説明

モルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法

【課題】モルタル等建築物・造形物の表層の剥落を有効に防止できて安全であり、また、モルタル等建築物・造形物に防水性を付与して、金網、鉄筋、鉄骨等の内部支持体の腐食を防止し、以て、当該建築物、造形物等の耐久性を高め得る高品質のモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止及び防水工法を提供することを課題とする。
【解決手段】金網、鉄筋、鉄骨等を用いて組立てた支持体を包むようにして、モルタル等で所望形状に造形する造形体製造工程、前記造形体1にプライマー2を塗布する下塗り工程、前記プライマー2の上にウレタンコーティング樹脂を吹き付けてウレタンコーティング層3を形成するウレタンコーティング工程、前記ウレタンコーティング層3表面の脂、埃等の異物を除去するウレタンコーティング層3の脱脂・除埃工程、前記脱脂・除埃処理したウレタンコーティング層上にペイント仕上げをするペイント工程から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法、より詳細には、各種建築物の壁面や、公営施設、テーマパーク、遊園地等に設置されるモルタル等建築物・造形物の表層が、継時的に劣化して剥落することを極力防止し得ると共に、モルタル等建築物・造形物内への浸水を防止し得る剥落防止膜を形成するためのモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、テーマパークや動物園、遊園地、公園等に、人工の石壁や岩山が設置されることがあるが、その場合、できるだけ自然の岩肌となるような造作がなされる。そのような造形物は、通例、金網、鉄筋、鉄骨等を用いて組立てた支持体を包むようにして、モルタルによって造形され、その上に適宜塗装がなされる。
【0003】
また、建築物の壁面の化粧工法としても、基本的には同じ方法が採られる。例えば、建築物の壁面塗装に関する技術を開示する特許文献として、下記のものを挙げることができる。
【0004】
特開2003−172009号公報に記載の発明は、建築物の内外壁の表面に立体的で高級感のある塗装壁を施工する塗装工法に関するもので、養生および下処理を施した下地壁材の表面にセメント系下地調整塗材を厚付けし、この下地調整塗材が硬化するまでの間に表面に意匠的な起伏を形成する下塗り工程と、前記下地調整塗材が硬化した後、合成樹脂エマルジョンに天然石または陶磁器質からなる有色骨材を混入させた第1のセラミック塗材を前記下地調整塗材の表面全体に塗布する中塗り工程とを備えることを特徴としている。
【0005】
特開2004−251109号公報に記載の発明は、サイディング外壁面を湿式工法で化粧する建築物における壁面の化粧工法に関するもので、比較的深さの浅い目地と比較的段差の少ない凹部および凸部を備えた凹凸模様を有するサイディング外壁面の全面に対してセメント系タイル目地材を塗布する塗布工程と、該塗布工程の後に、セメント系タイル目地材が目地および凹部模様の表面に残るように、凸部模様を含むサイディング外壁面表面上のセメント系タイル目地材を拭き取る拭取工程とを具備することを特徴としている。
【0006】
この壁面の化粧工法は、特にサイディング外壁材の既存テクスチュアに、湿式塗り材料を塗ったり拭き取ったりして新たなテクスチュアに変化させるものである。
【0007】
特開平9−169933号公報に記載の発明は、意匠性が損われにくい上塗り層を備えた意匠性塗膜に関するもので、それは、意匠性塗膜基層と、前記意匠性塗膜基層上に配置された上塗り層とを備え、前記上塗り層は、イソシアネート基と反応可能な基を有しかつ乳化重合により得られたアクリルエマルジョンと、自己乳化型ポリイソシアネートとを含む水性常温硬化性樹脂組成物を用いて形成されていることを特徴とする。
【0008】
しかるに、上記従来の方法においては、しばしば起こるモルタルの表層の剥落に対して十分な安全対策が施されておらず、人の多く集まる場所においては、この剥落により人に危害が及ぶ危険がある。また、古い建築物においても、木材壁が腐敗したり、鉄板面が錆朽ちたりした場合に、同様の危険があり、擁護壁等においてもそのような危険がある。
【0009】
更に、モルタル等の支持体に対する防水処理が十分になされていないと、浸入した水が支持体の金網、鉄筋、鉄骨等に達して腐食する事態が発生する。その腐食が進むと、支持体はモルタルの荷重に絶えられなくなり、やがて崩壊してしまう危険があるが、上記従来の方法は、この防水対策の面でも十分とは言えない。
【0010】
コンクリートの剥落防止を企図したものとして、特開2005−15329号公報並びに特開2006−1812号公報記載の工法がある。これらは、主に道路や線路の高架橋のように、大きな振動を受ける構造物を対象としていて、それぞれ、所定物性値を備えた特殊な高強度樹脂を用いることにより、保護膜に柔軟性を持たせて剥離体を支持することを特徴としている。
【0011】
また、上記剥離防止工法の施工性についてみると、それは素地調整材、中塗り材及び上塗り材がセットとなって初めて実現されるものであり、高強度性能を有する中塗り材を良好に塗布するためには、素地調整材にて素地凹凸面を平滑にする必要があり、手間がかかる。そして、これらの工法において用いられる素地調整材、中塗り材及び上塗り材は、いずれも非常に柔らかいクリーミーな材料であって、ローラー施工や吹き付け工法は採用できないために、コテやヘラを用いて塗布することになるが、塗布しにくく多くの作業時間が必要となる。
【0012】
更に、上記剥離防止工法の造形性の点についてみると、上記のとおりこの工法に用いられる塗布材は非常に柔らかいクリーミーなもので、コテやヘラ等の塗布具を用いて塗布するが、一旦塗布しても塗布具に付着して引張られる関係上、造形の安定性が得られず、所望の3次元造形面を制作することは不可能である。そもそも、この工法は、凹凸のある3次元造形を対象としていない。
【0013】
【特許文献1】特開2003−172009号公報
【特許文献2】特開2004−251109号公報
【特許文献3】特開平9−169933号公報
【特許文献4】特開2005−15329号公報
【特許文献5】特開2006−1812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来方法の問題点を解決すべくなされたもので、建築物の壁や天井、あるいは、比較的大きなモルタル造形物、殊に、人の多く集まる遊園地やテーマパーク等に設置される建築物・造形物の表面壁の構築に好適で、モルタル等建築物・造形物の表層の剥落を有効に防止できて安全であり、また、モルタル等建築物・造形物に防水性を付与して、金網、鉄筋、鉄骨等の内部支持体の腐食を防止し、以て、当該建築物、造形物等の耐久性を高め得る高品質のモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止及び防水工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、金網、鉄筋、鉄骨等を用いて組立てた支持体を包むようにして、モルタル等で所望形状に造形する造形体製造工程、前記造形体にプライマーを塗布する下塗り工程、前記プライマーの上にウレタンコーティング樹脂を吹き付けてウレタンコーティング層を形成するウレタンコーティング工程、前記ウレタンコーティング層表面の脂、埃等の異物を除去するウレタンコーティング層の脱脂・除埃工程、前記脱脂・除埃処理したウレタンコーティング層上にペイント仕上げをするペイント工程から成ることを特徴とするモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法である。
【0016】
石風に仕上げるストーンフェイス等を高品質に仕上げる場合は、前記ペイント前下地材塗布工程の前に、前記脱脂・除埃処理したウレタンコーティング層上に下地調整材を塗布する下地調整材塗布工程を含む。好ましくは、前記下地調整材は、硅砂入りカチオンであり、その塗布は部分的に行うことがある。
【0017】
好ましくは、前記プライマーは、速乾性ウレタン・エポキシポリマーであり、また、前記脱脂・除埃処理はアセトンを用いて行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る方法は上記のとおりであって、施工工程が少ないために作業時間が短く、建築物・造形物の造形体表面にウレタンコーティング層が被装され、ウレタンコーティング層が造形体の表層に確固と接着されて剥落防止膜を形成するため、当該表層の剥落が防止され、また、造形体表面に防水性が付与されてその内部支持体の腐食劣化が防止され、以てその耐久性を高めることができる。従って、本発明に係る工法は、建築物の壁や天井、あるいは、比較的大きなモルタル造形物、殊に、人の多く集まる遊園地やテーマパーク等に設置されるモルタル等建築物・造形物の表層の構築に好適である。
【0019】
また、本発明に係る方法においては、ウレタンコーティング樹脂を吹き付け塗装するので、施工が容易で作業コストも低く抑えることができ、凹凸のある3次元造形面の施工が可能で、テクスチュア造形に適する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態について、添付図面に依拠して説明する。
本発明に係るモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法は、金網、鉄筋、鉄骨等を用いて組立てた支持体を包むようにして、モルタル等で所望形状に造形する造形工程、前記造形体にプライマーを塗布する下塗り工程、前記プライマーの上にウレタンコーティング樹脂を吹き付けてウレタンコーティング層を形成するウレタンコーティング工程、前記ウレタンコーティング層表面の脂、埃等の異物を除去するウレタンコーティング層の脱脂・除埃工程、前記脱脂・除埃処理したウレタンコーティング層上に下地調整材を塗布する下地調整材塗布工程、前記下地調整材上にペイント仕上げをするペイント工程から成ることを特徴とする。
【0021】
以下に、本発明を構成する各工程について、詳細に説明する。
【0022】
(1)造形体製造工程
先ず、モルタル等で、石壁その他、所望の形状にした造形体1を形成する。造形体
1は、金網、鉄筋、鉄骨等を以て予め組立てた支持体を包むようにして造形するが
、表面形状、テクスチュアについては、後工程のウレタンコーティング層の仕上り
形状を予測して造形する。
【0023】
(2)下塗り工程
造形体1の表面には、硬化後に磨き上げない限り、小さな砂粒やセメントの小さな
固まりが残存しており、こすればボロボロと小さく崩れる状態にある。この状態の
まま後続工程のウレタンコーティングを行うと、ウレタンコーティング層の十分な
接着力が得られない。そこで、造形体1の表面の硬化を落ち着かせるために、プラ
イマー2を、0.15〜0.3mm程度下塗りする。プライマー2としては、例え
ば、速乾性ウレタン・エポキシポリマー(例えば、ジェイ・ピー・エス株式会社製
「アンビルデック」)を用いる。このプライマー2は、低粘度のために迅速に造形
体1に浸透し、高いかっ着力を発揮して耐久性を高める。
【0024】
(3)ウレタンコーティング工程
次いで、プライマー2上にウレタンコーティング層3を形成する。ウレタンコーテ
ィング樹脂の吹き付けは、塗り厚約1mmを目安として行ない、ダレやムラが発生
しないように注意する必要がある。造形体1の形状には様々な大小の凹凸がある。
これらの表面テクスチュアにも凹凸がある。これら様々な形状、凹凸表面にウレタ
ンが接着浸透し、そして硬化して喰い付く。ウレタンコーティングされた当該造形
物のある部分が、何らかの力(衝突力、地震力、加重力など)を受けてモルタルが
破壊されても、ウレタンコーティング層3の、袋や風呂敷の如き作用効果で、壊れ
たモルタルは落下しない(図2参照)。
【0025】
(4)ウレタンコーティング層の脱脂・除埃工程
例えば、アセトンを用いて、ウレタンコーティング層3の脱脂・除埃処理を行う工
程である。次工程でウレタンコーティング層3上に下地調整材4が塗布されるが、
ウレタンコーティング層3上に脂・埃等の異物が残存していると、この下地調整材
4の接着の妨げとなるので、事前に脱脂・除埃処理を行うのである。アセトンは溶
剤で、揮発性が高く、脂を溶かすので、これを用いてウレタンコーティング層3の
表面を拭き取る。
【0026】
(5)下地調整材塗布工程
造形面には、例えば石肌に擬装するストーンフェイスや、木肌に擬装するウッドフ
ェイス、鉄風に擬装するメタルフェイス等がある。これらを高品質に仕上げるため
に、上記ウレタンコーティング層の脱脂・除埃工程に引続き、下地調整材塗布工程
が置かれる。
【0027】
下地調整材塗布工程は、ウレタンコーティング層3の上に、下地調整材4を塗布する工程である。ここで用いる下地調整材4はセメント系カチオン性樹脂モルタルであり、例えば、各種素材への仲介接着塗材である恒和科学興業株式会社の商品名「カチオンタイトF」が好適であり、硅砂入りのものを用いる。ここで硅砂入りカチオンを用いるのは、ウレタンコーティングした造形体1の面を高品質なものにするためであり、そのために、下地調整材4の塗布に当っては、造形工程とウレタンコーティング工程で実現したテクスチュアや形状を、潰したり埋めたりしないように注意する必要がある。
【0028】
ストーンフェイス等の場合に硅砂入りカチオンを吹き付ける理由は、テクスチュアをより現実の石面等と同じにするためである。硅砂入りカチオンを吹き付けないとウレタン面のみとなり、のっぺりとしたものになる。従って、高品質に表現するには、この硅砂入りカチオンの吹き付けが必要である。
【0029】
一方、ウッドフェイス等の場合にその吹き付けを行わないものもある。ザラザラ感を出さずに、例えば、松の木の外皮が剥けた、ややツルツルした面や、サルスベリの木を表現したりするためである。しかしながら、ザラザラした木部もあり、なおかつザラザラ・ツルツルが複合したものもある。このような場合は、全部吹き付けたり、吹き付けするところと吹き付けないところを混在させたりする。
【0030】
(6)ペイント工程
下地調整材4の上にペイントして仕上げる工程である。ツルツル感等を表現したい
場合は、ウレタンコーティング層3上にペイントすることになる。ペイントに際し
ては、通例、先にペイント下地材を塗布し、その上にペイント層5を施す。
【0031】
本発明の効果(表層剥落防止効果)を実証するために、次のような試験を行なった。
試験方法:試験対象面にカッターを用いて40×40mm角の切り込みを入れ、接着剤を用いて試験用アタッチメント(40×40mm)を取り付け、硬化後該アタッチメントを接着力試験器を用いて引っ張り、次式により接着強さを求めた。

【0032】
この試験は、剥落防止膜となるウレタンコーティング層3がモルタル表面にどの程度接着しているかを示したものである(接着強さ)。接着強さの基準値は、国土交通省の建築工事共通仕様書における外壁タイルの引張強度が4Kgf/cm以上、先付タイル工法6Kgf/cm以上、及び、日本建築仕上学会規格の規定にある、コンクリート表面に吸水調整剤を塗布してセメントモルタルを施工した際の接着強度10Kgf/cm以上を参考値として、これらの数値の高い値である10Kgf/cmとした。表における試験結果数値は、定めた基準を十分に満たす値であり、確固と接着していることが確認された。
【0033】

【0034】
また、本発明に係る方法においては、ウレタンコーティング層3が、剥落防止と共に水の浸入を防ぐ役割を果たす。約1mm厚のウレタン層が、ウレタンの特性によりモルタル面等に浸透しようとする水の浸入を防ぎ、支持体の腐食劣化を防止する。その結果、支持体の腐食劣化に起因するモルタル等建築物・造形物の表層の剥落も確実に防止される。
【0035】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る方法を説明するための、モルタル等建築物・造形物の壁部断面の例を示す図である。
【図2】本発明に係る方法を説明するための、モルタル等建築物・造形物の支柱等を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 造形体
2 プライマー
3 ウレタンコーティング層
4 下地調整材
5 ペイント層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金網、鉄筋、鉄骨等を用いて組立てた支持体を包むようにして、モルタル等で所望形状に造形する造形体製造工程、
前記造形体にプライマーを塗布する下塗り工程、
前記プライマーの上にウレタンコーティング樹脂を吹き付けてウレタンコーティング層を形成するウレタンコーティング工程、
前記ウレタンコーティング層表面の脂、埃等の異物を除去するウレタンコーティング層の脱脂・除埃工程、
前記脱脂・除埃処理したウレタンコーティング層上にペイント仕上げをするペイント工程
から成ることを特徴とするモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法。
【請求項2】
前記ペイント工程の前に、前記脱脂・除埃処理したウレタンコーティング層上に下地調整材を塗布する下地調整材塗布工程を含む請求項1に記載のモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法。
【請求項3】
前記下地調整材は、硅砂入りカチオンである請求項2に記載のモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法。
【請求項4】
前記下地調整材の塗布は、全体的に又は部分的に行う請求項2又は3に記載のモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法。
【請求項5】
前記プライマーは、速乾性ウレタン・エポキシポリマーである請求項1乃至4のいずれかに記載のモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法。
【請求項6】
前記脱脂・除埃処理はアセトンを用いて行う請求項1乃至5のいずれかに記載のモルタル等建築物・造形物の表層剥落防止・防水工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−55325(P2008−55325A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235511(P2006−235511)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(592188977)株式会社オリエンタルランド (12)
【Fターム(参考)】