説明

モニタシステムおよびモニタシステムの制御方法

【課題】 呼吸ガス一般の摂取・排泄をモニタすることができるモニタシステムを提供する。
【解決手段】 モニタシステムは、呼吸回路に設けられ患者の呼吸量を連続的に検出するフローセンサと、前記呼吸回路に設けられ麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度を連続的に検出する呼吸ガスセンサと、前記フローセンサによって測定された患者呼吸の時間軸上でのボリューム変化、及びそこから得られる一回換気量と、呼吸ガスセンサによって測定された患者呼吸の時間軸上での麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度変化、及びそこから得られる吸気濃度と呼気終末濃度をほぼ実時間で描出する表示制御部と、を備え、前記表示制御部は、時間軸上におけるフローセンサによる一回換気量の変化Vと、前記呼吸ガスセンサによる各呼吸ガスの濃度変化Cとから、X−Y座標上に同一時点の点(C,V)を連続的に表示させ、一呼吸ごとにループを描出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モニタシステムおよびモニタシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入式全身麻酔は1846年に臨床実用が開始されて以来160年余りの歴史を有する。全身麻酔中の麻酔ガス・呼吸ガスの摂取に関して様々な研究がなされてきたが、ごく一部において酸素と二酸化炭素の摂取量・排泄量の臨床モニタが実現されている。
【0003】
二酸化炭素をモニタするものとしてSBCO2(Single Breath CO2)モニタが提案されている(特許文献1参照)。このSBCO2は、二酸化炭素について、一呼気についてのみ、呼気量をX軸に、二酸化炭素濃度をY軸にして波形として描き出すものである。図1は、従来のSBCO2モニタの表示例を示す図である。この波形から、呼気終末二酸化炭素濃度ETCO2、一回呼気量VE、死腔量VD,肺胞換気量VAの各値が得られ、波形線下の面積から二酸化炭素排泄量VCO2を計算することができる。
【特許文献1】特開平9−24099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常、二酸化炭素は吸気中にはほとんど含まれないので、SBCO2モニタは呼気フローだけを対象としている。他の呼吸ガス、酸素、亜酸化窒素、揮発性麻酔ガスなどは、吸気中にも含まれるため、SBCO2モニタのように呼気だけの分析では、摂取量・排泄量をモニタすることはできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、呼吸ガス一般の摂取・排泄をモニタすることができるモニタシステムおよびモニタシステムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のモニタシステムは、呼吸回路に設けられ患者呼吸のボリューム変化を検出するフローセンサと、前記呼吸回路に設けられ麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度変化を検出する呼吸ガスセンサと、前記フローセンサによって測定された時間軸上でのボリューム変化、及びそこから得られる一回換気量と、前記呼吸ガスセンサによって測定された時間軸上でのガスの濃度変化、及びそこから得られる吸気濃度と呼気終末濃度を、ほぼ実時間として描出する表示制御部と、を備え、前記表示制御部は、時間軸上におけるフローセンサによる一回換気量の変化Vと、前記呼吸ガスセンサによる各呼吸ガスの濃度変化Cとから、X−Y座標上に同一時点の点(C,V)を連続的に表示させ、一呼吸ごとにループを描出する。
【0007】
本発明によれば、吸入麻酔の二大要素である換気量Vと呼吸ガス濃度Cを、X−Y座標上にプロットすることによって、それぞれの値と、その関係を直感的に認識できる。また、二酸化炭素に限らず呼吸ガス一般の摂取・排泄をモニタできる。さらに、一回換気量・吸気濃度・呼気終末濃度に加えて、肺胞換気量のモニタが可能となる。また、吸入式全身麻酔の一連の流れである、導入〜維持〜覚醒、の各相における呼吸ガスの摂取・排泄とその変化をグラフィカルに表現できるため、大きな視野から吸入麻酔の正常性Integrityモニタとしての機能も期待できる。
【0008】
上記発明において、前記表示制御部は、前記呼吸ガスセンサによって検出可能な複数のガスについて、ある時点でのある呼吸ガスの濃度Cと、同一時点での前記フローセンサによる一回換気量Vを、0−100%のX軸と、一回換気量のY軸で構成される座標面に、点(C,V)として連続的に表示するように制御することによって、一呼吸ごとに前記ループを描き出す。
【0009】
また上記発明において、前記表示制御部は、各呼吸ガスのV−C(Volume-Concentration Loop)ループの閉じた方形部の面積を計算し、該計算した方形部の面積をその呼吸ガスの摂取量又は排泄量として計算して所定の表示領域に表示する。
【0010】
また本発明のモニタシステムの制御方法は、フローセンサによって検出された患者呼吸の時間軸上でのボリューム変化、及びそこから得られる一回換気量と、呼吸ガスセンサによって検出された患者呼吸の時間軸上での麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度変化、及びそこから得られる吸気濃度と呼気終末濃度を、ほぼ実時間として描出するモニタシステムの表示制御方法であって、時間軸上におけるフローセンサによる一回換気量の変化Vと、前記呼吸ガスセンサによる各呼吸ガスの濃度変化Cとから、X−Y座標上に同一時点の点(C,V)を連続的に表示させ、一呼吸ごとにループを描出するステップを含む。
【0011】
上記発明において、前記呼吸ガスセンサによって検出可能な複数のガスについて、ある時点でのある呼吸ガスの濃度Cと、同一時点での前記フローセンサによる一回換気量Vを、0−100%のX軸と、一回換気量のY軸で構成される座標面に、点(C,V)として連続的に表示するように制御することによって、一呼吸ごとに前記ループを描き出す。
【0012】
また上記発明において、各呼吸ガスのV−Cループの閉じた方形部の面積を計算し、該計算した方形部の面積をその呼吸ガスの摂取量又は排泄量として計算して所定の表示領域に表示するステップをさらに含む。
【0013】
ここで、気道から肺へ入った酸素や麻酔ガスなどの呼吸ガスは、肺胞からその毛細血管の血液へ移動する。この移動を摂取と呼ぶ。他方、組織で発生した二酸化炭素は静脈血に溶け込んで心臓にもどり、肺動脈を通って肺胞の毛細血管で、酸素と入れ替わる形で肺胞へ移動する。この移動を排泄と呼ぶ。排泄と摂取とは、方向が異なるだけで肺胞とその毛細血管との間のガス交換という意味では同じ現象と考えてよい。つまり排泄は負の摂取である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、呼吸ガス一般の摂取・排泄をモニタすることができるモニタシステムおよびモニタシステムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来のSBCO2モニタの表示例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る麻酔システムを説明するための図である。
【図3】フローセンサと呼吸ガスセンサの表示制御装置との接続関係を示す図である。
【図4】V−Cループによる摂取量と排泄量を説明するための図である。
【図5】麻酔維持状態のときの各ガスのV−Cループの表示例である。
【図6】吸入式全身麻酔の代表過程における摂取モニタの表示例である。
【図7】表示装置の表示例を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る人工呼吸システムを説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図2は、本発明の実施形態に係る麻酔システムを説明するための図である。図2に示すように、麻酔システム100は、麻酔ガス供給装置1、呼吸回路2、表示制御装置(表示制御部)3、表示装置4を有する。
【0018】
呼吸回路2は、吸気弁21、患者とつながるコネクタ22、フローセンサ23、呼吸ガスセンサ24、呼気弁25、CO2吸収剤キャニスタ26、ベンチレータ27を有する。吸気弁21は、呼吸回路2から患者へのガス(吸気)の流れは許容するものの、その逆の流れは規制するように作動する。
【0019】
コネクタ22には、フローセンサ23と呼吸ガスセンサ24が、順不同で直列に設置されている。フローセンサ23は、呼吸の時間軸上でのボリューム変化を検出し、さらにそこから一回換気量を測定する。呼吸ガスセンサ24は、例えばマルチガスセンサモジュールによって構成され、麻酔ガスを含む呼吸ガスの時間軸上での濃度変化を検出し、さらにそこから吸気濃度と呼気終末濃度を測定する。ここではフローセンサ23と呼吸ガスセンサ24は、二酸化炭素(CO2)、揮発性麻酔ガス(AA)、酸素(02)、亜酸化窒素(N2O)の混合した呼吸ガスを測定対象とすることができる。ベンチレータ27は、患者の吸気および呼気を促進、補助または強制するために使用される。
【0020】
フローセンサ23と呼吸ガスセンサ24の、表示制御装置3との接続関係を図3に示す。通過する呼吸ガスによって、フローセンサ23と呼吸ガスセンサ24のそれぞれにおいて検出された信号は、表示制御装置3に供給される。
【0021】
ガス分析法はメインストリームによるガス分析法を用いるのが好ましい。従来主流のサイドストリームによるガス分析法では、口元から吸気ガス・呼気ガスを毎分100mL前後連続サンプリングし、離れた場所にあるセンサで検出し、時間軸上での濃度変化と、吸気濃度・呼気終末濃度を測定し表示している。このため、サンプリング中の混合、測定までの時間差などによって、一回換気量データと一体的に扱うことが困難であった。患者口元で、CO2/O2/N2O/AAなどの麻酔呼吸ガス濃度をほぼリアルタイムに連続モニタできる、メインストリームのガスセンサモジュールが臨床実用に耐えるものとなったことによって、一回換気量と呼吸ガス濃度のデータを同じ時間軸で一体的に扱うことができるようになった。
【0022】
呼気弁25は、患者からの呼気の一部をCO2吸収剤キャニスタ26へ導き再利用する、また残りの一部を余剰ガスとして廃棄する、その流れは許容するものの、その逆の流れは規制するように作動する。CO2吸収剤キャニスタ26は、患者の呼気から二酸化炭素を吸収除去し、その他の麻酔呼吸ガスを吸気の一部として循環使用するためのものである。
【0023】
表示装置4は、例えば液晶ディスプレイ等によって構成される。表示制御装置3は、表示装置4全体を制御する機能と、フローセンサ23によって検出された時間軸上でのボリュームVの変化の信号と、呼吸ガスセンサ24によって検出された時間軸上での濃度Cの変化の信号とを処理して、ほぼ実時間波形として描出する機能とを少なくとも有する。
【0024】
図4はV−Cループによる摂取量と排泄量を説明するための図であり、(a)は摂取を説明する図、(b)は排泄を説明する図である。図4に示すように、表示制御装置3は、時間軸上におけるフローセンサ23による一回換気量の変化Vと、呼吸ガスセンサ24による各呼吸ガスの濃度変化Cとから、X−Y座標上に同一時点の点(C,V)を連続的に表示させ、一呼吸ごとにV−Cループを描出している。V−Cループは、吸入麻酔の二大要素である換気量Vと呼吸ガス濃度Cを、X−Y座標上にプロットしたものである。このループによって、それぞれの測定値と、その関係を直感的に認識できるようになる。
【0025】
図4に示すように、吸入麻酔の二大要素である換気量Vと濃度Cの変化を、一定の形(アルファベット小文字のdまたはb)で表現することができる。同図(a)に示す「d型」ではガスの摂取を示し、(b)に示す「b型」ではガスの排泄を示す。ループのうち棒部の長さが死腔量VDを、閉じた部分の高さが肺胞換気量VAを、面積が当該ガスの摂取(又は排泄)量を、「d型」は摂取を、「b型」は排泄をそれぞれ表現することができる。
【0026】
また、図4(a)に示すように、各領域面積の関係から、あるガス**の摂取量(アップテイクボリューム)をVupt**とすると、摂取量Vupt**=VT×FI**1―(VD×FI**1+VA×ET**)
=(VT−VD)×FI**1−VA×ET**
=VA×(FI**1−ET**)となる。
現実の肺におけるV−Cループは、図1に示したSBCO2の波形にも見られるように、換気に与らない細気管支の存在や、血流がないか不十分な肺胞の存在などによって、必ずしも四隅が直角の方形となるとは限らず図形だけからでは正確な肺胞換気量VAは得られない。しかし摂取量Vupt**は、V−Cループの積分から求めることができるので、上の式を変形したVA=Vupt**/(FI**1−ET**)によってより適切な肺胞換気量VAを求めることができる。
また同図(b)に示すように、あるガス**の排泄量をVexh**とすると、排泄量Vexh**=VA×(ET**−FI**2)となる。図4(b)において、FI**2=0とすると、例えば二酸化炭素の排泄量を表す。
【0027】
また、摂取量とは、肺胞における血液とのガス交換量のことをいい、呼吸ガスの測定部位である患者口元における交換量を移動量Vtran**、肺容量(機能的残気量FRC+死腔量VD)に含まれるあるガス**の量をVcont**とすると、摂取量Vupt**は、移動量から肺内包ガス変化量を差し引いたもの、つまりVupt**=Vtran**−ΔVcont**となる。
麻酔維持状態のように、患者の循環指標が安定し、一回換気量VT、吸気濃度FI**、呼気終末濃度ET**などの呼吸指標も安定している状態では、ΔVcontはゼロとなるため、摂取量は移動量に一致する。
仮に全ガスの摂取量の合計Vuptotに等しい量と組成の新鮮ガスを供給すると(Vuptop=FGF)、患者の必要とするガスを必要とする量だけ供給し、排気される余剰ガスが発生しない麻酔、つまり完全閉鎖麻酔となる。信頼性のある摂取量モニタが実現すると、完全閉鎖麻酔のため、新鮮ガスの流量と組成の自動制御が可能となる。
【0028】
従来のSBCO2モニタは、呼気CO2濃度の変化をY軸に、呼気量の変化をX軸に表したものであり、その波形と面積から死腔量と二酸化炭素排泄量をモニタするものである。これに対して、V−Cループは、ガス濃度をX軸、一回換気量をY軸とし、さらに吸気・呼気連続したループとして表すことにより、二酸化炭素に限らず呼吸ガス一般の摂取・排泄をモニタできる。
【0029】
次に複数のガスについてのV−Cループを同時に表示する場合の例について説明する。図5は麻酔維持(安定)状態のときの各ガスのループの表示例である。図5に示すように、表示制御装置3は、呼吸ガスセンサ24によって検出可能な複数のガス(二酸化炭素(CO2)、揮発性麻酔ガス(AA)、酸素(O2)、亜酸化窒素(N2O))について、各呼吸ガスの濃度変化Cを0−100%のX軸上に、それと同一時点の、フローセンサ23による一回換気量の変化VをY軸上に、点(C,V)として連続的に表示するよう制御することによって、一呼吸ごとにV−Cループを描き出す。その際、各ループを明瞭に区別するために、ガスごとに色分けしてループを描出する。
【0030】
このように表示することで、図5の例において示される通り、吸入麻酔の二大要素である「量」と「濃度」に関する複数の指標、一回換気量VT・肺胞換気量VA・死腔量VD、あるガス**の吸気濃度FI**・呼気終末濃度ET**・摂取量(又は排泄量)V**を、一つのX−Y座標上で、各ループの高さ・面積・X軸上の位置などによって、同時かつ直感的にモニタすることができる。
【0031】
また、表示制御装置3は、フローセンサ23によって検出され測定された一回換気量の変化と、呼吸ガスセンサ24によって検出され測定されたガス濃度の変化に基づいて、各呼吸ガス(CO2、AA、O2、N2O)のV−Cループを描き、その閉じた方形部の面積を計算し、該計算した方形部の面積VCO2、VAA、VO2、VN2Oを、その呼吸ガスの摂取量又は排泄量として、表示装置4内の所定の表示領域41に表示する(図7参照)。
【0032】
図6は、吸入式全身麻酔の代表過程における摂取モニタの表示例である。表示制御装置3は、ガス別に各ループの色別表示を行う。以下図5と図6を用いて説明する。
【0033】
(1)酸素化(脱窒素)
通常吸入式全身麻酔では、麻酔ガスを開始する前に、この脱窒素過程が用いられる。図6(a)に示すように、空気中21%のFIO2に代えて、十分な流量の新鮮ガスとして純酸素100%を供給する。組織中・血中に溶解していた窒素N2が呼気から排出され、代わって酸素O2が血液中のヘモグロビンと結びつき全身組織へ送られETO2が上昇する。ETO2がFIO2に接近し安定したら脱窒素が完了する。この安定状態のときのループの面積は酸素摂取量VO2となる。
【0034】
(2)麻酔開始(N2O・AA開始)
図6(b)に示すように、例えばFIO2を35%、FIN20を60%、FIAAを5%として開始すると、ETO2は脱窒素後の生体及び呼吸回路から急激に排泄され(「b型」)低下する。N2OとAAは呼吸回路から生体に摂取され(「d型」)、ETN20、ETAAが徐々に上昇しFIN20、FIAAに近づく。
【0035】
(3)FI**・ET**の安定した麻酔維持状態
図5に示したように、この状態での各ガスのループの閉じた面積は、肺胞−血液間移動量であり、この安定状態では摂取量に等しい。二酸化炭素は「負の摂取」つまり排泄となる。
【0036】
(4)覚醒(N2O・AA停止(洗い出し開始))
亜酸化窒素N2Oと揮発性麻酔ガスAAの新鮮ガスとしての供給を停止し、代わって酸素100%を流す。図6(c)に示すように、ETN2OとETAAは、酸素によって呼吸回路から洗い出され急激に低下する。しかし血液中・組織中に溶解していたN2O・AAが肺動脈から肺胞に移動してくるので、呼気終末濃度はすぐにはゼロとならない。このとき特に新鮮ガス流量が分時換気量より少ないと、呼気の再利用が起こるので、生体からのN2O・AAの洗い出しが遅れ、つまり覚醒が遅れる。
【0037】
(5)覚醒(N2O・AA停止(洗い出し完了))
分時換気量以上の新鮮酸素(+空気)流量によってETN2O・ETAAが洗い出され、ゼロに近づいてゆく。セボフルランのように血液への溶解度の低い揮発性麻酔ガスほど、短時間でET**がゼロに近づき早い覚醒が得られる。
【0038】
このようにV−Cループは臨床モニタに求められる直感的認識性に優れ、吸入式全身麻酔の各過程をそれぞれに代表的なイメージとして表現できるので、教育効果、全身麻酔のリスクマネジメント、さらにはナビゲーションの機能も期待できる。各呼吸ガスの摂取量、その合計としての総摂取量が把握できるので、必要とされる新鮮ガスの最低供給量が分かる。その結果、無駄に廃棄する麻酔ガス量を極小にでき、経済的・環境的負荷をも極小化できる。
【0039】
図7は、表示装置の表示例を示す図である。同図(a)は、麻酔用ベンチレータに内蔵されるモニタの表示例を示している。換気に関しては、時間軸上での気道内圧波形Pが代表的であり、他に同じく時間軸上のフロー波形Fやボリューム波形Vがある。さらにこれらP/F/Vを組み合わせて、肺の換気メカニクスを直感的に把握できる、P−Vループ・F−Vループが用いられる場合もある。呼吸ガス濃度については、呼吸(換気)の正常性を直感的に把握できる、時間軸上の二酸化炭素波形(カプノグラム)が代表的である。同図(b)に示すように、表示装置4には、フローセンサ23による一回換気量の変化Vと、呼吸ガスセンサ24による各呼吸ガスの濃度変化Cとを、X−Y座標上に連続的なループとして、複数の呼吸ガスについて描出している。また、ある一つのガス**を取り出してそのV−Cループを拡大表示することもできる。それによって、図4に示したような、肺胞換気量VA・死腔量VD・摂取量V**などの細かな分析と検討が可能となる。
【0040】
このV−Cループ表示によれば、(1)吸入麻酔の二大要素である換気量Vと呼吸ガス濃度Cを、X−Y座標上にプロットすることによって、それぞれの値と、その関係を直感的に認識できる。また、二酸化炭素に限らず呼吸ガス一般の摂取・排泄をモニタできる。(2)従来から重要なモニタ項目である一回換気量VT・吸気濃度FI**・呼気終末濃度ET**に加えて、呼吸指標として重要性が高いにも拘わらず、従来術中モニタが困難であった肺胞換気量VAのモニタが可能となる。(3)一回換気量と濃度で表わされるループ領域の面積から、当該呼吸ガスの移動量のモニタが可能となる。特に術中の麻酔維持状態のように一回換気量・濃度が安定した状態では、この移動量は摂取量、つまり肺胞と血液との間での当該ガス交換量と一致する。
【0041】
また、(4)特定のガスの摂取・排泄が、吸気濃度FI**が呼気終末濃度ET**の左右どちら側にあるかによって一目で分かる。(5)吸入式全身麻酔の一連の流れである、導入〜維持〜覚醒、の各相における呼吸ガスの摂取・排泄とその変化をグラフィカルに表現できる。その結果、大きな視野から吸入麻酔の正常性Integrityモニタとしての機能も期待できる。
【0042】
図8は、本発明の他の実施形態に係る人工呼吸システムを説明するための図である。図8に示すように、人工呼吸システム200は、ベンチレータ装置201、コネクタ202、フローセンサ203、ガスセンサ204、表示制御装置3、表示装置4を有する。ベンチレータ装置201は、患者の吸気および呼気を促進、補助または強制するために使用される。図8に示すように、図2に示した循環式呼吸回路を有する吸入麻酔システムの例に限ることなく、ベンチレータ装置201を用いる非手術用の人工呼吸システムについても本発明を適用することができる。
さらに、図8からベンチレータ201と吸気・呼気の回路を取り外し、フローセンサ203、ガスセンサ204、表示制御装置3、表示装置4で構成されるモニタを自発呼吸にも適用できる。つまり麻酔ガスや高濃度酸素など医療ガスを使用しない通常の呼吸でも、酸素・二酸化炭素について、これまでに記したようなV−Cループの描出と、VT・VA・VD、FI**・ET**・V**の測定・表示が可能である。
【0043】
なお、本発明のモニタシステムの制御方法の各ステップは、表示制御装置3が所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。また本発明のモニタシステムは供給ガスが摂取ガスと等しくなるように、新鮮ガスの組成・量、ベンチレータの換気条件などを自動制御する自動麻酔システムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
100,200 麻酔システム
1 麻酔ガス供給装置
2 呼吸回路
21 吸気弁
22,202 コネクタ
23,203 フローセンサ
24,204 呼吸ガスセンサ
25 呼気弁
3 表示制御装置
4 表示装置
26 CO2吸収剤キャニスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸回路に設けられ患者の呼吸量を連続的に検出するフローセンサと、
前記呼吸回路に設けられ麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度を連続的に検出する呼吸ガスセンサと、
前記フローセンサによって測定された患者呼吸の時間軸上でのボリューム変化、及びそこから得られる一回換気量と、呼吸ガスセンサによって測定された患者呼吸の時間軸上での麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度変化、及びそこから得られる吸気濃度と呼気終末濃度をほぼ実時間で描出する表示制御部と、を備え、
前記表示制御部は、時間軸上におけるフローセンサによる一回換気量の変化Vと、前記呼吸ガスセンサによる各呼吸ガスの濃度変化Cとから、X−Y座標上に同一時点の点(C,V)を連続的に表示させ、一呼吸ごとにループを描出することを特徴とするモニタシステム。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記呼吸ガスセンサによって測定可能な複数のガスについて、ある時点でのある呼吸ガスの濃度Cと、同一時点での前記フローセンサによる一回換気量Vを、0−100%のX軸と、一回換気量のY軸で構成される座標面に、点(C,V)として連続的に表示するように制御することによって、一呼吸ごとに前記ループを描き出すことを特徴とする請求項1に記載のモニタシステム。
【請求項3】
前記表示制御部は、各呼吸ガスのV−Cループの閉じた方形部の面積を計算し、該計算した方形部の面積をその呼吸ガスの摂取量又は排泄量として計算して所定の表示領域に表示することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモニタシステム。
【請求項4】
呼吸量を連続的に検出するフローセンサによって測定された患者呼吸の時間軸上でのボリューム変化、及びそこから得られる一回換気量と、
麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度を連続的に検出する呼吸ガスセンサによって測定された患者呼吸の時間軸上での麻酔ガスを含む呼吸ガスの濃度変化、及びそこから得られる吸気濃度と呼気終末濃度をほぼ実時間で描出するモニタシステムの制御方法であって、
時間軸上におけるフローセンサによる一回換気量の変化Vと、前記呼吸ガスセンサによる各呼吸ガスの濃度変化Cとから、X−Y座標上に同一時点の点(C,V)を連続的に表示させ、一呼吸ごとにループを描出するステップを含むことを特徴とするモニタシステムの制御方法。
【請求項5】
前記呼吸ガスセンサによって検出可能な複数のガスについて、ある時点でのある呼吸ガスの濃度Cと、同一時点での前記フローセンサによる一回換気量Vを、0−100%のX軸と、一回換気量のY軸で構成される座標面に、点(C,V)として連続的に表示するように制御することによって、一呼吸ごとに前記ループを描き出すことを特徴とする請求項4に記載のモニタシステムの制御方法。
【請求項6】
各呼吸ガスのV−Cループの閉じた方形部の面積を計算し、該計算した方形部の面積をその呼吸ガスの摂取量又は排泄量として計算して所定の表示領域に表示するステップをさらに含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のモニタシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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