モチライド類の多型
【課題】医薬配合物中に使用するのに特に望ましい化合物Iaの多型を提供する。
【解決手段】本発明は、式Iaにより表わされる構造を有するモチライド類の多型を提供する。
【解決手段】本発明は、式Iaにより表わされる構造を有するモチライド類の多型を提供する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、モチライド(motilide)類の多型、ならびにそれらの多型の製造方法および使用に関する。
胃腸(”GI”)の運動性は、摂取された物質が腸管内を整然と移動して栄養素、電解質および流体が確実に適切に吸収されるように調節する。食道、胃、小腸および結腸内での胃腸内容物の適正な通過は、腔内圧および幾つかの括約筋の局部制御に依存し、これにより内容物の前進が調節され、逆流が阻止される。疾患および外科処置を含めたさまざまな状況で、この正常な胃腸運動パターンが損なわれる場合がある。
【0002】
胃腸運動障害には、胃不全麻痺および胃食道逆流疾患(”GERD”)が含まれる。その症状に胃反転、胸焼け、吐き気および嘔吐が含まれる胃不全麻痺は、胃内容物の排出遅滞である。GERDは、胃および十二指腸の内容物が食道へ逆流することによる多様な臨床症状発現を表わす。最も一般的な症状は胸焼けおよび言語障害であり、食道びらんによる出血が起きることも知られている。胃腸運動障害の関与が示唆されている他の胃腸障害の例には、食欲不振症、胆嚢うっ滞、術後麻痺性腸閉塞、強皮症、腸偽閉塞、過敏性腸症候群、胃炎、吐出および慢性便秘症(結腸活動力欠如)が含まれる。
【0003】
モチリン(motiline)は、腸粘膜の内分泌細胞が分泌する22-アミノ酸ペプチドホルモンである。それが胃腸管のモチリン受容体に結合すると、腸管運動が刺激される。モチリンアゴニストとして作用する療法薬(”プロキネティック薬(prokinetic agent)”)の投与が腸管障害の処置法として提唱された。
【0004】
エリスロマイシンは、放線菌(actinomycetes)サッカロポリスポラ・エリスレア(Saccharopolyspora erythraea)の発酵により作られるマクロライド系抗生物質の1ファミリーである。一般に用いられる抗生物質エリスロマイシンAは、このファミリーのうち最も豊富で重要なメンバーである。
【0005】
【化1】
【0006】
エリスロマイシンAの副作用には、吐き気、嘔吐および腹部不快感が含まれる。これらの作用は、エリスロマイシンA (1)、さらにそれの初期酸触媒分解生成物(5)の、モチリンアゴニスト活性に起因することが突き止められた(二次分解生成物スピロケタール(6)は不活性である)。
【0007】
【化2】
【0008】
エリスロマイシンAおよび分解生成物5のモチリンアゴニスト活性の発見に刺激されて、研究者らは新たなモチライド類(プロキネティック活性をもつマクロライド類をこのように呼ぶ)を発見することを試みた。研究の多くは、天然に産生するエリスロマイシンの発酵後化学変換により、または発酵プロセスの改変(遺伝子工学を含む)により、新規エリスロマイシン類似体を生成することに注目した。モチライド類に関連する文献例には下記のものが含まれる:Omuraら、US 5,008,249 (1991)およびUS 5,175,150 (1992); Haradaら、US 5,470,961 (1995); Freibergら、US 5,523,401 (1996); US 5,523,418 (1996); US 5,538,961 (1996); およびUS 5,554,605 (1996); Larteyら、US 5,578,579 (1996); US 5,654,411 (1997); US 5,712,253 (1998); およびUS 5,834,438 (1998); Kogaら、US 5,658,888 (1997); Miuraら、US 5,959,088 (1998); Premchandranら、US 5,922,849 (1999); Keyesら、US 6,084,079 (2000); Ashleyら、US 2002/0025936 A1 (2002); Ashleyら、US 2002/0094962 A1 (2002); Carrerasら、US 2002/0192709 A1 (2002); Itoら、JP 60-218321 (1985) (対応するChemical Abstracts abstract no. 104:82047); Santiら、US 2004/138150 A1 (2004); Carrerasら、US 2005/0113319 A1 (2005); Carrerasら、US 2005/0119195 A1 (2005); Liuら、US 2005/0256064 A1 (2005); Omura et al, J. Antibiotics 1985, 38, 1631-2; Faghih et al., Biorg. & Med. Chem. Lett., 1998, 8, 805-810; Faghih et al., J. Med. Chem., 1998, 41, 3402-3408; Faghih et al., Synlett., Jul. 1998, 751; ならびにLartey et al., J. Med. Chem., 1995, 38, 1793-1798。以上の文献すべての開示内容を本明細書に援用する。
【0009】
同様に関連する可能性があるのは、モチリンアゴニストとは表示されないとしても、エリスロマイシン骨格化合物であり、文献例は下記のものである:Krowickiら、US 3,855,200 (1974); Radoboljaら、US 3,939,144 (1976); Kobrehelら、US 3,983,103 (1976); Toscano, US 4,588,712 (1986); Agouridasら、US 5,444,051 (1995); Agouridasら、US 5,561,118 (1996); Agouridasら、US 5,770,579 (1998); Asakaら、US 6,169,168 B1 (2001); Kobrehelら、DE 2,402,200 (1974); Pliva Pharmaceuticals, GB 1,416,281 (1975); Pliva Pharmaceuticals, GB 1,461,032 (1977); Asagaら、JP 2002/241391 (2002); Ryden et al., J. Med. Chemistry, 1973, 16(9), 1059-1060; Naperty et al., Roczniki Chemii, 1977, 51 (6), 1207-10; Kobrehel et al., Eur. J. Med. Chemistry, 1978, 13 (1), 83-7; Egan et al., J. Antibiotics, 1978, 31 (1), 55-62; Matijasevic et al., Croatica Chemica Acta, 1980, 53 (3), 519-24; Radobolja et al., Croatica Chemica Acta, 1985, 58 (2), 219-25; Hunt et al., J. Antibiotics, 1989, 42(2), 293-298; Myles et al., J. Org. Chem., 1990, 55, 1636-1648。以上の文献すべての開示内容を本明細書に援用する。
【0010】
モチライド類の開発に多数のパラメーターが関係することは、当業者に理解されるであろう。まず、自然産生する微生物におけるエリスロマイシン骨格の発生は、抗菌作用により推進され、プロキネティック作用によるものではない。したがって、構造-活性関係をモチリンアゴニストに最適化するためには、かなりの隔たりがある。第2に、モチライド類が抗菌活性をもつことは、実際には望ましくない。胃腸管は細菌の大集団に対する宿主であり、それが抗菌活性をもつモチライド類に曝露されると、これらの細菌にエリスロマイシン抗生物質に対する耐性の発現を誘発する可能性がある。また、抗菌活性をもつモチライド類は有益な腸内細菌を殺す可能性がある。したがってモチライド類は、増強したプロキネティック活性が工学的に導入され、抗菌活性が工学的に除かれることが望ましい。第3に、現在までに評価されたモチライド類に一般にみられる欠点は、それらがモチライド受容体を脱感作する傾向をもつことである。これは、初回投与後、モチライド類の後続投与により誘発される応答がより弱いか、または応答がない(タキフィラキシー、速成耐性)ことを意味する。第4に、安定性および生物学的利用能が懸念される−すなわちエリスロマイシンAは胃内で容易に分解し、それの二次分解生成物は活性をもたないという証拠がある。第5に、エリスロマイシンファミリーの若干の化合物は、QT間隔延長および心室性不整脈を含む望ましくない前不整脈作用をもつことが報告された。これらの作用を許容できるレベルに制限することが望ましい。したがって、多様な性能要件のバランスのとれた新規モチライド類を開発することがなお求められている。
【0011】
本明細書に援用するLiuら、US 2006/0270616 A1 (2006) (以下、”Liuの'616出願”)には、一般式I(RA、RB、RC、RDおよびREは構造可変基)で表わされるモチライド類の1ファミリーが開示されている。そこに開示された具体的な化合物は化合物(Ia)であり、これはモチライド類にとって魅力的なバランスのとれた特性をもつ。
【0012】
【化3】
【0013】
ある化合物が有望な臨床候補として開発のために選択されると、それを適切な医薬配合物中に配合することを考慮しなければならない。すなわちこれは、多型が存在する可能性を考慮しなければならないことを意味する。多型が存在すると、それらは溶解度、貯蔵安定性、吸湿性、密度および生物学的利用能を含めた医薬関連特性が異なる場合がある。ある多型が貯蔵中に他の多型に自然変換する場合が多少ともある。そのような変換の結果、特定の多型を送達することを意図とした配合物がその配合物に適合しない異なる多型を含有することになる可能性がある。吸湿性多型は貯蔵中に水を取り込んで秤量操作に誤差をもたらし、かつ取扱い適性に影響を及ぼす可能性がある。特定の多型について用いるように設計した調製法は、異なる多型に用いるのには不適切な場合がある。相互変換が起きないとしても、ある多型が他方より配合しやすい場合があり、このため適正な多型の選択が重要となる。したがって、医薬配合物の設計に際して多型の選択は重要な要因である(本明細書中で用いる用語”多型”には、非晶質形態、ならびに非溶媒和および溶媒和形態も含まれる;ICH (International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use;人に使用される医薬品の承認審査のための技術的要求のハーモナイゼーションに関する国際会議)のガイドラインQ6A(2)に明記)。
【0014】
本発明は、化合物Iaの、医薬配合物中に使用するのに特に望ましい多型に関する。
化合物IaをLiuの'616出願に従って製造すると、配合物の開発に最適化されていない形態で得られる(この形態を本明細書中で多型Iと表示する−後記の実施例3を参照)。本発明者らは、化合物Iaの他の多型を見いだした。これには、医薬配合物中に使用するための改良された特性をもつもの(本明細書中で多型IVと呼ぶ)が含まれる。多型IIと呼ぶ他の多型も、医薬配合物中に使用するのに適切な特性をもつ。したがって1態様において、本発明は化合物Iaの精製された多型IVを提供する。他の態様において、本発明は化合物Iaの精製された多型IIを提供する。
【0015】
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IVを製造する方法であって、本明細書中で多型IIと呼ぶ化合物Iaの多型に、ジイソプロピルエーテル(”DIPE”)およびC5-C7アルカンまたはアルケン(好ましくはヘプタン)から選択される媒質の存在下で複数回の加熱および冷却サイクルを施すことを含む方法を提供する。
【0016】
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IVを製造する方法であって、該化合物Iaの酢酸エチル溶液を調製し、この溶液にC5-C7アルカンまたはアルケンを添加して該化合物を精製された多型IVとして結晶化させることを含む方法を提供する。
【0017】
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IVおよび医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬配合物を提供する。
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IIおよび医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬配合物を提供する。
【0018】
他の態様において本発明は、胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、化合物Iaの精製された多型IVを投与することを含む方法;医薬として使用するための、化合物Iaの精製された多型IV;胃運動障害疾患の処置に使用するための、化合物Iaの精製された多型IV;胃運動障害疾患の処置に用いる医薬の製造のための、化合物Iaの精製された多型IVの使用;および胃運動障害疾患の処置のための、化合物Iaの精製された多型IVを含む医薬組成物を提供する。
【0019】
本発明はさらに、胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、化合物Iaの精製された多型IIを投与することを含む方法;医薬として使用するための、化合物Iaの精製された多型II;胃運動障害疾患の処置に使用するための、化合物Iaの精製された多型II;胃運動障害疾患の処置に用いる医薬の製造のための、化合物Iaの精製された多型IIの使用;および胃運動障害疾患の処置のための、化合物Iaの精製された多型IIを含む医薬組成物を提供する。
【0020】
胃運動障害疾患である障害の具体例には、胃不全麻痺、胃食道逆流疾患(”GERD”)、食欲不振症、胆嚢うっ滞、術後麻痺性腸閉塞、強皮症、腸偽閉塞、過敏性腸症候群、胃炎、吐出および慢性便秘症(結腸活動力欠如)が含まれる(限定ではない)。本発明の多型は、特にGERDの処置に有効である。
【0021】
多型Iは、XRPDにより、大部分が非晶質で結晶性に乏しい白色粉末であると特徴付けられた。これは比較的吸湿性であり、0〜90%のRH(相対湿度)で8.5%の重量増加を示すことが示された。熱分析は、周囲温度と90℃の間で溶媒損失による吸熱を示した。この吸熱に伴う重量減少は3.0%であり、これは1.4モルの水に相当する。75〜100℃の温度に加熱すると、多型Iは結晶性を失った。水性条件下で、多型Iは多型IIと呼ばれる第2多型に変換した。後者2つの所見は多型Iを配合物開発のための多型として選択するのに不利な影響を与える。多型Iについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1a、2aおよび3aに示す。
【0022】
多型IIは、小さな粒径(< 10μm)および識別できない形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。XRPDは、それが結晶性であり、若干の非晶質含量をもつことを示した。5〜0%のRHに保持すると、多型IIは4%の重量減少を示した。これは化合物(Ia)1モルにつき2モルの水に相当する。周囲条件下でのXRPD再分析により証明されたように、対応して結晶性が失なわれた。これは、多型IIが2水和物であることを示唆する。熱分析は周囲温度と100℃の間で溶媒(水)損失による幅広い吸熱を示した。この減少は5.0%の重量減少に相当し、2.5モルの水、すなわち多型IIが吸湿性であることによる追加の含水量に対応する。50〜75℃で結晶性が失なわれた。多型IIは、30℃で72時間の真空乾燥に際しても結晶性を失なう。多型IIについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1b、2bおよび3bに示す。
【0023】
多型IVは、最高50μmの粒径および針状形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。XRPDによれば、それは結晶性であった。それの水溶解度は0.77 mg/mLであった。97.9%の純度レベルで、それは吸湿性が高くはなく、0〜90%のRHで重量増加は3.5%であった。この重量増加は、周囲条件下での再分析に際してXRPDパターンの変化をもたらさなかった。熱分析は周囲温度と65℃の間で溶媒(水)損失による幅広い吸熱を示した(1.5%の重量減少)。150℃で開始する融解転移がみられ、この融解状態まで加熱してもXRPDパターンの変化はなかった。40℃、75%のRHで10週間の貯蔵によっても、溶解度分析に際しての取扱いによっても、有意の変化は生じなかった。加熱に際して結晶性を保持すること、およびそれの貯蔵安定性により、多型IVは医薬配合物開発のための良好な候補となる。多型IVについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1d、2cおよび3cに示す。多型IVについての代表的なFT-IR、FT-ラマン、13C固相NMRおよび15N固相NMRデータを、それぞれ図5、6、7および8に示す。
【0024】
多型IVは多型IIから、ジイソプロピルエーテル中での熟成(加熱と冷却の反復サイクル)により製造できる。C5-C7アルカンまたはアルケン、たとえば(好ましくは)ヘプタンも使用できる−こうして製造した物質は最初は若干の多型IIを含有していたが、これは真空乾燥後には除かれた(XRPDにより判定)。サイクル数は少なくとも2、好ましくは3であるが、これより多い回数(たとえば最高12)も採用できる。このサイクルの温度範囲は、一般に5〜50℃、好ましくは25〜50℃で、24時間以上である。
【0025】
さらに、本発明者らは化合物Iaの他の幾つかの多型をも見いだした。そのような他の多型の製造および特徴付けを以下にまとめる。さまざまな理由で、これらの多型は配合物の開発について多型IIおよびIVより望ましくない。
【0026】
多型IIIは、化合物Iaの非晶質ステアリン酸塩をジイソプロピルエーテル中で熟成(加熱と冷却の反復サイクル)した後に得られる多型である。この多型は大規模には単離できず、これ以上調べることができなかった。図1cは多型IIIの代表的なXRPDデータを示す。
【0027】
多型Vは、t-ブチルメチルエーテル(”TBME”)中での熟成により製造された。これは小さな粒径(< 10μm)および規定できない形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。これはXRPDによれば結晶性であり、それの水溶解度は0.72 mg/mLであった。熱分析は100℃で開始する融解転移を示した。これはTGAによる8.7%の重量減少と相関し、1モルのTBMEに対応する。これは、多型VがモノTBME溶媒和物であることを示唆する。多型Vは40℃および75%のRHで1週間の貯蔵後に結晶性が低下し、溶解度分析に際して多型IIに変換した。これは、配合物の開発のための候補としての有望性に不利な影響を与える溶媒和物である。多型Vについての代表的なXRPDおよびDSCデータを、それぞれ図1eおよび2dに示す。
【0028】
多型VIは、酢酸エチル、酢酸イソプロピルまたはアニソールから得られる部分結晶性多型である。熱重量分析(TGA)に際してわずかな段階的重量減少がみられ、イソ構造形溶媒和物のファミリーであることが示唆される。酢酸エチルから得られた形態についての吸熱開始は107℃であった;酢酸イソプロピル形についての対応する開始は90℃であった。アニソール形は、98℃および110℃で開始する2つの吸熱を示した。多型VIは、40℃、75%のRHで貯蔵すると多型IVに変換し、あるいは溶解度分析に際して多型IVまたはIIに変換した。それが多型IVに変換することは、配合物開発のために望ましい候補であるのに十分なほど安定ではないことを示唆する。
【0029】
多型VI(酢酸エチル形)についての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1f、2eおよび3dに示す。
多型VIIは、トルエン中での熟成後に得られた。それは小さな粒径(< 20μm)および識別できない形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。それはXRPDによれば部分結晶性であった。それの水溶性は0.75 mg/mLであった。それは重量法による蒸気収着分析(gravimetric vapor sorption、”GVS”)によって一定の重量減少を示し、周囲条件下でのXRPD再分析によればこれに対応して結晶性を失った。熱分析は103℃で開始する融解転移を示し、TGAにより4.7%の重量減少を伴い、これは0.5モルのトルエンに対応する。したがって、多型VIIは半トルエン溶媒和物であると思われる。多型VIIは40℃および75%のRHで1週間の貯蔵後に結晶性を失ない、溶解度分析に際して多型IIおよびIVの混合物に変換した。これは溶媒和物であり、それの不安定さにより配合物開発のための候補としての有望性はより低い。多型VIIについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1g、2fおよび3eに示す。
【0030】
図1bは、多型IIの代表的なXRPDパターンを示す。表1は、図1bの主ピークを表にしたものである。したがって1態様において多型IIは、3.5±0.1、6.9±0.1、9.2±0.1、9.6±0.1および10.4±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピーク、または3.5±0.1、6.9±0.1、9.2±0.1、10.4±0.1および18.0±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピークにより定義することができる。
【0031】
【表1】
【0032】
図1dは、多型IVの代表的なXRPDパターンを示す。表2は、図1dの主ピークを表にしたものである。したがって1態様において多型IVは、3.8±0.1、7.5±0.1、8.1±0.1、9.6±0.1および11.0±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピーク、または3.8±0.1、7.5±0.1、16.1±0.1、16.5±0.1および17.1±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピークにより定義することができる。
【0033】
【表2】
【0034】
図2cは、多型IVの代表的なDSC走査を示す(この場合、多型IVの試料は実施例4に従ってジイソプロピルエーテルを用いて製造された)。多型IVは、周囲温度と110℃の間で溶媒損失による幅広い吸熱を示し、続いて143〜156℃、少なくとも149〜161℃で開始する融解吸熱を示した。このような吸熱は、本発明者らが同定した化合物Iaの他の多型にはなかった。したがって1態様において多型IVは、約143〜約156℃の開始温度をもつ融解吸熱を示すものと特徴付けることができ、これにより多型IVは化合物Iaの他の多型から区別される。
【0035】
図3cは、定温25℃における多型IVの代表的なGVS走査を示す。多型IVは、0〜90%のRHで3.5%の質量増加を示す。この質量増加/減少は、複数回の収着および脱着サイクルに際してきわめて均一である。多型I(図3a)、II(図3b)およびVI(図3d)は0〜90%のRHで6〜10%の質量増加を示し、それらの質量増加/減少は複数回の収着および脱着サイクルに際して著しく変化した。多型VII(図3e)は0〜90%のRHで3%の質量増加を示したが、それの質量増加/減少も複数回の収着および脱着サイクルに際して著しく変化した。したがって1態様において多型IVは、0〜90%のRH(25℃)で3.5%の質量増加、ならびに複数回の収着および脱着サイクルに際して均一な質量増加/減少を示すものと特徴付けることができる。
【0036】
図5は、多型IVの代表的なFT-IR走査を示す。下記の主吸収バンド(cm-1)に注目することができる(s = 強、m = 中、w = 弱、実験誤差は+/- 2cm-1):3381(m), 2973(m), 2936(m), 1721(m), 1674(m), 1558(w), 1450(m), 1408(w), 1375(m), 1347(m), 1325(w), 1272(w), 1250(w), 1176(s), 1167(s), 1130(w), 1108(s), 1080(w), 1053(w), 1038(w), 1029(w), 993(s), 982(w), 958(m), 930(w), 898(m), 864(w), 844(w), 833(w), 804(w), 778(w), 753(w), 724(w), 701(w)および668(w)。下記のピークが特に明瞭である:1558(w)、1347(m)、1130(w)、1108(s)および993(s)。
【0037】
図6は、多型IVの代表的なFT-ラマン走査を示す。下記の主ラマンシフト(cm-1)に注目することができる(vs = きわめて強、s = 強、m = 中、w = 弱、実験誤差は+/- 2cm-1):2977(vs), 2940(vs), 2916(m), 2848(s), 2719(m), 1726(w), 1662(w), 1463(s), 1412(w), 1374(w), 1356(m), 1330(w), 1282(w), 1249(w), 1208(w), 1160(m), 1130(w), 1109(w), 1058(w), 1037(w), 1000(w), 983(w), 960(w), 933(w), 900(w), 865(m), 829(w), 812(w), 773(w), 753(w), 736(w), 670(w), 615(w), 527(w), 486(w), 460(w), 433(w), 407(w), 346(w), 279(w)および226(w)。下記のシフトが特に顕著である:1463(s)、933(w)、736(w)および615(w)。
【0038】
図7は、多型IVの代表的な13C固相NMR走査を示す。下記の化学シフトがみられる(29.5 ppmにおける外部試料アダマンチンに対するppm、強度はかっこ内のピーク高さに等しい):177.6 (4.68), 177.3 (3.6), 171.7 (1.18), 170.8 (2.68), 103.2 (5.08), 101.2 (5.08), 97.1 (5.09), 95.7 (6.76), 85.6 (2.27), 80.3 (2.72), 78.2 (6.35), 77.4 (5.09), 77.1 (5.42), 76.4 (11.6), 74.7 (7.69), 74.1 (9.97), 73.9 (10.11), 73.4 (4.39), 72.1 (2.62), 71.6 (6.35), 71.2 (5.61), 69.8 (1.75), 69.5 (4.22), 68.8 (5.34), 68.4 (4.79), 66.0 (5.13), 65.3 (5.72), 62.0 (2.31), 52.9 (2.59), 51.2 (5.06), 49.5 (5.74), 45.7 (12), 44.4 (5.26), 39.9 (3.58), 36.6 (3.32), 35.6 (3.82), 35.5 (3.41), 34.6 (3.29), 34.0 (2.48), 33.5 (5.01), 32.9 (2.86), 32.8 (7.31), 32.2 (5.15), 29.4 (1.69), 28.4 (6.71), 27.1 (5.53), 26.2 (3.22), 23.6 (7.16), 23.3 (1.67), 22.6 (5.05), 22.3 (10.17), 22.1 (6.25), 21.9 (4.88), 21.4 (7.3), 21.2 (6.22), 20.6 (7.42), 20.5 (8.01), 19.9 (9.82), 19.5 (2.79), 19.2 (6.23), 18.9 (7.85), 18.4 (2.93), 17.8 (5.67), 12.7 (6.44), 11.6 (4.1), 11.3 (5.13), 9.6 (6.09)および7.7 (7.11)。下記の化学シフトが特に顕著である:177.6、170.8、45.7、28.4、12.7および7.7 ppm。
【0039】
図8は、多型IVの代表的な15N固相NMR走査を示す。下記の化学シフトがみられる(-331.5 ppmにおける外部試料DL-アラニンに対するppm、強度はかっこ内のピーク高さに等しい):-270.8 (4.29)、-273.4 (12)、-342.4 (8.16)および-345.1 (9.27)。
【0040】
本発明の多型は、化合物Iaの配合物中に、錠剤、ペレット剤、カプセル剤、坐剤、膣坐剤、液剤、乳剤、懸濁液剤、および使用するのに適切な他のいずれかの剤形のための、医薬的に許容できる通常の無毒性キャリヤーと組み合わせて使用できる。多型IVは、薬物としての取扱いのために、および固体配合物中に使用するために、特に好ましい。
【0041】
使用できる賦形剤には、キャリヤー、界面活性剤、増粘剤または乳化剤、固体結合剤、分散助剤または懸濁助剤、可溶化剤、着色剤、着香剤、コーティング、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、保存剤、等張化剤、およびその組合わせが含まれる。適切な賦形剤の選択および使用は、Gennaro編, Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第20版(Lippincott Williams & Wilkins 2003)に教示されており、その記載内容を本明細書に援用する。
【0042】
本発明の多型は経口投与することができる。経口投与は嚥下を伴い、これにより化合物は胃腸管に進入する;あるいは口腔または舌下投与を採用でき、これによれば化合物は口腔から血流に直接進入する。経口投与に適切な配合物には、固体配合物、たとえば錠剤、粒子、液体または粉末を収容したカプセル剤、トローチ剤(液体を充填したものを含む)、咀しゃく剤、マルチ粒子およびナノ粒子、ゲル剤、固溶体、リポソーム、フィルム剤、卵形錠剤、スプレー剤、ならびに液体配合物が含まれる。
【0043】
液体配合物には、懸濁液剤、液剤、シロップ剤およびエリキシル剤が含まれる。そのような配合物は軟または硬カプセルの充填物として使用でき、一般にキャリヤー、たとえば水、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロースまたは適切な油、ならびに1種類以上の乳化剤および/または懸濁化剤を含む。液体配合物は固体、たとえばサッシェから再構成により調製することもできる。
【0044】
錠剤剤形について、用量に応じて薬物は剤形の1〜80重量%、より一般的には剤形の5〜60重量%を占めることができる。錠剤は、薬物のほかに、一般に崩壊剤を含有する。崩壊剤の例には、グリコール酸デンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、微結晶性セルロース、低級アルキル置換ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、プレゼラチン化デンプンおよびアルギン酸ナトリウムが含まれる。一般に崩壊剤は1〜25重量%を構成するであろう。本発明の1態様において、崩壊剤は剤形の5〜20重量%を構成するであろう。結合剤は、一般に錠剤配合物に凝集性を付与するために用いられる。適切な結合剤には、微結晶性セルロース、ゼラチン、糖類、ポリエチレングリコール、天然および合成ゴム、ポリビニルピロリドン、プレゼラチン化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれる。錠剤は、希釈剤、たとえば乳糖(1水和物、噴霧乾燥した1水和物、無水物など)、マンニトール、キシリトール、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、微結晶性セルロース、デンプンおよび二塩基性リン酸カルシウム2水和物を含有してもよい。錠剤は、場合により界面活性剤、たとえばラウリル硫酸ナトリウムおよびポリソルベート(polysorbate)80、ならびに流動促進剤、たとえば二酸化ケイ素およびタルクを含むこともできる。存在する場合、界面活性剤は錠剤の0.2〜5重量%を構成することができ、流動促進剤は錠剤の0.2〜1重量%を構成することができる。錠剤は、一般に滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリルフマル酸ナトリウム、およびステアリン酸マグネシウムとラウリル硫酸ナトリウムの混合物をも含有する。滑沢剤は一般に0.25〜10重量%を構成する。本発明の1態様において、滑沢剤は錠剤の0.5〜3重量%を構成する。可能性のある他の成分には、酸化防止剤、着色剤、着香剤、保存剤および味覚隠蔽剤が含まれる。
【0045】
錠剤の例は、最高約80%の薬物、約10〜約90重量%の結合剤、約0〜約85重量%の希釈剤、約2〜約10重量%の崩壊剤、および約0.25〜約10重量%の滑沢剤を含有する。
錠剤ブレンドを直接またはローラーにより圧縮して錠剤を成形することができる。あるいは錠剤ブレンドまたはブレンドの一部を、錠剤製造の前に湿式、乾式もしくは溶融造粒、溶融凝固、または押出しすることができる。最終配合物は1以上の層を含むことができ、コーティングを施してもよく、施さなくてもよい;それをカプセル封入してもよい。錠剤配合物については、Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Vol. 1, H. Lieberman and L. Lachman編(Marcel Dekker, ニューヨーク, 1980)に考察されている。
【0046】
一般に多型IVは、化合物Iaの他の多型を多型IVに変換する製造操作の結果、精製される。そのような場合、試料中の多型IVの量は、その製造操作前の試料中の多型IVの量(ゼロの可能性もある)と比較して増加する。さらに、他の不純物がそのような精製の結果除去されている可能性もある。好ましくは、精製された多型IVは、化合物Iaの他の多型を除いて予定量の多型IVを含有する。
【0047】
精製された多型IVを製造するための好ましい方法は、化合物Iaを酢酸エチルに溶解し、次いでC5-C7アルカンまたはアルケンを添加して多型IVを結晶化させるものである。アルカンまたはアルケンが含有する水は、好ましくは0.005 % v/v未満の低レベルでなければならない。この操作は化合物Iaの酢酸エチル溶液の含水率および結晶化温度に対して、ある程度感受性である。水は幾つかの経路でこの溶液に侵入する可能性がある。使用する化合物Iaが若干の含水率をもつ多型の形(たとえば多型IIは2水和物)である可能性がある。あるいは、酢酸エチルが痕跡量の水を含有する場合がある。好ましくは、化合物Iaの酢酸エチル溶液の含水率は3.6 %未満、より好ましくは1.9 %未満、最も好ましくは約1.1〜約1.9 % (体積/体積、すなわちv/v)である。多様な方法を個々に、または組み合わせて用いることにより、含水率を目的とする低レベルに維持することができる:
(a)化合物Iaの水和物ではない多型を使用する;
(b)たとえば真空下に40℃で17時間の、化合物Iaの予備乾燥を使用する;
(c)高純度で含水率の低い酢酸エチル、または酢酸エチルの予備乾燥を使用する;
(d)C5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に、酢酸エチル溶液をたとえば無水硫酸ナトリウムで乾燥させる。
【0048】
酢酸エチル溶液の含水率に対して感受性であるので、C5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に溶液の含水率を計算または検定し、3.6 %を超えていればC5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に含水率を低下させることを推奨する。
【0049】
結晶化温度は約20〜約36℃であってよい。一般に、酢酸エチル溶液の含水率が1.9 %以下であれば、多型IVの生成のためには25℃を超える温度(たとえば25〜36℃)を推奨する。
【0050】
前記の操作(または他の熟成操作)に使用できる適切なC5-C7アルカンおよびアルケンの例には、n-ペンタン、シクロペンタン、1-ペンテン、2-ペンテン、イソペンタン、ネオペンタン、n-ヘキサン、1-ヘキセン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、1-ヘプテンなどが含まれる。n-ヘプタンが好ましい。
【0051】
本発明の実施は以下の実施例によりさらに理解できる。これらは説明のために示すものであり、限定のためのものではない。
実施例1−一般分析法
XRPDパターンは、Bruker AXS C2 GADDS回折計により、Cu Ka線(40kV, 40mA)、自動XYZステージ、試料自動配置用のレーザービデオ顕微鏡、およびHiStar二次元領域検出器を用いて収集された。X線オプチクスは、0.3 mmのピンホールコリメーターと連携した単一Goebel多層ミラーからなっていた。
【0052】
ビーム拡散、すなわち試料上におけるX線ビームの有効サイズは約4 mmであった。試料-検出器距離20 cmでθ-θ連続走査モードを用い、これにより有効2θ範囲3.2〜29.7°が得られた。一般に試料をX線ビームで120秒間照射する。
【0053】
XRPDパターンはPharmorphix Ltd. (英国、ケンブリッジ)により取得された。試料のX線粉末回折パターンは、Siemens D5000回折計により、Cu Ka線(40kV, 40mA)、θ-θゴニオメーター、自動拡散および受光スリット、黒鉛二次モノクロメーターおよびシンチレーション計数計を用いて得られた。2〜42°の2θ角度範囲にわたり、0.02°の2θステップサイズおよび1秒間のステップ時間を用いて、連続走査モードでデータを収集した。分析前に試料を真空下に30℃で24時間乾燥させたが、他の乾燥方式も採用できる。
【0054】
周囲条件下で試験するXRPD試料は、入手した粉末をそのまま粉砕せずに用いて平板検体として調製された。約25〜50 mgの試料を、研摩したゼロバックグラウンド(510)シリコンウェーハ(The Gem Dugout, 1652 Princeton Drive, Pennsylvania State College, PA 16803, USA)に切り込んだ直径12 mm、深さ0.5 mmのキャビティー内へ徐々に充填した。すべての検体を静止モードで試験した。
【0055】
GVSデータもPharmorphix, Ltdにより収集された。すべての試料を、CFRSorpソフトウェアで作動するHiden IGASorp水分収着分析計により試験した。試料サイズは一般に10 mgであった。下記に概説するように2回の走査で1サイクルを完結させて、水分吸着/脱着等温操作を実施した。すべての試料を一般的な周囲(室内)湿度および温度(40 %のRH、25℃)で装填および取出した。すべての試料をGVS分析後にXRPDにより分析した。25℃での標準等温操作を10 %のRH間隔で0〜90 %のRHにわたって実施した。
【0056】
【表3】
【0057】
酢酸エチル、n-ヘプタンおよび化合物Iaの含水率をカール-フィッシャー法により測定した。化合物Ia/酢酸エチル溶液の含水率を質量平衡に基づいて算出し、% v/vとして表示した。
【0058】
FT-IRデータは、Smart Golden Gate(商標)単反射ATRアクセサリー(セレン化亜鉛オプチクス付きダイヤモンドATR結晶)およびd-TGS KBr検出器を備えたThermoNicolet Avatar 360 FTIR分光計により得られた。2cm-1の分解能で256の走査を同時付加してスペクトルを収集した。Happ-Genzelアポディゼーションを用いた。単反射ATRによりFT-IRスペクトルを記録したので、試料調製の必要はなかった。ATR FT-IRを用いることにより、赤外バンドの相対強度は、KBrディスクまたはヌジョールマル試料調製法を用いる吸光FT-IRスペクトルにみられるものと異なるであろう。ATR FT-IRの性質により、低波長のバンドは高波長のバンドより強度が大きくなる。別途明記しない限り、実験誤差は± 2 cm-1であった。ThermoNicolet Omnic 6.1aソフトウェアを用いてピークを選別した。強度の指定はスペクトル中の主バンドに対して相対的なものであり、したがってベースラインから測定した絶対値を基準としたものではない。スプリットピークを評価する場合、強度値をベースラインから求めたが、この場合もそのスペクトル中の最強バンドに対して相対的に強度を指定した。
【0059】
FT-ラマンデータは、1064nm NdYAGレーザーおよびLN-Germanium検出器を備えたRamII FT-ラマンモジュール付きBruker Vertex70 FT-IR分光計を用いて収集された。すべてのスペクトルを、2cm-1の分解能、Blackman-Harris 4-termアポディゼーション、300mWのレーザーパワーおよび4096の走査を用いて記録した。試料をそのガラスバイアルからそのまま、レーザー線で照射して測定した。データをラマンシフトの関数としての強度で示し、標準ランプからの白色光スペクトルを用いてBruker Raman Correct function(ラマン補正関数)(Brukerソフトウェア−OPUS 6.0)により計測器応答および周波数依存性散乱に対して補正する。別途明記しない限り、実験誤差は± 2 cm-1であった。ThermoNicolet Omnic 6.1aソフトウェアを用いてピークを選別した。強度の指定はスペクトル中の主バンドに対して相対的なものであり、したがってベースラインから測定した絶対値を基準としたものではない。スプリットピークを評価する場合、強度値をベースラインから求めたが、この場合もそのスペクトル中の最強バンドに対して相対的に強度を指定した。
【0060】
固相C13およびN15 NMRデータは、周囲条件下で、標準口径Bruker-Biospin Avance 500 MHz NMR分光計内に配置したBruker-Biospin 4 mm CPMASプローブにより収集された。窒素スペクトルを7mmのBL CPMASプローブにより収集した。マジックアングルに設置した7.0 kHz で回転する4および7 mmのZrO2ローターに試料を充填した。プロトンデカップリング干渉偏波マジックアングル回転実験(cross-polarization magic angle spinning experiment (CPMAS))により、炭素および窒素スペクトルを収集した。干渉偏波時間を2.5ミリ秒に設定した。約90 kHz (4 mmのプローブ)および70 kHz (7 mmのプローブ)のプロトンデカップリング磁場を付与した。5120 (13C)および30,000 (15N)の走査を収集した。リサイクル遅れを約1.5*T1Hに調整した(この場合、T1Hは、プロトン検出型プロトン反転回復緩和実験に基づいて算出したプロトン縦緩和時間(proton longitudinal relaxation time)を表わす)。炭素スペクトルは、結晶性アダマンタン外部標準を用い、それの高磁場共鳴を29.5 ppmに設定して基準とした。窒素スペクトルは、結晶性98% 15N標識D,L-アラニン外部標準を用い、それの共鳴を-331.5 ppm に設定して基準とした。
【0061】
実施例2−化合物Iaを製造するための一般法
本明細書に援用したLiuの'616出願の記載に従って化合物Iaを製造した。用いた合成スキームを図7にまとめる。エリスロマイシンA (1)を水素化ホウ素ナトリウムで還元して、中間体(9S)-ジヒドロエリスロマイシンA (7)を製造した。(9S)-ジヒドロエリスロマイシンA (7)を、塩基、たとえば酢酸ナトリウムまたはトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン(”TRIS”)の存在下にヨウ素で脱メチルして、N-デスメチル-(9S)-ジヒドロエリスロマイシンA (8)を得た。次いでこれを2-ヨードプロパンでアルキル化して、中間体9を得た。中間体9をN-メチルブロモアセトアミドでアルキル化すると、化合物Iaが得られた。得られる化合物Iaの多型は化学反応後の単離および精製工程に依存するであろう。
【0062】
中間体9の製造もSantiらのUS 6,946,482 B2 (2005)に記載されており、これを本明細書に援用する。脱メチル工程もLiuの米国特許出願No. 11/591,726(2006年11月1日)に記載されており、これを本明細書に援用する。
【0063】
実施例3−化合物Iaの製造および多型Iの単離
機械的撹拌機および内部熱電対温度探針を備えた5リットルの三つ口丸底フラスコに、化合物9(156.7 g, 205 mmol)、N-メチルブロモアセトアミド(37.4 g, 246 mmol)の、乾燥テトラヒドロフラン(”THF”, 1,800 mL)中における溶液を、氷浴内で0℃に冷却しながら装入した。固体カリウムt-ブトキシド(25.3 g, 226 mmol, 1.1当量)を、撹拌しながら窒素下で一度に添加した。反応混合物を0℃で1時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(1:2 ヘキサン-アセトン溶離剤)は、反応が完了したことを示した。飽和NaHCO3溶液(300 mL)の添加により反応を停止した。混合物を希NaHCO3 (2,500 mL)と酢酸エチル(”EtOAc”, 1,500 mL)の間で分配した。水層をEtOAc (2回, 1,500 mL)で抽出した。有機層を合わせてNa2SO4で乾燥させた。粗製化合物Ia (178.1 g)がわずかに黄色の固体として得られ、次いでこれをシリカゲルカラムにより精製して(シリカゲル2,800 g, ヘキサン中20〜40 %アセトンの溶離勾配, 1%のトリエチルアミン)、純粋な化合物Ia (135 g, 79%の収率)を得た。
【0064】
痕跡量の溶媒およびトリエチルアミンを除去するために、前記の生成物をジクロロメタンに溶解し、4回のロータリーエバポレーター処理するサイクルを繰り返し、次いで高真空下で乾燥させた。次いでこれをアセトニトリル-水(1:1 v/v, 4 mL/g)から凍結乾燥し、真空オーブンで乾燥させて(16時間, 50℃)、最終生成物(融点106〜108℃, 毛細管融点測定装置による)を得た。この仕上げ操作により化合物Iaを多型Iとして得た(図2aの多型IのDSC中の約110℃におけるわずかな吸熱に注目)。Liuの'616出願に同様な融点が報告されているので、これはそこに記載された多型であると思われる。
【0065】
実施例4−化合物Iaの製造および多型IIの単離
化合物9 (淡橙色の物質, 353 g, 462 mmol)およびN-ブロモアセトアミド(84 g, 600 mmol, 1.3当量)を、THF (3.9 L, 無水、阻害物質を含まない)に溶解した。この黄色溶液を0±2℃に冷却し、THF中の1 M カリウムt-ブトキシド(549 mL, 549 mmol, 1.2当量)で20分間かけて、温度を0〜3℃に維持しながら希釈した。0±2℃で撹拌を続けながら、出発物質の消失を調べるために工程内HPLCにより反応の進行をモニターした。15分後、約0.34 %の出発物質が残存するにすぎなかった。5 % NaHCO3 (2.6 L)で反応を停止した。層を分離し、水相をEtOAc (2.9 L)で抽出した。有機層を合わせて水(1.2 L)、次いでブライン(1.2 L)で洗浄した。有機相をMgSO4 (75 g)で乾燥させた。乾燥剤を濾過により除去し、EtOAc (200 mL)ですすいだ。濾液を合わせて濃縮して、化合物Iaを淡黄色残留物(392 g)として得た。
【0066】
残留物をアセトン(3.1 L, 8 mL/g)に溶解し、淡黄色溶液を脱イオン水(3.1 L)で希釈した。わずかに混濁した溶液を0〜5℃の範囲に20分間かけて冷却すると、沈殿が生成した(約10℃で結晶が見えた)。この懸濁液を0〜5℃で15分間撹拌し、さらに脱イオン水(3.1 L)で30分間かけて希釈した。混合物を0〜5℃でさらに30分間撹拌した。固体を濾過により分離し、次いでアセトン(0.15 L)と脱イオン水(0.30 L)の混合物ですすいだ。固体を一夜(約16時間)風乾し、次いでさらに(30℃; 29 in.Hg)64時間乾燥させて、化合物Ia (322 g)を灰白色固体として得た。
【0067】
実施例5−多型IVの製造
ジイソプロピルエーテル(1.0 mL)を、スクリューキャップ付き小バイアル内の化合物(Ia)多型II (250 mg)に添加した。バイアルとその内容物に、周囲温度と50℃の間で24時間にわたる加熱-冷却サイクルを3回施した。生成した固体を濾過し、30℃で24時間乾燥させた後、XRPDにより分析した。これにより多型IVへの変換が起きたことが示された。
【0068】
こうして得た多型IVの1H-NMR分析は、痕跡量(0.9%; 0.07当量)のジイソプロピルエーテルが存在することを示した。下記に従って水に懸濁することによりジイソプロピルエーテルを除去した:水(1.0 mL)を、スクリューキャップ付き小バイアル内の多型IVの試料(30 mg)に添加し、25℃で72時間振とうした。生成した固体を濾過し、乾燥させた。XRPDおよび1H-NMRによる分析は、試料の形態を変化させずにジイソプロピルエーテルが除去されたことを示した。
【0069】
実施例6−多型IV製造の別法
化合物Ia (2.0 g)を周囲温度で酢酸エチル(12.0 mL)に溶解した。この酢酸エチル溶液の含水率は1.1 % v/vであった。淡黄色溶液を、オーバーヘッド撹拌機(1KA RW16ベーシック)を備えた500 mL三つ口丸底フラスコに入れた。溶液を32℃、180〜185 rpmで撹拌し、n-ヘプタン(80 mL)を、シリンジポンプ(KdScientific)により0.8 mL/分の速度で添加した。50 mLのヘプタンを添加した後、シリンジの再充填のためにヘプタン添加を4分間中断した。さらに30 mLのヘプタン(合計量80 mL)を添加した後、得られた懸濁液を185 rpmおよび32℃でさらに2.5時間撹拌した。懸濁した多型IVの結晶を、セラミック製5 cmブーフナーろうとおよびWhatman #4濾紙で濾過することにより採集した。結晶を90:10 v/v ヘプタン:酢酸エチル(20 mL)ですすぎ、10分間乾燥させた。結晶をさらに40℃で真空(29.5 in Hg)下に16時間乾燥させて、1.62 gの多型IVを得た。多型IVとしての生成物の同一性をDSCおよびXRPDにより確認した。
【0070】
25℃で実験を繰り返して、同様に多型IVを製造した(ただし収率がわずかに低かった)。
実施例7−多型IV製造の他の別法
この例は、n-ヘプタン中での熟成による多型IVの製造を記載する。n-ヘプタン(500μL)をスクリューキャップ付き小バイアル内の多型Iに添加した。バイアルに、撹拌しながら5℃と40℃の間で24時間にわたる加熱-冷却サイクルを12回施した。XRPD分析により多型IVの生成が確認された。ジイソプロピルエーテルを用いて同じ操作を採用できる。
【0071】
以上の本発明の詳細な説明には、主にまたは専ら本発明の特定の部分または観点に関する節が含まれる。これは明確化および簡便性のためのものであり、特定の特徴はそれを記載した節に関連するにすぎず、本明細書の開示内容は他の節にある情報を適切に組み合わせたものすべてを含むことを理解すべきである。同様に、各種の図および本明細書中の記載が特定の態様に関連するが、特定の図または態様に関して特定の特徴が示されている場合、それらの特徴は、適切ならば、他の特徴と組み合わせて、または本発明全般において、他の図または態様に関しても採用できることを理解すべきである。
【0072】
さらに、本発明を特定の好ましい態様に関して具体的に記載したが、本発明はそれらの好ましい態様に限定されるのではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲の記載により規定される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1a】図1aは、化合物Iaの多型Iの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1b】図1bは、化合物Iaの多型IIの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1c】図1cは、化合物Iaの多型IIIの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1d】図1dは、化合物Iaの多型IVの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1e】図1eは、化合物Iaの多型Vの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1f】図1fは、化合物Iaの多型VI(酢酸エチル形)の、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1g】図1gは、化合物Iaの多型VIIの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図2a】図2aは、化合物Iaの多型Iの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2b】図2bは、化合物Iaの多型IIの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2c】図2cは、化合物Iaの多型IVの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2d】図2dは、化合物Iaの多型Vの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2e】図2eは、化合物Iaの多型VI(酢酸エチル形)の、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2f】図2fは、化合物Iaの多型VIIの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図3a】図3aは、化合物Iaの多型Iの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3b】図3bは、化合物Iaの多型IIの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3c】図3cは、化合物Iaの多型IVの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3d】図3dは、化合物Iaの多型VI(酢酸エチル形)の、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3e】図3eは、化合物Iaの多型VIIの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図4】化合物Iaの製造のための合成スキームを示す。
【図5】多型IVの代表的なFT-IR(フーリエ変換赤外)走査である。
【図6】多型IVの代表的なFT-ラマン走査である。
【図7】多型IVの代表的な13C固相NMR走査である。
【図8】多型IVの代表的な15N固相NMR走査である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、モチライド(motilide)類の多型、ならびにそれらの多型の製造方法および使用に関する。
胃腸(”GI”)の運動性は、摂取された物質が腸管内を整然と移動して栄養素、電解質および流体が確実に適切に吸収されるように調節する。食道、胃、小腸および結腸内での胃腸内容物の適正な通過は、腔内圧および幾つかの括約筋の局部制御に依存し、これにより内容物の前進が調節され、逆流が阻止される。疾患および外科処置を含めたさまざまな状況で、この正常な胃腸運動パターンが損なわれる場合がある。
【0002】
胃腸運動障害には、胃不全麻痺および胃食道逆流疾患(”GERD”)が含まれる。その症状に胃反転、胸焼け、吐き気および嘔吐が含まれる胃不全麻痺は、胃内容物の排出遅滞である。GERDは、胃および十二指腸の内容物が食道へ逆流することによる多様な臨床症状発現を表わす。最も一般的な症状は胸焼けおよび言語障害であり、食道びらんによる出血が起きることも知られている。胃腸運動障害の関与が示唆されている他の胃腸障害の例には、食欲不振症、胆嚢うっ滞、術後麻痺性腸閉塞、強皮症、腸偽閉塞、過敏性腸症候群、胃炎、吐出および慢性便秘症(結腸活動力欠如)が含まれる。
【0003】
モチリン(motiline)は、腸粘膜の内分泌細胞が分泌する22-アミノ酸ペプチドホルモンである。それが胃腸管のモチリン受容体に結合すると、腸管運動が刺激される。モチリンアゴニストとして作用する療法薬(”プロキネティック薬(prokinetic agent)”)の投与が腸管障害の処置法として提唱された。
【0004】
エリスロマイシンは、放線菌(actinomycetes)サッカロポリスポラ・エリスレア(Saccharopolyspora erythraea)の発酵により作られるマクロライド系抗生物質の1ファミリーである。一般に用いられる抗生物質エリスロマイシンAは、このファミリーのうち最も豊富で重要なメンバーである。
【0005】
【化1】
【0006】
エリスロマイシンAの副作用には、吐き気、嘔吐および腹部不快感が含まれる。これらの作用は、エリスロマイシンA (1)、さらにそれの初期酸触媒分解生成物(5)の、モチリンアゴニスト活性に起因することが突き止められた(二次分解生成物スピロケタール(6)は不活性である)。
【0007】
【化2】
【0008】
エリスロマイシンAおよび分解生成物5のモチリンアゴニスト活性の発見に刺激されて、研究者らは新たなモチライド類(プロキネティック活性をもつマクロライド類をこのように呼ぶ)を発見することを試みた。研究の多くは、天然に産生するエリスロマイシンの発酵後化学変換により、または発酵プロセスの改変(遺伝子工学を含む)により、新規エリスロマイシン類似体を生成することに注目した。モチライド類に関連する文献例には下記のものが含まれる:Omuraら、US 5,008,249 (1991)およびUS 5,175,150 (1992); Haradaら、US 5,470,961 (1995); Freibergら、US 5,523,401 (1996); US 5,523,418 (1996); US 5,538,961 (1996); およびUS 5,554,605 (1996); Larteyら、US 5,578,579 (1996); US 5,654,411 (1997); US 5,712,253 (1998); およびUS 5,834,438 (1998); Kogaら、US 5,658,888 (1997); Miuraら、US 5,959,088 (1998); Premchandranら、US 5,922,849 (1999); Keyesら、US 6,084,079 (2000); Ashleyら、US 2002/0025936 A1 (2002); Ashleyら、US 2002/0094962 A1 (2002); Carrerasら、US 2002/0192709 A1 (2002); Itoら、JP 60-218321 (1985) (対応するChemical Abstracts abstract no. 104:82047); Santiら、US 2004/138150 A1 (2004); Carrerasら、US 2005/0113319 A1 (2005); Carrerasら、US 2005/0119195 A1 (2005); Liuら、US 2005/0256064 A1 (2005); Omura et al, J. Antibiotics 1985, 38, 1631-2; Faghih et al., Biorg. & Med. Chem. Lett., 1998, 8, 805-810; Faghih et al., J. Med. Chem., 1998, 41, 3402-3408; Faghih et al., Synlett., Jul. 1998, 751; ならびにLartey et al., J. Med. Chem., 1995, 38, 1793-1798。以上の文献すべての開示内容を本明細書に援用する。
【0009】
同様に関連する可能性があるのは、モチリンアゴニストとは表示されないとしても、エリスロマイシン骨格化合物であり、文献例は下記のものである:Krowickiら、US 3,855,200 (1974); Radoboljaら、US 3,939,144 (1976); Kobrehelら、US 3,983,103 (1976); Toscano, US 4,588,712 (1986); Agouridasら、US 5,444,051 (1995); Agouridasら、US 5,561,118 (1996); Agouridasら、US 5,770,579 (1998); Asakaら、US 6,169,168 B1 (2001); Kobrehelら、DE 2,402,200 (1974); Pliva Pharmaceuticals, GB 1,416,281 (1975); Pliva Pharmaceuticals, GB 1,461,032 (1977); Asagaら、JP 2002/241391 (2002); Ryden et al., J. Med. Chemistry, 1973, 16(9), 1059-1060; Naperty et al., Roczniki Chemii, 1977, 51 (6), 1207-10; Kobrehel et al., Eur. J. Med. Chemistry, 1978, 13 (1), 83-7; Egan et al., J. Antibiotics, 1978, 31 (1), 55-62; Matijasevic et al., Croatica Chemica Acta, 1980, 53 (3), 519-24; Radobolja et al., Croatica Chemica Acta, 1985, 58 (2), 219-25; Hunt et al., J. Antibiotics, 1989, 42(2), 293-298; Myles et al., J. Org. Chem., 1990, 55, 1636-1648。以上の文献すべての開示内容を本明細書に援用する。
【0010】
モチライド類の開発に多数のパラメーターが関係することは、当業者に理解されるであろう。まず、自然産生する微生物におけるエリスロマイシン骨格の発生は、抗菌作用により推進され、プロキネティック作用によるものではない。したがって、構造-活性関係をモチリンアゴニストに最適化するためには、かなりの隔たりがある。第2に、モチライド類が抗菌活性をもつことは、実際には望ましくない。胃腸管は細菌の大集団に対する宿主であり、それが抗菌活性をもつモチライド類に曝露されると、これらの細菌にエリスロマイシン抗生物質に対する耐性の発現を誘発する可能性がある。また、抗菌活性をもつモチライド類は有益な腸内細菌を殺す可能性がある。したがってモチライド類は、増強したプロキネティック活性が工学的に導入され、抗菌活性が工学的に除かれることが望ましい。第3に、現在までに評価されたモチライド類に一般にみられる欠点は、それらがモチライド受容体を脱感作する傾向をもつことである。これは、初回投与後、モチライド類の後続投与により誘発される応答がより弱いか、または応答がない(タキフィラキシー、速成耐性)ことを意味する。第4に、安定性および生物学的利用能が懸念される−すなわちエリスロマイシンAは胃内で容易に分解し、それの二次分解生成物は活性をもたないという証拠がある。第5に、エリスロマイシンファミリーの若干の化合物は、QT間隔延長および心室性不整脈を含む望ましくない前不整脈作用をもつことが報告された。これらの作用を許容できるレベルに制限することが望ましい。したがって、多様な性能要件のバランスのとれた新規モチライド類を開発することがなお求められている。
【0011】
本明細書に援用するLiuら、US 2006/0270616 A1 (2006) (以下、”Liuの'616出願”)には、一般式I(RA、RB、RC、RDおよびREは構造可変基)で表わされるモチライド類の1ファミリーが開示されている。そこに開示された具体的な化合物は化合物(Ia)であり、これはモチライド類にとって魅力的なバランスのとれた特性をもつ。
【0012】
【化3】
【0013】
ある化合物が有望な臨床候補として開発のために選択されると、それを適切な医薬配合物中に配合することを考慮しなければならない。すなわちこれは、多型が存在する可能性を考慮しなければならないことを意味する。多型が存在すると、それらは溶解度、貯蔵安定性、吸湿性、密度および生物学的利用能を含めた医薬関連特性が異なる場合がある。ある多型が貯蔵中に他の多型に自然変換する場合が多少ともある。そのような変換の結果、特定の多型を送達することを意図とした配合物がその配合物に適合しない異なる多型を含有することになる可能性がある。吸湿性多型は貯蔵中に水を取り込んで秤量操作に誤差をもたらし、かつ取扱い適性に影響を及ぼす可能性がある。特定の多型について用いるように設計した調製法は、異なる多型に用いるのには不適切な場合がある。相互変換が起きないとしても、ある多型が他方より配合しやすい場合があり、このため適正な多型の選択が重要となる。したがって、医薬配合物の設計に際して多型の選択は重要な要因である(本明細書中で用いる用語”多型”には、非晶質形態、ならびに非溶媒和および溶媒和形態も含まれる;ICH (International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use;人に使用される医薬品の承認審査のための技術的要求のハーモナイゼーションに関する国際会議)のガイドラインQ6A(2)に明記)。
【0014】
本発明は、化合物Iaの、医薬配合物中に使用するのに特に望ましい多型に関する。
化合物IaをLiuの'616出願に従って製造すると、配合物の開発に最適化されていない形態で得られる(この形態を本明細書中で多型Iと表示する−後記の実施例3を参照)。本発明者らは、化合物Iaの他の多型を見いだした。これには、医薬配合物中に使用するための改良された特性をもつもの(本明細書中で多型IVと呼ぶ)が含まれる。多型IIと呼ぶ他の多型も、医薬配合物中に使用するのに適切な特性をもつ。したがって1態様において、本発明は化合物Iaの精製された多型IVを提供する。他の態様において、本発明は化合物Iaの精製された多型IIを提供する。
【0015】
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IVを製造する方法であって、本明細書中で多型IIと呼ぶ化合物Iaの多型に、ジイソプロピルエーテル(”DIPE”)およびC5-C7アルカンまたはアルケン(好ましくはヘプタン)から選択される媒質の存在下で複数回の加熱および冷却サイクルを施すことを含む方法を提供する。
【0016】
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IVを製造する方法であって、該化合物Iaの酢酸エチル溶液を調製し、この溶液にC5-C7アルカンまたはアルケンを添加して該化合物を精製された多型IVとして結晶化させることを含む方法を提供する。
【0017】
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IVおよび医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬配合物を提供する。
他の態様において本発明は、化合物Iaの精製された多型IIおよび医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬配合物を提供する。
【0018】
他の態様において本発明は、胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、化合物Iaの精製された多型IVを投与することを含む方法;医薬として使用するための、化合物Iaの精製された多型IV;胃運動障害疾患の処置に使用するための、化合物Iaの精製された多型IV;胃運動障害疾患の処置に用いる医薬の製造のための、化合物Iaの精製された多型IVの使用;および胃運動障害疾患の処置のための、化合物Iaの精製された多型IVを含む医薬組成物を提供する。
【0019】
本発明はさらに、胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、化合物Iaの精製された多型IIを投与することを含む方法;医薬として使用するための、化合物Iaの精製された多型II;胃運動障害疾患の処置に使用するための、化合物Iaの精製された多型II;胃運動障害疾患の処置に用いる医薬の製造のための、化合物Iaの精製された多型IIの使用;および胃運動障害疾患の処置のための、化合物Iaの精製された多型IIを含む医薬組成物を提供する。
【0020】
胃運動障害疾患である障害の具体例には、胃不全麻痺、胃食道逆流疾患(”GERD”)、食欲不振症、胆嚢うっ滞、術後麻痺性腸閉塞、強皮症、腸偽閉塞、過敏性腸症候群、胃炎、吐出および慢性便秘症(結腸活動力欠如)が含まれる(限定ではない)。本発明の多型は、特にGERDの処置に有効である。
【0021】
多型Iは、XRPDにより、大部分が非晶質で結晶性に乏しい白色粉末であると特徴付けられた。これは比較的吸湿性であり、0〜90%のRH(相対湿度)で8.5%の重量増加を示すことが示された。熱分析は、周囲温度と90℃の間で溶媒損失による吸熱を示した。この吸熱に伴う重量減少は3.0%であり、これは1.4モルの水に相当する。75〜100℃の温度に加熱すると、多型Iは結晶性を失った。水性条件下で、多型Iは多型IIと呼ばれる第2多型に変換した。後者2つの所見は多型Iを配合物開発のための多型として選択するのに不利な影響を与える。多型Iについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1a、2aおよび3aに示す。
【0022】
多型IIは、小さな粒径(< 10μm)および識別できない形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。XRPDは、それが結晶性であり、若干の非晶質含量をもつことを示した。5〜0%のRHに保持すると、多型IIは4%の重量減少を示した。これは化合物(Ia)1モルにつき2モルの水に相当する。周囲条件下でのXRPD再分析により証明されたように、対応して結晶性が失なわれた。これは、多型IIが2水和物であることを示唆する。熱分析は周囲温度と100℃の間で溶媒(水)損失による幅広い吸熱を示した。この減少は5.0%の重量減少に相当し、2.5モルの水、すなわち多型IIが吸湿性であることによる追加の含水量に対応する。50〜75℃で結晶性が失なわれた。多型IIは、30℃で72時間の真空乾燥に際しても結晶性を失なう。多型IIについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1b、2bおよび3bに示す。
【0023】
多型IVは、最高50μmの粒径および針状形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。XRPDによれば、それは結晶性であった。それの水溶解度は0.77 mg/mLであった。97.9%の純度レベルで、それは吸湿性が高くはなく、0〜90%のRHで重量増加は3.5%であった。この重量増加は、周囲条件下での再分析に際してXRPDパターンの変化をもたらさなかった。熱分析は周囲温度と65℃の間で溶媒(水)損失による幅広い吸熱を示した(1.5%の重量減少)。150℃で開始する融解転移がみられ、この融解状態まで加熱してもXRPDパターンの変化はなかった。40℃、75%のRHで10週間の貯蔵によっても、溶解度分析に際しての取扱いによっても、有意の変化は生じなかった。加熱に際して結晶性を保持すること、およびそれの貯蔵安定性により、多型IVは医薬配合物開発のための良好な候補となる。多型IVについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1d、2cおよび3cに示す。多型IVについての代表的なFT-IR、FT-ラマン、13C固相NMRおよび15N固相NMRデータを、それぞれ図5、6、7および8に示す。
【0024】
多型IVは多型IIから、ジイソプロピルエーテル中での熟成(加熱と冷却の反復サイクル)により製造できる。C5-C7アルカンまたはアルケン、たとえば(好ましくは)ヘプタンも使用できる−こうして製造した物質は最初は若干の多型IIを含有していたが、これは真空乾燥後には除かれた(XRPDにより判定)。サイクル数は少なくとも2、好ましくは3であるが、これより多い回数(たとえば最高12)も採用できる。このサイクルの温度範囲は、一般に5〜50℃、好ましくは25〜50℃で、24時間以上である。
【0025】
さらに、本発明者らは化合物Iaの他の幾つかの多型をも見いだした。そのような他の多型の製造および特徴付けを以下にまとめる。さまざまな理由で、これらの多型は配合物の開発について多型IIおよびIVより望ましくない。
【0026】
多型IIIは、化合物Iaの非晶質ステアリン酸塩をジイソプロピルエーテル中で熟成(加熱と冷却の反復サイクル)した後に得られる多型である。この多型は大規模には単離できず、これ以上調べることができなかった。図1cは多型IIIの代表的なXRPDデータを示す。
【0027】
多型Vは、t-ブチルメチルエーテル(”TBME”)中での熟成により製造された。これは小さな粒径(< 10μm)および規定できない形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。これはXRPDによれば結晶性であり、それの水溶解度は0.72 mg/mLであった。熱分析は100℃で開始する融解転移を示した。これはTGAによる8.7%の重量減少と相関し、1モルのTBMEに対応する。これは、多型VがモノTBME溶媒和物であることを示唆する。多型Vは40℃および75%のRHで1週間の貯蔵後に結晶性が低下し、溶解度分析に際して多型IIに変換した。これは、配合物の開発のための候補としての有望性に不利な影響を与える溶媒和物である。多型Vについての代表的なXRPDおよびDSCデータを、それぞれ図1eおよび2dに示す。
【0028】
多型VIは、酢酸エチル、酢酸イソプロピルまたはアニソールから得られる部分結晶性多型である。熱重量分析(TGA)に際してわずかな段階的重量減少がみられ、イソ構造形溶媒和物のファミリーであることが示唆される。酢酸エチルから得られた形態についての吸熱開始は107℃であった;酢酸イソプロピル形についての対応する開始は90℃であった。アニソール形は、98℃および110℃で開始する2つの吸熱を示した。多型VIは、40℃、75%のRHで貯蔵すると多型IVに変換し、あるいは溶解度分析に際して多型IVまたはIIに変換した。それが多型IVに変換することは、配合物開発のために望ましい候補であるのに十分なほど安定ではないことを示唆する。
【0029】
多型VI(酢酸エチル形)についての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1f、2eおよび3dに示す。
多型VIIは、トルエン中での熟成後に得られた。それは小さな粒径(< 20μm)および識別できない形態をもつ白色粉末であると特徴付けられた。それはXRPDによれば部分結晶性であった。それの水溶性は0.75 mg/mLであった。それは重量法による蒸気収着分析(gravimetric vapor sorption、”GVS”)によって一定の重量減少を示し、周囲条件下でのXRPD再分析によればこれに対応して結晶性を失った。熱分析は103℃で開始する融解転移を示し、TGAにより4.7%の重量減少を伴い、これは0.5モルのトルエンに対応する。したがって、多型VIIは半トルエン溶媒和物であると思われる。多型VIIは40℃および75%のRHで1週間の貯蔵後に結晶性を失ない、溶解度分析に際して多型IIおよびIVの混合物に変換した。これは溶媒和物であり、それの不安定さにより配合物開発のための候補としての有望性はより低い。多型VIIについての代表的なXRPD、DSCおよびGVSデータを、それぞれ図1g、2fおよび3eに示す。
【0030】
図1bは、多型IIの代表的なXRPDパターンを示す。表1は、図1bの主ピークを表にしたものである。したがって1態様において多型IIは、3.5±0.1、6.9±0.1、9.2±0.1、9.6±0.1および10.4±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピーク、または3.5±0.1、6.9±0.1、9.2±0.1、10.4±0.1および18.0±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピークにより定義することができる。
【0031】
【表1】
【0032】
図1dは、多型IVの代表的なXRPDパターンを示す。表2は、図1dの主ピークを表にしたものである。したがって1態様において多型IVは、3.8±0.1、7.5±0.1、8.1±0.1、9.6±0.1および11.0±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピーク、または3.8±0.1、7.5±0.1、16.1±0.1、16.5±0.1および17.1±0.1°の2θにおけるそれの特徴的なXRPDピークにより定義することができる。
【0033】
【表2】
【0034】
図2cは、多型IVの代表的なDSC走査を示す(この場合、多型IVの試料は実施例4に従ってジイソプロピルエーテルを用いて製造された)。多型IVは、周囲温度と110℃の間で溶媒損失による幅広い吸熱を示し、続いて143〜156℃、少なくとも149〜161℃で開始する融解吸熱を示した。このような吸熱は、本発明者らが同定した化合物Iaの他の多型にはなかった。したがって1態様において多型IVは、約143〜約156℃の開始温度をもつ融解吸熱を示すものと特徴付けることができ、これにより多型IVは化合物Iaの他の多型から区別される。
【0035】
図3cは、定温25℃における多型IVの代表的なGVS走査を示す。多型IVは、0〜90%のRHで3.5%の質量増加を示す。この質量増加/減少は、複数回の収着および脱着サイクルに際してきわめて均一である。多型I(図3a)、II(図3b)およびVI(図3d)は0〜90%のRHで6〜10%の質量増加を示し、それらの質量増加/減少は複数回の収着および脱着サイクルに際して著しく変化した。多型VII(図3e)は0〜90%のRHで3%の質量増加を示したが、それの質量増加/減少も複数回の収着および脱着サイクルに際して著しく変化した。したがって1態様において多型IVは、0〜90%のRH(25℃)で3.5%の質量増加、ならびに複数回の収着および脱着サイクルに際して均一な質量増加/減少を示すものと特徴付けることができる。
【0036】
図5は、多型IVの代表的なFT-IR走査を示す。下記の主吸収バンド(cm-1)に注目することができる(s = 強、m = 中、w = 弱、実験誤差は+/- 2cm-1):3381(m), 2973(m), 2936(m), 1721(m), 1674(m), 1558(w), 1450(m), 1408(w), 1375(m), 1347(m), 1325(w), 1272(w), 1250(w), 1176(s), 1167(s), 1130(w), 1108(s), 1080(w), 1053(w), 1038(w), 1029(w), 993(s), 982(w), 958(m), 930(w), 898(m), 864(w), 844(w), 833(w), 804(w), 778(w), 753(w), 724(w), 701(w)および668(w)。下記のピークが特に明瞭である:1558(w)、1347(m)、1130(w)、1108(s)および993(s)。
【0037】
図6は、多型IVの代表的なFT-ラマン走査を示す。下記の主ラマンシフト(cm-1)に注目することができる(vs = きわめて強、s = 強、m = 中、w = 弱、実験誤差は+/- 2cm-1):2977(vs), 2940(vs), 2916(m), 2848(s), 2719(m), 1726(w), 1662(w), 1463(s), 1412(w), 1374(w), 1356(m), 1330(w), 1282(w), 1249(w), 1208(w), 1160(m), 1130(w), 1109(w), 1058(w), 1037(w), 1000(w), 983(w), 960(w), 933(w), 900(w), 865(m), 829(w), 812(w), 773(w), 753(w), 736(w), 670(w), 615(w), 527(w), 486(w), 460(w), 433(w), 407(w), 346(w), 279(w)および226(w)。下記のシフトが特に顕著である:1463(s)、933(w)、736(w)および615(w)。
【0038】
図7は、多型IVの代表的な13C固相NMR走査を示す。下記の化学シフトがみられる(29.5 ppmにおける外部試料アダマンチンに対するppm、強度はかっこ内のピーク高さに等しい):177.6 (4.68), 177.3 (3.6), 171.7 (1.18), 170.8 (2.68), 103.2 (5.08), 101.2 (5.08), 97.1 (5.09), 95.7 (6.76), 85.6 (2.27), 80.3 (2.72), 78.2 (6.35), 77.4 (5.09), 77.1 (5.42), 76.4 (11.6), 74.7 (7.69), 74.1 (9.97), 73.9 (10.11), 73.4 (4.39), 72.1 (2.62), 71.6 (6.35), 71.2 (5.61), 69.8 (1.75), 69.5 (4.22), 68.8 (5.34), 68.4 (4.79), 66.0 (5.13), 65.3 (5.72), 62.0 (2.31), 52.9 (2.59), 51.2 (5.06), 49.5 (5.74), 45.7 (12), 44.4 (5.26), 39.9 (3.58), 36.6 (3.32), 35.6 (3.82), 35.5 (3.41), 34.6 (3.29), 34.0 (2.48), 33.5 (5.01), 32.9 (2.86), 32.8 (7.31), 32.2 (5.15), 29.4 (1.69), 28.4 (6.71), 27.1 (5.53), 26.2 (3.22), 23.6 (7.16), 23.3 (1.67), 22.6 (5.05), 22.3 (10.17), 22.1 (6.25), 21.9 (4.88), 21.4 (7.3), 21.2 (6.22), 20.6 (7.42), 20.5 (8.01), 19.9 (9.82), 19.5 (2.79), 19.2 (6.23), 18.9 (7.85), 18.4 (2.93), 17.8 (5.67), 12.7 (6.44), 11.6 (4.1), 11.3 (5.13), 9.6 (6.09)および7.7 (7.11)。下記の化学シフトが特に顕著である:177.6、170.8、45.7、28.4、12.7および7.7 ppm。
【0039】
図8は、多型IVの代表的な15N固相NMR走査を示す。下記の化学シフトがみられる(-331.5 ppmにおける外部試料DL-アラニンに対するppm、強度はかっこ内のピーク高さに等しい):-270.8 (4.29)、-273.4 (12)、-342.4 (8.16)および-345.1 (9.27)。
【0040】
本発明の多型は、化合物Iaの配合物中に、錠剤、ペレット剤、カプセル剤、坐剤、膣坐剤、液剤、乳剤、懸濁液剤、および使用するのに適切な他のいずれかの剤形のための、医薬的に許容できる通常の無毒性キャリヤーと組み合わせて使用できる。多型IVは、薬物としての取扱いのために、および固体配合物中に使用するために、特に好ましい。
【0041】
使用できる賦形剤には、キャリヤー、界面活性剤、増粘剤または乳化剤、固体結合剤、分散助剤または懸濁助剤、可溶化剤、着色剤、着香剤、コーティング、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、保存剤、等張化剤、およびその組合わせが含まれる。適切な賦形剤の選択および使用は、Gennaro編, Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第20版(Lippincott Williams & Wilkins 2003)に教示されており、その記載内容を本明細書に援用する。
【0042】
本発明の多型は経口投与することができる。経口投与は嚥下を伴い、これにより化合物は胃腸管に進入する;あるいは口腔または舌下投与を採用でき、これによれば化合物は口腔から血流に直接進入する。経口投与に適切な配合物には、固体配合物、たとえば錠剤、粒子、液体または粉末を収容したカプセル剤、トローチ剤(液体を充填したものを含む)、咀しゃく剤、マルチ粒子およびナノ粒子、ゲル剤、固溶体、リポソーム、フィルム剤、卵形錠剤、スプレー剤、ならびに液体配合物が含まれる。
【0043】
液体配合物には、懸濁液剤、液剤、シロップ剤およびエリキシル剤が含まれる。そのような配合物は軟または硬カプセルの充填物として使用でき、一般にキャリヤー、たとえば水、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロースまたは適切な油、ならびに1種類以上の乳化剤および/または懸濁化剤を含む。液体配合物は固体、たとえばサッシェから再構成により調製することもできる。
【0044】
錠剤剤形について、用量に応じて薬物は剤形の1〜80重量%、より一般的には剤形の5〜60重量%を占めることができる。錠剤は、薬物のほかに、一般に崩壊剤を含有する。崩壊剤の例には、グリコール酸デンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、微結晶性セルロース、低級アルキル置換ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、プレゼラチン化デンプンおよびアルギン酸ナトリウムが含まれる。一般に崩壊剤は1〜25重量%を構成するであろう。本発明の1態様において、崩壊剤は剤形の5〜20重量%を構成するであろう。結合剤は、一般に錠剤配合物に凝集性を付与するために用いられる。適切な結合剤には、微結晶性セルロース、ゼラチン、糖類、ポリエチレングリコール、天然および合成ゴム、ポリビニルピロリドン、プレゼラチン化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれる。錠剤は、希釈剤、たとえば乳糖(1水和物、噴霧乾燥した1水和物、無水物など)、マンニトール、キシリトール、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、微結晶性セルロース、デンプンおよび二塩基性リン酸カルシウム2水和物を含有してもよい。錠剤は、場合により界面活性剤、たとえばラウリル硫酸ナトリウムおよびポリソルベート(polysorbate)80、ならびに流動促進剤、たとえば二酸化ケイ素およびタルクを含むこともできる。存在する場合、界面活性剤は錠剤の0.2〜5重量%を構成することができ、流動促進剤は錠剤の0.2〜1重量%を構成することができる。錠剤は、一般に滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリルフマル酸ナトリウム、およびステアリン酸マグネシウムとラウリル硫酸ナトリウムの混合物をも含有する。滑沢剤は一般に0.25〜10重量%を構成する。本発明の1態様において、滑沢剤は錠剤の0.5〜3重量%を構成する。可能性のある他の成分には、酸化防止剤、着色剤、着香剤、保存剤および味覚隠蔽剤が含まれる。
【0045】
錠剤の例は、最高約80%の薬物、約10〜約90重量%の結合剤、約0〜約85重量%の希釈剤、約2〜約10重量%の崩壊剤、および約0.25〜約10重量%の滑沢剤を含有する。
錠剤ブレンドを直接またはローラーにより圧縮して錠剤を成形することができる。あるいは錠剤ブレンドまたはブレンドの一部を、錠剤製造の前に湿式、乾式もしくは溶融造粒、溶融凝固、または押出しすることができる。最終配合物は1以上の層を含むことができ、コーティングを施してもよく、施さなくてもよい;それをカプセル封入してもよい。錠剤配合物については、Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Vol. 1, H. Lieberman and L. Lachman編(Marcel Dekker, ニューヨーク, 1980)に考察されている。
【0046】
一般に多型IVは、化合物Iaの他の多型を多型IVに変換する製造操作の結果、精製される。そのような場合、試料中の多型IVの量は、その製造操作前の試料中の多型IVの量(ゼロの可能性もある)と比較して増加する。さらに、他の不純物がそのような精製の結果除去されている可能性もある。好ましくは、精製された多型IVは、化合物Iaの他の多型を除いて予定量の多型IVを含有する。
【0047】
精製された多型IVを製造するための好ましい方法は、化合物Iaを酢酸エチルに溶解し、次いでC5-C7アルカンまたはアルケンを添加して多型IVを結晶化させるものである。アルカンまたはアルケンが含有する水は、好ましくは0.005 % v/v未満の低レベルでなければならない。この操作は化合物Iaの酢酸エチル溶液の含水率および結晶化温度に対して、ある程度感受性である。水は幾つかの経路でこの溶液に侵入する可能性がある。使用する化合物Iaが若干の含水率をもつ多型の形(たとえば多型IIは2水和物)である可能性がある。あるいは、酢酸エチルが痕跡量の水を含有する場合がある。好ましくは、化合物Iaの酢酸エチル溶液の含水率は3.6 %未満、より好ましくは1.9 %未満、最も好ましくは約1.1〜約1.9 % (体積/体積、すなわちv/v)である。多様な方法を個々に、または組み合わせて用いることにより、含水率を目的とする低レベルに維持することができる:
(a)化合物Iaの水和物ではない多型を使用する;
(b)たとえば真空下に40℃で17時間の、化合物Iaの予備乾燥を使用する;
(c)高純度で含水率の低い酢酸エチル、または酢酸エチルの予備乾燥を使用する;
(d)C5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に、酢酸エチル溶液をたとえば無水硫酸ナトリウムで乾燥させる。
【0048】
酢酸エチル溶液の含水率に対して感受性であるので、C5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に溶液の含水率を計算または検定し、3.6 %を超えていればC5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に含水率を低下させることを推奨する。
【0049】
結晶化温度は約20〜約36℃であってよい。一般に、酢酸エチル溶液の含水率が1.9 %以下であれば、多型IVの生成のためには25℃を超える温度(たとえば25〜36℃)を推奨する。
【0050】
前記の操作(または他の熟成操作)に使用できる適切なC5-C7アルカンおよびアルケンの例には、n-ペンタン、シクロペンタン、1-ペンテン、2-ペンテン、イソペンタン、ネオペンタン、n-ヘキサン、1-ヘキセン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、1-ヘプテンなどが含まれる。n-ヘプタンが好ましい。
【0051】
本発明の実施は以下の実施例によりさらに理解できる。これらは説明のために示すものであり、限定のためのものではない。
実施例1−一般分析法
XRPDパターンは、Bruker AXS C2 GADDS回折計により、Cu Ka線(40kV, 40mA)、自動XYZステージ、試料自動配置用のレーザービデオ顕微鏡、およびHiStar二次元領域検出器を用いて収集された。X線オプチクスは、0.3 mmのピンホールコリメーターと連携した単一Goebel多層ミラーからなっていた。
【0052】
ビーム拡散、すなわち試料上におけるX線ビームの有効サイズは約4 mmであった。試料-検出器距離20 cmでθ-θ連続走査モードを用い、これにより有効2θ範囲3.2〜29.7°が得られた。一般に試料をX線ビームで120秒間照射する。
【0053】
XRPDパターンはPharmorphix Ltd. (英国、ケンブリッジ)により取得された。試料のX線粉末回折パターンは、Siemens D5000回折計により、Cu Ka線(40kV, 40mA)、θ-θゴニオメーター、自動拡散および受光スリット、黒鉛二次モノクロメーターおよびシンチレーション計数計を用いて得られた。2〜42°の2θ角度範囲にわたり、0.02°の2θステップサイズおよび1秒間のステップ時間を用いて、連続走査モードでデータを収集した。分析前に試料を真空下に30℃で24時間乾燥させたが、他の乾燥方式も採用できる。
【0054】
周囲条件下で試験するXRPD試料は、入手した粉末をそのまま粉砕せずに用いて平板検体として調製された。約25〜50 mgの試料を、研摩したゼロバックグラウンド(510)シリコンウェーハ(The Gem Dugout, 1652 Princeton Drive, Pennsylvania State College, PA 16803, USA)に切り込んだ直径12 mm、深さ0.5 mmのキャビティー内へ徐々に充填した。すべての検体を静止モードで試験した。
【0055】
GVSデータもPharmorphix, Ltdにより収集された。すべての試料を、CFRSorpソフトウェアで作動するHiden IGASorp水分収着分析計により試験した。試料サイズは一般に10 mgであった。下記に概説するように2回の走査で1サイクルを完結させて、水分吸着/脱着等温操作を実施した。すべての試料を一般的な周囲(室内)湿度および温度(40 %のRH、25℃)で装填および取出した。すべての試料をGVS分析後にXRPDにより分析した。25℃での標準等温操作を10 %のRH間隔で0〜90 %のRHにわたって実施した。
【0056】
【表3】
【0057】
酢酸エチル、n-ヘプタンおよび化合物Iaの含水率をカール-フィッシャー法により測定した。化合物Ia/酢酸エチル溶液の含水率を質量平衡に基づいて算出し、% v/vとして表示した。
【0058】
FT-IRデータは、Smart Golden Gate(商標)単反射ATRアクセサリー(セレン化亜鉛オプチクス付きダイヤモンドATR結晶)およびd-TGS KBr検出器を備えたThermoNicolet Avatar 360 FTIR分光計により得られた。2cm-1の分解能で256の走査を同時付加してスペクトルを収集した。Happ-Genzelアポディゼーションを用いた。単反射ATRによりFT-IRスペクトルを記録したので、試料調製の必要はなかった。ATR FT-IRを用いることにより、赤外バンドの相対強度は、KBrディスクまたはヌジョールマル試料調製法を用いる吸光FT-IRスペクトルにみられるものと異なるであろう。ATR FT-IRの性質により、低波長のバンドは高波長のバンドより強度が大きくなる。別途明記しない限り、実験誤差は± 2 cm-1であった。ThermoNicolet Omnic 6.1aソフトウェアを用いてピークを選別した。強度の指定はスペクトル中の主バンドに対して相対的なものであり、したがってベースラインから測定した絶対値を基準としたものではない。スプリットピークを評価する場合、強度値をベースラインから求めたが、この場合もそのスペクトル中の最強バンドに対して相対的に強度を指定した。
【0059】
FT-ラマンデータは、1064nm NdYAGレーザーおよびLN-Germanium検出器を備えたRamII FT-ラマンモジュール付きBruker Vertex70 FT-IR分光計を用いて収集された。すべてのスペクトルを、2cm-1の分解能、Blackman-Harris 4-termアポディゼーション、300mWのレーザーパワーおよび4096の走査を用いて記録した。試料をそのガラスバイアルからそのまま、レーザー線で照射して測定した。データをラマンシフトの関数としての強度で示し、標準ランプからの白色光スペクトルを用いてBruker Raman Correct function(ラマン補正関数)(Brukerソフトウェア−OPUS 6.0)により計測器応答および周波数依存性散乱に対して補正する。別途明記しない限り、実験誤差は± 2 cm-1であった。ThermoNicolet Omnic 6.1aソフトウェアを用いてピークを選別した。強度の指定はスペクトル中の主バンドに対して相対的なものであり、したがってベースラインから測定した絶対値を基準としたものではない。スプリットピークを評価する場合、強度値をベースラインから求めたが、この場合もそのスペクトル中の最強バンドに対して相対的に強度を指定した。
【0060】
固相C13およびN15 NMRデータは、周囲条件下で、標準口径Bruker-Biospin Avance 500 MHz NMR分光計内に配置したBruker-Biospin 4 mm CPMASプローブにより収集された。窒素スペクトルを7mmのBL CPMASプローブにより収集した。マジックアングルに設置した7.0 kHz で回転する4および7 mmのZrO2ローターに試料を充填した。プロトンデカップリング干渉偏波マジックアングル回転実験(cross-polarization magic angle spinning experiment (CPMAS))により、炭素および窒素スペクトルを収集した。干渉偏波時間を2.5ミリ秒に設定した。約90 kHz (4 mmのプローブ)および70 kHz (7 mmのプローブ)のプロトンデカップリング磁場を付与した。5120 (13C)および30,000 (15N)の走査を収集した。リサイクル遅れを約1.5*T1Hに調整した(この場合、T1Hは、プロトン検出型プロトン反転回復緩和実験に基づいて算出したプロトン縦緩和時間(proton longitudinal relaxation time)を表わす)。炭素スペクトルは、結晶性アダマンタン外部標準を用い、それの高磁場共鳴を29.5 ppmに設定して基準とした。窒素スペクトルは、結晶性98% 15N標識D,L-アラニン外部標準を用い、それの共鳴を-331.5 ppm に設定して基準とした。
【0061】
実施例2−化合物Iaを製造するための一般法
本明細書に援用したLiuの'616出願の記載に従って化合物Iaを製造した。用いた合成スキームを図7にまとめる。エリスロマイシンA (1)を水素化ホウ素ナトリウムで還元して、中間体(9S)-ジヒドロエリスロマイシンA (7)を製造した。(9S)-ジヒドロエリスロマイシンA (7)を、塩基、たとえば酢酸ナトリウムまたはトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン(”TRIS”)の存在下にヨウ素で脱メチルして、N-デスメチル-(9S)-ジヒドロエリスロマイシンA (8)を得た。次いでこれを2-ヨードプロパンでアルキル化して、中間体9を得た。中間体9をN-メチルブロモアセトアミドでアルキル化すると、化合物Iaが得られた。得られる化合物Iaの多型は化学反応後の単離および精製工程に依存するであろう。
【0062】
中間体9の製造もSantiらのUS 6,946,482 B2 (2005)に記載されており、これを本明細書に援用する。脱メチル工程もLiuの米国特許出願No. 11/591,726(2006年11月1日)に記載されており、これを本明細書に援用する。
【0063】
実施例3−化合物Iaの製造および多型Iの単離
機械的撹拌機および内部熱電対温度探針を備えた5リットルの三つ口丸底フラスコに、化合物9(156.7 g, 205 mmol)、N-メチルブロモアセトアミド(37.4 g, 246 mmol)の、乾燥テトラヒドロフラン(”THF”, 1,800 mL)中における溶液を、氷浴内で0℃に冷却しながら装入した。固体カリウムt-ブトキシド(25.3 g, 226 mmol, 1.1当量)を、撹拌しながら窒素下で一度に添加した。反応混合物を0℃で1時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(1:2 ヘキサン-アセトン溶離剤)は、反応が完了したことを示した。飽和NaHCO3溶液(300 mL)の添加により反応を停止した。混合物を希NaHCO3 (2,500 mL)と酢酸エチル(”EtOAc”, 1,500 mL)の間で分配した。水層をEtOAc (2回, 1,500 mL)で抽出した。有機層を合わせてNa2SO4で乾燥させた。粗製化合物Ia (178.1 g)がわずかに黄色の固体として得られ、次いでこれをシリカゲルカラムにより精製して(シリカゲル2,800 g, ヘキサン中20〜40 %アセトンの溶離勾配, 1%のトリエチルアミン)、純粋な化合物Ia (135 g, 79%の収率)を得た。
【0064】
痕跡量の溶媒およびトリエチルアミンを除去するために、前記の生成物をジクロロメタンに溶解し、4回のロータリーエバポレーター処理するサイクルを繰り返し、次いで高真空下で乾燥させた。次いでこれをアセトニトリル-水(1:1 v/v, 4 mL/g)から凍結乾燥し、真空オーブンで乾燥させて(16時間, 50℃)、最終生成物(融点106〜108℃, 毛細管融点測定装置による)を得た。この仕上げ操作により化合物Iaを多型Iとして得た(図2aの多型IのDSC中の約110℃におけるわずかな吸熱に注目)。Liuの'616出願に同様な融点が報告されているので、これはそこに記載された多型であると思われる。
【0065】
実施例4−化合物Iaの製造および多型IIの単離
化合物9 (淡橙色の物質, 353 g, 462 mmol)およびN-ブロモアセトアミド(84 g, 600 mmol, 1.3当量)を、THF (3.9 L, 無水、阻害物質を含まない)に溶解した。この黄色溶液を0±2℃に冷却し、THF中の1 M カリウムt-ブトキシド(549 mL, 549 mmol, 1.2当量)で20分間かけて、温度を0〜3℃に維持しながら希釈した。0±2℃で撹拌を続けながら、出発物質の消失を調べるために工程内HPLCにより反応の進行をモニターした。15分後、約0.34 %の出発物質が残存するにすぎなかった。5 % NaHCO3 (2.6 L)で反応を停止した。層を分離し、水相をEtOAc (2.9 L)で抽出した。有機層を合わせて水(1.2 L)、次いでブライン(1.2 L)で洗浄した。有機相をMgSO4 (75 g)で乾燥させた。乾燥剤を濾過により除去し、EtOAc (200 mL)ですすいだ。濾液を合わせて濃縮して、化合物Iaを淡黄色残留物(392 g)として得た。
【0066】
残留物をアセトン(3.1 L, 8 mL/g)に溶解し、淡黄色溶液を脱イオン水(3.1 L)で希釈した。わずかに混濁した溶液を0〜5℃の範囲に20分間かけて冷却すると、沈殿が生成した(約10℃で結晶が見えた)。この懸濁液を0〜5℃で15分間撹拌し、さらに脱イオン水(3.1 L)で30分間かけて希釈した。混合物を0〜5℃でさらに30分間撹拌した。固体を濾過により分離し、次いでアセトン(0.15 L)と脱イオン水(0.30 L)の混合物ですすいだ。固体を一夜(約16時間)風乾し、次いでさらに(30℃; 29 in.Hg)64時間乾燥させて、化合物Ia (322 g)を灰白色固体として得た。
【0067】
実施例5−多型IVの製造
ジイソプロピルエーテル(1.0 mL)を、スクリューキャップ付き小バイアル内の化合物(Ia)多型II (250 mg)に添加した。バイアルとその内容物に、周囲温度と50℃の間で24時間にわたる加熱-冷却サイクルを3回施した。生成した固体を濾過し、30℃で24時間乾燥させた後、XRPDにより分析した。これにより多型IVへの変換が起きたことが示された。
【0068】
こうして得た多型IVの1H-NMR分析は、痕跡量(0.9%; 0.07当量)のジイソプロピルエーテルが存在することを示した。下記に従って水に懸濁することによりジイソプロピルエーテルを除去した:水(1.0 mL)を、スクリューキャップ付き小バイアル内の多型IVの試料(30 mg)に添加し、25℃で72時間振とうした。生成した固体を濾過し、乾燥させた。XRPDおよび1H-NMRによる分析は、試料の形態を変化させずにジイソプロピルエーテルが除去されたことを示した。
【0069】
実施例6−多型IV製造の別法
化合物Ia (2.0 g)を周囲温度で酢酸エチル(12.0 mL)に溶解した。この酢酸エチル溶液の含水率は1.1 % v/vであった。淡黄色溶液を、オーバーヘッド撹拌機(1KA RW16ベーシック)を備えた500 mL三つ口丸底フラスコに入れた。溶液を32℃、180〜185 rpmで撹拌し、n-ヘプタン(80 mL)を、シリンジポンプ(KdScientific)により0.8 mL/分の速度で添加した。50 mLのヘプタンを添加した後、シリンジの再充填のためにヘプタン添加を4分間中断した。さらに30 mLのヘプタン(合計量80 mL)を添加した後、得られた懸濁液を185 rpmおよび32℃でさらに2.5時間撹拌した。懸濁した多型IVの結晶を、セラミック製5 cmブーフナーろうとおよびWhatman #4濾紙で濾過することにより採集した。結晶を90:10 v/v ヘプタン:酢酸エチル(20 mL)ですすぎ、10分間乾燥させた。結晶をさらに40℃で真空(29.5 in Hg)下に16時間乾燥させて、1.62 gの多型IVを得た。多型IVとしての生成物の同一性をDSCおよびXRPDにより確認した。
【0070】
25℃で実験を繰り返して、同様に多型IVを製造した(ただし収率がわずかに低かった)。
実施例7−多型IV製造の他の別法
この例は、n-ヘプタン中での熟成による多型IVの製造を記載する。n-ヘプタン(500μL)をスクリューキャップ付き小バイアル内の多型Iに添加した。バイアルに、撹拌しながら5℃と40℃の間で24時間にわたる加熱-冷却サイクルを12回施した。XRPD分析により多型IVの生成が確認された。ジイソプロピルエーテルを用いて同じ操作を採用できる。
【0071】
以上の本発明の詳細な説明には、主にまたは専ら本発明の特定の部分または観点に関する節が含まれる。これは明確化および簡便性のためのものであり、特定の特徴はそれを記載した節に関連するにすぎず、本明細書の開示内容は他の節にある情報を適切に組み合わせたものすべてを含むことを理解すべきである。同様に、各種の図および本明細書中の記載が特定の態様に関連するが、特定の図または態様に関して特定の特徴が示されている場合、それらの特徴は、適切ならば、他の特徴と組み合わせて、または本発明全般において、他の図または態様に関しても採用できることを理解すべきである。
【0072】
さらに、本発明を特定の好ましい態様に関して具体的に記載したが、本発明はそれらの好ましい態様に限定されるのではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲の記載により規定される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1a】図1aは、化合物Iaの多型Iの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1b】図1bは、化合物Iaの多型IIの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1c】図1cは、化合物Iaの多型IIIの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1d】図1dは、化合物Iaの多型IVの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1e】図1eは、化合物Iaの多型Vの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1f】図1fは、化合物Iaの多型VI(酢酸エチル形)の、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図1g】図1gは、化合物Iaの多型VIIの、代表的なX線粉末回折(”XRPD”)パターンである。
【図2a】図2aは、化合物Iaの多型Iの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2b】図2bは、化合物Iaの多型IIの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2c】図2cは、化合物Iaの多型IVの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2d】図2dは、化合物Iaの多型Vの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2e】図2eは、化合物Iaの多型VI(酢酸エチル形)の、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図2f】図2fは、化合物Iaの多型VIIの、代表的な示差走査熱量測定(”DSC”)走査である。
【図3a】図3aは、化合物Iaの多型Iの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3b】図3bは、化合物Iaの多型IIの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3c】図3cは、化合物Iaの多型IVの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3d】図3dは、化合物Iaの多型VI(酢酸エチル形)の、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図3e】図3eは、化合物Iaの多型VIIの、代表的な重量法による蒸気収着(”GVS”)走査である。
【図4】化合物Iaの製造のための合成スキームを示す。
【図5】多型IVの代表的なFT-IR(フーリエ変換赤外)走査である。
【図6】多型IVの代表的なFT-ラマン走査である。
【図7】多型IVの代表的な13C固相NMR走査である。
【図8】多型IVの代表的な15N固相NMR走査である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化1】
の、銅K-α1 X線(波長=1.5406Å)を用いて得た3.8、7.5、16.1、16.5および17.1°の2θ(±0.1)におけるXRPDピークを特徴とする、精製された多型IV。
【請求項2】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化2】
の、銅K-α1 X線(波長=1.5406Å)を用いて得た3.5、6.9、9.2、10.4および18.0°の2θ (±0.1)におけるXRPDピークを特徴とする、精製された多型II。
【請求項3】
請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IVを製造する方法であって、該化合物の多型IV以外の多型に、ジイソプロピルエーテルおよびC5-C7アルカンまたはアルケンから選択される媒質の存在下で複数回の加熱および冷却サイクルを施すことを含む方法。
【請求項4】
媒質がヘプタンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IVを製造する方法であって、該化合物の酢酸エチル溶液を調製し、この溶液にC5-C7アルカンまたはアルケンを添加して該化合物を精製された多型IVとして結晶化させることを含む方法。
【請求項6】
C5-C7アルカンまたはアルケンがヘプタンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
結晶化させるためのC5-C7アルカンまたはアルケンの添加を約20〜約36℃(好ましくは約25〜約36℃)で行う、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶液の含水率が3.6 % v/v未満(好ましくは1.9 % v/v未満)である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
さらに、溶液の含水率を検定し、含水率が3.6 % v/vを超えた場合は、C5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に含水率を低下させる工程を含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IV、および医薬的に許容できる賦形剤を含む、医薬配合物。
【請求項11】
胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IVを投与することを含む方法。
【請求項12】
胃運動障害疾患が胃食道逆流疾患(”GERD”)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
医薬として使用するための、請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IV。
【請求項14】
胃食道逆流疾患(”GERD”)の処置に使用するための、請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IV。
【請求項15】
請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型II、および医薬的に許容できる賦形剤を含む、医薬配合物。
【請求項16】
胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IIを投与することを含む方法。
【請求項17】
胃運動障害疾患が胃食道逆流疾患(”GERD”)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
医薬として使用するための、請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型II。
【請求項19】
胃食道逆流疾患(”GERD”)の処置に使用するための、請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型II。
【請求項20】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化3】
の、実質的に明細書の発明の詳細な説明および図面により記載した、精製された多型IV。
【請求項21】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化4】
の、実質的に明細書の発明の詳細な説明および図面により記載した、精製された多型II。
【請求項1】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化1】
の、銅K-α1 X線(波長=1.5406Å)を用いて得た3.8、7.5、16.1、16.5および17.1°の2θ(±0.1)におけるXRPDピークを特徴とする、精製された多型IV。
【請求項2】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化2】
の、銅K-α1 X線(波長=1.5406Å)を用いて得た3.5、6.9、9.2、10.4および18.0°の2θ (±0.1)におけるXRPDピークを特徴とする、精製された多型II。
【請求項3】
請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IVを製造する方法であって、該化合物の多型IV以外の多型に、ジイソプロピルエーテルおよびC5-C7アルカンまたはアルケンから選択される媒質の存在下で複数回の加熱および冷却サイクルを施すことを含む方法。
【請求項4】
媒質がヘプタンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IVを製造する方法であって、該化合物の酢酸エチル溶液を調製し、この溶液にC5-C7アルカンまたはアルケンを添加して該化合物を精製された多型IVとして結晶化させることを含む方法。
【請求項6】
C5-C7アルカンまたはアルケンがヘプタンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
結晶化させるためのC5-C7アルカンまたはアルケンの添加を約20〜約36℃(好ましくは約25〜約36℃)で行う、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶液の含水率が3.6 % v/v未満(好ましくは1.9 % v/v未満)である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
さらに、溶液の含水率を検定し、含水率が3.6 % v/vを超えた場合は、C5-C7アルカンまたはアルケンを添加する前に含水率を低下させる工程を含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IV、および医薬的に許容できる賦形剤を含む、医薬配合物。
【請求項11】
胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IVを投与することを含む方法。
【請求項12】
胃運動障害疾患が胃食道逆流疾患(”GERD”)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
医薬として使用するための、請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IV。
【請求項14】
胃食道逆流疾患(”GERD”)の処置に使用するための、請求項1に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IV。
【請求項15】
請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型II、および医薬的に許容できる賦形剤を含む、医薬配合物。
【請求項16】
胃運動障害疾患を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、療法有効量の、請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型IIを投与することを含む方法。
【請求項17】
胃運動障害疾患が胃食道逆流疾患(”GERD”)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
医薬として使用するための、請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型II。
【請求項19】
胃食道逆流疾患(”GERD”)の処置に使用するための、請求項2に定めた式Iaにより表わされる構造を有する化合物の精製された多型II。
【請求項20】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化3】
の、実質的に明細書の発明の詳細な説明および図面により記載した、精製された多型IV。
【請求項21】
式Iaにより表わされる構造を有する化合物:
【化4】
の、実質的に明細書の発明の詳細な説明および図面により記載した、精製された多型II。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図1g】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図1g】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2008−143898(P2008−143898A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−313306(P2007−313306)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313306(P2007−313306)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【Fターム(参考)】
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