説明

モノアザキンクフェニル

【課題】熱的安定性、濃色効果ないし深色効果の期待できる、凝集誘起型発光をする骨格を有する化合物の提供。
【解決手段】下記化学式により表されることを特徴とする蛍光物質である。


これは、下記の化学式でそれぞれ表される両物質を反応させ合成できる。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なモノアザキンクフェニルおよび収率よくモノアザキンクフェニルを得ることのできる合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリフェニレン化合物は、強発光体として、例えばEL用途など注目を浴びつつある。例えば、式(4)で表されるキンクフェニルも蛍光物質として知られている。
【数1】

【0003】
しかしながら、従来のキンクフェニルと化学式が近似している化合物は、ピリジンとヘテロ環あるいはベンゼン環が縮環した縮環ピリジン類が多く、非縮環型アザターフェニルの合成例は数えるほどしか報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A Kumar, R.A. Rhodes, J Spychala, WD Wilson, DW Boykin, et al., Eur.J. Med. Chem., 1995, 30, 99-106.
【非特許文献2】Marisa A.A. Rocha, et al., 'Energetic and Structural Study ofDiphenylpyridine Isomers', J.Phys. Chem. A 2009,113, 11015-11027.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、最小限の複素原子として三価の窒素を選び、モノアザキンクフェニルを得る技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の蛍光物質は、化学式(1)により表されることを特徴とする蛍光物質である。
【数2】

【0007】
また、請求項2に記載される蛍光物質の合成方法は、化学式(2)および化学式(3)で表される物質を反応させ化学式(1)により表される物質を得ることを特徴とする蛍光物質の合成方法である。
【数3】


【数4】

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱的安定性、濃色効果ないし深色効果の期待できる、凝集誘起増強発光する骨格を備えた化合物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】モノアザキンクフェニルの蛍光特性を測定した結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
ここでは、化学式(1)で表される2,5-bis(4'-biphenyl)pyridine(以降において適宜モノアザキンクフェニルと称することとする)が、本発明による合成方法以外では困難ないし低収率であったことも含めて説明することとする。
【0011】
これまで、モノアザキンクフェニルは報告例のない未知化合物である。まずcis-1,2-ジベンゾイルエチレンとベンジルアミンおよびグリシンエチルエステル塩酸塩との反応をおこなったところ、目的物を得ることはできなかった。
【0012】
次に、引用非特許文献1に示されるKumarらの方法を参考に、ジアリールブタジインを経由する合成を検討した(式(5)参照)。なお、式中に表れる%は以降において収率を表す。
まず4-ブロモアセトフェノン1を出発原料として四段階でブタジイン体6を合成し、この化合物とβ-フェネチルアミンとの反応を行った。しかしこの反応は複雑な混合物を与え、1H-NMRにおいて8-9ppmにピークがみられないことから、目的物であるモノアザキンクフェニル7は生じなかったと考えられた。
【0013】
【数5】

【0014】
次に、式(6)に示すように、ブタジイン体5とβ-フェネチルアミンからアザターフェニル体8を合成し、これとフェニルボロン酸とのクロスカップリング反応により目的の化合物を得ることを試みた。
【0015】
【数6】

【0016】
しかしながら、生成物と考えられる2種のモノカップリング体910と目的物と想定したビスカップリング体7は溶解性に乏しく、TLC(Thin Layer Chromatography)でのスポットも近いため、これらを分離することはできなかった。
【0017】
そこで、式(7)に示すように、2,5-ジブロモピリジン11と4-ビフェニルボロン酸12とのクロスカップリング反応により目的物7を合成することを計画した。2,5-ジブロモピリジン11の二つの反応点は、反応性が著しく異なることが予想されたため、1当量のボロン酸12と反応させてモノカップリング体とし、これをさらにもう1当量のボロン酸12と反応させてビスカップリング体7へと段階的に導くことにした。
【0018】
【数7】

【0019】
実験をおこない、2,5-ジブロモピリジン11と1.2当量のボロン酸12を反応させると、2位が選択的に反応し、モノカップリング体13が主生成物として得られた。わずかだが5位が反応したモノカップリング体14と、ビスカップリング体7と思われる、青色蛍光をもつ無色の固体も得られた。互いに異性体である1314はカラムにより容易に分離できたが、目的物は溶媒への溶解性が低いため、反応後にろ取したパラジウムカーボンからソックスレーの装置を用いてベンゼンで抽出した。質量分析および元素分析をおこなったところ、式(7)の反応が進行したことが確認できたが、モノアザキンクフェニルの収率は3%と極めて少なかった。
【0020】
モノアザキンクフェニル(化学式(1))の収量を向上を図るため、式(8)に示す、モノカップリング体13とビフェニルボロン酸12とのクロスカップリング反応を行った。反応後のパラジウムカーボンからソックスレー抽出を行い、目的物であるビスカップリング体7を得た。
【0021】
具体的には次の通りである。
まず、アルゴン雰囲気下において、2-(4'-biphenyl)-5-bromopyridine(0.8 g, 2.6 mmol)、4-ビフェニルボロン酸(0.6 g, 3.1
mmol)、パラジウム炭素(10 mol%)(0.1 g, 5 mol%)、トリフェニルホスフィン(0.1 g, 18 mol%)、炭酸カリウム(2.5 g, 18 mmol)の混合物を、ジオキサン(35 mL)中で24時間100℃で加熱撹拌した。この溶液を室温まで放冷し、触媒をろ取した。これをクロロホルムで洗った後、ソックスレー抽出器を用いてジオキサンで抽出した(72時間)。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をDMSOから再結晶して無色固体の目的物を得た(0.3 g, 62%)。
【0022】
【数8】

【0023】
質量分析および元素分析をおこなったところ、モノアザキンクフェニル(化学式(1))が得られていることが確認でき、また、その収量は62%と劇的に向上した。なお、未反応のモノカップリング体13は9%回収された。
【0024】
得られたモノアザキンクフェニルの蛍光スペクトルを図1に示した。紫外可視吸収スペクトルの吸収極大波長はλabs = 320 nm (logε= 4.72)であり、蛍光スペクトルの発光極大波長はλem = 372 nm、ストークスシフトは52 nm、蛍光量子収率Φf = 0.12であった。なお、紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルはクロロホルム中で測定した。蛍光量子収率Φfはエタノール中coumarin 1を基準物質として算出した。なお、用いた分光蛍光光度計は、島津製作所製RF-5300であり、励起波長は320.0nm、バンド幅は、EX:3.0nm、EM:3.0nmとした。図から明らかなように、モノアザキンクフェニルは、良好な発光を示すことが確認できた。
【0025】
また、モノアザキンクフェニルの融点は300℃以上あった。また、クロロホルムやベンゼンなどの溶媒にわずかに溶けることを確認し、溶液と固体状態の両方で青色の蛍光を示すことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
モノアザキンクフェニルは、非縮環型物質であるキンクフェニルに、複素原子Nを導入したものであり、分子に濃色効果、深色効果をもたらすのに効果的であると考えられ、また、Nの導入が一箇所であるため、熱的安定性も良好なことが期待できる。また、凝集誘起増強発光する骨格を有する。これらの特性を利用して、蒸着などによりEL発光体としての応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)により表されることを特徴とする蛍光物質。
【数1】

【請求項2】
化学式(2)および化学式(3)で表される物質を反応させ化学式(1)により表される物質を得ることを特徴とする蛍光物質の合成方法。
【数2】

【数3】


【図1】
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【公開番号】特開2012−97240(P2012−97240A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248495(P2010−248495)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】