紡糸作業が容易となる。
【0066】
本発明で用いられる凝固液としては、紡糸原液に対して凝固性を示す液体であれば特に限定されず、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、硫酸ナトリウム水溶液、ヘキサンなどが好適に用いられる。凝固液の温度は、紡糸原液よりも低温であることが好ましく、具体的には0〜50℃であることが好ましい。
【0067】
本発明では、カチオン性重合体またはアニオン性重合体を含む紡糸原液をノズルから吐出し、凝固液中に導入して凝固させて糸条を得た後に、該糸条を抽出液中に導入して紡糸原液由来の溶媒を抽出する操作が好適に行われる。抽出液としては、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水などが好適に用いられる。
【0068】
また、このとき、繊維の配向の観点から湿式延伸を行うことが好ましい。湿式延伸を行う際の延伸倍率としては1.2倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。湿式延伸の延伸倍率が高くなりすぎると、得られるカチオン繊維および/またはアニオン繊維が破断するおそれがあり、湿式延伸の延伸倍率は通常、10倍以下である。
【0069】
また、本発明では、必要に応じて湿式延伸を行った後に、結晶性や強度を向上させる観点から更に乾熱延伸を行うことが好ましい。乾熱延伸を行う際の延伸倍率としては1.2倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。乾熱延伸の延伸倍率が高くなりすぎると、得られるカチオン繊維またはアニオン繊維が破断するおそれがあり、乾熱延伸の延伸倍率は通常、10倍以下である。乾熱延伸する際の温度としては特に限定されず、80〜250℃であることが好ましい。乾熱延伸する際の温度が80℃未満の場合、乾熱延伸を行うことが困難となるおそれがあり、100℃以上であることがより好ましい。一方、乾熱延伸する際の温度が250℃を超える場合、イオン基が熱分解するおそれがあり、240℃以下であることがより好ましい。
【0070】
本発明では、1.2倍から20倍の全延伸倍率で延伸することにより前記カチオン繊維およびアニオン繊維を得ることが好ましい。ここで、全延伸倍率は、湿式延伸と乾熱延伸との積で表わされる。本発明のように、全延伸倍率が1.2倍から20倍であることにより、強度の良好なカチオン繊維およびアニオン繊維を得ることができる。全延伸倍率は、4倍以上であることがより好ましく、8倍以上であることが更に好ましい。一方、全延伸倍率が20倍を超える場合、得られるカチオン繊維および/またはアニオン繊維が破断するおそれがあり、18倍以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明では、こうして得られたカチオン繊維とアニオン繊維とを織成し、得られた織布に対して熱プレス処理を行う。熱プレス処理を行うことにより、カチオン繊維とアニオン繊維とが互いに熱接着され、カチオン繊維とアニオン繊維との間に隙間がないシートを形成することができる。熱プレス処理の温度としては特に限定されないが、80〜250℃であることが好ましい。熱プレス処理の温度が80℃未満の場合、カチオン繊維とアニオン繊維との熱接着が不十分となるおそれがあり、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましい。一方、熱プレス処理の温度が250℃を超える場合、イオン基が熱分解するおそれがあり、230℃以下であることがより好ましい。また、熱プレス処理する際の圧力としては特に限定されないが、1〜10MPaであることが好ましい。
【0072】
本発明では、上記形成されたシートを架橋処理することにより、モザイク荷電膜が得られる。架橋処理を行うことにより、得られるモザイク荷電膜の機械的強度が増大する。また、荷電密度が増加するため、対イオン選択性が向上し、塩の透過流束が向上する。架橋処理の方法は、重合体の分子鎖同士を化学結合によって結合できる方法であればよく、特に限定されない。上記形成されたシートを、架橋処理剤を含む溶液に浸漬する方法などが用いられる。該架橋処理剤としては、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキザールなどが例示される。該架橋処理剤の濃度は、通常、溶液に対する架橋処理剤の体積濃度が0.001〜1体積%である。
【0073】
本発明により得られるモザイク荷電膜の厚みは特に限定されず、10〜1000μmであることが好ましい。モザイク荷電膜の厚みが10μm未満の場合、モザイク荷電膜の機械的強度が低下するおそれがあるとともに、膜に欠陥が生じてしまうおそれがあり、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが更に好ましい。一方、モザイク荷電膜の厚みが1000μmを超える場合、塩の透過流束が小さくなるおそれがあり、800μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましい。
【0074】
本発明のモザイク荷電膜は、本発明の目的を損なわない範囲で、無機フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0075】
また、本発明により得られるモザイク荷電膜の荷電密度は、特に限定されないが、0.1〜20mol・dm−3であることが好ましい。荷電密度が0.1mol・dm−3未満だと、膜の対イオン選択性に劣るおそれがある。荷電密度が0.3mol・dm−3以上であることがより好ましく、0.5mol・dm−3以上であることがさらに好ましい。膜の荷電密度が20mol・dm−3を超えると、膜の膨潤が著しく、寸法安定性が悪く、取り扱いが困難となるおそれがある。膜の荷電密度が10mol・dm−3以下であることがより好ましく、3mol・dm−3以下であることがさらに好ましい。
【0076】
本発明により得られるモザイク荷電膜は、種々の用途に用いることができる。本発明により得られるモザイク荷電膜は、塩の透過流束が大きく、かつ電解質選択透過性に優れているので、水の精製、食品や医薬原材料の脱塩、かん水や海水の脱塩、淡水化をするのに適している。また、本発明により得られるモザイク荷電膜は機械的強度に優れているので、圧透析を行うのに、特に適している。本発明のモザイク荷電膜の製造方法によれば、大面積の膜を、容易にかつ低コストで製造することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。尚、以下の実施例および比較例中、特に断りのない限り「%」および「部」は質量基準である。実施例および比較例における分析および評価は下記の方法に従って行った。
【0078】
(1)膜厚み測定
モザイク荷電膜の厚みは、デジマチック標準外側マイクロメータMDC−25MJ((株)ミツトヨ製)にて測定した。
【0079】
(2)アニオン繊維およびカチオン繊維の単繊維の平均径測定
アニオン繊維およびカチオン繊維の長さ10mの単繊維の重量(I)(g)をそれぞれ測定し、下記の計算式から単繊維の半径rを求め、単繊維の平均径(μm)を算出した。
単繊維の平均径(μm)=2r
【数1】

ここで、1.3は樹脂密度(g/cm)、πは円周率3.14である。
【0080】
(3)破壊圧力測定
ミクニ平膜試験機MK−FMT−500(ミクニキカイ(株)製)を用いて、モザイク荷電膜を加圧し、膜が破損する圧力を測定した。
【0081】
(4)圧透析試験
圧透析試験は図1に示す装置で行った。フォルダに挟んだモザイク荷電膜3の測定試料を2つのセルの間に挟み、株式会社堀場製作所製導電率電極「3552−10D」を挿入したセルI6に所定濃度のNaCl水溶液を30mL入れ、セルII7にはセルI6と同濃度のNaCl水溶液を30mL入れた。続いて、両セル内の水溶液を攪拌子4で撹拌させながら、窒素ガスボンベ1からセルII7側に窒素ガスを加え、一定圧力に維持した。その際、導電率計5を用いてセルI6中の導電率を25℃の一定温度下で測定した。試験終了後、直ちにセルI6中のNaCl水溶液の重量を測定した。
【0082】
このようにして測定したセルI6中のNaClの濃度について、時間変化の曲線を求め、この直線の初期勾配の値から、濃度の時間変化率ΔC/Δtを算出した。また、セルI6中のNaCl水溶液の重量を測定し、試験開始時と試験終了後の値の差より、ΔMをもとめ、水のモル数の時間変化率ΔM/(S×Δt)を算出した。
【0083】
NaClの流束Jは、次式により算出した。
=V×ΔC/(S×Δt)×1000
水の流束Jwは、次式により算出した。
=ΔM/(S×Δt)
・J:NaCl成分の流束[mol・m−2・s−1
・V:セルI内のイオン交換水量[m
・S:モザイク荷電膜の膜有効面積[m
・ΔC:セルI内のNaCl成分の初期濃度変化[mol/L]
・Δt:透過時間[s]
・ΔM:セルI内のNaCl水溶液の初期モル数変化[mol]
【0084】
求めたNaClの流束Jと水の流束Jを用いて、下記式からモザイク荷電膜のNaClに対する水の選択透過性αを算出した。
α=J/J
【0085】
(アニオン性重合体P−1の合成)
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた6Lのセパラブルフラスコに、酢酸ビニル2555g、メタノール925g、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムを20質量%含有するメタノール溶液35.0gを仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、かかる混合液の内温を60℃まで上げた。該混合液中に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.8g含有するメタノール20gを添加し、重合反応を開始した。重合開始時点より2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムを20質量%含有するメタノール溶液230gを反応液中に添加しながら、4時間重合反応を行った後、重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における反応液中の固形分濃度、すなわち、反応液全体に対する不揮発分の含有率は25.7質量%であった。ついで、系内にメタノール蒸気を導入することにより、未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル共重合体を55質量%含有するメタノール溶液を得た。
【0086】
このビニルエステル共重合体を55質量%含有するメタノール溶液に、該共重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル共重合体の固形分濃度が30質量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
【0087】
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、ついで、ゲル化物が生成してから1時間が経過した時点で、この粉砕物に酢酸を添加することにより中和を行い、膨潤状態の固形分を得た。該固形分に対して質量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄した後、濾過によって回収した固形分を65℃で16時間乾燥し、ポリ(ビニルアルコール−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)のランダム共重合体であるアニオン性重合体P−1を得た。得られたアニオン性重合体P−1を重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定を行ったところ、該アニオン性重合体中のアニオン性単量体含有量、すなわち、該重合体中の単量体単位の総数に対する2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム単量体単位の数の割合は2モル%であった。また、重合度は1700、けん化度は98.5モル%であった。得られた重合体の物性を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
(PVA−1の合成)
特許文献4に記載された方法(末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール系重合体およびその方法)によって、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールPVA−1を合成した。得られたPVA−1の重合度は1550、けん化度は98.5モル%であった。
【0090】
(カチオン性重合体P−2の合成)
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた5Lの四つ口セパラブルフラスコに、水1200g、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールとしてPVA−1を344g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ポリビニルアルコールを溶解した後、室温まで冷却した。該水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調整した。別に、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド27gを水300gに溶解し、これを先に調製した水溶液に攪拌下添加した後、該水溶液中に窒素をバブリングしつつ70℃まで加温し、さらに70℃で30分間窒素のバブリングを続けることで、窒素置換した。窒素置換後、上記水溶液に過硫酸カリウム(KPS)の2.5%水溶液121mLを1.5時間かけて逐次的に添加してブロック共重合を開始させ、進行させた後、系内温度を75℃に1時間維持して重合をさらに進行させ、ついで冷却して、固形分濃度18%の水溶液を得た。該水溶液を乾燥させて、ポリビニルアルコール−ジアリルジメチルアンモニウムクロライドのブロック共重合体であるカチオン性重合体P−2を得た。また、得られたカチオン性重合体P−2を重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定を行ったところ、該ブロック共重合体中のカチオン性単量体含有量、すなわち、該重合体中の単量体単位の総数に対するジアリルジメチルアンモニウムクロライド単量体単位の数の割合は2モル%であった。得られたカチオン性重合体P−2の物性を表2に示す。
【0091】
(カチオン性重合体P−3の合成)
末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールの種類と仕込み量、カチオン性単量体の種類と仕込み量、水の量、重合開始剤(過硫酸カリウム)の量などの重合条件を表1に示すように変えた以外は、カチオン性重合体P−2と同様の方法によってカチオン性重合体P−3を合成した。得られたカチオン性重合体P−3の物性を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
(アニオン性重合体P−4の合成)
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた5Lの四つ口セパラブルフラスコに、水1900g、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールとしてPVA−1を344g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ポリビニルアルコールを溶解した後、室温まで冷却した。該水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調整した。別に、p−スチレンスルホン酸ナトリウム172gを水300gに溶解し、これを先に調製した水溶液に攪拌下添加した後、該水溶液中に窒素をバブリングしつつ70℃まで加温し、さらに70℃で30分間窒素のバブリングを続けることで、窒素置換した。窒素置換後、上記水溶液に過硫酸カリウム(KPS)の2.5%水溶液121mLを1.5時間かけて逐次的に添加してブロック共重合を開始させ、進行させた後、系内温度を75℃に1時間維持して重合をさらに進行させ、ついで冷却して、固形分濃度18%の水溶液を得た。該水溶液を乾燥させて、ポリビニルアルコール−p−スチレンスルホン酸ナトリウムのブロック共重合体であるアニオン性重合体P−4を得た。また、得られたアニオン性重合体P−4を重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定を行ったところ、該ブロック共重合体中のアニオン性単量体含有量、すなわち、該重合体中の単量体単位の総数に対するp−スチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位の数の割合は10モル%であった。得られたアニオン性重合体P−4の物性を表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
(アニオン繊維A−1の作製)
1.紡糸原液の調製
環流冷却管、攪拌翼を備え付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコに、ジメチルスルホキシド616g、側鎖にスルホン酸基を有するアニオン性重合体P−1を184g仕込み、攪拌下90℃まで加熱して該ポリビニルアルコールを溶解した後、温度90℃で静置脱泡実施し、紡糸原液とした。
【0096】
2.アニオン繊維の紡糸
乾湿式紡糸によってアニオン繊維A−1を作製した。紡糸装置8の概略図を図2に示す。上記で作製した紡糸原液を紡糸原液タンク9に仕込んだ後、脱泡のため約1時間静置させた。紡糸原液の温度が紡糸中80℃となるように紡糸原液タンク9を加熱した。その後、孔径0.2mm、孔数200個のノズル10から空気中に原液を押出し、5mmのギャップを取り、温度5℃に調整した凝固浴11であるメタノール浴中に原液を浸漬させ凝固した。原液の吐出は15cc/minで押出し、凝固浴11のローラー(A)12の速度は5m/minとした。次いで、原液中のジメチルスルホキシドを抽出させるために、エタノール浴13中に浸漬させた。エタノール浴13のローラー(B)14の速度は5m/minとした。湿式延伸倍率は1(ローラーの速度比率(B)/(A)=1)であった。次いで、232℃の熱風延伸炉で2.0倍の乾熱延伸を行った(入速:7.5m/min、出速:15m/min)。得られたアニオン繊維A−1の繊維径を測定したところ、表4に示すとおり247μmであった。また、アニオン繊維A−1の単繊維の平均径は20μmであった。
【0097】
(アニオン繊維A−2〜A−5の作製)
アニオン繊維A−1において、樹脂種類、紡糸条件を表4に示した内容に変更した以外は、アニオン繊維A−1と同様の方法により、アニオン繊維A−2〜A−5を得た。得られたアニオン繊維の繊維径を表4に示す。
【0098】
(アニオン繊維A−6の作製)
1.紡糸原液の調製
アニオン性重合体P−4の濃度18%の水溶液2000gをメタノール20L中に攪拌下、徐々に加えてアニオン性重合体P−4を沈殿させて取り出し、減圧乾燥機中で40℃、6時間乾燥させてメタノールを除去した。次いで、環流冷却管、攪拌翼を備え付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコに、ジメチルスルホキシド616gおよび上記で取り出したアニオン性重合体P−4を184gを仕込み、攪拌下90℃まで加熱して該ポリビニルアルコールを溶解した後、温度90℃で静置脱泡実施し、紡糸原液とした。
【0099】
2.アニオン繊維の紡糸
上記紡糸原液の調製により得られた紡糸原液を用い、紡糸条件を表4に示した内容に変更した以外は、アニオン繊維A−1と同様の方法により、アニオン繊維A−6を得た。得られたアニオン繊維A−6の繊維径を表4に示す。
【0100】
(アニオン繊維A−7〜A−10の作製)
アニオン繊維A−6において、樹脂種類、紡糸条件を表4に示した内容に変更した以外は、アニオン繊維A−6と同様の方法により、アニオン繊維A−7〜A−10を得た。得られたアニオン繊維の繊維径を表4に示す。
【0101】
【表4】

【0102】
(カチオン繊維C−1〜C−5の作製)
アニオン性重合体P−1の代わりにカチオン性重合体P−2を用い、樹脂種類、紡糸条件を表5に示した内容に変更した以外は、アニオン繊維A−1と同様の方法により、カチオン繊維C−1〜C−5を得た。得られたカチオン繊維の繊維径を表5に示す。
【0103】
(カチオン繊維C−6〜C−10の作製)
アニオン性重合体P−4の代わりにカチオン性重合体P−3を用い、樹脂種類、紡糸条件を表5に示した内容に変更した以外は、アニオン繊維A−6と同様の方法により、カチオン繊維C−6〜C−10を得た。得られたカチオン繊維の繊維径を表5に示す。
【0104】
【表5】

【0105】
実施例1
(シートM−1の作製)
アニオン繊維A−1とカチオン繊維C−1とを交互に織り込み平織り状にした。平織り機はASHFORD製の「TABLE LOOM−FOUR SHAFT」を用いた。次いで、得られた織布を熱プレス機SF37(株式会社神藤金属工業所製)にて温度210℃、圧力5MPaで3分間熱プレスを行いシートM−1を形成した。該シートM−1の膜厚は表6に示すとおり220μmであった。
【0106】
(モザイク荷電膜の作製)
こうして得られたシートM−1を2mol/Lの硫酸ナトリウムの電解質水溶液に24時間浸漬させた。該水溶液にそのpHが1になるように濃硫酸を加えた後、0.05体積%グルタルアルデヒド水溶液に該膜を浸漬し、25℃で24時間スターラーを用いて撹拌し、架橋処理を行ってモザイク荷電膜を得た。ここで、グルタルアルデヒド水溶液としては、石津製薬株式会社製「グルタルアルデヒド」(25体積%)を水で希釈したものを用いた。架橋処理の後、該膜を脱イオン水に浸漬し、途中数回脱イオン水を交換しながら、該膜が膨潤平衡に達するまで浸漬させた。
【0107】
(モザイク荷電膜の評価)
このようにして作製したモザイク荷電膜を、所望の大きさに裁断し、測定試料を作製した。得られた測定試料を用い、上記方法にしたがって、圧透析試験を行った。得られた結果を表7に示す。
【0108】
実施例2〜10
(シートM−2〜M−10の作製)
用いるアニオン繊維およびカチオン繊維の種類、熱プレス条件を表6に示した内容に変更した以外は、シートM−1と同様の方法により、シートM−2〜M−10を得た。得られたシートM−2〜M−10の膜厚を表6に示す。
【0109】
(モザイク荷電膜の作製および評価)
上記したようにして得られたシートM−2〜M−10に対し、実施例1と同様に架橋処理を行うことによりモザイク荷電膜を得た。次いで、実施例1と同様にして圧透析試験を行った。得られた結果を表7に示す。
【0110】
比較例1
実施例1において、シートM−1の代わりに、アニオン性重合体P−1キャスト膜とカチオン性重合体P−3キャスト膜とを交互に100μmずつ500層重ね合わせたシートを作製し、該シートを垂直方向に厚さ200μmにカットして得られた積層モザイク荷電膜(積層MC)を用いた以外は、実施例1と同様にして圧透析試験を行った。圧透析試験時に該シートが破損したため評価ができなかった。
【0111】
【表6】

【0112】
【表7】

【符号の説明】
【0113】
1 窒素ガスボンベ
2 圧力計
3 モザイク荷電膜
4 攪拌子
5 導電率計
6 セルI
7 セルII
8 紡糸装置
9 紡糸原液タンク
10 ノズル
11 凝固浴
12 ローラーA
13 エタノール浴
14 ローラーB
15 巻取り手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性重合体を含むカチオン繊維とアニオン性重合体を含むアニオン繊維とを織成して織布とし、該織布に熱プレス処理を行うことにより前記カチオン繊維と前記アニオン繊維とを熱接着させてシートを形成し、該シートを架橋処理することを特徴とするモザイク荷電膜の製造方法。
【請求項2】
前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が親水性重合体である請求項1記載のモザイク荷電膜の製造方法。
【請求項3】
前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が、イオン基を含有するポリビニルアルコールである請求項2記載のモザイク荷電膜の製造方法。
【請求項4】
前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が、イオン性単量体を重合してなる重合体成分とポリビニルアルコール成分とを含有する、ブロック共重合体またはグラフト共重合体である請求項3記載のモザイク荷電膜の製造方法。
【請求項5】
前記カチオン性重合体および/またはアニオン性重合体が0.1モル%以上のイオン性単量体単位を含有する請求項1〜4のいずれか記載のモザイク荷電膜の製造方法。
【請求項6】
前記カチオン繊維および/またはアニオン繊維がマルチフィラメントであって、その単繊維の平均径が10〜100μmである請求項1〜5のいずれか記載のモザイク荷電膜の製造方法。
【請求項7】
前記カチオン繊維および/またはアニオン繊維を湿式紡糸法により得る請求項1〜6のいずれか記載のモザイク荷電層の製造方法。
【請求項8】
1.2倍から20倍の全延伸倍率で延伸することにより前記カチオン繊維および/またはアニオン繊維を得る請求項1〜7のいずれか記載のモザイク荷電膜の製造方法。
【請求項9】
カチオン性重合体を含むカチオン繊維とアニオン性重合体を含むアニオン繊維とを織成して織布とし、該織布に熱プレス処理を行うことにより前記カチオン繊維と前記アニオン繊維とを熱接着してシートを形成し、該シートが架橋処理されてなることを特徴とするモザイク荷電膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−71289(P2012−71289A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220041(P2010−220041)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】