説明

モラクセラ属菌由来トランスフェリン受容体タンパク質

【課題】モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)由来の未変性のトランスフェリン受容体タンパク質の提供。
【解決手段】SDS−PAGEで測定したとき、約80〜約90kDaの見かけ上分子量を有するモラクセラ属菌株、特にM.カタラリスの単離、精製した未変性トランスフェリン受容体タンパク質。
【効果】トランスフェリン受容体タンパク質またはそのフラグメント類縁体は、診断薬および特にモラクセラ属菌株によって起こる疾病に対する防御能を賦与するために宿主にin vivoで投与するための免疫原性組成物として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、免疫学分野に関し、特に、モラクセラ属菌(Moraxella)由来のトランスフェリン受容体タンパク質と、その生産方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
中耳炎は、小児早期に最も普通に見られる疾病であり、全小児の約80%は3才までに一度は中耳炎に罹患する(リファレンス1:本出願では、発明に関係する技術の現状を詳しく説明するために多数のリファレンスを丸括弧で囲んで示してある。丸括弧で示したリファレンスの書誌的情報の詳細は、本出願の請求の範囲の直前に列記している。これらの文献の中に開示されている事項は、本出願中において、その文献を示して参照し、本出願の開示に取り込まれる。)。小児においては、慢性中耳炎は、聴覚障害、言語障害、知覚障害に進行することがある。その原因は、約50%が肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、約30%が型別不能のインフルエンザ菌(non-typable Haemophilus influenzae)、約20%がモラクセラ属カタル球菌(Moraxella (Branhamella) catarrhalis)による細菌感染である。米国だけで、中耳炎の治療には、抗生物質と、扁桃切除手術、アデノイド切除手術、鼓膜切開チューブ挿入などの外科的治療のために、年間10〜20億ドルの費用が掛かっている。生涯のうちでも、言語機能が急速に発達している時期に、中耳炎を発症するので、頻繁に中耳炎に罹ている子供では、特に、学習ならびに聴覚に関連した発育障害が報告されている。
【0003】
カタル球菌(M. catarrhalis)は、主に気道でコロニーを形成し、そして、主には粘膜病原菌である。鼓室穿刺により得られた中耳液の培養物を用いた研究では、カタル球菌(M. catarrhalis)は、中耳炎の症例の約20%を引き起こしている(リファレンス2)。
【0004】
カタル球菌(M. catarrhalis)は、長い間。日和見感染病原菌と見做されてきたが、現在では、局所的感染、または、より稀れではあるが、全身感染の結果として、ヒトを衰弱させる多様な疾病を引き起こすことが認識されている。カタル球菌(M. catarrhalis)は、成人における下部気道感染症、特には、慢性気管支炎と気腫の発症における、主要原因である(リファレンス3、4、5、6、7、8、9)。カタル球菌(M. catarrhalis)は、小児と成人における副鼻腔炎を引き起こし(リファレンス10、11、12、13、14)、時には、侵襲性疾患を引き起こすこともある(リファレンス15、16、17、18、19、20)。さらに、カタル球菌(M. catarrhalis)は、医療施設内において、院内感染の発生の原因と目されている(リファレンス21)。
【0005】
カタル球菌(M. catarrhalis)に起因する中耳炎の発症例は増加している。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)と型別不能のインフルエンザ菌(non-typable Haemophilus influenzae)が原因の中耳炎を予防する方法が開発されるにつれて、中耳炎の原因として、カタル球菌(M. catarrhalis)の相対的な重要性は、更に高まるものと予想される。臨床現場では、分離カタル球菌の抗生物質耐性が一般に見られるようになっている(リファレンス22)。このように、1970年以前にすでにβ−ラクタマーゼを産生するカタル球菌(M. catarrhalis)の存在が報告されていたが、その後1970年代の中頃には、β−ラクタマーゼを発現するカタル球菌(M. catarrhalis)が頻繁に分離されている。
【0006】
鉄制限は、細菌病原菌に対する一般的な宿主防御機構であるが、必ずしも、全部の病原菌の成長速度を制限するものではない(リファレンス23)。髄膜炎菌(Neisseria menigitidis)(リファレンス24)、淋菌(N. gonorrhoeae)(リファレンス25)、インフルエンザ菌(Haempphilus influenza)(リファレンス26)を含む若干の細菌は、2種類の膜タンパク質を産生し、これらは特異的にヒト・トランスフェリンと結合する(リファレンス27、28)。これらのタンパク質の発現は、それらの菌の成長環境中に存在する鉄の量により制御を受ける。その他の細菌の受容体とは異なって、カタル球菌(M. catarrhalis)の受容体は、鉄結合トランスフェリン(すなわち、フェリトランスリン)に対して、優先的な親和性を有している(リファレンス29)。この2つのカタル球菌(M. catarrhalis)のトランスフェリン受容体(TfR)の見かけ分子量は、1つは115kDa(TfR1)であり、もう一方は80から90kDa(TfR2)である(リファレンス27)。
【0007】
外膜タンパク質OMP・B2(リファレンス30、31)の分子量は、このTfR2に近く、さらに、このOMP・B2の発現は、鉄の存在量により制御されていると報告されている(リファレンス32)。
【0008】
Yu と Schryvers は、カタル球菌(M. catarrhalis)由来のトランスフェリン受容体タンパク質(TfR1とTfR2)の精製法、つまり、変性剤であるグアニジン・HCLを使用して、トランスフェリン・セファロース親和性カラムから選択的に溶出させる方法を記載している(リファレンス29)。
【0009】
この受容体タンパク質の生産的分離方法では、鉄欠乏カタル球菌(M. catarrhalis)の未精製細胞膜に、EDTAを20mM、サルコシル(Sarkosyl)を0.75%まで添加して溶解させ、その混合物を20、000gで15分間遠心分離して、砕片を取り除く。その上清に、20mlのFe2hTf−セファロース(すなわち、鉄飽和ヒト・トランスフェリン)を添加し、攪拌しながら室温で45分間インキュベートした。その混合物をカラムに掛け、結合溶液を取り除いた後、樹脂を250mlの50mMトリスHCL、1M・NaCl、20mM・EDTA、0.75%サルコシル(Sarkosyl)、250mM・グアニジン・HCLを含む緩衝液(pH8)で洗浄した。1.5Mのグアニジン−HCLを含む緩衝液(サルコシルを含まない)使用して、TfR2タンパク質を溶出させ、その後、TfR1タンパク質を、4M グアニジンを含む緩衝液を使用して溶出させた。その分画を、50mM トリスHCL(pH8)に対して、24時間透析した。
【0010】
この手順を更に改良した方法では、TfR1と結合させるために、アポ・hTf−セファロースを溶解膜調製物に混合し、その後、この処理を施した溶解膜調製物を、Fe2hTf−セファロースに曝して、残っているTfR2と結合させる。その後、各アフィニティ樹脂を洗浄し、受容体タンパク質を上記ように溶出させた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
カタル球菌(M. catarrhalis)感染は重大な疾病に発展する可能性がある。従って、ワクチンを含む免疫原性調製物、その他の抗原ならびに免疫原の担体、診断試薬の生産において、抗原として使用するため、カタル球菌(M. catarrhalis)由来の未変性のトランスフェリン受容体タンパク質を提供することには利点がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明の目的は、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)およびその他のモラクセラ属(Moraxella)菌株から分離して精製した、見かけの分子量が約80〜90kDaのトランスフェリン受容体タンパク質を提供することである。
【0013】
本発明の態様の1つによれば、ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分析した際、見かけの分子量が約80〜約90kDaである、モラクセラ属(Moraxella)菌株由来の、分離精製された、未変性トランスフェリン受容体タンパク質(TfR2)、またはそのフラグメントあるいは類似体が提供される。本発明のトランスフェリン受容体タンパク質は、(該モラクセラ属(Moraxella)菌株中のトランスフェリン受容体タンパク質の特徴的な免疫原性が実質的に保持されるように)、実質的に、その本来の立体配座で存在してもよく、また、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)4223、5191、135のような、カタル球菌(M. catarrhalis)菌株から分離できる。見かけの分子量が約80〜約90kDaである、かかる分離・精製されたトランスフェリン受容体タンパク質は、分子量が80〜約90kDaではない、別のモラクセラ属菌(Moraxella)タンパク質、特には、OMP・B2タンパク質や、モラクセラ属(Moraxella)菌株の見かけの分子量約105kDaであるトランスフェリン受容体タンパク質、モラクセラ属菌のホスホリピドやリポ多糖を、実質的に含んでいない。この約80〜90kDaのトランスフェリン受容体タンパク質は、少なくとも、その純度が70wt%、好ましくは、90wt%であり、また、その水溶液の形態とすることができる。
【0014】
さらに本発明は、薬学的に許容される担体と共に提供されている、免疫的に有効量の活性成分を、それは、トランスフェリン受容体タンパク質、あるいは、そのフラグメント、または類似体のいずれでよいが、含んでなる免疫原性組成物を提供する。この免疫原性組成物は、モラクセラ属(Moraxella)菌株、特にモラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)が原因となる疾病に対する防護を付与するために、宿主にインビボ投与するワクチンとして処方してもよい。この免疫原性組成物は、微粒子カプセル、ISCOMまたはリポソーム調製物として、調剤も可能である。この免疫原性組成物は、免疫システムの特定細胞または粘膜表面への薬剤デリバリーのためのターゲット分子と組み合わせて使用することも可能である。このターゲット分子には、WO92/171167(Biotech Australia Pty. Ltd.)中に記載されているような、細菌毒素のフラグメントや菌株B12、ならびに、米国特許5,194,254(Barber et al)中に記載されているような、モノクローナル抗体が含まれる。(ワクチンを含む)本発明の免疫原性組成物は、少なくとも1種の別の免疫原性または免疫刺激性物質を含んでもよく、そして、その免疫刺激物質は、少なくとも、1種のアジュバントでもよい。本発明で使用できる適当なアジュバントには、(ここで提示するものに限定はされないは)、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、QS21、Qui1 A、その誘導体ならびにその構成要素、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質の類似体、アミノ酸のオクタデシルエステル、ムラミルジペプチド、ポリ-ホスファゼン、リポタンパク質が含まれる。アジュバントの有利な組み合わせについては、本願の譲受人に対して譲受けがなされている、同時係属米国特許出願番号08/261,194(1994年6月16日)中に記載されており、それを参照することで、その開示内容は本願中に組み入れられる。本発明には、さらに、ここに提供される免疫原性組成物によって、宿主を免疫することで創製可能な、ここで提供されるトランスフェリン受容体タンパク質に対して、特異的な抗体も含まれる。
【0015】
本発明で提供される免疫原性組成物は、パラミクソウイルス(paramuxovius)、クラミジア(Chlamydia)、ポリオウイルス(polio)、B型肝炎菌(hepatitis B)、ジフテリア・トキソイド(diphtheria toxoid)、破傷風トキソイド(tetanus toxoid)、インフルエンザ菌(influenza)、ヘモフィルス菌(haemophilus)、百日咳菌(pertussis)、肺炎球菌(pnuemococcus)、ミコバクテリア(mycobacteria)、A型肝炎菌(hepatitis A)に含まれる、あるいは、それらに由来するものでもよい、少なくとも、1種の追加の免疫原をも含有するように、処方することできる。
【0016】
本発明の別の態様によれば、ここに提供される、免疫原性組成物を投与する工程を含んでいる、宿主中において、免疫応答を創製する方法が提供される。その免疫応答は、体液性免疫応答または細胞性免疫応答のいずれでもよい。疾病に対する防御が付与される、宿主には、ヒトを含む霊長動物が含まれる。
【0017】
本発明の付加的な態様によれば、本発明は、
ここで提供される免疫原性組成物を試験対象宿主に投与して、モラクセラ属(Moraxella)菌株が原因である疾病に対する防護を付与する上で適する、トランスフェリン受容体タンパク質の投与量とその頻度を決定する工程と、
前記の決定された投与量と投与頻度に従って、治療される宿主への投与に適する形状で、トランスフェリン受容体タンパク質を調剤する工程とを含んでいる、ワクチンの生産方法を提供する。その治療される宿主はヒトでもよい。
【0018】
本発明のさらなる態様によれば、
(a)トランスフェリン受容体タンパク質と、これと特異的に反応する、試料中に存在する抗体とを含む複合体を産生させるために、本発明により提供されるトランスフェリン受容体タンパク質と試料を接触させる工程と、
(b)複合体の産生の有無を決定する工程とを含んでいる、分子量が約80〜約90kDaである、モラクセラ属(Moraxella)菌株由来のトランスフェリン受容体タンパク質と特異的に反応する試料中の抗体の存在を決定する方法を、本発明は提供する。
【0019】
本発明の更なる態様によれば、
(a)対象をここで提供される免疫原性組成物で免疫して、トランスフェリン受容体タンパク質に対する特異的は抗体を生産させる工程と、
(b)試料を該抗体に接触させて、試料中に存在する該外膜タンパク質と、前記外膜タンパク質の特異的抗体とからなる複合体を産生させる工程と、
(c)複合体の産生の有無を決定する工程とを含んでいる、
試料中のモラクセラ属(Moraxella)菌株由来の分子量が約80〜約90kDaのトランスフェリン受容体タンパク質の存在を決定する方法を本発明は提供する。そのトランスフェリン受容体タンパク質は、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)菌株の一部であってもかまわない。
【0020】
本発明の更なる態様によれば、
分子量が約80〜約90kDaである、モラクセラ属(Moraxella)菌株由来のトランスフェリン受容体タンパク質に対する特異的な反応性を有する抗体の、試料中での存在を決定するための、診断キットであって、
(a)ここで提供されるトランスフェリン受容体タンパク質と、
(b)試料中に存在する前記抗体とトランスフェリン受容体タンパク質とからなる複合体を産生させるため、トランスフェリン受容体タンパク質を試料に接触させる手段と、
(c)複合体の産生の有無を決定する手段とを含んでいるキットを提供する。
【0021】
また、本発明は、
(a)ここで提供される分子量が約80〜約90kDaであるトランスフェリン受容体タンパク質に対する特異的な抗体と、
(b)トランスフェリン受容体タンパク質とトランスフェリン受容体タンパク質に特異的抗体とからなる複合体を産生させるために、抗体を試料に接触させる手段と、
(c)複合体の産生の有無を決定する手段とを含んでいる、
分子量が約80〜約90kDaである、モラクセラ属(Moraxella)菌株由来のトランスフェリン受容体タンパク質の、試料内における存在を検出するための診断キットを提供する。
【0022】
さらに別の態様によれば、本発明は、
ここで提供される免疫原性組成物を試験宿主に投与して、SDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)により分析した際、見かけの分子量が約80〜約90kDaであるトランスフェリン受容体タンパク質、あるいは、試験宿主中において、トランスフェリン・タンパク質に対して、特異的な反応性を有する抗体を誘発する能力のあるタンパク質を産生する、モラクセラ属(Moraxella)菌株が原因である疾病に対する防護を付与する上で、適する投与量と投与頻度を決定する工程と、
前記の決定された投与量と投与頻度に従って、ヒトを含む、治療される宿主への投与に適する形状で、該免疫原性組成物を調剤する工程とを含んでいる、ワクチンの生産方法を提供する。
【0023】
本発明の付加的な態様によれば、
(a)ここに提供されるトランスフェリン受容体タンパク質を、少なくとも1匹のマウスに投与して、免疫されたマウスを作る工程、
(b)少なくとも1匹の免疫されたマウスからB−リンパ球を取り出す工程、
(c)骨髄腫細胞(myeloma cells)と、少なくとも1匹の免疫されたマウス由来のB−リンパ球とを溶融させ、ハイブリドーマを作製する工程、
(d)ハイブリドーマをクローン化する工程、
(e)抗−トランスフェリン受容体タンパク質抗体を産生するクローンを選択する工程、
(f)抗−トランスフェリン受容体タンパク質抗体を産生するクローンを培養する工程 、
(g)その培養物から、抗−トランスフェリン受容体タンパク質抗体を単離する工程
とを含んでいる、
見かけの分子量約80〜約90kDaである、モラクセラ属(Moraxella)菌株由来のトランスフェリン受容体タンパク質に対して、特異的なモノクローナル抗体を製造する方法が提供される。
【0024】
さらに本発明の別の態様によれば、
(a)モラクセラ属(Moraxella)菌株の細胞塊を供給する工程、
(b)細胞塊から選択的に水溶性タンパク質を抽出して、第1の上清と第1のペレットを提供する工程、
(c)第1のペレットから第1の上清を分離する工程、
(d)第1のペレットから分子量約80〜約90kDaであるトランスフェリン受容体を選択的に溶解させ、第2のペレットと第2の上清を提供する工程、
(e)第2のペレットから第2の上清から分離する工程、
(f)選択的な溶解工程において、第1のペレットから溶解した別の種類のモラクセラ属菌のタンパク質が混入していない、第2の上清中の、分子量が約80〜90kDaである、トランスフェリン受容体タンパク質を精製する工程とを含んでいる、
モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)のような、モラクセラ属(Moraxella)菌株由来の分子量約80〜90kDaである、分離・精製された非変性のトランスフェリン受容体タンパク質を生産する方法を提供する。
【0025】
約50mM〜約1MのトリスHCLを含んでいる、pH:約7〜約8.5の緩衝水溶液に細胞塊を接触させ、細胞塊を破壊するための超音波処理し、そして、遠心分離を行って、第1のペレットと第1の上清を作製することにより、水溶性タンパク質を、選択的にその細胞塊から抽出することができる。
【0026】
約0.2−約2wt・%のトリトン・X−100(TRITON X-100)(非イオン性洗浄剤オクタデシルフェノール(エチレン・グリコール)10の商標である)のような、洗浄剤と、約2〜約20mMのEDTAのような、可溶化剤を含んでいる、約20mM〜約1Mのトリス・HCLなどの、緩衝水溶液に、第1のペレットを少なくとも1回接触させ、破壊するため、第1のペレットを超音波処理し、その後、遠心分離を行って、第2のペレットと第2の上清を作製することによって、選択的な溶解工程を実施することができる。このような緩衝水溶液との接触、超音波処理、遠心分離、音波処理のステップは、少なくとも2回行うことができ、その際、各ステップで得られる上清は、プールして、第2の上清を提供する。
【0027】
精製ステップは、下記する操作を含むような、多重クロマトグラフィ・コラム操作によって実施することができる。
【0028】
(a)約10mM〜約1Mのトリス−HCLを含むpH約7−約8.5の緩衝液の使用によって、トランスフェリン受容体は選択的に通過するが、夾雑蛋白質はその上に結合する、DEAE−セファセル(Sephacel)カラムのような、第1のクロマトグラフィ・コラム上での第一のクロマトグラフィ操作、
(b)約10mM〜約1Mのトリス−HCLを含むpH約7−約8.5の緩衝液の使用によって、トランスフェリン受容体は選択的に通過するが、夾雑蛋白質はその上に結合する、SE−セルロース/D529のような、陽イオン交換マトリックスを含んでなる、第2のクロマトグラフィ・コラム上での第二のクロマトグラフィ操作、
(c)pH約7〜約8.5でカラムの載せることによって、OMP・B2タンパク質と比較して、トランスフェリン受容体タンパク質が選択的にその上に結合する、ヒドロキシアパタイトのような、第3のクロマトグラフィ・コラム上での第三のクロマトグラフィ操作、
(d)約100mM〜約250mMのKH2PO4を含むpH約7〜約8.5の緩衝液の使用などにより、第3クロマトグラフィからトランスフェリン受容体タンパク質を溶離させる。
【0029】
ここで提供される、調製手法によって、精製された、非変性の形状のトランスフェリン受容体タンパク質の分離が可能となる。本願の中で、「見かけの分子量が約80〜約90kDaである、モラクセラ属(Moraxella)菌株由来のトランスフェリン受容体タンパク質(Tfr2)」という言葉は、分子量が約80〜約90kDaである、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)のトランスフェリン受容体タンパク質のファミリーを定義するために使用され、モラクセラ属(Moraxella)の種々の菌株中に天然に存在しているものを含め、そのアミノ酸配列中に変異を有するタンパク質が含まれる。本願においては、仮に、第1のタンパク質が第2のタンパク質と免疫学的に関係しているか、または第2のタンパク質と同じ機能を有する場合、第1のタンパク質は、第2のタンパク質の「機能的な類似体」と定義している。そのような機能的な類似体は、例えば、タンパク質のフラグメント、または置換、付加、あるいは、欠失型の変異体であってもよい。
【0030】
本発明の長所には、以下のものが含まれる。
−モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)を含む、トランスフェリン受容体タンパク質を産生する、モラクセラ属(Moraxella)菌株から、見かけの分子量が約80〜約90kDaである、精製トランスフェリン受容体タンパク質を分離する方法;
−モラクセラ属(Moraxella)菌株から分離・精製される、見かけの分子量が約80〜約90kDaである非変性トランスフェリン受容体タンパク質;
−モラクセラ属(Moraxella)菌、ならびに、それに感染している宿主を特異的に特定するための診断キットと免疫学的試薬。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図面の簡単な説明
本発明は、以下の図面を参照するとともに、後述する記述によって、さらに詳しく理解できる。
【0032】
図1は、本発明の1つの実施態様による、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)由来のトランスフェリン受容体タンパク質を精製する方法のフロー・ダイアグラムである;
図2は、見かけの分子量が約80〜約90kDaである、分離・精製されたトランスフェリン受容体タンパク質のSDS−PAGEによる分析結果を示している。
【0033】
図3は、精製されたトランスフェリン受容体のヒト・トランスフェリンを結合する能力を示している;
図4(a)、4(b)、4(c)は、精製されたトランスフェリン受容体タンパク質のイムノブロット分析を示している;そして、
図5(a)と5(b)は、中耳炎の原因となる、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)とその他の細菌病原体を特異的に区別するため、分離・精製されたトランスフェリン受容体タンパク質を使用した免疫により生産された、モルモットの抗−Tfr抗血清の能力を検証するイムノブロットである。
発明の一般的説明
本発明は、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)由来の精製トランスフェリン受容体タンパク質Tfr2を調製するために採用できる、新規な手法を提供する。Tfr2を産生するモラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)の菌株は、いずれも、ここで提供される、分離・精製されたTfr2を提供するために、好適に利用できる。そのような菌株は、臨床的ソース(clinical source)や、細菌培養コレクション(bacterial culture collection)から一般的に入手できる。モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)の適する菌株には、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis) 5191、135、4223が含まれる。

図1を参照して、発明の1つの態様による、SDS−PAGE(SDS・ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)により分析した際、見かけの分子量約80〜90kDaを示すモラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)由来のトランスフェリン・タンパク質を精製する方法のフロー・ダイアグラムを説明する。下記で述べる種々の操作は、一般的に、約4℃〜約30℃までの周辺温度で実施可能である。全細胞は、約10mM〜約1Mのトリス−HCLを含む、pHが約7〜約8.5の緩衝水溶液に接触させ、超音波処理により細胞を破壊し、引き続き、遠心分離を行って、第1の上清(S1)と第1の上清(PPT1)を作製する。該上清(S1)には、該細胞ペレットに由来する、実質的な可溶性タンパク質画分が含まれており、これは廃棄する。残ったペレット(PPT1)に、選択的な洗浄剤抽出を行って、残留する可溶性タンパク質を取り除き、また、該ペレットから、TfR2タンパク質を含む膜タンパク質の可溶化を行う。この選択的抽出は、適宜、実施できる。その手法の一つには、ペレットの多段洗浄剤抽出が含まれる。特には、第1の洗浄剤抽出をトリトンX−100とEDTAを使用して実施し、引き続き、遠心分離を行って、第2のペレット(PPT2)と第2の上清(S2)を作製し、第2の上清を、保管する。第2の上清(S2)の分離の後、残っているペレットPPT2を、再度トリトンX−100とEDTAを使用して洗浄剤抽出し、その後、遠心分離を行う。得られる第3の上清(S3)を、残留している第3ペレット(PPT3)から分離した後(この第3のペレットは廃棄する)、第1の抽出で得られる、第2の上清(S2)と組み合わせることで、プールされた上清(TfR2−1)が提供される。約10mM〜約1Mのトリスを用いて、pH約7〜約8.5に緩衝された条件下の、濃度約0.2〜約2wt%のトリトンX−100と、濃度約2〜20mMのEDTAの溶液を使用して、このトリトン・X−100による抽出を実施してもよい。このプールされた上清(TfR2−1)は、TfR2タンパク質、ならびに、このTfR2タンパク質と同等の分子量を有するOMP・B2タンパク質を含む、モラクセラ属カタル球菌の夾雑タンパク質を含んでいる(図2の3、5レーンを参照)。このプールされた上清(TfR2−1)を一連のカラム・クロマトグラフィ操作において処理して、それら不純物を取り除く。
【0034】
最初のカラム・クロマトグラフィ操作において、約10mM〜約1Mのトリス・HCLを用いて、pH約7〜約8.5とするような、適正に緩衝されている、DEAE−セファセル(Sephacel)カラム、またはその他の適当なカラムに、プールされた上清(TfR2−1)を載せて、TfR2タンパク質はカラムを通過し、一方、不純物はカラムに結合するすることができる。なお、更なるフロー・スルーの処理を行う前に、該DEAE−セファセル(Sephacel)カラムを洗浄してもよい。
【0035】
約10mM〜約1Mのトリス・HCLを用いて、pH約7〜約8.5とするような、適正に緩衝されている、陽イオン交換カラム、例えば、SE−セルロース/D529またはエプシロン・セファロースに、DEAE−セファセル(Sephacel)カラムから流出液と洗浄液(TfR2ー2)を載せて、TfR2タンパク質はカラムを通過し、一方、不純物はカラムに結合することができる。なお、更なるフロー・スルーの処理を行う前に、該陽イオン交換カラムを洗浄してもよい (図2の4レーンを参照)。
【0036】
OMPB2タンパク質、ならびに、少量の残留タンパク質性夾雑物をなお含んでいる、陽イオン交換カラム(TfR2−3)からの流出液と洗浄液を、OMP・B2タンパク質やその他の夾雑タンパク質に対して、優先的に、TfR2タンパク質はカラムに結合でき、それらは、該カラムを通過するように、緩衝条件下で、ヒドロキシアパタイト・カラムに載せる。かかる条件は、pH約6〜pH約8.5の、約5〜約50mMのリン酸カリウム緩衝液を用いることで提供される。該カラムからの流出液は夾雑タンパク質を含んでいる(図2、5レーンを参照)。
【0037】
該緩衝液によって、繰り返し洗浄し、カラムに残った夾雑物を取り除いた後、pH約7〜約8.5の、約150〜約250mMのリン酸カリウム緩衝液のような、適当な緩衝液を使用して、TfR2タンパク質を、該ヒドロキシアパタイトカラムから溶出させる。溶出画分を分取し、各アリコートをSDS−PAGEにより分析し、TfR2タンパク質を含有する画分をプールする。プールした画分を濃縮することで、TfR2タンパク質を含有する溶液が提供できる(図2、レーン6を参照)。この手順によって、単離・精製された、非変性のTfR2タンパク質の水溶液が提供される。該TfR2タンパク質水溶液は、該物質の目的とする用途に適合する濃度、一般に、約100〜約200μg/mlで、提供することもできる。

図2を参照して、図1中に模式的に示す手順で代表される、ここに記載される方法で精製された、トランスフェリン受容体タンパク質の純度のSDS−PAGE分析法による分析結果を示す。図2中、レーン1は、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)の細胞溶解物を示す。レーン2は、プールされた上清(TfR2−1)を示す。レーン3は、DEAE−セファセル(Sephacel)カラム・クロマトグラフィにおける、流過(run-through)画分(TfR2−2)を示し、レーン4は、SE−セルロース/D529コラム・クロマトグラフィにおける、流過(run-through)画分(TfR2−3)を示している。レーン5は、HTPの流過(run-through)画分を示し、OMPB2タンパク質を含んでいる。レーン6は、TfR2を含有しているHTP結合画分を示す。レーン7は、リファレンス29に記載されているように、本質的にアフィニティ・クロマトグラフィにより単離された、トランスフェリン受容体タンパク質TfR2を示す。ここで提供される、TfR2タンパク質の精製方法によって、少なくとも純度70%のTfR2タンパク質調製物が生産できる。図2中のレーン6に示されている、調製物は、デンシトメータ・スキャンニングにより決定した際、少なくとも純度95%である。
【0038】
図3を参照して、ここで提供される、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)の精製TfR2の、ヒト・トランスフェリンに対する特異的な結合能を示す。タンパク質は、SDS−PAGE法により分離し、本質的にリファレンス27に記載されるようにして、インビトロのトランスフェリン結合で評価を行った。レーン1は、レファレンス29中に記載されるように、本質的にアフィニティ・クロマトグラフィにより単離された、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)のTfR2を含む。レーン2は、ここで記載されている、精製されたモラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)由来のTfR2を含む。レーン3は、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)のOMPB2タンパク質を含む。図3から判るように、トランスフェリン結合性タンパク質調製物はトランスフェリンを特異的に結合している。これらの結果は、ここで提供される方法によって、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)由来のTfR2が単離されていることを検証している。
【0039】
(ワクチンを含む)免疫原性組成物の成分、あるいは、診断における抗原として有用であるためには、ここに記載する、精製されたトランスフェリン受容体タンパク質は、好ましくは、複数種を含む、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)菌株を認識する、あるいは、中和する抗体を創製できなければならない。
【0040】
図4(a)、4(b)、4(c)を参照して、ここで提供される、TfR2のイムノブロット分析の結果を示し、それは、OMP・B2タンパク質からTfR2の特異的な分離を示している。各図中において、試料1は、OMPB2タンパク質を含んでおり、試料2はTfR2タンパク質を含んでいる。モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)菌株は、(a)は、5191株、(b)は、135株、(c)は、4223株である。試料はSDS−PAGEにより分離されている。試料3は、精製されたTfR2である。図4(a)は、クーマシーブルー染色ゲルを示す。図4(b)は、抗−TfR2・抗血清を使用したイムノブロットを示す。図4(c)は、抗−OMP・B2・抗血清を使用したイムノブロットを示す。図4の結果から、特に、実質的にOMBP2タンパク質を含有していない、ここに提供される方法による、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)由来のトランスフェリン受容体タンパク質TfR2の特異的な精製が検証される。
【0041】
図5(b)を参照して、ここで提供される、精製したTfRタンパク質でモルモットを免疫することにより作製されたモルモット・抗−TfR・抗血清の、種々の入手源(source)から分離したモラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)に由来するTfRタンパク質を認識する能力を示すイムノブロット結果を示し。試験した試料は下記の通りである。
【0042】
【表1】

【0043】
本発明の1つの態様によれば、ここで提供される、分離・精製されたTfR2タンパク質は、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)を他の中耳炎の原因菌である細菌病原体から特異的に区別するために使用できる抗体を創製する上で有用である。すなわち、図5(a)と5(b)を参照して、ここで提供されるTfR2タンパク質により、モルモットを免疫することにより作製されたモルモット・抗−TfR2抗血清の特異的反応性をそれぞれ示すSDS−PAGE、ならびにイムノブロットを示す。分析した試料は以下の通りである。
【0044】
【表2】

【0045】
図5(b)に示された結果は、ここで提供される、TfR2特異的抗血清が、同じような臨床徴候のある疾病を引き起こす細菌病原体間の区別する上での有用性を明確に示している。
【0046】
下の表1に示される結果は、ここで提供されるTfR2タンパク質による免疫によって、作製されたモルモット・抗−TfR2抗血清の、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)を殺生する能力を示している。この結果は、4223株から単離したTfR2タンパク質にとる免疫によって作製された抗血清は、4223株から誘導された、同原の非凝集型のモラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)RH408株に対して、殺菌性である。ここで提供される、分離・精製されたTfR2タンパク質の有する、殺菌力のある抗体を創製する能力は、モラクセラ属カタル球菌(M. catarrhalis)が引き起こす疾病に対する防御のためのワクチンとしての、ここで提供される、TfR2タンパク質の効用のインビボの証拠である。
【0047】
すなわち、本発明の別の態様によれば、ここで提供される、TfR2タンパク質の免疫的な有効量と、生理学的に許容されるその担体とを含んでなる、TfR2タンパク質を産生するか、または、TfR2を特異的に認識する抗体を誘導する能力のあるタンパク質を産生する、モラクセラ属(Moraxella)菌株やその他の細菌性病原体に対するワクチンが提供される。TfR2と関係のない、抗原決定基に対する抱合体ワクチンを作製するため、ここで提供されるTfR2タンパク質を、ハプテン、ポリ多糖、またはペプチドに対するの担体タンパク質として利用することもできる。
【0048】
ここで提供される、TfR2タンパク質は、診断試薬、抗TfR2抗体産生のための抗原、あるいは、モラクセラ属(Moraxella)菌株が原因である疾病に対するワクチン用の抗原として有用である。
【0049】
本発明の追加の態様として、ここで提供されるTfR2タンパク質は、被包性細菌を含む病原細菌に対する抱合体ワクチンやキメラ分子(糖質抱合体を含む)を調製するための担体分子として使用することもできる。すなわち、本発明の糖質抱合体は、リポオリゴ糖LOSとPRPを含む、糖鎖抗原を有している細菌が原因となる疾病と感染に対する防御を付与するために使用できる。かかる細菌病原菌には、例えば、インフルンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、大腸菌(Escherichia coli)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、チフス菌(Salmonella typhi)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutants)、クリプトコックス・ネオファルマンス(Cryptococcus neoformans)、クレブシェラ属菌(Klebsiella)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)がある。TfR2タンパク質と結合される特定の抗原と、かかる結合を達成する方法は、本願の譲受人に譲渡されている、公開されたPCT出願 WO94/12641に記載されており、それを参照することで、その開示は、本願に組み入れられる。
【0050】
別の実施態様では、例えば、腫瘍細胞の異常多糖に対する免疫を誘導するためや化学療法剤または生理活性剤と結合できる抗腫瘍抗体を産生するために、TfR2タンパク質の担体機能が利用できる。
【0051】
本発明は、製剤原料として、特には、モラクセラ属(Moraxella)菌株による感染が原因となる疾病に対するワクチン中で、有効成分としての用途のTfRタンパク質にも及ぶ。
【0052】
さらに別の形態によれば、本発明は、モラクセラ属(Moraxella)菌株による感染が原因となる疾病に対する免疫用の医薬の調製のための、TfR2タンパク質の使用をも提供する。
【0053】
本発明の種々の態様は、ワクチン生産、診断、モラクセラ属(Moraxella)菌株感染の治療の分野、および免疫学的試薬の創製において、多様な応用を有することは当業者には明かである。そのような用途に関しての非限定的な論議を下記に示す。
【0054】
1.ワクチン製剤とその使用
ワクチンとしての使用に適している免疫原性組成物を、ここで記載されている免疫原性トランスフェリン受容体タンパク質、またはその類似体から調製できる。抗原材料を、好ましくない小さな分子量の分子を除去するために十分に透析すること、および/または、より製剤しやすい形に調製することが望ましい。免疫原性組成物は、抗トランスフェリン受容体抗体ならびにオプソニン作用と殺菌力のある抗体を含む、抗体を産生する、免疫応答を誘導する。ワクチンを投与した対象にモラクセラ属(Moraxella)菌株やトランスフェリン受容体を産生するような他の細菌が侵入した場合、その抗体がトランスフェリン受容体と結合して、生存に必要な鉄源に細菌が接近するのを阻止する。さらに、オプソニン作用があるかまたは殺菌力のある抗TfR抗体も別の代替メカニズムにより細菌の予防が可能である。
【0055】
ワクチンを含む免疫成分は、注射できるように液体にしたりエマルジョンの形にして使用することができる。トランスフェリン受容体タンパク質は、これと適合性のある、薬学的に受け入れられる医薬品添加物と混合できる。そのような添加物として、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、およびこれらを組み合わせものがある。この免疫原性組成物とワクチンには浸潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、アジュバントなどの補助剤を、効果の強化のために一緒に使用することが可能である。免疫原性組成物とワクチンを、非経口、皮下、筋肉内投与することもできる。
【0056】
また、本発明にかかる免疫原性組成物を粘膜表面での免疫応答を誘発するために調製・注入することができる。免疫原性を粘膜表面に、例えば、経鼻または経口(胃内)で投与できる。その他の投与法として座剤の使用と経口調剤が望ましい。
【0057】
座剤用の結合剤と担体にはポリアルカリングリコールまたはトリグリセリドが含まれる。このような座剤は、有効成分を0.5〜10%、望ましくは1〜2%含む混合物質から調製する。経口用の調剤としては、通常、糖類で製剤的に使えるもの、セルロース、炭酸マグネシウムのような補助剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、徐放剤、粉末の形状をよることでき、約1〜95%、好ましくは、約20〜約75%のトランスフェリン受容体タンパク質を含む。
【0058】
免疫原性調製物およびワクチンは、投与製剤に適合するような方法で、かつ治療的に有効、防御性かつ免疫原性であるような量を投与する。投与すべき量は、処理する被験者に依存し、例えば、抗体を合成する個体の免疫系の能力、希望する防御の程度および、必要ならば細胞媒介性免疫反応の生成を含む。投与すべき有効成分の正確な量は、実施者の判断による。しかし、好適な投与範囲は、この分野の専門家には容易に決定でき、接種当たりにマイクログラム程度のトランスフェリン受容体タンパク質でよい。初回投与およびブースター投与の適当な割合も変化してもよいが、初回投与に続く投与を行うとよい。この投与は、投与経路にも関係し、宿主の大きさによっても変化する。
【0059】
本発明による免疫原性組成物中のトランスフェリン受容体タンパク質の濃度は、一般に約1〜約95%である。ただ一種類の病原の抗原物質を含むワクチンは、単価ワクチンである。数種類の病原の抗原物質を含むワクチンは、混合ワクチンであり、これも本発明に属する。このような混合ワクチンは、例えば、種々の病原から、または同じ病原の種々の菌株から、または種々の病原の混合からの物質を含む。
【0060】
免疫原性は、リン酸緩衝生理食塩水中に0.05〜0.1%溶液として通常用いられるアジュバントと同時に抗原が投与された場合に、著しく強化できる。アジュバントは抗原の免疫原性を強化するが、それ自体は必ずしも免疫原性ではない。アジュバントは、投与位置の近くの局部に抗原を保持して、免疫系の細胞への遅く、継続した抗原の放出を容易にするデポー効果を発生するように作用する。アジュバントは、また、免疫系の細胞を抗原デポーに誘引し、かかる細胞に免疫反応を誘発するように刺激することもできる。
【0061】
免疫刺激剤またはアジュバントは、例えばワクチンへの宿主免疫反応を強化するために、多年にわたって使用されている。内因性アジュバント、例えばリポ多糖類は、通常、ワクチンとして使用される死んだ菌または弱毒菌の成分である。
【0062】
外因性アジュバントは、代表的には抗原に非共有結合的に結合しており、かつ宿主の免疫反応を強化するように配合される免疫調整剤である。このように、アジュバントは、非経口投与された抗原に対する免疫反応を強化すると認められる。しかし、これらのアジュバントの一部は毒性であり、かつ望ましくない副作用を起こし、ヒトや多くの動物への使用が不適当である。実際には、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム(両者を一緒にしてアルム(Alum)と呼ぶ)のみがヒトおよび獣医学的ワクチン中のアジュバントとして日常的に用いられている。
【0063】
ジフテリア菌および破傷風菌トキソイドに対する抗体反応を強化するアルム(Alum)の効力は、明らかに確立されており、HBsAgワクチンにはアルム(Alum)が添加されている。アルム(Alum)の有用性は、一部の用途には十分に確立されているが、これには限界がある。例えば、アルム(Alum)は、インフルエンザワクチンに対しては効力がなく、細胞媒介性免疫反応の誘発は不規則である。アルム(Alum)をアジュバントとした抗原により誘発される抗体は、マウスにおいては主としてIgG1アイソタイプであり、これは一部のワクチン剤による防御のためには最適ではない。
【0064】
広範囲の外因性アジュバントが、抗原に対して強い免疫反応を引き出すことができる。これらには、膜タンパク質抗原に複合したサポニン(免疫刺激性複合体)、鉱油と混合したプルロニック(Pluronic)ポリマー、鉱油中の死んだミコバクテリア、フロイント完全アジュバント、菌生成物、例えばムラミルジペプチド(MDP)およびリポ多糖(LPS)、ならびに脂質Aおよびリポソームを含む。
【0065】
効率的に体液性免疫反応(HIR)および細胞媒介性免疫(CMI)を誘発するために、免疫原はしばしばアジュバント中で乳化される。多くのアジュバントは、毒性で、肉芽腫、急性および慢性炎症(フロイント完全アジュバント、FCA)、細胞溶解(サポニンおよびプルロニックポリマー)および発熱性、関節炎および前部ブドウ膜炎(LPSおよびMDP)を誘発する。FCAは優れたアジュバントであり。研究に広く使用されているが、その毒性のためにヒトおよび獣医学的ワクチンへの使用に関しては認可されていない。
【0066】
理想的なアジュバントの望ましい特性は下記である。
【0067】
(1)無毒性;
(2)長期持続性免疫反応を刺激する能力;
(3)製造が簡単で長期の貯蔵でも安定;
(4)必要ならば、各種の経路で投与された抗原に対し、CMIおよびHIRの両者を誘発する能力;
(5)他のアジュバントとの相乗効果;
(6)抗原提供細胞(APC)の集団との選択的交互作用の能力;
(7)適当なTH1またはTH2細胞特異性免疫反応を特異的に誘発する能力;および
(8)抗原に対して、適当な抗体アイソタイプレベル(例えばIgA)を選択的に増加する能力。
【0068】
本発明に引用して含まれる、1989年8月8日にロックホッフら(Lockhoff et al.)に許可された米国特許第4855283号は、いずれも糖残基をアミノ酸により置換されているN−グリコシルアミド、N−グリコシルウレアーゼおよびN−グリコシルカルバメートを含む糖脂質類縁体を、免疫媒介体またはアジュバントとして教示している。このように、ロックホッフら(米国特許第4855283号およびリファレンス33)は、天然に存在する糖脂質、例えばグリコスフィンゴリピドおよびグリセロ糖脂質に対して構造的な類似性を示すN−糖脂質類縁体が、単純性ヘルペスウイルスワクチンと仮性狂犬病ウイルスワクチンの両者の中で強い免疫反応を誘発できることを報告している。天然に存在する脂質残基の機能を模倣するために、一部の糖脂質が、長鎖アルキルアミンと脂肪酸から合成されており、これはアノマー炭素原子を介して糖と直接リンクしている。
【0069】
モロニー(Moloney)に許可され、その譲渡人に譲渡され、本発明に引用して含まれる米国特許第4258029号は、オクタデシルチロシン塩酸塩(OTH)が、破傷風菌トキソイドおよびホルマリンで不活性化されたタイプI、IIおよびIIIポリオウイルスワクチンと複合された場合に、アジュバントとして機能することを教示している。また、ニクソン−ジョージら(Nixon-George et al.)(リファレンス34)は、組換え型B形肝炎表面抗原と複合化された芳香族アミノ酸のオクタデシルエステルが、B形肝炎ウイルスに対する宿主の免疫反応を強化することを報告している。

2.免疫検定
本発明のトランスフェリン受容体タンパク質は、抗トランスフェリン受容体タンパク質抗体の生成のための免疫原として、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、RIAおよび抗菌性、抗モラクセラ、および抗TfR抗体の検出のための従来から公知のその他の非−酵素リンク抗体結合検定または手順を含む免疫検定法における抗原として有用である。ELISA検定において、トランスフェリン受容体タンパク質は、選定された表面、例えばタンパク質を結合できる表面、例えばポリスチレンマイクロタイタープレート上で固定化される。不完全に吸着されたトランスフェリン受容体タンパク質を除くために洗浄した後に、供試試料に関して抗原的に中性であることが知られている非特異性タンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)の溶液を選定された表面上に結合させてもよい。これは固定面上の非特異性吸着サイトのブロッキングを許し、従って、表面への抗血清の非特異性結合により起きるバックグラウンドを減少させる。
【0070】
次いで、免疫複合体(抗原/抗体)形成に導くように、固定化面を試験すべき試料、例えば臨床または生物学的物質と接触させる。これには、希釈媒体、例えばBSA、ウシガンマグロブリン(BGG)および/またはリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenの溶液を用いる試料の希釈を含んでいてもよい。次いで、この試料を2〜4時間、温度約25〜37℃の程度でインキュベーションする。インキュベーションに続いて、非免疫複合物質を除くために、試料接触面を洗浄する。洗浄手順には、溶液、例えばPBS/Tweenまたはホウ酸塩緩衝液を用いる洗浄を含んでいてもよい。供試試料と結合トランスフェリン受容体タンパク質との間に特異性免疫複合体が形成され、引き続き洗浄した後に、免疫複合体形成の発生およびその量も、第一抗体に特異性を有する第二抗体に対して免疫複合体を作用させて測定してもよい。供試試料がヒト由来の場合には、第二抗体は、ヒト免疫グロブリン、一般にはIgGに対して特異性を有する抗体である。検出手段を提供するために、第二抗体は、同伴活性、例えば適当な発色物質を用いてインキュベーションして発色する酵素活性を有していてもよい。次いで、定量は、例えば分光光度計を用いて発色の程度を測定して得られる。
【実施例】
【0071】
実施例
以上の開示は、本発明を一般的に記載したものである。さらに完全な理解は、下記の特定の実施例を参照して得ることができる。これらの実施例は、説明のみを目的として記載されており、本発明の範囲の限定を意図するものではない。相当する物との変形また置換は、環境から要求されるかまたは便宜的なものである。この中に特定の用語が使用されているが、その用語は、内容を説明するためであり、限定を目的としたものではない。
【0072】
使用されているが、本開示および実施例中に明らかには記載されていない分子遺伝学、タンパク質生化学、および免疫学的方法は、科学文献中に広く記載されており、十分にこの分野の専門家の能力の範囲内にある。
【0073】
実施例1
本実施例は、M.カタラリス(M. catarrhalis)の増殖を説明する。
【0074】
使用したM.カタラリス(M. catarrhalis)菌株は、135、4223(リファレンス35)、5191(リファレンス35)(いずれも、中耳からの単離株)、ATCC25240、Q8(咯出物からの単離株)およびRH408であった。
【0075】
TfR2の単離のための細胞を提供するために、M.カタラリス(M. catarrhalis)菌株をチョコレート・アガー・プレート(BBL)上で定法によって維持した。
【0076】
M.カタラリス(M. catarrhalis)菌株4223を脳−心臓インフュージョン(BHI)培地20mL中に接種した。該培養物を一晩、通気しながら37℃でインキュベーションした。鉄制限条件下での増殖のために、該一晩培養物1mLを、25μM EDDAを含むBHI培地20mL中に接種し、該培養物を37℃において約3〜4時間増殖させた。対数増殖中間期まで増殖した細胞(A578>0.5)を、20分間、10,000xgの遠心分離により採取した。下記の実施例3に記載するように、トランスフェリン受容体(TfR2)タンパク質の抽出のためのこのペレットを用いた。
【0077】
実施例2
本実施例は、M.カタラリス(M. catarrhalis)の非凝集菌株(RH408)の創製を説明する。
【0078】
M.カタラリス(M. catarrhalis)菌株4223を、BHI培地20mLを入れた数個のフラスコ中に接種し、各培養物を、一晩、37℃で振とう(170rpm)しながらインキュベーションした。各一晩培養物の5mLを、個別に1mL試験管に分注し、室温で3〜8時間静置し、菌を沈降させた。各培地の上清100μLを用いて、BHI培地ス25mLに接種し、そして、各培養物を上記のように、37℃において一晩インキュベーションした。この処理手順を6回反復し、それぞれの一晩培養カルチャーに対して、BHI25mLに接種するために透明な培地25μLを用いた。処理した菌株と、最初のM.カタラリス(M. catarrhalis)菌株4223カルチャーとの沈降速度を比較するために、非凝集菌カルチャーは、3時間間隔でA578を測定して決定した。M.カタラリス(M. catarrhalis)RH408を含む非凝集変異菌株は、3時間の期間中、凝集しなかった。RHIアガープレート上で、RH408菌株は、すべての非凝集菌株に一般的なコロニー形態を有していた。RH408菌株は、1994年12月13日のブタペスト条約の規定に従って、12301パークローン・ドライブ、ロックビル、メリーランド、20852、米国にあるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託され、受託番号:ATCC Acession No. 55637(ATCC 55637)が付与されている。
【0079】
実施例3
本実施例は、アフィニティ精製によるトランスフェリン受容体タンパク質TfR2の抽出を説明する。
【0080】
アフィニティ精製TfR2は、リファレンス29に記載されてるトータル膜から、セファロース4B(Pharmacia)結合ヒトトランスフェリン(Sigma)を用いて調製した。アフィニティマトリックスに結合している細菌受容体タンパク質は、50mMトリス−HCl pH8.0、1M NaCl、10mM EDTA、0.05%ラウリルサルコシン酸ナトリウム、2Mグアニジンの緩衝液を用いて選択的に溶出した。溶出したタンパク質は、50mMトリス−HCl pH8.0に対して透析した。
【0081】
実施例4
本実施例は、トランスフェリン受容体タンパク質TfR2の抽出と精製を説明する。
【0082】
トランスフェリン受容体タンパク質は、図1に一般的に説明されている手順によりM.カタラリス(M. catarrhalis)から単離したものである。
【0083】
M.カタラリス(M. catarrhalis)の鉄欠乏一晩培養カルチャーからの細胞ペレットを50mMトリス−HCl pH8.0中に再懸濁し、音波破砕により破壊した。音波破砕物を30分間、20,000xgで遠心分離し、可溶性タンパク質を含む得られた上清(S1)を廃棄した。ペレット(PPT1)を0.5%トライトンX−100および10mM EDTAを含む50mMトリス−HCl pH8.0中に懸濁した。この抽出工程はTfR2を可溶化した。懸濁液を20分間、20,000xgで遠心分離して不溶性物質を除去し、上清を、50mMトリス−HCl pH8.0中で平衡化したDEAE セファセル(Pharmacia)カラムに負荷した。TfR2を流出画分中で回収し、50mMトリス−HCl pH8.0中で平衡化したSE−セルロースD529カラムを用いてさらに精製した。TrF2を含む流出画分を次いで10mMリン酸塩緩衝液、pH8.0中で平衡化したヒドロキシアパタイト(HPT)カラム上に負荷した。この工程は、HTPと結合して残っているTfR2からOMP B2(HTP流出画分中に存在する)を、分離した。50mMリン酸緩衝液、pH8.0を用いてHTPカラムを十分に洗浄した後に、200mMリン酸塩緩衝液、pH8.0を用いてマトリックスからTfR2を溶出させた。TfR2の純度は、SDS−PAGE分析により分析した。
【0084】
実施例5
本実施例は、M.カタラリス(M. catarrhalis)外膜タンパク質B2 OMP B2の精製を記載する。
【0085】
HTPカラムの流出フラクションを12.5%SDS−PAGEにより分析した。電気泳動の後に、OMP B2タンパク質バンドに相当するゲルスライスをゲルから切り取った。溶出緩衝液(15mM NH4CO3/0.1%SDS)中、100ボルトで12時間、電気溶出によりゲルスライスからタンパク質を回収した。
【0086】
実施例6
本実施例は、モルモットの免疫を説明する。
【0087】
モルモット(チャールズリバー、ケベック)を完全フロイントアジュバント(CFA)中に乳化したTfR2またはOMP B2のいずれかのタンパク質の5μgを用いて1日目に筋肉内免疫(i.m.)した。14日目および28日目に、不完全フロイントアジュバント(IFA)中に乳化した同じ投与量を用いて動物をブーストした。血液試料は、42日目に採取した。得られた結果は表1に記載してある。
【0088】
実施例7
本実施例は、精製したTfR2およびOMP B2タンパク質の分析を記載する。
【0089】
分離ゲル中の11.5%または12.5%(w/v)アクリルアミド(BRL)を用いて、ルンテンベルグら(Luntenberg et al.)(リファレンス36)に記載のようにしてSDS−PAGEによりタンパク質を分離した。クーマッシー・ブリリアントブルー(BioRad)を用いてゲルを着色して、タンパク質を目に見えるようにした。タンパク質標準分子量マーカーは、BioRadおよびPharmaciaから入手した。
【0090】
SDS−PAGEにより分離したタンパク質は、ポリ二フッ化ビニリデン膜(PVDF、Millipore)上にタウビンら(Towbin et al.)の方法(リファレンス37)により電気ブロットした。免疫ブロットに対して、希釈度1:1000で抗血清を用いた。組換え型タンパク質Gホースラディッシュペルオキシダーゼ複合体(Zymed)を希釈度1:4000でレポーターとして用いた。比色反応(4CN/DAB;Pierce)または化学蛍光反応(LumiGlo; Kirkegaard and Perry)のいずれかを用いて、ブロットを現像した。メーカーの推奨する手順を両方の検出法に用いた。予備着色分子量マーカーは、BioRadから購入した。
【0091】
精製タンパク質のin vitroトランスフェリン−結合活性は、シュリベルスとリー(Schryvers and Lee)(リファレンス27)が記載した方法をいくらか変更して用いて評価した。簡単に記載すると、タンパク質試料をSDS−PAGEにより分離し、次いでPCDF膜に塩基泳動により移行させた。ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ヒトトランスフェリン(1:50希釈、Jackson ImmunoResearch)を用いて、一晩、4℃で膜をインキュベーションした。上記のようにLumiGlo化学蛍光反応を用いてブロットを現像した。
【0092】
実施例8
本実施例は、B.カタラリスに対する殺菌性検定を説明する。
【0093】
抗血清試料(25μL)を56℃に30分間加熱して、補体活性を除き、0.1%BSAを含むベロナール緩衝液(NaCl 8.0g/L、NaHCO3 0.25g/L、バルビツール酸ナトリウム0.30g/L、バルビツール酸0.45g/L、MgCl2・6H2O 0.1g/L、CaCl2・2H2O 0.05g/L)(VBS)中で1:8に希釈し、次いで96ウエルNuncマイクロタイタープレートの最初のウエルを加えた。VBS中の抗血清の2倍段階希釈物を、残ったウエルに加えた。OD578>0.5まで増殖した菌細胞をVBS中で1:200,000に希釈し、菌懸濁液の25μL部分をそれぞれのウエルに加えた。モルモット補体(Biowhittaker,Wakersville,MD)をVBS中で1:10に希釈し、溶液25μLをそれぞれのウエルに加えて反応を開始させた。37℃で60分間プレートをインキュベーションし、次いで、それぞれの反応混合物50μLを、2.2%ミュラー−ヒントン−ブロスおよび1.5%アガーを含むミュラー−ヒントンアガープレート上に置いた。37℃で45分間インキュベーションした後、コロニーを計数して、殺菌力価を決定した(50%以上の菌を殺菌できる抗血清の最高希釈度の逆数を免疫前血清を含む対照と比較した)。結果は表1に記載してある。

開示の要約
開示を要約すると、本発明は、約80kDa〜約90kDa見かけ上分子量を有し、M.カタラリス(M. catarrhalis)から単離したトランスフェリン受容体タンパク質、これを製造する方法、免疫原性組成物としてのこの利用および診断体系を提供する。本発明の範囲内で、変更はできる。
【0094】
表1
【0095】
【表3】

【0096】
参考文献
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1−1】図1は、本発明の1つの実施態様による、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)由来のトランスフェリン受容体タンパク質を精製する方法のフロー・ダイアグラムである。
【図1−2】図1は、本発明の1つの実施態様による、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)由来のトランスフェリン受容体タンパク質を精製する方法のフロー・ダイアグラムである。
【図1−3】図1は、本発明の1つの実施態様による、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)由来のトランスフェリン受容体タンパク質を精製する方法のフロー・ダイアグラムである。
【図1−4】図1は、本発明の1つの実施態様による、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)由来のトランスフェリン受容体タンパク質を精製する方法のフロー・ダイアグラムである。
【図2】図2は、見かけの分子量が約80〜約90kDaである、分離・精製されたトランスフェリン受容体タンパク質のSDS−PAGEによる分析結果を示している。
【図3】図3は、精製されたトランスフェリン受容体のヒト・トランスフェリンを結合する能力を示している。
【図4】図4(a)、4(b)、4(c)は、精製されたトランスフェリン受容体タンパク質のイムノブロット分析を示している。
【図5】図5(a)と5(b)は、中耳炎の原因となる、モラクセラ属カタル球菌(Moraxella catarrhalis)とその他の細菌病原体を特異的に区別するため、分離・精製されたトランスフェリン受容体タンパク質を使用した免疫により生産された、モルモットの抗−Tfr抗血清の能力を検証するイムノブロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドデシル硫酸ナトリウム ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)法によって測定した際、約80kDa〜約90kDaに見かけ上の分子量を示す、モラクセラ属菌株由来の単離・精製された、非変性トランスフェリン受容体タンパク質であり、
タンパク質変性剤を利用することなく、該非変性トランスフェリン受容体タンパク質の単離・精製が実施されており、
前記非変性トランスフェリン受容体タンパク質は、該モラクセラ属菌株由来のOMP B2タンパク質、ならびに、SDS−PAGE法によって測定した際、105kDaに見かけ上の分子量を示す、該モラクセラ属菌株由来のトランスフェリン受容体タンパク質を実質的に含まない
ことを特徴とする、モラクセラ属菌株由来の単離・精製された、非変性トランスフェリン受容体タンパク質。
【請求項2】
該モラクセラ属菌株は、モラクセラ カタラリスである
ことを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
該モラクセラ属菌株は、モラクセラ カタラリス 4223株、 5191株、または135株である
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項4】
該タンパク質は、少なくとも純度70重量%である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項5】
該タンパク質は、少なくとも純度90重量%である
ことを特徴とする、請求項4に記載のタンパク質。
【請求項6】
ドデシル硫酸ナトリウム ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)法によって測定した際、約80kDa〜約90kDaに見かけ上の分子量を示す、モラクセラ属菌株由来の単離・精製された、非変性トランスフェリン受容体タンパク質を含んでなる水溶液であって、
タンパク質変性剤を利用することなく、該非変性トランスフェリン受容体タンパク質の単離・精製が実施されており、
前記非変性トランスフェリン受容体タンパク質は、該モラクセラ属菌株由来のOMP B2タンパク質、ならびに、SDS−PAGE法によって測定した際、105kDaに見かけ上の分子量を示す、該モラクセラ属菌株由来のトランスフェリン受容体タンパク質を実質的に含まない
ことを特徴とする、組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の非変性トランスフェリン受容体タンパク質を免疫有効量含んでなる、宿主の免疫に適合する免疫原性組成物を用いて、ヒト以外の宿主を免疫して創製することが可能な、モラクセラ属菌株由来の非変性トランスフェリン受容体タンパク質に対する特異的な抗体を作製する方法であって、
前記抗体は、該モラクセラ属菌株に対する殺菌力を示す
ことを特徴とする、モラクセラ属菌株由来の非変性トランスフェリン受容体タンパク質に対する特異的な抗体を作製する方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−291128(P2007−291128A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168168(P2007−168168)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【分割の表示】特願平9−514592の分割
【原出願日】平成8年10月11日(1996.10.11)
【出願人】(500096994)サノフィ パスツ−ル リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR LIMITED
【Fターム(参考)】