説明

モノクローナル抗体及びこれを用いた免疫学的測定方法

【課題】ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体及び当該モノクローナル抗体を使用する免疫学的測定方法を提供することを課題とする。また、従来法では阻止できないヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応を抑制する抑制剤及びヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応が抑制された免疫学的測定方法の提供を課題とする。
【解決手段】ヒト免疫グロブリンMに反応するモノクローナル抗体の選別において、溶液状態での反応性を評価指標とし、1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集することができ、実用的な免疫凝集測定を達成できる新規のモノクローナル抗体を得、前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態でもヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく凝集を起こすことのできるモノクローナル抗体、該モノクローナル抗体に由来する機能性断片、及びこれらを使用する免疫学的測定方法、測定試薬ならびに測定キット、さらに該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関する。
また、本発明は非特異反応の抑制剤及びこれを用いた免疫学的測定方法に関し、より詳細にはヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤及びこれを用いた免疫学的測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
診断薬で汎用される測定方法として、予めアナライト(測定対象物質)を抗原として作製された抗体を用い、被験試料中に存在するアナライトを検出する免疫学的測定方法が挙げられる。なかでも免疫凝集測定方法は、抗体によるアナライトの架橋作用によって形成される格子状の免疫複合体の凝集度合いに基づいて、試料中のアナライトを定性もしくは定量的に測定する方法である。免疫凝集測定方法は光学的な検出に適しており、自動化も容易なことから、さまざまな検査項目に適用されている汎用性の高い測定方法である。
一方、免疫応答の最初期に産生されるヒト免疫グロブリンMは、血漿中に概ね50〜200mg/dL(500〜2000μg/mL)含まれ、基準濃度範囲外の低値では多発性骨髄腫や蛋白漏出性胃腸症、高値では膠原病やマクログロブリン血症というようにさまざまな疾患の可能性を示すマーカーとなっている。
ヒト免疫グロブリンM診断薬に関しても免疫凝集測定方法を原理とする製品が複数実用化されているが、これまではポリクローナル抗体が用いられてきた。
ポリクローナル抗体は多様な反応性を有する抗体の集合体であり、アナライト分子上の複数のエピトープ(抗原決定基)に結合するため凝集力が強く、分子内に同一のエピトープが複数存在しないアナライトの免疫凝集測定方法に最適な抗体である。しかしながらその反面、複数のエピトープと結合するポリクローナル抗体は特異性が低いという大きな課題を有している。実際にヒト免疫グロブリンを例にとると、体内には免疫グロブリンGをはじめとして構造の類似した5種類の免疫グロブリンが存在するため、免疫グロブリンM特異的なポリクローナル抗体を調製する際には、その他の免疫グロブリンと交差反応する抗体画分を除去する処理操作が欠かせず、膨大な手間と労力を要していた。
一方、単一の抗体から構成されるモノクローナル抗体は特定のエピトープに結合するため特異性が高く、調製が容易で性能が安定しているうえに、近年では遺伝子組換えを利用した修飾や改変も容易となったことから、診断用途のみならず治療分野でもその存在感を高めており、その適用領域はますます拡大している。
原理的には、同一のエピトープを複数持つアナライトの免疫凝集測定方法においてモノクローナル抗体の利用も可能であるが、分子内に同一エピトープが10箇所存在するような免疫グロブリンMに関しては、モノクローナル抗体では効率的に凝集を形成できないと考えられており、免疫凝集測定方法にモノクローナル抗体が利用されることはなかった。血漿免疫グロブリンMは図1に示すようにY字形の単位構造5個が、Y字形の尾部を中心に先端部を外周側に向けて配位し星型を形成している。Y字形は免疫グロブリンの単位構造であり、ヒンジ部分が柔軟に可動することはよく知られているが、さらに非特許文献1の電子顕微鏡像に示されるように、5個のY字型単位構造が(b)Y字形の尾部を中心に先端部を外周側に向けて平面状に配位した星型構造や、(c)Y字形の尾部を支点として先端部を同一方向に向けて配位した「かに形」と記述される構造を形成できることから、Y字形尾部の接合部も柔軟に可動することが確認されている。
このように免疫グロブリンM分子中の各サブユニットの接合部は柔軟に可動し、立体的な構造が容易に変化するため、抗免疫グロブリンMモノクローナル抗体は、二分子の免疫グロブリンMに結合して分子間架橋を形成せずに、大部分が図2に示したように一分子の免疫グロブリンM上の二箇所のエピトープと結合するいわゆる分子内架橋の状態となってしまう。したがって、ヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定方法において、モノクローナル抗体では効率的に凝集を形成することができないと考えられ、やむを得ず複数のエピトープに結合するポリクローナル抗体が利用されてきた。また、モノクローナル抗体を用いることができたとしても、それは複数のモノクローナル抗体を組み合わせてポリクローナル抗体の作用をさせる例であり(例えば特許文献4実施例3)、1種類のモノクローナル抗体でヒト免疫グロブリンMを凝集させるような性質を有するモノクローナル抗体の存在はこれまで知られていなかった。また、これまで抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ作製時の選別操作は、ヒト免疫グロブリンMあるいは抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を固相化した条件下で評価した反応性の強さを指標としており、溶液状態における両者の反応性が指標とされることはなかった(特許文献1〜3)。
【0003】
また、近年では技術の進歩によって様々な物質を抗原とした抗体の作製が可能となってきたことから、免疫学的測定方法を利用した検査用試薬の利用件数は増加の一途をたどっているが、それに伴って従来よりもさらに高性能を求められるようになり、非特異反応の発生を厳密に回避する必要性が生じてきている。
非特異反応とは被験試料中の因子によって特異反応にもとづかない結合が促進されたり、特異的な免疫反応が妨げられたりする現象で測定過誤の原因となる。非特異反応の原因因子として異好性抗体やリウマチ因子(RF)の存在が明らかとなっている。
異好性抗体とは、免疫学的測定方法の主成分である動物由来抗体に対して反応性を示すヒト抗体の総称であり、HAMA(ヒト抗マウス免疫グロブリン抗体)が代表的なものとして知られている。その成因としては、食事や動物との接触、生物学的製剤の投与といったような無自覚下における抗原感作によって産生されるケースに加え、抗原未感作の抗体が異好性を示す可能性もあるため解明されていない部分も多い。一方、リウマチ因子は関節リウマチ患者に出現し、結合部位も特定されていることから、異好性抗体とは別の概念として捉えられているが、動物由来抗体に対して反応性を示すという性質は共通しており、非特許文献2に記載されたようにその実体はいずれもヒトの免疫グロブリンGや免疫グロブリンMであることが知られている。
これまでも異好性抗体による非特異反応の対策として、非特許文献3、4記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を成分とする異好性阻止試薬HBRが製品化されており、免疫学的測定方法を原理とする各種検査で利用されてきた。
また、測定に用いる抗体と同種動物から調製したヒト免疫グロブリンM型自然抗体に対するポリクローナル抗体を添加する特許文献5の非特異反応の抑制策や、リウマチ因子の反応部位に対する各種動物抗体を添加する特許文献6記載の非特異反応抑制策も考案されている。しかしながらいずれもポリクローナル抗体の利用であるため、各種動物に免疫するための大量の抗原を長期的に要するうえに、前者は自然抗体による非特異反応しか抑制できず、後者が認識するRF因子の反応部位はそもそも可変性を持つため、その非特異反応の抑制効果は限定的である。実際、免疫学的測定方法を利用した検査項目および検査数の増加に伴い、従来の対策法では非特異反応の抑制効果が十分に発揮されない検体が見出されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−42400号公報
【特許文献2】特開昭63−58260号公報
【特許文献3】特表平6−504424号公報
【特許文献4】特開昭60−237363号公報
【特許文献5】特許第4065600号公報
【特許文献6】特開平07−012818号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ロアット 免疫学要説 原著第3版 図2.16
【非特許文献2】臨床化学 ;第23巻補冊175a-1〜175a-10 (1994)
【非特許文献3】異好性阻止試薬HBRに関わる宣伝資料(長瀬産業1993)
【非特許文献4】CLIN.CHEM. 45/7,942-956 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体、該モノクローナル抗体の機能性断片、及びこれらを使用する免疫学的測定方法、測定試薬ならびに測定キット、さらに該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供することを課題とする。
また、本発明は、ヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤及びこれを用いた免疫学的測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、ヒト免疫グロブリンMに反応するモノクローナル抗体の選別において、溶液状態での反応性を評価指標とすることで、1種類でヒト免疫グロブリンMを分子間架橋し凝集することができ、実用的な免疫凝集測定を達成できる新規のモノクローナル抗体を見出し本発明を完成するに至った。このようにして得られたモノクローナル抗体は、従来の固相化した抗原を用いる評価法では必ずしも高い反応性を示さないモノクローナル抗体であった。
【0008】
また、本発明者らは、驚くべきことに上記1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集できる性質を持つ抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体によって、従来法では阻止できないような非特異反応であっても、強く抑制されることを見出した。したがって本発明の別の目的は、1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を含む非特異反応の抑制剤を提供することである。
また、本発明のさらに別の目的は、抗原抗体反応を利用した免疫学的測定方法において、1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を添加することにより、非特異反応を抑制し正確な測定値を得ることを特徴とする免疫学的測定方法、測定試薬及び測定キットに関する。
具体的には本発明は、以下の構成を有する。
(1)ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
(2)以下の工程を含む抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の製造方法によって取得された前記(1)に記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
工程1)ヒト免疫グロブリンMを抗原として抗ヒト免疫グロブリンM抗体産生ハイブリドーマを取得する工程
工程2)工程1で取得したハイブリドーマが産生する抗体を、溶液状態のヒト免疫グロブリンMと接触させて、当該溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
工程3)工程2で選択されたハイブリドーマが産生する抗体を取得する工程
(3)以下の(a)又は(b)の抗体。
(a)FERM BP−11134であるハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
(b)上記(a)の抗体と交差反応性を有する前記(1)に記載の抗体。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体に由来する機能性断片。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体、及び/または前記(4)に記載のモノクローナル抗体に由来する機能性断片を用いることを特徴とする、試料中のヒト免疫グロブリンMを測定する免疫凝集測定方法。
(6)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体、及び/または前記(4)に記載のモノクローナル抗体に由来する機能性断片を用いることを特徴とする、試料中のヒト免疫グロブリンMを測定する免疫凝集測定試薬及び測定キット。
(7)前記(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体を産生することを特徴とするハイブリドーマ。
(8)FERM BP−11134であるハイブリドーマ。
(9)以下の工程を含むことからなる、抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の製造方法。
工程1)ヒト免疫グロブリンMを抗原として抗ヒト免疫グロブリンM抗体産生ハイブリドーマを取得する工程
工程2)工程1で取得したハイブリドーマが産生する抗体を、溶液状態のヒト免疫グロブリンMと接触させて、当該溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
工程3)工程2で選択されたハイブリドーマが産生する抗体を取得する工程
(10)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体、及び/または前記(4)に記載のモノクローナル抗体に由来する機能性断片を含む、ヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤。
(11)試料中の測定対象成分を測定用抗体又は測定用抗原との抗原抗体反応により測定を行う免疫学的測定方法において、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体、及び/または前記(4)に記載のモノクローナル抗体に由来する機能性断片を含む、ヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤の添加により、前記抗原抗体反応以外のヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応を抑制することを特徴とする免疫学的測定方法。
(12)測定用抗体又は測定用抗原が不溶性担体に担持されていることを特徴とする、前記(11)に記載の免疫学的測定方法。
(13)不溶性担体がラテックス、金属コロイド、シリカからなる前記(12)に記載の免疫学的測定方法。
(14)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体、及び/または前記(4)に記載のモノクローナル抗体に由来する機能性断片を含む、ヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤及び試料中の測定対象成分を測定するための測定用抗体または測定用抗原を含むことを特徴とする免疫学的測定試薬及び測定キット。
(15)測定用抗体又は測定用抗原が不溶性担体に担持されていることを特徴とする、前記(14)に記載の免疫学的測定試薬及び測定キット。
(16)不溶性担体がラテックス、金属コロイド、シリカからなる前記(15)に記載の免疫学的測定試薬及び測定キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモノクローナル抗体により、ヒト免疫グロブリンM特異的な検出方法を提供するとともに、高品質で安価なヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定試薬及び測定キットを提供することが可能となった。
また、本発明のモノクローナル抗体の選択方法は、溶液状態における凝集性の強さを指標に選択されるため、精度高く目的とするモノクローナル抗体を得ることができ効率的である。
【0010】
また、本発明の非特異反応の抑制剤によれば、免疫グロブリンMと1:1の分子内架橋を形成せず免疫グロブリンMの影響を効率的に中和できるため、これを用いた免疫学的測定方法、免疫学的測定用試薬及び測定キットでは、ヒト免疫グロブリンMに起因する従来型の非特異反応に加えて、既知の対策で回避できなかった非特異反応も抑制することができる。従って、幅広い測定項目及び試料について、従来の測定方法よりも正確な測定値を与えることが可能となり検査数が増加傾向にある免疫学的測定方法に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒト免疫グロブリンMの構造模式図である。
【図2】ヒト免疫グロブリンMと従来の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の結合様式を示す図である。
【図3】本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を用いた免疫凝集測定試験結果を示す図である(実施例1)。
【図4】PSA測定ラテックス試薬で正常検体を測定した際の、本発明の非特異反応の抑制剤、対照の非特反応の阻止剤の影響を示す図である。
【図5】PSA測定ラテックス試薬で非特異反応検体を測定した際の、本発明の非特異反応の抑制剤、対照の非特異反応の阻止剤の抑制効果を示す図である。
【図6】インスリン測定試薬で非特異反応検体を測定した際の、本発明の非特異反応の抑制剤、対照の非特異反応の阻止剤の抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体)
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態でヒト免疫グロブリンM分子同士の分子間架橋を形成し、1種類で免疫凝集測定が可能という特性を有するモノクローナル抗体であれば特に限定されない。ここでヒト免疫グロブリンMと特異的に反応するとは、ヒト免疫グロブリンMとは抗原抗体反応を起こすが、他のヒト免疫グロブリンとは抗原抗体反応を起こさないことをいう。これまで免疫凝集の形成有無に着目した免疫グロブリンMに対するモノクローナル抗体の探索は行われておらず、本発明の1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は新規である。
また、従来の抗免疫グロブリンMモノクローナル抗体は2分子の免疫グロブリンの分子間を架橋するのではなく、1分子の免疫グロブリンの分子内を架橋することしかできなかった。しかし、本発明の1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集できるモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンMの分子間を架橋できるため、ヒト免疫グロブリンMの影響を効率的に中和し、ヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応を強力に抑制することが可能となり、後述するように、非特異反応の抑制剤として好適に用いることができる。
このような本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の具体例としては、FERM BP−11134であるハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体が挙げられ、さらに、FERM BP−11134であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体と交差反応性を有する抗体も本発明の抗体の範囲に含まれる。FERM BP−11134であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体と交差反応性を有する抗体には、当該抗体と同一のエピトープ(抗原決定基)のアミン酸配列を特異的に認識しうる抗体が含まれる。
【0013】
(機能性断片)
本発明には、酵素的消化により得られる該モノクローナル抗体のFab部分を含む機能性断片や遺伝子組換えによって作製される該モノクローナル抗体のFab部分を含む機能性断片に関わらず、該モノクローナル抗体に由来するFab部分を含む機能性断片を有するものであれば利用できる。従って、本発明の機能性断片の「機能性」の意味は、具体的にはヒト免疫グロブリンMとの結合能を有することをいう。
【0014】
(測定対象試料)
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体または該モノクローナル抗体断片を用いたヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定方法の測定対象試料は、生体試料であればよく、例えば血液、血清、血漿、尿などの体液である。
【0015】
(測定方法)
本発明のヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定方法は、本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体と測定対象試料を任意の方法で混合して免疫凝集を形成させ、ヒト免疫グロブリンMを測定する測定方法であれば特に限定はない。また免疫凝集の形成をより促進させるために該モノクローナル抗体とはエピトープの異なる他の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を併用しても良く、併用するモノクローナル抗体の特性に関しては特に制限がない。
【0016】
(免疫凝集測定試薬及び測定キット)
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体または該モノクローナル抗体断片を用いたヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定試薬及びキットは、試料のイオン強度や浸透圧などを緩衝する成分や免疫学的凝集を増強する成分を含んでもよい。前記試料のイオン強度や浸透圧などを緩衝する成分としては、例えば、酢酸,クエン酸,リン酸,トリス,グリシン,ホウ酸,炭酸,グッドの緩衝液や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などがあげられ、前記免疫学的凝集を増強する成分としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、リン脂質ポリマーなどがあげられる。
【0017】
また本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体または該モノクローナル抗体断片を用いたヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定試薬及び測定キットは、光学的な測定が可能であり、分光光度計や、分光光度測定を測定原理とした日立社製自動分析装置の他に、東芝社製TBAシリーズ、日本電子社製BMシリーズ、オリンパス社製AUシリーズ、積水メディカル社製CP2000といった汎用自動分析装置、さらには近赤外を測定波長とした装置(三菱化学ヤトロン社製LPIA等)、散乱光強度を測定する装置(デイドベーリング社製BNシステム等)などを用いても測定ができる。
【0018】
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を作製する技術に関して特に制限はないが、マウスハイブリドーマを作製する方法が一般的である。本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の選定のための評価方法は、溶液状態において、ヒト免疫グロブリンMを凝集させる凝集性の強さを指標に選択される。この結果、ヒト免疫グロブリンMに特異的に反応し、かつ、単独でヒト免疫グロブリンMを凝集させるという性質を有する抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を得ることができる。
また、本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体調製後の構造改変や修飾に関して、該モノクローナル抗体のヒト免疫グロブリンMとの反応特性を大きく損なわない限り特に制限はない。
【0019】
(ハイブリドーマ)
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を産生するために用いるハイブリドーマは、ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、かつ溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナルを産生できるハイブリドーマであればいずれでもよく、産生されるモノクローナル抗体が溶液状態においてヒト免疫グロブリンMとの免疫凝集形成能の高いものが選択される。すなわち、本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は以下の工程1)〜3)を経て製造される。
工程1)ヒト免疫グロブリンMを抗原として抗ヒト免疫グロブリンM抗体産生ハイブリドーマを取得する工程
工程2)工程1で取得したハイブリドーマが産生する抗体を、溶液状態においてヒト免疫グロブリンMと接触させて、当該溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
工程3)工程2で選択されたハイブリドーマが産生する抗体を取得する工程
上記工程2で選択されたハイブリドーマとしては、例えばFERM BP−11134が挙げられる。
上記製造工程におけるハイブリドーマの選択は、より具体的には精製抗体を用いて溶液状態のヒト免疫グロブリンと反応させることで、溶液状態における免疫凝集形成能の違いによる選択工程が挙げられるが、本選択工程の前に、精製抗体を用いずにハイブリドーマ培養上清などを用い、まずELISA法などの固相状態における抗ヒト免疫グロブリンM抗体産生ハイブリドーマの選択工程を予め行えば、より効率的に本発明の抗体産生ハイブリドーマを選択することができる。
このような選択工程を経て得られた抗体は、ヒト免疫グロブリンMに特異的に反応し、かつ、溶液状態において1種類でヒト免疫グロブリンMとの間に分子間架橋を形成して免疫凝集体を形成できるという性質を有する。
【0020】
(用途)
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンMに特異的に反応し、かつ、1種類でヒト免疫グロブリンを凝集させるという性質を用いる用途であればいずれにも適用することができ、上述のヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定方法のほかに、ヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤としての使用が好適な例として挙げられる。本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンMと1:1で分子内架橋しないことからヒト免疫グロブリンMを効率的に中和でき、ヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤として好適に用いることができるのである。本発明の抗体が、従来の非特異反応の阻止剤をもってしても抑制できなかったようなヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応を抑制できるメカニズムは、明確でないものの、溶液状態のヒト免疫グロブリンMを凝集できるという性質が大きく関わっているものと考えられる。例えば、溶液状態のヒト免疫グロブリンMを凝集できるという性質を有する抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は、異好性抗体型、リウマチ因子(RF)型等に関わらず、ヒト免疫グロブリンM分子内で普遍的に存在するエピトープを認識している可能性が考えられる。
したがって、本発明でいうヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応とは、ヒト免疫グロブリンMが原因となっている全ての非特異反応を指し、前記非特異反応には、異好性抗体やリウマチ因子(RF)となって動物由来抗体と反応してしまうヒト免疫グロブリンMのように発生機序が公知の非特異反応に加え、機序が不明の非特異反応も含まれる。このように、本発明の抑制剤は、前記原因の因子の実体がヒト免疫グロブリンMである全ての非特異反応を対象とする。
【0021】
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の非特異反応の抑制剤としての使用は、溶液状態であっても、固相状態であってもその効果を発揮することができる。本抑制剤の溶液状態の使用としては、試料溶液に本抑制剤を添加し、溶液状態でヒト免疫グロブリンMと反応させて凝集させる場合が挙げられる。また、固相状態での使用としては、例えば、イムノクロマト法に用いられるサンプルパッドにあらかじめ本抑制剤溶液を添加して乾燥・固定化し、当該サンプルパッドに試料を滴下し通過する際に、試料溶液中のヒト免疫グロブリンMを固定化された抑制剤によってトラップさせる場合などが挙げられる。
【0022】
本発明の非特異反応の抑制剤は、試料中の測定対象成分を測定用抗体又は測定用抗原との抗原抗体反応により測定する免疫学的測定方法に用いることができ、これにより、前記抗原抗体反応以外のヒト免疫グロブリンMに由来する非特異反応を効果的に抑制することができ、正確な免疫測定が可能となる。
【0023】
1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を添加することにより、非特異反応を抑制し正確な測定値を得ることを特徴とする本発明の免疫学的測定方法、測定試薬及び測定キットの測定対象試料は、種々のヒト生体試料であってヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応発生の可能性がある試料であれば特に限定されないが、例えば血液、血清、血漿、尿などの体液である。測定対象に関しても抗原抗体反応を利用できる分子であれば特に限定はなく、例えばCRP(C反応性タンパク質)、Lp(a)、MMP3(マトリクスメタロプロテイナーゼ3)、IV型コラーゲン、PSA(前立腺特異抗原)、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、インスリン、マイクロアルブミン、シスタチンC、抗リン脂質抗体、抗トレポネーマ・パリダム抗体、FDP(フィブリン・フィブリノーゲン分解産物)、Dダイマー、SF(可溶性フィブリン)、TAT(トロンビン-アンチトロンビンIII複合体)、XIII因子、ペプシノーゲンI・IIなどに加えて、ハプテンであるフェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、バルプロ酸、テオフィリンなどの薬物も挙げられる。但し、本発明の原理上、ヒト免疫グロブリンMを測定対象分子とすることはできない。
【0024】
本発明のヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤に用いられる1種類でヒト免疫グロブリンMを凝集できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は、溶液状態および固相化状態いずれの状態でも添加でき、添加濃度は十分な非特異反応抑制効果を示し、かつ免疫学的測定の本反応に影響を及ぼさない濃度であれば特に制限はないが、0.01〜10mg/mLの濃度範囲での利用が望ましく、0.05〜1mg/mLがより望ましい。また実際の測定に際しては、測定用抗体又は測定用抗原と被験試料を接触させる工程以前に、本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体と被験試料を接触させた方が非特異反応をより効率的に抑制できる。またその他の非特異反応抑制策や阻止成分の併用も可能である。
【0025】
免疫学的測定に関わる成分(測定用抗体又は測定用抗原)を担持した不溶性担体を利用する、本発明の免疫学的測定方法、測定試薬及び測定キットにおいて、不溶性担体として用いられる素材は、検査薬の成分として利用可能な不溶性物質であれば特に制限はないが、具体的にはラテックス粒子、金属コロイド、シリカ、カーボンなどが挙げられ、ラテックス粒子が特に好適である。不溶性担体の素材及びサイズは、本発明の免疫学的測定方法、測定試薬及び測定キットの測定対象分子、検出原理などに応じて適宜選択できる。上記ラテックス粒子の場合では、フェニル基を有する重合性単量体と、フェニル基及びスルホン酸塩を有する重合性単量体との共重合体からなる担体粒子により構成されるものが好ましく、その平均粒子径は、透過型電子顕微鏡装置を用いた場合の測定で、0.01〜1.5μmであり、好ましくは0.03〜0.8μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。
【0026】
測定対象分子と特異的に結合する抗体に対する非特異因子の影響を抑制し、正確な測定値を得ることを特徴とする本発明の免疫学的測定方法において、検出原理としては酵素、蛍光、化学発光、濁度などいずれも利用でき、また操作・評価法ともに用手的、機械的いずれも利用できる。したがって本発明の免疫学的測定試薬及び測定キットとしてはELISA法、EIA法、化学発光法、イムノクロマト法、免疫凝集法やラテックス免疫凝集法などいずれの形態も利用できる。特に免疫凝集法やラテックス免疫凝集法は、前述のヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定試薬及び測定キットで用いられる機器が同様に用いられる。
【0027】
また、本発明のヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応の抑制剤が用いられる免疫学的測定試薬及び測定キットは、主成分の他に、試料のイオン強度や浸透圧などを緩衝する成分や免疫学的凝集を増強する成分を含んでもよく、前述のヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定試薬及び測定キットと同様の成分が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、1種類で免疫凝集を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の作製方法、該モノクローナル抗体を利用した免疫凝集測定方法、及び該モノクローナル抗体を非特異反応の抑制剤として利用した免疫学的測定方法の例を挙げて本発明の一部を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
〔試験例1〕本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の作製
(1)抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの調製
精製ヒト免疫グロブリンM(CHEMICON社製)100μgを1回の免疫に使用した。初回免疫はヒト免疫グロブリンMとフロインドの完全アジュバンドを等量混合して調製したエマルジョン200μLを用い、これをBALB/cマウスの腹腔に注射した。追加免疫にはフロインドの不完全アジュバンドを使用して同様に調製したエマルジョン200μLを用い、2週間間隔で3回免疫を繰り返した。マウス眼底静脈より採血した血液中の抗体価をELISA法にて測定し、抗体価の高いマウスを選んで細胞融合に供した。4回目の免疫から2週間後にヒト免疫グロブリンM100μgを生理食塩液200μLに溶解したものをマウス腹腔に注射し、3日後に脾臓を摘出した。脾臓をRPMI1640培地中でほぐした後、1500rpmで遠心分離して脾細胞を回収した。これを牛胎児血清フリーのRPMI1640培地で3回以上洗浄後、15%牛胎児血清を含むRPMI1640培地2mLを加えて懸濁し、脾細胞懸濁液とした。脾細胞とミエローマ細胞SP2/O−AG14を6対1の割合で混合した後、50%ポリエチレングリコール存在下で細胞融合させ、ハイブリドーマ(融合細胞)を得た。1500rpmの遠心分離で沈殿部を集め、GKN液(グルコース2g、塩化カリウム0.4g、塩化ナトリウム8g、リン酸水素二ナトリウム1.41g及びリン酸二水素ナトリウム二水和物0.78gを精製水に溶かして1リットルとしたもの)に懸濁、遠心分離により洗浄後、沈殿部を回収した。これを15%牛胎児血清を含むRPMI1640培地30mLに懸濁したものを1ウェルあたり100μL、及びフィーダー細胞としてBALB/cマウスの胸腺細胞を2.5×10個/mL含むHAT培地を1ウェルあたり200μL96穴マイクロプレート3枚にそれぞれ分注し、37℃にて5%炭酸ガス培養器中でハイブリドーマを培養した。
培養上清中の抗ヒト免疫グロブリンM抗体の存在を、ヒト免疫グロブリンMを固相化したELISA法で確認した。10日後に全てのウェルでハイブリドーマの増殖を確認した。詳細には、10μg/mLのヒト免疫グロブリンM及び150mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.2;以下、PBSと略す)100μLを前記ハイブリドーマの増殖が確認された96穴マイクロプレートに分注し、4℃で1晩放置した。次に、この96穴マイクロプレートを0.05%Tween20及び1%牛血清アルブミンを含むPBS300μLで3回洗浄した後、各ウェルの培養上清を50μL/ウェル加え室温で1時間放置した。その後、当該プレートを0.05%Tween20を含むPBS(以下、PBS−Tと略す)で3回洗浄の後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGヤギ抗体(SouthernBiotech社)を50μL/ウェル加え、室温で1時間放置した。その後、当該プレートをPBS−Tで3回洗浄後、0.2%オルトフェニレンジアミン及び0.02%過酸化水素を含むクエン酸緩衝液(pH5.0)50μL/ウェルを加え、室温で15分間放置後、4.5N硫酸50μL/ウェルを加えて反応を停止させ、各ウェルの波長492nmにおける吸光度を測定し、ブランクと差のあるウェルを陽性ウェルとして選択した。
単クローン化は限界希釈法で行った。すなわちフィーダー細胞としてBALB/cマウスの胸腺細胞を1ウェルあたり10個ずつ分注した96穴マイクロプレートに、前記陽性ウェル中のハイブリドーマを10個/mLとなるように希釈したものを0.1mLずつ分注した。培地は、初回はHAT培地を、2回目以降は15%牛胎児血清を含むRPMI1640を用い、37℃にて5%炭酸ガス培養器中で10日間培養した。ELISA法による陽性ウェルの選択及び限界希釈法による単クローン化操作を各3回繰り返して抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ26種類(A-Z)を得た。
(2)モノクローナル抗体の生産
各ハイブリドーマの約10個をプリスタン前処理したマウス腹腔に投与し、生成した腹水をそれぞれ採取した。採取した各腹水から遠心分離により不溶物を除去し、等量の飽和硫安液を加え、撹拌しながら1晩放置後、遠心分離で沈殿を回収した。回収した沈殿を20mMトリス緩衝液(pH8.0)に溶解し、同緩衝液で透析した。透析内容物それぞれを同緩衝液で平衡化したDEAE−セファロースカラムに別個に吸着させた後、それぞれ同緩衝液中の塩化ナトリウム0〜300mMの濃度勾配で溶出させ、精製抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を得た。A-Zのハイブリドーマが産生した抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体をそれぞれa-zとして以下の試験に用いた。
【0030】
〔評価例〕
(1)評価例1 固相状態での反応性評価(従来型の評価法)
1μg/mLのヒト免疫グロブリンMを含むPBS50μLを96穴マイクロプレートに分注し室温で1時間放置し、ヒト免疫グロブリンMをマイクロプレートに固定した。次に3%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むPBS200μLでブロッキングした後、各抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を1μg/mL含むPBS50μLをウェルに加え室温で1時間放置した。その後、PBS−Tで3回洗浄の後、ペルオキシダーゼ標識抗マウス抗体を50μL/ウェル加え、室温で1時間放置し、PBS−Tで3回洗浄後、2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルフォン酸(ABTS)(KPL社製)基質液を50μL/ウェル加え、室温で20分間放置後、1%SDS水溶液50μL/ウェルを加えて反応を停止させ、波長405nmにおける吸光度を測定し、吸光度から各抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の反応性の強さを順位で示した(表1)。
【0031】
(2)評価例2 溶液状態での反応性評価(本発明の評価法)
200μg/mLのヒト免疫グロブリンMを含むPBS150μLに各抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体溶液(精製抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体400μg/mL、3%ポリエチレングリコール6000、5mMクエン酸三ナトリウム、2.5mM塩化カルシウム(無水)を含む100mMトリス塩酸緩衝液pH8.0)750μLを加えて攪拌し、10分後に日立U−3310分光光度計を用いて主波長340nm、副波長800nmの2波長で吸光度を測定した(吸光度2)。対照としてヒト免疫グロブリンMを含まないPBS150μLに各抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体溶液750μLを加えて攪拌し、同一条件で吸光度を測定した(吸光度1)。吸光度2から吸光度1を減じて、ヒト免疫グロブリンM特異的な免疫凝集にともなう吸光度変化量を算出した(表1)。
【0032】
【表1】

【0033】
(3)評価結果
吸光度変化量から、抗体tは、ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、かつ溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナルであることがわかった。なお、従来型の評価法である固相状態の反応性評価では抗体k、zの反応性の強さが突出しており、6番目の強さではあるものの、強さがkの半分以下である本発明のモノクローナル抗体tが選択される可能性は低い。また同時に、溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できるという特性は反応性の強さに必ずしも一致していないことから、従来型の固相状態による反応性の評価のみでは本発明の特性を持つモノクローナル抗体を見出すことは極めて困難であることがわかる。なお、抗体tを産生するハイブリドーマTは、受託番号FERM BP−11134として寄託されている。
【0034】
〔実施例1〕
抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体による免疫凝集及び非特異反応の抑制剤としての利用可能性の確認
(1)ヒト免疫グロブリンM溶液の調製
ヒト免疫グロブリンM(CHEMICON社製)を200μg/mL含む溶液を、PBSを用いて倍々の段階希釈を行い、100、50、25μg/mLのヒト免疫グロブリンM溶液を調製した。
(2)抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体t溶液の調製
3%のポリエチレングリコール6000、5mMのクエン酸三ナトリウム、2.5mMの塩化カルシウム(無水)を含むpH8.0の100mMトリス塩酸緩衝液(以下、抗体希釈液という)を用いて、本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体tを最終濃度400μg/mLとなるように希釈し抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体t溶液を調製した。対照として抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体tの代わりに非特異反応の阻止剤として用いられている抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を成分とする異好性阻止試薬HBR(SCANTIBODIES LABORATORY,INC.製、輸入元は長瀬産業株式会社)を最終濃度400μg/mLとなるように抗体希釈液で希釈し、異好性阻止試薬HBR溶液を調製した。
(3)測定方法
日立7170形自動分析装置を用いて、免疫凝集測定を実施した。具体的には(1)で調製した各濃度のヒト免疫グロブリンM溶液30μLに、(2)で調製した抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体t溶液150μLまたは異好性阻止試薬HBR溶液150μLを加えて攪拌後37℃で加温し、主波長340nm副波長800nmで10分間の吸光度変化量を感度(mAbs)として測定した。結果を図3に示す。
(4)結果
本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体t(社内管理番号73224)においてヒト免疫グロブリンM濃度25μg/mLから濃度依存的な感度上昇が認められ、1種類でヒト免疫グロブリンMの実用的な免疫凝集測定が可能であることが確認された。なお、対照とした異好性阻止試薬HBRにおいては感度上昇が全く認められず、ヒト免疫グロブリンMを凝集できないことが確認された。このことより、本発明の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体は従来の非特異反応の阻止剤に用いられていた抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体とは明らかに異なる性質で、従来の非特異反応の阻止剤では抑制できなかったようなヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応を抑制できる可能性が示唆された。
以下、いくつかの免疫反応測定における、本発明の非特異反応の抑制効果を確認した(実施例2〜4)。
【0035】
〔実施例2〕非特異反応の抑制効果の確認「1」(PSA測定用ラテックス試薬において
抗PSAモノクローナル抗体を利用したPSA測定用ラテックス試薬で確認された非特異反応に対する本発明の抑制効果を、汎用自動分析装置を利用した感度測定で確認した。PSAは前立腺の腺上皮細胞で特異的に産生される分子量約34,000の糖タンパク質で、高齢男性が罹患する代表的な悪性腫瘍のひとつである前立腺癌のスクリーニング(検診)に応用されている。
(1)試薬
(1−1)第一試薬
(i)基本試薬
0.5M KCl、0.1% BSA(ウシ血清アルブミン)を含む30mM HEPES 緩衝液(pH7.0)
(ii)本発明試薬
上記基本試薬に一種類でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体t溶液を抗体の最終濃度25、50、100μg/mLになるように添加した試薬
(iii)対照試薬
基本試薬に市販の異好性阻止試薬HBR、または抗ヒト免疫グロブリンMヤギポリクローナル抗体(MBC社製)を最終濃度25、50、100μg/mLになるように添加した試薬
(1−2)第二試薬
ナノピア(登録商標)PSA PSAラテックス試液 第2液(積水メディカル株式会社)
(2)測定装置
日立7170形自動分析装置:
パラメータ条件
(i)検体−第一試薬−第二試薬の量:4μL−100μL−100μL
(ii)分析法:2ポイントエンド法(測光ポイント19−34)
(iii)測定波長:主波長570nm/副波長800nm
(3)測定試料
(i)正常検体
女性血清を用いた。女性血中にPSAはほとんど存在しないか、存在してもごく微量であることから、陰性コントロールとして繁用される。
(ii)非特異反応検体
高値異常感度を示す女性血清を用いた。PSAは男性に特異的な抗原で、女性血清には本来見出されないものであるので、女性血清で高値異常感度を示すものは、PSA含量とは無関係にラテックス凝集が惹起された非特異反応の結果と考えられる。具体的には、市販血清(Serum from Anticoagulant−Free Whole Blood、Normal Female、TENNESSEE BLOOD SERVICES,INC.)の中から前記基本試薬と第二試薬との組み合わせにより、高い吸光度を示す女性血清をスクリーニングによって見出し、使用した。
(4)測定方法
第一試薬として基本試薬、本発明試薬および対照試薬、第二試薬としてナノピア(登録商標)PSA PSAラテックス試液第2液を使用して、日立7170形自動分析装置で正常検体ならびに非特異反応検体を測定し感度を確認した。
(5)測定結果
図4に示す正常検体の測定においては、本発明試薬、対照試薬ともに抗ヒト免疫グロブリンM抗体や異好性阻止試薬HBRの添加濃度に関わらず感度変化が認められないことから、検体中にPSAが存在せず、また抗ヒト免疫グロブリンM抗体やHBRの添加が測定感度には一切影響を与えないことがわかる。一方、図5に示す非特異反応検体の測定においては、添加物ゼロの基本試薬で150mAbs以上の異常値が確認され、対照試薬である抗ヒト免疫グロブリンMヤギポリクローナル抗体では100μg/mLの添加まで顕著な抑制効果は認められず、抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体を成分とする市販の異好性阻止試薬HBRの添加では阻止どころか、わずかではあるが感度の増加が認められる。
抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体tを添加した本発明の試薬では、25μg/mLの添加で顕著な異常値の低下が認められ、50μg/mLの添加でほぼ完全に非特異反応が抑制されている。本発明の測定方法は、非特異反応阻止の目的で用いられた従来型の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体や、抗ヒト免疫グロブリンMポリクローナル抗体といった対策法では阻止できないヒト免疫グロブリンMに起因する非特異反応に対して、強い抑制効果を示すことが確認できた。
【0036】
〔実施例3〕非特異反応抑制効果の確認「2」(CRP測定用ラテックス試薬において)
抗CRPモノクローナル抗体を利用したCRP測定用ラテックス試薬で確認された、非特異反応に対する本発明の抑制効果を、汎用自動分析装置を利用した測定で確認した。CRPは、非特異的な炎症マーカーとしてよく知られている。
(1)試薬
(1−1)第一試薬
(i)基本試薬
500mM塩化ナトリウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)
(ii)本発明試薬
基本試薬に1種類でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体t溶液を抗体の最終濃度50μg/mLになるように添加した試薬
(iii)対照試薬
基本試薬に受身型の非特異反応抑制効果を示すノーマルマウスIgGまたは市販の異好性阻止試薬HBRを50μg/mL添加した試薬
(1−2)第二試薬
SSタイプ ピュアオート(登録商標)S CRPラテックス ラテックス試液第2液(積水メディカル株式会社)
(1−3)キャリブレーター
SSタイプ ピュアオート(登録商標)S CRPラテックス キャリブレーター(積水メディカル株式会社)
(2)測定装置
日立7170形自動分析装置:
パラメータ条件
(i)検体−第一試薬−第二試薬の量:3μL−150μL−50μL
(ii)分析法:2ポイントエンド法(測光ポイント19−34)
(iii)測定波長:主波長570nm/副波長800nm
(iv)キャリブレーション:スプライン
(3)測定試料
非特異反応検体1:一般血清から見出された高値異常検体
非特異反応検体2:一般血清から見出された高値異常検体
(4)測定方法
第一試薬として基本試薬、本願発明試薬および対照試薬、第二試薬としてSSタイプ ピュアオート(登録商標)S CRPラテックス ラテックス試液第2液を使用して、日立7170形自動分析装置で非特異反応検体を測定し測定値を確認した。
(5)測定結果
表2に示すように非特異反応検体1,2の正常測定値(ウサギポリクローナル抗体を利用した他社ラテックス試薬で確認した参考値。製品名:CRP-ラテックス(II)「生研」X2 デンカ生研社)に対して、基本試薬における測定値はそれぞれ5〜10倍の高値となる。ノーマルマウスIgG50μg/mLを添加した対照試薬では、非特異反応検体1で測定値の改善が認められ、非特異反応検体2では改善が認められない。したがって、非特異反応検体1は異好性抗体いわゆるHAMA検体であることがわかる。異好性阻止試薬HBRを50μg/mL添加した対照試薬においては、非特異反応検体1,2ともに測定値が正常測定値レベルまで低下し、改善が認められる。抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体tを添加した本発明試薬においても、非特異反応検体1,2ともに測定値が改善し、その効果は異好性阻止試薬HBRよりも強い。本願発明の測定方法は、異好性阻止試薬HBRが強い阻止効果を示すような従来型の非特異反応に対しても、同等以上に強い抑制効果を示すことが確認できる。
【0037】
【表2】

【0038】
〔実施例4〕非特異反応抑制効果の確認「3」(インスリン測定用ラテックス試薬において)
本発明の非特異抑制剤の効果をインスリン測定用ラテックス試薬においても確認を行った。
(1)抗インスリンマウスモノクローナル抗体の取得
ヒトインスリン(Fitzgerald社製 30−AI51)を免疫原として、通常のモノクローナル抗体の取得方法により、抗原認識部位の異なる2種の抗インスリンマウスモノクローナル抗体を取得し、社内管理番号66221、66412とした(以下、それぞれ66221抗体、66412抗体という)。
(2)ラテックス粒子の作製
攪拌機、還流用冷却器、温度検出器、窒素導入管及びジャケットを備えたガラス製反応容器(容量2L)に、蒸留水1100g、スチレン200g、スチレンスルホン酸ナトリウム0.2g、及び、蒸留水50gに過硫酸カリウム1.5gを溶解した水溶液を仕込み、容器内を窒素ガスで置換した後、70℃で攪拌しながら48時間重合した。重合終了後、上記溶液をろ紙にてろ過処理し、ラテックス粒子を取り出した。得られたラテックス粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡装置(日本電子社製、「JEM−1010型」)を用いて10000倍の倍率でラテックス粒子を撮影し、最低100個以上の粒子について画像解析することにより平均粒子径を測定した。得られた平均粒子径は0.3μmであった。
(3)抗インスリンモノクローナル抗体感作ラテックス溶液の調製
1)66221抗体感作ラテックス粒子溶液の作製
平均粒子径0.3μmの1.0%ラテックス溶液(5mM トリス緩衝液(pH8.5)に、0.60mg/mL66221抗体(5mM トリス緩衝液(pH8.5))を等量添加して4℃で2時間攪拌した。その後、等量の0.5%BSAを含む5mM トリス緩衝液 (pH8.5)を添加して4℃で1時間攪拌した。次に、これを遠心して上清を除去後、沈殿を5mM トリス緩衝液(pH8.5)で再懸濁して、66221抗体感作ラテックス溶液とした。
2)66412抗体感作ラテックス粒子溶液の作製
66412抗体を用いて上記1)と同じ方法により66412抗体感作ラテックス粒子溶液を作製した。
(4)試薬
1)第一試薬の調製
(i)基本試薬
500mM塩化ナトリウム、0.2% BSAを含む5mM トリス緩衝液(pH8.5)
(ii)本発明試薬
基本試薬に、モノクローナル抗体t溶液を抗体の最終濃度が50μg/mLになるように添加した試薬
(iii)対照試薬
本発明のモノクローナル抗体tの代わりに市販の異好性阻止試薬HBRを抗体の最終濃度50μg/mLになるように添加した試薬
2)第二試薬の調製
66221抗体感作ラテックス粒子溶液及び66412抗体感作ラテックス粒子溶液を等量混合し、5mM トリス緩衝液(pH8.5)で波長600nmでの吸光度が5.0Absとなるように希釈して第二試薬とした。
(5)試料
糖負荷試験後採取された血清検体を試料とした。
(6)測定方法
(i)本発明試薬及び対照試薬の測定
第一試薬と第二試薬を組合せ、日立7170形自動分析装置を用いて、試料中のインスリン濃度を測定した。具体的には、試料10μLに第一試薬150μLを加えて37℃で5分間保温した後、第二試薬50μLを加えて攪拌した。凝集形成に伴う吸光度変化を、その後5分間にわたり、主波長570nm、副波長800nmで測定し、その吸光度変化量を濃度既知の標準物質を測定して得られる検量線にあてはめ、インスリン濃度を算出した。
(ii)基準試薬の測定
試料中のインスリン濃度をルミパルス(登録商標)インシュリンーN (富士レビオ社製) を用いて、添付文書及びメーカー推奨の方法に従って測定した。このインスリンの測定値と上記本発明試薬または対照試薬との相関を図6に示す。
(7)測定結果及び考察
図6の相関図において、対照試薬(HBR)を用いた試験の相関図において乖離検体が認められるのに対し、本発明試薬を用いた本実施例では乖離が抑制され、ルミパルス(登録商標)インシュリンーNと良好な相関効果が認められた。以上より、インスリン測定においても本発明試薬は、市販の異好性阻止試薬HBRで抑制できない非特異反応を抑制することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のモノクローナル抗体は、溶液状態における凝集反応性の強さを指標に選択されるため、ヒト免疫グロブリンMと効率的に反応し、より正確で安定したヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定方法が可能となる。
また、本発明のモノクローナル抗体により、高品質で安価なヒト免疫グロブリンMの免疫凝集測定試薬及び測定キットを提供する。
本発明の非特異反応の抑制剤、これを用いた免疫学的測定方法、免疫学的測定用試薬及び測定キットでは、HAMAなどに起因する従来型の非特異反応に加えて、既知の対策で回避できなかった非特異反応に関しても、ヒト免疫グロブリンMに起因すると考えられる非特異反応であれば、測定項目に関わらず抑制することができるため、これまでの測定法よりも正確な測定値を与える。
【受託番号】
【0040】
〔寄託された微生物への言及〕
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成20年9月19日(原寄託日)
平成21年6月9日(原寄託によりブタペスト条約に基づく寄託への移管日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−11134

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の測定対象成分を測定用抗体又は測定用抗原との抗原抗体反応により測定を行う免疫学的測定方法において、下記(1)〜(3)に記載のモノクローナル抗体および下記(4)に記載の断片からなる群から選ばれる1以上の添加により、前記抗原抗体反応以外の非特異反応であって、HAMAに起因する非特異反応及び/又は異好性阻止試薬により抑制できない非特異反応を抑制することを特徴とする免疫学的測定方法。
(1)ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態において1種類でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
(2)以下の工程を含む抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の製造方法によって取得された(1)に記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
工程1)ヒト免疫グロブリンMを抗原として抗ヒト免疫グロブリンM抗体産生ハイブリド
ーマを取得する工程
工程2)工程1で取得したハイブリドーマが産生する抗体を、溶液状態のヒト免疫グロブ
リンMと接触させて、当該溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づ
く免疫凝集体を形成できる抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
工程3)工程2で選択されたハイブリドーマが産生する抗体を取得する工程
(3)FERM BP−11134であるハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体に由来するFab部分を含みヒト免疫グロブリンMとの結合能を有する断片。
【請求項2】
異好性阻止試薬が、抗ヒト免疫グロブリンMポリクローナル抗体、抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体(但し、下記(1)〜(4)であるものは含まない)、ノーマルマウスIgG、からなる群より選択されるものである、請求項1に記載の免疫学的測定方法。
(1)ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態において1種類でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
(2)以下の工程を含む抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の製造方法によって取得された(1)に記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
工程1)ヒト免疫グロブリンMを抗原として抗ヒト免疫グロブリンM抗体産生ハイブリド
ーマを取得する工程
工程2)工程1で取得したハイブリドーマが産生する抗体を、溶液状態のヒト免疫グロブ
リンMと接触させて、当該溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づ
く免疫凝集体を形成できる抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
工程3)工程2で選択されたハイブリドーマが産生する抗体を取得する工程
(3)FERM BP−11134であるハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体に由来するFab部分を含みヒト免疫グロブリンMとの結合能を有する断片。
【請求項3】
異好性阻止試薬が、HBR(SCANTIBODIES LABORATORY,INC.製)である請求項1に記載の免疫学的測定方法。
【請求項4】
下記(1)〜(3)に記載のモノクローナル抗体および下記(4)に記載の断片からなる群から選ばれる1以上を含む、HAMA阻害剤。
(1)ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態において1種類でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
(2)以下の工程を含む抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体の製造方法によって取得された(1)に記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体。
工程1)ヒト免疫グロブリンMを抗原として抗ヒト免疫グロブリンM抗体産生ハイブリドーマを取得する工程
工程2)工程1で取得したハイブリドーマが産生する抗体を、溶液状態のヒト免疫グロブリンMと接触させて、当該溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
工程3)工程2で選択されたハイブリドーマが産生する抗体を取得する工程
(3)FERM BP−11134であるハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体に由来するFab部分を含みヒト免疫グロブリンMとの結合能を有する断片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−27751(P2011−27751A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249274(P2010−249274)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【分割の表示】特願2010−501720(P2010−501720)の分割
【原出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)