説明

モザイク荷電膜及びその製造方法

【課題】 耐久性、塩透過性、イオン選択性などに優れるほか、適用温度範囲も広く、特に耐圧性に優れたモザイク荷電膜を容易かつ安価に製造する方法、及びこれらの特性を具備したモザイク荷電膜を提供すること。
【解決手段】 (1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程、(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程を行うことを特徴とするモザイク荷電膜の製造方法、並びに該製造方法によるモザイク荷電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モザイク荷電膜及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、耐圧性、耐久性、塩透過性、イオン選択性などに優れ、適用温度範囲も広いモザイク荷電膜を容易かつ安価に製造する方法、及び該方法にて製造される、特に圧透析用にも好適に使用し得るモザイク荷電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
モザイク荷電膜は、カチオン性重合体成分とアニオン性重合体成分とからなり、膜の表裏を貫通しかつ互いに隣接して存在しているイオンチャンネルを有する膜である。該モザイク荷電膜は、このイオンチャンネルを介してイオンを透過させることはできるが、低分子量有機物質や非イオンは、透過させることができないか、ほんの僅かしか透過させないといった優れた機能性膜であることから、従来よりその開発が進められてきている。
【0003】
例えばその代表例の1つとして、2種のイオン交換体が層状に存在したモザイク荷電膜及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかるモザイク荷電膜は、陽イオン交換領域と陰イオン交換領域とが膜の厚さ方向に対して交互に層状に配列し、貫通している膜であり、陽イオン交換基を導入可能な高分子と陰イオン交換基を導入可能な高分子とイオン交換基を導入させない高分子とが連結した原多元ブロック共重合体、例えばスチレン、ブタジエン、4−ビニルベンジルジメチルアミンのブロックからなるブロック共重合体を合成し、スチレン部位をスルホン化、4−ビニルベンジルジメチルアミン部位を4級化、ブタジエン部位を架橋することによって製造することができる。
【0004】
前記のごとき方法にて得られるモザイク荷電膜は、確かに、その両面間に生じさせた塩の濃度差を駆動力として利用することができ、該モザイク荷電膜を用いて、有機化合物を含有した水溶液を効率よく脱塩することが可能である。しかしながら、前記製造方法では、ブロック共重合体の特定部位を変性させるなど非常に煩雑な操作かつ高度な技術が必要であり、しかも高コストであることから、目的とするモザイク荷電膜を簡易にかつ安価で得ることは困難であるといった問題がある。
【0005】
また前記のほかにも、2種のイオン交換体が無秩序に存在したモザイク荷電膜及びその製造方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。かかるモザイク荷電膜は、カチオン性重合成分、アニオン性重合成分及びマトリックス成分からなり、カチオン性重合成分及びアニオン性重合成分の少なくとも1成分が架橋した粒状重合体の膜であり、このように少なくともいずれか一方が架橋粒状重合体(平均粒子径が小さい架橋重合体微粒子:マイクロゲル)であるカチオン性重合成分及びアニオン性重合成分を、マトリックス成分の有機溶剤溶液に分散させた組成物を用いて製造することができる。
【0006】
前記のごとき方法にて得られるモザイク荷電膜も、イオンに対する良好な選択的透過性を有し、該モザイク荷電膜を用いて電解質の移動、分離、濃縮、吸着などを効率よく行うことが可能である。しかしながら、前記製造方法では、平均粒子径が小さい重合体微粒子を調製しなければならず、高度な技術及び長時間を要するといった問題がある。しかも得られるモザイク荷電膜は、含水性の高いマイクロゲルで構成されているため、耐圧性が非常に低く、拡散透析用の膜としては使用可能であるものの、圧透析用の膜としては使用に耐えないか、もしくは耐久性に極めて劣るといった欠点を有するものである。
【0007】
そこで、前記モザイク荷電膜の耐圧性を向上させる目的で、耐圧性を有する支持体の表面に該モザイク荷電膜を貼付する方法や、多孔性支持体の細孔内にイオン交換体を充填させてモザイク荷電膜を製造する方法も試みられている。しかしながら、これらの方法に用いる支持体と、貼付するモザイク荷電膜内の活性層や充填するイオン交換体とは、そもそも同質材料ではないため、支持体を用いたことによる耐圧性の向上はほとんど望めないにも係らず、コストが上昇してしまうといった問題がある。
【特許文献1】特開昭59−203613号公報
【特許文献2】特開2000−70687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記背景技術に鑑みてなされたものであり、耐久性、塩透過性、イオン選択性などに優れるほか、適用温度範囲も広く、特に耐圧性に優れたモザイク荷電膜を容易かつ安価に製造する方法、及びこれらの特性を具備したモザイク荷電膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、
(A)モザイク荷電膜の製造方法であって、以下の工程(1)及び(2):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程
(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程
を行うことを特徴とする、モザイク荷電膜の製造方法、並びに
(B)前記製造方法にて得られるモザイク荷電膜
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、優れた耐圧性、耐久性、塩透過性、イオン選択性などを具備し、適用温度範囲が広いモザイク荷電膜を極めて容易かつ安価に製造することができる。また該製造方法にて製造される本発明のモザイク荷電膜は、拡散透析用、電気透析用は勿論のこと、特に従来のモザイク荷電膜では極めて困難であった圧透析用に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第1の実施形態)
まず本発明のモザイク荷電膜の製造方法について説明する。
本発明の第1の実施形態に係るモザイク荷電膜の製造方法では、以下の工程(1)及び(2):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程
(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程
が行われる。図1に、本実施形態に係る製造方法の概略を表したフローチャートを示す。かかる図1において、膜形成ポリマーを原料1、溶媒を原料2、陽イオン交換樹脂を原料3、陰イオン交換樹脂を原料4として表す。
【0012】
まず工程(1)において、膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂(以下、場合によりこれらを併せて「イオン交換樹脂」という)を分散させて均一なポリマー分散液を調製する。
【0013】
本実施形態の工程(1)では、溶媒に膜形成ポリマーが溶解したポリマー溶液に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が分散した、均一なポリマー分散液が得られる限り、これら膜形成ポリマー、溶媒、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を添加する順序には限定がない。すなわち、例えば図2Aのフローチャートに示すように、膜形成ポリマーと溶媒とを混合して均一なポリマー溶液を調製した後、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を該ポリマー溶液に添加し、これら陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液を調製することができる。また例えば図2Bのフローチャートに示すように、溶媒と陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂とを混合し、これら陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を溶媒に分散させて分散液を調製した後、膜形成ポリマーを該分散液に添加して溶解させ、ポリマー溶液に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が分散した均一なポリマー分散液を調製することもできる。
【0014】
本実施形態に用いられる膜形成ポリマーは、モザイク荷電膜を形成する際に、例えば加熱乾燥などにより皮膜を形成することができるものであればよく、形成されるモザイク荷電膜に、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性、耐久性などを付与し得るものが好ましい。かかる膜形成ポリマーとしては、例えばポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂などがあげられ、これらは単独で又は2種以上を同時に用いることができる。
【0015】
ポリスルホン系樹脂は、分子内にスルホニル結合(−SO2−)を有する重合体であり、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンなどが例示される。
【0016】
ポリアリレート系樹脂は、分子内にエステル結合(−COO−)を有する重合体であり、例えば二価フェノールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステルなどが例示される。
【0017】
ポリアミド系樹脂は、分子内にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であり、例えばジアミンと二塩基酸との重縮合、ラクタム開環重合、アミノカルボン酸の重縮合などによって得られる重合体が例示される。
【0018】
ポリイミド系樹脂は、分子内にイミド結合(−CONHCO−)を有する重合体であり、例えばビフェニルテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮重合などによって得られる重合体のほか、例えばポリエーテルイミドなども例示される。
【0019】
ポリアミドイミド系樹脂は、分子内にアミド結合とイミド結合とを併せ持つ重合体であり、例えば無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応によって得られる重合体が例示され、無水トリメリット酸とジフェニルアルキルジイソシアネートなどとの反応による芳香族ポリアミドイミドも含まれる。
【0020】
ポリウレタン系樹脂は、分子内にウレタン結合(−OCONH−)を有する重合体であり、例えば脂肪族ポリイソシアネートなどのポリイソシアネートとテトラメチレングリコールなどのポリオールとの反応によって得られる重合体のほか、ポリウレタン尿素樹脂も例示される。
【0021】
フッ素系樹脂は、例えばポリテトラフルオロエチレンなどのアルキレン主鎖の水素原子がフッ素原子にて置換された重合体であり、ほかにも例えばそのスルホン化物なども例示される。
【0022】
シリコーン系樹脂は、分子内にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する重合体であり、例えばポリメチルシロキサンなどのポリアルキルシロキサンなどが例示される。
【0023】
なお本実施形態に用いられる膜形成ポリマーの数平均分子量には特に限定がない。
【0024】
本実施形態に用いられる溶媒は、前記膜形成ポリマーを溶解し得るものである限り特に限定がなく、膜形成ポリマーの種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0025】
膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド,N,N−ジエチルアセトアミドなどの含チッ素系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤などがあげられる。これらのなかでも、例えば膜形成ポリマーとしてポリスルホン系樹脂を用いた場合には、その溶解性の点から含チッ素系有機溶剤を用いることが好ましく、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0026】
本実施形態に用いられる陽イオン交換樹脂としては、分子中に例えばスルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32、−PO4H)、フェノール基(−C64OH)、スルホエチル基(−(CH22SO2OH)、ホスホメチル基(−CH2PO(OH)2)、カルボキシメチル基(−OCH2COOH)、イミノ二酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、イミノ二酢酸エステル基(−N=C(CH2COOR)2)などを有する酸性樹脂があげられる。また特に限定がないが、例えばイオン交換容量が1〜2.5meq/mL程度の陽イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0027】
陰イオン交換樹脂としては、分子中に例えば第4級アンモニウム塩基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、2−ヒドロキシプロピルアミノ基(−OC24N(C25)CH2CH(OH)CH3)、トリエチルアミノ基(−(CH22N(C253)、ポリエチレンイミノ基(−(CH2CH2NH)xCH2CH2NH2)、ジエチルアミノエチル基(−(CH22N(C252)、p−アミノベンジル基(−CH2−C64−NH2)、N−メチルグルカミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−(C(OH)H)4−CH2OH)などを有する塩基性樹脂があげられる。また特に限定がないが、例えばイオン交換容量が1〜2.5meq/mL程度の陰イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0028】
本実施形態において、前記イオン交換樹脂をポリマー溶液に均一に分散させるが、ポリマー溶液におけるイオン交換樹脂の分散性を向上させ、得られるモザイク荷電膜の耐圧性などの特性をさらに向上させるには、これらイオン交換樹脂がいずれも、例えば粉砕イオン交換樹脂、超微粒イオン交換樹脂などの粒子径が比較的小さいイオン交換樹脂であることが好ましい。一般的なイオン交換樹脂としては、その種類によっても異なるものの、通常700〜900μm程度の平均粒子径を有する樹脂が多い。イオン交換樹脂のポリマー溶液における分散性及びモザイク荷電膜の耐圧性を考慮すると、その平均粒子径は小さいほど好ましく、例えば500μm以下、さらには400μm以下、特に300μm以下であることが好ましい。また例えば粉砕イオン交換樹脂を用いる場合に、イオン交換樹脂を粉砕する際の作業性や、イオン交換樹脂からポリマー分散液を調製する際の作業性を考慮すると、該イオン交換樹脂の平均粒子径は0.1μm以上、さらには1μm以上、特に20μm以上であることが好ましい。なおこれらイオン交換樹脂の粒子径によって、得られるモザイク荷電膜の塩透過性を変化させることが可能であるので、モザイク荷電膜の使用目的、すなわち該モザイク荷電膜にて処理しようとする対象溶液中のイオンの種類に応じて、適した粒子径を有する粉砕イオン交換樹脂、超微粒イオン交換樹脂などのイオン交換樹脂を適宜選択して用いることが好ましい。なおイオン交換樹脂として粉砕イオン交換樹脂を用いようとする場合、イオン交換樹脂の粉砕方法には特に限定がなく、イオン交換樹脂の種類に応じて適宜粉砕方法を選択することが好ましい。
【0029】
陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の組み合わせは、得られるモザイク荷電膜の使用目的に応じて、例えば処理対象溶液における透過させようとするイオンの種類に応じて適宜変更することが好ましい。またこれらイオン交換樹脂の種類を考慮して、膜形成ポリマー及び溶媒を適宜選択することが好ましい。
【0030】
陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との使用割合は、各々が有するイオン交換容量に応じて適宜調整すればよいが、通常陽イオン交換樹脂/陰イオン交換樹脂(重量比)が40/60以上、さらには45/55以上、また60/40以下、さらには55/45以下であることが好ましい。
【0031】
分散させる陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の合計量(イオン交換樹脂の量)T1は、用いる膜形成ポリマーの量T2も考慮して決定することが好ましい。該イオン交換樹脂の量T1があまりにも多い場合には、逆に膜形成ポリマーの量T2が少なくなり、モザイク荷電膜を製造する際の製膜性が低下する恐れがあるので、イオン交換樹脂の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2との総量に対する割合
{T1/(T1+T2)}×100
は、90重量%以下、さらには85重量%以下、特に80重量%以下であることが好ましい。またイオン交換樹脂の量T1があまりにも少ない場合には、特に得られるモザイク荷電膜の塩透過性が低下する恐れがあるので、イオン交換樹脂の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2との総量に対する割合は、5重量%以上、さらには7重量%以上、特に8重量%以上であることが好ましい。
【0032】
またイオン交換樹脂の量T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tと、溶媒の量Vとの割合は、ポリマー分散液を調製する際のイオン交換樹脂の分散性、作業性や、モザイク荷電膜を製造する際の製膜性、目的とするモザイク荷電膜の特性などを考慮して決定することが好ましい。該総量Tがあまりにも少ない場合には、モザイク荷電膜を製造する際の製膜性や目的とするモザイク荷電膜の特性が低下する恐れがあるので、総量Tの、溶媒の量Vに対する割合
T/V
は、0.2g/mL以上、さらには0.25g/mL以上、特に0.3g/mL以上であることが好ましい。また総量Tがあまりにも多い場合には、ポリマー分散液を調製する際のイオン交換樹脂の分散性や作業性が低下する恐れがあるので、総量Tの、溶媒の量Vに対する割合は、0.8g/mL以下、さらには0.75g/mL以下、特に0.7g/mL以下であることが好ましい。
【0033】
本実施形態において、溶媒や、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が溶媒に分散した分散液に膜形成ポリマーを溶解させる際の、溶解温度、攪拌時間といった条件は、これら膜形成ポリマー、溶媒、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の種類に応じ、膜形成ポリマーが充分に溶解するように適宜変更すればよいが、例えば通常50〜70℃程度に加熱することが好ましい。
【0034】
また配合割合を調整した、所望の粒子径を有するイオン交換樹脂をポリマー溶液や溶媒に分散させるには、適宜両者を混合、攪拌すればよいが、この際の系の温度、攪拌時間といった条件は、これらイオン交換樹脂、膜形成ポリマー及び溶媒の種類に応じ、イオン交換樹脂がポリマー溶液に充分に分散した均一なポリマー分散液となるように適宜変更することが好ましい。例えば膜形成ポリマー及び溶媒を加熱攪拌してポリマー溶液を得た場合には、引き続きこのポリマー溶液にイオン交換樹脂を添加し、そのままの温度で、又は適宜温度を調整して攪拌混合してもよい。また溶媒及びイオン交換樹脂を加熱攪拌して分散液を得た場合には、引き続きこの分散液に膜形成ポリマーを添加し、そのままの温度で、又は適宜温度を調整して攪拌混合してもよい。
【0035】
次に工程(2)において、工程(1)で得られたポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄してモザイク荷電膜を得る。なお本実施形態において、ポリマー分散液を基材上に塗布する前に、目的とするモザイク荷電膜の均質性を向上させるために、例えば静置するか、遠心分離機などを用いてポリマー分散液に脱泡処理を施すことが好ましい。
【0036】
例えば前記のごとく脱泡処理を施したポリマー分散液を、表面が平滑な基材上に、例えばバーコート法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法などによって塗布及び延伸させる。かかる基材としては、所望の膜質及び均一な厚さを有する膜が形成され得る限り特に限定がなく、例えばガラスプレート、ステンレススチールプレート、アルミニウムプレートのほか、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの高分子フィルムやシートなどを好適に使用することができる。
【0037】
基材上に形成させる膜の厚さにも特に限定がないが、後述する乾燥処理後、最終的に得られる目的とするモザイク荷電膜の厚さを考慮すると、通常0.05〜1mm程度、好ましくは0.1〜0.5mm程度であることが望ましい。
【0038】
かくして基材上に形成した膜を、所望の温度及び時間にて乾燥させる。かかる乾燥処理の温度などの条件にも特に限定がなく、膜が充分に凝固するように適宜調整すればよいが、通常室温〜60℃程度であることが好ましい。なお本実施形態にて得られるモザイク荷電膜は、例えば後述する圧透析用膜として用いることもでき、また拡散透析用膜や電気透析用膜として用いることもできるが、これら用途に応じたモザイク荷電膜は、乾燥時間を適宜調整することによって容易に得ることができる。例えば乾燥時間を20〜40時間程度とした場合には、拡散透析用や電気透析用としては勿論のこと、圧透析用として好適に使用し得る耐圧性に特に優れたモザイク荷電膜を製造することができる。一方、乾燥時間を1〜2分間程度と短くすることによって、拡散透析用として好適に使用し得るモザイク荷電膜を製造することもできる。
【0039】
前記のごとく乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、例えば蒸留水などにて洗浄処理を行って、目的とするモザイク荷電膜を得ることができる。かかるモザイク荷電膜の厚さは、その使用目的に応じて適宜変更すればよいが、通常0.05〜1mm程度、好ましくは0.1〜0.5mm程度であることが望ましい。
【0040】
かくして本実施形態の製造方法にて得られるモザイク荷電膜の一例を、図3の模式図に示す。かかる図3に示すように、モザイク荷電膜1aにおいて、陽イオン交換樹脂粒子2及び陰イオン交換樹脂粒子3が、膜形成ポリマー4中にランダムに分散している。
【0041】
本実施形態の製造方法によれば、優れた耐圧性、耐久性、塩透過性などを具備し、適用温度範囲が広いモザイク荷電膜を、任意の大きさで、極めて容易かつ安価に製造することができるが、前記工程(2)に次いで以下の工程(3)を行うことにより、得られるモザイク荷電膜に、これらの特性に加え、さらに優れたイオン選択性(イオン価数の差異に基づく選択性)を付与することができる。
【0042】
工程(3)において、工程(2)にて洗浄処理を施した膜の片面にイオン選択性表面層を設ける。イオン選択性表面層が設けられたモザイク荷電膜の一例を図4の模式図に示す。かかる図4に示すように、モザイク荷電膜1bは、陽イオン交換樹脂粒子2及び陰イオン交換樹脂粒子3が膜形成ポリマー4中にランダムに分散している膜5の片面に、イオン選択性表面層6が設けられたものである。かかるイオン選択性表面層6は、例えば1価イオン、2価イオン、3価イオンに対する選択性を有するものである。例えば図5の模式図に示すように、Na+、K+、Mg2+、Al3+といった価数の異なる陽イオンに対する選択性を付与しようとする場合には、正に帯電したイオン選択性表面層6を、荷電密度を例えば0.01〜1mol/L程度と低くして膜の片面に設けることにより、陽イオンとの間で反発が生じ、その結果価数の大きいMg2+やAl3+が膜を透過し難くなる。
【0043】
イオン選択性表面層には、処理の対象となる溶液中の、選択性を付与しようとするイオンの種類に応じて任意の荷電性ポリマー、すなわち正の荷電性ポリマー又は負の荷電性ポリマーが含有されていることが好ましい。
【0044】
Na+、K+、Mg2+、Al3+といった陽イオンに対する選択性を付与しようとする場合には、例えばポリエチレンイミンや、任意の高分子主鎖上に例えば第4級アンモニウム塩基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、2−ヒドロキシプロピルアミノ基(−OC24N(C25)CH2CH(OH)CH3)、トリエチルアミノ基(−(CH22N(C253)、ポリエチレンイミノ基(−(CH2CH2NH)xCH2CH2NH2)、ジエチルアミノエチル基(−(CH22N(C252)、p−アミノベンジル基(−CH2−C64−NH2)、N−メチルグルカミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−(C(OH)H)4−CH2OH)などを有するポリマーなどの、正の荷電性ポリマーを含有したイオン選択性表面層を設けることが好ましい。
【0045】
また逆にCl-、SO42-、PO43-といった陰イオンに対する選択性を付与しようとする場合には、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸や、任意の高分子主鎖上に例えばスルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32、−PO4H)、フェノール基(−C64OH)、スルホエチル基(−(CH22SO2OH)、ホスホメチル基(−CH2PO(OH)2)、カルボキシメチル基(−OCH2COOH)、イミノ二酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、イミノ二酢酸エステル基(−N=C(CH2COOR)2)などを有するポリマーなどの、負の荷電性ポリマーを含有したイオン選択性表面層を設けることが好ましい。
【0046】
なおこれら荷電性ポリマーの多くは水溶性を呈するものであることから、通常、該荷電性ポリマーとともに、支持体となるポリマーを用いることが好ましい。かかる支持体となるポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、ポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂などの、前記膜形成ポリマーとして例示したポリマーを好適に用いることができる。このように荷電性ポリマーの支持体として膜形成ポリマーと同様のものを用いる場合、イオン選択性表面層内の支持体のポリマー種と膜形成用のポリマー種とは、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0047】
前記荷電性ポリマーと支持体となるポリマーとの割合は、得られるイオン選択性表面層によってモザイク荷電膜のイオン選択性が充分に向上する限り特に限定がなく、例えば荷電性ポリマー/支持体となるポリマー(重量比)が1/100〜1/10程度であることが好ましい。
【0048】
工程(2)にて洗浄処理を施した膜の片面にイオン選択性表面層を設ける方法には特に限定がないが、例えば荷電性ポリマー及び必要に応じて支持体となるポリマー、並びに適宜これらを溶解し得る溶媒を選択し、これらを混合して荷電性ポリマーの溶液を調製した後、このポリマー溶液を洗浄処理を施した膜の片面に、例えばバーコート法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法などによって塗布及び延伸し、室温〜100℃程度で1〜3時間程度乾燥させて凝固させる方法などを採用することができる。
【0049】
かくして設けられるイオン選択性表面層の厚さには特に限定がないが、最終的に得られるモザイク荷電膜の厚さを考慮すると、10〜200μm程度であることが好ましい。またその荷電密度は、モザイク荷電膜に充分なイオン選択性が付与されることを考慮すると、0.01〜1mol/L程度であることが好ましい。
【0050】
このように本実施形態の製造方法にて製造されるモザイク荷電膜は、優れた耐圧性、耐久性、塩透過性などを具備し、適用温度範囲が広く、また優れたイオン選択性をも有するものであり、拡散透析用膜、電気透析用膜としては勿論のこと、特に従来のモザイク荷電膜では極めて困難であった圧透析用膜として好適に使用することが可能である。
【0051】
したがって本発明のモザイク荷電膜は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カルシウムといった低分子量電解質の脱塩用や、塩酸、酢酸、水酸化ナトリウムなどの脱イオン用に好適に使用することができ、例えば飲料用水、工業用水、純水などの水処理工業における脱塩;化学工業、金属工業などの工業排水の脱塩や有害金属イオンの除去;海洋深層水におけるミネラル成分の分離;海水の濃縮製塩、淡水化;医薬・食品工業における脱塩、イオン成分の分離精製といった幅広い分野にて有用なものである。
【0052】
なお本発明のモザイク荷電膜を圧透析用膜として用いる場合、その優れた耐圧性から、操作圧力が10MPaといった高圧での圧透析にも用いることができ、例えば0.2MPa以上、さらには0.3MPa以上、また5MPa以下、さらには3MPa以下の範囲で特に好適に使用することができる。
【0053】
また本発明のモザイク荷電膜は、透析での適用温度範囲が、好ましくは10℃以上、さらには15℃以上、また好ましくは80℃以下、さらには60℃以下と非常に広く、かかるモザイク荷電膜の使用目的に応じて、種々条件を変更して用いることができる。
【0054】
さらに本発明のモザイク荷電膜を用いて透析を行った場合、透析に供した溶液に含有されるイオンの種類や透析条件などによっても異なるが、少なくとも50%の塩透過率を達成することができ、例えば90〜99%の塩透過率を達成することも充分に可能である。
【0055】
次に本発明のモザイク荷電膜及びその製造方法を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
実施例1〜6(モザイク荷電膜の製造)
以下に示す原料1〜4を準備した。原料3及び原料4は、各々表1に示す平均粒子径となるように粉砕し、粉砕イオン交換樹脂として用いた。
原料1(膜形成ポリマー):
ポリスルホン(アルドリッチ(Aldrich)社製、数平均分子量:約22000)
原料2(溶媒):
N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業(株)製)
原料3(陽イオン交換樹脂):
スルホン酸基含有イオン交換樹脂
(商品名:Amberlite IR−120B、オルガノ(株)製、
イオン交換容量:1.9meq/mL)
原料4(陰イオン交換樹脂):
第4級アンモニウム塩基含有イオン交換樹脂
(商品名:Amberlite IRA−410J、オルガノ(株)製、
イオン交換容量:1.4meq/mL)
【0057】
表1に原料1〜4の使用量、並びに原料3及び原料4の平均粒子径を併せて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
まず原料1及び原料2を、ヒーター付きスターラーを用いて約60℃で均一なポリマー溶液となるまで充分に加熱攪拌した。得られたポリマー溶液を60℃に保持したまま、これに粉砕して粒子径を調整した原料3及び原料4を添加し、これら原料3及び原料4がポリマー溶液中に分散するまで充分に加熱攪拌して均一なポリマー分散液を得た。
【0060】
得られたポリマー分散液を液中に気泡がなくなるまで静置して脱泡した後、ガラスプレート上にキャストし、バーコート法にて約0.5mmの均一な厚さとなるように延伸した。これを30℃で24時間乾燥させて凝固させた後、得られた膜から原料2である溶媒を除去し、蒸留水にて洗浄してモザイク荷電膜を得た。
【0061】
得られたモザイク荷電膜はひび割れ、欠け、キズなどがなく、良好な外観を有するものであった。その厚さを表1に示す。
【0062】
試験例1(塩の拡散透析性)
図6の概略図に示す拡散透析装置を用い、加圧せずに、実施例1、2、5、6で得られたモザイク荷電膜(有効膜面積:12.56cm2)について塩の拡散透析性の性能評価を行った。かかる拡散透析装置において、容器7と容器8との間がモザイク荷電膜1aで仕切られており、容器8内には電導度計9(型番:WM−50EG、東亜ディーケーケー(株)製)が備えられている。
【0063】
濃度が0.01、0.1、0.5、1.0、5.0mol/kgのNaCl水溶液100mLを容器7内に入れ、もう一方の容器8内に純水100mLを入れて(容器7、8内の液温:約25℃)10分間静置した後、純水中の電導度を電導度計9にて1分ごとに100分間測定した。得られた測定値から単位時間、単位膜面積あたりの塩透過量(mol/(cm2・min))を算出した。その結果を、NaCl水溶液の濃度(mol/kg)に対する塩透過量の変化として図7のグラフに示す。各実施例の結果と対応するグラフの種類は、図7の凡例に示す通りである。
【0064】
図7に示されるように、いずれの場合もNaCl水溶液の濃度が高くなるにしたがって塩透過量も増加していることから、これらのモザイク荷電膜が塩の拡散透析用膜として好適に使用し得るものであることがわかる。また実施例1よりも実施例2の方が、実施例5よりも実施例6の方が、それぞれ塩透過量が多いことから、イオン交換樹脂の使用量が多くなるにしたがって、塩透過性も向上することがわかる。さらに実施例1よりも実施例5の方が、実施例2よりも実施例6の方が、それぞれ塩透過量が多いことから、イオン交換樹脂の平均粒子径が小さい方が、塩透過性がさらに向上することがわかる。
【0065】
試験例2(塩の圧透析性)
図8の概略図に示す圧透析測定システムにて、実施例1で得られたモザイク荷電膜(有効膜面積:60cm2)について塩の圧透析性の性能評価を行った。かかる圧透析測定システムにおいて、1aはモザイク荷電膜、10、11は液槽、12は流量計、12aは流量調整弁、13は圧力計、13aは圧力調整弁、14は電導度計、15、16はポンプを示す。
【0066】
濃度が0.01、0.1、1.0mol/kgのNaCl水溶液500mLを液槽10内に入れ、もう一方の液槽11内に純水500mLを入れた(液槽10、11内の液温:約25℃)。流量計12で測定しながら、0.2L/minの流量となるように流量調整弁12aにてNaCl水溶液の流量を調整し、またかかるNaCl水溶液側の圧力を、圧力計13で測定しながら圧力調整弁13aにて調整し、0.5、1.0MPaと変化させて、純水中の電導度を電導度計14(試験例1にて用いた電導度計9と同じもの)にて1分ごとに100分間測定した。得られた測定値から単位時間、単位膜面積あたりの塩透過量(mol/(cm2・min))を算出した。その結果を、圧力(MPa)に対する塩透過量の変化として図9のグラフに示す。各NaCl水溶液濃度の結果と対応するグラフの種類は、図9の凡例に示す通りである。
【0067】
図9に示されるように、NaCl水溶液の濃度が0.01mol/kgと極めて低い場合には大きな差異が認められないものの、特に濃度が1.0mol/kgのNaCl水溶液の場合には、圧力が高くなるにしたがって塩透過量も著しく増加していることから、このモザイク荷電膜が塩の圧透析用膜として好適に使用し得るものであることがわかる。
【0068】
なお試験終了後、液槽10中のNaCl水溶液の量はほとんど減少せず、試験前とほぼ同量であったことから、NaCl水溶液が液槽10から液槽11へそのまま流出しておらず、圧透析によってモザイク荷電膜に劣化(欠けや破れ)が生じなかったことがわかる。
【0069】
さらに、この実施例1で得られたモザイク荷電膜について、図8に示す圧透析測定システムにて、NaCl水溶液側の圧力を約10MPaの高圧に調整し、前記と同様にして塩の圧透析性試験を行った。その結果、好適な塩透過性を示すとともに、試験後にNaCl水溶液が液槽10から液槽11へそのまま流出しておらず、モザイク荷電膜に劣化(欠けや破れ)が生じることもなく、このモザイク荷電膜が耐久性(耐圧性)に極めて優れたものであることが確認された。
【0070】
実施例7(イオン選択性表面層を有するモザイク荷電膜の製造)
正の荷電性ポリマーとしてポリエチレンイミン(商品名:ポリエチレンイミンP−70、和光純薬工業(株)製、30%ポリエチレンイミン溶液、数平均分子量:約70000)を用い、またポリエチレンイミンの支持体としてポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)製、重合度:1000)を用いてイオン選択性表面層を形成した。
【0071】
ポリビニルアルコールをジメチルスルホキシド(和光純薬工業(株)製)の70%水溶液に溶解させ、この溶液に、ポリビニルアルコールとポリエチレンイミンとの割合が20:1(重量比)となるようにポリエチレンイミンを添加してポリマー溶液を調製した。
【0072】
得られたポリマー溶液を、実施例4で得られた洗浄後の膜の片面にバーコート法にて塗布及び延伸し、これを室温で約1時間乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、蒸留水にて洗浄してイオン選択性表面層が設けられたモザイク荷電膜を得た。イオン選択性表面層の厚さは約150μm、モザイク荷電膜の厚さは約0.3mmであった。
【0073】
得られたモザイク荷電膜はひび割れ、欠け、キズなどがなく、良好な外観を有するものであった。
【0074】
試験例3(イオン選択性)
図10の概略図に示す電気透析装置を用い、実施例7で得られたモザイク荷電膜(有効膜面積:12.56cm2)についてイオン選択性の性能評価を行った。かかる電気透析装置において、容器17と容器18との間がモザイク荷電膜1bで仕切られており、容器17内には陽極19が、容器18内には陰極20がそれぞれ備えられている。なおモザイク荷電膜1bは、そのイオン選択性表面層が容器17側となるように備えられている。
【0075】
濃度が0.01mol/kgの、KCl水溶液、NaCl水溶液、MgCl2水溶液、AlCl3水溶液の合計約65mLを容器17内に入れ、もう一方の容器18内に純水65mLを入れて(容器17、18内の液温:約25℃)5時間にわたって両容器17、18内に0.05mAの電流を流した。電流を流し始めてから1時間ごとに、イオンクロマトグラフ(型番:ICA−2000、東亜ディーケーケー(株)製)にて純水中の各イオンのイオン濃度(mg/dm3)を測定した。その結果を、経過時間(hr)に対するイオン濃度として図11にプロットする。各イオンの結果と対応するプロットの種類は、図11の凡例に示す通りである。
【0076】
図11に示されるように、1価のK+、Na+、2価のMg2+は、時間の経過とともに純水中のイオン濃度が増加しているが、3価のAl3+は、純水中のイオン濃度が試験開始前の0mg/dm3のままであることから、このモザイク荷電膜が3価のAl3+を全く透過させないものであることがわかる。さらに1価のK+、Na+と2価のMg2+とを比較すると、2価のMg2+は時間の経過に伴うイオン濃度の増加量が小さい。このように2価のMg2+は1価のK+、Na+よりも透過速度が遅く、モザイク荷電膜を透過し難い。これらのことから、このモザイク荷電膜が優れたイオン選択性を有するものであることがわかる。
【0077】
試験例4(塩の圧透析性)
特開2000−70687号公報(特許文献2)9頁の段落番号[0050]に記載の方法に従って製造された、ポリエステル不織布の支持体からなる、従来のモザイク荷電膜(厚さ:約30μm、有効膜面積:60cm2)について、図8の概略図に示す圧透析測定システムにて、濃度が0.5mol/kgのNaCl水溶液1000mLを用い、圧力を0.5MPaに調整し、試験例2と同様にして塩の圧透析性の性能評価を行った。
【0078】
その結果、圧透析によってモザイク荷電膜に劣化(欠けや破れ)が生じ、液槽10中のNaCl水溶液が液槽11へそのまま流出して1分間につき約100mLも減少してしまった。このことから、従来のモザイク荷電膜が耐久性(耐圧性)に極めて劣るものであることがわかる。
【0079】
前記従来のモザイク荷電膜について、圧透析性試験前(未使用)及び圧透析性試験後に、その断面の状態を走査電子顕微鏡(型番:S−530形、(株)日立製作所製、以下、「SEM」という)にて観察した(倍率:400倍、加速電圧:20kV、温度:25℃、相対湿度:0%)。図12(a)に試験前のSEM写真を、図12(b)に試験後のSEM写真を示す。
【0080】
図12のSEM写真から、(a)に示される試験前のモザイク荷電膜は、ポリエステル不織布の支持体21に対してほぼ均一な膜厚であるが、(b)に示される試験後のモザイク荷電膜は、支持体21に対して膜厚が均一でないどころか、崩壊した部分が多く観察され、この従来のモザイク荷電膜が塩の圧透析用膜として使用に耐えないものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の製造方法により、モザイク荷電膜を製造する際の工程の簡素化、所要時間の短縮化及びコストの低減化が図られ、生産効率の向上が実現される。また本発明のモザイク荷電膜は、種々のイオンを含有した溶液の透析に使用が可能であり、例えば化学工業、金属工業、医薬・食品工業などの各種産業分野にて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るモザイク荷電膜の製造方法の概略を示すフローチャート
【図2A】本発明の第1の実施形態に係るモザイク荷電膜の製造方法の概略の一例を示すフローチャート
【図2B】本発明の第1の実施形態に係るモザイク荷電膜の製造方法の概略の一例を示すフローチャート
【図3】本発明の第1の実施形態に係るモザイク荷電膜の一例を示す模式図
【図4】本発明の第1の実施形態に係るモザイク荷電膜の一例を示す模式図
【図5】本発明に用いられるイオン選択性表面層による、陽イオンの選択透過性の一例を示す模式図
【図6】塩の拡散透析性試験に用いる拡散透析装置の概略図
【図7】実施例で得られたモザイク荷電膜についての塩の拡散透析性試験における、NaCl水溶液の濃度に対する塩透過量の変化を示すグラフ
【図8】塩の圧透析性試験に用いる圧透析測定システムの概略図
【図9】実施例で得られたモザイク荷電膜についての塩の圧透析性試験における、NaCl水溶液側の圧力に対する塩透過量の変化を示すグラフ
【図10】イオン選択性試験に用いる電気透析装置の概略図
【図11】実施例で得られたモザイク荷電膜についてのイオン選択性試験における、経過時間に対する各イオンのイオン濃度
【図12】従来のモザイク荷電膜の断面のSEM写真であり、(a)が塩の圧透析性試験前のSEM写真、(b)が塩の圧透析性試験後のSEM写真
【符号の説明】
【0083】
1a、1b モザイク荷電膜
2 陽イオン交換樹脂粒子
3 陰イオン交換樹脂粒子
4 膜形成ポリマー
5 膜
6 イオン選択性表面層
7、8、17、18 容器
9、14 電導度計
10、11 液槽
12 流量計
12a 流量調整弁
13 圧力計
13a 圧力調整弁
15、16 ポンプ
19 陽極
20 陰極
21 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モザイク荷電膜の製造方法であって、以下の工程(1)及び(2):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を混合し、ポリマー溶液に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程
(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程
を行うことを特徴とする、モザイク荷電膜の製造方法。
【請求項2】
陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が、いずれも平均粒子径が500μm以下のイオン交換樹脂である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が、いずれも平均粒子径が0.1〜400μmのイオン交換樹脂である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の合計量T1の、該合計量T1と膜形成ポリマーの量T2との総量に対する割合
{T1/(T1+T2)}×100
が、90重量%以下である、請求項1〜3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の合計量と膜形成ポリマーの量との総量Tの、溶媒の量Vに対する割合
T/V
が、0.2〜0.8g/mLである、請求項1〜4いずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
工程(2)に次いで、さらに以下の工程(3):
(3)洗浄した膜の片面に、イオン選択性表面層を設ける工程
を行う、請求項1〜5いずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
イオン選択性表面層が荷電性ポリマーを含有したものである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の製造方法にて得られるモザイク荷電膜。
【請求項9】
圧透析用膜である、請求項8に記載のモザイク荷電膜。
【請求項10】
操作圧力が10MPa以下の圧透析に用いる圧透析用膜である、請求項9に記載のモザイク荷電膜。
【請求項11】
透析での適用温度範囲が10〜80℃である、請求項8〜10いずれかに記載のモザイク荷電膜。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−297338(P2006−297338A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126551(P2005−126551)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】