説明

モノクローナル抗体およびそれをコードする遺伝子、ハイブリドーマ、医薬組成物ならびに診断試薬

【課題】非小細胞肺癌、膵癌、胃癌などの癌組織に対して選択的に作用する癌治療薬に用いることのできる、副作用の少ないモノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】重鎖可変領域および軽鎖可変領域が、それぞれ特定のアミノ酸配列を含むことを特徴とするモノクローナル抗体、前記抗体をコードするDNA、前記DNAを含む組換えベクター、前記ベクターを含む形質転換体、前記抗体を産生するハイブリドーマ、前記抗体を含む癌治療薬としての医薬組成物および診断試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療、診断に使用し得る新規なモノクローナル抗体、その抗体をコードするDNA、およびその抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、その抗体を含む医薬組成物、診断試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療分野においては、充分な効果を示す治療薬のない固形癌に対して、特定の癌細胞を標的としたターゲティング療法の研究が従来よりなされてきた。かかるターゲティングには癌細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体が有効であるが、マウスモノクローナル抗体を用いると、免疫応答に起因するアナフィラキシーなどの副作用から、連続投与が難しい等の問題点があった(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
そして、かかる問題点を解決するために、副作用の少ないモノクローナル抗体の取得が試みられてきた。遺伝子組み換えによって抗体の定常領域をヒト由来のものとするキメラ抗体作製技術や、超可変領域以外をヒト由来とするヒト化抗体作成技術などがあるが、副作用低減の観点からは完全ヒトモノクローナル抗体がより望ましいとされてきた。かかる完全ヒトモノクローナル抗体を得る方法としてヒト由来のリンパ球を用いたハイブリドーマ法(例えば、非特許文献2参照。)があるが、完全ヒトモノクローナル抗体の作製はマウスモノクローナル抗体の作製法と比較し、目的とする抗体を産生するヒトB細胞を効率的に得るための能動的免疫法が困難であること、抗体産生細胞を無限増殖化させる効率的方法が確立されていないことなどから、充分に腫瘍細胞に反応するヒトモノクローナル抗体の取得はごくわずかしか報告されておらず(例えば、特許文献1参照。)、依然として困難な状況にあった。
【0004】
かかる状況下においても、徐々にではあるが、ヒト化抗体作製技術等を利用して、特定の癌細胞に対し、単独、又は抗癌剤との併用によって、殺傷効果や、増殖抑制効果を有するモノクローナル抗体の開発がなされてきており、最近では、抗Her2ヒト化抗体の乳癌への適用(例えば、非特許文献3参照。)、抗EGFレセプター抗体(例えば、非特許文献4参照。)や抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体(例えば、非特許文献5参照。)等を用いた治験が進められている。しかしながら、罹患者数の多い非小細胞肺癌や、特に難治性の癌種である膵癌等に対して特異的なターゲティング療法に用いることのできる抗体はいまだ存在せず、かかる癌種に対応するために、副作用が少なく、癌組織への特異性の高いモノクローナル抗体の取得が望まれていた。
このような抗体として特許文献2に癌組織への特異性の高いモノクローナル抗体が開示されていたが、さらなる抗体の取得が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特許第3236667号公報
【特許文献2】特開2005−040126号公報
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. vol.86, p4220, 1989
【非特許文献2】Cancer Res. vol.45, p263, 1985
【非特許文献3】Oncology vol.63 Suppl 1,pp25−32, 2002
【非特許文献4】Semin Oncol. vol.29, No.5 Suppl 14, pp18-30, 2002
【非特許文献5】Semin Oncol. vol.29, No.6 Suppl 16, pp10-14, 2002
【非特許文献6】Mol Cell Biol. 1987, vol. 7, No. 11, p3908-15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は癌、特に非小細胞肺癌、膵癌または胃癌の診断、治療に有用であり、かつ、副作用の少ないモノクローナル抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、癌組織に対するターゲティング療法に用いるためのモノクローナル抗体を提供すべく鋭意検討した結果、HLC−1、PANC−1、HT29およびMKN45等の癌細胞を特異的に認識する新規なヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製し、本抗体を用いることによりターゲティング療法に有用な癌治療薬が得られることを見いだして、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)重鎖可変領域に配列番号74、76および78のアミノ酸配列を含むことを特徴とするモノクローナル抗体。
(2)重鎖可変領域に配列番号72のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、(1)のモノクローナル抗体。
(3)重鎖可変領域に配列番号104のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、(1)のモノクローナル抗体。
(4)軽鎖可変領域に配列番号80、82および84のアミノ酸配列を含むことを特徴とするモノクローナル抗体。
(5)軽鎖可変領域に配列番号70のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、(4)のモノクローナル抗体。
(6)軽鎖可変領域に配列番号106のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、(4)のモノクローナル抗体。
(7)重鎖可変領域が、配列番号74、76および78のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖可変領域が、配列番号80、82および84の配列を含むことを特徴とするモノクローナル抗体。
(8)重鎖可変領域が配列番号72のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖可変領域が配列番号70のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、(7)のモノクローナル抗体。
(9)重鎖可変領域が配列番号104のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖可変領域が配列番号106のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、(7)のモノクローナル抗体。
(10)ヒト抗体である、(1)〜(9)のいずれかのモノクローナル抗体。
(11)(1)〜(10)のいずれかのモノクローナル抗体をコードするDNA。
(12)重鎖可変領域をコードする領域が、配列番号73、75および77の塩基配列を含み、かつ軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号79、81および83の塩基配列を含むことを特徴とする、(11)のDNA。
(13)重鎖可変領域をコードする領域が、配列番号71の塩基配列を含み、かつ軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号69の塩基配列を含むことを特徴とする、(11)または(12)のDNA。
(14)重鎖可変領域をコードする領域が、配列番号103の塩基配列を含み、かつ軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号105の塩基配列を含むことを特徴とする、(11)または(12)のDNA。
(15)(11)〜(14)のいずれかのDNAを含む組換えベクター。
(16)(15)の組換えベクターを含む形質転換体。
(17)(1)〜(10)のいずれかのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(18)(1)〜(10)のいずれかのモノクローナル抗体を含む医薬組成物。
(19)癌治療薬である(18)の医薬組成物。
(20)癌治療薬が、非小細胞肺癌、膵癌、および胃癌からなる群より選ばれる、一または二以上の癌に対する癌治療薬である(19)の医薬組成物。
(21)モノクローナル抗体を、毒素または抗癌剤を内包するリポソームの表面に担持させたことを特徴とする、(18)〜(20)のいずれかの医薬組成物。
(22)(1)〜(10)のいずれかのモノクローナル抗体を含む診断試薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明で得られたモノクローナル抗体を用いることにより、非小細胞肺癌、膵癌または胃癌等を選択的に攻撃する癌治療薬を提供することができる。さらに、本発明のヒトモノクローナル抗体を用いた場合、副作用が少なく連続投与可能な癌治療薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明のモノクローナル抗体
本発明のモノクローナル抗体は癌細胞特異的抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体である。本発明のモノクローナル抗体として具体的には、重鎖可変領域に配列番号74、76および78のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域に配列番号80、82および84のアミノ酸配列を含むものが挙げられる。ここで、配列番号76のアミノ酸配列において、2番目のアミノ酸はIleであってもThrであってもよい。また、同じく配列番号76のアミノ酸配列において16番目のアミノ酸はLysであってもAsnであってもよい。すなわち、重鎖可変領域としては(2Ile、16Lys)、(2Ile、16Asn)、(2Thr、16Lys)、(2Thr、16Asn)の計4種類の配列が挙げられる。
上記6種類の配列は、重鎖および軽鎖の可変領域の中で「超可変領域」と呼ばれる領域の配列である。抗体は重鎖と軽鎖からなり、さらに、それぞれの鎖は定常領域と可変領域からなる。可変領域にはさらに超可変領域が存在し、かかる領域が免疫グロブリンの抗体としての特異性、抗原決定基と抗体の結合親和性を決定している。したがって、本発明の抗体は、超可変領域に上記それぞれの配列を含むものであるが、かかる超可変領域以外の領域は他の抗体由来であっても構わない。ここで、他の抗体とはヒト以外の生物由来の抗体も含むが、副作用低減の観点からはヒト由来のものが好ましい。
本発明において特に好適なモノクローナル抗体としては、重鎖可変領域に配列番号72のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域に配列番号70のアミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。ここで、配列番号72の配列において、51番目のアミノ酸はIle、Thrのいずれであってもよく、65番目のアミノ酸はLys、Asnいずれであってもよい。
なお、癌細胞特異的抗原を認識するという抗体の特異性が損なわれない限り、本発明の抗体の可変領域の配列は、上記配列番号72(重鎖)、70(軽鎖)の配列において、一または数個のアミノ酸の置換、欠失、または付加が導入された配列であってもよい。ここで、数個とは好ましくは、2〜5個、より好ましくは、2個または3個、特に好ましくは、2個を意味する。このような置換、欠失、付加は超可変領域に導入されてもよいが、可変領域の超可変領域以外の領域に導入されることが好ましい。
【0011】
本発明において、モノクローナル抗体とは、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体のフラグメント、F(ab')2化抗体、F(ab')化抗体、短鎖抗体(scFv)、ダイアボディ(Diabodies)およびミニボディ(Minibodies)を含むものとする。定常領域を含む場合においては、重鎖および軽鎖の定常領域のアミノ酸配列は、Nucleic Acids Research vol.14, p1779, 1986、The Journal of Biological Chemistry vol.257, p1516, 1982 およびCell vol.22, p197, 1980 に記載のものが好ましい。定常領域及び可変領域を含む本発明の抗体としては、例えば、配列番号104(重鎖)、又は配列番号106(軽鎖)のアミノ酸配列を有する抗体を挙げることができる。
【0012】
本発明のモノクローナル抗体は、例えば、本抗体を産生するハイブリドーマをウシ胎児血清含有RPMI1640培養液等を用いて培養するか、または、配列番号71および69の塩基配列を有する可変領域をコードするDNAに、重鎖および軽鎖の定常領域をコードするDNAをそれぞれ連結した遺伝子(例えば、配列番号103(重鎖)又は105(軽鎖)の遺伝子)をPCR法、または、化学合成により合成し、従来法により、その遺伝子の発現を可能とする公知の発現ベクター(pcDNA3.1(invitrogen)等)に組み込んでCHO細胞(チャイニーズハイスター卵巣細胞)や大腸菌等の宿主中で発現させることによって抗体を産生し、これらの培養液から、Protein Aカラム等を用いて抗体を精製することによって得ることができる。
【0013】
<2>本発明のDNA
本発明のDNAは本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAであるが、例として、重鎖可変領域をコードする領域が、配列番号74、76、および78のアミノ酸配列をコードする配列をそれぞれ含み、かつ、軽鎖可変領域をコードする領域が配列番号80、82、および84のアミノ酸配列をコードする配列をそれぞれ含むDNAが挙げられる。その中でも、重鎖可変領域をコードする領域が配列番号73、75および77の塩基配列をそれぞれ含み、かつ軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号79、81および83の塩基配列をそれぞれ含むDNAが好ましい。ここで、配列番号75の配列は、5番目の塩基がtであってもcであってもよい。また、同じく配列番号75の配列は、48番目の塩基がgであってもtであってもよい。
これらの配列のDNAによってコードされる超可変領域が、抗体の特異性を決定する領域であるため、他の領域をコードする配列は他の抗体由来の配列であってもよい。ここで、他の抗体とはヒト以外の生物由来の抗体も含むが、副作用低減の観点からはヒト由来のものが好ましい。
本発明において特に好適なDNAは、重鎖可変領域をコードする領域が配列番号72のアミノ酸配列をコードする配列を含み、かつ、軽鎖可変領域をコードする領域が配列番号70のアミノ酸配列をコードする配列を含むDNAである。その中でも特に好ましいDNAは、重鎖可変領域をコードする配列が配列番号71の塩基配列を含み、かつ、軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号69の塩基配列を含むDNAである。ここで、配列番号71の配列において、152番目はtであってもcであってもよい。また同じく配列番号71の配列において、195番目はgであってもtであってもよい。
なお、本発明のDNAは、癌細胞特異的抗原を認識するモノクローナル抗体をコードする限り、上記配列番号71の塩基配列及び配列番号69の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、サザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
本発明のDNAは重鎖と軽鎖の定常領域と可変領域の全てをコードするものであってもよいが、重鎖と軽鎖の可変領域のみをコードするものであってもよい。定常領域と可変領域の全てをコードする場合における重鎖および軽鎖の定常領域の塩基配列は、Nucleic Acids Research vol.14, p1779, 1986、 The Journal of Biological Chemistry vol.257, p1516, 1982 および Cell vol.22, p197, 1980 に記載のものが好ましい。定常領域及び可変領域をコードする本発明のDNAとしては、例えば、配列番号103(重鎖)、配列番号105(軽鎖)の塩基配列を有するDNAを挙げることができる。
本発明のDNAは例えば、以下の方法によって得ることができる。まず、本発明のハイブリドーマ等の細胞から、市販のRNA抽出キットを用いて全RNAを調製し、ランダムプライマー等を用い、逆転写酵素によりcDNAを合成する。次いで、既知のヒト抗体重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子の可変領域において、それぞれ保存されている配列のオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR法によって、抗体をコードするcDNAを増幅させる。定常領域をコードする配列については、既知の配列をPCR法で増幅することによって
得ることができる。DNAの塩基配列は、配列決定用プラスミドに組み込むなどして、常法により決定することができる。なお、可変領域又はその一部の配列を化学合成し、定常領域を含む配列に結合することによっても本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAを得ることができる。
本発明はまた、本発明のDNAを含む組換えベクター及び該組換えベクターを含む形質転換体を提供する。組換えベクターとしては、大腸菌(Echerichia coli)のような原核細胞において発現可能なベクター(例えば、pBR322、pUC119又はこれらの派生物)であってもよいが、真核細胞において発現可能なベクターが好ましく、哺乳動物由来の細胞において発現可能なベクターがより好ましい。哺乳動物由来の細胞において発現可能なベクターとしては、例えば、pcDNA3.1(Invitrogen社製)のようなプラスミドベクター、pDON-AI DNA(宝バイオ社製)などのウイルスベクターを挙げることができる。本発明の組換えベクターを導入する形質転換体は、大腸菌のような原核細胞であってもよいが、真核細胞が好ましく、哺乳動物由来の細胞がより好ましい。哺乳動物由来の細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)などを挙げることができる。
【0014】
<3>本発明のハイブリドーマ
本発明のハイブリドーマは、上述したようなモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。本発明のハイブリドーマとしては、後述の実施例に示すハイブリドーマ020630−18−1株および020630−18−1−1F8−1株などを挙げることができる。本発明のハイブリドーマは以下の方法によって得ることができる。まず、A.Imamらの方法(Cancer Research vol.45,263 1985)に準じて、胃癌患者から摘出された癌所属リンパ節からリンパ球を単離し、リンパ球を含む細胞をポリエチレングリコールを用いてマウスミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを得る。次に、得られたハイブリドーマの上清を用いてエンザイムイムノアッセイを行い、パラホルムアルデヒド固定した各種癌細胞株に対して陽性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択し、さらに該ハイブリドーマを限界希釈によりクローニングする。
【0015】
<4>本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物は、本発明のモノクローナル抗体を医薬上許容されうる担体とともに含んでなるものである。医薬上許容されうる担体の例としては、既知の生理学的に許容され得るバッファー(例えばリン酸バッファー)のような可溶性キャリアー、またはラテックスビーズのような固体状態のキャリアーが挙げられる。
【0016】
本発明の医薬組成物は癌、特に非小細胞肺癌、膵癌または胃癌の治療薬として好適に用いられる。また、本発明の医薬組成物はモノクローナル抗体自身の細胞殺傷効果や増殖抑制効果を利用するものであってもよいし、アドリアマイシンなどの抗癌剤に本発明のモノクローナル抗体を結合させて抗癌剤を癌組織にターゲティングさせるものであってもよい。
【0017】
本発明において特に好適な医薬組成物は、毒素や抗癌剤等を含んだリポソームに本発明の抗体を結合させたものである。抗体を担持するリポソームは、二重の脂質層からなるものであるが、該脂質層が多重層になったもの、あるいは一層のものいずれも使用することができる。リポソームの構成成分としては、フォスファチジルコリン、コレステロール、フォスファチジルエタノールアミン、さらに電荷をあたえる物質としてのフォスファチジン酸等が用いられる。構成成分の使用割合として、たとえば、フォスファチジルコリン1molに対しコレステロールは0.3〜1mol、好ましくは0.4〜0.6mol、フォスファチジルエタノールアミンは0.01〜0.2mol好ましくは0.02〜0.1mol、フォスファチジン酸は0〜0.4mol好ましくは0〜0.15molの組成比を用いることができる。
【0018】
リポソームの製造方法には公知の方法を用いることができる。たとえば、溶媒を除去した脂質混合物をホモジナイザー等で乳化し、凍結融解後、マルチラメラリポソームを得て、さらに適当な粒径に調整するために超音波処理、高速ホモジナイズ、あるいは均一ポアを持つメンブランで加圧ろ過する方法(Biochimica et Biophysica Acta vol. 812, p55,1985)を用いることによって製造できる。リポソームのサイズは30nmから200nmが好ましい。
【0019】
リポソームに内封させる薬剤としては、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5Fu(5−フルオロウラシル)、アクラシノマイシン等の抗癌剤、リシンA、ジフテリアトキシン等の毒素、アンチセンスRNA等を用いることができる。薬剤は、脂質を薬剤水溶液で水和することでリポソームに封入することができる。またアドリアマイシン、ダウノマイシン、エピルビシンについては、pH勾配を利用したリモートローディング法(Cancer Res. vol.49, p5922, 1989)を用いて封入することもできる。
【0020】
リポソーム表面上にモノクローナル抗体を結合させる方法としては、精製抗体に疎水性の物質をつけることでリポソームに挿入させる方法、ホスファチジルエタノールアミンと抗体をグルタールで架橋させる方法等もあるが、好適には、抗体をチオール化した後、マレイミド基を導入した脂質を含むリポソームを作製して抗癌剤または毒素を封入し、両者を反応させることによってリポソームの表面に抗体を結合させる方法を用いることができる。また、アミノ基との反応部位、および、チオール基または潜在的チオール基部分を有する水溶性高分子誘導体も好適に用いることができる(特開平11−152234号)。一方、残存マレイミド基にチオール化したポリアルキレングリコール部分を含む化合物等を反応させることによって、リポソームの表面修飾を行うことも可能である。
【0021】
抗体へのチオール基の付与は、抗体のアミノ基に対し、タンパク質のチオール化に通常用いられるN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)や、イミノチオラン、メルカプトアルキルイミデート等の化合物を用いて行う方法、または抗体の内在性ジチオール基を還元してチオール基とする方法が用いられるが、内在性チオール基を用いる方法が活性維持の点からより好ましい。また、抗体は、ペプシン等の酵素でF(ab')2化し、さらにジチオスレイトール(DTT)等で還元し、F(ab')化して新たに生ずる1〜3個のチオール基をリポソームとの結合反応に供することもできる。マレイミド基含有リポソームとチオール化抗体の結合は中性の緩衝液(pH6.5−7.5)中、2〜16時間反応させることで達成できる。
【0022】
本発明の癌治療薬の製剤化には、公知の方法つまり、脱水法(特表平2−502348号公報)、安定化剤を加え液剤として用いる方法、凍結乾燥法(特開昭64−9931号公報)等の製剤化法を用いることができる。本発明の癌治療薬は、血管内投与法や、腹腔内等、局所投与法で用いることができ、その投与量は、リポソームに含有された薬剤によって、それぞれ最適な量とすることができる。アドリアマイシン封入体を例に取れば投与量はアドリアマイシン量として50mg/kg以下、好ましくは10mg/kg以下、より好ましくは5mg/kg以下で用いることができる。
【0023】
<5>本発明の診断試薬
本発明の診断試薬としては、本発明の抗体の癌細胞特異性を利用する診断試薬が挙げられるが、具体的には、本発明の抗体、二次抗体および検出基質等からなる癌の診断試薬が挙げられる。
【0024】
実施例
以下、実施例により本発明についてより詳細に説明するが、その要旨を越えない限り以下に限定されるものではない。
【0025】
(1)癌患者癌所属リンパ節由来リンパ球とマウスミエローマとの細胞融合によるハイブリドーマの作製
(1)−1.リンパ球の調製
培養液A(RPMI1640またはe−RDF+50μg/mlゲンタマイシン硫酸塩)に10%牛胎児血清(FCS)を添加した培養液Bを満たしたシャーレ中、金属メッシュ上で胃癌患者から摘出した癌所属リンパ節からリンパ球を分散させた。この細胞懸濁液を3000rpmで5分間遠心分離を行い、4.8×107個の癌所属リンパ節由来リンパ球を得た。
【0026】
(1)−2.細胞融合
癌所属リンパ節由来リンパ球は、ポリエチレングリコール1500(ロシュダイアグノスティックス)を用いて、マウスミエローマ細胞(リンパ球とほぼ同数)と常法(CancerResearch vol.45, 263, 1985)に従い融合させた。融合させた細胞は、培養液Bに細胞数が5×105/mlの密度になるよう懸濁し、100μlずつ96ウェル−プレートに播種し、37℃のCO2インキュベーター中で培養を開始した。二日目に10μMヒポキサンチン、0.04μMアミノプテリン、1.6μMチミジンを添加した培養液B(HAT添加培養液)を各ウェルに100μlずつ添加し、ハイブリドーマのコロニーが出現するまで培養を行った。その結果、ハイブリドーマのコロニーが、23ウェル中に確認された。
【0027】
(2)ヒトモノクローナル抗体の癌細胞株への反応性の検討
(2)−1.癌細胞株と維持
出現したハイブリドーマの培養上清を用いて、固定胃癌細胞株MKN45(癌と化学療法,vol.5,p89,1978、免疫生物研究所から入手)に対する反応性を測定し、目的のハイブリドーマを選択した。癌細胞株は、培養液C(D−MEM/F12+50μg/mlゲンタマイシン硫酸塩)に5%FCSを添加した培養液Dで、37℃、5%CO2の条件で維持、増殖させた。
【0028】
(2)−2.癌細胞株に対する反応性の測定
上記癌細胞株は、96ウェル−プレートで3日から4日間、一層になるまで培養を行い、上清を除去後、10mMリン酸緩衝液(pH7.4、0.15M NaCl)(PBS)で1回洗浄した後、2%パラホルムアルデヒド固定(室温、20分)を行った。PBSで5回洗浄した後、5%BSA(ウシ血清アルブミン)含有PBS溶液を150μl/ウェルずつ入れ、ブロッキングを行った。このプレートをPBSで5回洗浄し、50μlのハイブリドーマ培養上清を加えて37℃、1時間半、反応させた。次に、PBSで5回洗浄し、50μlのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を結合させたヒト抗体に対するヤギ抗体(1000培希釈、カペル社)を加え、37℃、1時間の反応を行った。次に、Tween20を0.05%含んだPBS(PBS−T)でプレートを洗浄し、o−フェニレンジアミン二塩酸塩(5.2%)とH22(0.015%)を含有したりん酸クエン酸緩衝液を50μl/ウェルずつ加え、室温で発色が確認できるまで反応させた後、490nmにおける吸光度をマイクロフォトメーター(日本インターメッド)によって測定した。反応性が確認できたウェルから限界希釈によってクローニングを行い、ハイブリドーマ株020630−18−1を得た。以下、この株から得られるモノクローナル抗体を020630−18−1抗体と呼ぶ。さらにクローニングを繰り返し、ハイブリドーマ株020630−18−1−1F8−1を得た。以下、この株から得られるモノクローナル抗体を1F8抗体と呼ぶ。
【0029】
(3)モノクローナル抗体020630−18−1および1F8の精製と標識化
(3)−1.ハイブリドーマ020630−18−1および020630−18−1−1F8−1の培養とモノクローナル抗体020630−18−1および1F8の精製
まず、ウシ胎児血清をプロテインA−ガラスビーズカラム(プロセップA)(bio PROCESSING)に素通りさせてプロセップAに吸着する物質を除去した血清を作製し、この血清を4〜10%添加した培養液Aを用いてハイブリドーマ020630−18−1または020630−18−1−1F8−1を培養した。次に、ハイブリドーマ020630−18−1またはハイブリドーマ020630−18−1−1F8−1を培養した培養液をプロセップAにかけることにより、プロセップA吸着ポリペプチドを吸着させ、その後溶出させることによって、プロセップA吸着ポリペプチドを精製した。このプロセップA吸着ポリペプチドを以後、020630−18−1抗体または1F8抗体として用いた。上記の血清を培養に用いることによって、血清由来の抗体等、プロセップAに吸着する物質の混入がない精製020630−18−1抗体または1F8抗体が得られたと考えられた。なお、図には示していないが、020630−18−1抗体および1F8抗体は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で純粋なIgGであることが確認された。
【0030】
(3)−2.020630−18−1抗体または1F8抗体のビオチン標識
プロセップAで精製した020630−18−1抗体または1F8抗体をビオチニレーションリージェント(アマシャムファルマシアバイオテック)を用いて説明書に従いビオチン標識させた後、ゲルろ過法によって標識抗体と遊離のビオチンを分離した。
【0031】
(4)各種組織切片に対する反応性の検討
(4)−1.各種組織切片の調製
各種癌細胞株(肺癌細胞株:HLC−1(癌 vol.67, No.4, pp483-492, 1976、慶應義塾大学医学部、鈴木氏より入手)、A549、PC−3、PC−9(いずれも免疫生物研究所)、膵癌細胞株:SUIT2(国立病院九州ガンセンター、井口氏より入手)、HPAC(ATCC No.CRL−2119)、PANC−1(ATCC No.CRL−1469)およびPK8(東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより入手)、胃癌細胞株:MKN45、MKN74、HSC−3(いずれも免疫生物研究所)、大腸癌細胞株:HT29(ATCC No.HTB38)、DLD−1(ATCC No.CCL221)、LoVo(ATCC No.CCL229)、CoLo205(ATCC No.CCL222)は、それぞれ培養液Dで37℃、5%CO2の条件で増殖させ、それぞれ約1×106〜1×107個の細胞をヌードマウス(日本クレア)の皮下に移植し、腫瘍を形成させた。形成した腫瘍を摘出し、常法に従ってホルマリン溶液で固定し、パラフィンに包埋させて切片をそれぞれ作製した。
【0032】
(4)−2.各種組織切片に対する反応性の検出
作製した各種組織切片を常法に従い脱パラフィン処理し、ブロッキング操作を行った後に、実施例(3)−2.に記載のビオチン標識した020630−18−1抗体を反応させた。検出には、DAKO Catalyzed Signal Amplificaion(CSA) System(DAKO)を用い、その反応性は、ジアミノベンチジンの赤褐色の染色として検出された。さらに上記免疫染色を行った組織切片は、組織像を確認するためにヘマトキシリンによって組織中の細胞の核を青染させた。
020630−18−1抗体の各種癌組織切片に対する染色像を図1に示した。020630−18−1抗体は、いずれの腫瘍組織切片においても、癌細胞に明確な反応性が認められた。特に癌細胞の核が強く染色された。一方、組織切片中のヌードマウス由来非癌細胞に対しては反応性は認められなかった。
また、図1には示していないが、コントロールとして、ヒト血清から020630−18−1抗体と同様にプロセップAカラムを用いて精製したヒト抗体を用いた染色も、上記
と同様の手順で行った。このコントロール抗体は、上記各組織切片に対して特異的な反応性を示さなかった。
【0033】
(5)1F8抗体の生癌細胞表面への結合活性
肺癌患者から手術によって摘出された新鮮な肺癌組織、肺非癌部組織のそれぞれの小塊をカミソリ刃によって細かくほぐし、培養液D中に懸濁させ、メッシュを通すことによって組織由来の生細胞を調製した。この生細胞をヒト血清(0.05%アジ化ナトリウム含有)に懸濁し、実施例(3)−2に記載のビオチン標識した1F8抗体を50μg/mlの濃度となるよう細胞溶液に添加し、全量として〜100μl(細胞数は105〜106)に調製した。氷冷下、60分間反応させた。遠心(2000rpm、5分間)を行って上清の抗体含有溶液を除去した後、20nM−QdotTM565ストレプトアビジン標識(Quantm Dot Corporation社製)溶液(0.05%アジ化ナトリウム含有)を加えて室温、30分間反応を行い、本溶液を除去してPBS(0.05%アジ化ナトリウム含有)を添加し、共焦点蛍光顕微鏡(CSU10、横河電機株式会社製)での観察を行った。各生細胞表面に対する1F8抗体の結合活性を図2に示した。1F8抗体は、肺癌組織由来生細胞表面に結合活性を示した(図2−A)が、非癌部組織由来の生細胞に対しては結合活性を示さなかった(図2−B)。また、図2には示していないが、コントロールとして用いたヒト抗体は、いずれの細胞に対しても結合活性を示さなかった。
【0034】
(6)癌細胞株への作用の検討
(6)−1.癌細胞株および血管内皮細胞と維持
ヒト癌細胞株として肺癌株HLC−1、胃癌株MKN45および膵癌株PANC−1を用いた。これらの癌細胞株は、培養液Dで37℃、5%CO2の条件で維持、増殖させた。
【0035】
(6)−2. 癌細胞株に対する増殖抑制効果の検討
肺癌細胞株HLC−1、胃癌細胞株MKN45および膵癌細胞株PANC−1を、それぞれ10%ヒト血清を含有した培養液Cで希釈し、ウェル中の細胞数が1.5x103/100μl/ウェル、1F8抗体の濃度が100μg/mlから等倍希釈となるよう調整した。37℃、5%CO2の環境で培養し、1日置きに3回、培養上清を上記と同様の条件となるよう交換し、6日目にMTTアッセイ(J.Immunol.Methods vol.70, p257, 1984)によって生癌細胞数の比較を行った。
結果を図3に示した。抗体を添加しなかったコントロール条件での細胞数を100%として抑制効果を示した。1F8抗体を添加することによって、いずれの癌細胞株に対しても濃度依存的に細胞の増殖が抑制されていることが確認された。特に、肺癌細胞株HLC−1では強い増殖抑制活性が確認された。また、図には示していないが、比較として用いたヒト抗体では、同様の濃度の添加による癌細胞株の増殖抑制効果は認められなかった。
【0036】
(7)ヒトモノクローナル抗体1F8遺伝子の取得と塩基配列の決定
1F8抗体産生ハイブリドーマからRNeasy Protect Mini kit(QIAGEN)を用いて全RNAを調製した。逆転写反応は、ランダム6merをプライマーとして、ThermoScript RT−PCR System(Invitrogen社)を用いて行い、cDNAを合成した。
PCR増幅用プライマーとしては、既知の抗体配列(J Mol Biol. Vol.222, pp581-597, 1991)に基づいて、重鎖可変領域の増幅用には、ヒト抗体重鎖可変領域のフレーム1で保存されているN末側アミノ酸配列(配列番号2、4、6、8、10および12)にそれぞれ対応するPCRプライマーVH1(配列番号1)、VH2(配列番号3)、VH3(配列番号5)、VH4(配列番号7)、VH5(配列番号9)、VH6(配列番号11)の等量混合物を5'側に、ヒト抗体重鎖可変領域のフレーム4で保存されているC末側ア
ミノ酸配列(配列番号14、16、18および20)にそれぞれ対応するPCRプライマーJH1(配列番号13)、JH2(配列番号15)、JH3(配列番号17)、JH4(配列番号19)の等量混合物を3'側に用いた。
κ鎖可変領域の増幅用プライマーには、ヒト抗体κ鎖可変領域のフレーム1で保存されているN末側アミノ酸配列(配列番号22、24、26、28、30および32)にそれぞれ対応するPCRプライマーVK1(配列番号21)、VK2(配列番号23)、VK3(配列番号25)、VK4(配列番号27)、VK5(配列番号29)、VK6(配列番号31)の等量混合物を5'側に、ヒト抗体κ鎖可変領域のフレーム4で保存されているC末側アミノ酸配列(配列番号34、36、38、40および42)にそれぞれ対応するPCRプライマーJK1(配列番号33)、JK2(配列番号35)、JK3(配列番号37)、JK4(配列番号39)、JK5(配列番号41)の等量混合物を3'側に用いた。
λ鎖可変領域の増幅用プライマーには、ヒト抗体λ鎖可変領域のフレーム1で保存されているN末側アミノ酸配列(配列番号44、46、48、50、52,54および56)にそれぞれ対応するPCRプライマーVL1(配列番号43)、VL2(配列番号45)、VL3(配列番号47)、VL4(配列番号49)、VL5(配列番号51)、VL6(配列番号53)、VL7(配列番号55)の等量混合物を5'末端に、ヒト抗体λ鎖可変領域のフレーム4で保存されているC末側アミノ酸配列(配列番号58、60および62)にそれぞれ対応するPCRプライマーJL1(配列番号57)、JL2(配列番号59)、JL3(配列番号61)の等量混合物を3'末端に用いた。
PCR反応は、Perkin Elmer Gene Amp PCR System
2400を用い、ThermoScript RT−PCR System(Invitrogen社)を用いて説明書に従って行った。その結果、軽鎖については、λ鎖用プライマーによるPCRで増幅され、κ鎖用プライマーでは増幅されなかったため、ハイブリドーマより産生される抗体の軽鎖はλ鎖であることがわかった。
増幅された重鎖、軽鎖各々の可変領域DNA断片は、MiniElute PCR Purification kit(QIAGEN社)を用いて精製した。次に、TOPO
TA cloning kit(インビトロジェン社)を用いて、pCR2.1−TOPOと上記の精製PCR産物とを連結させ、大腸菌のトランスフォーメーションを行った。生じたコロニーをピックアップし、QIAGEN Plasmid mini kit(QIAGEN社)を用いてプラスミドを精製し、EcoRIで37℃30分間消化して、2%アガロース電気泳動で目的DNA断片が組み込まれていることを確認した。
塩基配列は、目的のDNA断片が組み込まれた複数のコロニーについて、M13プライマーを用いて、CEQ 2000 DNA Analysis System(Beckman)により解析した。その結果、重鎖の解析からは1F8−H−A(配列番号63)、1F8−H−B(配列番号65)、1F8−H−C(配列番号67)、の3種類の配列が得られた。λ鎖の解析からは、1F8−L(配列番号69)の配列が得られた。これらの塩基配列、および対応するアミノ酸配列(重鎖:配列番号64、66、68、λ鎖:配列番号70)を比較することによって、重鎖および軽鎖それぞれについて、可変領域の塩基配列(重鎖:配列番号71、軽鎖:配列番号69)およびアミノ酸配列(重鎖:配列番号72、軽鎖:配列番号70)を決定した。
超可変領域(CDR)とフレームワークの境目はKabatらの文献(Sequences of Proteins of Immunological Interest, fifth edition National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991年)を参考にして決定した。その結果、重鎖のCDRはHCDR1(塩基配列:配列番号73、アミノ酸配列:配列番号74)、HCDR2(塩基配列:配列番号75、アミノ酸配列:配列番号76)およびHCDR3(塩基配列:配列番号77、アミノ酸配列:配列番号78)、軽鎖のCDRはLCDR1(塩基配列:配列番号79、アミノ酸配列:配列番号80)、LCDR2(塩基配列:配列番号81、アミノ酸配列:配列番号82)およびLCDR3(塩基配列:配列番号83、アミノ酸配列:配列番号84)と決定することができた。
【0037】
(8)γ−1F8.(組換え1F8抗体)の作製
(8−1)cDNAの作製および1F8可変領域断片の取得
全RNA(実施例(7)に記載)からのcDNAの調製およびPCR反応は、Perkin Elmer Gene Amp PCR System 2400を用い、Thermoscript RT−PCR System、High Fidelity(Invitrogen)を用いて説明書に従って行った。重鎖のcDNAを調製するためのプライマーには、キットに付属のrandom 6merを用いた。
重鎖およびλ鎖の可変領域の増幅には、発現プラスミドと連結するための制限酵素サイトを導入したプライマーを用いた。重鎖可変領域の増幅には、5’末端側にAflIIサイトを含むP1(配列番号89)、3’末端側にNheIサイトを含むP2(配列番号90)を用いた。λ鎖可変領域の増幅には、5’末端側にBsrGIサイトを含むP3(配列番号91、92、93、94、95、96、97の等量混合物)、3’末端側にAvrIIサイトを含むP4(配列番号98、99、100の等量混合物)を用いた。
増幅された重鎖、λ鎖各々の可変領域DNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて精製した。次に、発現ベクターと連結するため、DNA断片を制限酵素で消化した。重鎖DNA断片はAflIIおよびNheIで37℃、2時間消化した。λ鎖DNA断片はBsrGIおよびAvrIIで37℃、2時間消化した。消化したDNA断片は1.5%アガロース電気泳動し、目的のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。
【0038】
(8−2)発現プラスミドの切断およびプラスミド断片の取得
1F8のヒトIgG1型組換え抗体を発現させるため、重鎖発現用プラスミドとして重鎖定常領域の配列とdhfr遺伝子の配列を含むpEX−G1―sig―dhfr‘’、λ鎖発現用プラスミドとしてλ鎖定常領域の配列を含むpEX−lambda−sigを用いた。pEX−G1―sig―dhfr‘’はAflIIおよびSpeIで37℃、2時間消化した。pEX−lambda−sigはBsrGIおよびAvrIIで2時間消化した。消化した断片は0.8%アガロース電気泳動し、目的の断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。
【0039】
(8−3)1F8可変領域の発現プラスミドへの連結
上記の方法により得られた1F8の重鎖可変領域を含むDNA断片と切断した発現プラスミドpEX−G1―sig―dhfr‘’は、Ligation Kit Ver.2.1(TAKARA)を用い、説明書に従って連結させ、大腸菌DH5α−T1(Invitrogen社)を説明書に従い形質転換した。生じたコロニーをピックアップし、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。重鎖塩基配列を含むプラスミドはHindIIIとNheIとで37℃、1.5時間消化し、1%アガロース電気泳動を行い所望のプラスミドpEX−1F8−Hを得た。 得られたプラスミドは、5’末端側にP5(配列番号101)、3’末端側にP6(配列番号102)を用いて塩基配列を確認した。1F8組換え抗体の重鎖構造遺伝子の塩基配列を配列番号103に示す。
一方、1F8のλ鎖可変領域を含むDNA断片と切断した発現プラスミドpKS−lambda−sigは、Ligation Kit Ver.2.1(TAKARA)を用い、説明書に従って連結させ、大腸菌DH5α−T1(Invitrogen)を形質転換した。生じたコロニーをピックアップし、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。λ鎖塩基配列を含むプラスミドはBsrGIおよびAvrIIで37℃、2時間消化し、1%アガロース電気泳動を行い所望のプラスミドpEX−1F8−Lを得た。得られたプラスミドは、5’末端側にP5を用いて塩基配列を確認した。1F8組換え抗体のλ鎖構造遺伝子の塩基配列を配列番
号105に示す。
【0040】
(8−3)1F8 重鎖と1F8 λ鎖を含むプラスミドの連結
1F8の重鎖とλ鎖をひとつのプラスミドに連結するため、上記で得られたプラスミドを制限酵素で消化した。pEX−1F8−HはNheIで37℃、1.5時間消化し、pEX−1F8−LはNheIおよびSpeIで37℃、1.5時間消化した。得られた断片はQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて精製した。各々の断片をLigation Kit Ver.2.1(TAKARA)を用いて説明書に従い連結させ、大腸菌DH5α−T1(Invitrogen)を形質転換した。生じたコロニーをピックアップし、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。得られたプラスミドをNheIで37℃、1時間消化し、1.5%アガロース電気泳動を行って目的のサイズのプラスミドを選択した。さらにそれらについて、HindIIIで37℃、1時間消化し、1.5%アガロース電気泳動を行ってプラスミドチェックし、所望のプラスミドpEX−1F8−HLを得た。
【0041】
(8−4)γ−1F8生産組換体の作製
γ−1F8生産組換体作製のための細胞株として、無血清培地で培養可能なCHO(DG325)細胞株を用いた。CHO(DG325)をCHO−S−SFMII(GIBCO)にて1x106cells/mlに調整した。2μgのプラスミドpEX−1F8−HL DNAと6μlのFuGENE 6(Roche)を混合し、説明書に従ってCHO(DG325)にトランスフェクションした。トランスフェクションして5.5時間後にEX―CELL325−PF(ニチレイ)を添加した。2日間培養後、G418(Promega)400μg/mlおよびメトトレキセート(Sigma)0、もしくは25nMを選択試薬として培地に添加して培養し、クローニングを経た後、γ−1F8を生産する細胞株を得た。
【0042】
(8−5)ELISA Assayを用いた抗体生産株のスクリーニング
抗体生産細胞のスクリーニングは、サンドイッチELISA法により行った。まず、ヤギ抗ヒトイムノグロブリン抗体(CAPPEL)を50μg/mlにPBSで希釈し、96ウェル−プレート(FALCON)に50μl/wellずつ添加し、37℃で2時間処理した。PBSで5回洗浄した後、5%BSA(ウシ血清アルブミン)含有PBS溶液を150μl/ウェルずつ入れ、ブロッキングを行った。このプレートをPBSで5回洗浄し、50μlの組換体培養上清を加えて37℃、2時間、反応させた。次に、PBSで5回洗浄し、50μlのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を結合させたヒト抗体に対するヤギ抗体(1000培希釈、カペル社)を加え、37℃、1時間の反応を行った。次に、Tween20を0.05%含んだPBS(PBS−T)でプレートを洗浄し、o−フェニレンジアミン二塩酸塩(5.2%)とH22(0.015%)を含有したりん酸クエン酸緩衝液を50μl/ウェルずつ加え、室温で発色が確認できるまで反応させた後、1N−H2SO4を50μl/wellを添加して反応を停止させ、490nmにおける吸光度をマイクロフォトメーター(日本インターメッド)によって測定し、生産量の高い細胞株を選別した。
【0043】
(8−6)γ−1F8の精製
G418(Promega)を添加したプロセップA処理血清4%含有培養液Aを用いて、上記で得られたγ−1F8生産細胞株を培養し、γ−1F8を含む培養液を得た。次に、その培養液をプロセップAにかけることにより、γ−1F8を吸着させ、その後溶出させることによってγ−1F8を精製した。なお、図には示していないが、γ−1F8は、SDS−PAGEで純粋なIgGであることが確認された。
【0044】
(8−7)γ−1F8の癌細胞に対する結合活性の確認
(8−6)記載の精製γ−1F8について、(2−2)記載の方法と同様の方法によって固定したHLC−1細胞に対する結合活性を確認した。それぞれの濃度の抗体を固定癌細胞と37℃、1時間反応させた。プレートをPBSで洗浄し、HRPを結合したヒト抗体に対するヤギ抗体(1000倍希釈、カペル)を加え、さらに37℃、1時間の反応を行った。γ−1F8の反応性を検出した結果、γ−1F8は濃度依存的にHLC−1細胞に対して結合活性を示すことが確認された(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】020630−18−1抗体の各種癌組織切片に対する反応性を示す図(写真)。
【図2】1F8抗体の肺癌生細胞表面(A)および肺正常生細胞表面(B)に対する結合活性を示す図(写真)。
【図3】1F8抗体の培養癌細胞株HLC−1、PANC−1およびMKN45に対する増殖抑制効果を示すグラフ図。
【図4】γ−1F8抗体の固定癌細胞表面に対する結合活性を示すグラフ図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域に配列番号74、76および78のアミノ酸配列を含むことを特徴とするモノクローナル抗体。
【請求項2】
重鎖可変領域に配列番号72のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
重鎖可変領域に配列番号104のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
軽鎖可変領域に配列番号80、82および84のアミノ酸配列を含むことを特徴とするモノクローナル抗体。
【請求項5】
軽鎖可変領域に配列番号70のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
軽鎖可変領域に配列番号106のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
重鎖可変領域が、配列番号74、76および78のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖可変領域が、配列番号80、82および84の配列を含むことを特徴とするモノクローナル抗体。
【請求項8】
重鎖可変領域が配列番号72のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖可変領域が配列番号70のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項7に記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
重鎖可変領域が配列番号104のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖可変領域が配列番号106のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項7に記載のモノクローナル抗体。
【請求項10】
ヒト抗体である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体をコードするDNA。
【請求項12】
重鎖可変領域をコードする領域が、配列番号73、75および77の塩基配列を含み、かつ軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号79、81および83の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項11に記載のDNA。
【請求項13】
重鎖可変領域をコードする領域が、配列番号71の塩基配列を含み、かつ軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号69の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項11または請求項12に記載のDNA。
【請求項14】
重鎖可変領域をコードする領域が、配列番号103の塩基配列を含み、かつ軽鎖可変領域をコードする領域が、配列番号105の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項11または請求項12に記載のDNA。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一項に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項16】
請求項15に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体を含む医薬組成物。
【請求項19】
癌治療薬である請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
癌治療薬が、非小細胞肺癌、膵癌、および胃癌からなる群より選ばれる、一または二以上の癌に対する癌治療薬である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
モノクローナル抗体を、毒素または抗癌剤を内包するリポソームの表面に担持させたことを特徴とする、請求項18〜20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体を含む診断試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−252372(P2007−252372A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43656(P2007−43656)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】