説明

モルタル仕上げ構造体の施工方法

【課題】 欠損部を有する各種建築物等の構造物の壁面等の下地表面に対して、その欠損部に対して優れた補修を行い、さらに構造物に対して防水性を付与するための、簡便でかつ速やかな施工が可能なモルタル仕上げ構造体の施工方法を得ることを目的とする。
【解決手段】 本発明は、欠損部を有する構造物の下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体と塗膜防水層とを設けるモルタル仕上げ構造体の施工方法であって、欠損部を含む下地表面の少なくとも一部に、水硬性組成物を用いて欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設ける工程と、水硬性モルタル硬化体を有する下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体を覆うように防水用ポリマーセメント組成物を用いて塗膜防水層を設ける工程とを含むことを特徴とするモルタル仕上げ構造体の施工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠損部を有する各種建築物等の構造物表面の欠損部に対して補修を行い、さらに構造物に対して防水性を付与するための、モルタル仕上げ構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートを用いた各種建築物等の構造物の屋上、地下、ベランダ、開放廊下や外壁などに防水性を付与する場合、樹脂エマルションなどにセメントを配合したポリマーセメントが施工され、さらに、意匠性や耐久性を付与するため、防水層の表面に樹脂エマルションに顔料などを配合した着色塗料が施工される。
【0003】
ポリマーセメント系複合材としては、特許文献1に、無水セッコウ/アルミナセメントの重量比が0.1〜5の無水セッコウとアルミナセメントからなる急硬材、ホワイトセメント、及び急硬材とホワイトセメントの合計100重量部に対して、ポリマー混和材5〜200重量部を主成分とし、施工時の可使時間、硬化性及び強度発現性に優れ、色むらや白華が無く、基材が急硬白色セメントであるため顔料を配合するようなカラーモルタル、特にポリマーセメントモルタルに適した、ポリマーセメント系複合材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2に、アクリル酸エステル系樹脂の平均粒径Dxと、アルミナセメントの平均粒径Dyとが、関係式:Dx≦0.1×Dyを満たす、アクリル酸エステル系樹脂のエマルション及びアルミナセメントからなる、白華現象を防止することが可能なポリマーセメント系複合材が開示されている。
【0005】
特許文献3には、セメント、細骨材、樹脂成分、及び顔料成分からなり、前記樹脂成分として、アクリル樹脂エマルションを弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で20〜40重量%となるよう含有し、また、前記顔料成分として粉末状無機顔料及び/又は液体無機顔料を含有することを特長とする弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物が開示されている。
【0006】
特許文献4には、セメント、細骨材及び水分散性合成樹脂を主として含む布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物であって、前記布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物全量に対して前記水分散性合成樹脂が10〜60重量%含有されてなる布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物、及び前記布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物を塗り付け乾燥後に主としてシリコーン変性アクリル樹脂及びアクリル樹脂を含む塗料を塗工する布基礎表面仕上げ工法について開示されている。
【0007】
また、モルタル塗仕上げに用いる組成物として、特許文献5には、主に左官工法によってモルタルやコンクリート系の構造物の修復に用いるのに好適なセメント系の厚付けモルタルに関し、軽量骨材と普通骨材からなる細骨材又は軽量骨材からなる細骨材、ポルトランドセメント、アルミナセメント、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、膨張材、増粘剤及び減水剤を含有してなる厚付けモルタルが開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、可使時間が長く、しかも可使時間内での流動性の変動が小さいため施工性に優れるとともに、超速硬性で早期開放が可能なモルタルに関し、アルミナセメント100重量部に対して、ポルトランドセメント20〜300重量部、石膏10〜100重量部、硬化促進剤0.1〜5重量部及び硬化遅延剤0.1〜5重量部を含有するモルタルが開示されている。
【0009】
特許文献7には、道路舗装やトンネルコンクリートの補修等の覆工時に使用する急硬性組成物として、セメント、カルシウムアルミネート、石膏、凝結調整剤、及びアクリル酸エステル共重合体エマルションを含有してなる急硬性セメント組成物が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特許第2672027号公報
【特許文献2】特開2007−230805公報
【特許文献3】特開2008−37717公報
【特許文献4】特開2004−225375公報
【特許文献5】特開2007−320783号公報
【特許文献6】特開2002−356363号公報
【特許文献7】特開2007−217212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
建築物等の構造物の壁面等の下地表面には、下地ひび割れや角欠け等による欠損部が存在する場合がある。欠損部への水分の浸透は構造物の強度に対して悪影響を及ぼし、構造物の耐久性を阻害する危険性があるため、欠損部に対して優れた補修を行い、さらに構造物に対して防水性を付与することが必要である。
【0012】
本発明は、各種の欠損部を有する各種建築物等の構造物の壁面等の下地表面に対して、その欠損部に対して優れた補修を行い、さらに構造物に対して防水性を付与するための、簡便でかつ速やかな施工が可能なモルタル仕上げ構造体の施工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題に対して鋭意研究に取組み、所定の水硬性組成物を用いて構造物の壁面等の下地表面の欠損部を補修し平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設け、さらに所定の防水用ポリマーセメント組成物を用いてタック(べたつき感)のない塗膜防水層を設けることにより、優れた速乾性と着色性と、さらに良好な施工作業性とを有し、前記の防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させた塗膜防水層が、トップコートを必要とせず、且つ、−10℃の温度条件において良好な下地ひび割れ追従性を有し、優れた耐水性を有することを見出して本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、欠損部を有する構造物の下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体と塗膜防水層とを設けるモルタル仕上げ構造体の施工方法であって、欠損部を含む下地表面の少なくとも一部に、水硬性組成物を用いて欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設ける工程と、水硬性モルタル硬化体を有する下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体を覆うように防水用ポリマーセメント組成物を用いて塗膜防水層を設ける工程とを含むことを特徴とするモルタル仕上げ構造体の施工方法である。
【0015】
本発明の施工方法の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)水硬性組成物が、アルミナセメントを含む水硬性成分(a)と、樹脂成分と、細骨材とを含み、流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、55〜85mmであること。
(2)水硬性組成物の水硬性成分(a)が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなること。
(3)水硬性組成物の樹脂成分が再乳化型樹脂粉末であり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化型樹脂粉末であること。
(4)水硬性組成物が、さらに凝結調整剤及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むこと。
(5)水硬性モルタル硬化体を設ける工程が、水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを、鏝を用いて鏝塗り施工し、硬化することにより、欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設けること。
(6)防水用ポリマーセメント組成物が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(b)と、樹脂エマルションとを含み、水硬性成分(b)100質量部に対して、樹脂エマルションの固形分が215〜380質量部であり、樹脂エマルションのガラス転移温度が−40〜−5℃であること。
(7)塗膜防水層が、タックを有さず、かつ、防水用ポリマーセメント組成物を1kg/m塗布して乾燥させた塗膜防水層が、−10℃の温度条件において0.95〜5mmの下地ひび割れ追従性を有すること。
(8)防水用ポリマーセメント組成物に含まれる樹脂エマルションが、アクリル共重合体エマルションを含むこと。
(9)防水用ポリマーセメント組成物に含まれるアルミナセメント及びポルトランドセメントが、白色アルミナセメント及び白色ポルトランドセメントであること。
(10)防水用ポリマーセメント組成物が、珪砂、顔料及び凝結調整剤をさらに含む着色防水用ポリマーセメント組成物であること。
(11)塗膜防水層を設ける工程が、水硬性モルタル硬化体を有する下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体を覆うようにプライマーを塗布し、乾燥させてプライマー層を設け、さらにプライマー層の表面に防水用ポリマーセメント組成物を用いて塗膜防水層を設けることを含むこと。
【0016】
また、本発明は、上記の施工方法によって得られる、塗膜防水層を表層の少なくとも一部に有するモルタル仕上げ構造体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、欠損部を有する各種構造物の壁面等の表面に対して、その表面の欠損部に対して優れた補修を行い、さらに構造物に対して防水性を付与するための、簡便でかつ速やかな施工が可能なモルタル仕上げ構造体の施工方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の施工方法は、下地ひび割れや角欠け等による欠損部を表面に有する構造物に対する、モルタル仕上げ構造体の施工方法である。本発明の施工方法においては、欠損部を有する構造物の下地表面の少なくとも一部に、所定の水硬性組成物を用いて欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設ける。したがって、構造物の下地表面の欠損部は、所定の水硬性組成物によって補修(平坦化)されることとなる。また、本発明の施工方法は、さらに水硬性モルタル硬化体を有する下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体を覆うように防水用ポリマーセメント組成物を用いて塗膜防水層を設けることによってモルタル仕上げ構造体を得ることができる。
【0019】
本明細書において「構造物」とは、建築物、道路、橋梁及びその他の、主に表面にコンクリートを有する人工物をいう。また、「構造物の下地表面」とは、構造物の屋上、地下、ベランダ、開放廊下及び外壁等の表面であって、本発明の施工方法によってモルタル仕上げ構造体を設ける部分をいう。また、「欠損部」とは、構造物の下地表面の少なくとも一部に存在する平坦ではない部分、具体的には、下地ひび割れ、表面の欠損、窪み等のような凹状の部分、段差、凸状の突起等の部分などをいう。
【0020】
本発明の施工方法によって、欠損部を有する下地表面を有する構造物に対して、簡便でかつ速やかに、防水性を有するモルタル仕上げ構造体を施工することができる。以下、本発明を詳しく説明する。
【0021】
本発明の施工方法を、構造物の下地表面に用いた場合を例にとり、図1〜図9を用いて説明する。但し、本発明はこれらの図により制限されるものではなく、本発明の施工方法は、建築物等の構造物の壁面のほか、屋上、地下、ベランダ、開放廊下等の下地表面に用いることができる。
【0022】
図12に、従来の施工方法によって得られるモルタル仕上げ構造体を示す。従来のポリマーセメント組成物を用いた防水工法では、構造物11の下地表面に、ポリマーセメント用プライマー層31を設ける工程、ポリマーセメント硬化体層32を設ける工程、トップコート層33(着色仕上げ材層)を設ける工程によって、図12に示す構造のモルタル仕上げ構造体を得る。しかしながら、この施工方法の場合には、図1に示すように、構造物11の下地表面12が、下地ひび割れや欠け等の凹部13などの欠損部を有する場合には、欠損部を完全に補修したモルタル仕上げ構造体を形成することは困難だった。
【0023】
これに対して、本発明の施工方法によれば、少なくとも一部に欠損部を有する下地表面を有する構造物に対しても、防水性を有するモルタル仕上げ構造体を施工することができる。本発明の施工方法を、図1に示すように欠損部として凹部13が存在する場合について説明する。まず、水硬性組成物を用いて調製したモルタルを、図1の凹部13に充填するように施工し、硬化させることにより、図2に示すように、水硬性モルタル硬化体21を設ける。水硬性組成物を用いて調製したモルタルの施工は、下地表面に存在する欠損部を補修し、平坦化することができる。また、本発明の施工方法では、図6に示すように、凹部13等の欠損部を含む下地表面の全体に水硬性モルタル硬化体21を設けてもよい。水硬性モルタル硬化体21を設ける範囲は、モルタル仕上げ構造体の施工状況によって、適宜選択することができる。
【0024】
下地表面に段差がある場合には、図10に示すように、すり合わせ仕上げを行うことにより、段差14を有する欠損部を平坦化することができる。「すり合わせ仕上げ」とは、下地表面に段差14がある場合に、水硬性モルタルによってその段差14の部分を埋めて、段差の下段から上段に対して緩やかなスロープを形成して段差をなくして平坦化するように、鏝等を用いて水硬性モルタルを塗り付ける仕上げのことである。図10の水硬性モルタル硬化体21aによって示されるように、すり合わせ仕上げによって平坦化した表面を形成することができる。また、図11に示すように、欠損部として凸部15を有する場合でも、凸部15の両側の段差に対してすり合わせ仕上げを行なうことにより欠損部を平坦化し、水硬性モルタル硬化体21aを形成することができる。すり合わせ仕上げにより平坦化できる段差とは、例えば20mm程度以下の段差である。鏝塗りによってすり合わせ仕上げを行うことを、「鏝塗りすり合わせ施工」という。
【0025】
次に、本発明の施工方法では、図3に示すように、下地表面の少なくとも一部に、所定の防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させ、塗膜防水層23を設ける。なお、図6に示すように、凹部13を含む下地表面の全体に水硬性モルタル硬化体21を設けた場合でも、図3に示す場合と同様、図7に示すように、水硬性モルタル硬化体21の表面を含む下地表面の少なくとも一部に、所定の防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させ、塗膜防水層23を設ける。図10及び図11に示すように、すり合わせ仕上げにより水硬性モルタル硬化体21aを設けた場合にも、水硬性モルタル硬化体21aの表面を含む地表面の少なくとも一部に、同様に塗膜防水層を設けることができる。
【0026】
本発明の施工方法では、所定の防水用ポリマーセメント組成物を用いることにより、特にコンクリート表面との親和性が高く、コンクリート表面にプライマー層を設けない場合にも良好な防水性と、下地ひび割れ追従性とを発揮することができる。したがって、所定の防水用ポリマーセメント組成物を塗布する前に、プライマー層を設ける必要は必ずしもない。
【0027】
また、本発明の施工方法において、所定の防水用ポリマーセメント組成物を用いて設けられた塗膜防水層23は、タック(べたつき感)を有しないことから、塗膜防水層23の表面に、従来必要とされていたトップコート層33を設ける必要がなく、工程数を低減できるだけでなく、使用材料も削減でき、経済的にも優れた効果を得ることができる。
【0028】
また、本発明の施工方法では、図4に示すように、建築物等の構造物の壁面等の下地表面に水硬性組成物を用いて下地表面の凹部13のような欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設けた後、プライマーを塗布し、乾燥させてプライマー層22を設けることができる。その後、所定の防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させることにより塗膜防水層23を設ける。その結果、図5に示すようなモルタル仕上げ構造体を得ることができる。
【0029】
なお、図6に示すように、凹部13などの欠損部を含む下地表面の全体に水硬性モルタル硬化体21を設けた場合でも、図4に示す場合と同様、図8に示すように、下地表面の少なくとも一部に、プライマー層22を設け、その後、所定の防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させ、塗膜防水層23を設ける。その結果、図9に示すようなモルタル仕上げ構造体を得ることができる。図10及び図11に示すように、すり合わせ仕上げにより水硬性モルタル硬化体21aを設けた場合にも、図4及び図8に示す場合と同様に塗膜防水層を設けることができる。
【0030】
また、図13(a)に示すように、構造体の角部が欠損しているような場合には、本発明の水硬性組成物を用いて構造体の欠損部を補修して平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設けた後、所定の防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させることにより塗膜防水層を設ける。その結果、図13(c)に示すようなモルタル仕上げ構造体を得ることができる。
【0031】
次に、本発明の施工方法に好適な水硬性組成物及び防水用ポリマーセメント組成物について説明する。
【0032】
<水硬性組成物>
本発明の施工方法において使用することが好ましい水硬性組成物(以下、「水硬性組成物A」という)は、アルミナセメントを含む水硬性成分(a)と、樹脂成分と、無機粉末とを含み、細骨材及び流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、55〜85mmであることを特徴とする水硬性組成物である。
【0033】
水硬性組成物Aの好ましい態様を以下に示す。水硬性組成物Aでは、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)水硬性成分(a)が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる。
(2)樹脂成分が再乳化型樹脂粉末であり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化型樹脂粉末である。
(3)水硬性組成物が、軽量骨材を含まない。
(4)水硬性組成物が、さらに凝結調整剤及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含む。
(5)水硬性モルタル硬化体を設ける工程が、水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを、鏝を用いて鏝塗り施工し、硬化することにより、欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設けること。
【0034】
水硬性組成物Aにより、建築工事において左官職人がモルタル仕上げやモルタル下地処理を行う場合に、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性と、寸法安定性とに優れた水硬性組成物を得ることができる。そのため、水硬性組成物Aを本発明の施工方法に用いた場合には、下地表面の欠損部の平坦化を確実かつ容易に行うことができるため好ましい。
【0035】
水硬性組成物Aは、アルミナセメントを含む水硬性成分(a)と、樹脂成分と細骨材とを含み、流動化剤を含まない水硬性組成物である。また、水硬性組成物Aは、水硬性成分(a)として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(a)を好適に用いることができる。水硬性組成物Aは、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性とに優れるため、建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う場合のモルタルとして好適に用いることができる。
【0036】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0037】
水硬性組成物Aに各種顔料を配合することによって、着色した水硬性モルタル硬化体を得ることができる。水硬性組成物Aに各種顔料を配合する場合には、アルミナセメントとして、高い白色度を有する白色アルミナセメントを用いることが好ましい。
【0038】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0039】
水硬性組成物Aに各種顔料を配合し、着色した水硬性モルタル硬化体を得る場合には、ポルトランドセメントとして、高い白色度を有する白色ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0040】
石膏は、無水石膏、半水石膏及び二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は、水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0041】
本発明では、水硬性成分(a)として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(a)を用いることが好ましい。水硬性成分(a)は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計質量を100質量部とした場合に、好ましくはアルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント5〜70質量部及び石膏5〜45質量部からなる組成、より好ましくはアルミナセメント30〜70質量部、ポルトランドセメント15〜60質量部及び石膏10〜40質量部からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント35〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部からなる組成、特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント25〜40質量部及び石膏17〜27質量部からなる組成を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られやすいために好ましい。
【0042】
水硬性組成物Aで使用する樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、市販のポリマーエマルションや再乳化型樹脂粉末などから適宜選択して使用することができる。水硬性組成物Aでは、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましい。このため樹脂成分については、粉末状の再乳化型樹脂粉末を好適に使用することができる。
【0043】
水硬性組成物Aは、水硬性モルタルを施工した場合の水硬性モルタル硬化体表面の乾燥による皺や気泡跡の発生や、材料分離によるブリーディング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果とともに、硬化体の弾性を高めてひび割れの発生を防止する効果と、硬化体と下地との接着強度を向上させる効果とを付与するために再乳化型樹脂粉末を使用する。再乳化型樹脂粉末を用いることによって前記の効果が得られ、耐久性及び耐候性に優れたモルタル硬化体を得ることができる。
【0044】
樹脂成分の製造方法については、特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができる。また樹脂成分としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂成分の表面に付着しているものを用いることができる。また樹脂成分としては、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化型の樹脂粉末を用いることができる。
【0045】
本発明では、樹脂成分として保護コロイドアクリルエマルションから製造されたアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができ、特に、保護コロイドアクリルエマルションから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができる。
【0046】
アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末などの樹脂成分の1次粒子(エマルションの粒子)の平均粒径は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、より好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、さらに好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることができる。このような1次粒子の平均粒径を有する再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物は、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得ることができることから好ましい。
【0047】
樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲のアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好な鏝送り性と、鏝伸び性とを得ることができる。
【0048】
樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、その樹脂成分を有する水硬性組成物を用いたモルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下する恐れがある。また、樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時の鏝送り性と鏝伸び性が低下して作業性が悪くなる恐れがある。これらのことから、本発明で用いる水硬性組成物に含まれる樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲であることが好ましい。
【0049】
本発明では、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末100質量%中に再乳化型樹脂粉末の1次粒子の粒径が、好ましくは0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含み、より好ましくは、0.15〜0.9μmの粒子を95質量%以上含み、さらに好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含み、特に好ましくは0.3〜0.7μmの粒子を75質量%以上含むものを選択して用いることができる。このような1次粒子の粒径分布を有する再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物を用いることによって、本発明では、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
【0050】
前記範囲の粒径の1次粒子を前記質量割合の範囲で含む場合、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好な鏝塗り特性(鏝切れ性、鏝送り性、鏝伸び性、鏝離れ性)を得ることができる。
【0051】
樹脂成分の1次粒子の粒径が前記分布の範囲より粒径の大きいものが多い傾向にある場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下する恐れがある。また、樹脂成分の1次粒子の粒径が前記分布の範囲より粒径の小さいものが多い傾向にある場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時の鏝塗り特性が低下して作業性が悪くなる恐れがある。これらのことから、樹脂成分の1次粒子の粒径が前記分布の範囲であることが好ましい。
【0052】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることが好ましい。再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかに且つ均一にもとのエマルションの状態(樹脂粉末化前の1次粒子の状態)、すなわち、水硬性モルタル中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができる。
【0053】
本発明では、前記範囲の粒径の1次粒子を前記質量割合の範囲で含み、且つ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を選択して用いることによって、モルタル施工時に優れた作業性を得ることができるとともに、モルタル硬化体においては接着性や耐候性、耐水性及び耐アルカリ性に優れた特性を得ることができる。
【0054】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、噴霧乾燥処理などの工程を経て、1次粒子が凝集した2次粒子の形態で用いられる。本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の2次粒子の粒子径は、好ましくは20〜100μmの範囲であり、より好ましくは30〜90μmの範囲であり、さらに好ましくは45〜85μmの範囲であり、特に好ましくは50〜80μmの範囲である。再乳化型樹脂粉末の2次粒子の粒子径がこのような範囲であると、再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物Aと水とを混練してモルタル化する過程で、再乳化型樹脂粉末の2次粒子が水硬性組成物Aに含まれている他の粒子によって解砕されて容易に再分散し、1次粒子が均一に分散した状態になりやすい。そのため前記範囲の2次粒子径を有する再乳化型樹脂粉末を用いることが好ましい。
【0055】
再乳化型樹脂粉末の2次粒子径が前記範囲より大きくなるとモルタル化の過程で再分散されにくくなり、1次粒子が均一に分散した状態になり難くなることから、前記範囲の上限以下であることが好ましい。また、再乳化型樹脂粉末の2次粒子径が前記範囲より小さくなると、工場においてプレミックスして水硬性組成物Aを製造する際に、再乳化型樹脂粉末が飛散して作業環境が悪化するなどのハンドリング性が悪くなることから、前記範囲の下限以上であることが好ましい。
【0056】
本発明で使用する再乳化型樹脂粉末を、水硬性成分(a)100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3〜12質量部、特に好ましくは5〜8質量部の範囲で配合することによって、良好な作業性と高耐久な硬化体特性を併せ持つ水硬性組成物を得ることができる。
【0057】
再乳化型樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、水硬性組成物Aに水を加えて得られるモルタルの粘度が高くなり、施工性及び鏝作業性が低下し、表層の乾燥による皺や気泡跡が発生し易くなるとともに、硬化体の圧縮強さが低下する傾向がある。また、配合割合が前記範囲より小さい場合には、モルタル硬化体の弾性向上によるひび割れ抑制効果が小さくなり、モルタル硬化体の表面仕上りも悪くなる傾向がある。そのため、本発明で使用する再乳化型樹脂粉末の配合割合は、1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0058】
水硬性組成物Aは、建築物等の構造物の下地表面(壁面等)の欠損部の補修及び平坦化、すなわち段差や凸部などをスムースに均す、凹部に充填して平滑に補修する、或いはひび割れ部分に充填する等の補修することを主な目的とするものである。
【0059】
「すり合わせ」とは、図10に一例を示すように、下地表面に段差14がある場合に、鏝等を用いて水硬性モルタルを塗り付けて、段差14の下段から上段に対して緩やかなスロープを形成して段差をなくして平坦化する過程で、水硬性モルタルを連続的に薄く施工し、特に段差の下面に鏝が接する部分を、水硬性モルタルを極めて薄層を形成するように施工することをいう。「すり合わせ」施工された水硬性モルタルの硬化体表面と、段差の下段の表面とは、あたかも一体化した表面が形成されることになる。この結果、図10に模式的に示すような形状の水硬性モルタル硬化体21aを形成することができる。また、「すり合わせ仕上げ」とは、「すり合わせ」により施工された表面仕上げのことをいう。段差が凸状(図11に示すような凸部15)の場合、すなわち両側に段差がある場合でも、両方の段差に対してすり合わせ仕上げを施工することによって平坦化し、図11に示すような水硬性モルタル硬化体21aを形成することができる。すり合わせにより平坦化できる段差とは、例えば20mm程度以下の段差である。鏝塗りによってすり合わせ仕上げを施工することを、「鏝塗りすり合わせ施工」という。
【0060】
本発明では、モルタル流動性を向上させるとともに、モルタル内部の保水性を高めて材料分離抵抗性を向上させ、また、モルタル表面の水浮き(ブリージング)を抑制するために一定割合の微粒分を含み、所定の粒度構成を有する細骨材を使用することが好ましい。
【0061】
細骨材としては、一般的に細骨材として用いられる公知の珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末並びにアルミナセメントクリンカーなどの細骨材や、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石微粉末(炭酸カルシウム微粉末)並びにドロマイト微粉末などの微粒細骨材のうちの少なくとも1種を好ましく用いることができる。また、粒度構成が異なる2種類以上の細骨材を混合して、微粒分を好適な割合含む細骨材を調製して用いることができる。本発明で好適に用いることができる細骨材は、所定の粒度構成を満足していれば特にその調製方法は限定されるものではない。
【0062】
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは210〜270質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0063】
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0064】
細骨材の粒度分布は、粒子径2500μm以上の粗粒子を含まないものが好ましい。このような粒度分布の場合には、良好なモルタルの流動特性及び材料分離抵抗性が得られ、平滑で優れた表面仕上り性を安定して得られるためである。
また、水硬性モルタルを用いて、鏝塗りすり合わせ施工を行う場合には、水硬性組成物Aの細骨材は、最大粒径が150μm以下の微粒細骨材を用いることが好ましい。
【0065】
また、水硬性組成物Aには、パーライトや発泡骨材などの軽量骨材を含まないことが好ましい。パーライトなどの軽量骨材を水硬性組成物Aに用いた場合、鏝塗り作業性をより向上させることができることもある反面、水硬性モルタル硬化体は、高い強度特性を得にくく、長期供用時の耐久性に乏しくなる傾向があることから好ましくない。
【0066】
水硬性組成物Aは、アルミナセメントを含む水硬性成分(a)と、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末と細骨材とを含み、凝結調整剤(凝結遅延剤及び/又は凝結促進剤)及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含み、流動化剤を含まないものである。さらに、水硬性組成物Aは、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(a)と、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末と細骨材とを含み、凝結調整剤(凝結遅延剤及び/又は凝結促進剤)及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含み、流動化剤を含まないものである。
【0067】
水硬性組成物Aには、水硬性モルタルの流動性を向上させるために用いられる流動化剤(或いは減水剤)を使用しない。一般的に、流動化剤を用いることによって、水硬性モルタルを調製する場合に少ない水量で良好な流動性状を得ることができるが、建築物などの構造物の下地表面に水硬性モルタルを鏝塗り施工して、水硬性モルタル層を形成したり、構造物の下地表面の凹部に水硬性モルタルを充填した場合、その流動性によってダレが発生し、図14(c)に示すように、スムースな施工面を保形できないことがある。水硬性組成物Aには、流動化剤(或いは減水剤)を用いないことにより、鏝塗り施工によって建築物などの構造物の下地表面に水硬性モルタル層を形成したり、構造物の下地表面の凹部に水硬性モルタルを充填する場合でも、図14(b)に示すように施工された水硬性モルタルの保形性を高めることができる。また、水硬性組成物Aを用いてすり合わせ施工を行った場合には、下地部分と水硬性モルタルとの境界部分の仕上がり性を高めることができる。
【0068】
凝結調整剤(凝結遅延剤及び凝結促進剤)は、使用する水硬性成分(a)や水硬性組成物Aの構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。凝結遅延剤の成分、又は凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択することによって、水硬性組成物の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、水硬性組成物としての使用が非常に容易になるため好ましい。水硬性組成物Aでは、凝結調整剤として凝結遅延剤のみを使用することにより、良好なハンドリング性を確保した上で、適度な速硬性を緩やかに発現させることができる。
【0069】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0070】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。特に重炭酸ナトリウムやL−酒石酸ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
【0071】
凝結遅延剤は、1種又は2種以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分(a)100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.0質量部であり、より好ましくは0.1〜1.5質量部、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部、特に好ましくは0.25〜0.7質量部の範囲で用いることにより好適な流動性を得ることができる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0072】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができる。凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、例えば、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩を用いることが好ましい。リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
【0073】
水硬性組成物Aが、凝結促進効果を必要とする場合には、上記リチウム塩に硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、アルミン酸ナトリウム等の凝結促進成分を併用することが、更に凝結促進効果が発揮されることから、さらに好ましい。特に、水硬性組成物Aに対して凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩と硫酸アルミニウムとを併用することでより高い凝結促進効果を得ることができる。
【0074】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテル等の化工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることができる。
【0075】
増粘剤は、本発明の特性を損なわない範囲の添加量で添加することができ、水硬性成分(a)100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1.5質量部、さらに好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0076】
水硬性組成物Aでは、上記の成分のほかに、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系、植物由来の天然物質など消泡剤や、有機系繊維や無機系繊維などの繊維成分や、有機質顔料や無機質顔料などの着色成分などを適宜選択して用いることができる。
【0077】
水硬性組成物Aを構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(a)、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、細骨材、増粘剤及び凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)を含むものである。
【0078】
また、水硬性組成物Aに各種顔料を配合し、着色した水硬性モルタル硬化体を得る場合、特に好適な成分構成は、白色アルミナセメント、白色ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(a)、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、細骨材、増粘剤、凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)及び顔料を含むものである。また、防水用ポリマーセメント組成物が顔料を含む場合、美観上の点から、水硬性組成物Aは同種の顔料を含むことが好ましい。
【0079】
水硬性組成物Aでは、水硬性成分(a)、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、細骨材、増粘剤及び凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)などを混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0080】
水硬性組成物Aのプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、水硬性モルタルを製造することができ、その水硬性モルタルを硬化させて、水硬性モルタル硬化体を得ることができる。
【0081】
水硬性組成物Aは、水と混合・攪拌して水硬性モルタルを製造することができる。水硬性組成物Aに対する水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性、可使時間、鏝塗り特性、保形性、水硬性モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
【0082】
水硬性組成物Aを用いた水硬性モルタルは、水硬性組成物(S)と水(W)とを質量比(W/S)が、好ましくは0.12〜0.45の範囲、より好ましくは0.15〜0.40の範囲、さらに好ましくは、0.25〜0.35の範囲、特に好ましくは0.28〜0.32の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0083】
本発明で使用する水硬性組成物Aは、水と混合して調製した混練直後の水硬性モルタルのJIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)の15打フロー値が、好ましくは100〜270mm、さらに好ましくは120〜240mm、特に好ましくは150〜220mmに調整されていることが好ましい。良好な鏝塗り作業性と、優れたすり合わせ施工性と、施工後の良好な保形性とが得られ、ダレのない良好な仕上りの水硬性モルタル硬化体表面を得られやすいという理由のためである。
【0084】
さらに、本発明で使用する水硬性組成物Aは、水と混合して調製したのち60分経過した水硬性モルタルのJIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)の15打フロー値が、好ましくは100〜270mm、さらに好ましくは120〜240mm、特に好ましくは150〜220mmに調整されていることが好ましい。水硬性モルタルを調製したのち充分な可使時間(ハンドリングタイム)を確保しながら、良好な鏝塗り作業性と、優れたすり合わせ施工性と、施工後の良好な保形性とが得られ、ダレのない良好な仕上りの水硬性モルタル硬化体表面を得られやすいという理由のためである。
【0085】
本発明で使用する水硬性組成物Aは、水と混合して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、好ましくは55〜85mm、さらに好ましくは58〜83mm、特に好ましくは60〜80mmに調整されていることが、施工の容易さ及び適正な鏝塗り作業性が得られ、ダレのないモルタル施工体を得られやすいという理由により好ましい。フロー値が、85mmを超えると、構造物の下地表面に水硬性モルタルを鏝塗り施工した場合に、良好な保形性が得られずモルタル施工体にダレを生じることがあることから、フロー値は85mm以下であることが好ましい。
【0086】
水硬性モルタルをコンクリートなどの構造物の表層部に鏝塗り施工する場合の施工厚さは、表層部(施工面)の凹凸状態などによって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができる。具体的には、表層部(施工面)の最も凸部分上面を基準にして、好ましくは施工厚さ0.1mm〜50mmの範囲、より好ましくは施工厚さ0.11mm〜40mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ0.12mm〜30mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ0.15mm〜20mmの範囲で鏝塗り施工することが好ましい。特に本発明の水硬性組成物は、施工厚さが上記の好ましい範囲で鏝塗り施工することにより、最も好適な作業性を安定して得ることができる。
【0087】
また、水硬性モルタルをコンクリートなどの構造物の表層部の凹部や亀裂に鏝塗り充填施工する場合の施工深さは、特に限定されるものではなく、個々の施工現場毎に適宜塗り付け深さを設定することができる。例えば、表層部(施工面)を基準にして、好ましくは施工深さ50mm以下、より好ましくは施工深さ40mm以下、さらに好ましくは施工深さ30mm以下、特に好ましくは施工深さ20mm以下の充填部に鏝塗り施工することが好ましい。特に本発明の水硬性組成物は、施工深さが上記の好ましい範囲で鏝塗り施工することにより、好適な作業性と良好な表面仕上がり性とを得ることができる。
【0088】
本発明の水硬性組成物は、水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを、鏝を用いて構造物の表層部に鏝塗り施工するための水硬性組成物として用いることが好ましい。また、本発明の水硬性組成物は、所定の粒子径の細骨材を有することにより、鏝を用いて構造物の表層部に鏝塗りすり合わせ施工するための水硬性組成物として用いることができる。
【0089】
水硬性組成物Aを用いた水硬性モルタルは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。水硬性モルタルの可使時間は、水硬性モルタル調製から好ましくは60分間であり、さらに好ましくは90分間であり、特に好ましくは120分間である。水硬性組成物Aを用いた水硬性モルタルは、前記の好ましい可使時間(ハンドリングタイム)で、良好な鏝塗り作業性(鏝切れ、鏝送り、鏝伸び、鏝離れ)を安定して得ることができる。
【0090】
水硬性組成物Aを用いた水硬性モルタル硬化体の曲げ強さは、材齢7日のモルタル硬化体では、好ましくは2.2N/mm以上、さらに好ましくは2.5N/mm以上、特に好ましくは3N/mm以上の曲げ強さを発現する。
【0091】
また、水硬性組成物Aを用いた水硬性モルタル硬化体の圧縮強さは、材齢7日のモルタル硬化体では、好ましくは7N/mm以上、さらに好ましくは10N/mm以上、特に好ましくは12N/mm以上の圧縮強さを発現する。
【0092】
水硬性組成物Aは、速硬性・速乾性に優れた特性を有しており、速やかに良好な硬化状態及び表面乾燥状態を得ることができ、次工程への移行が翌日には可能となる。
【0093】
水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.1%、さらに好ましくは0〜−0.07%、特に好ましくは0〜−0.05%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.1%、さらに好ましくは0〜−0.07%、特に好ましくは0〜−0.05%の範囲であり、前記の長さ変化率の特性をもたらす水硬性組成物Aが、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地との間で高い接着力を恒久的に保持できることから好ましい。また、上記の長さ変化率の範囲を外れた場合には、モルタル硬化体の硬化収縮によってクラックが生じたり、モルタル硬化体と下地との接着面が剥離したりすることがあるため好ましくない。
【0094】
水硬性組成物Aと水と混合して調製した水硬性モルタルは、左官鏝などを用いて各種建築物の床面、壁面及び天井面などの構造物の下地表面に塗付け施工することができる。本発明の水硬性モルタル硬化体の上面には、各種タイルなどの仕上げ層を適宜選択して施工することができる。
【0095】
水硬性組成物Aは、速硬性・速乾性に優れるアルミナセメントを含む水硬性成分(a)と、樹脂成分とを含む水硬性組成物であり、水と混練して得られる水硬性モルタルは、ハンドリング性(可使時間)が長く、良好な鏝塗り作業性を有しながら、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、早期強度発現が良好で、優れた寸法安定性を有するモルタル硬化体を得ることができるものであり、左官職人の施工性をより向上させるとともに、短工期のモルタル施工を可能とし、耐久性・耐候性に優れたモルタル硬化体を提供するものである。
【0096】
また、水硬性組成物Aは、上記性質を有するため、壁などのひび割れ、窪み、欠損部を補修するためのパテ材としても好ましく用いることができる。
【0097】
<プライマー層>
本発明の施工方法では、塗膜防水層を設ける前に、水硬性モルタル硬化体を有する下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体を覆うようにプライマーを塗布し、乾燥させてプライマー層を設けることにより、ポリマーセメント組成物である塗膜防水層の接着性をより確実にすることができる。以下、プライマー層を設ける場合に用いるプライマーについて説明する。
【0098】
本発明の施工方法において、プライマー層を設けるために使用するプライマーは、建築物等の構造物の下地表面(壁面等)と塗膜防水層とをさらに強固に接着するため、及び、防水用ポリマーセメント組成物を塗布施工した際に、ポリマーセメント組成物中の水分が建築物等の構造物の下地表面に浸透する作用をより小さくするため、さらに建築物等の構造物の下地表面の細孔中の空気がポリマーセメント組成物中を通過してポリマーセメント組成物表面に気泡を形成することを防止する効果をより高めることができるために用いることがより好ましい。
【0099】
プライマーとしては、アクリル−スチレン共重合樹脂やエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする市販のプライマーが使用でき、特にアクリル−スチレン共重合樹脂を主成分とするものを好適に使用できる。
【0100】
プライマーの塗布量は、プライマー中の樹脂固形分が、好ましくは0.05〜0.2kg/mの範囲、特に好ましくは0.08〜0.15kg/mの範囲で塗布することが好ましい。プライマーの塗布作業は、前記の塗布量を1回の処理で塗布することができ、また、プライマーを2回〜3回の作業で前記の塗布量を塗布することもできる。プライマーを塗布・乾燥して得られるプライマー層の厚さは、好ましくは0.01〜0.2mmの範囲、特に好ましくは0.05〜0.15mmの範囲であることが好ましい。
【0101】
プライマー塗布後の乾燥時間は、温度条件や通風条件に応じて適宜乾燥時間をとることができ、通常夏季には0.5時間〜2時間、冬季には1時間〜4時間乾燥することが好ましい。
【0102】
<防水用ポリマーセメント組成物>
本発明の施工方法に好適な防水用ポリマーセメント組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(b)と、樹脂エマルションとを配合した防水用ポリマーセメント組成物である。この防水用ポリマーセメント組成物は、優れた速乾性と着色性と、さらに良好な施工作業性とを有する。この防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させた塗膜防水層は、タック(べたつき感)を有さず、且つ、−10℃の温度条件において良好な下地ひび割れ追従性を有し、優れた耐水性を有する。
【0103】
本発明の施工方法に好適な防水用ポリマーセメント組成物の好ましい態様を以下に示す。
【0104】
本発明の施工方法に好適な防水用ポリマーセメント組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(b)と、樹脂エマルションとを含むものである。
【0105】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができるが、着色性の面から白色アルミナセメントが好ましい。アルミナセメントは、本発明に支障のない粒径を有するものを使用すればよく、市販されているものを使用でき、例えば粒子径が1μm〜90μm程度のものを主成分として用いることが好ましい。
【0106】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができるが、着色性の面から白色ポルトランドセメントが好ましい。ポルトランドセメントは、本発明に支障のない粒径を有するものを使用すればよく、市販されているものを使用でき、例えば粒子径が1μm〜45μm程度のものを主成分として用いることが好ましい。
【0107】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は、防水用ポリマーセメント組成物と水とを混練して得られるスラリーが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。石膏は、本発明に支障のない粒径を有するものを使用すればよく、市販されているものを使用でき、例えば粒子径が1μm〜100μm程度のものを主成分として用いることが好ましい。
【0108】
水硬性成分(b)(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計=100質量%)は、好ましくはアルミナセメント5〜90質量%、ポルトランドセメント5〜90質量%及び石膏5〜50質量%からなる組成、より好ましくはアルミナセメント10〜80質量%、ポルトランドセメント10〜85質量%及び石膏6〜45質量%からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント15〜70質量%、ポルトランドセメント15〜70質量%及び石膏8〜35質量%、特に好ましくはアルミナセメント35〜50質量%、ポルトランドセメント30〜55質量%及び石膏10〜25質量%からなる組成を用いることにより、良好な速硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0109】
樹脂エマルションとしては、公知の樹脂エマルションを用いることができる。樹脂エマルションとしては、合成樹脂エマルションを用いることができ、合成樹脂エマルションとしては、ポリ酢酸ビニルエマルション、エチレンと酢酸ビニルの共重合体エマルション、エチレン、酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体の共重合体エマルション、エチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルション、ポリ(メタ)クリル酸誘導体のエマルション、スチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルション、ポリクロロプレンラテックス、酢酸ビニルと塩化ビニルの共重合体エマルション、スチレンとブタジエンの共重合体エマルション、アクリロニトリとブタジエンの共重合体エマルション、酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体のエマルションなどのエチレン、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)クリル酸誘導体などを少なくとも1種含む合成樹脂のエマルションを用いることができる。(メタ)クリル酸誘導体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、これらのエステルなどの酸誘導体を意味し、少なくともこれらの成分を1種以上含むものである。好適な防水性を有する防水用ポリマーセメント組成物を得るなどの点から、樹脂エマルションとしては、アクリル共重合体エマルションを用いることが好ましい。
【0110】
樹脂エマルションに含まれるポリマー成分のガラス転移温度は、特に限定されるものではなく、どのようなものでも用いることができるが、好ましくは−40℃〜−5℃、さらに好ましくは−38℃〜−10℃、特に好ましくは−36℃〜−15℃の範囲の樹脂エマルションを好適に用いることができる。
【0111】
防水用ポリマーセメント組成物において、水硬性成分(b)と樹脂エマルションの固形分との含有量は、目的に応じて適宜選択できるが、樹脂エマルションの固形分は、水硬性成分(b)100質量部に対して、好ましくは215〜380質量部、さらに好ましくは220〜350質量部、特に好ましくは225〜320質量部の範囲であることにより、乾燥後の塗膜(塗膜防水層)にタック(べたつき感)がなく、速乾性、−10℃の温度条件における下地ひび割れ追従性に優れる防水用ポリマーセメント組成物の塗膜(塗膜防水層)が、安定して得られることから好ましい。
【0112】
本発明の施工方法に好適な防水用ポリマーセメント組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(b)と、樹脂エマルションとを含み、さらに細骨材(特に珪砂)、凝結調整剤(凝結促進剤、凝結遅延剤)及び顔料を含む着色防水用ポリマーセメント組成物であることが好ましい。
【0113】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類などを適宜選択して用いることができる。
【0114】
細骨材としては、粒径1mm以下の骨材、好ましくは粒径0.032〜0.6mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.054〜0.425mmの骨材、特に好ましくは0.054〜0.3mmの骨材を主成分としている。細骨材の粒径は、JIS Z 8801で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0115】
凝結調整剤は、水硬性成分(b)の特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、防水用ポリマーセメント組成物の可使時間を調整することができるため好ましい。
【0116】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができ、例えば、凝結促進の性質を有するリチウム塩を好適に用いることができる。凝結促進剤の配合量は、水硬性成分(b)100質量部に対して0.002〜1.5質量部、さらに0.005〜1質量部、特に0.01〜0.5質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0117】
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることができる。特に炭酸リチウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0118】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(L−酒石酸ナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウムなど)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸など、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0119】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。特に重炭酸ナトリウムやL−酒石酸ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましく、さらに、これらを併用して用いることがより好ましい。
【0120】
凝結遅延剤は、1種又は2種以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分(b)100質量部に対して、0.01〜5質量部、さらに0.05〜4質量部、特に0.1〜3質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0121】
顔料としては、白色顔料、有彩色顔料及び黒色顔料などを用いることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。顔料を用いることにより、防水用ポリマーセメント組成物を着色し、着色防水用ポリマーセメント組成物とすることができるので、美観に優れた着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)を形成できる。
【0122】
白色顔料としては、二酸化チタン(酸化チタン)、鉛白、酸化亜鉛などを挙げることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。
【0123】
有彩色顔料は、公知のものが制限なく使用でき、例えば金属の酸化物、水酸化物、硫化物、クロム酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩などの無機顔料;アゾ系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、フタロシアニン系、ニトロ系、ニトロソ系、アントラキノン系、キナクリドンレッド系、ベンジジン系、縮合多環系等の有機顔料などを挙げることができる。また、着色繊維や光沢を有する金属粒子などであってもよい。有彩色顔料の色相については特に制限がなく、黄、青、赤、緑などのいずれのものでも使用することができる。これらの顔料は二種類以上を併用することができる。
【0124】
本発明で用いることのできる有彩色顔料の具体例としては、弁柄、群青、コバルトブルー、チタンイエロー、紺青、硫化亜鉛、バリウム黄、コバルト青、コバルト緑などの無機顔料;キナクリドンレッド、ポリアゾイエロー、アンスラキノンレッド、アンスラキノンイエロー、ポリアゾレッド、アゾレーキイエロー、ベリレン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノンイエロー、ウォッチングレッド、パーマネントレッド、パラレッド、トルイジンマルーン、ベンジジンイエロー、ファーストスカイブルー、ブリリアントカーミン6B等の有機顔料、着色繊維、光沢を有する金属粒子などが挙げられ、これらの顔料は二種類以上を併用して使用することができる。
【0125】
黒色顔料としては、カーボンブラック、鉄黒などをあげることができる。黒色顔料は二種類以上を併用して使用することができる。
【0126】
白色顔料、有彩色顔料及び黒色顔料などを併用して用いることにより、無彩色で環境調和性が高い着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)を形成でき、景観への配慮が強く求められる施工場所などに好適に用いることができる。
【0127】
本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で添加剤を含むことができる。添加剤としては、一般的に用いられる消泡剤、増粘剤、減水剤又は流動化剤などを挙げることができる。
【0128】
消泡剤は、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。消泡剤を用いることにより、防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)に含まれる気泡量を所定量以下に制御することが容易になる。
【0129】
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分(b)100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1.5質量部、さらに好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、消泡効果が適正であるために好ましい。
【0130】
増粘剤は、防水用ポリマーセメント組成物の粘性を調整する効果を有し、特に防水用ポリマーセメント組成物に良好な鏝塗り作業性を付与する効果を有するとともに、砂骨材ローラーやパターンローラーによる良好な模様付け性が得られる。
【0131】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを単独又は併用して用いることができる。増粘剤は、ポリエーテル系、ウレタン系、アクリル系などの水溶性ポリマー系、セルロース系、蛋白質系、などの増粘剤を用いることができ、特に水溶性ポリウレタン系などの水溶性ポリマー系の増粘剤を好ましく用いることができる。
【0132】
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分(b)100質量部中に、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1質量部、さらに好ましくは0.01〜0.8質量部、特に0.03〜0.6質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が前記の範囲より多くなると、流動性の低下を招く恐れがあり、また前記の範囲より少ない場合には過度な流動性のためにダレが生じ易くなることから、前記の好適な範囲で用いることが好ましい。
【0133】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることにより、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制及び防水用ポリマーセメント組成物の塗膜(塗膜防水層)表面の改善に好ましい効果を与え、防水用ポリマーセメント組成物の塗膜(塗膜防水層)の特性を向上させるために好ましい。
【0134】
防水用ポリマーセメント組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(b)、樹脂エマルション、珪砂などの細骨材、顔料及び凝結調整剤を含むものである。
【0135】
本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物は、攪拌容器に樹脂エマルションを所定量計量し、攪拌機でエマルションを攪拌しながら所定量の水硬性成分、細骨材、顔料、凝結調整剤、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などを添加し、数分間攪拌・混合して調製することができる。水硬性成分(b)、細骨材、顔料、凝結調整剤、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などは、単独で添加しても良いし、予め他の数種と混合したものを添加しても良く、添加順序は特に選ばない。また、攪拌機は、一般的な固液攪拌機など撹拌機能を有するものを問題なく用いることができる。
【0136】
本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物は、樹脂エマルション、水硬性成分(b)、細骨材、顔料及び凝結調整剤と、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などを攪拌・混合して調製するが、その際に材料分離及び塗膜(塗膜防水層)物性低下の面から水の添加を行わないことが好ましい。
【0137】
また、本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物は、樹脂エマルション、水硬性成分(b)、細骨材、顔料及び凝結調整剤と、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などを攪拌・混合して調製するが、流動化剤あるいは減水剤を用いた場合、微量の添加によって防水用ポリマーセメント組成物の流動性が大きくなり、ダレ性の制御を難しくすることから本発明では流動化剤あるいは減水剤を使用しないことが好ましい。
【0138】
本発明では、水硬性成分(b)、樹脂エマルション、珪砂などの細骨材、顔料及び凝結調整剤などを攪拌・混合して調製した防水用ポリマーセメント組成物のスラリーは、B型粘度計(東機産業社製)及びローターNo.4を用い、6rpmに設定して測定した粘度が、好ましくは30000〜80000mPa・sの範囲、さらに好ましくは40000〜70000mPa・sの範囲、特に好ましくは45000〜65000mPa・sの範囲であることが好ましく、12rpmに設定して測定した粘度が、好ましくは15000〜45000mPa・sの範囲、さらに好ましくは20000〜40000mPa・sの範囲、特に好ましくは25000〜36000mPa・sの範囲であることが、良好な鏝塗り作業性を有し、塗布した塗膜(塗膜防水層)が良好な保形性を有することから好ましい。TI値は、上記で得られる6rpmの粘度の値を、12rpmの粘度の値で除して算出して得られる値とする。また、防水用ポリマーセメント組成物のスラリーのTI値(6rpmの粘度の値/12rpmの粘度の値)は、好ましくは1.50〜2.00の範囲、さらに好ましくは1.60〜1.90の範囲、特に好ましくは1.65〜1.80の範囲であることが、安定した鏝塗り作業性が得られることから好ましい。
【0139】
本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物は、ローラー、鏝、刷毛及びスプレーなどを用いる一般的方法で被施工物の表面に塗布して使用され、塗布した塗膜(塗膜防水層)が乾燥することによって防水用ポリマーセメント組成物の塗膜(塗膜防水層)を形成できる。塗布膜の乾燥後に更に同じ操作を繰り返し、複数層の塗布膜を形成させることが好ましい。また、建築物等の構造体の屋上や壁面等の下地表面の施工で、防水用ポリマーセメント組成物の塗膜(塗膜防水層)間に、不織布や織布などのメッシュを挟んだ構造とする場合には、乾燥後の防水用ポリマーセメント組成物の塗膜(塗膜防水層)の上にメッシュを置き、メッシュの上からさらに防水用ポリマーセメント組成物を塗布してメッシュを固定する工程を加える工法が採用でき、優れた防水性能と強靭な塗膜(塗膜防水層)が得られることから好ましい。
【0140】
本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物は、ローラー、鏝、刷毛及びスプレーなどを用いる被施工物の表面に塗布してから乾燥した塗膜(塗膜防水層)が得られるまでの乾燥時間が、好ましくは1〜5時間の範囲、さらに好ましくは1.5〜4時間の範囲、特に好ましくは2〜3.5時間の範囲であることが、良好な作業時間を確保しつつ、塗布施工後は速やかに乾燥して次工程に移れることから好適である。
【0141】
なお、本発明の施工方法に好適な防水用ポリマーセメント組成物は、特にコンクリート表面との親和性が高く、コンクリート表面にプライマー層を設けない場合にも良好な防水性と、下地ひび割れ追従性とを発揮することができるが、コンクリート表面にプライマー層を設けた場合には、コンクリート表面と塗膜防水層との接着強度をさらに高めることができ、より高耐久な塗膜防水層を形成できることから好適である。
【0142】
また、本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物を、ローラー、鏝、刷毛及びスプレーなどを用いて被施工物の表面に1kg/m塗布・乾燥して形成した防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)は、−10℃の温度条件において、好ましくは0.95〜5mmの範囲、さらに好ましくは0.98〜3mmの範囲、特に好ましくは1〜2mmの範囲の下地ひび割れ追従性を有することが、長期に渡って供用される建築物等の構造物に高耐久な防水性を付与できることから好ましい。なお、下地ひび割れ追従性は、試験体Aを所定の温度条件で、精密万能材料試験機を用い、引張速度5mm/分の条件で伸びの測定を行い、目視観察で試験体Aに亀裂などの欠陥が生じる時の伸びを測定し、その伸びを下地ひび割れ追従性とする。
【0143】
本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物を用いて形成した防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)は、タック(べたつき感)を有しておらず、防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)の上にさらにトップコートなどの仕上げ材を施工する必要がない。したがって、本発明に好適に用いられる防水用ポリマーセメント組成物を用いることにより、少ない工程数で迅速に、美観、防水性及び耐久性を兼ね備えた防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)を形成することができる。
【実施例】
【0144】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0145】
<水硬性組成物>
本発明の施工方法に好適な水硬性組成物Aを試作し、性能を評価した。
【0146】
(特性の評価方法)
【0147】
1)15打フロー値(mm):
15打フロー値は、混練した水硬性モルタルについて、混練直後、混練30分後、混練60分後にJIS R 5201 セメントの物理試験方法のフロー試験に準じて測定した。
【0148】
2)SLフロー値(mm):
SLフロー値は、混練した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に記載の方法に準拠して測定した。
【0149】
3)鏝塗り作業性 :鏝塗り作業性[1]は、以下の説明のように、鏝塗り作業性[1]〜[3]のように行った。
【0150】
3―1)鏝塗り作業性[1]の評価
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS A 5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板にモルタルを約3〜5mmの厚みで塗り付けて、鏝塗り作業時のモルタルの送り、伸び、切れ及び離れの5項目について、水硬性モルタルを調製した直後、30分後、60分後に評価を行った(鏝塗り作業性[1])。評価は、以下のように行った。その結果を表2に示す。表2の所定の欄の3つの数字は、左から、混練直後、30分後及び60分後の評価を示す。
(i)鏝切れ(鏝残り)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
(iii)鏝送り(重さ)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行った。
(ii)鏝伸び(塗り面積)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行った。
(iv)鏝離れ(塗面の仕上げ易さ)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行った。
【0151】
3―2)鏝塗り作業性[2]:「すり合わせ性」(すり合わせ部の形成)の評価
コンクリート平板の表面にモルタルを約1mmの厚みで塗り付けたのち、左官鏝を用いてすりあわせ部を形成し、鏝塗りすり合わせ性について評価を行った(鏝塗り作業性[2])。評価は、以下のように3段階で行った。
○:良好、△:実用上問題あり、×:実用不可。
【0152】
3―3)鏝塗り作業性[3]:「保形性」(仕上り面の保形性:ダレによる変形)の評価
保形性の評価として、3mmの段差を形成したコンクリート平板の段差部分にモルタルを塗りつけてスムースな仕上り面を形成した後、60分後にスムースな仕上がり面が保たれているかを評価した(鏝塗り作業性[3])。評価は、以下のように3段階で行った。
○:良好、△:実用上問題あり、×:実用不可。
【0153】
4)硬化体表面のショア硬度:
水硬性モルタル打設後からの所定の経過時間において、水硬性モルタルの硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とした。
【0154】
5)曲げ強さ(N/mm)及び圧縮強さ(N/mm):
水硬性モルタル硬化体の曲げ強さ及び圧縮強さを測定するための試験に用いた試験体の大きさは、断面が40mm平方、長さが160mmの角柱の試験体(4cm×4cm×16cm)であり、JIS R 5201に準じて材齢1日、材齢7日及び材齢28日の曲げ強さ並びに圧縮強さを測定した。
【0155】
6)接着強さの評価:
水硬性モルタル硬化体の接着強さは、JIS A 6916の付着強さ試験方法に準拠して測定した。JIS A 5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板に、水硬性モルタルを約3〜5mmの厚みで塗り付けて層状の水硬性モルタル硬化体を設けた。材齢7日後及び材齢28日後の水硬性モルタル硬化体に付着面が40mm×40mmの正方形の鋼製ジグを接着剤にて5ヶ所に接着させた。接着剤が硬化した後、鋼製ジグの周囲に沿ってコンクリート平板に達するまでダイヤモンドカッターなどで切り込みを入れ、鋼製ジグを建研式接着試験機に取り付けて、徐々に引張り荷重を加え、破断するまで加圧を行った。破断するまでの最大荷重を最大引張り荷重とし、5ヶ所の平均値を接着強さとして評価した。
【0156】
7)長さ変化:
水硬性モルタル硬化体の長さ変化の測定試験については、JIS A 1129−1に規定するコンタクトゲージ法に準じて行った。
【0157】
(使用材料):
水硬性組成物は、以下の材料を使用して調製した。すなわち、下記の原材料を表1又は表2に示す配合割合で混合した水硬性組成物を使用した。
・アルミナセメントA : フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・アルミナセメントB : ターナルホワイト(白色アルミナセメント)、ケルネオス社製、ブレーン比表面積4100cm/g。
・ポルトランドセメントA : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・ポルトランドセメントB : 白色セメント、太平洋セメント社製。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・樹脂成分 : アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステルの共重合体、1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化型樹脂粉末、ニチゴー・モビニール社製、DM7100P。
・無機微粉末 : 石灰石微粉末(炭酸カルシウム微粉末)、有恒鉱業社製、TM−1号、ブレーン比表面積4830cm/g、100メッシュ篩(篩目開き=150μm)全通。
・細骨材A : 6号珪砂、宇部サンド社製。(粒度分布を表3に示す。)
・細骨材B : 5号珪砂、宇部サンド社製。(粒度分布を表3に示す。)
・凝結遅延剤A : L−酒石酸二ナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結遅延剤B : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・増粘剤 : ME250T、松本油脂社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
【0158】
(水硬性組成物のモルタル調製)
表1に示す配合割合で水硬性組成物を調製し、水硬性組成物100質量部に対して表1に示す所定量の水を配合し、回転数1100rpmのハンドミキサーを用いて3分間混練して、水硬性モルタルを調製した。
【0159】
[実験例1〜4、比較例1〜4]
表1に示す成分を配合した水硬性組成物を用いて水硬性モルタルを調製した。モルタルの流動性等の性状、鏝塗り作業性及び硬化特性を評価した結果を表2に示す。
【0160】
【表1】

【0161】
【表2】

【0162】
【表3】

【0163】
(1)水硬性成分として早強ポルトランドセメントのみを用い、細骨材を使用した比較例1の場合、水硬性モルタルの保形性は良好であったが、水硬性モルタル硬化体の長さ変化が、材齢7日で−0.08%、材齢28日で−0.10%と大きな値を示し、寸法安定性に劣っていたため、ひび割れの生じる危険性が大きいといえる。
(2)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び無水石膏からなる水硬性成分と、細骨材と、流動化剤とを含む比較例2の場合、鏝作業性について優れた特性を示したが、水硬性モルタルの保形性は不良であった。
(3)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び無水石膏からなる水硬性成分と、細骨材とを用い、流動化剤を用いなかった実験例1及び実験例2の場合、水硬性モルタルの流動性は、モルタル調製直後から60分経過後まで殆どフローロス(流動性の低下)がなかった。また、鏝塗り作業性は良好で、水硬性モルタルの保形性も優れていた。さらに、水硬性モルタル硬化体の長さ変化は、材齢7日で−0.03〜0%の範囲、材齢28日でも−0.03〜0%の範囲と安定して小さな値を示し、寸法安定性に優れた特性を示した。
(4)水硬性成分として早強セメントを用い、細骨材を用いず石灰石微粉末を使用した比較例3の場合、良好な速硬性は得られず、また水硬性モルタル硬化体の長さ変化が、材齢7日で−0.09%、材齢28日で−0.16%と大きな値を示した。寸法安定性に劣っていることから、ひび割れの生じる危険性が大きいといえる。
(5)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び無水石膏からなる水硬性成分と、細骨材を用いず石灰石微粉末を使用し、流動化剤を含む比較例4の場合、水硬性モルタルの保形性は不良であった。
(6)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び無水石膏からなる水硬性成分と、粒子径150μmを超える粒子を含まない石灰石微粉末を用い、流動化剤を用いなかった実験例3〜実験例4の場合、速硬性、鏝作業性及びすり合わせ施工性について優れた特性を示し、水硬性モルタルの保形性についても良好であった。さらに、水硬性モルタル硬化体の長さ変化は、材齢7日で−0.04〜0%の範囲、材齢28日でも−0.04〜0%の範囲と安定して小さな値を示し、寸法安定性に優れた特性を示した。
【0164】
<防水用ポリマーセメント組成物>
次に、本発明の施工方法に好適な防水用ポリマーセメント組成物を試作し、性能を評価した。
【0165】
(評価及び測定方法)
1)乾燥時間の評価方法
23℃±2℃の温度条件で5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実験例及び比較例と同じ樹脂エマルションを用い、樹脂エマルションに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分(b)と各種樹脂エマルションとを混合・攪拌して調製した防水用ポリマーセメント組成物を1kg/mの量で鏝にて塗布した。塗布後、塗布した表面を指で触って防水用ポリマーセメント組成物が指に付かなくなったり、塗り重ねができる状態までを乾燥時間とした。
【0166】
2)下地ひび割れ追従性の評価方法(−10℃ゼロスパンの評価方法)
中央に切り込みを入れた5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実験例及び比較例と同じ樹脂エマルションを用い、樹脂エマルションに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分(b)と各種樹脂エマルションとを混合・攪拌して調製した防水用ポリマーセメント組成物を1kg/mの量で鏝にて塗布した。塗布後、23±2℃の温度条件で14日間養生し、試験体Aを得た。
【0167】
下地ひび割れ追従性試験による伸びの測定は、試験体Aを測定温度−10℃の条件で、精密万能材料試験機((株)インテスコ製、210XLS)を用い、引張速度5mm/分の条件で行う。目視観察で試験体Aに亀裂などの欠陥が生じる時の伸びを測定し、その伸びを下地ひび割れ追従性とした。
【0168】
3)タック(べたつき感)の評価方法
23℃±2℃の温度条件で5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実験例及び比較例と同じ樹脂エマルションを用い、樹脂エマルションに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分(b)と各種樹脂エマルションとを混合・攪拌して調製した防水用ポリマーセメント組成物を1kg/mの量で鏝にて塗布した。塗布後、23±2℃の温度条件で1日間養生した防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)の表面の粘着性(タック)を指触にて評価した。
〇:タックなし、△:タックが少し感じられる、×:タックが強く感じられる
【0169】
4)耐水性の評価方法
23℃±2℃の温度条件で5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実験例及び比較例と同じ樹脂エマルションを用い、樹脂エマルションに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分(b)と各種樹脂エマルションとを混合・攪拌して調製した防水用ポリマーセメント組成物を1kg/mの量で鏝にて塗布した。塗布後、23±2℃の温度条件で1日間養生した防水用ポリマーセメント組成物塗膜(塗膜防水層)の表面に5gの水を滴下し、水が乾燥した後を目視にて状態を観察した。
【0170】
5)スラリー粘度の測定方法
温度20℃、湿度65%の環境下で、まず、2Lのポリ容器に表4に示す防水用ポリマーセメント組成物であるエマルション、アルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏、珪砂及び増粘剤を、表4に示す配合割合(合計1250g)で加え、0.15KW攪拌機を使用し1300rpmの条件下で3分間混合して均質なスラリー得る。その直後にB型粘度計(東機産業社製)及びローターNo.4を用いて、スラリー約250gを200mLのカップにすばやく充填し、充填直後に、6rpmに設定しローター回転1分後の粘度を測定し、さらに12rpmに設定を変更してローター回転1分後の粘度を測定した。TI値は、上記で得られる6rpmの粘度の値を、12rpmの粘度の値で除して算出して得られる値とした。
TI値=(6rpmの粘度の値)/(12rpmの粘度の値)
【0171】
[実験例5〜7及び比較例5〜9]
原料は以下のものを使用した。
【0172】
(樹脂エマルション)
1)アクリル系A
・proof1299ap(Tg=−21℃、固形分55%、BASFポゾリス社製)
2)アクリル系B
・アクアシャッター原液(AC)(Tg=−43℃、固形分54%、宇部興産社製)
3)エチレン−酢酸ビニル系
・アクアシャッター原液(Tg=−3℃、固形分53%、宇部興産社製)
【0173】
(防水用ポリマーセメント組成物の原料)
1)水硬性成分(b)
・アルミナセメント(ターナルホワイト、ケルネオス社製)
・ポルトランドセメント(白色セメント、太平洋セメント社製)
・石膏(II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)
2)細骨材
・珪砂:7号珪砂。
3)顔料
・白色顔料(タイペークCR−97、石原テクノ社製)
・黒色顔料(バイフェロックス318、ランクセス社製)
4)凝結遅延剤:
・重炭酸Na:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na:L−酒石酸二ナトリウム(扶桑化学工業社製)。
【0174】
(防水用ポリマーセメント組成物の調製)
水硬性成分、細骨材、顔料、凝結調整剤と各種樹脂エマルションとを表4に示す配合割合で3分間混合して防水用ポリマーセメント組成物を調製した。
【0175】
得られた防水用ポリマーセメント組成物について、スラリー特性、乾燥時間、−10℃のゼロスパン、タック(べたつき感)及び耐水性を評価した。結果を表4に示した。
【0176】
【表4】

【0177】
比較例5及び比較例6は、乾燥時間、タック(べたつき感)、耐水性については良好であったが、水硬性成分の量に対して樹脂エマルションの量が過少であるため、−10℃ゼロスパンが1.0mm未満となり、防水材の下地ひび割れ追従性としては不充分であった。また、比較例9の場合は、乾燥時間及びタック(べたつき感)については良好であったが、耐水性は不良であり、得られた塗膜(塗膜防水層)の−10℃ゼロスパンは0.9mm以下と小さく、防水材の下地ひび割れ追従性としては不充分であった。比較例7は、タック(べたつき感)があるため、塗膜(塗膜防水層)上を歩くと塗膜(塗膜防水層)が靴に粘着して塗膜(塗膜防水層)が破損する危険性があり、さらに、ほこり等が付着して汚れやすくなり、美観を損ねることになる。比較例8については、タック(べたつき感)が強く、また、耐水性が不良であった。
【0178】
実験例5〜7は、乾燥時間が早いため、2回塗りを行う場合において施工時間が短縮でき、顔料を用いて着色することにより、その塗膜(塗膜防水層)が着色仕上げ層となり、塗料等を塗布する塗装工程を省くことができる。また、タック(べたつき感)がないため、乾燥後に塗膜(塗膜防水層)上を歩くことが可能となり、ほこり等による汚れも生じず、長期に渡って美観を保つことが可能となる。さらに、耐水性が良好で、−10℃ゼロスパンを1.0mm以上確保できるため、防水材としての性能を充分に満足することが可能である。
【0179】
<モルタル仕上げ構造体の試作>
本発明の施工方法に好適な水硬性組成物Aと防水用ポリマーセメント組成物とを用いたモルタル仕上げ構造体を試作し、性能を評価した。
【0180】
[実施例1]
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、図13(a)に示す欠損部を有するコンクリート壁の欠損部を、表1の実験例1の水硬性組成物を用いて調製した水硬性モルタルを鏝塗り施工により補修処理を行って、図13(b)に示すように平坦なコンクリート表面を形成した。1日養生を行って硬化させた水硬性モルタルの硬化体は、良好な保形性を示し、コンクリート壁は良好な平面性を有していた。
【0181】
次に、水硬性モルタルの硬化体部分を含むコンクリート壁面に、表4の実験例5の防水用ポリマーセメント組成物を、ローラーを用いて施工厚さが1mmになるように塗布して乾燥させ、図13(c)に示すモルタル仕上げ構造体を作製した。
【0182】
モルタル仕上げ構造体の表面は、水硬性モルタルを用いて補修した欠損部を含めて、良好な平坦性を有していた。また、防水用ポリマーセメント組成物を用いて形成した塗膜防水層は、タック(ベタツキ感)を有していなかった。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明の施工方法による施工前の構造体を模式的に示す部分断面図である。
【図2】本発明の施工方法の施工手順の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図3】本発明の施工方法の施工手順の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図4】本発明の施工方法の施工手順であって、プライマー層を設ける場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図5】本発明の施工方法の施工手順であって、プライマー層を設ける場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図6】本発明の施工方法の施工手順であって、下地表面の全体に水硬性モルタル硬化体を設ける場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図7】本発明の施工方法の施工手順であって、下地表面の全体に水硬性モルタル硬化体を設ける場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図8】本発明の施工方法の施工手順であって、下地表面の全体に水硬性モルタル硬化体を設け、さらにプライマー層を設ける場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図9】本発明の施工方法の施工手順であって、下地表面の全体に水硬性モルタル硬化体を設け、さらにプライマー層を設ける場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図10】本発明の施工方法の施工手順の一例であって、水硬性組成物を段差にすり合わせ施工をした場合を模式的に示す部分断面図である。
【図11】本発明の施工方法の施工手順の一例であって、水硬性組成物を凸部にすり合わせ施工をした場合を模式的に示す部分断面図である。
【図12】従来の防水工法の施工手順の一例を模式的に示す部分断面図である。
【図13】本発明の施工方法によって、モルタル仕上げ構造体を施工する手順を模式的に示す斜視図である。
【図14】本発明の保形性が良好な水硬性組成物を用いた補修施工の一例と、保形性が不良な補修材を用いた補修施工の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0184】
10 床レベル
11 構造物
12 構造物の下地表面
13 凹部
14 段差
15 凸部
21 水硬性モルタル硬化体
21a 水硬性モルタル硬化体(すり合わせ仕上げ)
22 プライマー層
23 塗膜防水層
31 構造体
32 欠損部
33 水硬性モルタル硬化体
34 防水用ポリマーセメント層(塗膜防水層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠損部を有する構造物の下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体と塗膜防水層とを設けるモルタル仕上げ構造体の施工方法であって、欠損部を含む下地表面の少なくとも一部に、水硬性組成物を用いて欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設ける工程と、水硬性モルタル硬化体を有する下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体を覆うように防水用ポリマーセメント組成物を用いて塗膜防水層を設ける工程とを含むことを特徴とするモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項2】
水硬性組成物が、アルミナセメントを含む水硬性成分(a)と、樹脂成分と、細骨材とを含み、流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、55〜85mmであることを特徴とする請求項1に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項3】
水硬性組成物の水硬性成分(a)が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項4】
水硬性組成物の樹脂成分が再乳化型樹脂粉末であり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化型樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項5】
水硬性組成物が、軽量骨材を含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項6】
水硬性組成物が、さらに凝結調整剤及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項7】
水硬性モルタル硬化体を設ける工程が、水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを、鏝を用いて鏝塗り施工し、硬化することにより、欠損部を平坦化するように水硬性モルタル硬化体を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項8】
防水用ポリマーセメント組成物が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分(b)と、樹脂エマルションとを含み、水硬性成分(b)100質量部に対して、樹脂エマルションの固形分が215〜380質量部であり、樹脂エマルションのガラス転移温度が−40〜−5℃であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項9】
塗膜防水層が、タックを有さず、かつ、防水用ポリマーセメント組成物を1kg/m塗布して乾燥させた塗膜防水層が、−10℃の温度条件において0.95〜5mmの下地ひび割れ追従性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項10】
防水用ポリマーセメント組成物に含まれる樹脂エマルションが、アクリル共重合体エマルションを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項11】
防水用ポリマーセメント組成物に含まれるアルミナセメント及びポルトランドセメントが、白色アルミナセメント及び白色ポルトランドセメントであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項12】
防水用ポリマーセメント組成物が、珪砂、顔料及び凝結調整剤をさらに含む着色防水用ポリマーセメント組成物であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項13】
塗膜防水層を設ける工程が、水硬性モルタル硬化体を有する下地表面の少なくとも一部に、水硬性モルタル硬化体を覆うようにプライマーを塗布し、乾燥させてプライマー層を設け、さらにプライマー層の表面に防水用ポリマーセメント組成物を用いて塗膜防水層を設けることを含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載のモルタル仕上げ構造体の施工方法によって得られる、塗膜防水層を表層の少なくとも一部に有するモルタル仕上げ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−18488(P2010−18488A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181180(P2008−181180)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】