説明

モノクローナル抗体の作成方法

Th1に偏向した(Th1−biased)齧歯類におけるモノクローナル抗体の作成方法が開示される。モノクローナル抗体は治療剤、診断薬剤または研究試薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTh1に偏向した(Th1−biased)齧歯類におけるモノクローナル抗体の作成に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体(mAb)は種々のヒト疾病の処置のための実体として証明されている。その上、mAbは種々の疾病の免疫病原論において良好な理解を得るために強力な道具を演じることができる。mAbの作成の標準的方法は、免疫したBALB/cマウスから採取したリンパ節細胞もしくは脾細胞と骨髄腫細胞とを融合させることからなる(非特許文献1;非特許文献2)。BALB/cマウスは容易に利用することができ、そして外来のT依存性抗原により感作されたBALB/cマウスにおける免疫応答は、Th2様表現型に向かったそれらのT細胞由来のサイトカイン産生の偏りを特徴とするので、BALB/cマウスはmAbを惹起するために選ばれる宿主を代表する(非特許文献3参照)。このTh2様応答は高レベルの抗原特異的IgG1抗体の生成を伴い(非特許文献4)、これは抗原特異的B細胞クローンの頻度における増大と相関する。
【0003】
トランスジェニックおよび遺伝子ノックアウトマウスモデルにおける進歩は、ほとんど免疫原性のないmAbを作成するため、そして免疫媒介応答という生物学を研究するための新しい道筋を提供してきた。例えば、ヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖についてトランスジェニックであるマウスが、治療学的用途のヒトmAbを作成するために使用できる。しかしながら、トランスジェニックおよびノックアウトマウスはBALB/cバックグラウンド由来ではない。かくして、これらのマウスにおいてmAbを作成するニーズが存在する。
【0004】
トランスジェニックおよびノックアウトマウスは、一般に、C57BL/6(B6)バックグラウンドに由来する(The Jackson Laboratories catalog,2001)。不幸にも、B6の遺伝的バックグラウンドは、mAb作成のための最適な免疫環境には相当しない。このことは、抗原感作したB6マウスにおける免疫応答がTh1に偏っているという事実に基づいていて、これは、古典的なTh1/Th2ライシュマニア・マヨール(Leishmania major)モデルにおいて例証されるように、強い細胞性応答と弱い体液性応答を特徴とする(非特許文献3)。したがって、Th1に偏向したB6マウスから採取されるB細胞を使用するmAbの作成は、低頻度の抗原特異的B細胞クローンによって妨げられる。かくして、B6マウスにおける免疫応答をTh2様表現型の方向にゆがめる方法のニーズが存在する。そのような方法は、Th2に偏向した宿主においてより高い頻度の抗原特異的B細胞クローンによるmAbの作成という一層効率的な方法をもたらすであろう。
【非特許文献1】Koehler and Milstein,Nature 256,495−497(1975)
【非特許文献2】Koehler and Milstein,Eur.J.Immunol.6,511(1976)
【非特許文献3】Reiner and Locksley,Ann.Rev.Immunol.13,151(1995)
【発明の開示】
【0005】
本発明の1つの態様は、Th2アゴニストと組み合わせてTh1アンタゴニストを齧歯類に投与すること;抗原をコードしている核酸により齧歯類を免疫化すること;および抗原特異的モノクローナル抗体を単離することを含む、Th1に偏向した齧歯類においてモノクローナル抗体を作成する方法である。
【0006】
本発明のその他の態様は、Th2アゴニストと組み合わせてTh1アンタゴニストを齧歯類に投与すること;抗原をコードしている核酸により齧歯類を免疫化すること;外来のアジュバントなしに抗原を投与すること;および抗原特異的モノクローナル抗体を単離することの段階を含む、Th1に偏向した齧歯類においてモノクローナル抗体を作成する方法である。
【0007】
本発明のなおその他の態様は、抗IL−12モノクローナル抗体と組み合わせてpeg化した(peglyated)IL−4をマウスに投与すること;抗原をコードしている核酸を皮内に投与することによってマウスを免疫化すること;外来のアジュバントなしに皮内に抗原を投与すること;および抗原特異的モノクローナル抗体を単離することの段階を含む、C57BL/6マウスにおいてヒトモノクローナル抗体を作成する方法である。[発明の詳細な記述]
限定されるものではないが本明細書に引用される特許および特許出願を含むすべての公表物は、完全な記述として引用によって本明細書に組み入れられている。
【0008】
本明細書および特許請求範囲で使用される用語「組み合わせて(in combination with)」は、本明細書に記述されるTh1アンタゴニストおよびTh2アゴニストが、混合物において一緒に、単一薬剤として同時に、またはいかなる順序でも単一薬剤として連続して、齧歯類に投与することができることを意味する。
【0009】
本発明はTh1に偏向した齧歯類においてmAbを作成する方法を提供する。免疫化前にTh1に偏向した齧歯類に対してTh2アゴニストと組み合わせてTh1アンタゴニストを投与することは、B細胞の増殖および分化を最適化するTh2様表現型を誘引する。本発明の方法は、Th1に偏向した齧歯類、例えばラットおよびマウスにおける抗原特異的IgG1mAbの作成において有用である。本発明の方法によって作成されたmAbは、治療剤、診断薬剤もしくは研究試薬として有用である。
【0010】
トランスジェニックもしくは遺伝子ノックアウトマウスは本発明の方法において使用することができる。例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックなマウス、例えばHuMab−mouse(R)(Medarex,Inc.,Princeton,NJ)またはXenoMouse(R)(Abgenix,Inc.,Fremont,CA)は、ヒト抗体を作成するために使用できる。遺伝子ノックアウトマウスは、標的タンパク質の免疫寛容を回避することによってマウスタンパク質に対してオートロガスなmAbを効率的に作成するために使用できる。特に、C57BL/6バックグラウンドを有するマウスが使用されてもよい。
【0011】
Th1の発生を妨げる薬剤は本発明のTh1アンタゴニストとして有用である。Th1アンタゴニストは、限定されるものではないが、すべての抗体、フラグメントもしくは疑似物、すべての可溶性レセプター、フラグメントもしくは疑似物、すべての低分子アンタゴニスト、またはすべてのそれらの組み合わせ物を含む。特に、抗IL−12、抗IFN−γもしくは抗IL−18はTh1アンタゴニストとして使用することができる。当業者は投与すべきTh1アンタゴニストの量を容易に決定できる。例えば、腹腔内に注射されるマウス1匹当たり抗IL−12約0.5mg〜約1mgがTh1発生を阻止するために使用できる。
【0012】
Th2型応答を促進する薬剤は本発明のTh2アゴニストとして有用である。これらの薬剤は核酸もしくはタンパク質であってもよい。特に、半減期を増加するよう改変されたIL−4、IL−5もしくはIL−6が使用できる。peg化したIL−4、IL−5もしくはIL−6は本発明の方法において特に有用である。参照、Pepinsky et al.,J.Pharm.Exp.Ther.297,1059(2001)およびMori et al.,J.Immunol.164,5704(2000)。当業者は投与すべきTh2アゴニストの量を容易に決定できる。例えば、腹腔内に注射されるマウス1匹当たりpeg化したIL−4約5μgがTh2免疫応答を推進するために使用できる。
【0013】
Th2アゴニストと組み合わせてのTh1アンタゴニストの投与時期は、好ましくは、免疫化前、例えば免疫化前日(−1日目)である。
【0014】
Th2アゴニストと組み合わせてTh1アンタゴニストの投与後、齧歯類は抗原をコードしている核酸により免疫化される。関心のある抗原をコードするDNAによる齧歯類の免疫化は、ネイティブタンパク質標的を認識する高タイターの抗原に特異的なIgG抗体を生成する非常に有効な方法である。参照、Cohen et al.,Faseb J.12,1611(1998)、Robinson,Int.J.Mol.Med.4,549(1999)およびDonnelly et al.,Dev.Biol.Stand.95,43(1998)。アジュバント分子の有無によらず抗原をコードしている核酸を含有するのに有用な代表的プラスミドベクターは、強力なプロモーター、例えばHCMV即時型エンハンサー/プロモーターもしくはMHCクラスIプロモーター、転写物のプロセッシングを増進するイントロン、例えばHCMV即時型遺伝子イントロンA、およびポリアデニル化(ポリA)シグナル、例えば後期SV40ポリAシグナルを含む。プラスミドは、両抗原およびアジュバント分子の発現を可能にするようマルチシストロン性であってもよく、あるいは抗原とアジュバントを別々にコードする複数のプラスミドが使用されてもよい。代表的なアジュバントはIL−4であり、その他はIL−6、IFN−α、IFN−βおよびCD40を含む。
【0015】
強力なB細胞の活性化および分化を誘導するための抗原をコードしている核酸を投与することが望ましい。樹状細胞はDNAワクチン注射後に免疫応答を開始する主要な細胞である(Casares et al.,J.Exp.Med.186,1481(1997)、Akbari et al.,J.Exp.Med.189,169(1999)およびYou et al.,Cancer Res.61,3704(2001))ので、皮膚ランゲルハンス細胞が有効なTおよびB細胞初回感作のための有用な標的である。したがって、抗原をコードしている核酸は、皮内に、特に、弱い免疫原とともに投与することができる。代表的な免疫化スケジュールは、0日および14日目における抗原をコードしている核酸約10μgの皮内投与である。10μgの抗原をコードしている核酸による28日および42日目における皮内の追加的免疫化が投与されてもよい。
【0016】
齧歯類の免疫化後、不死化したB細胞のクローン集団が熟練技術者には既知の技術によって調製される。抗原特異的mAbは、ペプチドディスプレイライブラリーまたは他の当業者には既知の技術を使用することによって関心のある抗原に対する結合および/または生物学的活性についてのスクリーニングによって同定できる。
【0017】
本発明のその他の実施態様では、齧歯類はTh2アゴニストと組み合わせてTh1アンタゴニストを投与され、抗原をコードしている核酸により免疫化され、次いで、ブースターとして外来アジュバントなしの抗原を投与される。この方法は、別の弱い免疫原に対して高タイターの抗原特異的IgGを作成するのに有用である。外来アジュバントは本発明の方法においてポリクローナル抗体応答を誘導するためには必要ではない。本発明のこの実施態様のための代表的免疫化スケジュールは、0日および14日目における10μgの抗原をコードしている核酸の皮内注射と、それに続く約10μg〜約50μgの精製抗原タンパク質による28日および42日目における皮下の追加的免疫化である。したがって、本発明の方法は、外来アジュバントの存在下で破壊されるかもしれないこれらのB細胞エピトープに対するmAbの作成のために特に有用である。
【0018】
本発明は次に示す特定の、非限定的な実施例に関してここに記述される。
【実施例1】
【0019】
B6マウスにおける抗MCP−1mAbの作成
抗体は、表1に示すように、弱い免疫原MCP−1(Yoshimura et al.,FEBS Lett.244,487(1989))に対して一連の種々のB6マウス処置群において作成された。使用した免疫化スケジュールは図1に示される。一般に、8〜10週齢のC57BL/6マウスが、Th2様応答を推進するために最初のDNA注射前1日目に、5μgのpeg化したマウスIL−4(pegIL−4)および1mgの中和抗マウスIL−12抗体C17.8(Wysocka et al.,Eur.J.Immunol.25,672(1995))により処置された。0日および14日目に、HCMV即時型エンハンサー/プロモーター、HCMV即時型遺伝子イントロンAおよび後期SV40ポリAシグナルを有するMCP−1をコードするMCP−1プラスミドDNA 10μgがマウスに投与された。マウスは28日および91日目に、いかなる外来アジュバントも含まない15μgのMCP−1タンパク質により追加免疫された。タンパク質の追加免疫後、種々の時点において血清が回収され、そしてMCP−1−およびβ−ガラクトシダーゼ−特異的IgG抗体のレベルが標準ELISAによって決定された。
【0020】
peg化したIL−4は次のように調製された。マウスIL−4(Research Diagnostics,Inc.,Flanders,NJ)1mgがPBS 1ml中に溶解され、そしてmPEG(20K)−SPA(Shearwater Corporation,Huntsville,AL)10mgがIL−4溶液700μlに添加された。反応は室温で3時間インキュベートされ、そして水中Tris10mg/mlの24μlで停止された。Trisの添加後、反応混合液は、24mlのカラム容積をもつSuperose−12ゲル濾過カラム(Amersham Biosciences,Inc.,Piscataway,NJ)上にローディングされた。カラムは0.5ml/minにおいてPBSを用いて溶出され、そして1mlのフラクションが回収された。フラクション26−31がプールされて、peg化したIL−4 450μgが得られた。
【0021】
【表1】

【0022】
結果は、筋肉内経路を用いてDNAにより感作されたマウスが、試験した全時点において1/100の抗原特異的平均IgGタイターを生成したことを示している。図2は、水平バーが抗原特異的IgG抗体の平均値を表す処置群1からのデータを示す。類似の結果が処置群3,4および5におけるマウスにより得られた。
【0023】
処置群2では、皮内経路を用いてプラスミドDNAにより感作されたマウスの50%(2/4)が、また抗原特異的IgG抗体を生成した(図3)。皮内経路は、より高いレベルの抗体をもたらした。第2のタンパク質ブースト後の抗原特異的抗体レベルの急速な誘導によって例証されるように、このアプローチが強力なB細胞記憶応答の惹起をもたらしたことがまた観察された。
【0024】
また結果は、pegIL−4および抗IL−12により処置された群において生成されたmAbのすべてがIgG1アイソタイプを有することを示した。
【0025】
本発明はここに完全に記述されたが、それに対して多くの変更および改変が、付随する請求項の精神または範囲から逸脱することなく作成できることは、当業者にとっては明白である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、C57BL/6マウス免疫スケジュールを示す。
【図2】図2は、プラスミドDNAにより筋肉内に感作されたB6マウスにおけるMCP−1特異的終点タイター(日)のグラフである。
【図3】図3は、プラスミドDNAにより皮内に感作されたB6マウスにおけるMCP−1特異的終点タイター(日)のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)Th2アゴニストと組み合わせてTh1アンタゴニストを齧歯類に投与すること;b)抗原をコードしている核酸により齧歯類を免疫化すること;および
c)抗原特異的モノクローナル抗体を単離すること、
の段階を含む、Th1に偏向した齧歯類においてモノクローナル抗体を作成する方法。
【請求項2】
a)Th2アゴニストと組み合わせてTh1アンタゴニストを齧歯類に投与すること;b)抗原をコードしている核酸により齧歯類を免疫化すること;
c)外来のアジュバントなしに抗原を投与すること;および
d)抗原特異的モノクローナル抗体を単離すること、
の段階を含む、Th1に偏向した齧歯類においてモノクローナル抗体を作成する方法。
【請求項3】
齧歯類がマウスである、請求項1または2の方法。
【請求項4】
マウスがC57BL/6マウスである、請求項3の方法。
【請求項5】
齧歯類がラットである、請求項1または2の方法。
【請求項6】
Th1アンタゴニストが核酸またはタンパク質である、請求項1または2の方法。
【請求項7】
Th1アンタゴニストが、Th1の発生を妨げるモノクローナル抗体である、請求項6の方法。
【請求項8】
Th1アンタゴニストが抗IL−12、抗IFN−γもしくは抗IL−18抗体である、請求項7の方法。
【請求項9】
Th2アゴニストがその半減期を延ばすように改変される、請求項1または2の方法。
【請求項10】
Th2アゴニストがpeg化した(pegylated)IL−4、peg化したIL−5もしくはpeg化したIL−6である、請求項9の方法。
【請求項11】
抗原をコードしている核酸が皮内に投与される、請求項1または2の方法。
【請求項12】
モノクローナル抗体がヒトである、請求項1または2の方法。
【請求項13】
抗原が皮内に投与される、請求項2の方法。
【請求項14】
a)抗IL−12モノクローナル抗体と組み合わせてpeg化したIL−4をマウスに投与すること;
b)抗原をコードしている核酸を皮内に投与することによってマウスを免疫化すること;c)外来のアジュバントなしに皮内に抗原を投与すること;および
d)抗原特異的モノクローナル抗体を単離すること、
の段階を含む、C57BL/6マウスにおいてヒト・モノクローナル抗体を作成する方法。
【請求項15】
a)抗IL−12モノクローナル抗体と組み合わせてpeg化したIL−4をマウスに投与すること;
b)抗原をコードしている核酸を皮内に投与することによってマウスを免疫化すること;および
c)抗原特異的モノクローナル抗体を単離すること、
の段階を含む、C57BL/6マウスにおいてヒト・モノクローナル抗体を作成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−515154(P2006−515154A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−515748(P2004−515748)
【出願日】平成15年6月9日(2003.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2003/018072
【国際公開番号】WO2004/001035
【国際公開日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【出願人】(503054122)セントカー・インコーポレーテツド (74)
【出願人】(306007015)
【出願人】(306007026)
【出願人】(306007037)
【出願人】(306007130)
【出願人】(306007141)
【Fターム(参考)】