説明

モップ糸及びその製造方法

【課題】従来のモップ糸はいずれも毛羽を利用してダストを捕捉していたが、毛羽が遊毛(ゴミ)として出てしまう。
【解決手段】マイクロファイバーのマルチフィラメント糸3,5と、導電糸9と、熱融着糸11とを、引き揃えて撚り合わせてモップ糸1を製造する。そのとき、第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5の下撚数に対して、上撚数を小さくする。撚り合わせると、熱融着糸11は、マルチフィラメント糸3,5及び導電糸9に比べて細いので、モップ糸1の長手方向の略中心部に位置する。また、導電糸9は撚りの外側にたまに出てくる。また、モップ糸1の側面13に凹凸(凹部15、凸部16)が形成されている。毛羽が無いのでモップ糸1から遊毛は出ない。その一方で、ダストのワイパー能力や捕捉能力も十分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダスト等の除去に使用するモップのモップ糸及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来のハンディタイプのモップ31を示す。この図に示すように、従来のモップ糸33は、綿、レーヨン等の短繊維(2〜3T(テックス)程度)の紡績糸を低融点ナイロン等の熱融着糸と共に撚り合せて撚糸とし、更に融着糸の熱融着により撚止めした撚止め撚糸で構成されていた。このモップ糸33には図示しない鉱物油系吸着剤が含ませてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した短繊維紡績糸は2〜3T(テックス)の短繊維から構成されているので、うねった毛羽35が側面から出易いのでワイパー能力が高く、しかも含ませている鉱物油系吸着剤の吸着作用により、ダスト(D)が吸着、即ち捕捉されていた。しかしながら、その反面、モップ糸33から毛羽35が遊毛37として抜け落ちてしまっていた。住宅の床掃除用として使用する場合には少々の毛羽35の抜け落ちは気にはならないであろうが、ハンディタイプとして使用する場合にはユーザーの目線より上で使用することが多く、そのような場合には毛羽35の抜け落ちが目障りと感じるユーザーがいる。
また、精密機械工場のクリーンルームや店舗の商品陳列棚等は、元々ゴミに対して非常に敏感なところであり、自らゴミを出すようなモップは使用できない。
更に、鉱物油系吸着剤をモップ糸に含ませると、置染みができ易く、また、再利用する際には、一旦モップ糸33から鉱物油系吸着剤を除去し、即ち廃棄処理し、改めて新しい鉱物油系吸着剤を含ませなくてはならない。現在は、一箇所に大量のモップ31を回収し、そこで上記処理を行っており、環境汚染の問題を伴う。
【0004】
本出願人らは、先に、特願2003−51061において、マイクロファイバー(1T未満)の短繊維を使用することで、毛羽を微細化し、従来の鉱物油系吸着剤を使用せずとも、ワイピングしたダストの捕捉能力を高めることに成功したモップ糸を開示している。
しかしながら、このモップ糸でも、毛羽があるのでどうしても遊毛が出てしまう。
【0005】
それ故、本発明は、上記課題を解決する、ダストのワイパー能力が十分で、繊維が抜け落ち難く、しかも従来の鉱物油系吸着剤を含まずに済む、新規且つ有用なモップ糸を提供することを目的とする。
また、本発明は、特にダストの捕捉能力を改善したモップ糸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、マイクロファイバーのマルチフィラメント糸で構成された撚糸であって、前記撚糸の内側が融着糸の融着により撚止めされていることを特徴とするモップ糸である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したモップ糸において、マイクロファイバーの断面は略三角形であることを特徴とするモップ糸である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載したモップ糸において、導電糸が撚り合わされていることを特徴とするモップ糸である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載したモップ糸において、撚糸の側面に凹凸が形成されていることを特徴とするモップ糸である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載したモップ糸の製造方法において、下撚数を上撚数より多くして撚り合わせることを特徴とするモップ糸の製造方法である。
【0011】
請求項6の発明は、請求項4に記載したモップ糸の製造方法において、少なくとも1本のマルチフィラメント糸の送出し速度をその他のマルチフィラメント糸の送出し速度より早くして撚り合わせることを特徴とするモップ糸の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモップ糸は、フィラメント(長繊維)で構成されているため、抜け落ちない。また、マイクロファイバーのマルチフィラメントを撚り合わせているため、ダストのワイパー能力は十分である。
更に、撚り合わせ方法等を工夫することにより、モップ糸の側面に凹凸を形成した場合には、更にダストの捕捉能力を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の実施の形態に係るモップ糸1を、図1に従って説明する。
符号3は第1フィラメント糸を、符号5は第2フィラメント糸をそれぞれ示す。
第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5は同じ素材で構成され、しかも同じ構造を有している。従って、代表として、第1フィラメント糸3の構造を説明する。
第1フィラメント糸3は、多数のエステル製のフィラメント(長繊維)7を引き揃え、撚り合わせて糸状にした、いわゆるマルチフィラメント(4980T(テックス)程度)で構成されており、個々のフィラメント7はマイクロファイバー(1T(テックス)未満)であり、好ましくは0.8T未満、より好ましくは0.5T未満である。
【0014】
個々のフィラメント7は、合成繊維からの公知の方法、代表的には溶出方法と割繊方法により得られるが、この実施の形態では、アルカリを使用した割繊方法により得られたものである。具体的に言えば、図2に模式的に示すように、一本の繊維糸(通常は合成繊維糸)8を公知の方法でアルカリ処理して繊維を割り易くした後、割繊することにより、8分割して8本のマイクロファイバーのフィラメント7を得ている。従って、個々のフィラメント7の断面は略三角形となっている。
【0015】
符号9は導電糸を示す。この導電糸9はナイロン樹脂繊維の糸の表面をニッケルや銅や亜鉛等をコーティングしたり、樹脂の中に導電カーボンを練りこむことにより製造された、慣用的なものである。なお、露出している部分のみが後述する除電効果に寄与することから、好ましくはコーティング処理により製造されたものである。
符号11は慣用的な低融点ナイロン製の熱融着糸(モノフィラメント)を示す。
【0016】
次に、モップ糸1の製造方法を説明する。
図1に示すように、第1フィラメント糸3と、第2フィラメント糸5と、導電糸9と、熱融着糸11とを、引き揃えて撚り合わせる。
そのとき、第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5の下撚数に対して、上撚数を小さくする。好ましくは、下撚数:上撚数=1.0:0.7以上1.0未満とする。例えば、下撚数を150T/mとする、上撚数を105T/m以上150T/m未満とする。
撚り合わせると、熱融着糸11は、第1フィラメント糸3、第2フィラメント糸5及び導電糸9に比べて細いので、モップ糸1の長手方向の略中心部に位置する。また、導電糸9は撚りの外側にたまに出てくる。従って、このモップ糸1は、第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5との双糸加工糸である。
なお、上記した方法により撚り合わせているので、モップ糸1の側面13に凹凸(凹部15、凸部16)が形成されている。
【0017】
この後、加熱処理をして、熱融着糸11を融解させて第1フィラメント3と、第2フィラメント糸5と、導電糸9とを互いに融着させる。その際、熱融着糸11は融解する前に収縮するので、ところどころ切れるが、撚りがかけられているので融着性能は問題ない。
【0018】
本実施の形態のモップ糸1は、フィラメント7で構成されているので毛羽が無く、遊毛として抜け落ちる心配はない。また、フィラメント7としてミクロファイバーで、しかも割繊して、断面が略三角形状のものを使用しているので、側面13でも、この三角形のエッジによりダスト(D)がワイピングされる。従って、モップ糸1の先端のみならず、側面13でも、ダストDのワイパー能力は高い。
また、マイクロファイバーのマルチフィラメント糸で構成されているので、モップ糸1の先端におけるダストDの捕捉能力は非常に高い。更に、撚り合わせ方法を工夫して側面に凹凸(凹部15、凸部16)を形成しているので、側面13でもワイピングされたダスト(D)の捕捉能力が改善されている。
更に、モップ糸1を構成する第1フィラメント糸3、第2フィラメント糸5及び導電糸9は撚り合わされた上で融着糸11の融着により互いに融着されており、長時間洗濯しても従来のモップ糸に比べてほつれ難い。
【0019】
また、除電効果もある。例えば、マイナスに帯電したブラウン管にはプラスに帯電したダストDが付着しているとすると、導電糸9が無いと、モップ糸1が物理的にブラウン管をこすってダストDを除去することになるので、余計にブラウン管が帯電してしまう。従って、浮遊中のダストDがブラウン管に再付着してしまう。しかしながら、モップ糸1は導電糸9が撚り合わされているので、そのような不都合はない。即ち、ダストDを除去すると共に、ブラウン管を除電できる。
この除電効果は、特に、精密機械工場のクリーンルームや店舗の商品の陳列棚にとって好ましい。
【0020】
本発明の第2の実施の形態に係るモップ糸21を、図3に従って説明する。
このモップ糸21は、第1の実施の形態に係るモップ糸1と同じ構成部分を有しているので、同じ構成部分には同じ符号を付すことで説明を省略する。
モップ糸21は、更に、第3フィラメント糸23を有する。
第3フィラメント糸23の素材及び構造は、第1フィラメント糸3、第2フィラメント糸5と同じである。
第1フィラメント糸3、第2フィラメント糸5、第3フィラメント糸23を引き揃えて撚り合わせる際に、第3フィラメント糸23の送出し速度を第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5の送出し速度より速くして撚り合わせている。この実施の形態では、第3フィラメント糸23の送出し速度を、第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5の送出し速度の1.2倍にしている。但し、第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5の下撚数に対して第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5の上撚数は同じである。
このように撚り合わせると、第3フィラメント糸23がたわんだ状態で過剰に送り出されるので、第1フィラメント糸3と第2フィラメント糸5とが撚り合わされた側面の外周上を、たわんだ状態の第3フィラメント糸23が螺旋状に巻き回される。第3フィラメント糸23の巻きの間には、膨らみができるので、結果として、側面25に凹凸(凹部27、凸部28)が形成されることになる。
【0021】
上記したように、モップ糸21は3本のフィラメント糸を使用した点と、異なる方法で撚り合わせをした点が第1の実施の形態に係るモップ糸3と相違するだけであり、同様のダストDのワイパー能力やほつれ防止効果や除電効果を有する。
更に、モップ糸21の側面25の凹凸(凹部27、凸部28)は、モップ糸1の側面の13の凹凸(凹部15、凸部16)より大きいので、ダストDの捕捉効果は更に改善されている。
【0022】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の具体的構成が上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨から外れない範囲での設計変更があっても本発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態では、マルチフィラメント糸はそれぞれ2本、3本使用しているが、複数本あれば良く、上記の本数には限定されない。
また、第2の実施の形態では、送り速度を速くしたマルチフィラメント糸も他のマルチフィラメント糸と同じ素材及び構造のものを使用しているが、他のものでもよい。
更に、導電糸は、除電効果を必要としない場合は必ずしも入れる必要はない。
マルチフィラメント糸、融着糸及び導電糸は従来から公知のものをそのまま使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
従来のモップ糸は遊毛を出す、即ちゴミを出すので、ゴミを嫌う精密機械工場のクリーンルームや店舗の商品の陳列棚では使用できなかったが、本発明のモップ糸はゴミを出さないので、そのようなところでも使用可能となっている。即ち、産業上の用途を広げるのに成功している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施の形態に係るモップ糸の構成及び製造方法を説明する図である。
【図2】割繊マイクロファイバーの製造方法を説明する図である。
【図3】第2の実施の形態に係るモップ糸の構成及び製造方法を説明する図である。
【図4】従来のモップ糸を用いたモップを説明する図である。
【符号の説明】
【0025】
1 モップ糸 3 第1フィラメント糸
5 第2フィラメント糸 7 フィラメント
8 繊維糸 9 導電糸
11 熱融着糸 13 側面
15 凹部 16 凸部
21 モップ糸
23 第3フィラメント糸 25 側面
27 凹部 28 凸部
31 モップ 33 モップ糸
35 毛羽 37 遊毛
D ダスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロファイバーのマルチフィラメント糸で構成された撚糸であって、前記撚糸の内側が融着糸の融着により撚止めされていることを特徴とするモップ糸。
【請求項2】
請求項1に記載したモップ糸において、マイクロファイバーの断面は略三角形であることを特徴とするモップ糸。
【請求項3】
請求項1または2に記載したモップ糸において、導電糸が撚り合わされていることを特徴とするモップ糸。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載したモップ糸において、撚糸の側面に凹凸が形成されていることを特徴とするモップ糸。
【請求項5】
請求項4に記載したモップ糸の製造方法において、下撚数を上撚数より多くして撚り合わせることを特徴とするモップ糸の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載したモップ糸の製造方法において、少なくとも1本のマルチフィラメント糸の送出し速度をその他のマルチフィラメント糸の送出し速度より早くして撚り合わせることを特徴とするモップ糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−535(P2006−535A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182123(P2004−182123)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(304021118)有限会社ビンテック (1)
【出願人】(304021130)片山撚糸株式会社 (1)
【出願人】(598118743)有限会社毎日モップ (1)
【Fターム(参考)】