説明

モッツァレラチーズの製造方法

【課題】保存中のモッツァレラチーズの風味、外観、物性などの品質を良好に維持する。
【解決手段】モッツァレラチーズの製造方法であって、カードをストレッチング後に冷却して得られたチーズを、塩化カルシウムを含有せず、0.1〜1.2質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液中に浸漬する保存工程を含むモッツァレラチーズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モッツァレラチーズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モッツァレラチーズは、新鮮さと形を維持するため、液体中に浸漬した状態で流通される場合が多い。例えば、非特許文献1の164ページには、「殺菌水または保存水とともに充填される」との記載がある。
食塩を含有した保存液を使用し、保存と同時に加塩も行う方法も報告されている(非特許文献2の31ページ)。すなわち、モッツァレラチーズの加塩方法として、例えば「ストレッチング後に20%食塩水に浸漬」や「食塩水にてストレッチングする」などの方法に加えて、保存液を使用する方法が記載されている。
具体的には、ストレッチングに使用したお湯と水と酸ホエイ(保存液のpHを4にするため)と食塩(2%)の混合液、または水とクエン酸(保存液のpHを4にするため)と食塩(2%)の混合液を保存液として、これに浸漬することで、保存と同時に加塩も行うことが記載されている。
また、有害菌の増殖を抑制するためにナイシンを含むホエイを保存液とする方法や(特許文献1)、保存液にゲル化剤を添加する方法(特許文献2)も提案されている。
また、ゴーダチーズ等のブライン−ソルティッドチーズ(Brine-salted Cheese)において、「ぬめり」を防止するという目的でブライン(約20質量%の食塩水)に塩化カルシウムを添加するという方法も知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】齋藤忠夫、他3名、「現代チーズ学」、食品資材研究会、2008年10月10日、p.159-164
【非特許文献2】Matilde Calandrelli、"Manual on the production of traditional buffalo mozzarella cheese"、p.31-32、[online]、1993年、Food and Agriculture Organization of the United Nations、[平成22年3月15日検索]、インターネット<http://www.fao.org/Ag/againfo/themes/documents/milk/mozzarella.pdf>
【非特許文献3】T. P. Guinee、"What caused the outside of brine-salted cheese to become slimy and sticky ?"、Cheese Problems Solved(チーズ・プロブレムズ・ソルブド)、2007年、CRC Press、p.92-93
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】カナダ特許出願公開第2509320号明細書
【特許文献2】国際公開第06/067825号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1のように、単純に殺菌した水等を使用する方法は、イタリアの水牛製モッツァレラチーズのような数日のうちに消費されるチーズでは問題ないかもしれないが、数週間保存するような場合には適さない。すなわち、次第にチーズ中の固形分が水相に移行したり、風味調整のため添加した食塩が水に拡散するために風味が弱くなるなど保存中の変化が無視できなくなってくる。また、保存中に組織が締まり、製造直後の硬度を維持できないということもある。
【0006】
また、非特許文献2のように、保存液にストレッチング用のお湯と酸ホエイを使用すると、包装直後から保存液に濁りがあり見栄えが悪いと共に、外からチーズがよく見えない問題がある。またホエイの使用は、乳酸菌スターターがファージに感染するリスクを高めるため、実際の運用には製造現場の衛生性の確保などの問題がある。さらに、酸ホエイやクエン酸を用いて保存液の酸度をあげると、酸味が強くなるという風味上の変化とチーズ表面の組織が強固になるなど物性上の変化をもたらす問題がある。
そこでチーズ中の食塩含量より若干高くなるように、保存液に食塩のみを添加し保存すると、チーズ表面に「ぬめり」が生じ、商品価値を低下させることとなる。また結果として保存液の濁りももたらす。保存液の食塩含量を高くすれば(18%以上)、保存液の浸透圧が高くなり、チーズ表面が脱水することで乾燥するため「ぬめり」は生じにくいが、(チーズの大きさに依存するが)チーズ自体の塩分含量が高濃度となり過度の塩味により商品価値を失うこととなる。
【0007】
また、特許文献1のように、有害菌の増殖を抑制するためにナイシンを含むホエイを添加すると、ホエイを使用する場合と同様、乳酸菌スターターがファージに感染するリスクを高めるという問題がある。
また、特許文献2のように、ゲル化剤を添加した保存液を用いると、原材料費が高くなること、また消費する際のゲルの処理が煩雑で食感も不快となるなど実用には課題が残されている。
また、非特許文献3のように、塩化カルシウムを用いると、塩化カルシウムの風味に独特のエグ味があるため、塩化ナトリウムの使用量が少ない場合はチーズの風味を損なうこととなる。さらに、非特許文献3は半硬質の内部熟成タイプであるゴーダチーズ等の製造に関するもので、軟質の非熟成タイプであるモッツァレラチーズとは、製造方法が異なり、硬さ等の物性も大きく異なる。ゴーダチーズ等のBrine-salted cheeseの製造において、塩化ナトリウムの添加は、単なる塩味の付与だけでなく、熟成に伴う微生物増殖や適度の酵素活性を得るために使用されるものであり、熟成工程を必要としないモッツァレラチーズについては示唆されていなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、保存中のモッツァレラチーズの風味、外観、物性などの品質を良好に維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]モッツァレラチーズの製造方法であって、カードをストレッチング後に冷却して得られたチーズを、塩化カルシウムを含有せず、0.1〜1.2質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液中に浸漬する保存工程を含むことを特徴とするモッツァレラチーズの製造方法。
[2]前記保存工程より前に塩化ナトリウムを添加しない[1]に記載のモッツァレラチーズの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保存中のモッツァレラチーズの風味、外観、物性などの品質を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の試験例1の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のモッツァレラチーズの製造方法は、以下の工程を順次行うことが好ましい。
(1)原料乳を殺菌する殺菌工程、
(2)殺菌後の原料乳を発酵させる発酵工程および/または酸を原料乳に添加するpH調整工程、
(3)レンネットを加えて、カードを形成するカード形成工程、
(4)カードをカッティングするカッティング工程、
(5)ホエイを除去するホエイ除去工程、
(6)カードをストレッチする延伸工程、
(7)冷水に投入して冷却してチーズを得る冷却工程、
(8)保存液中にチーズを浸漬する保存工程。
【0012】
(殺菌工程)
原料乳は、一般的にナチュラルチーズの製造に用いられているものであれば特に制限はなく、ウシ、水牛、ヒツジ、ヤギ等の乳を使用できる。中でも、風味の点から、牛乳または水牛乳が好ましい。
牛乳を使用する場合、一般的には成分調整をしていない全乳を使用するが、風味の改良や使用目的に応じて脂肪分等の成分調整を行ったものを原料乳としてもよい。例えば、セパレーター等により脂肪分離するか、又は、分離クリームを加えることなどによって脂肪率を調整した原料乳を使用してもよい。
【0013】
原料乳の殺菌方法としては、一般に、LTLT法(低温保持殺菌法;62〜65℃で少なくとも30分保持)、HTST法(高温短時間殺菌法;72〜75℃で15秒以上保持)、UHT法(超高温加熱処理法;120〜150℃で1〜5秒保持)等が知られているが、ホエイ蛋白質が熱変性しない加熱処理条件で行うことが好ましい。
ホエイ蛋白質は、原料乳を20℃でpH4.6にした際の可溶性画分(ホエイ)中に存在する蛋白質画分で、乳蛋白質の中で最も熱感受性の高い成分の1つである。例えば、原料乳を80℃、15秒の加熱処理条件で殺菌した場合、原料乳の全ホエイ蛋白質の約30%が熱変性してしまう。
したがって、殺菌は、ホエイ蛋白質が熱変性しないように、加熱温度及び加熱時間等の加熱処理条件を調節して行うことが好ましい。具体的には、HTST法により、75℃、20秒以下の加熱処理条件で行うことが好ましい。
【0014】
(発酵工程)
殺菌後の原料乳を、使用する乳酸菌スターターに適した生育温度まで冷却してから、乳酸菌スターターを所定量添加し、均一に混合し、前記生育温度に保持して発酵させる。
生育温度は、中温菌のスターターの場合25〜35℃で、高温菌のスターターの場合は35〜45℃が適しているが、作業時間や風味の観点で調整できる。
乳酸菌スターターの添加量は、バルクスターターを使用する場合は、原料乳に対して、0.5〜2.0質量%とすることが好ましい。直接投入法では、スターターメーカーの使用書に準じて加えることが好ましい。
また、乳酸菌の添加とともに、または乳酸菌を添加することなく、原料乳に乳酸、クエン酸、または酢酸を添加してpHを調整してもよい。
【0015】
(カード形成工程)
発酵条件により適宜、所定時間(例えば1時間程度)発酵させた後、レンネットを所定量添加して均一に混合し、発酵液を凝固させてカードを形成させる。
レンネットの添加量は20〜40分程度で凝乳させるのに必要な量とする。すなわち、製造条件やレンネットの種類によって、添加量を適宜選択することが可能である。一般的には、原料乳に対して、0.01〜0.03質量%程度のレンネットを水に溶解して濾過したものを、発酵液中に均一に分散させる。
【0016】
(カッティング工程)
得られたカードを所定の大きさ(例えば、0.3〜5.0cmの立方体)にカッティングする。カッティング完了後、必要に応じてカードの水分調整のために所定時間(約15分)経過後に、カードを、徐々に加熱してもよい(クッキング)。その場合、例えば1℃/5分の条件で穏やかに加熱することが好ましい。
【0017】
(ホエイ除去工程)
その後、ホエイ排出を行う(ドレイニング)。
カッティングしたカードは、ホエイ排出まで、撹拌したり静置したりして適切な水分量にする。
ホエイ除去工程終了後のpHは、5.1〜5.3の範囲であることが好ましい。
【0018】
(延伸工程及び冷却工程)
ホエイ除去工程終了後、カードをカッターで裁断してから、75〜90℃のお湯を加えてストレッチング(延伸)する。
裁断は、カードの温度が上昇しやすいように、サイコロ状や棒状となるように行うことが好ましい。お湯の量は、カード全体を僅かにお湯が覆う程度とする。お湯の温度と量は、カードの大きさやカードのpHに応じて調整する。
延伸工程における温度は、カードの温度が57℃付近になることが好ましい。延伸はカードが可塑性のある滑らか且つ均一な組成となるように行う。
延伸工程の後、冷水に目的の大きさに成形したカードを投入して冷却し、チーズを得る。冷却工程では、カードの変形を防止する上で、10℃前後の冷水を使用して、徐々に冷却することが好ましい。なお、本発明では、冷却工程の後から、「カード」を「チーズ」と定義して記載する。
【0019】
延伸工程で加えるお湯、及び/又は冷却工程で用いる冷水には、塩化ナトリウムを加えてもよいが、塩化ナトリウムを加えない方が好ましい。
本発明では、塩化ナトリウムを含有する保存液に中に浸漬して保存するため、延伸工程及び冷却工程において、塩化ナトリウムを加えない方が、適切な塩味とすることが容易であるからである。また、塩化ナトリウムの使用量が少量で済むために経済性の面でも優れている。
【0020】
(保存液)
保存工程で用いる保存液は、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムを含有することが好ましい。
保存工程で用いる保存液は、以下の(a)〜(c)の何れかから選択することが好ましく、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムを含有する(a)又は(b)の保存液であることが、より好ましい。
(a)2水和物換算で0.10〜0.25質量%の塩化カルシウムおよび0.1〜2.0質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液。
(b)2水和物換算で0.05〜0.10質量%の塩化カルシウムおよび0.1〜1.5質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液。
(c)塩化カルシウムを含有せず、0.1〜1.2質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液。
【0021】
(a)の保存液は、下記(a1)又は(a2)の何れかであることが特に好ましい。
(a1)2水和物換算で0.10〜0.20質量%の塩化カルシウムおよび0.4〜1.5質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液。
(a2)2水和物換算で0.20質量%の塩化カルシウムおよび1.2〜1.5質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液。
(b)の保存液は、下記(b1)であることが特に好ましい。
(b1)2水和物換算で0.05〜0.10質量%の塩化カルシウムおよび0.4〜1.2質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液。
【0022】
塩化カルシウムの含有量は、2水和物換算で、0.05質量%以上であることが好ましく、0.08質量%以上であることがより好ましく、0.10質量%以上であることが特に好ましい。塩化カルシウムの含有量を、一定以上とすることにより、保存するモッツァレラチーズ表面のぬめりを防ぎ、良好な外観を保ちやすくなるので好ましい。
また、塩化カルシウムの含有量は、2水和物換算で、0.25質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることが特に好ましい。塩化カルシウムの含有量を一定以下とすると、保存するモッツァレラチーズに、強い異味をもたらしにくくなるので好ましい。
塩化ナトリウムの含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましい。塩化ナトリウムの含有量を、一定以上とすることにより、保存するモッツァレラチーズの塩味が薄くなりすぎないので好ましい。
また、塩化ナトリウムの含有量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.2質量%以下であることが特に好ましい。塩化ナトリウムの含有量を、一定以下とすることにより、保存するモッツァレラチーズの塩味が濃くなりすぎず、また、保存するモッツァレラチーズ表面のぬめりを防ぎ、良好な外観を保ちやすくなるので好ましい。
【0023】
塩化カルシウムの含有量が少ない場合に外観不良の問題が生じる傾向は、塩化ナトリウム含有量が小さいほど軽減される。そのため、塩化カルシウムの含有量は、塩化ナトリウム含有量が小さいほど小さくてよい。すなわち、好ましい塩化カルシウムの含有量の下限値は、塩化ナトリウム含有量が小さいほど小さい。
また、塩化ナトリウムの含有量が多い場合に外観不良の問題が生じる傾向は、塩化カルシウム含有量が大きいほど軽減される。そのため、塩化ナトリウム含有量は、塩化カルシウムの含有量が大きいほど大きくてもよい。すなわち、外観維持の観点での好ましい塩化ナトリウムの含有量の上限値は、塩化カルシウム含有量が大きいほど大きい。
本発明では前記(c)塩化カルシウムを含有せず、0.1〜1.2質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液を用いる。
【0024】
本発明の保存に用いる保存液には、他の成分が含まれていてもよい。例えば、乳酸、クエン酸など各種pH調整剤を添加し、保存液を、保存するモッツァレラチーズと同等のpHに調整してもよい。
乳酸を含む場合、保存液中の含有量は、0.3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
クエン酸を含む場合、保存液中の含有量は、0.3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
保存液に含有可能なその他の成分としては、酢酸、リン酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、コハク酸、炭酸、酒石酸、グルコノデルタラクトン、乳酸カルシウム、ホエイ(酸ホエイ)が挙げられる。
【0025】
(保存工程)
保存工程では、上記保存液中にチーズを浸漬する。保存液中にチーズを浸漬する方法に特に限定はなく、保存液を入れた槽にチーズを浸漬してもよいし、チーズを保存液と共に包装してもよい。包装の態様としては、チーズを保存液と共に、プラスチック製の袋、カップ、若しくはビン、ガラス製のカップ若しくはビン、又は紙製の容器等に充填する態様が挙げられる。
保存時の温度は、−3〜15℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
保存時の温度が好ましい範囲であれば、60日以下、好ましくは30日以下の期間で保存が可能である。
また、保存液に塩化ナトリウムを含有し、これにより、製造するモッツァレラチーズに塩味を付す場合は、1日以上、好ましくは3日以上の期間で保存することが好ましい。
【0026】
保存液の量は、保存するチーズの成分が溶出することによって成分があまり変化しないことが好ましいため、チーズに対する割合が高い方がよいが、多すぎると物流および資材の面でコスト高となる。これらの点を考慮すると保存液は、チーズ質量に対して5倍量まで、より好ましくは0.5倍量〜3倍量となるようにして包装することが望ましい。
【実施例】
【0027】
次に、試験例を示して本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の説明における「%」は「質量%」である。
<試験例1>
(目的)
この試験は、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムを含有する保存液中に浸漬することにより、適切な硬度及び風味を維持できることを確認する目的で実施した。
【0028】
(試験試料の調製)
原料乳として、100Lの全乳を用い、これを、プレート式熱交換機にて、HTST法で75℃15秒の加熱処理条件で殺菌した。
殺菌した原料乳を、40℃まで冷却してから、バルクスターター(Chr.Hansen社製)を所定量(約2%)添加し、均一に混合して、1時間発酵させた。
発酵後、発酵液に、レンネット(Chr.Hansen社製)を約10g添加して均一に混合し、30分間静置してカードを形成した。
得られたカードを2.0cmの立方体にカッティングした。その後、ホエイ排出を行った。
レンネット添加からホエイの全量排出までは、約4時間で行った。また、カッティングしたカードは、約1時間撹拌し、その後静置した。
ホエイ排出後、カードを40℃に保温しながら堆積し、pHを5.3に到達させた。
得られたカードを、1cm四方の立方体にカットしてから、85℃のお湯30Lを加え、延伸を行った。
延伸はカードの温度が60℃に達するまで行った。
延伸工程の後のカードを、モールドを用いて100gの球形に成形し、これを15℃の冷水に投入して冷却し、チーズを得た。冷却後の球形のチーズ(20個)を試験試料とした。
【0029】
(試験試料の保存)
0.12%の塩化カルシウム2水和物および1.2%の塩化ナトリウムを含有する保存液を調製した。この保存液を5℃に冷却し、試験試料(100g)1個あたり110mLとなるように計量した保存液中に試験試料を浸漬し、30日間保存した。
【0030】
(対照試料の調製)
試験試料と同様に調製し、pHを5.3に到達させたカードを1cm四方の立方体にカットしてから、85℃のお湯30Lを加えて延伸を開始し、カードの温度が60℃に達するまで延伸を続け、次いで、お湯を除去した後、塩化ナトリウムを20%含有する60℃の食塩水3Lを加えてさらに3分間延伸を行った他は、試験試料と同様にして球形のチーズ(20個)を得て、対照試料とした。
(対照試料の保存)
イオン交換水110mLを5℃に調整した中に、対照試料を浸漬し、30日間保存した。
【0031】
(硬度の測定)
保存開始後1日後、5日後、14日後、20日後、30日後の試験試料と対照試料を3つずつ取り出し、硬度を測定した。硬度の測定は、各試料から3cm×3cm×高さ2cmのサンプルを切り出し、レオメーター((株)山電製;RE−3305 RHEONER)を用い、品温10℃で、直径8mmの円柱型のプランジャーを1.0mm/sでサンプルに1.5cm差し込み、破断強度を測定し、その平均値を算出した。その結果を図1に示す。
【0032】
(風味評価)
保存開始後1日後、5日後、14日後、20日後、30日後の試験試料と対照試料を1つずつ取り出し、風味を評価した。評価は、10人のパネラーが、それぞれ下記の基準により、良好、または不良の2段階で採点して行った。10人のパネラーによる評価結果の平均値を表1に示す。
0点:強い塩味、強い苦味などの異味を感じる、または弱い塩味、水っぽくコクが弱い。
1点:程よい塩味、異味を感じない、コクがある。
【0033】
【表1】

【0034】
図1、表1に示すように、試験試料を保存液に浸漬した場合、30日間保存しても、良好な硬度と風味を維持できた。特に保存後20日迄は、保存開始直後(1日後)と殆ど変わらない品質を維持できた。
これに対して、対照試料をイオン交換水に浸漬した場合、保存開始5日後で既に大きな硬度の上昇が見られ、保存後14日目で風味が落ち始め、保存後30日目では著しく風味が劣化していた。
【0035】
<試験例2>
(目的)
この試験は、保存液中の塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムの好ましい含有量を検索する目的で実施した。
【0036】
(試験試料の調製)
試験例1の試験試料と同様にして球形のチーズ(100個)を得て、試験例2の試料とした。
(試料の保存)
塩化カルシウム2水和物および塩化ナトリウムの含有量が異なる複数の保存液を、各々110mL調製した。各保存液110mLを5℃に調整した中に、各々試料を浸漬し、14日間保存した。
【0037】
(風味評価)
保存開始後14日後の試料の風味を評価した。評価は、10人のパネラーが、それぞれ下記の基準により、良好、または不良の2段階で採点して行った。10人のパネラーによる評価結果の平均値を表2に示す。
0点:強い塩味、強い苦味などの異味を感じる、または弱い塩味、水っぽくコクが弱い。
1点:程よい塩味、異味を感じない、コクがある。
【0038】
(外観評価)
保存開始後14日後の試料の組織表面を外観および触れた際の感触にて評価した。評価は、10人のパネラーが、それぞれ下記の基準により、良好、または不良の2段階で採点して行った。10人のパネラーによる評価結果の平均値を表2に示す。
0点:表面がふやけている、軟弱である。ぬめりがある。
1点:艶がある。表面がしっかりしている。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示すように、塩化カルシウムを含有せず、塩化ナトリウムを0.1〜1.2%含有する保存液でモッツァレラチーズを保存することによって、保存中のモッツァレラチーズの品質(風味、物性)を良好な状態に維持できた。
また、0.05〜0.10%の塩化カルシウム2水和物および0.1〜1.5%の塩化ナトリウムを含有する保存液、又は0.10〜0.25%の塩化カルシウム2水和物および0.1〜2.0%の塩化ナトリウムを含有する保存液の何れかの保存液でモッツァレラチーズを保存することによって、保存中のモッツァレラチーズの品質(風味、物性)を良好な状態に維持できた。
特に、0.05〜0.10%の塩化カルシウム2水和物および0.4〜1.2%の塩化ナトリウムを含有する保存液、0.10〜0.20%の塩化カルシウム2水和物および0.4〜1.5%の塩化ナトリウムを含有する保存液、もしくは0.20%の塩化カルシウム2水和物および1.2〜1.5%の塩化ナトリウムを含有する保存液の何れかの保存液でモッツァレラチーズを保存することによって、保存中のモッツァレラチーズの品質(風味、物性)を、非常に良好な状態に維持できた。
【0041】
これに対して、塩化ナトリウム含有量が3.0%以上の場合、塩味が強すぎる点で風味の評価が劣り、塩化ナトリウム含有量が2.0%以上の場合も、やや、塩味が強すぎる点で風味評価が低くなる傾向が見られた。
また、塩化ナトリウム含有量が0%の場合、塩味が弱すぎる点で風味の評価が劣り、塩化ナトリウム含有量が0.1%以下の場合も、やや、塩味が弱すぎる点で風味評価が低くなる傾向が見られた。
【0042】
また、塩化カルシウム含有量が0.3%以上の場合、異味が強すぎる点で風味の評価が劣り、塩化カルシウム含有量が0.2%以上(特に0.25%以上)の場合も、やや、異味が強すぎる点で風味評価が低くなる傾向が見られた。
また、塩化カルシウム含有量が0%の場合、チーズ表面の組織が悪くなりやすく、特に塩化ナトリウム含有量が高いほどその傾向が強かった。
また、塩化カルシウム含有量が0.05〜0.10%の場合も、チーズ表面の組織が悪くなりやすい傾向があったが、塩化ナトリウム含有量が高過ぎなければ、組織の悪化も限定的であった。
【0043】
<試験例3>
(目的)
この試験は、保存による保存液の成分変化を検討する目的で実施した。
(試験試料の調製)
試験例1の試験試料と同様にして球形のチーズ(10個)を得て、試験例3の試料とした。
【0044】
(保存液の調製)
1.2質量%の塩化ナトリウムと0.15%の塩化カルシウム2水和物を含有する保存液を調製した。
調製した保存液の成分について、NaとCa2+は誘導プラズマ発光分析法により、またClは電位差滴定法により、それぞれ測定したところ、下記のとおりであった。
Na=470mg/100g、
Ca2+=41mg/100g、
Cl=800mg/100g。
【0045】
(試料の保存)
調製した保存液110gを10℃に調整し、この中に試料を浸漬して14日間保存した。
14日間保存後の保存液の成分について、NaとCa2+は誘導プラズマ発光分析法により、またClは電位差滴定法により、それぞれ測定したところ下記のとおりであった。
Na=260mg/100g、
Ca2+=107mg/100g、
Cl=473mg/100g。
保存液の成分は、保存前後で極端には変化しておらず、14日間程度の保存は充分に可能であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モッツァレラチーズの製造方法であって、カードをストレッチング後に冷却して得られたチーズを、塩化カルシウムを含有せず、0.1〜1.2質量%の塩化ナトリウムを含有する保存液中に浸漬する保存工程を含むことを特徴とするモッツァレラチーズの製造方法。
【請求項2】
前記保存工程より前に塩化ナトリウムを添加しない請求項1に記載のモッツァレラチーズの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−106620(P2013−106620A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−49647(P2013−49647)
【出願日】平成25年3月12日(2013.3.12)
【分割の表示】特願2011−66089(P2011−66089)の分割
【原出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】