説明

モノクローナル抗体

【課題】安定性の良好なヒトアルブミンモノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】ヒトアルブミンモノクローナル抗体は、室温における保存開始後30日以内において、保存前の抗体価に対して80%以上の残存活性を有する、モノクローナル抗体を提供する。このモノクローナル抗体によれば、ヒトアルブミンに対する結合活性が安定して保持されるため、例えば、免疫学的分析用試薬の有効成分として使用することにより、正確性および絶対的定量性の精度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、モノクローナル抗体、特に、安定性の高いモノクローナル抗体のスクリーニング方法、そのようなモノクローナル抗体の産生するハイブリドーマに関する。
【0002】
【従来の技術】糖尿病性腎症は、糖尿病の主要な合併症の一つであり、旧来は検尿法により尿タンパク陽性をもって、診断されてきた。しかし、この方法によって診断される時期には既に腎不全が進行している場合が多いため、これに代わる早期診断法が望まれていた。
【0003】近年、尿中タンパクの増加に先立ち、微量のアルブミンが尿中に認められることが明らかになり、糖尿病腎症の早期診断マーカーとしてアルブミンが注目されてきている。微量マーカーの特異的検出には、これに対する特異的抗体を用いることが有利である。
【0004】このため、抗体を用いて尿中アルブミンを検出するシステムが市販されている。本願と同一出願人によって先に出願され公開されている特開2000−139460号公報には、ヒトアルブミンと高速で抗原抗体反応を検出可能なまでに達成し、短時間で尿中アルブミンを検出できるモノクローナル抗体やハイブリドーマが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、抗原抗体反応を用いる検出システムとしては、システム作製後から使用するまでの間に、抗体が徐々に結合能を失うという問題があった。例えば、多くのヒトアルブミンモノクローナル抗体自体の結合能は、室温で10日保存することにより、おおよそ50%以下になる。このため、測定精度の低下を回避するためには、被験試料の測定と同時に標準アルブミンによる検量線を作製する必要があった。さらに、検出感度が低下することは避けられない問題であった。特に、前述したように、糖尿病腎症の検出には、尿中の微量アルブミンの検出を確実にかつ定量精度よく達成する必要がある。なお、システム調製後から使用時までの間を低温で貯蔵することは現実的ではない。
【0006】一方、各種モノクローナル抗体を安定化するための安定化剤を並存させるという手段も採用されている。しかしながら、熱安定性の高いモノクローナル抗体を創出し、これを用いるという試みは未だなされていない。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ヒトアルブミンを免疫原として、抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから、特に、熱安定性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。すなわち、前記免疫原によりマウスを免疫し、このマウスの脾細胞とマウスミエローマ細胞とを細胞融合してハイブリドーマを得た。さらに、得られたハイブリドーマの培養液上清を、一定の温度条件で処理した後にその抗体価を測定して、抗体価の良好なハイブリドーマを選択して、本発明のハイブリドーマを得た。こうして得られる本発明による代表的なハイブリドーマがマウスハイブリドーマ細胞6A12株である。なお、マウスハイブリドーマ細胞6A12株は、2001年6月21日付けで受託番号FERM BP−7635として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(住所:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)でに寄託されている。このようして得られたハイブリドーマから取得されるモノクローナル抗体は、高い熱安定性を有している。すなわち、高温における安定性のみならず常温における安定性も有している。かかるモノクローナル抗体によれば、ヒトアルブミン検出システムを作製しても、当初の検出感度をより長期にわたって維持し、また、標準試料を用いた検量線を用いなくても定量性を確保できる。また、この方法によれば、ハイブリドーマの抗体価測定工程前に培養液上清を加熱処理するため、加熱処理後の抗体価測定により、一段階で熱安定性のあるモノクローナル抗体産生能のあるクローンをスクリーニングすることができる。このように、抗体価の一次スクリーニングに先だって、加熱処理をすることは、従来のスクリーニング方法とは全く相違する点である。通常、抗体産生細胞スクリーニングは、産生されたそのままの抗体の抗体価の大小を検出し、その後、抗体価の有無あるいは大小に基づいてクローニングを行なっていた。本発明は、抗体の結合特異性や抗体産生能の大小に基づいてハイブリドーマをクローニングしようとするものではなく、熱安定性モノクローナル抗体の検出しようとするからこそ、従来の抗体価の一次スクリーニングを排除できる。さらに、既存あるいは新規なモノクローナル抗体に対し、所定の温度条件下でのスクリーニングを実施することによって、安定性の良好なモノクローナル抗体が得られる。
【0008】すなわち、本発明は、熱的安定性の高いモノクローナル抗体、その取得方法、その製造方法及び免疫学的試薬に関し、以下の手段を提供する。
(1)ヒトアルブミンに対するモノクローナル抗体であって、このモノクローナル抗体は、室温における保存開始後30日以内において、保存前の抗体価に対して80%以上の抗体価を有する、モノクローナル抗体。
(2)マウスハイブリドーマ細胞6A12株(受託番号FERM BP−7635)によって産生される抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体。
(3)(1)に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(4)マウスハイブリドーマ細胞6A12株(受託番号FERM BP−7635)である、(3)記載のハイブリドーマ。
(5)熱的に安定なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング方法であって、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合してハイブリドーマを得る工程と、取得されたハイブリドーマの培養液上清を少なくとも熱処理する工程と、熱処理工程後に、前記抗体産生細胞に由来する抗体価を測定する工程、を有する、方法。
(6)(5)記載の方法によって単離されるハイブリドーマである、(3)記載のハイブリドーマ。
(7)(3)、(4)及び(6)のいずれかに記載のハイブリドーマを培養する工程を有する、(1)記載のモノクローナル抗体の製造方法。
(8)安定性の高いモノクローナル抗体をスクリーニングする方法であって、(a)被験モノクローナル抗体を、40℃〜60℃の一定温度下に少なくとも30分間曝す工程、(b)前記(a)工程後に、被験モノクローナル抗体の抗体価を測定する工程、(c)以下に示す条件の少なくとも一つに合致する被験モノクローナル抗体を選択する工程、(i)試験温度が40℃〜50℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の抗体価に対する残存活性が80%以上である(ii)試験温度が45℃〜55℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の抗体価に対する残存活性が70%以上である(iii)試験温度が50℃〜60℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の抗体価に対する残存活性が60%以上である、を含む方法。
(9)前記被験モノクローナル抗体は、抗ヒトアルブミン抗体である、(8)記載の方法。
(10)(8)又は(9)に記載の方法によって単離される、(1)記載のモノクローナル抗体。
(11)(1)、(2)および(10)のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む、尿中ヒトアルブミンの免疫学的分析用試薬。
(12)(1)、(2)および(10)のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む、尿中ヒトアルブミンの免疫学的分析用装置。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明のモノクローナル抗体は、ヒトアルブミンに結合能を有している。免疫原としては、各種市販のヒト血清アルブミンあるいはその一部、あるいはヒトアルブミンに特異的なペプチド鎖を使用できる。なおヒトアルブミンの一部又は特異的ペプチド鎖は、各種公知の方法で調製することができる。本発明のモノクローナル抗体は、他のウシ血清アルブミンや卵白アルブミン等と交差しない、特異的結合性を有していることが好ましい。
【0010】ヒトアルブミン由来の免疫原は、適当はアジュバントと混合して免疫動物に投与される。アジュバントには、フロイントコンプリート(FCA)あるいはインコンプリートアジュバント等が公知であり、各種アジュバントを必要に応じて使用する。免疫操作は、抗体価の上昇が確認できるまで適数回行なわれる。本発明において用いる免疫動物は、特に限定しないが、例えば、細胞融合用の骨髄腫細胞株が多く存在し、かつ高確立でハイブリドーマを樹立する技術が確立されている動物種を用いることが好ましい。例えば、マウスが好ましい免疫動物である。また、免疫操作は、動物個体に対して行なうものに限定されず、培養した免疫担当細胞に対してインビトロで免疫感作して抗体産生細胞を得ることもできる。取得された抗体産生細胞は、本発明のモノクローナル抗体を得るためにスクリーニング及びクローニング可能に形質転換される。好ましくは、抗体産生細胞は、ミエローマ細胞との細胞融合によってハイブリドーマとする。
【0011】ハイブリドーマは、ヒトアルブミンに対する結合活性に基づいてスクリーニングされる。本発明においては、好ましくは、ハイブリドーマの培養液上清を、一定条件で加熱処理し、この処理液を、ヒトアルブミンに対する結合活性の測定に供する。加熱処理条件は、温度と時間とで規定されるが、激しすぎても有効なスクリーニングを達成できず、また、穏やかすぎても同様である。好ましくは、50℃〜70℃であり、より好ましくは55℃〜65℃である。特開平に、55℃〜65℃であると、適度な時間設定、例えば、15分〜1時間程度(好ましくは30分以上)で、効果的に熱的安定性の有無あるいはその程度を検出できる。55℃未満であると、熱安定性の有無あるいはその程度を検出しにくく、65℃を超えると多くのタンパクが速やかに失活する温度であり、この場合も熱的安定性の程度を検出しにくい。最も好ましくは、約60℃である。なお、後述するように、60℃、30分の加熱処理後において抗体価を検出できるクローンから、従来のヒトアルブミンモノクローナル抗体に比して良好な耐熱性を備えるモノクローナル抗体が得られている。
【0012】次いで、熱処理後の培養液上清の抗体価を測定する。抗体価の測定は、例えば、ヒトアルブミンを固定化したELISA用マイクロプレートに処理液を加え、インキュベートし、標識したモノクローナル抗体(典型的にはマウス抗ヒトアルブミン抗体/アルカリフォスファターゼコンジュゲート)を添加し、洗浄後にウエルに対してアルカリフォスファターゼ活性等の標識化合物によって呈される活性を測定することによって行なうことができる。なお、抗体価の検出のためには、各種の標識抗体を用いることができる。例えば、上記したアルカリフォスファターゼをはじめとする各種酸素の他、各種の蛍光物質、発光物質等で標識した抗体を用いることができる。また、標識の態様は、抗体に直接標識してあってもよいし、アビヂン−ビオチン系を用いた間接標識されていてもよい。
【0013】通常、細胞融合して得られたハイブリドーマを、まずその抗体産生能をスクリーニングし、その後、さらに別途のスクリーニングを施して所望のクローンを得るのであるが、本工程では、これらのハイブリドーマの産生するモノクローナル抗体(培養液上清)に対して、一定条件下における加熱処理を経た後に、抗体価を測定することにより、簡易に効率的に熱安定性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンを得ることができる。
【0014】なお、熱安定性であったクローンについてはさらに、ウシ血清アルブミンあるいは卵白アルブミン等の他のアルブミンに交差しない抗体を産生している細胞を選択するスクリーニングを実施することができる。本発明においては、好ましくは、ウシ血清アルブミン及び卵白アルブミンとの交差性に基づくスクリーニングを行う。以上のようなスクリーニングを経て選択されたクローンは必要に応じてサブクローニングされる。
【0015】得られたハイブリドーマを適当な条件下で培養し、産生される抗体を回収することにより、本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。ハイブリドーマがホモハイブリドーマである場合には、同系の動物の腹腔空に接種して生体内培養が可能であり、この動物の腹水からモノクローナル抗体を回収できる。また、ヘテロハイブリドーマの場合には、ヌードマウスを宿主として使用して生体内培養が可能である。
【0016】適当な条件を設定することにより、生体外培養によっても本発明のモノクローナル抗体を製造できる。かかる生体外培養に好ましく用いられる培地や添加剤は当業者においてよく知られている。生体外培養による場合には、培養上清からモノクローナル抗体を回収することができる。
【0017】回収されたモノクローナル抗体は、さらに、飽和硫安塩析、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の当業者に周知の手段により精製することができる。
【0018】このようにして得られた抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体は、高温における安定性を備えるのみならず、常温における安定性、さらには酸やアルカリ等に対する安定性も備えている。本発明のマウスハイブリドーマ細胞6A12株由来のヒトアルブミン特異モノクローナル抗体は、室温(20℃〜30℃)における長期安定性試験において、20日経過後に95%以上、30日経過後に80%以上(好ましくは90%以上)、40日経過後に70%以上(好ましくは80%以上)、60日経過後に60%以上(好ましくは70%以上)の安定性を有していることが確認されている(図1参照)。
【0019】また、本発明のモノクローナル抗体および/または既製のモノクローナル抗体に対して、さらに、熱安定性を評価することにより、高温における安定性および常温における安定性に優れるモノクローナル抗体を得ることができる。特に、6A12株由来モノクローナル抗体を評価の指標として用いることにより、各種の条件の熱安定性試験における指標を容易に設定することができる。熱処理条件は、得ようとする安定性レベルによっても異なるが、好ましくは、40℃〜65℃の一定温度下に一定時間曝すことが好ましい。40℃未満であると、熱安定性の差がでにくく、また65℃を超えると、タンパク質の変性程度が大きすぎて熱安定性の差がでにくい。好ましくは、40℃〜60℃の一定温度に曝すようにする。その後、抗体価を測定し、加熱処理前の抗体価に対する残存活性を指標に熱安定性の良好なモノクローナル抗体をスクリーニングできる。本発明のモノクローナル抗体としては、例えば、以下に示す条件の少なくとも一つに合致するものを採用することができる。
(i)試験温度が40℃〜50℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の結合活性に対する残存活性が80%以上である(ii)試験温度が45℃〜55℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の結合活性に対する残存活性が70%以上である(iii)試験温度が50℃〜60℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の結合活性に対する残存活性が60%以上である本発明のハイブリドーマである6A12株からのヒトアルブミン特異モノクローナル抗体と市販品との比較によれば、上記した温度範囲において、明確に本発明のモノクローナル抗体と市販品との残存活性を区別できることが確認されており、上記温度範囲における残存活性%を指標とすることにより、熱安定性の高いヒトアルブミンモノクローナル抗体が選抜できることが確認されている。
【0020】さらに、一定温度で一定時間後における残存活性、あるいは残存活性の経時変化を評価することによっても、好ましいヒトアルブミンモノクローナル抗体を選抜できる。温度は、40℃〜65℃の範囲のいずれかの温度であることが好ましいが、より好ましくは50℃〜65℃の範囲の一定温度である。好ましくは、55℃〜65℃である。本発明のハイブリドーマである6A12株からのヒトアルブミン特異モノクローナル抗体と市販品との比較によれば、上記した温度範囲において、本発明のモノクローナル抗体と市販品との残存活性を明確に区別できることが確認されており、上記温度範囲における残存活性%を指標とすることにより、熱安定性の高いヒトアルブミンモノクローナル抗体が選抜できることが確認されている。処理時間は温度にもよるが、30分から2時間程度であることが好ましい、特に、60℃における6A12株由来ヒトアルブミン特異モノクローナル体と市販品とを比較すると、30分後には、市販品は残存活性が20%以下であり、1時間後には10%以下、2時間後には、ほとんど残存活性がなかったのに対し、6A12株由来抗体は、それぞれ80%、60%、50%以上の残存活性を有していた。また、60℃における安定試験では、30分以上6時間以内で6A12株由来抗体と市販抗体との間に明確な差が認められている。
【0021】本発明のモノクローナル抗体は、ヒトアルブミンの免疫学的な分析に使用できる。特に、熱安定性および常温安定性に優れるので、当初の検出感度を維持でき、また、絶対定量性を確保して簡易でかつ正確な検査用試薬として有用である。本発明のモノクローナル抗体を免疫学的分析用試薬は、免疫学的沈降反応を利用した分析系、免疫学的粒子凝集反応を利用した分析系、サンドイッチ法を利用する分析系、競合阻害反応原理を利用した分析系等の各種公知の分析系(方法及び装置を含む)に適用することができる。特に、糖尿病性腎症の初期を検出するのに有用な尿中ヒトアルブミン検査用試薬となる。すなわち、日常的なケア及び観察が必要とされる糖尿病患者あるいは糖尿病素因者が自宅で尿を採取して、尿中アルブミン量を自己管理するのに非常に有用である。
【0022】本発明のモノクローナル抗体によれば、高温における安定性及び常温における安定性が優れるため、取り扱いや貯蔵が容易であるとともに、当該抗体の結合活性に基づく免疫学的反応による分析系においてアッセイを精度よくまた正確に実施できる期間を長期化することができる。したがって、本モノクローナル抗体を含む組成物は、研究用試薬や検査用試薬等の各種分析用試薬や分析用装置に有用である。また、熱的安定性が高いことから、結晶化工程、精製工程等の各種の抗体に関する操作においても取り扱いが容易であり、操作を複雑化することがない。したがって、本モノクローナル抗体産生細胞を培養してモノクローナル抗体を製造する方法は、工業的な生産に有用であるとともに、得られたモノクローナル抗体は、工業的に実施されるヒトアルブミンの製造方法の精製手段として及び他の薬剤や治療剤を製造する場合におけるアルブミンの除去手段としても有用性が高い抗体となっている。
【0023】
【発明の効果】本発明によれば、安定性の高いヒトアルブミン特異モノクローナル抗体を得ることができ、抗体の経時的失活に起因する課題を解決できる。すなわち、免疫学的分析系における絶対的定量性の確保及び検出感度の確保が容易となる。また、その安定性に基づいて、ヒトアルブミン特異抗体を使用する、薬剤、治療剤、試薬等の製造においても、工程における抗体安定性確保のための操作を簡略化することができる。
【0024】
【実施例】以下、本発明の具体例について説明するが、これらの具体例は、本発明の正確な理解のために提示されるものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】(実施例1)ハイブリドーマの作製ヒトアルブミン10mg/mlが15μl、ヒトIgA2.9mgが52μl及びPBSが1.43mlからなる抗原液1.5ml中の1.4mlを、等量のフロイントアジュバントと注射器内にて混合し、エマルジョンとした。このエマルジョンを別の注射器に1ml採取し、投与抗原量が0.2mgとなるように、雌5週令BALB/cマウスの腹腔内に注射した。この操作を2週間毎に2回行い、ELISA法により抗体生産を確認した後、同マウスの腹腔内に抗原注射を打った。
【0026】免疫終了後のマウス脾細胞を取り出し、RPMI 1640培地10mlで細胞をほぐした後、15ml容の遠心チューブに移して放置した。そして、塊が沈んだ上清を別の遠心チューブに移し、1500rpmで5分間、上清を捨て、細胞をほぐし10mlのRPMI 1640培地を加えた。
【0027】この細胞懸濁液から、後述するミエローマ細胞の5倍相当量を採取し、1500rpmで5分間遠心して上清を捨てた後、融合バッファー5mlを加えた。これを1500rpmで5分間遠心して上清を捨て、融合バッファーにて4×107細胞/mlとした。
【0028】ミエローマ細胞については、マウス骨髄腫細胞を取り出してRPMI 1640培地で細胞をほぐし、細胞数をカウントした後、1500rpmで5分間遠心分離して上清を捨て、融合バッファーにて8×106細胞/mlとした。
【0029】(実施例2)高安定性モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング上記により調製された脾細胞とミエローマ細胞とを、5:1の細胞数割合で用いて電気細胞融合法により融合させた後、いわゆるHAT培地に分散し96ウェルマイクロプレートにて培養した。ハイブリドーマ細胞の出現したウェルを目視でチェックし、その培養液上清をサンプリングした。高安定性の抗体をスクリーニングするために、培養液上清を一旦60℃30分間処理したのち、ただちに抗ヒト血清アルブミン抗体価の有無を測定した。即ち、ヒト血清アルブミンをあらかじめコーティングしたELISA用マイクロプレートに上記熱処理培養液上清を加え、1時間インキュベートし、洗浄後、抗マウスイムノグロブリンG/アルカリフォスファターゼコンジュゲートを1時間反応させ、洗浄後ウェルに結合しているアルカリフォスファターゼ活性を測定した。通常のスクリーニング法では熱処理工程がないが、このような方法を用いることで、単なる抗体の生産能でなく高い耐熱性ひいては高安定性のモノクローナル抗体を得ることができる。こうして得られた抗体産生株はマウスハイブリドーマ細胞6A12株と名付けた。
【0030】(実施例3)抗体の熱安定性比較 その16A12株を培養して得た上清より、モノクローナル抗体を精製し、当該抗体と市販されている抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体3種とについて安定性試験を実施し安定性を比較した。まず、各抗体をPBS(等張リン酸緩衝液)に希釈し、腐敗防止のために0.01%のアジ化ナトリウムを添加し、室温で70日間放置し、ELISAにより抗体価を経時的に測定した。なお、室温とは、おおよそ20℃〜30℃を意味し、本安定性試験は、この範囲に温度制御されかつ湿度が30〜70%R.Hで制御された装置(暗所)内で実施された。安定性試験前の抗体価を100%として、所定時間経過時の残存抗体価を%で表示した。結果を図1に示す。6A12株由来抗体は室温でより長時間にわたって、市販抗体よりも著しい安定性を示した。すなわち、約10日間経過時において、6A12株由来抗体がほぼ100%の残存活性を有していたのに対し、市販品群では40〜50%の残存活性であり、20日間経過時に、6A12株由来抗体が依然として約100%であるのに対し、市販品群は10〜40%であり、早期に顕著な安定性の差が観察された。特に試験開始後10日間内において市販品は顕著に残存活性が低下した。さらに、6A12株由来抗体は、30日経過時に90%、40日経過時に80%、0日経過時に80%、70日経過時に70%を維持していた。
【0031】以上の結果によれば、6A12株由来抗体は、市販品抗体に比較して室温において顕著に高い安定性を示しており、当該抗体は、高温における安定性に優れるだけでなく、室温における安定性も高いことが示された。
【0032】(実施例4)抗体の熱安定性比較 その26A12株を培養して得た上清より、モノクローナル抗体を精製し、当該抗体と市販されている抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体3種(実施例3で使用したのと同一種類である。)とについて安定性試験を実施し安定性を比較した。まず、各抗体をPBS(等張リン酸緩衝液)に希釈し、30℃、40℃、50℃、60°、70℃、及び80℃の各温度で30分間処理し、ELISAにより抗体価を測定した。安定性試験前の抗体価を100%として、処理後の残存抗体価を%で表示した。結果を図2に示す。6A12抗体は特に50℃以上で市販抗体よりも著しい安定性を示した。これらの結果によれば、少なくとも40℃以上、好ましくは50℃以上60℃以下でヒトアルブミンモノクローナル抗体を処理することにより、これらの熱安定性を評価し、高温で安定でありおよび/または室温で安定である抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体をスクリーニングできることが明らかであった。
【0033】(実施例5)抗体の熱安定性比較 その36A12株を培養して得た上清より、モノクローナル抗体を精製し、当該抗体と市販されている抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体3種(実施例3と同一種類である。)とについて安定性試験を実施し安定性を比較した。まず、各抗体をPBS(等張リン酸緩衝液)に希釈し、60℃で30分間から6時間処理し、ELISAにより抗体価を測定した。温度処理前の抗体価を100%として、処理後の残存抗体価を%で表示した。結果を図3R>3に示す。6A12株由来抗体は60℃でより長時間にわたって、市販抗体よりも著しい安定性を示した。これらの結果によれば、60℃における安定性では、30分以上6時間以内の処理時間内では、6A12株由来抗体と市販品の安定性は明確に区別できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3における安定性試験結果を示すグラフ図である。
【図2】実施例4における安定性試験結果を示すグラフ図である。
【図3】実施例5における安定性試験結果を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ヒトアルブミンに対するモノクローナル抗体であって、このモノクローナル抗体は、室温における保存開始後30日以内において、保存前の抗体価に対して80%以上の抗体価を有する、モノクローナル抗体。
【請求項2】マウスハイブリドーマ細胞6A12株(受託番号FERM BP−7635)によって産生される抗ヒトアルブミンモノクローナル抗体。
【請求項3】請求項1に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項4】マウスハイブリドーマ細胞6A12株(受託番号FERM BP−7635)である、請求項3記載のハイブリドーマ。
【請求項5】熱的に安定なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング方法であって、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合してハイブリドーマを得る工程と、取得されたハイブリドーマの培養液上清を少なくとも熱処理する工程と、熱処理工程後に、前記抗体産生細胞に由来する抗体価を測定する工程、を有する、方法。
【請求項6】請求項5記載の方法によって単離されるハイブリドーマである、請求項3記載のハイブリドーマ。
【請求項7】請求項3、4および6のいずれかに記載のハイブリドーマを培養する工程を有する、請求項1記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項8】安定性の高いモノクローナル抗体をスクリーニングする方法であって、(a)被験モノクローナル抗体を、40℃〜60℃の一定温度下に少なくとも30分間曝す工程、(b)前記(a)工程後に、被験モノクローナル抗体の抗体価を測定する工程、(c)以下に示す条件の少なくとも一つに合致する被験モノクローナル抗体を選択する工程、(i)試験温度が40℃〜50℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の抗体価に対する残存活性が80%以上である(ii)試験温度が45℃〜55℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の抗体価に対する残存活性が70%以上である(iii)試験温度が50℃〜60℃のいずれかの温度において、前記被験モノクローナル抗体の加熱処理工程前の抗体価に対する残存活性が60%以上である、を含む方法。
【請求項9】前記被験モノクローナル抗体は、抗ヒトアルブミン抗体である、請求項8記載の方法。
【請求項10】請求項8又は9に記載の方法によって単離される、請求項1記載のモノクローナル抗体。
【請求項11】請求項1、2および10のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む、尿中ヒトアルブミンの免疫学的分析用試薬。
【請求項12】請求項1、2および10のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む、尿中ヒトアルブミンの免疫学的分析用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2003−12698(P2003−12698A)
【公開日】平成15年1月15日(2003.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−193302(P2001−193302)
【出願日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】