説明

モリブデン、ビスマスおよび鉄を含有する多金属酸化物を含むシェル触媒

本発明は、(a)担体、(b)(i)触媒活性の、モリブデンおよび少なくとも1の別の金属を含有する、一般式(I)Mo12BiaCrb1cFed2e3fy (I)[式中、X1=Coおよび/またはNi、X2=Siおよび/またはAl、X3=Li、Na、K、Csおよび/またはRb、0.2≦a≦1、0≦b≦2、2≦cV10、0.5≦d≦10、0≦e≦10、0≦f≦0.5およびy=電荷が中性であるとの前提において、(I)中で酸素とは異なる元素の価数および頻度により決定される数]の多金属酸化物、および(ii)少なくとも1の細孔形成剤を含有するシェルを含む、触媒前駆体から得られるシェル触媒に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性モリブデン、ビスマスおよび鉄を含有する多金属酸化物を含有するシェル触媒に関する。
【0002】
モリブデンを含有する多金属酸化物をベースとするシェル触媒の製造方法は、たとえばWO95/11081、WO2004/108267、WO2004/108284、US−A2006/0205978、EP−A714700およびDE−A102005010645から公知である。この場合、活性材料はモリブデンおよびバナジウム、またはモリブデン、ビスマスおよび鉄を含有する多金属酸化物である。この場合、多金属酸化物という名称は、活性材料がモリブデンおよび酸素以外に、さらに少なくとも1の別の化学的な元素を含有していることを表現している。
【0003】
前記の種類の触媒は、アクロレインからアクリル酸、プロペンからアクロレイン、もしくはt−ブタノール、イソ−ブタン、イソ−ブテンまたはt−ブチルメチルエーテルからメタクロレインへの不均一系触媒による部分的な気相酸化の触媒反応のためのものとして記載されている。
【0004】
EP−A0714700は、アクロレインからアクリル酸への気相酸化のための、MoおよびVを含有する多金属酸化物材料をベースとするシェル触媒の製造、およびさらにプロペンからアクロレイン、およびt−ブタノール、イソ−ブタン、イソ−ブテンまたはt−ブチルメチルエーテルからメタクロレインへの気相酸化のための、Mo、BiおよびFeを含有する多金属酸化物材料をベースとするシェル触媒の製造を記載している。
【0005】
US2006/0205978は、プロペンからアクロレインおよびアクリル酸への酸化のための、組成Mo120.5Co5Ni3Bi1.3Fe0.8Si20.08xの活性材料を含有するシェル触媒を記載している。
【0006】
EP−A0630879は、プロペン、イソブテンまたはt−ブタノールを、モリブデン、ビスマスおよび鉄を含有する多金属酸化物触媒を用いて接触酸化する方法を記載しており、この場合、実質的に触媒不活性であるモリブデン酸化物の存在下で作業されている。モリブデン酸化物の存在により多金属酸化物触媒の失活が防止される。
【0007】
本発明の課題は、ブテンからブタジエンの酸化脱水素のための、モリブデン、ビスマスおよび鉄を含有する多金属酸化物をベースとする触媒であって、高い活性と選択率を有する触媒を提供することである。
【0008】
前記課題は、
(a)担体、
(b)(i)触媒活性の、モリブデンおよび少なくとも1の別の金属を含有する、一般式(I)
Mo12BiaCrb1cFed2e3fy (I)
[式中、
1=Coおよび/またはNi、
2=Siおよび/またはAl、
3=Li、Na、K、Csおよび/またはRb、
0.2≦a≦1、
0≦b≦2、
2≦c≦10、
0.5≦d≦10、
0≦e≦10、
0≦f≦0.5および
y=電荷が中性であるとの前提において、(I)中で酸素とは異なる元素の価数および頻度により決定される数]の多金属酸化物、および
(ii)少なくとも1の細孔形成剤、を含有するシェル
を含む触媒前駆体から得られるシェル触媒によって解決される。
【0009】
前記課題はさらに、担体上に、結合剤によって(i)触媒活性モリブデンおよび少なくとも1の別の金属を含有する多金属酸化物、および(ii)細孔形成剤、を含有する層を施与し、被覆した担体を乾燥させ、かつか焼するシェル触媒の製造方法によって解決される。
【0010】
前記課題はさらに、有機化合物の接触気相酸化のための方法における本発明によるシェル触媒の使用によって解決される。
【0011】
有利であるのは、触媒活性酸化物材料がX1としてCoのみを含有するシェル触媒である。有利なX2は、Siであり、X3は有利にはK、Naおよび/またはCsであり、特に有利にはX3はKである。
【0012】
化学量論的な係数であるaは、有利には0.4≦a≦1であり、特に有利には0.4≦a≦0.95である。化学量論係数であるbは、有利には0.1≦b≦2の範囲であり、かつ特に有利には0.2≦b≦1の範囲である。化学量論係数cは、有利には4≦c≦8の範囲であり、かつ特に有利には6≦c≦8の範囲である。変数dの値は、有利には1≦d≦5の範囲であり、かつ特に有利には2≦d≦4の範囲である。化学量論係数fは、有利には≧0である。有利には0.01≦f≦0.5であり、かつ特に有利には0.05≦f≦0.2が該当する。
【0013】
酸素の化学量論係数であるyの値は、電荷が中性であるとの前提の下でカチオンの価数および頻度から生じる。触媒活性酸化物材料のCo/Niのモル比が少なくとも2:1、有利には少なくとも3:1および特に有利には少なくとも4:1である触媒活性酸化物材料を含有する本発明によるシェル触媒が有利である。最も良いのはCoのみが存在する場合である。
【0014】
このような、モリブデンを含有する多金属酸化物は、プロペンからアクロレインへの選択的気相酸化のためのみでなく、その他のアルケン、アルカン、アルカノンまたはアルカノールから、α,β−不飽和アルデヒドおよび/またはカルボン酸への部分気相酸化のためにも適切である。たとえばイソ−ブテン、イソ−ブタン、t−ブタノールまたはt−ブチルメチルエーテルからのメタクロレインおよびメタクリル酸の製造が挙げられる。
【0015】
本発明によるシェル触媒を使用する有利な気相酸化は、アルケンから1,3−ジエンへの、特に1−ブテンおよび/または2−ブテンから1,3−ブテンへの酸化脱水素である。
【0016】
多金属酸化物を含有するシェル触媒の層は、細孔形成剤を含有している。適切な細孔形成剤はたとえばマロン酸、メラミン、ノニルフェノールエトキシレート、ステアリン酸、グルコース、デンプン、フマル酸およびコハク酸である。
【0017】
有利な細孔形成剤はステアリン酸、ノニルフェノールエトキシレートおよびメラミンである。
【0018】
本発明により使用すべき微粒子状のMoを含有する多金属酸化物は、基本的に、触媒活性酸化物材料の元素成分の出発化合物から、完全に混和した乾燥混合物を製造し、この完全混和乾燥混合物を150〜350℃の温度で熱処理することにより得られる。
【0019】
このような、およびその他の適切な微粒子状の多金属酸化物材料を製造するためには、そのつどの化学量論比における所望の多金属酸化物材料の酸素以外の元素成分の公知の出発化合物から出発し、かつ該材料からできる限り完全に混和した、有利には微粒子状の乾燥混合物を製造し、次いで該混合物を熱処理する。その際に、供給源はすでに酸化物であってもよいし、あるいは少なくとも酸素の存在下での加熱によって酸化物に変換することができる化合物であってもよい。従って酸化物以外にも、出発化合物としてあらゆるハロゲン化物、硝酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、炭酸塩または水酸化物が考えられる。
【0020】
Moの適切な出発化合物は、そのオキソ化合物(モリブデン酸塩)または該化合物から誘導される酸でもある。
【0021】
Bi、Cr、FeおよびCoの適切な出発化合物は特にこれらの硝酸塩である。
【0022】
出発化合物の完全な混和は、原則として乾燥した形で、または水溶液もしくは水性懸濁液の形で行うことができる。
【0023】
有利には完全混和は水溶液および/または水性懸濁液の形で行う。特に完全混和された乾燥混合物は、記載の混合法において、もっぱら溶解した形で存在する供給源および出発化合物から出発する場合に得られる。溶剤として有利には水を使用する。引き続き水性の材料(溶液または懸濁液)を乾燥させ、こうして得られた完全混和された乾燥混合物を場合により直接熱処理する。有利には乾燥工程は噴霧乾燥(出口温度は通常100〜150℃)およびこれに直接引き続いて水性の溶液または懸濁液の仕上げを行う。
【0024】
その際に生じる粉末が、直接さらに加工するためには粒子が細かすぎることが判明した場合には任意で水を添加して混練することができる。むしろ混練の際に低級有機カルボン酸(たとえば酢酸)を添加することは有利であることが判明した。典型的な添加量は、使用される粉末材料に対して5〜10質量%である。生じる混練材料は引き続き、有利にはストランドに成形し、これをすでに記載した熱処理に供し、かつその後、粉砕して微粒子状の粉末にする。
【0025】
本発明により得られるシェル触媒のために適切な担体材料は、たとえば多孔質の、または有利には非多孔質の酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム、炭化ケイ素またはケイ酸塩、たとえばケイ酸マグネシウムまたはケイ酸アルミニウム(たとえばCeramTec社のC220タイプのステアタイト)である。担体の材料は化学的に不活性である。
【0026】
担体は規則的な形状または不規則な形状に成形されていてよく、その際、明らかな表面粗さを有する規則的な形状に成形された担体、たとえば粗粒の層を有する球体、円柱体または中空の円筒体は有利である。これらの長さ方向の広がりは通常1〜10mmである。
【0027】
担体材料は多孔質であっても非多孔質であってもよい。有利には担体材料は非多孔質である(担体の体積に対する細孔の全体積は有利には1体積%以下である)。担体の表面粗さが高まると、通常は第一および第二の層からなる施与されたシェルの付着強度が高められる。
【0028】
有利には担体の表面粗さRzは、30〜100μmの範囲であり、好ましくは50〜70μmの範囲である(Hommelwerke社の「DIN−ISO表面測定パラメータのためのホンメル試験機」を用いて、DIN4768、シート1による測定)。特に有利であるのは、CeramTec社のステアタイトC220からなる粗い表面を有する担体である。
【0029】
本発明により特に適切であるのは、実質的に非多孔質の、粗い表面を有するステアタイトからなり、直径が1〜8mm、有利には2〜6mm、特に有利には2〜3または4〜5mmの球形の担体(たとえばCeramTec社のC220タイプのステアタイト)の使用である。しかし担体として、長さが2〜10mmであり、外径が4〜10mmである円柱体の使用もまた担体として適切である。担体としてのリングの場合、さらに壁厚は通常1〜4mmである。有利に使用されるリング状の担体は、2〜6mmの長さと、4〜8mmの外径と、1〜2mmの壁厚とを有する。特に7mm×3mm×4mm(外径×長さ×内径)の形状のリングもまた、担体として適切である。
【0030】
モリブデンを含有する多金属酸化物材料(i)および細孔形成剤(ii)からなる層の厚さDは、通常、5〜1000μmである。有利には10〜500μm、特に有利には20〜250μm、およびとりわけ有利には30〜200μmである。
【0031】
Moを含有する微粒子状の多金属酸化物の粒度(微細度)は、モリブデン酸化物もしくは前駆体化合物の粒度と同様に、所望される層厚さDに適合される。従って、モリブデン酸化物もしくは前駆体化合物の長さ方向での広がりdLに関するすべての記載は、相応して、微粒子状のMoを含有する多金属酸化物の長さ方向の広がりに該当する。
【0032】
担体表面上への微粒子状の材料(モリブデンを含有する多金属酸化物(i)と細孔形成剤(ii))の施与は、従来技術に記載されている方法、たとえばUS−A2006/0205978ならびにEP−A0714700に記載されている方法に従って行うことができる。
【0033】
一般に微粒子状材料は、液状の結合剤を用いて担体表面もしくは第一の層の表面上へ施与される。液状の結合剤として、たとえば水、有機溶剤または水もしくは有機溶剤中の有機物質の溶液(たとえば有機溶剤)が考えられる。
【0034】
たとえば有機結合剤として、一価もしくは多価の有機アルコール、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールまたはグリセリン、一価もしくは多価の有機カルボン酸、たとえばプロピオン酸、蓚酸、マロン酸、グルタル酸またはマレイン酸、アミノアルコール、たとえばエタノールアミンまたはジエタノールアミン、ならびに一価もしくは多価の有機アミド、たとえばホルムアミドが挙げられる。水中、有機液体中、または水と有機液体との混合物中で可溶性の有機結合促進剤は、たとえば単糖類およびオリゴ糖類、たとえばグルコース、フルクトース、サッカロースおよび/またはラクトースが適切である。
【0035】
特に有利には液状結合剤として、水20〜95質量%および有機化合物5〜80質量%からなる溶液を使用する。有利には前記の液状結合剤における有機割合は、10〜50質量%、特に有利には10〜30質量%である。
【0036】
一般に、標準圧力(1気圧)での沸点もしくは昇華温度が100℃以上、有利には150℃以上である有機結合剤もしくは結合剤割合は有利である。とりわけ有利にはこのような有機結合剤もしくは結合剤割合の沸点または昇華温度は標準圧力で、同時に元素のMoを含有する微粒子状多金属酸化物を製造する範囲で適用される最高のか焼温度を下回る。通常、この最高か焼温度は600℃以下、しばしば500℃以下、または400℃以下、あるいは300℃以下である。
【0037】
特に有利な液状結合剤は、水20〜95質量%およびグリセリン5〜80質量%からなる溶液である。有利にはこの水溶液中でのグリセリン割合は、5〜50質量%、特に有利には5〜25質量%である。
【0038】
Moを含有する微粒子状の多金属酸化物(i)のモリブデン酸化物もしくは前駆化合物(ii)の施与は、Moを含有する微粒子状の多金属酸化物(i)のモリブデン酸化物もしくはまたは前駆化合物(ii)もしくはこれらの混合物と(場合により)細孔形成剤(iii)からなる微粒子状材料が、液状結合剤中に分散して存在しており、その際に得られる懸濁液を、たとえばDE−A1642921、DE−A2106796およびDE−A2626887に記載されているように、移動し、かつ場合により高温の担体上に噴霧して行うことができる。噴霧の終了後に、DE−A2909670に記載されているように、高温の空気を導通させることによって、得られるシェル触媒の水分含有率を低減することができる。
【0039】
しかし有利には、担体をまず液状の結合剤により濡らし、次いで微粒子状の材料(多金属酸化物(i)および細孔形成剤(ii))を、濡れている担体を微粒子状材料中で転動させることによって、結合剤により濡れている担体の表面上に施与する。所望の層厚さを達成するために、前記の方法を有利には数回繰り返す、つまり下塗りした担体を再度、濡らしてから乾燥した微粒子状材料と接触させて被覆することができる。
【0040】
一般に、被覆した担体は、150〜600℃、有利には270〜500℃の温度でか焼する。か焼時間は一般に2〜24時間、有利には5〜20時間である。か焼は酸素を含有する雰囲気で、有利には空気で実施する。本発明による実施態様ではこのか焼は、150〜350℃、有利には200〜300℃の温度で、かつ350〜550℃、有利には400〜500℃の温度で合計2〜10時間か焼する温度プログラムに従って行う。
【0041】
細孔形成剤(iii)は、微粒子状の材料中に含有されていてもよいし、あるいは液状の結合剤に添加してもよい。細孔形成剤は一般に、担体上に施与される材料中に、1〜40質量%、有利には5〜20質量%の量で含有されており、その際、この記載は、多金属酸化物(i)、細孔形成剤(ii)および結合剤の合計に対するものである。
【0042】
本発明による方法を工業的な規模で実施するために、DE−A2909671に開示されている方法の適用が推奨されるが、しかし有利にはEP−A714700で推奨されている結合剤が推奨される。つまり被覆すべき担体を有利には傾斜した(傾斜角度は通常30〜90゜)、回転する回転容器(たとえば回転皿またはコーティング容器)に充填する。回転する回転容器は特に球形、円柱形または中空の円筒形の担体を、一定の間隔で連続して配置された2つの供給装置に通過させる。2つの供給装置の第一の装置は、有利にはノズルであり、該ノズルにより回転する回転皿中で転動している担体を、使用すべき液状結合剤により噴霧し、制御しながら湿らせる。第二の供給装置は、噴霧される液状結合剤の噴霧コーンの外側に存在しており、微粒子状の材料を、たとえば振動する流路を介して供給するために役立つ。制御されて湿らされる球形の担体は、供給される活性材料粉末により被覆され、円柱形もしくは球形の担体の外側表面上で回転運動によって連続したシェルへと圧縮される。
【0043】
必要に応じて下塗りされた担体は、その後の回転の過程でふたたび噴霧ノズルを通過し、その際に制御されながら湿らされて、その後の移動の過程で微粒子状の材料のさらなる層によって被覆することができる。中間乾燥は通常不要である。本発明により使用される液状結合剤の除去は、最終的な熱の供給、たとえば高温の気体、たとえばN2または空気を適用することによって、部分的に、または完全に行うことができる。本発明による方法の前記の実施態様の特別な利点は、作業工程でシェル触媒が2以上の異なった材料からなるシェルによって層状に製造することができることである。その際、本発明による方法は、上下に重なっている層同士の、ならびに担体の表面上での下塗り層の完全に満足のゆく付着がもたらされることが特筆すべきである。このことは、リング形の担体の場合にも該当する。
【0044】
前記課題はさらに、有機化合物の接触気相酸化のための方法における本発明によるシェル触媒の使用によって解決される。
【0045】
触媒活性多金属酸化物および細孔形成剤からなる層は、さらにモリブデン酸化物またはモリブデン酸化物を形成する前駆化合物を含有していてよい。このことにより、たとえばEP−A0630879に基本的に記載されているように、触媒の失活を防止することができる。前駆化合物は、高温の作用下に、かつ分子酸素の存在下にモリブデンの酸化物を形成するモリブデンの化合物である。高温および分子酸素は、担体表面上に前駆化合物を施与した後に作用させることができる。このために熱処理をたとえば酸素雰囲気または空気雰囲気下で行うことができる。熱および酸素の作用によるモリブデンの前駆化合物から酸化物への変換は、接触気相酸化において触媒を使用する間に初めて行ってもよい。
【0046】
モリブデンの酸化物とは異なる適切な前駆化合物のための例として、モリブデン酸アンモニウム[(NH42MoO4]ならびにポリモリブデン酸アンモニウム、たとえばヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物[(NH46Mo724・4H2O]が挙げられる。さらなる例は、酸化モリブデン水和物(MoO3・xH2O)である。しかしまた、水酸化モリブデンもこのような前駆化合物として考慮される。しかし、この層は有利にはすでにモリブデンの酸化物を含有する。特に有利なモリブデン酸化物は、三酸化モリブデン(MoO3)である。その他の適切なモリブデン酸化物はたとえばMo1852、Mo823およびMo411(たとえばSurface Science 292(1993)、第261〜266頁またはJ. Solid State Chem.124(1996)104を参照のこと)。
【0047】
モリブデン酸化物および触媒活性のモリブデンを含有する多金属酸化物(I)は、別々の層に存在していてもよい。たとえばシェル触媒は、(a)担体、(b)モリブデン酸化物もしくはモリブデン酸化物を形成する前駆化合物を含有する第一の層、および(c)式(I)のモリブデン含有触媒活性多金属酸化物および細孔形成剤を含有する第二の層から構成されていてもよい。このようなシェル触媒は、担体上に結合剤によってモリブデン酸化物またはモリブデン酸化物を形成する前駆化合物からなる第一の層を施与し、この第一の層により被覆された担体を場合により乾燥させ、かつか焼し、かつこの第一の層上に、結合剤を用いて、モリブデンを含有する多金属酸化物からなる第二の層を施与し、かつ第一の層および第二の層により被覆された担体を乾燥させ、かつか焼することにより製造することができる。
【0048】
本発明によるシェル触媒は、触媒の失活を防止するために、モリブデン酸化物を含有する別個の成形体との、またはモリブデン酸化物を含有する成形体からなる別個の堆積物との混合物であることも可能である。
【0049】
本発明の対象は、気相酸化法、特にオレフィンからジエンへの、特に1−ブテンおよび/または2−ブテンからブタジエンへの酸化脱水素法における本発明によるシェル触媒の使用でもある。本発明による触媒は、高い活性、しかし特には1−ブテンおよび2−ブテンからの1,3−ブタジエンの形成に関する高い選択率により優れている。
【0050】
本発明を以下の実施例により詳細に説明する。
実施例
例1:化学量論Mo12Co7Fe30.08Bi0.6Cr0.5の前駆体材料Aもしくは完全材料触媒V1の製造
溶液A:
10lの特殊鋼容器に水3200gを装入した。アンカー型攪拌機による撹拌下に、KOH溶液(KOH32質量%)4.9gを、装入した水に添加した。溶液を60℃に加熱した。次いでヘプタモリブデン酸アンモニウム溶液((NH46Mo724*4H2O、Mo54質量%)1066gを少量ずつ、10分間にわたって添加した。得られた懸濁液をさらに10分間、後攪拌した。
【0051】
溶液B:
5lの特殊鋼容器に硝酸コバルト(II)溶液(Co12.4質量%)1663gを装入し、撹拌下(アンカー型攪拌機)で60℃に加熱した。次いでこの温度を維持しながら、硝酸鉄(III)溶液(Fe13.6質量%)616gを10分間にわたって少量ずつ添加した。得られた溶液を10分間、後攪拌した。次いでこの温度を維持しながら、硝酸ビスマス溶液(Bi10.9質量%)575gを添加した。さらに10分間、後攪拌した後に、硝酸クロム(III)を少量ずつ固体で添加し、生じた暗赤色の溶液を10分間、さらに撹拌した。
【0052】
沈殿:
60℃を維持しながら、チューブポンプで15分以内に溶液Bを溶液Aに添加した。添加の間およびその後に、強力ミキサー(ウルトラ・ツラックス)により撹拌した。添加が終了した後に、さらに5分間、引き続き撹拌した。
【0053】
噴霧乾燥
得られた懸濁液をNIRO社の噴霧塔(噴霧ヘッド No.F0A1、回転数25000回転/分)中で、1.5時間の時間にわたって噴霧乾燥した。その際、受け器温度は60℃に維持した。噴霧塔の気体入口温度は300℃であり、気体出口温度は110℃であった。得られた粉末は、40μmより小さい粒径(d90)を有していた。
【0054】
例2 完全材料触媒の製造
成形(完全材料触媒)
得られた粉末にグラファイト1質量%を添加し、9バールのプレス圧力で2回圧縮し、メッシュ幅0.8mmを有するふるいに通して粉砕した。破砕片にふたたびグラファイト2質量%を添加して、混合物をKilian S100タブレットプレスにより5×3×2mmのリングにプレス成形した。
【0055】
か焼(完全材料触媒):
得られた粉末を回分式(500g)で、ドイツ在Heraeus社の強制空気循環炉(K 750/2Sタイプ、内部容積55l)中、460℃でか焼した。
【0056】
か焼終了および冷却後に、触媒V1 290gが得られた。完全材料触媒の調製はこの工程で終了した。
【0057】
か焼(シェル触媒):
得られた粉末を回分式(500g)で、フタをした陶器製シャーレ中、強制空気循環炉(500Nl/h)の中、460℃でか焼した。
【0058】
か焼および冷却後に、明るい褐色の粉末(前駆体材料A)296gが得られた。
【0059】
例3 比較シェル触媒VS1の製造
前駆体材料A49.5gを担体(小砂利状の層を有する2〜3mmのステアタイト球)424gに施与した。このために、担体をコーティングドラム(内部容積2l、ドラムの中心軸の傾斜角度は水平線に対して30゜)中に装入した。ドラムを回転させた(25回転/分)。圧縮空気により運転される噴霧ノズルにより約30分にわたって液状の結合剤(グリセリン:水の10:1の混合物)約32mlを担体上に噴霧した(噴霧空気500Nl/h)。その際、ノズルは、噴霧コーンが、ドラム中で搬送される担体を転がり区間の上半分で濡らすように設置した。微粉状の前駆体材料Aを粉末用スクリューによりドラムに導入し、その際、粉末を添加する箇所は、転がり区間内であるが、しかし噴霧コーンの下側に存在していた。その際、粉末の添加は、表面上での粉末の均一な分散が生じるように行った。被覆終了後に、前駆体材料Aおよび担体から生じたシェル触媒を、乾燥棚中、120℃で2時間乾燥させた。
【0060】
その後、シェル触媒をドイツ在Heraeus社(K、750/2Sタイプ、内部容積55l)の強制空気循環炉中、455℃でか焼した。
【0061】
例4 本発明によるシェル触媒Sの製造(細孔形成剤マロン酸)
前駆体材料A49.5gをマロン酸9.9gと完全に混合した。得られた粉末を、VS1の手順に相応して担体(小砂利状の層を有する直径2〜3mmのCeramtecのステアタイト球)424g上に施与した。その他はVS1の製造と同様に行った。
【0062】
例5 本発明によるシェル触媒S1の製造(細孔形成剤ノニルフェノールエトキシレート)
VS1の場合の手順に相応して、担体(小砂利状の層を有する直径2〜3mmのテアタイト球)424g上に、前駆体材料A49.5gを施与した。VS1に記載した方法とは異なって、細孔形成剤(ノニルフェノールエトキシレート、BASF社のLutensol AP6 4.95g)を結合剤(合計で約32ml)中に溶解する必要があり、かつ前駆体材料Aには混合しなかった。というのも、これは液状の生成物だからである。
【0063】
例6 本発明によるシェル触媒S2の製造(細孔形成剤メラミン)
前駆体材料A49.5gをメラミン4.95gと完全に混合した。得られた粉末をVS1の場合の手順に相応して担体(小砂利状の層を有する直径2〜3mmのCeramtecのステアタイト球)424g上に施与した。その他はVS1の製造の際と同様に行った。
【0064】
例7 触媒の試験
シェル触媒をそのつどV2A鋼からなる反応管(外径21mm、内径15mm)に装入した。装入長さはいずれも78〜80cmで調整した。
【0065】
反応管を、その長さ全部にわたって、その周囲を流れる塩浴によって温度調整した。反応出口気体混合物として、ブタン9.7体積%、1−ブテン、シス−2−ブテンおよびトランス−2−ブテン合わせて6.4体積%、酸素9.6体積%、水素4.3体積%、窒素57.1%および水12.9体積%からなる混合物を使用した。反応管の負荷は、120Nl/h、180Nl/hおよび240Nl/hの間で変化させた。その際、塩浴温度は390℃で一定させた。
【0066】
生成物気体流中で、ガスクロマトグラフィー分析により、1,3−ブタジエン有価生成物の形成の選択率Sおよび原料混合物のブテン変換率Uを測定した。
【0067】
その際、UおよびSは以下の通りに定義される:
U(モル%)=(出発混合物中のブテンのモル数−生成物混合物中のブテンのモル数)/(出発混合物中のブテンのモル数)×100
S(モル%)=(生成物混合物中の1,3−ブタジエンのモル数)/(出発混合物中のブテンモル数−生成物混合物中のブテンのモル数)×100
これらの結果は、以下の表にまとめられている。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)担体、
(b)(i)触媒活性の、モリブデンおよび少なくとも1の別の金属を含有する、一般式(I)
Mo12BiaCrb1cFed2e3fy (I)
[式中、
1=Coおよび/またはNi、
2=Siおよび/またはAl、
3=Li、Na、K、Csおよび/またはRb、
0.2≦a≦1、
0≦b≦2、
2≦c≦10、
0.5≦d≦10、
0≦e≦10、
0≦f≦0.5および
y=電荷が中性であるとの前提において、(I)中で酸素とは異なる元素の価数および頻度により決定される数]の多金属酸化物、および
(ii)少なくとも1の細孔形成剤、を含有するシェル
を含む触媒前駆体から得られるシェル触媒。
【請求項2】
触媒活性多金属酸化物(i)および細孔形成剤(ii)を含有するシェルが、さらに(iii)モリブデン酸化物またはモリブデン酸化物を形成する前駆化合物を含有することを特徴とする、請求項1記載のシェル触媒。
【請求項3】
担体上に、結合剤によって(i)触媒活性モリブデンおよび少なくとも1の別の金属を含有する多金属酸化物、および(ii)細孔形成剤、を含有する層を施与し、被覆した担体を乾燥させ、かつか焼することを特徴とする、請求項1または2記載のシェル触媒の製造方法。
【請求項4】
有機化合物の接触気相酸化のための方法における、請求項1または2記載のシェル触媒の使用。
【請求項5】
1−ブテンおよび/または2−ブテンからブタジエンへの酸化脱水素のための方法における請求項4記載の方法。

【公表番号】特表2011−518659(P2011−518659A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503423(P2011−503423)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054167
【国際公開番号】WO2009/124945
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】