説明

モノマー、ポリマーおよびそれを用いた眼用レンズ

【課題】
本発明は、高い酸素透過性を有し、なおかつ高含水率、低弾性率を有するポリマー用のモノマーを提供する。また該モノマーからなるポリマーおよび眼用レンズを提供する。
【解決手段】
下記式(a)で表されることを特徴とするモノマー。
【化1】


[式(a)中、Xは重合可能な炭素炭素不飽和結合を有する基を表す。RはHまたはメチル基を表す。Aはシロキサニル基を表す。mは2〜10の整数を表す。nは2〜10の整数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノマー、ポリマーおよびそれを用いた眼用レンズに関するものである。本発明はコンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズとして特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年高い酸素透過性を有するポリマー用、特に眼用レンズ用のモノマーとして3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランが広く利用されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランは親水性がほとんど無いために、それから得られるポリマーは低含水率であり、眼用レンズとしては好ましくないものであった。また、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランから得られるポリマーは比較的弾性率が高く、ソフトコンタクトレンズとしては使用しにくいものであった。
【0003】
また、例えば特許文献3には、下記式(H)
【0004】
【化1】

【0005】
で表されるモノマーが記載されている。式(H)のモノマーを使用した場合は3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランと比較すると高含水率かつ低弾性率のポリマーが得られる傾向が有る。しかし含水率、弾性率ともに十分ではなく、さらなる高含水率化、低弾性率化が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−142324号公報
【特許文献2】特開昭54−24047号公報
【特許文献3】特開昭60−131518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決し、高い酸素透過性を有し、なおかつ高含水率、低弾性率を有するポリマー用のモノマーを提供することを目的とする。また該モノマーからなるポリマーおよび眼用レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のモノマーおよびポリマーは、下記の構成を有する。
「〔1〕下記式(a)で表されることを特徴とするモノマー。
【0009】
【化2】

【0010】
[式(a)中、Xは重合可能な炭素炭素不飽和結合を有する基を表す。RはHまたはメチル基を表す。Aはシロキサニル基を表す。mは2〜10の整数を表す。nは2〜10の整数を表す。]
〔2〕〔1〕に記載のモノマーを重合成分として含むことを特徴とするポリマー。
〔3〕〔2〕に記載のポリマーを用いてなる眼用レンズ。
〔4〕〔2〕のポリマーを用いてなるコンタクトレンズ。」
【発明の効果】
【0011】
本発明のモノマーにより、高い酸素透過性を有し、かつ高含水率、低弾性率を有するポリマーおよび眼用レンズが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明のモノマーは下記式(a)で表されることを特徴とする。
【0013】
【化3】

【0014】
[式(a)中、Xは重合可能な炭素炭素不飽和結合を有する基を表す。RはHまたはメチル基を表す。Aはシロキサニル基を表す。mは2〜10の整数を表す。nは2〜10の整数を表す。]
式(a)中、Xは重合可能な炭素炭素不飽和結合を有する基を表すが、その具体的な例としては下記式(x1)〜(x6)で表される基を挙げることができる。中でも合成の容易さ、重合性の高さの点で(x1)および(x2)で表される基が好ましく、最も好ましいのは式(x2)で表される基である。
【0015】
【化4】

【0016】
[式(x1)〜(x6)中、RはHまたはメチル基を表す。]
式(a)中、RはHまたはメチル基を表すが、親水性の付与しやすさという点ではHの方が好ましい。
【0017】
式(a)中、Aはシロキサニル基を表す。本明細書においてシロキサニル基とは、少なくとも1つのSi−O−Si結合を有する基を表す。シロキサニル基としては下記式(A)で表される置換基が好ましく使用される。
【0018】
【化5】

【0019】
[式(A)中、A〜A11はそれぞれが互いに独立にH、置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。kは0〜200の整数を表し、a、b、cはそれぞれが互いに独立に0〜20の整数を表す。ただしk=a=b=c=0の場合は除く。]
式(A)中、A〜A11はそれぞれが互いに独立にH、置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が、その具体的な例としてはH、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基を挙げることができる。これらの中で最も好ましいのはメチル基である。
【0020】
式(A)中、kは0〜200の整数であるが、好ましくは0〜50、さらに好ましくは0〜10である。a、b、cはそれぞれが互いに独立に0〜20の整数であるが、好ましくはa、b、cがそれぞれが互いに独立に0〜5の整数である。k=0の場合、好ましいa、b、cの組み合わせはa=b=c=1、a=b=1かつc=0、およびa=1かつb=c=0である。
【0021】
式(A)で表される置換基の中で、工業的に比較的安価に入手できることから特に好適なものは、トリス(トリメチルシロキシ)シリル基、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリル基、ジメチル(トリメチルシロキシ)シリル基、ポリジメチルシロキサン基、ポリメチルシロキサン基およびポリ−コ−メチルシロキサン−ジメチルシロキサン基などである。
【0022】
式(a)中、mは2〜10の整数を表すが、該モノマーから得られるポリマーの酸素透過性と高含水率、低弾性率をバランスさせるという点ではmは2または3が好ましく、2が最も好ましい。
【0023】
式(a)中、nは2〜10の整数を表すが、合成の容易さという点ではnは2または3が好ましく、3が最も好ましい。
【0024】
一般式(a)で表されるモノマーの合成法の一例としては、以下の方法を挙げることができる。まず、式(a1)
【0025】
【化6】

【0026】
[式(a1)中、RはHまたはメチル基を表す。mは2〜10の整数を表す。]
で表される化合物と、式(a2)
【0027】
【化7】

【0028】
[式(a2)中、ZはI、Br、Cl、p−トルエンスルホニロキシ基などの脱離基を表す。nは2〜10の整数を表す。]
で表される化合物を、水酸化カリウムや水素化ナトリウムなどの塩基の存在下で反応させて式(a3)
【0029】
【化8】

【0030】
[式(a3)中、RはHまたはメチル基を表す。mは2〜10の整数を表す。nは2〜10の整数を表す。]
で表される化合物を得る。次に式(a3)で表される化合物を、炭素炭素不飽和結合を有する適当な化合物と反応させることによって式(a4)
【0031】
【化9】

【0032】
で表される化合物を得る。炭素炭素不飽和結合を有する適当な化合物とは、Xの種類によって異なるが、例えばXが式(x1)で表される基である場合は対応するエポキシ化合物、Xが式(x2)、式(x5)および式(x6)で表される基である場合は対応するハロゲン化物、Xが式(x3)および式(x4)で表される基である場合は対応するイソシアネート化合物である。次に、式(a4)で表される化合物と式(a5)
【0033】
【化10】

【0034】
で表される化合物を白金系に代表されるヒドロシリル化触媒の存在下で反応させて一般式(a)で表されるモノマーが得られる。このとき式(a5)で表される化合物のかわりにクロロシラン化合物を用いることもできる。クロロシラン化合物を用いた場合は、得られるクロロシラン付加物と、アルコキシシラン化合物またはクロロシラン化合物を水の存在下で縮合させることによって一般式(a)で表されるモノマーが得られる。
【0035】
本発明のポリマーは、式(a)で表されるモノマーを単独で重合して得ることも、他のモノマーと共重合して得ることも可能である。他のモノマーと共重合する場合の共重合モノマーとしては、共重合さえ可能であれば何ら制限はなく、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基および他の共重合可能な炭素炭素不飽和結合を有するモノマーを使用することができる。
【0036】
以下、その例をいくつか挙げるがこれらに限定されるものではない。(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールビス(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリス(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス(メタ)アクリレート、両末端に炭素炭素不飽和結合を有するシロキサンマクロマーなどの多官能(メタ)アクリレート類、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレートなどのハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド、 N,N−ジn−ブチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルピロリジン、N−メチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどの芳香族ビニルモノマー、マレイミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルオキサゾリドン、1−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルピラジンなどのヘテロ環ビニルモノマー、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルカルボキサミド類、酢酸ビニルなどのビニルエステル類、3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル(メタ)アクリレート、3−[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3−[(トリメチルシロキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル(メタ)アクリルアミド、3−[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピル(メタ)アクリルアミド、3−[(トリメチルシロキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリルアミド、[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]メチル(メタ)アクリレート、[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]メチル(メタ)アクリレート、[(トリメチルシロキシ)ジメチルシリル]メチル(メタ)アクリレート、[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]メチル(メタ)アクリルアミド、[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]メチル(メタ)アクリルアミド、[(トリメチルシロキシ)ジメチルシリル]メチル(メタ)アクリルアミド、[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]スチレン、[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]スチレン、[(トリメチルシロキシ)ジメチルシリル]スチレン、N−〔3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル〕カルバミン酸ビニル、N−〔3−[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピル〕カルバミン酸ビニル、N−〔3−[(トリメチルシロキシ)ジメチルシリル]プロピル〕カルバミン酸ビニルおよび下記式(c1)〜(c3)の化合物などである。
【0037】
【化11】

【0038】
[式(c1)〜(c3)中、R11はHまたはメチル基を表す。sは1〜3の整数を表す。]
本発明のポリマーにおいては、良好な機械物性が得られ、消毒液や洗浄液に対する良好な耐性が得られるという意味で、1分子中に2個以上の共重合可能な炭素炭素不飽和結合を有するモノマーを共重合成分として用いることが好ましい。1分子中に2個以上の共重合可能な炭素炭素不飽和結合を有するモノマーの共重合比率は0.1重量%〜70重量%が好ましく、0.2重量%〜40重量%がより好ましい。
【0039】
また、高酸素透過性と高含水率を両立させるという点からは、本発明のポリマーは式(a)で表されるモノマーを共重合して用いることが好ましく、その場合の式(a)で表されるモノマーの共重合比率は30重量%〜97重量%、より好ましくは50重量%〜95重量%、最も好ましくは60重量%〜90重量%である。式(a)で表されるモノマーの共重合比率が低すぎる場合はポリマーの酸素透過性が低くなり、高すぎる場合は含水率が低くなる傾向が有る。
【0040】
本発明のポリマーは、紫外線吸収剤や色素、着色剤などを含むものでもよい。また重合性基を有する紫外線吸収剤や色素、着色剤を、共重合した形で含有してもよい。
【0041】
本発明のポリマーの重合方法、成形方法としては、公知の方法を使用することができる。例えば、一旦、丸棒や板状等に重合、成形しこれを切削加工等によって所望の形状に加工する方法、モールド重合法、およびスピンキャスト重合法などである。
【0042】
本発明のポリマーを(共)重合により得る際は、重合をしやすくするために過酸化物やアゾ化合物に代表される熱重合開始剤や、光重合開始剤を添加することが好ましい。熱重合を行う場合は、所望の反応温度に対して最適な分解特性を有するものを選択して使用する。一般的には10時間半減期温度が40〜120℃のアゾ系開始剤および過酸化物系開始剤が好適である。光重合開始剤としてはカルボニル化合物、過酸化物、アゾ化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、および金属塩などを挙げることができる。これらの重合開始剤は単独または混合して用いられ、およそ1重量%くらいまでの量で使用される。
【0043】
本発明のポリマーを(共)重合により得る際は、重合溶媒を使用することができる。溶媒としては有機系、無機系の各種溶媒が適用可能であり特に制限は無い。例を挙げれば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、安息香酸メチル等のエステル系溶剤、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロへキサン、エチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、石油系溶剤等各種のものであり、これらは単独あるいは混合して使用することができる。
【0044】
本発明のポリマーの重合方法、成形方法としては、公知の方法を使用することができる。例えば、一旦、丸棒や板状等に重合、成形しこれを切削加工等によって所望の形状に加工する方法、モールド重合法、およびスピンキャスト重合法などである。
【0045】
一例として本発明のポリマーをモールド重合法により得る場合について、次に説明する。
【0046】
モノマー組成物を一定の形状を有する2枚のモールドの空隙に充填する。そして光重合あるいは熱重合を行ってモールドの形状に賦型する。モールドは、樹脂、ガラス、セラミックス、金属等で製作されているが、光重合の場合は光学的に透明な素材が用いられ、通常は樹脂またはガラスが使用される。ポリマーを製造する場合には、多くの場合、2枚の対向するモールドにより空隙が形成されており、その空隙にモノマー組成物が充填されるが、モールドの形状やモノマーの性状によってはポリマーに一定の厚みを与えかつ充填したモノマー組成物の液モレを防止する目的を有するガスケットを併用してもよい。空隙にモノマー組成物を充填したモールドは、続いて紫外線のような活性光線を照射されるか、オーブンや液槽に入れて加熱されて重合される。光重合の後に加熱重合したり、逆に加熱重合後に光重合する両者を併用する方法もありうる。光重合の場合は、例えば水銀ランプや捕虫灯を光源とする紫外線を多く含む光を短時間(通常は1時間以下)照射するのが一般的である。熱重合を行う場合には、室温付近から徐々に昇温し、数時間ないし数十時間かけて60℃〜200℃の温度まで高めて行く条件が、ポリマーの光学的な均一性、品位を保持し、かつ再現性を高めるために好まれる。
【0047】
本発明のポリマーは、種々の方法で改質処理を行うことができる。表面の水濡れ性を向上させるためには、該改質処理を行うことが好ましい。
【0048】
ポリマーの具体的な改質方法としては、電磁波(光を含む)照射、プラズマ照射、蒸着およびスパッタリングなどケミカルベーパーデポジション処理、加熱、塩基処理、酸処理、その他適当な表面処理剤の使用、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。これらの改質手段の中で、簡便であり好ましいのは塩基処理および酸処理である。
【0049】
塩基処理または酸処理方法の一例としては、ポリマーを塩基性または酸性溶液に接触させる方法、ポリマーを塩基性または酸性ガスに接触させる方法等が挙げられる。そのより具体的な方法としては、例えば塩基性または酸性溶液にポリマーを浸漬する方法、ポリマーに塩基性または酸性溶液または塩基性または酸性ガスを噴霧する方法、ポリマーに塩基性または酸性溶液をヘラ、刷毛等で塗布する方法、ポリマーに塩基性または酸性溶液をスピンコート法やディップコート法で塗布する方法などを挙げることができる。最も簡便に大きな改質効果が得られる方法は、ポリマーを塩基性または酸性溶液に浸漬する方法である。
【0050】
ポリマーを塩基性溶液または酸性溶液に浸漬する際の温度は特に限定されないが、通常−50℃〜300℃程度の温度範囲内で行われる。作業性を考えれば−10℃〜150℃の温度範囲がより好ましく、−5℃〜60℃が最も好ましい。
【0051】
ポリマーを塩基性または酸性溶液に浸漬する時間については、温度によっても最適時間は変化するが、一般には100時間以内が好ましく、24時間以内がより好ましく、12時間以内が最も好ましい。接触時間が長すぎると、作業性および生産性が悪くなるばかりでなく、酸素透過性の低下や機械物性の低下などの悪影響が出る場合がある。
【0052】
塩基としてはアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、各種炭酸塩、各種ホウ酸塩、各種リン酸塩、アンモニア、各種アンモニウム塩、各種アミン類、およびポリエチレンイミン、ポリビニルアミン等の高分子量塩基などが使用可能である。これらの中では、低価格であることおよび処理効果が大きいことからアルカリ金属水酸化物が最も好ましい。
【0053】
酸としては、硫酸、燐酸、塩酸、硝酸などの各種無機酸、酢酸、ギ酸、安息香酸、フェノールなどの各種有機酸、およびポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスルホメチルスチレンなどの高分子量酸が使用可能である。これらの中では、処理効果が大きく他の物性への悪影響が少ないことから高分子量酸が最も好ましい。
【0054】
塩基性または酸性溶液の溶媒としては、無機、有機の各種溶媒が使用できる。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの各種アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチルなどの各種エステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルなどの各種エーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシドなどの各種非プロトン性極性溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタントリクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン系溶媒、およびフロン系溶媒などである。中でも経済性、取り扱いの簡便さ、および化学的安定性などの点で水が最も好ましい。溶媒としては、2種類以上の物質の混合物も使用可能である。
【0055】
本発明において使用される塩基性または酸性溶液は、塩基性物質または酸性物質および溶媒以外の成分を含んでいてもよい。
【0056】
本発明において、ポリマーは、塩基または酸処理の後、洗浄により塩基性または酸性物質を除くことができる。
【0057】
洗浄溶媒としては、無機、有機の各種溶媒が使用できる。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの各種アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチルなどの各種エステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルなどの各種エーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシドなどの各種非プロトン性極性溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタントリクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン系溶媒、およびフロン系溶媒などである。一般的には水が最も好適である。
【0058】
洗浄溶媒としては、2種類以上の溶媒の混合物を使用することもできる。洗浄溶媒は、溶媒以外の成分、例えば無機塩類、界面活性剤、および洗浄剤を含有してもよい。
【0059】
該改質処理は、ポリマー全体に対して行っても良く、例えば表面のみに行うなどポリマーの一部のみに行ってもよい。表面のみに改質処理を行った場合にはポリマー全体の性質を大きく変えることなく表面の水濡れ性のみを向上させることができる。
【0060】
本発明のポリマーは、酸素透過性は、酸素透過係数が50×10−11(cm/sec)[mLO/(mL・hPa)]以上が好ましく、55×10−11(cm/sec)[mLO/(mL・hPa)]以上がより好ましく、60×10−11(cm/sec)[mLO/(mL・hPa)]以上が最も好ましい。酸素透過係数をこの範囲にすることにより、コンタクトレンズとして使用した場合に目に対する負担をより軽減することができ、連続装用が容易になる。
【0061】
含水率は、好ましくは15重量%〜60重量%であり、さらに好ましくは20重量%〜55重量%であり、最も好ましくは25重量%〜50重量%である。含水率を15%以上にすることにより、コンタクトレンズとして使用した場合に目の中での動きが良くなり連続装用がより容易になる。含水率が高すぎると酸素透過係数が小さくなるために好ましくない。
【0062】
弾性率は、65kPa〜2000kPaが好ましく、100kPa〜1400kPaがより好ましく、150kPa〜850kPaが最も好ましい。弾性率が低すぎると軟らかすぎて形状保持性が悪くなり取り扱いが難しくなるために好ましくない。弾性率が高すぎると硬すぎてコンタクトレンズとして使用した場合に装用感が悪くなるために好ましくない。
【0063】
本発明のモノマーおよびポリマーはコンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズとして特に好適に用いられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0065】
〔測定方法〕
本実施例における各種測定は、以下に示す方法で行った。
【0066】
(1)プロトン核磁気共鳴スペクトル
日本電子社製のEX270型を用いて測定した。溶媒にクロロホルム−dを使用し、クロロホルムのピークを内部標準(7.26ppm)とした。
【0067】
(2)酸素透過係数
理化精機工業社製の製科研式フィルム酸素透過率計を用いて35℃の水中にてコンタクトレンズ状サンプルの酸素透過係数を測定した。なお、サンプルの膜厚は必要に応じて複数枚を重ね合わせることによって調整した。
【0068】
(3)含水率
サンプルとしてコンタクトレンズ形状のものを使用した。サンプルを真空乾燥器で40℃、16時間乾燥し、サンプルの重量(Wd)を測定した。その後、純水に浸漬して40℃恒温槽に一晩以上おいて含水させた後、表面水分をキムワイプで拭き取って重量(Ww)を測定した。次式にて含水率を求めた。
【0069】
含水率(%)=100×(Ww−Wd)/Ww
(4)弾性率
規定の打抜型を用いてコンタクトレンズ形状のものから切り出したサンプル〔幅(最小部分)5mm、長さ14mm、厚さ0.2mm程度〕を使用し、オリエンテック社製のテンシロンRTM−100型を用いて測定した。引張速度は100mm/minとし、つかみ間距離は5mmとした。
【0070】
〔実施例1〕式(M1)で表される化合物の合成
【0071】
【化12】

【0072】
(1)滴下ロート、ジムロートコンデンサおよび撹拌翼を備えた500mL三ツ口フラスコにジエチレングリコール(100g)および水酸化カリウム(62.2g)を入れ、室温で1時間程度撹拌した。滴下ロートに臭化アリル(114g)を入れ、撹拌しながら滴下した。滴下終了後、撹拌しながら60℃で3時間反応させた。ジエチルエーテル(250mL)を加えた後、塩をろ過で除き、ロータリーバキュームエバポレーターにより溶媒成分を留去した。再び塩が析出したので再度ろ過で除いた。減圧蒸留により精製し、ジエチレングリコールモノアリルエーテルを無色透明液体として得た。
【0073】
(2)滴下ロートおよび撹拌翼を備えた300mL三ツ口フラスコに、(1)で合成したジエチレングリコールモノアリルエーテル(20g)、トリエチルアミン(20.7g)およびテトラヒドロフラン(30mL)を入れた。この三ツ口フラスコを氷浴に浸漬し、撹拌しているところへ、メタクリル酸クロリド(21.4g)を約5分間かけて滴下した。滴下終了後、室温で3時間撹拌を行った。析出した塩を吸引ろ過で除いた。ろ液に酢酸エチル(100mL)を加え、分液ロートに入れ、食塩水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および食塩水をこの順に用いて洗浄した。無水硫酸マグネシウムにより脱水処理を行った後、ロータリーバキュームエバポレーターで溶媒を留去した。減圧蒸留により精製し2−(2−アリロキシエトキシ)エチルメタクリレートを無色透明液体として得た。
【0074】
(3)塩化白金酸六水和物を同重量の2−プロパノールに溶かし、テトラヒドロフランで1.93×10−5mol/gに希釈した。以下この溶液を「触媒溶液」と呼ぶ。
【0075】
マグネット式回転子を備えた100mLナスフラスコに、(2)で合成した2−(2−アリロキシエトキシ)エチルメタクリレート(13.63g)、トルエン(13g)および触媒溶液(6.6g)を入れた。フラスコを水浴に漬けて冷却し、撹拌しながらトリクロロシラン(17.22g)を少しずつ加えた。発熱が治まったことを確認してからフラスコをセプタムで密栓し、室温で一晩静置した。ロータリーバキュームエバポレーターにより低沸点成分を除いた後、減圧蒸留により精製し、3−[2−(2−メタクリロキシエトキシ)エトキシ]プロピルトリクロロシランを無色透明液体として得た。
【0076】
(4)マグネット式回転子を備えた200mLナスフラスコにヘキサン(6.0g)、メタノール(6.0g)および水(12.0g)を入れ、フラスコを氷浴に浸漬し、フラスコ内を激しく撹拌した。ここへ、3−[2−(2−メタクリロキシエトキシ)エトキシ]プロピルトリクロロシラン(12.5g)およびメトキシトリメチルシラン(22.3g)からなる混合物を約10分間かけて滴下した。滴下終了後、室温において3.5時間撹拌を続けた。反応液は2層に分かれるので、分液ロートにより上層を分取した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(3回)および水(2回)をこの順に用いて洗浄した。無水硫酸ナトリウムにより脱水を行った後、ロータリーバキュームエバポレーターで溶媒を留去した。減圧蒸留により精製し、微黄色透明液体を得た。この液体のプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定し分析した結果、0.1ppm付近(27H)、0.4ppm付近(2H)、1.6ppm付近(2H)、1.9ppm付近(3H)、3.4ppm付近(2H)、3.5〜3.8ppm付近(6H)4.3ppm付近(2H)、5.5ppm付近(1H)および6.1ppm付近(1H)にピークが検出されたことから式(M1)で表される化合物であることを確認した。
【0077】
〔実施例2〕式(M2)で表される化合物の合成
【0078】
【化13】

【0079】
メタクリル酸クロリドのかわりにアクリル酸クロリドを使用する他は、実施例1と同様に行って微黄色透明液体を得た。この液体のプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定し分析した結果、0.1ppm付近(27H)、0.4ppm付近(2H)、1.6ppm付近(2H)、3.4ppm付近(2H)、3.5〜3.8ppm付近(6H)4.3ppm付近(2H)、5.8ppm付近(1H)、6.2ppm付近(1H)および6.4ppm付近(1H)にピークが検出されたことから式(M1)で表される化合物であることを確認した。
【0080】
〔実施例3〕
実施例1で得た式(M1)の化合物(65重量部)、N,N−ジメチルアクリルアミド(35重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1重量部)、ダロキュア1173(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、0.5重量部)およびジエチレングリコールジメチルエーテル(10重量部)を混合し撹拌した。均一で透明なモノマー混合物が得られた。このモノマー混合物をアルゴン雰囲気下で脱気した。窒素雰囲気のグローブボックス中で透明樹脂(ポリ4−メチルペンテン−1)製のコンタクトレンズ用モールドに注入し、捕虫灯を用いて光照射(1mW/cm、10分間)して重合し、コンタクトレンズ状サンプルを得た。得られたサンプルを、大過剰量のイソプロピルアルコールに60℃、16時間浸漬した後、大過剰量の純水に24時間浸漬した。その後、清浄な純水に浸漬して保存した。得られたサンプルは透明で濁りが無かった。このサンプルの酸素透過係数は69×10-11(cm/sec)[mLO/(mL・hPa)]、含水率は39%、弾性率は180kPaであり、高酸素透過性、高含水率および低弾性率を有していた。
【0081】
〔実施例4〕
式(M1)の化合物(65重量部)のかわりに、実施例2で得た式(M2)の化合物(35重量部)と3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(30重量部)を用いる他は実施例3と同様にしてコンタクトレンズ状サンプルを得た。得られたサンプルは透明で濁りが無かった。このサンプルの酸素透過係数は74×10−11(cm/sec)[mLO/(mL・hPa)]、含水率は38%、弾性率は280kPaであり、高酸素透過性、高含水率および低弾性率を有していた。
【0082】
〔比較例1〕
式(M1)の化合物(65重量部)のかわりに、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(65重量部)を用いる他は実施例3と同様にしてコンタクトレンズ状サンプルを得た。得られたサンプルは透明で濁りが無かった。このサンプルの酸素透過係数は83×10−11(cm/sec)[mLO/(mL・hPa)]、含水率は22%、弾性率は2050kPaであり、高酸素透過性であったが、実施例3および実施例4と比較すると低含水率であり、弾性率も高かった。
【0083】
〔比較例2〕
式(M1)の化合物(65重量部)のかわりに、式(H)
【0084】
【化14】

【0085】
で表される化合物(65重量部)を用いる他は実施例3と同様にしてコンタクトレンズ状サンプルを得た。得られたサンプルは透明で濁りが無かった。このサンプルの酸素透過係数は71×10−11(cm/sec)[mLO/(mL・hPa)]、含水率は25%、弾性率は830kPaであり、高酸素透過性であったが、実施例3および実施例4と比較すると低含水率であり、弾性率も高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)で表されることを特徴とするモノマー。
【化1】

[式(a)中、Xは重合可能な炭素炭素不飽和結合を有する基を表す。RはHまたはメチル基を表す。Aはシロキサニル基を表す。mは2〜10の整数を表す。nは2〜10の整数を表す。]
【請求項2】
シロキサニル基が下記式(A)で表される置換基であることを特徴とする請求項1に記載のモノマー。
【化2】

[式(A)中、A〜A11はそれぞれが互いに独立にH、置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。kは0〜200の整数を表し、a、b、cはそれぞれが互いに独立に0〜20の整数を表す。ただしk=a=b=c=0の場合は除く。]
【請求項3】
式(a)において、Xが下記式(x1)〜(x6)で表される置換基から選ばれた1つの置換基であることを特徴とする請求項2に記載のモノマー。
【化3】

[式(x1)〜(x6)中、RはHまたはメチル基を表す。]
【請求項4】
式(a)中、Xがメタクリロイル基またはアクリロイル基を表し、
RがHを表し、
Aがトリス(トリメチルシロキシ)シリル基、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリル基およびジメチル(トリメチルシロキシ)シリル基から選ばれた1つの置換基を表し、
mが2または3の整数を表し、
nが整数3を表すことを特徴とする請求項3に記載のモノマー。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のモノマーを重合成分として含むことを特徴とするポリマー。
【請求項6】
請求項5に記載のポリマーを用いてなる眼用レンズ。
【請求項7】
請求項5に記載のポリマーを用いてなるコンタクトレンズ。

【公開番号】特開2012−7181(P2012−7181A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199182(P2011−199182)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【分割の表示】特願2000−140441(P2000−140441)の分割
【原出願日】平成12年5月12日(2000.5.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】