説明

モルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法及びモルタル・コンクリート部材

【課題】使用材料を限定することなく、簡易で確実にアンモニアの発生を抑制することが可能なモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法及びこの方法を用いて処理したモルタル・コンクリート部材を提供する。
【解決手段】モルタル・コンクリート2の表面にガス状流体を強制的に吹き付けて、モルタル・コンクリート2中のアンモニアを除去する。また、モルタル・コンクリート2をチャンバー3内に収容しチャンバー3内を減圧して、モルタル・コンクリート2中のアンモニアを除去する。さらに、モルタル・コンクリート2を収容したチャンバー3内に二酸化炭素を封入して、モルタル・コンクリート2の表面から内部に侵入した二酸化炭素とアンモニアを反応させて炭酸塩にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイスの製造工場や美術館などのアンモニアの発生を抑制する必要がある施設で使用されるモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法及びこの方法によって処理されたモルタル・コンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスのプロセス処理工程は、規定した清浄度の空気環境に保持したクリーンルーム内で行なわれているが、このプロセス処理工程を施すための工場の壁や床、柱などのコンクリート(またはモルタル)からアンモニア(アンモニアガス)が放出され、このアンモニアによって半導体デバイスが汚染されるという問題があった。また、美術館や美術品の収蔵施設などにおいても、施設を構成するコンクリートから発生したアンモニアによって、美術品の金属(銀や銅など)や繊維が変色したり、油彩画の油の劣化やニスの白濁化が生じるという問題があった。
【0003】
このようなアンモニアは、セメント中の有機物(アミン系の粉砕助剤)や骨材表面の有機物(アミド態窒素及びアミノ糖態窒素)がセメントアルカリによって加水分解することにより発生するものと推察されている。このため、半導体デバイスの製造工場や美術館などの施設(コンクリート構造物)では、高価なケミカルフィルタを設置して施設内の空気からアンモニアを除去するようにしたり、構築したコンクリート構造物を長期間放置してモルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)からアンモニアの放出が低減するのを待って使用を開始するなどの対策が強いられ、イニシャルコストやランニングコストの上昇を招くという問題があった。
【0004】
一方、モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制するために、使用する骨材を予め加熱処理したり、早強セメントを使用してアンモニアの放出量の低減を図ったり(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、構築後のモルタル・コンクリートの表面に、アンモニアの吸着性能に優れるシートを貼り付ける(例えば、非特許文献1参照)などの対策が提案・実施されている。
【特許文献1】特開平10−287462号公報
【特許文献2】特開2004−284902号公報
【非特許文献1】三谷一房、岩波洋:アンモニアによる文化財の変質・劣化防止工法−「ダヴィンチ工法」の開発背景と概要−、月刊建築仕上技術、’97年5月号、p.57〜61(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加熱処理した骨材や早強セメントを用いてアンモニアの発生を抑制する場合には、使用材料の選択性に大きな制限が課せられ、また、汎用的な材料で構築したコンクリート構造物に対するアンモニアの発生を抑制することができない。一方、アンモニアの吸着性能に優れるシートを貼り付ける場合においても、使用できる環境に限りがあり汎用性に難があるとともに、シートの貼り付け時には、シートとモルタル・コンクリートとの接着性を確保するため、モルタル・コンクリート表面のケレン処理を要し、この処理によって生じる粉塵処理対策などが別途必要になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑み、使用材料を限定することなく、簡易で確実にアンモニアの発生を抑制することが可能なモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法及びこの方法を用いて処理したモルタル・コンクリート部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法は、前記モルタル・コンクリートの表面にガス状流体を強制的に吹き付けて、前記モルタル・コンクリート中の前記アンモニアを除去することを特徴とする。なお、本発明において、モルタル・コンクリートとは、モルタルまたはコンクリートを意味する。
【0009】
また、本発明のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法は、前記モルタル・コンクリートをチャンバー内に収容するとともに該チャンバー内を減圧して、前記モルタル・コンクリート中の前記アンモニアを除去することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法は、前記モルタル・コンクリートをチャンバー内に収容するとともに該チャンバー内に二酸化炭素を封入して、前記二酸化炭素を前記モルタル・コンクリートの表面から内部に侵入させつつ前記モルタル・コンクリート中のアンモニアと反応させて、前記アンモニアを炭酸塩にすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法においては、前記チャンバー内を減圧して、前記モルタル・コンクリート中の前記アンモニアの表面への移動を促進させることが望ましい。
【0012】
本発明のモルタル・コンクリート部材は、コンクリート構造物の構築に用いるモルタル・コンクリート部材であって、上記のいずれかに記載の方法により処理されてアンモニアの発生が抑制されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法によれば、例えば空気などのガス状流体を、モルタル・コンクリートの表面に強制的に吹き付けることによって、モルタル・コンクリートの表面のアンモニアを除去することができ、モルタル・コンクリート内部と表面との間にアンモニアの濃度勾配を形成することができる。これにより、アンモニア濃度の高い内部からアンモニア濃度の低い表面へのアンモニアの移動を促進させることができ、また、表面に移動したアンモニアの外部への蒸散を促進させることができる。よって、このような簡易な処理を施すことで、モルタル・コンクリート中のアンモニアを除去することができ、従来のようにモルタル・コンクリートを構成する材料に制限を加えたりすることなく、モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法によれば、モルタル・コンクリートをチャンバー内に収容して減圧することによって、モルタル・コンクリートの内部から表面に向かう圧力勾配を形成することができる。これにより、モルタル・コンクリート中のアンモニアを早期に表面に移動させることができ、表面から外部への蒸散を促進させることができる。よって、このような簡易な処理を施すことで、モルタル・コンクリート中のアンモニアを除去することができ、従来のようにモルタル・コンクリートを構成する材料に制限を加えたりすることなく、モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制することができる。
【0015】
さらに、本発明のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法によれば、モルタル・コンクリートを収容したチャンバー内に二酸化炭素を封入することによって、二酸化炭素をモルタル・コンクリートの表面から内部に侵入させることができる。そして、侵入した二酸化炭素が内部のアンモニアと反応して炭酸塩を形成することで、アンモニアをモルタル・コンクリート内に保持することができる。これにより、モルタル・コンクリートの表面からアンモニアが放出することを防止できる。また、このようにアンモニアの炭酸塩を形成した場合には、この炭酸塩でモルタル・コンクリートの間隙を目詰まりさせて閉塞することができるため、炭酸塩化していないモルタル・コンクリート内部のアンモニアを内部に封じ込めて表面から放出することを防止できる。よって、このような簡易な処理を施すことで、モルタル・コンクリート中のアンモニアの移動を抑制することができ、従来のようにモルタル・コンクリートを構成する材料に制限を加えたりすることなく、モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制することができる。
【0016】
また、チャンバー内を減圧することによって、モルタル・コンクリート中のアンモニアを表面側に早期に移動させることができ、モルタル・コンクリートの表面から内部に侵入した二酸化炭素との反応を促進させることができる。
【0017】
さらに、上記のように処理したモルタル・コンクリート部材によれば、アンモニアの発生が抑制されているため、このモルタル・コンクリート部材を用いて構築した施設(コンクリート構造物)には、高価なケミカルフィルタを設置する必要がなく経済性の向上を図ることができる。また、コンクリート構造物を構築した後に、これを長期間放置する必要がないため、施設を早期に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の第1実施形態に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法(以下、アンモニア発生抑制方法という)及びこの方法で処理したモルタル・コンクリート部材について説明する。ここで、本実施形態は、成型後のモルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)に、強制的に清浄空気(ガス状流体)を吹き付けることによってモルタル・コンクリートから放出されるアンモニアの発生を抑制する方法に関するものである。
【0019】
本実施形態のアンモニア発生抑制方法に用いるアンモニア発生抑制装置1は、図1に示すように、モルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)Aを収容するチャンバー3と、チャンバー3内に供給する空気を清浄化するための清浄空気生成装置4と、捕集液5aを入れた2つのインピンジャー5と、流量計6と、マスフローメータ7と、ポンプ8とを備えて構成されている。ここで、清浄空気生成装置4は、ガス吸着剤9と活性炭10とULPAフィルター(Ultra Particulate Air Filter)11で構成されている。そして、清浄空気生成装置4、チャンバー3、2つのインピンジャー5、流量計6、マスフローメータ7、ポンプ8が、この順に配管を介して直列に接続されており、ポンプ8を駆動することによって、ガス吸着剤9、活性炭10、ULPAフィルター11を通って清浄化した空気が、チャンバー3に供給される。
【0020】
このように構成したアンモニア発生抑制装置1のチャンバー3内にモルタル・コンクリート2を収容し、このモルタル・コンクリート2の表面に清浄空気生成装置4から送気した清浄空気を、例えば、モルタル・コンクリート表面1m当たり0.5リットル/s〜5リットル/sの風量で強制的に吹き付ける。そして、チャンバー3への清浄空気の供給とともにチャンバー3から排気される空気は、配管を介して2つのインピンジャー5に送られ、このインピンジャー5内の捕集液5aを曝気する。このとき、チャンバー3から排気した空気中にアンモニアが存在する場合には、インピンジャー5の捕集液5aにこのアンモニアが捕集される。
【0021】
上記のようにモルタル・コンクリート2の表面に清浄空気を吹き付けると、表面に存在するアンモニアが蒸散して除去される。そして、モルタル・コンクリート2の表面のアンモニアを除去すると、モルタル・コンクリート2の内部と表面との間にアンモニアの濃度勾配が形成される。これにより、モルタル・コンクリート2の内部から表面に向かうアンモニアの移動が促進され、表面に移動したアンモニアが順次清浄空気によって蒸散して除去されてゆく。よって、このようにモルタル・コンクリート2の表面に継続的に清浄空気を吹き付けることで、モルタル・コンクリート2中のアンモニアが除去される。
【0022】
ここで、図2は、上記のアンモニア発生抑制装置1を用いてモルタル・コンクリート2に清浄空気を吹き付けた場合(強制風乾)と、清浄空気を吹き付けずにモルタル・コンクリート2を密封保管した場合における各モルタル・コンクリート2のアンモニア発生速度と経過日数の関係を示している。この図において、縦軸がアンモニア発生速度を示し、横軸が経過日数を示しており、縦軸は、経過日数0日におけるモルタル・コンクリート2のアンモニア発生速度を100%とした比率で示している。また、モルタル・コンクリート2のアンモニア発生速度は、所定期間毎にインピンジャー5から採取した捕集液5aのアンモニア濃度をイオンクロマトグラフィー分析計で測定し、このアンモニア濃度と経過時間(経過日数)から算出している。
【0023】
この図2から、モルタル・コンクリート2を密封保管した場合には、アンモニア発生速度(比率)が40%付近まで低下するのに35日程度を要するのに対し、清浄空気を吹き付けた場合には、清浄空気の吹き付け開始直後からアンモニア発生速度が急激に低下し、10日程度で40%付近まで低下することが確認できる。
【0024】
したがって、本発明に係るモルタル・コンクリート2に清浄空気(ガス状流体)を強制的に吹き付けるアンモニア発生抑制方法によれば、簡易な方法で、モルタル・コンクリート2中のアンモニアを、表面への移動及び蒸散を促進しながら除去することができ、モルタル・コンクリート2からのアンモニアの発生を早期に抑制することができる。よって、このように処理したモルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)2を、半導体プロセス工場や美術館などのコンクリート構造物に適用することによって、例えば半導体プロセス工場に高価なケミカルフィルタを設置する必要がなく、経済性の向上を図ることができ、また、半導体プロセス工場や美術館などとなるコンクリート構造物の構築後に、長期間放置する必要がないため、早期に施設を使用することが可能になる。
【0025】
以上、本発明に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法及びこの方法で処理したモルタル・コンクリート部材の実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、モルタル・コンクリート2に吹き付けるガス状流体を清浄空気生成装置4で清浄化した空気であるものとしたが、清浄化されていない空気でも、アンモニア濃度がそれ程高くない、例えば20ppb以下の一般大気や他のガスであってもよい。
【0026】
また、本実施形態では、アンモニア発生抑制装置1を用い、チャンバー3内に収容したモルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)2にガス状流体(清浄空気)を吹き付けるものとしたが、例えば、チャンバー3内に収容していないモルタル・コンクリート2に送風機などで大気(ガス状流体)を強制的に吹き付けて、アンモニアの発生を抑制するようにしてもよい。この場合、風速3〜6m/s程度の大気を吹き付けることで、同様の効果を得ることができる。
【0027】
ついで、図3を参照し、本発明の第2実施形態に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法及びこの方法で処理したモルタル・コンクリート部材について説明する。ここで、本実施形態は、成型後のモルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)をチャンバー内に収容し、減圧状態で保持することによって、モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制する方法に関するものである。
【0028】
本実施形態のアンモニア発生抑制方法に用いるアンモニア発生抑制装置20は、図3に示すように、第1実施形態のアンモニア発生抑制装置1とほぼ同様であり、モルタル・コンクリート2を収容するチャンバー3に真空ポンプ21が取り付けられている。
【0029】
このように構成したアンモニア発生抑制装置20のチャンバー3にモルタル・コンクリート2を収容した段階で、チャンバー3内の圧力が例えば10−2〜10−5Paとなるように減圧する。これにより、チャンバー3内のモルタル・コンクリート2には、その内部から表面に向かう圧力勾配が形成され、内部のアンモニアが早期に表面へと移動する。そして、この表面に移動したアンモニアが順次外部に蒸散することになる。このような減圧下にモルタル・コンクリート2を6〜24時間曝すことによって、アンモニア発生速度が40%程度に低下する。
【0030】
したがって、本発明に係るモルタル・コンクリートを減圧下に曝すアンモニア発生抑制方法によれば、モルタル・コンクリート2中のアンモニアを、表面への移動及び蒸散を促進しながら除去することが簡易な方法で可能になり、モルタル・コンクリート2からのアンモニアの発生を早期に抑制することが可能になる。よって、このように処理したモルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)2を、半導体プロセス工場や美術館などのコンクリート構造物に適用することによって、例えば半導体プロセス工場に高価なケミカルフィルタを設置する必要がなく、経済性の向上を図ることができ、また、半導体プロセス工場や美術館などのコンクリート構造物を、構築後に長期間放置する必要がないため、早期に施設を使用することが可能になる。
【0031】
なお、本発明は上記の第2実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本発明は、モルタル・コンクリート2を減圧下に曝露した状態で保持すればよく、本実施形態に示したアンモニア発生抑制装置20を必ずしも使用する必要はない。
【0032】
ついで、図4及び図5を参照し、本発明の第3実施形態に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法及びこの方法で処理したモルタル・コンクリート部材について説明する。ここで、本実施形態は、成型後のモルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)をチャンバー内に収容し、減圧状態で保持するとともにチャンバー内に二酸化炭素を封入して、モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制する方法に関するものである。
【0033】
本実施形態のアンモニア発生抑制方法に用いるアンモニア発生抑制装置30は、図4に示すように、第2実施形態のアンモニア発生抑制装置20とほぼ同様であり、モルタル・コンクリート2を収容するチャンバー3内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段31が設けられている。
【0034】
このように構成したアンモニア発生抑制装置30のチャンバー3内にモルタル・コンクリート2を収容した段階で、チャンバー3内の圧力を減圧する。これにより、チャンバー3内のモルタル・コンクリート2には、その内部から表面に向かう圧力勾配が形成され、内部のアンモニアが早期に表面へと移動する。また、本実施形態では、チャンバー3内に二酸化炭素供給手段31から二酸化炭素を供給して、例えば0.3MPaとなるように封入し、この状態でモルタル・コンクリート2を24時間〜100時間養生する。このように二酸化炭素に曝露したモルタル・コンクリート2には、その表面から二酸化炭素が侵入してゆく。そして、表面に移動したアンモニアが順次侵入する二酸化炭素と反応し、表面及び表層において炭酸塩を形成する。これにより、炭酸塩化したアンモニアは、その蒸気圧が低減しモルタル・コンクリート2中に保持される。また、モルタル・コンクリート2の間隙が炭酸塩で目詰まりするため、内部の炭酸塩化していないアンモニアの表面への移動が阻止され、モルタル・コンクリート2からのアンモニアの発生が抑制される。
【0035】
図5は、二酸化炭素に曝露していないモルタル・コンクリート2(図5(a))と、二酸化炭素に曝露したモルタル・コンクリート2(図5(b))を割裂して、その割裂面にフェノールフタレイン溶液を噴霧した状態を示している。なお、符号32は、モルタル・コンクリート2のアルカリ成分とフェノールフタレイン溶液が反応した発色部を示している。また、符号33は、粗骨材を示している。
この図から、二酸化炭素に曝露していないモルタル・コンクリート2では、全面がフェノールフタレイン溶液で発色するのに対し、二酸化炭素に曝露したモルタル・コンクリート2では、表面及び表層部分がフェノールフタレイン溶液で発色することがなく、二酸化炭素が表面及び表層部分に浸透して水酸化カルシウムやアンモニア等に起因するアルカリ成分が炭酸化することが確認できる。
【0036】
したがって、本実施形態のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法によれば、モルタル・コンクリート2の表面から内部に侵入した二酸化炭素が内部のアンモニアと反応して炭酸塩を形成することによって、アンモニアをモルタル・コンクリート内に保持することができる。これにより、このような簡易な処理を施すことで、モルタル・コンクリート2中のアンモニアの移動を抑制することができ、従来のようにモルタル・コンクリート2を構成する材料に制限を加えたりすることなく、モルタル・コンクリート2からのアンモニアの発生を抑制できる。
【0037】
また、モルタル・コンクリート2を収容したチャンバー3内を減圧することによって、モルタル・コンクリート2中のアンモニアを表面側に移動させることができ、侵入した二酸化炭素との反応を促進させることができる。これにより、モルタル・コンクリート2の表面側の間隙を多くの炭酸塩で目詰まりさせることができ、炭酸塩化していないモルタル・コンクリート2内部のアンモニアが表面から放出することを確実に防止できる。
【0038】
さらに、上記のように処理したモルタル・コンクリート部材2によれば、確実にアンモニアの発生が抑制されるため、施設に高価なケミカルフィルタを設置する必要がなく経済性の向上を図ることができる。また、半導体プロセス工場や美術館などのコンクリート構造物を、構築後に長期間放置する必要がないため、早期に施設を使用することが可能になる。
【0039】
なお、本発明は上記の第3実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、モルタル・コンクリート2をチャンバー3に収容して減圧した後に二酸化炭素に曝露するものとしたが、常温常圧下で二酸化炭素に曝露するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法に用いるアンモニア発生抑制装置を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法によるアンモニア発生速度と経過日数の関係を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法に用いるアンモニア発生抑制装置を示す図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法に用いるアンモニア発生抑制装置を示す図である。
【図5】モルタル・コンクリートの割裂面にフェノールフタレイン溶液を噴霧した際の発色状態を図示したものである。
【符号の説明】
【0041】
1 アンモニア発生抑制装置
2 モルタル・コンクリート(モルタル・コンクリート部材)
3 チャンバー
4 清浄空気生成装置
5 インピンジャー
5a 捕集液
6 流量計
7 マスフローメータ
8 ポンプ
9 ガス吸着剤
10 活性炭
11 ULPAフィルター
20 アンモニア発生抑制装置
21 真空ポンプ
30 アンモニア発生抑制装置
31 二酸化炭素供給手段
32 発色部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制する方法であって、
前記モルタル・コンクリートの表面にガス状流体を強制的に吹き付けて、前記モルタル・コンクリート中の前記アンモニアを除去することを特徴とするモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法。
【請求項2】
モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制する方法であって、
前記モルタル・コンクリートをチャンバー内に収容するとともに該チャンバー内を減圧して、前記モルタル・コンクリート中の前記アンモニアを除去することを特徴とするモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法。
【請求項3】
モルタル・コンクリートからのアンモニアの発生を抑制する方法であって、
前記モルタル・コンクリートをチャンバー内に収容するとともに該チャンバー内に二酸化炭素を封入して、前記二酸化炭素を前記モルタル・コンクリートの表面から内部に侵入させつつ前記モルタル・コンクリート中のアンモニアと反応させて、前記アンモニアを炭酸塩にすることを特徴とするモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法。
【請求項4】
請求項3記載のモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法において、
前記チャンバー内を減圧して、前記モルタル・コンクリート中の前記アンモニアの表面への移動を促進させることを特徴とするモルタル・コンクリートからのアンモニア発生抑制方法。
【請求項5】
コンクリート構造物の構築に用いるモルタル・コンクリート部材であって、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法により処理されてアンモニアの発生が抑制されていることを特徴とするモルタル・コンクリート部材。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−1533(P2008−1533A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169902(P2006−169902)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】