説明

モノクローナル抗体を含む製剤の製造方法

【課題】高濃度モノクローナル抗体溶液の製造方法の提供。
【解決手段】モノクローナル抗体を含む製剤の製造方法であって、ウイルス除去工程は、モノクローナル抗体の産生時由来のウイルスと、安定化剤の産生時由来のウイルスを除去し、ウイルス除去工程のウイルス除去能力が、LRV≧4であって、ウイルス除去工程時のモノクローナル抗体の濃度が3.0〜10.0重量%の範囲であり、前記ウイルス除去工程に用いるウイルス除去膜に対する、溶液中に含まれるモノクローナル抗体の、濾過開始後0〜10分と、0〜3時間経過時の平均透過性が、いずれも1.0 ( kg / m2/ hour )以上であることを特徴とする、モノクローナル抗体を含む製剤の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
蛋白製剤の一種であるモノクローナル抗体製剤は、遺伝子組み替え細胞などを用いて生成される単一の組成を持つ抗体である。血液を精製して得られる抗体はポリクローナル抗体と呼ばれる様々な抗体の混合物であるのに対し、単一の組成を持つモノクローナル抗体は、遺伝子組み替え技術などとの組み合わせにより、ある病態を引き起こす引き金となる特定のタンパク質やがん細胞などを特異的に認識し抗体反応を引き起こさせる事が可能で、リウマチ、がん、白血病など、難病の治療に幅広く用いられている。
【0003】
モノクローナル抗体製剤の製造工程は、産生しようとするモノクローナル抗体自身の種類によって様々であるが、少なくとも、遺伝子を組み替えた細胞や動物を用いてモノクローナル抗体を産生する培養工程、除菌膜・吸着カラム・クロマトグラフィーなどでモノクローナル抗体を精製する精製工程、モノクローナル抗体を含むタンパク溶液中のウイルスを除去または不活性化するウイルス除去工程、モノクローナル抗体の凝集を抑制する安定化剤を添加する安定化剤添加工程、ウイルスを除去したモノクローナル抗体を封入する封入工程が通常必要となる。
【0004】
ウイルスを不活化あるいは除去する工程は、モノクローナル抗体製剤を始めとするバイオ医薬品全般において、原料由来・工程由来のウイルス混入の事例が多数報告されていることから、非常に重要な工程である。ウイルスの不活化方法としては、加熱処理や化学薬品による処理などが行なわれているが、それら単独の処理だけではウイルスの不活化は充分でなく、またこれらの方法では蛋白製剤中の有用蛋白質そのものも変性するおそれがある。このような背景から、化学的な変性を伴わない物理的なウイルスの除去手段として、ウイルス除去膜による濾過が実施されている。ウイルス除去膜はウイルスのサイズに基づいた除去方法であるため、加熱処理や化学薬品による処理など他の方法と比べ、ウイルスの特性に左右されにくいという利点があり、20nm程度の孔径を持つウイルス除去膜を用いれば、現在知られている全てのウイルスを、濾過前の1万分の1程度に除去することが可能である。
【0005】
モノクローナル抗体製剤の使用においては、液体の製剤をそのまま使用する場合と、凍結乾燥させた製剤を蒸留水などに溶かして使用する場合があるが、医療現場での負担および医療ミスのリスク低減の観点から、製剤の液状化と、投与する製剤の液量を減らし、患者の負担を低減する為の高濃度化が望まれている。しかし、モノクローナル抗体は、血液中にその組成・割合において元々自然に存在し、そこからCohn分画により精製して得るポリクローナル抗体とは異なり、遺伝子組み替え細胞を培養するなどの方法で産生すること、キメラ抗体などの天然に存在しないものも含まれること、また単一成分であることなどの理由により、その物性はポリクローナル抗体と比較して多種多様で、中には不安定な性状のものも存在する。
【0006】
モノクローナル抗体の安定性に関し特に重要になる要素の一つが、抗体溶液の濃度である。すなわち、最終製剤濃度となる2.0重量%を超えるような高い濃度においては、タンパク質自体の溶液中での安定性を担保することが難しく、多量体・凝集体などが混入してしまう場合が多い。そのため、不安定な性状を有するモノクローナル抗体を安定化するために、安定化剤等の添加剤を、精製工程の内、抗体の濃縮を行った後の段階で用いることが必要となる(特許文献1)。多量体・凝集体などはアナフィラキシーショック等重篤な副作用の原因となることが知られており、たとえモノクローナル抗体自体の生産ができた場合でも、精製工程中でのタンパク質の変性を防止しきれず最終製剤化を断念することもある。
【0007】
従来ウイルス除去膜による濾過は、0.1〜1.0重量%程度の低い濃度で行われていたため、比較的多量体・凝集体などが形成されにくい濃度のまま、精製の濃縮までの工程が行われていた。このため、タンパク質の多量体形成抑制のための安定化剤を系内に添加するニーズが希薄で、ウイルス除去膜による濾過後にUF膜による濃縮を行い、安定化剤を加えて最終製剤化するのが一般的であった。
【0008】
しかし、前述のモノクローナル抗体製剤の凝集・多量体の形成を抑制することに効果を発揮する添加剤/安定化剤は、生物由来、発酵産物由来で製造されるものが多数使用されている(非特許文献1,2,3,4,5)。この場合、製剤としてのモノクローナル抗体自身のウイルス除去に関する完全性は担保されているが、前述の、安定化剤由来のウイルス除去の完全性を担保することは困難であった。そのため、安定化剤に生物由来、発酵由来のものを用いる事が困難であるか、もしくは用いる場合安定化剤および安定化剤自体の精製工程が複雑化するなどの問題があった。
【0009】
また、前記最終製剤に相当する濃度の抗体、及びこれに添加する安定化剤濃度の溶液でウイルス除去工程を行うことは従来の技術においては困難であった。すなわち、そのような組成の溶液を用いると、ウイルス除去の完全性と溶液の透過性を両立した濾過が出来ないためで、特にパルボウイルスのような小型のウイルスが除去可能なウイルス除去膜を用いて濾過を行う場合、最高でもモノクローナル抗体濃度は1.0重量%以下に希釈して行う必要があった。そして前述の通り、その後UF膜による濃縮および安定化剤添加工程を経て、最終製剤化することを、従来技術においては前提としていた。加えて、これに安定化剤などの成分が混入するとさらに透過性が低下するケースが多かった。
【0010】
この制約は上記のウイルス安全性に関する問題に加えて、バルクが下流に至るまでコンパクト化できず、結果製造工程の管理上の複雑化・高コスト化が避けられないことや、不安定な性状を有するタンパク質の場合、その後の濃縮工程における安定性を担保できず、製剤化が困難となることなど、多くの問題点を発生させる原因ともなっていた。
【0011】
【特許文献1】特表2001-503781号公報
【非特許文献1】「最新微生物ハンドブック」(1986)
【非特許文献2】「Bio Industry」4, 554(1984)
【非特許文献3】「発酵ハンドブック」((財)バイオインダストリー協会 発酵と代謝研究会 編)(ISBN 4-320-05575-6)
【非特許文献4】「14303の化学商品」(化学工業日報社)(ISBN 4-87326-404-9)
【非特許文献5】独立行政法人 科学技術振興機構(JST)ホームページ http//ww.go.jp/pr/report/report68/details.html
【非特許文献6】ウイルス実験学 総論(国立予防衛生研究所学友会 編)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記問題点に鑑み、本発明の課題は、高濃度モノクローナル抗体溶液の高い透過性およびウイルス除去性の両方を実現させ、かつ生物由来または発酵産物由来でウイルス混入のリスクが存在する安定化剤を含む製剤を利用可能であり、様々な製剤製造プロセスに簡便に用いることが可能となる、モノクローナル抗体の製造方法を提供することである。
この課題に鑑み、最も解決困難であるのはウイルス除去工程である。サイズ除去の機構(後述[発明を実施するための最良の形態]を参照)によりウイルスを除去するという膜の特性上、一般にウイルス除去膜の透過性は低く、高モノクローナル抗体濃度の濾過に適応させることが一般に困難であることから、製造工程上の最大の課題となる。さらに、ウイルス除去工程の透過性はウイルス除去膜の緻密層の孔径に比例し、ウイルス除去性は緻密層の孔径に反比例することから、これらの背反的性質の双方を高い性能で両立させることが技術上の課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を得るに至った。すなわち、本発明は以下を含む。
〔1〕少なくとも、モノクローナル抗体を産生する培養工程、モノクローナル抗体を精製する精製工程、モノクローナル抗体の凝集を抑制する安定化剤を少なくとも1種類添加する安定化剤添加工程、モノクローナル抗体を含む溶液中のウイルスをウイルス除去膜により除去するウイルス除去工程、ウイルスを除去したモノクローナル抗体を封入する封入工程を有するモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法であって、前記ウイルス除去工程は、モノクローナル抗体の産生時由来のウイルスと、安定化剤の産生時由来のウイルスを除去し、ウイルス除去工程のウイルス除去能力が、LRV≧4であって、ウイルス除去工程時のモノクローナル抗体の濃度が3.0〜10.0重量%の範囲であり、前記ウイルス除去工程に用いるウイルス除去膜に対する、溶液中に含まれるモノクローナル抗体の、濾過開始後0〜10分と、0〜3時間経過時の平均透過性が、いずれも1.0 ( kg / m2/ hour )以上であることを特徴とする、モノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
〔2〕前記安定化剤は、生物由来または発酵産物由来であることを特徴とする、〔1〕に記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
〔3〕前記安定化剤が、糖類、アミノ酸、アミノ糖、有機酸、又はそれらの誘導体から選択されることを特徴とする、〔2〕に記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
〔4〕前記ウイルス除去膜は、合成高分子からなる中空糸膜であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
〔5〕前記ウイルス除去膜は、多層微多孔膜であることを特徴とする、〔4〕に記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
〔6〕前記安定化剤添加工程における、各安定化剤の添加量はそれぞれ0.1〜15.0重量%の範囲であり、かつ安定化剤添加工程終了時及び封入工程終了時のモノクローナル抗体純度が80%以上であることを特徴とする、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明を用いることにより、高濃度モノクローナル抗体溶液の高い透過性およびウイルス除去性の両者を実現させ、かつ生物由来または発酵産物由来のウイルス混入のリスクが存在する安定化剤を含む製剤を利用可能であり、様々な製剤製造プロセスに簡便に用いることが可能となる、モノクローナル抗体の製造方法を提供でき、これにより製造工程の簡素化、コンパクト化、低コスト化などを包括的に達成可能となる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で提案するモノクローナル抗体の製造法とは、少なくとも、モノクローナル抗体をCHO細胞、ハイブリドーマなどにより産生する培養工程、モノクローナル抗体をクロマトグラフィー、限外濾過膜、ポリッシングなどにより精製する精製工程、モノクローナル抗体の凝集を抑制する安定化剤を添加する安定化剤添加工程、モノクローナル抗体を含むタンパク溶液中のウイルスをウイルス除去膜により除去するウイルス除去工程、ウイルスを除去したモノクローナル抗体を封入する封入工程を有する製造方法である。上記ウイルス除去工程で重要となる評価項目は、製剤中間製品のウイルス除去工程における濾過速度とウイルス除去能力である。この工程は、モノクローナル抗体の産生時由来のウイルスと、安定化剤の産生時由来のウイルスを除去することを目的としている。よって、特にウイルス混入のリスクが高い生物由来または発酵産物由来である添加物を加える工程は、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程前に行うことが必須である。無機塩や石油製品、又はそれらから合成されたものなど、生物由来または発酵産物由来でない添加物については、それらを加える工程の順序について特に制限するものではない。ウイルス濾過後にUF膜などにより濃縮する工程を行う場合、通常は溶液組成の調製に伴い安定化剤の再添加が必要になることから、これを有さないことが望ましい。上記の通り、本法の目的の一つとして生物由来または発酵産物由来の安定化剤をモノクローナル抗体製剤の最終工程において製剤と共に濾過することで、安定化剤の製造に際しウイルスが混入するリスクに対する、より本質的な安全化を図ることが挙げられる。生物由来または発酵産物由来の安定化剤とは、「乳酸菌発酵により得られたデキストラン」などの真菌・細菌発酵生産物、もしくは「卵黄由来物から酵素反応を経て得られたニューラミン酸」などの生物から直接抽出されて得られる生産物を原料として得られる生産物、などに該当するものを指す(特許文献1)。それらの安定化剤の発酵法による具体的な生産方法については、すでに多くの文献等により公知であり、工業規模での生産が行われている(非特許文献1〜5)。これらの安定化剤に対するウイルス混入のリスクとは、例えば発酵法を用いる場合、牛血清などの、生物由来または発酵産物由来の安定化剤培養の際に生物由来の原料を使用する場合や、卵黄などの生物由来の材料を(酵素などで)分解して目的の安定化剤を得るなど、何らかの生物由来の材料を使用する安定化剤の製造工程において、原料に由来し、ヒトに感染するウイルスが混入しており、それが安定化剤の製造工程で十分に除去ないし不活性化されない場合、それらの原料に由来したウイルスが混入するリスクが存在する、という事を意味する。
【0016】
本法は生物由来または発酵産物由来の安定化剤の種類について特に制限するものではないが、より望ましくは、糖類(代表的なものとして、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、糖アルコールなどがあり、また多糖類も用いることができる)、アミノ酸、アミノ糖、有機酸、又はそれらの誘導体などであり、より望ましくは、糖類としてはグルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、ラフィノース、デキストラン、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール、アミノ酸としてロイシン、イソロイシン、アラニン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン、シトルリン、アミノ糖としてグルコサミン、ガラクトサミン、シアル酸、有機酸としてα-ケトグルタル酸、2-ケトグルコン酸、5-ケトグルコン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アロイソクエン酸、イソクエン酸、イタコン酸、カプロン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、ピルビン酸、フマル酸、メバロン酸、リンゴ酸、コウジ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、シュウ酸、2,5-ジケトグルコン酸、2-ケトグロン酸、レシチン、リゾレシチンである。ここでいう誘導体などとは、カルボキシル基およびヒドロキシル基のエステル体、アミノ基およびヒドロキシル基のアルキル置換体やアシル置換体など、酸性または塩基性部位を有するものであれば、それらの塩、あるいはそれらの内複数の誘導化が為されたものの組み合わせを意味する。塩の種類については、食品・医薬品の添加物として法的に認められる範囲であれば特に制限しない。また、多糖類のうち、発酵産物由来の添加剤として用いられるものとしては、主にデキストラン(乳酸菌由来)を界面活性剤として使用する場合があり、デキストランは、平均分子量40〜70kDaのものを使用することが好ましい。
【0017】
モノクローナル抗体の多量体・凝集体などとは、モノクローナル抗体が科学的に結合し2量体、もしくは3量体以上の会合体を形成したもの、もしくは2つ以上のモノクローナル抗体が、分子間力により、または何らかの原因(変性など)で乱雑に凝集したものを意味する。
【0018】
本法において、安定化剤添加工程における安定化剤の添加量が低すぎた場合はモノクローナル抗体の十分な安定化効果が得られず、高すぎた場合はウイルス濾過工程において透過性の低下が起こりうることから、安定化剤添加工程における、各安定化剤の添加量はそれぞれ0.1〜15.0重量%の範囲で行われることが望ましく、より望ましくは0.5〜10.0重量%の範囲、さらに望ましくは0.5〜5.0重量%の範囲である。さらに、封入工程終了時のモノクローナル抗体純度が80%以上であれば十分な安定化効果が得られたものと見なし、より望ましくは85%以上、さらに望ましくは90%以上、最も望ましくは95%以上である。
【0019】
モノクローナル抗体溶液の透過性は、一般に抗体溶液濃度、および入口圧力に依存する。すなわち、透過性はモノクローナル抗体濃度とは負の相関があり、蛋白濃度が高くなると濾過速度が低下する傾向がある一方、モノクローナル抗体溶液を濾過する際の入口圧力に対しては、蛋白濃度に関わらず正の相関がある。よってモノクローナル抗体濃度が高濃度のままで濾過速度を低下させずに濾過するには、ウイルス除去膜自体の耐圧性が600kPa以上あることが望ましい。600kPa以上の耐圧性を有する膜の材質としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)のような合成高分子を素材として親水性を持たせた膜が望ましい。膜の形状は平膜構造や中空糸構造のものが利用できるが、好ましくは中空糸構造のものがよい。また膜の構造は、開孔率が大きい粗大構造層と、開孔率が小さい緻密構造層を有する、熱可塑性樹脂を含む微多孔膜であって、該粗大構造層が少なくとも一方の膜表面に存在し、その厚みが5.0μm以上であり、該緻密構造層の厚みが膜厚全体の50%以上であって、かつ該粗大構造層と該緻密構造層が一体化している多層微多孔膜であるものが望ましい。さらに、前記粗大構造層が、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%以上である層であり、前記緻密構造層が、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満であって、かつ[膜厚全体の平均開孔率+2.0未満の層の部分開孔率の平均値]±2.0%(両端を含む)の範囲内にある層であるものが好ましい。前記粗大構造層は、膜表面から緻密構造層に向かって部分開孔率が連続的に減少する傾斜構造で、一方の膜表面のみに存在するものが望ましい。
【0020】
上記の通り、透過性はモノクローナル抗体濃度とは負の相関があり、蛋白濃度が高くなると透過性(濾過速度)が低下する傾向がある。ウイルス濾過工程におけるモノクローナル抗体溶液のモノクローナル抗体濃度は、3.0〜10.0重量%の範囲で実行するが、より望ましくは3.0〜7.5重量%の範囲であり、さらに望ましくは3.0〜5.0重量%の範囲であり、最も望ましくは3.0〜4.0重量%の範囲である。以上の圧力およびモノクローナル抗体濃度を満たす範囲で、モノクローナル抗体の膜面積および時間あたりの透過性が、1.0 ( kg / m2 / hour )以上が望ましく、より望ましくは1.5 ( kg / m2 / hour )以上、さらに望ましくは2.0( kg / m2 / hour )以上である。
【0021】
ウイルス除去膜によるウイルス除去工程における入口圧力は、高圧の方が短時間で迅速に濾過を行えるメリットがあるが、圧力が高すぎると、装置への圧力によるダメージやリークのリスクが増えるため、入口圧力は、150kPa以上600kPa以下で実施するが、望ましくは196kPa以上500kPa以下、より望ましくは245kPa以上400kPa以下、さらに望ましくは294kPa以上400kPa以下、最も望ましくは294〜300kPaである。
また、本発明においては、ウイルス濾過工程において、十分な透過性を有し、かつ急激な透過性の低下が発生していない事を示すための指標として、濾過開始後10分経過時と、濾過開始後3時間経過時のモノクローナル溶液の平均透過性が いずれも1.0 ( kg / m2 / hour )以上であることを必須としており、望ましくは1.25 ( kg / m2 / hour ) 以上であり、さらに望ましくは1.5 ( kg / m2 / hour ) 以上である。前記濾過開始後10分経過時(又は濾過開始後3時間経過時)の平均透過性の算出は、0〜10分全体(又は0〜3時間全体)の透過量から逆算して求めることができる。すなわち、10分(又は3時間)時点での透過量を重量として測定し、膜の単位面積あたりの重量として算出し、これを10分(又は3時間)で割ることで、IgG透過量[kg/m/h]を計算します。)
このような所望の透過性を達成するためには、タンパクの目詰まりによる耐タンパク付着性能が高いウイルス除去膜を用いること、タンパクの目詰まりによる透過性低下を起こさないような膜を使用すること、目詰まりの最大の要因であるモノクローナル抗体の凝集体の形成を抑制すること、膜の透過性を維持するための透過圧の制御を行うこと、透過性を高めるために圧を高くした際に耐圧性を有する膜を用いること、等が挙げられる。
【0022】
ウイルス除去膜のウイルス除去能力については、ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)ガイドラインなどの公知要求事項をもとに決めるべきものである。すなわち、製造工程がウイルスの除去や不活化に関して一般にどの程度の能力を有するかを解析する目的、すなわち工程が確実にウイルスクリアランス能力を発揮するという面での特性(robustness)を解析する目的で、ウイルスを人為的に添加した製剤溶液の濾過試験を行う事が定められている。ウイルス除去率LRVは、ウイルス除去膜で濾過する前の溶液のウイルス量に対する、濾過したあとの溶液のウイルス量の低下率を対数値で示したもので、実際の製造工程を正確に縮小化した実験室レベルの小規模な濾過操作においてその評価を行うことが一般的である。
【0023】
一般的に用いられるウイルスの定量法としては、プラーク法、TCID50法などが挙げられる(非特許文献6)。一方で、本法で用いるウイルス除去膜は、モノクローナル抗体とウイルスのサイズの差に基づき、ふるい除去の機構によってウイルスを除去する。従って、現在公知であり、かつふるい除去の機構によって最も除去が困難であるウイルスは、最小の大きさを持つパルボウイルス科のウイルス(直径18〜25nm)である。本法で用いるウイルス除去膜は、上記特性(robustness)を解析する上でのワーストケースに相当するウイルスとして、ブタパルボウイルス(PPV)やマウス最小ウイルス(MVM)、イヌパルボウイルス(CPV)などを用いることができる。本発明においては、一例としてブタパルボウイルス(PPV)によるウイルスを用いたウイルス除去性試験を示す。
【0024】
ブタパルボウイルス(PPV)はTCID50法により定量化できる。詳細な手順の一例として、以下を示す。ブタパルボウイルスが感染する任意の細胞の、牛血清(Upstate社製、56℃の水浴で30分間加熱し、非働化させた後に使用)3体積%入りD−MEM(Gibco製、high-glucose)懸濁液、およびブタパルボウイルスを含むモノクローナル抗体溶液を、1:1の割合で混合する。同様に、同細胞懸濁液に対し、同ブタパルボウイルスを含むモノクローナル抗体溶液の10倍希釈液を、1:1の割合で混合する。以下同様の手順で、同ブタパルボウイルスを含むモノクローナル抗体溶液の10倍、10倍、10倍、10倍、10倍、10倍希釈液についても行う。それらの混合液を、各ウイルス溶液または希釈液ごとに8個用意し、それぞれ37℃、5%二酸化炭素雰囲気下のインキュベーター中で培養させる。次いで、細胞を培養させたそれぞれの懸濁液に対し、赤血球吸着法(非特許文献6)によるTCID50(50%感染価)の測定を行う。すなわち、ニワトリ赤血球をPBS(−)(日水製薬株式会社製、商品に添付の方法で調製)で5倍に希釈し、2500( rpm )で5分間遠心分離し、上清を除去する。得られた保存血希釈液の残渣を再度PBS(−)で200倍に希釈後、細胞を培養させたそれぞれの培養液に、上記細胞懸濁液と等量加え、1〜2時間静置する。培養した細胞組織の表面に対する赤血球の吸着の有無を目視で確認し、吸着が確認されたものを、ウイルス感染が起きた培養液として数える。得られた培養液ごとのウイルス感染の有無について、最初に細胞懸濁液に加えた各ブタパルボウイルスを含むモノクローナル抗体溶液または希釈液濃度ごとに感染が確認された培養液の割合を確認し、Reed−Munch法(非特許文献6)により、感染価としてlog(TCID50/ml)を算出する。上記操作を、ウイルス除去膜による濾過前後の双方の溶液に対して行い、下記式によりLRVを計算する。
【0025】
LRV=log10A−log10B ただし、
A = ウイルス除去膜で濾過する前の溶液の感染価(TCID50/ml)
B = ウイルス除去膜で濾過した後の溶液の感染価(TCID50/ml)
ただし、これはウイルス定量法の一例であり、本発明はこの方法によるウイルス定量法に限定されるものではない。
【0026】
本法で用いるウイルス除去膜は、上記特性(robustness)を解析する試験において十分なウイルス除去性を示す値として、あらゆる種類のウイルスについて、製剤溶液の濾過を3時間行った場合の総量濾過分に相当する溶液の全量の混合液において、LRV≧4であれば十分であるものとし、より望ましくはLRV≧5である。
【0027】
本法は、上記の製造工程を有するバイオ医薬品のモノクローナル抗体製造工程に対して容易に適用可能であるが、好ましくはヒトモノクローナル抗体、より好ましくはヒトγグロブリンGに対して適用できる。
【0028】
ウイルス除去膜の膜面積の調整は、スケールアップ・スケールダウン時の大きな外乱因子もない事が広く知られていることから、容易にスケールアップ・スケールダウンが可能であり、スケーラビリティを得ることが容易であるという特徴がある。すなわち、膜面積が変わると膜面積あたりの濾過体積が変わるのみで、それが一定であれば濾過性能は維持されると考えてよいことから、実生産スケールに比例した任意の膜面積を利用できる。
本法において、ウイルス除去膜でモノクローナル抗体溶液の濾過を行う時間については特に制限しない。製造工程中のウイルス除去工程を、ウイルス除去フィルターの膜面積は大きくなっても短時間で完了したい場合は短時間に、多少長時間であってもウイルス除去フィルターの膜面積を小さくしたい場合には長時間に設定することができる。また、ウイルス除去膜でモノクローナル抗体溶液の濾過を行う条件として、濾過時の溶液の温度、室温、無機塩などの生物・発酵物由来でない添加物の有無、溶媒の種類、モノクローナル抗体由来ではない夾雑物の有無については特に制限しない。
[実施例]
【0029】
以下の実施例には、ウイルス除去膜として親水化ポリフッ化ビニリデンを材質とする中空糸膜を用い、容器内空間において中空糸膜が入口側空間と出口側空間に仕切られている濾過装置、および濾過装置にモノクローナル抗体溶液を送液する目的で、121℃で15分間蒸気滅菌したSUS304製タンクおよびシリコンチューブ(タイガースポリマー製)を使用した。
モノクローナル抗体製剤中間製品のモデルとして、WO2004/087761に記載の方法に従い、モノクローナル抗体(以下抗体Aと記載)を調製し使用した。
以下の実施例で用いるブタパルボウイルス(PPV)溶液(社団法人 動物用生物学的製剤協会より入手、90HS株、Lot No.VS0201、感染価:8.67log(TCID50/ml)、以下PPVと記載)、またはPPV溶液の調製およびLRVの測定に使用する細胞として使用するPK-13細胞(ATCCより入手、Lot No.ATCC CRL-6489)は、75( cm2 )組織培養用フラスコ(BD Falcon製)および牛血清(Upstate社製、56℃の水浴で30分間加熱し、非働化させた後に使用)10体積%、およびペニシリン/ストレプトマイシン(+10000 Units/ml Penicillin, +10000μg/ml Streptomycin、インビトロジェン製)1体積%入りD−MEM(インビトロジェン製、high-glucose)により、繰り返し培養して使用した。
【実施例1】
【0030】
[ウイルス除去膜の製造法]
メルトフローインデックス(MFI)が2.5(g/10ml)のポリフッ化ビニリデン樹脂(呉羽化学(株)製、T#1300)、49重量%、フタル酸ジシクロヘキシル(大阪有機化学工業(株)製 工業品)51重量%からなる組成物を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製、形式20B)を用いて70℃で攪拌混合した後、冷却して粉体状としたものをホッパーより二軸同方向スクリュー式押出機(テクノベル(株)製 KZW25TW−50MG−NH(−600))に投入し、210℃溶融混合し均一溶解した。続いて、中空内部に温度が130℃のフタル酸ジブチル(大八化学工業(株)製 工業品)を流しつつ、内直径0.8mm、外直径1.05mmの環状オリフィスからなる紡口より、それぞれ均一溶解物を中空糸状に押し出し、10、20、30,40℃に温調された冷却水浴中で冷却固化させて、50m/分の速度で金属枠に巻き取った。その後、58%イソプロピルアルコール水溶液(大八化学工業(株)製 工業品)でフタル酸ジシクロヘキシル及びフタル酸ジブチルを抽出除去し、付着した58%イソプロピルアルコール水溶液を水で置換した後、水中に浸漬した状態で高圧蒸気滅菌装置(平山製作所(株)製 HV−85)を用いて125℃で熱処理を4時間施した。その後、付着した水をイソプロピルアルコール(大八化学工業(株)製 工業品)で置換した後、真空乾燥機(エステック(株)製)で60℃の温度で乾燥することにより中空糸状の微多孔膜を得た。なお巻き取りから乾燥に至る全ての工程では、中空糸は定長状態で固定して処理を行った。
続いて、上記の微多孔膜に対し、グラフト法による親水化処理を行った。反応液は、ヒドロキシプロピルアクリレート(大阪有機化学(株)製 工業品)を8体積%となるように、3−ブタノール(純正化学(株)製 工業品)の25体積%水溶液に溶解させ、45℃に保持した状態で、窒素バブリングを30分間行ったものを用いた。まず、窒素雰囲気下において、該微多孔膜をドライアイスで−60℃に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を25kGy照射した。照射後の微多孔膜は、13.4Pa以下の減圧下に15分間静置した後、上記反応液と該微多孔膜を60℃で接触させ、1時間静置した。その後、該微多孔膜を58体積%イソプロピルアルコール水溶液で洗浄し、60℃で真空乾燥を4時間行い、親水性を有する微多孔膜を得た。該微多孔膜は水に接触させた時に自発的に細孔内に水が浸透することを確認した。該微多孔膜12本の束の両端をポリウレタンで目止めし、ポリスチレン製の中空糸膜が入口側空間と出口側空間に仕切られているカートリッジに接合して、濾過装置(有効膜面積0.001m)を作成した。
【実施例2】
【0031】
[モノクローナル抗体の製造工程]
デプスフィルター、および0.2(μm)メンブランフィルターで清澄化したヒトモノクローナル抗体(ヒトIgG1)を含むCHO細胞無血清培養上清(発現量:700mg/L)1500(ml)を10( mmol / l )リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したProtein Aカラム(Amercham Biosciences社製 Mabselect 20mm ID × 20cm)に添加した(線速度500cm/h)。次いで、5カラム容量の20( mmol / l )クエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.4)により、ヒトモノクローナル抗体を溶出した(線速度500cm/h)。この溶出液を10( mmol / l )リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.2)で中和し、さらに1.5( mol / l )Tris−HClでpH8.0に調整後、10( mmol / l ) Tris−HClで平衡化した陰イオン交換カラム(Amercham Biosciences社製 Q Sepharose XL 10mm ID × 15cm)に添加した(線速度300cm/h)。添加終了後、3カラム容量の平衡化緩衝液をカラムに通液し(線速度300cm/h)、カラム非吸着分を1.0( mol / l )酢酸でpH5.0に調製後、20( mmol / l ) 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で平衡化した陽イオン交換カラム(Amercham Biosciences社製 SP Sepharose FF 26mm ID × 15cm)に添加した(線速度300cm/h)。添加終了後、5カラム容量の平衡化緩衝液で洗浄し(線速度300cm/h)、さらに5カラム容量の20( mmol / l )酢酸ナトリウム/0.30( mol / l )塩化ナトリウム緩衝液(pH5.0)を通液し、ヒトモノクローナル抗体溶液として溶出した(線速度300cm/h)。この溶出液を限外濾過膜(Millipore社製 Biomax 30 50cm)で、抗体濃度10.0重量%まで濃縮した。
上記の方法により得た抗体A溶液、安定化剤(下記表1を参照)、塩化ナトリウム、及び注射用水(大塚製薬製)を用いて、抗体Aおよび安定化剤を下記表1に記載した割合で含む、0.1( mol / l )塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ調製した。次いで、それらの抗体Aおよび安定化剤溶液を、少量の1.0ないし0.10( mol / l )塩酸(和光純薬製)または1.0ないし0.10( mol / l )水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬製)を用い、pHを5.5に調整した。次いでこの安定化剤溶液を1時間静置し、その後、この段階でのモノクローナル抗体純度を、HPLC(島津製作所製 Prominence、カラム:東ソーGPC用カラム TSK gel G3000SWXL、移動相:リン酸緩衝液(pH6.9)/0.3( mol / l )塩化ナトリウム水溶液)により製剤封入工程終了時のモノクローナル抗体製剤純度を、ピーク面積比より測定したところ、以下の[表1]のようになった。
pH調整後のモノクローナル抗体および安定化剤溶液に、上記PPV溶液を0.5体積%添加し、よく撹拌した後、35(nm)の孔径を有する中空糸フィルター(PLANOVA35N)を溶液ごとに準備し、前濾過を行った。
前濾過後の各抗体Aおよび安定化剤溶液(PPVを含む)に対し、[実施例1]の方法により製造した濾過膜(0.001m)、および上記濾過装置をそれぞれ準備して、LRV測定用に各抗体Aおよび安定化剤溶液(以下、元液と記載)を5(ml)、滅菌済みのPP製スクリューバイアル(BD Falcon製)に採取し、直ちに−78℃で冷凍保存した後、294kPaの圧力でDead−end式濾過を実施した。各時間におけるモノクローナル抗体溶液の濾過量、及び抗体濃度から算出したモノクローナル抗体の透過量は下記表1のようになり、要求するモノクローナル抗体透過性を満たすことができた。上記各濾液を50ml滅菌済みスクリューバイアルに分注し、目的のモノクローナル製剤をそれぞれ得た。
【0032】
【表1】

【実施例3】
【0033】
[ウイルス除去性試験およびモノクローナル抗体純度測定]
培養したPK-13細胞を、牛血清(Upstate社製、56℃の水浴で30分間加熱し、非働化させた後に使用)3体積%、およびペニシリン/ストレプトマイシン(+10000 Units/ml Penicillin, +10000μg/ml Streptomycin、インビトロジェン製)1体積%入りD−MEM(インビトロジェン製、high-glucose)(この混合液は以後3%FBS/D−MEMと記載)で希釈し、細胞濃度2.0×10( cells/ml )の希釈懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、96well丸底細胞培養プレート(Falcon社製)を10枚準備し、全てのwellに100(μl)ずつ分注した。
次いで、上記3時間濾過を行った濾液の全量混合液について、それらの3%FBS/D−MEMによる10倍、10倍、10倍、10倍、10倍希釈液を調製した。さらに、濾過直前に採取した各元液について、それらの3%FBS/D−MEMによる10倍、10倍、10倍、10倍、10倍、10倍希釈液を調製した。上記細胞懸濁液を分注した96穴細胞培養プレートに、各濾液および濾液の10倍、10倍、10倍、10倍、10倍希釈液と、元液の10倍、10倍、10倍、10倍、10倍、10倍希釈液を、8wellに100(μl)ずつ分注し、37℃、5%二酸化炭素雰囲気下、インキュベーター中で、10日間培養した。
次いで、10日間培養した上記の細胞培養プレートに対し、赤血球吸着法(非特許文献6)によるTCID50(50%感染価)の測定を行った。ニワトリ保存血(日本バイオテスト製)をPBS(−)(日水製薬株式会社製、商品に添付の方法で調製)で5倍に希釈後、2500( rpm ) 、4℃で5分間遠心分離し赤血球を沈殿させた後、上清を吸引除去して、得られた赤血球を含む沈殿物を再度PBS(−)で200倍に希釈した。
次いで、調製した赤血球沈殿物のPBS(−)希釈液を、上記細胞培養プレートの全wellに100(μl)ずつ分注し、2時間静置した後、培養した細胞組織の表面に対する赤血球の吸着の有無を目視で確認し、吸着が確認されたものをウイルス感染が起きたwell、吸着が確認されなかったものを感染なしのwellとして数えた。得られた培養液ごとのウイルス感染の有無について、濾液ないしその希釈液、又は元液の希釈液ごとに割合を確認し、Reed−Munch法(非特許文献6)により、感染価としてlog(TCID50/ml)を算出し、ウイルス除去率LRVを求めたところ、以下の[表2]のようになった。
さらに、HPLC(島津製作所製 Prominence、カラム:東ソーGPC用カラム TSK gel G3000SWXL、移動相:リン酸緩衝液(pH6.9)/0.3( mol / l )塩化ナトリウム水溶液)により製剤封入工程終了時のモノクローナル抗体製剤純度を、ピーク面積比より測定したところ、以下の[表2]のようになった。結果、entry1〜10について、要求するウイルス除去性、モノクローナル抗体製剤純度、そして製造工程中でのモノクローナル抗体の溶液中での安定性担保を、全て満たすことができた。
【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明を用いることにより、モノクローナル抗体製剤を製造するに際し、高濃度のモノクローナル抗体溶液を高い透過性および高いウイルス除去性を維持したままウイルス除去膜により濾過することができ、かつ、生物由来または発酵産物由来のウイルス混入のリスクがある安定化剤をも用いることができる。これによりモノクローナル抗体製造工程の簡素化、コンパクト化、低コスト化などが包括的に達成可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、モノクローナル抗体を産生する培養工程、モノクローナル抗体を精製する精製工程、モノクローナル抗体の凝集を抑制する安定化剤を少なくとも1種類添加する安定化剤添加工程、モノクローナル抗体を含む溶液中のウイルスをウイルス除去膜により除去するウイルス除去工程、ウイルスを除去したモノクローナル抗体を封入する封入工程を有するモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法であって、前記ウイルス除去工程は、モノクローナル抗体の産生時由来のウイルスと、安定化剤の産生時由来のウイルスを除去し、ウイルス除去工程のウイルス除去能力が、LRV≧4であって、ウイルス除去工程時のモノクローナル抗体の濃度が3.0〜10.0重量%の範囲であり、前記ウイルス除去工程に用いるウイルス除去膜に対する、溶液中に含まれるモノクローナル抗体の、濾過開始後0〜10分と、0〜3時間経過時の平均透過性が、いずれも1.0( kg / m2/ hour )以上であることを特徴とする、モノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
【請求項2】
前記安定化剤は、生物由来または発酵産物由来であることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
【請求項3】
前記安定化剤が、糖類、アミノ酸、アミノ糖、有機酸、又はそれらの誘導体から選択されることを特徴とする、請求項2に記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
【請求項4】
前記ウイルス除去膜は、合成高分子からなる中空糸膜であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
【請求項5】
前記ウイルス除去膜は、多層微多孔膜であることを特徴とする、請求項4に記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。
【請求項6】
前記安定化剤添加工程における、各安定化剤の添加量はそれぞれ0.1〜15.0重量%の範囲であり、かつ安定化剤添加工程終了時及び封入工程終了時のモノクローナル抗体純度が80%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む製剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−184299(P2011−184299A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173135(P2008−173135)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】