説明

モダクリル/アラミド繊維混紡の染色

カチオン染料と染色助剤を利用するモダクリル繊維とアラミド繊維との混紡の染色方法は、染浴1リットル当り15g以下の染色助剤の濃度を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモダクリル/アラミド繊維混紡の染色に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、耐炎性だけでなく1つもしくはそれ以上の追加の特性を備える布帛に特に有用な繊維混紡の染色に関する。追加の特性の例として、電気アークに対する抵抗、レベルの高い引張強さおよび耐摩耗性が挙げられる。
【0003】
特許文献1(ソイロン(Soiron)ら)は、ケトンを形成するカルボニル基を含有しないキャリヤーとアニオン助剤を含有する水性媒体中で、カチオン染料で芳香族ポリアミド繊維を染色もしくは捺染するプロセスを開示する。
【0004】
特許文献2(ルンドスフォード(Lundsford)ら)は、選択された染色助剤を用いて、難燃性化合物を含有するセルロース繊維を含有する耐炎性の混紡布帛を染色するプロセスを開示する。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,066,395号明細書
【特許文献2】米国特許第6,547,835号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
染色手順だけが原因である過度の繊維収縮も過度の剛さも伴わないで、耐炎性繊維の固有な混紡を染色することが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カチオン染料と染色助剤を用いて、モダクリル繊維とアラミド繊維の混紡を染色する方法に関し、モダクリル繊維およびアラミド繊維を基準として、モダクリル繊維は、1〜99重量%の範囲で存在し、アラミド繊維は、99〜1重量%の範囲で存在する。その方法は、
70〜100℃の範囲の温度で、カチオン染料および染浴1リットル当り15g以下の量で存在する染色助剤を含有する水性染浴と、繊維混紡を接触させる工程を含んでなり、前記染色助剤は、アリールエーテル、ベンジルアルコール、N−シクロヘキシルピロリドン、N,N−ジブチルホルムアミド、N,N−ジエチルベンズアミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、N,N−ジメチルベンズアミド、N,N−ジエチル−m−トルアミド、N−オクチルピロリドン、N,N−ジメチルカプリルアミドとN,N−ジメチルカプルアミドの混紡、およびそれらの混合物よりなる群から選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の染色手順のための出発材料は、モダクリル繊維とアラミド繊維の混紡である。通例、上記混紡は、糸としてまたは布帛に形成される糸として存在する繊維で染色されうる。しかしながら、繊維の混紡が、糸もしくは布帛などに形成される前に、染色されることは、染色手順の範囲内である。
【0009】
出発材料の組成は、モダクリル成分およびアラミド成分を基準として、1〜99重量%のモダクリル繊維と99〜1%の重量%のアラミドを含んでなるモダクリル/アラミド混紡である。これらの2種の成分を基準とする好適な範囲の例は、40〜70重量%のモダクリル繊維、5〜20重量パーセントのp−アラミド繊維および10〜40重量%のm−アラミド繊維である。好適な範囲の上記の例が、結果として、耐電気アーク性および防炎性を提供する糸および布帛に有用な混紡となる。
【0010】
「糸」は、連続したストランドを形成するように、紡績されたまたは一緒に撚った繊維の集まりを意味し、それは、製織、製編、製紐、または組編に使用されることができ、或いは、織編生地もしくは布帛に作製されうる。
【0011】
モダクリル繊維は、主にアクリロニトリルを含んでなるポリマーから作製されるアクリル系合成繊維を意味する。該ポリマーは、30〜70重量パーセントのアクリロニトリルと70〜30重量パーセントのハロゲン含有のビニルモノマーとを含んでなるコポリマーであるのが好ましい。ハロゲン含有のビニルモノマーは、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどから選択される少なくとも1種のモノマーである。共重合性ビニルモノマーの例は、アクリル酸、メタクリル酸、それらの酸の塩もしくはエステル、アクリルアミド、メチルアクリルアミド、および酢酸ビニルである。
【0012】
本発明の好適なモダクリル繊維は、アクリロニトリルと塩化ビニリデンを組み合わせたコポリマーであり、該コポリマーは、改善された難熱性のために、さらに1種のまたは数種の酸化アンチモンを有する。上記の有用なモダクリル繊維として、2重量パーセントの三酸化アンチモンを有する米国特許第3,193,602号明細書に開示される繊維、少なくとも2重量パーセント、好ましくは8重量パーセント以下の量で存在する種々の酸化アンチモンで作製される米国特許第3,748,302号明細書に開示される繊維、および8〜40重量パーセントのアンチモン化合物を有する米国特許第5,208,105号明細書および同第5,506,042号明細書に開示される繊維が挙げられるが、それらに限定されない。
【0013】
本明細書で使用される「アラミド」は、少なくとも85%のアミド結合(−CONH−)が、2個の芳香族環に直接結合するポリアミドを意味する。添加剤が、アラミドと一緒に使用されることが可能であり、実際、ほぼ10重量パーセントまでの他の高分子材料が、アラミドと混紡されることが可能であり、或いは、アラミドのジアミンで置換されたほぼ10パーセントの他のジアミン、またはアラミドの二酸クロリドで置換されたほぼ10パーセントの他の二酸クロリドを有するコポリマーを使用することが可能であることが判明されている。適切なアラミド繊維は、W.ブラックらの「人造繊維−科学と技術」2巻、章題 繊維形成芳香族ポリアミド、297頁(インターサイエンス・パブリッシャー、1968年)(Man−Made Fibers−Science and Technology,Volume 2,Section titled Fiber−Forming Aromatic Polyamides, page 297, W. Black et al.,Interscience Publishers,1968)に記載されている。アラミド繊維は、さらに、米国特許第4,172,938号明細書、同第3,869,429号明細書、同第3,819,587号明細書、同第3,673,143号明細書、同第3,354,127号明細書、および同第3,094,511号明細書に開示されている。M−アラミドは、アミド結合が互いに対してメタ位にあるアラミドであり、p−アラミドは、アミド結合が互いに対してパラ位にあるアラミドである。本発明の実施において、最も多く使用されるアラミドは、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)およびポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0014】
1種もしくはそれ以上の追加の繊維もしくは成分が、モダクリル繊維およびアラミド繊維と一緒に含まれてもよいことが理解される。2つの例は、耐摩耗性繊維と、繊維として存在しうる帯電防止成分である。
【0015】
耐摩耗性は、表面研削および摩耗に耐性がある繊維または布帛の能力を意味する。耐摩耗性繊維は、ナイロンであるのが好ましい。ナイロンとは、脂肪族ポリアミドポリマーから作られる繊維を意味し、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)は、好適なナイロンポリマーである。他のナイロン(例、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリブチロラクタム(ナイロン4)、ポリ(9−アミノノナン酸)(ナイロン9)、ポリエナントラクタム(ナイロン7)、ポリカプリルラクタム(ナイロン8)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6,10)など)は、適切である。耐摩耗性繊維は、存在する場合、通常、上記糸の2〜15重量パーセントを含んでなる。
【0016】
帯電防止成分の実例としては、スチール繊維、炭素繊維、または既存の繊維への炭素被覆である。炭素または金属(例、スチール等)の伝導性は、糸、布帛、または衣服に組み込まれた場合、静電気の連続的発生の防止を助けるように電気管路を提供する。静電気放電は、感度の高い電気設備で或いは可燃性蒸気の付近で作業する作業者にとって、危険となりうる。帯電防止成分は、使用されるならば、糸全体の1〜5重量パーセントの量で存在してもよい。
【0017】
本発明の糸は、当技術分野で一般的に知られている任意の紡糸技術、これに限定されないが、リング精紡、芯紡糸、およびエアジェット紡糸またはさらに高度な空気精紡技術(例、空気を用いて、ステープルファイバーを糸に撚る村田エアジェット精紡機など)により、製造されうる。通常、任意の一般的な技術により製造される単糸は、次に、布帛に変えられる前に、一緒に諸撚りされ、少なくとも2本の単糸を含んでなる諸撚糸を形成する。
【0018】
用語「布帛」は、製織された、製編された、または1種もしくはそれ以上の別の種類の本発明の糸を用いて組み立てられた1つの層を意味する。布帛が、織布であるのが好ましい。本発明の布帛が、綾織であるのが最も好ましい。
【0019】
耐炎性布帛の染色は、従来技術において公知である。しかしながら、本発明において、臨界が、キャリヤーを有するカチオン染料の使用において存在する。
【0020】
カチオン染料の適切な開示は、米国特許第4,066,395号明細書に示される。カチオン染料として、慣例上、塩、塩化物、サルフェートまたは金属ハロゲン化物が挙げられ、例えば、塩化亜鉛、そのカチオン性が例えばカルボニウム、オキソニウム、スルホニウムまたはアンモニウム基に由来する塩である。発色団系の例は、アゾ染料、主にモノアゾまたはヒドラゾン染料、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、メチンまたはアゾメチン染料、クマリン、ケトン−イミン、シアニン、キサンテン、アジン、オキサジンまたはチアジン染料である。フタロシアニンまたは外(external)のオニウム基(例えばアルキルアンモニウムまたはシクロアンモニウム基)を有するアントラキノン系の染料塩、さらにシクロアンモニウム基を含有するベンゾ−1,2−ピラン染料塩の使用も可能である。上記の染料の混合物も使用されうる。
【0021】
本発明において必要な成分は、染色助剤である。適切な染色助剤は、米国特許第6,547,835号明細書に開示されている。具体的には、これらの染色助剤は、N−シクロヘキシルピロリドン、ベンジルアルコール、N,N−ジブチルホルムアミド、N,N−ジエチルベンズアミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、N,N−ジメチルベンズアミド、N,N−ジエチル−m−トルアミド、N−オクチルピロリドン、アリールエーテル、N,N−ジメチルカプリルアミドとN,N−ジメチルカプルアミドのおよそ50/50の混紡、およびそれらの混合物である。
【0022】
水性浴中におけるカチオン染料と染色助剤での染色は、従来型の方法で行われうる。通常、上記染色は、70℃〜100℃の温度範囲で行われる。
【0023】
しかしながら、上記染色助剤が染浴1リットル当り15g以下の濃度で存在することは、本発明において、決定的である。好適な濃度は、1リットル当り12g以下、さらに好ましくは1リットル当り10g以下である。1リットル当り5g未満などのさらに低い濃度の染色助剤は、他の全ての染色法の条件が同一に維持されると仮定すると、さらに長い染色時間を意味する。
【0024】
過度の量の染色キャリヤーは、2つの望ましくない特性を生じる結果となりうる。第一の特性は、糸および布帛の過度の収縮である。第二の特性は、糸および布帛の過度の剛さである。
【0025】
以下の実施例において、全ての部およびパーセントは、特に明記しない限り、重量部および重量パーセントであり、温度は、摂氏である。
【0026】
従来の方法におけるハンガー(Hunger)「L」、「a」、および「b」値を測定して、実施例の色彩および染色濃度を決定した。「L」色彩成分は、試料の黒さまたは白さの指標であり、「a」値は、試料の色が赤から緑の範囲内での指標であり、「b」値は、試料の色が青から黄色の範囲内での指標である。
【実施例】
【0027】
一工程の浴プロセスにおいて、染料と染色助剤を用いて、70重量パーセントのモダクリル繊維、15重量パーセントのメタ−アラミド繊維、5重量パーセントのパラ−アラミド繊維、および10重量パーセントのナイロン繊維を含んでなる布帛を染色した。
【0028】
工業用の染色プロセスに関して、以下の手順を記載する。しかしながら、以下にさらに説明される通り、上記の工業用染色プロセスが、さらに小型の染色装置のため、修正される。
【0029】
圧力ジェット染色槽に布帛を入れ、その染色槽内で、布帛は、布帛の端を一緒に縫い合わせることにより実現した連続ループで、開口ベンチュリ内を循環する。1リットル当り0.5gのメルポール(Merpol)(登録商標)HCS界面活性剤の水性溶液中で、60℃で10分間、布帛を精錬する。精錬後、染色槽の排水を行い、初期温度70℃で、染料、染色助剤、および水で染色槽を満たす。1分間に1℃の割合で浴温を上昇させながら、その布帛を10分間染色する。次に、酢酸を添加して、その溶液のpHをpH3〜4に調節する。その後、槽を追加の染料と染色助剤で満たし、80℃の一定温度を10分間保った後、浴温が98℃になるまで、1分間に1℃の割合で、温度を上昇させる。60分間、或いは染料を使い果たすまで、浴を98℃に保つ。その後、浴を60℃まで冷却させ、排水を行う。次に、1リットル当り2gのヒドロ亜硫酸ナトリウム、1リットル当り2gの炭酸ナトリウム、および水の溶液で槽を満たし、溶液を中和させる。浴温を1分間に1℃の割合で温度を60℃まで上昇させ、10分間循環させる。その後、槽の排水を行い、再び水を満たした後、水温を1分間に1℃の割合で60℃まで上昇させ、10分間循環させる。槽の排水を行い、布帛を乾燥させる。
【0030】
下のデータを生成するために、さらに小型の染料器具を使用した。すなわち、アヒバ・ポルマット(Ahiba Polmat)ステンレス鋼キャニスター染料ユニット(カーボワックスの熱媒体を有する)を使用した。
【0031】
使用した染料は、
ビオクリルブルー(Viocryl Blue)RLS染料(ci−41) 布帛重量の0.6%
ビオクリルレッド(Viocryl Red)AGL染料(ci−29) 布帛重量の0.75%
ビオクリル(Yorocryl Yellow)6GL(ci−21) 布帛重量の0.15%であった。
【0032】
上記に記載した布帛を、60℃で、布帛重量の0.5%でメルポール(Merpol)HCSと、布帛重量の3%でセコゲン(Cekogen)OX(酸化剤)を用いて、20分間前精錬した後、冷却し、排水し、水ですすいだ。
【0033】
98℃の最終温度で、60分間、布帛を染色した。1分間に約1℃の温度上昇で最終温度を達成した。染浴のpHは、約3〜4であった。アリールエーテルまたはベンジルアルコールを1リットル当り2、5、10、15、20および30gの量で使用した。染浴を約60℃まで冷却させ、排水した。
【0034】
染料溶液(2g/Lでヒドロ亜硫酸ナトリウムと炭酸ナトリウム)を中和させるために、染色した布帛を還元剤で、60℃で、20分間後精錬した後、溶液を冷却させ、排水した。
【0035】
水分テラーユニット(moisture teller unit)内で熱風送風機を用いて、染色した布帛を乾燥させた。
【0036】
以下のデータは、アリールエーテルとベンジルアルコールの染色助剤の様々な量での、布帛面積の%における収縮を表す。
【0037】
【表1】

【0038】
高パーセントの染色助剤で染色した場合、布帛は、過度の収縮を示した。
【0039】
20g/Lを超える染色助剤を使用した場合、布帛は、堅くなった。染料の取り込みは、以下の表の色測定により示唆される如く、高パーセントの染色助剤により、悪影響を受ける。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン染料および染色助剤を利用するモダクリル繊維とアラミド繊維との混紡の染色方法であって、モダクリル繊維とアラミド繊維を基準として、モダクリル繊維は、1〜99重量%の範囲で存在し、アラミド繊維は、99〜1重量%の範囲で存在し、
70〜100℃の範囲の温度で、カチオン染料および染浴1リットル当り15g以下の量で存在する染色助剤を含有する水性染浴と、繊維混紡を接触させる工程を含んでなり、染色助剤は、アリールエーテル、ベンジルアルコール、N−シクロヘキシルピロリドン、N,N−ジブチルホルムアミド、N,N−ジエチルベンズアミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、N,N−ジメチルベンズアミド、N,N−ジエチル−m−トルアミド、N−オクチルピロリドン、N,N−ジメチルカプリルアミドとN,N−ジメチルカプルアミドの混紡、およびそれらの混合物よりなる群から選択される方法。
【請求項2】
繊維が、糸として存在する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
繊維が、布帛に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
モダクリルおよびアラミド繊維を基準として、40〜70重量%のモダクリル繊維、5〜20重量パーセントのp−アラミド繊維および10〜40重量%のm−アラミド繊維を有する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
混紡が、さらに、耐摩耗性繊維を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
耐摩耗性繊維が、ナイロンである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
混紡が、帯電防止成分を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
染色助剤が、染浴1リットル当り12g以下の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
染色助剤が、染浴1リットル当り10g以下の量で存在する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
染色助剤が、アリールエーテルまたはベンジルアルコールである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法によって染色された繊維の混紡を含む衣服。

【公表番号】特表2007−529647(P2007−529647A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504099(P2007−504099)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/008883
【国際公開番号】WO2006/001857
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】