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モロコ細胞株、その製造方法及び用途
説明

モロコ細胞株、その製造方法及び用途

【課題】モロコの体細胞株、特にホンモロコの生殖巣由来の体細胞株、特に機能的な精子もしくは卵形成を支持する能力を有する細胞株およびその製造方法を提供すること。当該細胞株をバイオセンサーとする、魚類等の動物に対する化学物質の影響の評価システムを提供すること。
【解決手段】(a)増殖速度の低下がみられない、(b)Sox9a及びWT1aを発現する、(c)アンドロゲン受容体及びエストロゲン受容体-1を発現する、という性質を安定に保持する、モロコ生殖巣由来の体細胞株。さらに(d)Foxl2を発現する、という性質を安定に保持する細胞株。前記細胞を支持細胞として、魚類の生殖巣から採取した細胞又は受精卵を培養することを特徴とする、魚類生殖細胞の培養方法。前記細胞株の細胞に被検物質を接触させ、アンドロゲン及び/又はエストロゲン応答遺伝子の発現変動を測定することを特徴とする、被検物質のアンドロゲン様もしくは抗アンドロゲン作用及び/又はエストロゲン様もしくは抗エストロゲン作用の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モロコ由来の体細胞株、その製造方法及び用途に関する。より詳細には、本発明は、モロコ、特にホンモロコ(Gnathopogon caerulescens)の生殖巣由来の体細胞株、特にセルトリ細胞や顆粒膜細胞のような生殖巣支持細胞の性質を有する細胞株、モロコから採取した体細胞を、フォルスコリン(forskolin)含有培地で継代培養することを含む該魚類由来の体細胞株の樹立方法、並びに魚類、特にモロコ由来の幹細胞株、特に生殖細胞への分化能を有する幹細胞株の樹立のための支持細胞としての該細胞株の使用、該細胞株もしくは該細胞株を用いて樹立される幹細胞株のバイオセンサーとしての使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
ホンモロコ(Gnathopogon caerulescens)は琵琶湖の固有種とされており、日本産コイ科魚類の中でも特に美味といわれ、重要な水産資源となっている。その漁獲量は1994年頃までは年間200〜400 tとほぼ安定していたが、1996年以降急激に落ち込み、2007年には7 tにまで低下したため価格が急騰し、現在では高級食材の1つとなっている。生息数激減の背景として、ブラックバスやブルーギル等の外来魚による卵・稚魚の食害が一因といわれている。このため、滋賀県及び周辺の自治体は、稚魚の大量放流や産卵繁殖場となるヨシ帯を含む浅水域の造成、さらには外来魚の駆除等の対策を講じて、水産資源の確保に取り組んでいるが、抜本的な解決には至っていない。ホンモロコから長期凍結保存可能な細胞株を樹立することができれば、これらの問題を解決できる可能性がある。
【0003】
一方、琵琶湖は京阪神地域の水がめとして古来より重要な役割を果たしてきたが、現在、化学物質による水質汚染が深刻化しており、人体をはじめ、生物への影響が懸念されているが、こうした化学物質の影響を適切に評価するシステムは未だ存在しない。化学物質の影響は、分化後の細胞よりも分化能を有する幹細胞において顕著にみられるため、幹細胞をバイオセンサーとして用い、細胞分化に与える化学物質の影響を精密に評価するシステムの開発が期待される。本発明者らは、生殖細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を導入したマウスES/iPS細胞やカニクイザルES細胞を作製し、化学物質の存在下で生殖細胞へ分化させ、レポーター遺伝子の発現を解析することにより、化学物質の危険度を評価するシステムの構築を進めている。水質汚染については、より直接的に影響を受ける琵琶湖固有魚介類の細胞を用いてバイオセンサーを作製できれば、これら固有種への影響を直接評価することができる。
【0004】
種の保存及び増殖のため、さらには化学物質(水質)評価に寄与するバイオセンサーとして、琵琶湖固有種であるホンモロコの細胞株を樹立することは極めて有用である。本発明者らの一人である酒井は、コイ科に属する魚類の細胞株としてゼブラフィッシュの精巣由来細胞株を樹立し、これを支持細胞として用いる雄生殖細胞の培養法を確立した(非特許文献1−3)。しかしながら、代表的なモデル魚類であるゼブラフィッシュとは異なり、細胞生物学的研究の蓄積がほとんどないホンモロコにおいて同様に細胞株を樹立できるか否かは全く不明であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sakai, N., Development, 129: 3359-3365 (2002)
【非特許文献2】Kurita, K. and Sakai, N., Mol. Reprod. Dev., 67: 430-438 (2004)
【非特許文献3】Sakai, N., Methods, 39: 239-245 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、モロコの体細胞株、特にホンモロコの生殖巣由来の体細胞株、特に機能的な精子もしくは卵形成を支持する能力を有するセルトリ細胞や顆粒膜細胞としての性質を有する細胞株およびその製造方法を提供することであり、当該細胞株を支持細胞として用いたモロコもしくは他の魚類の生殖細胞の培養系を確立することである。また、本発明の別の目的は、当該細胞株自体もしくは当該細胞株を支持細胞として樹立される幹細胞株をバイオセンサーとして用いる、魚類をはじめとする動物に対する化学物質の影響を評価するシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ホンモロコと同じコイ科に属するゼブラフィッシュにおいて精巣由来セルトリ細胞株の樹立に成功している培養条件を用いて、ホンモロコの精巣細胞及び卵巣細胞を継代培養したところ、それぞれ継代6代目及び3代目で、いずれも細胞の増殖率が急激に低下し、細胞株の樹立には至らなかった。そこで本発明者らは、培養条件を種々改変して試行錯誤を繰り返した結果、ゼブラフィッシュ用の培地にフォルスコリンを添加するとともに、血清濃度を高めることにより、14継代以上にわたって増殖速度の低下がみられず、かつセルトリ細胞マーカー(Sox9a, WT1a)及び性ホルモン受容体[アンドロゲン受容体(以下、ARと略記する場合がある), エストロゲン受容体-1(以下、ESR1と略記する場合がある)]を発現する体細胞株を、精巣と卵巣の両方から樹立することに成功した。これらの細胞株は、卵胞の顆粒膜細胞や莢膜細胞で発現するFoxl2も発現しており、雌雄いずれの生殖細胞分化にも支持細胞として利用可能であることが示唆された。さらに、アンドロゲン受容体(AR)及びエストロゲン受容体-1(ESR1)を発現しているので、これらの細胞株自体がアンドロゲン及び/又はエストロゲン様物質のバイオセンサーとして利用できることが示された。
さらに、本発明者らは細胞株樹立の過程で、非繁殖期の生殖巣由来の細胞の方が、繁殖期の生殖巣由来の細胞に比べて、継代初期における体細胞の接着数及び増殖速度が顕著に高く、生殖細胞の支持細胞株の樹立には、意外にも非繁殖期の生殖巣由来細胞が適していることを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
〔1〕モロコ生殖巣由来の体細胞株。
〔2〕モロコがタモロコ属に属する、上記〔1〕記載の細胞株。
〔3〕モロコがホンモロコである、上記〔1〕記載の細胞株。
〔4〕以下の(a)〜(c)の性質が14継代以上維持される、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の細胞株。
(a)増殖速度の低下がみられない
(b)Sox9a及びWT1aを発現する
(c)アンドロゲン受容体及びエストロゲン受容体-1を発現する
〔5〕さらに以下の(d)の性質が14継代以上維持される、上記〔4〕記載の細胞株。
(d)Foxl2を発現する
〔6〕さらに、以下の(e)及び/又は(f)の性質が14継代以上維持される、上記〔5〕記載の細胞株。
(e)Sox9a及びWT1以外のセルトリ細胞マーカー及び/又はFoxl2以外の顆粒膜細胞マーカーを発現する
(f)線維芽細胞増殖因子の添加により線維芽細胞様の形態を示す
〔7〕モロコ生殖巣から採取した細胞を、フォルスコリンを含有する培地中で継代培養することを特徴とする、体細胞株の製造方法。
〔8〕培地が5-20%の血清を含有する、上記〔7〕記載の方法。
〔9〕細胞が非繁殖期のモロコ生殖巣から採取したものである、上記〔7〕又は〔8〕記載の方法。
〔10〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の細胞株を支持細胞として、魚類の生殖巣から採取した細胞又は受精卵を培養することを特徴とする、魚類生殖細胞の培養方法。
〔11〕生殖細胞を株化することを含む、上記〔10〕記載の方法。
〔12〕魚類がコイ科に属する、上記〔10〕又は〔11〕記載の方法。
〔13〕魚類がモロコである、上記〔10〕又は〔11〕記載の方法。
〔14〕上記〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の細胞株の細胞に被検物質を接触させ、アンドロゲン及び/又はエストロゲン応答遺伝子の発現変動を測定することを特徴とする、被検物質のアンドロゲン様もしくは抗アンドロゲン作用及び/又はエストロゲン様もしくは抗エストロゲン作用の評価方法。
〔15〕アンドロゲン及び/又はエストロゲン応答遺伝子が、前記細胞に導入された、アンドロゲン応答エレメントを含むプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子及び/又はエストロゲン応答エレメントを含むプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子である、上記〔14〕記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモロコ生殖巣由来体細胞株は、精巣および卵巣における支持細胞であるセルトリ細胞及び顆粒膜細胞の性質を有しており、当該細胞株の細胞を支持細胞として生殖巣由来の細胞や受精卵を培養することにより、生殖細胞の長期培養及び株化が可能となる。また、本発明のモロコ細胞株はアンドロゲン受容体及びエストロゲン受容体-1を発現するので、当該細胞株をバイオセンサーとして、化学物質のアンドロゲン様/抗アンドロゲン作用及びエストロゲン様/抗エストロゲン作用を評価することができる。さらには、本発明のモロコ細胞株は、モロコ人工多能性幹(iPS)細胞の樹立のための出発材料となり得る。また、本発明の細胞株の製造方法は、季節繁殖性のモロコ生殖巣由来の細胞を出発材料とすることにより、季節性がなく様々な分化過程の生殖細胞が常に混在するマウスやゼブラフィッシュなどのモデル動物細胞株とは異なり、採取時期に応じて生殖細胞分化の種々のステージに適した支持細胞が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ホンモロコ生殖巣由来細胞の写真である。(A)は精巣由来細胞であり、左図は培養条件変更前(第6継代、22日目)の細胞、右図は培養条件変更後(第6継代、33日目)の細胞を示す。(B)は卵巣由来細胞であり、左図は培養条件変更前(第3継代、42日目)の細胞、右図は培養条件変更後(第3継代、67日目)の細胞を示す。
【図2】ホンモロコ精巣由来細胞株RMT1(20継代)及び卵巣由来細胞株RMO-1(14継代)における各種マーカー遺伝子の発現をRT-PCRで解析した結果を示す図である。
【図3】ホンモロコ精巣由来細胞株RMT2(16継代)における各種マーカー遺伝子の発現をRT-PCRで解析した結果を示す図である。
【図4】アンドロゲン応答性のレポータープラスミドを導入したホンモロコ精巣由来細胞株RMT2における11-ケトテストステロン(11-KT)濃度依存的なレポーター遺伝子の発現を示す図である。縦軸は相対発光量(Relative Light Unit)を、横軸は11-KT濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明はモロコの生殖巣、即ち精巣もしくは卵巣由来の体細胞株を提供する。本明細書において「モロコ」とはコイ科のタモロコ属(Gnathopogon)、カワバタモロコ属(Hemigrammocypris)及びスゴモロコ属(Squalidus)に属する魚類を意味する。タモロコ属に属する魚類としては、ホンモロコ(G. caerulescens)やタモロコ(G. elongatus)が挙げられ、カワバタモロコ属に属する魚類としては、カワバタモロコ(H. rasborella)が挙げられ、スゴモロコ属に属する魚類としては、イトモロコ(S. qracilis qracilis)、スゴモロコ(S. chankaensis biwae)、デメモロコ(S. japonicus japonicus)等が挙げられる。好ましくはタモロコ属に属する魚類であり、より好ましくはホンモロコである。
【0012】
本発明のモロコ細胞株は、モロコの生殖巣由来細胞から樹立された体細胞株である限り、特に制限されない。ここで「体細胞」とは生殖細胞、即ち、始原生殖細胞、雄生殖細胞である精子やその前駆細胞(精原細胞、精母細胞、精子細胞)、雌生殖細胞である卵やその前駆細胞(卵原細胞、卵母細胞)、初期胚(受精卵など)等以外の細胞を意味し、精巣における支持細胞であるセルトリ細胞やホルモン分泌細胞であるライディッヒ細胞、卵巣における支持細胞である顆粒膜細胞やホルモン分泌細胞である莢膜細胞などが挙げられるが、これらに限定されず、また、複数種の体細胞の性質を具備する細胞株、部分的及び/又は一過的に生殖細胞において認められる性質を示す細胞株も、本発明の体細胞株に包含される。
【0013】
好ましくは、本発明のモロコ細胞株は、10% FBS-TCCM/EGF/bFGF/Forskolin/β-ME培地[70%(v/v) L-15、2 mM L-グルタミン、50 U/ml ペニシリン、50 μg/ml ストレプトマイシン、100 μg/ml カナマイシン、10 mM HEPES, pH7.9、0.8 mM CaCl2、0.5%(w/v) ウシ血清アルブミン(BSA)、10%(v/v) ウシ胎児血清(FBS)、20%(v/v) MilliQ水、100 ng/ml 上皮細胞増殖因子(EGF)、100 ng/ml 塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、10 μM フォルスコリン、0.1 mM β-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol; β-ME)]中での維持培養下で、以下の(a)〜(c)の性質を安定に(少なくとも14継代以上)保持することを特徴とする。
(a)増殖速度の低下がみられない
(b)Sox9a及びWT1aを発現する
(c)アンドロゲン受容体及びエストロゲン受容体-1を発現する
(a)の性質は株化された細胞であることを規定するものであり、例えば、細胞増殖能の指標である細胞集団倍加数(PDL=log10(Ni/N0)/log102; Ni: 第i継代培養終了時の細胞数; N0: 第i継代培養開始時の細胞数)がほぼ直線的に増加することにより、定義づけることができる。
Sox9aとWT1aはセルトリ細胞のマーカーであり、ゼブラフィッシュのがん化精巣から単離され、ゼブラフィッシュの雄生殖細胞の長期培養を支持するセルトリ細胞株ZtA6でも発現している。
アンドロゲン受容体(AR)及びエストロゲン受容体-1(ESR1)はそれぞれ男性ホルモン及び女性ホルモンの受容体であり、精巣におけるセルトリ細胞及び卵巣における顆粒膜細胞でそれぞれ発現する核内受容体である。ARはゼブラフィッシュのセルトリ細胞株ZtA6でも発現している。
【0014】
好ましくは、本発明のモロコ細胞株は、10% FBS-TCCM/EGF/bFGF/Forskolin/β-ME培地中での維持培養下で、さらに以下の(d)の性質を安定に(少なくとも14継代以上)保持することを特徴とする。
(d)Foxl2を発現する
Foxl2は卵胞の顆粒膜細胞、莢膜細胞で発現する分子であり、本発明のモロコ細胞株は雌雄共通の支持細胞の前駆細胞ともいえる特徴的な性質を有する。
【0015】
好ましくは、本発明のモロコ細胞株は、10% FBS-TCCM/EGF/bFGF/Forskolin/β-ME培地中での維持培養下で、さらに以下の(e)及び/又は(f)の性質を安定に(少なくとも14継代以上)保持することを特徴とする。
(e)Sox9a及びWT1以外のセルトリ細胞マーカー及び/又はFoxl2以外の顆粒膜細胞マーカーを発現する
(f)線維芽細胞増殖因子(FGF)添加により線維芽細胞様の形態(spindle form)を示す
Sox9a及びWT1a以外のセルトリ細胞マーカーとしては、例えばAmhが、Foxl2以外の顆粒膜細胞マーカーとしては、例えばCyp19a1aがそれぞれ挙げられる。
【0016】
また、本発明のモロコ細胞株は、継代数や培養条件の微小変化等に応じて、例えば、生殖巣分化マーカー(例、Dmrt1等)などを一過的に発現する場合もある。
さらに、本発明のモロコ細胞株は、生殖細胞マーカーを部分的及び/又は一過的に発現していてもよいし、あるいは発現しなくてもよいが、典型的には、継代期間を通じて生殖細胞マーカーを弱く発現するか、あるいは発現しない。生殖細胞マーカーとしては、vasa、ziwi等が挙げられる。ゼブラフィッシュのセルトリ細胞株ZtA6ではvasaの弱い発現が見られる(ZtA6はヘテロな細胞集団で、シングルコロニー単離により12のサブライン(ZtA6-1〜12)が樹立され、ZtA6-4〜6、12のみがvasaを発現することがわかっており、このうちZtA6-4、-5はWT1発現を欠く)。ここで「弱く発現する」とは、RT-PCR分析により、当該細胞株における生殖細胞マーカー遺伝子のmRNAが検出されるが、その発現レベル(ハウスキーピング遺伝子の発現レベルで標準化後)が、生殖細胞における当該マーカー遺伝子の発現レベルと比較して有意に低いことを意味する。
【0017】
本発明のモロコ細胞株の具体例として、ホンモロコ精巣由来細胞より樹立されたRMT1細胞株と、ホンモロコ卵巣由来細胞より樹立されたRMO-1細胞株が挙げられる。RMT1及びRMO-1はそれぞれ下記の性質を安定に保持する。
RMT1株:
(a)増殖速度の低下がみられない
(b)Sox9a及びWT1aを発現する
(c)AR及びESR1を発現する
(d)Foxl2を発現する
(e)顆粒膜細胞マーカーCyp19a1aを発現する
(f)FGF添加により線維芽細胞様の形態(spindle form)を示す
(g)生殖細胞マーカーであるvasaを弱く発現するか、または発現しない
RMO-1株:
(a)増殖速度の低下がみられない
(b)Sox9a及びWT1aを発現する
(c)AR及びESR1を発現する
(d)Foxl2を発現する
(h)生殖巣分化マーカーDmrt1を弱く発現するか、または発現しない
RMT1株及びRMO-1株は、樹立直後より、立命館大学薬学部薬学科細胞工学研究室(〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1)に、それぞれRMT1及びRMO-1の保存番号を付されて保存されており、同機関への書面による請求により一般に入手可能である。また、RMT1株は2011年4月13日付で、RMO-1株は2011年9月6日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター (IPOD) (〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6) に、それぞれFERM P-22102及びFERM P-22166の受託番号を付されて寄託されている。
【0018】
本発明のモロコ細胞株はいかなる方法によって樹立されたものであってもよいが、ゼブラフィッシュにおいてセルトリ細胞株を樹立し得る報告された培養条件を用いても、継代培養の途中で増殖速度の急激な低下を招くので好ましくない。本発明の好ましい一実施態様においては、ゼブラフィッシュセルトリ細胞株の樹立に使用された培養条件において、培地にフォルスコリンを添加することにより、モロコ細胞株を樹立することができる。
従って、本発明はまた、モロコ生殖巣から採取した細胞を、フォルスコリンを含有する培地中で継代培養することを特徴とする、体細胞株の製造方法を提供する。培地に添加されるフォルスコリンの濃度は特に制限はないが、例えば1 μM以上、好ましくは5 μM以上、より好ましくは8 μM以上で、50 μM以下、好ましくは30 μM以下、より好ましくは20 μM以下の範囲で適宜選択することができる。
【0019】
また、培地には、5%以上、好ましくは8%以上で、20%以下、好ましくは15%以下の血清が添加されていることがより望ましい。血清の由来は特に制限されず、ウシ胎児血清(FBS)やヒト血清の他、コイ血清などを用いることもできる。血清は複数種を混合して用いてもよいし、非働化の有無も問わない。
【0020】
本発明のモロコ細胞株の樹立に用いる基本培地としては、例えば、L-15培地、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。より好ましくは、L-15培地である。
【0021】
前記いずれかの培地に、例えば、血清タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)等のアルブミンなど)、性腺刺激ホルモン(例えば、ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(HCG)、妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)等)、還元剤(例えば、2-メルカプトエタノール等)、成長因子(例えば、インスリン、上皮細胞増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子-9(FGF9)、幹細胞因子(SCF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)等)、魚類胚抽出物(FEE)(培養対象となるモロコと同種の胚抽出物が好ましいが特に限定されず、例えば、ワタカ、フナ、ニジマス、ゼブラフィッシュ等の孵化後1〜3日の稚魚が挙げられる)、分化抑制剤(例えば、白血病阻止因子(LIF)、Wnt、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)等)、鉄源(例えば、トランスフェリン等)、ミネラル(例えば、亜セレン酸ナトリウム)、アミノ酸(例えば、グルタミン、アラニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン等の非必須アミノ酸)、ビタミン類(例えば、塩化コリン、パントテン酸、葉酸、ニコチンアミド、塩酸ピリドキサル、リボフラビン、塩酸チアミン、アスコルビン酸、ビオチン、イノシトール等)、糖類(例えば、グルコース等)、有機アミン類(例えば、プトレシン等)、ステロイド(例えば、プロゲステロン、β-エストラジオール等)、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、カナマイシン等)、インターロイキン(IL)類(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6等)、接着因子(例えば、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン等)、有機酸(例えば、ピルビン酸、コハク酸、乳酸等)もしくはその塩、緩衝剤(例えば、HEPES等)、栄養添加物(例えば、B27 supplement、N2 supplement、StemPro supplement等)などの培地添加物を適宜補充して、使用することができる。
【0022】
本発明のモロコ細胞株RMT1及びRMO-1の樹立に具体的に使用された培地は、当初使用した、TCCM-GFBS[77%(v/v) L-15培地/10 U/ml HCG/10 U/ml PMSG/2 mM L-グルタミン/50 U/ml ペニシリン/50 μg/ml ストレプトマイシン/100 μg/ml カナマイシン/10 mM HEPES, pH 7.9/800 μM CaCl2/20%(v/v) MilliQ/0.5%(w/v) BSA/3%(v/v) FBS/FEE (ワタカの稚魚 (孵化後2日目); 20 embryos/ml)]に各100 ng/mlのEGF及びbFGFを添加した培地に、さらに10 μM フォルスコリンを添加し、FBS濃度を10%に増加させたものである。ワタカに代えてフナの胚抽出物を用いる場合には、例えば、2-6 embryos/mlの最終濃度となるように培地に添加するのが好ましい。
【0023】
次に、具体的な細胞株樹立の手順について説明する。
まず、成体のモロコから精巣又は卵巣を採取し、常法により細胞を解離させた後、上記のいずれかの培地を含む培養器中で解離した細胞を培養する。培養器は、細胞培養用であれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。培養器は、培養法(浮遊培養法もしくは接着培養法)に応じて、細胞非接着性(低接着性)または細胞接着性とすることができる。細胞接着性の培養器は、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞支持用基質でコーティングされたものであり、そのような細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、マトリゲル、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。培養は、上記培養器中に、精巣もしくは卵巣由来細胞を、例えば1.0〜5x104細胞/cm2の細胞密度となるように播種し、例えば、必要に応じてCO2インキュベーター中で、0-10% CO2/100-90%大気の雰囲気下、25〜30℃、好ましくは約28℃で行い、細胞がコンフルエントもしくはサブコンフルエントになれば新鮮な培地に交換して継代する。細胞の継代は3〜5日程度の間隔で行うことができる。継代培養の結果、PDLがほぼ直線的に増加する(増殖速度の低下がみられない)細胞を選択する。
【0024】
出発材料となる生殖巣の採取時期は特に制限はないが、生殖細胞、特に体細胞分裂期の生殖細胞(精原細胞、卵原細胞)の維持増殖のための支持細胞として適した体細胞株を効率よく樹立しようとする場合、非繁殖期のモロコ生殖巣を用いることが望ましい。非繁殖期のモロコ生殖巣から採取した細胞を用いた場合、繁殖期のモロコ生殖巣から採取した細胞を用いた場合に比べて、継代培養初期における体細胞の接着数や増殖速度が格段に良好である。繁殖期の精巣及び卵巣には、それぞれ精子及び卵子が豊富に存在するため、支持細胞の相対的割合が少なくなり、体細胞の接着性や増殖速度が非繁殖期に比べて低下すると推察されるが、これは本発明における実験結果に基づいて初めて得られた知見であり、本発明以前においては予見され得なかったことは言うまでもない。もちろん、後述の実施例に記載されるホンモロコ精巣由来のRMT2株のように、繁殖期のモロコ生殖巣を用いても本発明の体細胞株を得ることができる。
モロコは年1回の季節繁殖性を持つ魚類であるため、分化過程が均一であり、組織の採取時期に応じて機能の異なる細胞株を取得することができ、それに基づいて生殖細胞分化に関する有用な情報・知見が得られる可能性が高い。例えば、上述のように、非繁殖期には、体細胞分裂期の生殖細胞(精原細胞)の維持増殖に適した支持細胞株を得ることができるし、非繁殖期から繁殖期に進むにつれて、生殖細胞分化、特に精巣では減数分裂開始初期の分化過程に適した支持細胞株を得ることができる。様々な分化過程の細胞が常に混在するゼブラフィッシュやメダカなどのモデル魚類からは、そのような知見は得られにくいので、本発明のモロコ細胞株は極めて有用な細胞生物学的研究ツールとなり得る。
モロコの繁殖期・非繁殖期は当業者に周知であり、例えばホンモロコやタモロコ等のタモロコ属では3〜7月頃、カワバタモロコ属では5〜7月頃、イトモロコ、スゴモロコ、デメモロコ等のスゴモロコ属では4〜6月頃が繁殖期とされている。
【0025】
選択された細胞株が以下の(b)〜(e)、(g)及び(h)
(b)Sox9a及びWT1aを発現する
(c)AR及びESR1を発現する
(d)Foxl2を発現する
(e)顆粒膜細胞マーカーCyp19a1aを発現する
(g)生殖細胞マーカーvasa等を弱く発現するか、または発現しない
(h)生殖巣分化マーカーDmrt1等を弱く発現するか、または発現しない
の性質を有するか否かは、例えば、後述の実施例2に示されるように、各遺伝子の転写産物を特異的に増幅し得るプライマーを用いてRT-PCRを実施することにより検証することができる。
【0026】
上記のようにして得られた本発明のモロコ細胞株は、幹細胞の凍結保存に通常使用される条件で凍結保存して長期間保存することができ、常法に従って、用時融解して使用することができる。
【0027】
上記のようにして得られた本発明のモロコ細胞株はまた、精巣及び卵巣の支持細胞であるセルトリ細胞や顆粒膜細胞に特有の性質を有するので、魚類、好ましくはコイ科に属する魚類、より好ましくはモロコの生殖細胞の培養系を確立するための支持細胞として利用することができる。
【0028】
支持細胞として用いる場合、本発明のモロコ細胞株の細胞は、生殖巣由来の細胞や受精卵との共培養に先立って、マイトマイシンCで処理するか、放射線照射するなどして増殖能を失わせておくことが望ましい。処理した細胞を上記と同様にして培養器に播種し、該支持細胞上に、目的とする魚類の生殖巣から採取した細胞又は受精卵を播種して、上記と同様の方法で培養することができる。精細胞や卵細胞を幹細胞もしくは前駆細胞の状態(精原細胞や精母細胞、卵原細胞や卵母細胞)で維持する場合は、上記と同様の培地で培養することができるが、機能的な精子又は卵子形成を目的とする場合、必要に応じてテストステロン、プロゲステロン、エストロゲンなどの性ホルモンを培地に添加することができる。本発明のモロコ細胞株を支持細胞として精巣由来細胞から精子形成を行う場合、例えば、上記非特許文献1〜3に記載される方法を、必要に応じて一部改変しながら用いることにより容易に実施することができる。
【0029】
好ましい態様においては、生殖巣から採取した細胞又は受精卵を継代培養することにより、生殖細胞、好ましくは精原幹細胞や卵原幹細胞、胚性幹細胞などの幹細胞を株化することも可能である。
【0030】
上記のように本発明のモロコ細胞株を用いて培養された機能的な精子と卵とを人工授精させることにより、モロコ個体を再生することができる。あるいは、未成熟な生殖細胞を、例えば免疫系が未熟な孵化直後の稚魚(宿主)の腹腔内に移植すると、移植した生殖細胞は自発的に生殖腺に移動してそこに取り込まれ得るので、成熟した該宿主内でモロコの精子又は卵を産生させることができる。このようにして得られた雌雄の宿主を受精させることで、養殖系が確立している近縁の魚類を代理親としてモロコの繁殖を行うことも可能である。
【0031】
本発明のモロコ細胞株はAR及びESR1を発現するので、アンドロゲン様作用もしくは抗アンドロゲン作用を有する物質、及びエストロゲン様作用もしくは抗エストロゲン作用を有する物質を同定するのに用いることができる。即ち、AR及びESR1は、それぞれリガンド(アゴニストもしくはアンタゴニスト)であるアンドロゲン様物質もしくは抗アンドロゲン剤及びエストロゲン様物質もしくは抗エストロゲン剤がそれぞれ結合すると、標的遺伝子の調節領域に存在するコンセンサスなシス配列(ARE及びERE)に結合して該遺伝子の転写を活性化、あるいは拮抗阻害により転写を抑制するので、該遺伝子の発現変動を指標として、被検物質のアンドロゲン様もしくは抗アンドロゲン作用及び/又はエストロゲン様もしくは抗エストロゲン作用を評価することができる。このような標的遺伝子としては、アンドロゲン応答遺伝子として、例えば前立腺特異的抗原やカリクレイン遺伝子が挙げられ、エストロゲン応答遺伝子としては、例えばビテロゲニン、オブアルブミン、プロゲステロン受容体、pS2遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子発現は、各標的遺伝子に特異的なプライマーを作製してRT-PCRを行うことにより、あるいは各遺伝子産物に対する抗体を用いたイムノアッセイにより測定することができる。被検物質の存在下と非存在下とで遺伝子発現レベルを比較し、標的遺伝子の発現を増加させた被検物質をアンドロゲン様物質又はエストロゲン様物質、標的遺伝子の発現を低下させた被検物質を抗アンドロゲン剤もしくは抗エストロゲン剤として選択することができる。
【0032】
被検物質としては、精製された化合物のほか、例えば、飲料用に使用される水(河川水、湖水、井戸水等)、食品抽出物など、環境中の内分泌擾乱物質の混入が危惧されるあらゆる物質が対象となり得る。
【0033】
本発明のモロコ細胞株の細胞に、アンドロゲン応答エレメント(ARE)を含むプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子及び/又はエストロゲン応答エレメント(ERE)を含むプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を導入しておけば、これらのレポーター遺伝子の発現変動を調べることで、より簡便に被検物質のアンドロゲン様もしくは抗アンドロゲン作用及び/又はエストロゲン様もしくは抗エストロゲン作用を評価することができる。レポーター遺伝子としては、例えば、改変を含むGFP、RFP、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。ARE及びEREのコンセンサス配列は当業者に周知である。2個以上のARE又はEREをタンデムに連結することで、ARやERとの相互作用を増強することができ、測定感度を向上させることができる。
【0034】
本発明のモロコ細胞株はまた、モロコiPS細胞の樹立のための体細胞ソースとして利用することができる。iPS細胞樹立のための核初期化は、例えば、Cell, 126: 663-676 (2006)、Nat. Biotechnol., 26: 101-106 (2008)、Cell, 131: 861-872 (2007)、Science, 318: 1917-1920 (2007)等に記載の方法に準じて行うことができる。初期化因子としてはモロコ由来のものを用いることが好ましいが、これは、モロコからRNA(cDNA)を単離し、公知の近縁の動物の初期化遺伝子(例、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)の配列情報をもとにハイブリダイゼーション法やPCR法によりクローニングすることができる。
【0035】
上記のように、本発明のモロコ細胞株を支持細胞として樹立された生殖幹細胞株や、本発明のモロコ細胞株をソースとして樹立されたモロコiPS細胞は、幹細胞バイオセンサーとして、化学物質の評価に利用することができる。例えば、モロコiPS細胞を利用する場合、予め生殖細胞特異的プロモーター(例、vasaプロモーター)の制御下にあるレポーター遺伝子を導入しておき、被検物質の存在下で生殖細胞への分化を誘導した場合に、被検物質の非存在下で分化誘導した場合と比較して、レポーター遺伝子の発現が有意に変動(増加もしくは減少)した場合に、該被検物質は生殖細胞分化に影響を与える可能性が高いと判定することができる。
【0036】
また、本発明のモロコ細胞株をソースとして樹立されたiPS細胞から始原生殖細胞を誘導し、これを上記と同様に代理親魚の腹腔内に移植することで、養殖系が確立した近縁の魚類を代理親として、モロコの繁殖を行うことも可能である。
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であっ
て本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1 ホンモロコの精巣及び卵巣由来細胞からの細胞株の樹立
非繁殖期のホンモロコの雌雄(滋賀県水産試験場から供与された)から、常法に従って卵巣及び精巣をそれぞれ単離し、0.5% Bleach/PBS(-)で2分間消毒した後、PBS(-)で洗浄した。この生殖巣組織をコラゲナーゼ/L-15 (SIGMA、Cat No.L5520) (500 U/ml) 500 μl中でミンスして15 mlチューブに移し、コラゲナーゼ/L-15 1 mlを加えて、20分毎にピペッティングしながら、28℃で2時間振とう培養した。1% BSA/L-15 10 mlを加えて希釈した後、600 rpm (70G) で10分間遠心し、上清を除去した。沈殿した細胞を、TCCM-GFBS[77%(v/v) L-15培地/10 U/ml HCG/10 U/ml PMSG/2 mM L-グルタミン/50 U/ml ペニシリン/50 μg/ml ストレプトマイシン/100 μg/ml カナマイシン/10 mM HEPES, pH 7.9/800 μM CaCl2/20%(v/v) MilliQ/0.5%(w/v) BSA/3%(v/v) FBS/FEE (ワタカの稚魚 (孵化後2日目); 20 embryos/ml)]1.3 ml中に懸濁し、ピペッティングして5-10分間室温にて放置した。さらにピペッティングした後、ゼラチンコートした35 mmディッシュ上に全量を播種し、終濃度がそれぞれ100 ng/mlとなるように、EGF及びbFGFを添加して28℃で培養した。細胞は約4日毎に継代した。
その結果、精巣由来細胞では継代6代目、卵巣由来細胞では継代3代目で、それぞれ細胞の増殖率が急激に落ち、いずれも細胞株樹立には至らなかった(図1左図、上:精巣由来細胞;下:卵巣由来細胞)。
そこで、培地に10 μM フォルスコリンを添加し、FBS濃度を3%から10%に変更して培養を行ったところ、10継代以上増殖速度の低下はみとめられなかったので、細胞株が樹立できたと判断した(図1右図、上:精巣由来細胞株;下:卵巣由来細胞株)。細胞は、FGF添加により線維芽細胞様のspindle formを示した。本発明者らは、精巣由来細胞株をRMT1、卵巣由来細胞株をRMO-1とそれぞれ命名した。このうちRMT1株は、2011年4月13日付で、RMO-1株は同年9月6日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター (IPOD) (〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6) に、それぞれFERM P-22102及びFERM P-22166の受託番号を付されて寄託されている。
これらの細胞株は、いずれも70%(v/v) L-15(SIGMA、Cat No.L5520)、HCG(10 U/ml、あすか製薬 ゴナトロピン筋注用)、PMSG(10 U/ml、あすか製薬 動物用セロトロピン)、2 mM L-グルタミン(SIGMA、Cat No.G7513)、ペニシリン(50 U/ml)、ストレプトマイシン(50 μg/ml)、カナマイシン(100 μg/ml)、10 mM HEPES, pH7.9、0.8 mM CaCl2、0.5%(w/v) BSA (SIGMA、Cat No.A9418、5%(w/v) BSA/L-15を調製し、添加)、10%(v/v) FBS、20%(v/v) MilliQ、100 ng/ml EGF(PEPROTECH、Cat No.100-15)、100 ng/ml bFGF(PEPROTECH、Cat No.100-18B)、10 μM フォルスコリン、0.1 mM β-メルカプトエタノールからなる培地中で、28℃、大気中で維持培養した。継代は、PBS(-)で細胞層を洗浄後、0.06%(w/v) トリプシン/0.15 mM EDTAで細胞を剥離し、上記培養液で1/2〜1/5希釈してゼラチンコートしたディッシュに播種する方法で、3-4日おきに行った。現在のところ、RMT1株は45継代、RMO-1株は46継代まで、いずれも増殖速度の低下を認めることなく継代維持されている。
また、長期保存のため、これらの細胞株は、セルバンカー1 (日本全薬工業株式会社、Cat No. BLC-1)及びセルリザーバーOne (ナカライテスク、Cat No. 07579-24)からなる凍結保存液を用い、凍結処理容器(Nunc、Cat No.377267)に入れて-80℃フリーザーで一晩凍結した後、液体窒素凍結保管容器内で保存した。
【0039】
実施例2 ホンモロコの精巣及び卵巣由来細胞株の特性解析
実施例1で樹立したRMT1株(20継代)及びRMO-1株(14継代)についてRT-PCR分析を行い、種々の細胞マーカーの発現を解析した。結果を図2に示す。RMT1株とRMO-1株は共通して以下の性質を有することが分かった。
(b)セルトリ細胞マーカーSox9a及びWT1aを発現する
(c)AR及びESR1を発現する
(d)顆粒膜細胞、莢膜細胞で発現するFoxl2を発現する
さらに、RMT1株は、顆粒膜細胞マーカーCyp19a1aを発現していた。
尚、RMT1株は20継代において、低レベルではあるが生殖細胞マーカーvasaを発現しており、一方、RMO-1株は14継代において、低レベルではあるが生殖巣分化マーカーDmrt1を発現していた。
【0040】
実施例3 ホンモロコ細胞株を支持細胞とする精細胞の培養系の確立
凍結保存したRMT1株を28℃で急速融解し、維持培養用培地に懸濁して1回遠心(800 rpm、5分間)して洗浄後、35 mmディッシュに再播種してフィーダー細胞を調製した。マイトマイシンC(MMC)処理は、10 μg/ml MMCを用いて、28℃で1.5時間細胞をインキュベートすることにより行った。さらに、非特許文献3に記載の方法に準じて、ホンモロコから精巣を採取して細胞を解離させた後、フィーダー細胞上に播種し、培養した。
【0041】
実施例4 ホンモロコ細胞株を用いたバイオセンサー
2個のアンドロゲン応答エレメント(ARE)がタンデムに連結された配列をEF-1αプロモーターの下流に挿入し、さらにその下流にGFP遺伝子をCDS及びSV40 polyAシグナルを連結した発現カセットを含むレトロウイルスベクターをRMT1細胞に感染させ、アンドロゲン応答性にGFP遺伝子を発現するレポーター細胞を作製する。上記の維持培養用培地に、各1 μMのプロピオン酸テストステロン、メチルテストステロン、DHT(5α-ジヒドロテストステロン)を添加し、前記レポーターRMT1細胞をこれらの培地中で24時間培養した後、細胞を回収し、常法によりGFP蛍光を測定する。
【0042】
実施例5 ホンモロコ細胞株の樹立効率に及ぼす生殖巣採取時期の影響
繁殖期及び非繁殖期のホンモロコから、常法に従って卵巣及び精巣をそれぞれ単離し、実施例1と同様の方法(但し、培地は最初から10 μM フォルスコリン及び10%(v/v) FBSを添加した培地を使用した)で継代培養を実施した。その結果、非繁殖期の生殖巣由来の細胞を出発材料とした場合、初期の体細胞の接着数及び増殖速度が繁殖期の生殖巣由来の細胞を用いた場合よりはるかに高く、3日で継代ができる程増殖が盛んであった。このような状態が精巣由来細胞では5継代、卵巣由来細胞では3継代まで持続した。一方、繁殖期の生殖巣由来の細胞を用いた場合、精巣及び卵巣細胞とも、特に精巣由来細胞では体細胞の接着数が少なく、そのため増殖も遅い状態が観察された。
【0043】
実施例6 ホンモロコ細胞株を用いたバイオセンサー(2)
実施例5において、繁殖期のホンモロコの精巣由来の体細胞をさらに継代培養し、細胞株RMT2を樹立した。RT-PCR解析の結果、該細胞株はRMT1株と同様、Sox9a及びWT1aのセルトリ細胞マーカー、アンドロゲン受容体及びエストロゲン受容体のホルモン受容体、顆粒膜細胞マーカーFox12を発現していた(図3)。従って、本発明の培養方法を用いれば、繁殖期、非繁殖期を問わず、精巣から体細胞株を再現性よく樹立できることが示された。 次に、RMT2株の細胞に、アンドロゲン応答性のマウス乳癌ウイルス末端反復配列(MMTV LTR)の下流にホタルルシフェラーゼ(Luc2P)遺伝子を繋いだレポータープラスミドpGL4.36(Promega)を、常法に従ってトランスフェクトし、レポーター細胞を作製した。このレポーター細胞に種々の濃度の11-ケトテストステロンを添加し、ルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、ルシフェラーゼ活性はアンドロゲン濃度依存的に増大した(図4)。即ち、本発明の精巣由来体細胞株を用いることにより、被検物質のアンドロゲン様もしくは抗アンドロゲン作用の評価が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のモロコ生殖巣由来体細胞株は、生殖細胞の培養系の確立及び生殖細胞株樹立のための支持細胞として有用である。また、本発明のモロコ細胞株は、化学物質のアンドロゲン様/抗アンドロゲン作用及びエストロゲン様/抗エストロゲン作用を評価するためのバイオセンサーとしても有用である。さらには、本発明のモロコ細胞株は、iPS細胞の樹立のための体細胞ソースとして利用可能である。したがって、当該細胞株は、琵琶湖固有種であるホンモロコなどのモロコ類の種の保存・増殖を図り、琵琶湖及びその周辺地域の産業を保護するとともに、琵琶湖の水質管理をはじめとする自然環境保全にも大いに寄与し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モロコ生殖巣由来の体細胞株。
【請求項2】
モロコがタモロコ属に属する、請求項1記載の細胞株。
【請求項3】
モロコがホンモロコである、請求項1記載の細胞株。
【請求項4】
以下の(a)〜(c)の性質が14継代以上維持される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞株。
(a)増殖速度の低下がみられない
(b)Sox9a及びWT1aを発現する
(c)アンドロゲン受容体及びエストロゲン受容体-1を発現する
【請求項5】
さらに以下の(d)の性質が14継代以上維持される、請求項4記載の細胞株。
(d)Foxl2を発現する
【請求項6】
さらに、以下の(e)又は(f)の性質が14継代以上維持される、請求項5記載の細胞株。
(e)Sox9a及びWT1以外のセルトリ細胞マーカー及び/又はFoxl2以外の顆粒膜細胞マーカーを発現する
(f)線維芽細胞増殖因子の添加により線維芽細胞様の形態を示す
【請求項7】
モロコ生殖巣から採取した細胞を、フォルスコリンを含有する培地中で継代培養することを特徴とする、体細胞株の製造方法。
【請求項8】
培地が5-20%の血清を含有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
細胞が非繁殖期のモロコ生殖巣から採取したものである、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞株を支持細胞として、魚類の生殖巣から採取した細胞又は受精卵を培養することを特徴とする、魚類生殖細胞の培養方法。
【請求項11】
生殖細胞を株化することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
魚類がコイ科に属する、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
魚類がモロコである、請求項10又は11記載の方法。
【請求項14】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の細胞株の細胞に被検物質を接触させ、アンドロゲン及び/又はエストロゲン応答遺伝子の発現変動を測定することを特徴とする、被検物質のアンドロゲン様もしくは抗アンドロゲン作用及び/又はエストロゲン様もしくは抗エストロゲン作用の評価方法。
【請求項15】
アンドロゲン及び/又はエストロゲン応答遺伝子が、前記細胞に導入された、アンドロゲン応答エレメントを含むプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子及び/又はエストロゲン応答エレメントを含むプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子である、請
求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−13405(P2013−13405A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−131027(P2012−131027)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】