説明

モロヘイヤ抽出物を有効成分とする血管病治療予防剤、及びこれを含有する飲食品

【課題】継続的に摂取しても安全面での問題が小さい、食品素材を含有する血管病治療予防剤、ならびにこれを含有する組成物、飲食品、および医薬品を提供する。
【解決手段】モロヘイヤ抽出物を有効成分とする血管病治療予防剤である。また、前記血管病治療予防剤を含有する組成物、飲食品、および医薬品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モロヘイヤ抽出物を有効成分とする血管病治療予防剤、及びこれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などの血管病は日本人の生命予後や機能予後を著しく低下させる要因の一つである。血管病の成因として動脈硬化の関与が知られている。また、血管病を含む心血管疾患による死亡率は、癌と並んで増加している。そこで、血管病の発症前の早期に動脈硬化の進展度を評価することができれば、血管病発症の予防のみならず、健康に対する国民の意識向上に大いに役立つ。
【0003】
近年、動脈硬化は血管壁の炎症として理解されてきている。高血圧による動脈硬化の進展において、血管の炎症は重要な役割を果たしている。血管壁における炎症の指標としては高感度CRP(high-sensitive C-reactive protein;hsCRP)があり、血管病の危険因子として認められている(非特許文献1)。
【0004】
また、血管への抗炎症作用が想定される薬剤として、高脂血症治療薬(スタチン、フィブラート系薬剤、エイコサペンタンエン酸)、糖尿病治療薬(チアゾリジン誘導体)、抗血小板薬や、高血圧治療薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬、カルシウム拮抗薬)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤浩子、外9名、「健康な地域住民における脈波速度と炎症マーカーの関連性について」、Kitakanto Med J、2006年、第56巻、p.201−206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、日常生活において口にしないような成分からなる薬剤を継続的に摂取することは、副作用や健康被害などの安全面に問題がある。一方で、血管への抗炎症作用を有する薬剤として、普段から飲食する食品素材を用いた効果の検証が十分にされているとはいえない。
【0007】
そこで、本発明は、継続的に摂取しても安全面での問題が小さい、食品素材を含有する血管病治療予防剤、及びこれを含有する飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、モロヘイヤ抽出物が血管への優れた抗炎症作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、モロヘイヤ抽出物を有効成分とする血管病治療予防剤に係る。また、本発明は、前記血管病治療予防剤を含有する組成物及び飲食品にも係る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、継続的に摂取しても安全面での問題が小さい、モロヘイヤ抽出物を有効成分とする血管病治療予防剤、及びこれを含有する飲食品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
[血管病治療予防剤]
本発明の一実施形態は、モロヘイヤ抽出物を有効成分とする血管病治療予防剤である。後に詳細に説明するが、モロヘイヤ抽出物の投与(摂取)によって、高感度CRPが有意に低下し、血管病治療予防という所望の効果が発揮されるということが予想される。ここで、前記「高感度CRP」とは、通常のCRP(C-reactive protein)と比較して、測定感度が10倍ほど高められたファクターを意味し、ごく小規模の血管内炎症においてもその変化を検出できるという特長がある。
【0013】
本実施形態に係る血管病治療予防剤は、動脈硬化が関与する血管病を予防又は改善する効果を発揮する。そして、血管病の予防又は改善は、心筋梗塞、狭心症や脳梗塞などの発生の低減や治療に繋がる。技術的原理としては、上述のように、モロヘイヤ抽出物が、血管病の危険因子である高感度CRPの上昇を抑制する機能を担う。また、前記高感度CRPが血管壁における炎症の指標となることから、上記の血管病治療予防剤は、各種の血管内炎症の中でも、特に血管壁の炎症を予防又は改善することができる。
【0014】
モロヘイヤとは、シナノキ科の一年生の草本であり、学名はCorchorus olitorius L.である。エジプトを中心とした地中海地方を原産地とする黄麻の一種であり、その栄養価の高さから、近年特に注目されてきた食品素材の一つである。モロヘイヤは、細かく刻んだり茹でたりすると、オクラやヤマイモの様に独特のヌメリを生じ、このヌメリは植物ゴム(Plant gum)及び粘質多糖(ムコ多糖)を含んでいる。また栄養学的にはビタミン類やミネラル類が豊富で、特に総カロチン及びカルシウム含量が多い等の特徴を有する。カロチンはブロッコリーの約12倍、ビタミンB1はトマトの約3倍、ビタミンB2はピーマンの約14倍、カルシウムは牛乳の約2.4倍、食物繊維はレタスの約20倍と言われている。そのため、最近、我が国でも栽培され、生葉と並んで食品素材として注目を集めつつある。現在のところ、モロヘイヤに関しては、モロヘイヤ抽出物(モロヘイヤエキス)及びこれを乾燥粉末化したモロヘイヤ粉末、並びにこれらを含有する食品及び組成物が存在する。
【0015】
このように、モロヘイヤは、栄養価の高い食品素材である。しかし、本発明者らは、それだけでなく、モロヘイヤ抽出物を有効成分とする血管病治療予防剤が、血管への優れた抗炎症作用を有し、安全に長期に亘り服用でき、既存の抗炎症剤に比して経済的負担がより少なくなり、臭いがより少ないため薬臭いということがなく比較的飲用し易いことを見出した。
【0016】
本実施形態におけるモロヘイヤ抽出物は、様々な方法により得られるものであり、以下に制限されることはないが、例えば、モロヘイヤを水又は温水で抽出することにより得られるモロヘイヤ抽出液、モロヘイヤ粉末を水(温水を含む)に溶解又は混合させて得られるモロヘイヤ粉末の溶液、モロヘイヤピューレの溶液、アルコール抽出液、酵素処理による抽出液、及び酸処理による抽出液が挙げられる。
【0017】
上記で列挙したものの中でも、安全面の確保及び抽出効率の向上という観点から、酵素処理による抽出が好ましい。酵素処理して得られるモロヘイヤ抽出物は、モロヘイヤを液中で酵素処理することにより得られる。なお、以下では、前記モロヘイヤ抽出物が得られる前段階の状態を、「処理前モロヘイヤ抽出物」と称する場合もある。
【0018】
上記モロヘイヤ抽出物としては、酵素処理を行う場合、処理前モロヘイヤ抽出物を酵素処理して得られるモロヘイヤ酵素処理液であってもよく、モロヘイヤ酵素処理液の希釈液であってもよく、モロヘイヤ酵素処理液を乾燥させて得られる固形物であってもよい。
【0019】
上記の酵素処理に用いられる酵素としては、血管への抗炎症作用を有する成分をより多く抽出できる観点より、プロテアーゼが好ましい。
【0020】
プロテアーゼとは、ペプチド結合の加水分解反応に対して触媒作用をするタンパク質分解酵素である。プロテアーゼとしては、以下に制限されないが、例えば、エンドペプチダーゼ又はエンドペプチダーゼを主体とする複合酵素が挙げられる。中でも、Bacillus属の産生するプロテアーゼが好ましく、Bacillus subtilis又はBacillus thermoproteolyticusの産生するプロテアーゼがより好ましい。プロテアーゼとしては、1種のプロテアーゼを使用してもよく、2種以上のプロテアーゼを組み合わせて使用してもよい。
【0021】
処理前モロヘイヤ抽出物を酵素処理する方法は、従来公知の方法に従って行うことができ、特に制限されることはない。例えば、以下の方法が挙げられる。
【0022】
処理前モロヘイヤ抽出物を95℃以上の温度で加熱殺菌処理した後、適当な温度まで冷却する。そして、ウォーターバス中で液温を保ったまま、少量の水に溶解したプロテアーゼを適量添加する。プロテアーゼの添加後、例えば、10分毎に撹拌を行いながら、酵素処理を行う。その後、加熱により酵素を失活させ、ろ過など任意の方法で固液分離を行い、抽出液を回収することにより、モロヘイヤ抽出物を得ることができる。
【0023】
プロテアーゼ処理の際の処理温度、処理時間、酵素濃度やpH等の処理条件は、使用するプロテアーゼが最適に作用するように調整すればよく、特に制限されない。
【0024】
プロテアーゼ処理の際の処理温度は、好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜65℃である。プロテアーゼ処理の際の処理時間は、上記の好適な温度範囲において、好ましくは15分〜2時間、より好ましくは45〜90分である。プロテアーゼ処理の際の酵素濃度は、モロヘイヤの乾燥重量に対して、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%である。そして、プロテアーゼ処理の際のpHは、好ましくは5.0〜8.5、より好ましくは5.5〜7.0である。
【0025】
ここで、例えば、Bacillus subtilisの産生するプロテアーゼを使用する場合には、処理温度55〜60℃、処理時間1〜2時間、処理濃度はモロヘイヤの乾燥重量に対して0.1〜1.0重量%、及びpH6.0〜7.0で酵素処理することが好ましい。また、Bacillus thermoproteolyticusの産生するプロテアーゼを使用する場合には、処理温度60〜70℃、処理時間1〜2時間、処理濃度はモロヘイヤの乾燥重量に対して0.1〜1.0重量%、及びpH6.0〜7.0で酵素処理することが好ましい。
【0026】
酵素(プロテアーゼ)の失活方法は、以下に制限されないが、例えば、95℃以上沸騰温度以下で、5〜10分間保持することにより失活させる方法が挙げられる。
【0027】
固液分離の方法は、特に制限されないが、目開き100μm〜1mmの篩いでろ過後、ろ紙を用いて吸引ろ過する方法が挙げられる。例えば、目開き850μmの篩いでろ過後、例えば、No.2のろ紙を用いて吸引ろ過する方法などが挙げられる。
【0028】
モロヘイヤ抽出物は、モロヘイヤの種子を除く地上部部分の葉、茎、花、及び皮等の植物体から抽出することにより得られる。モロヘイヤ抽出物を得るために供されるモロヘイヤの部位としては、抽出効率の観点より、硬い茎の部分を除去した葉の部分であることが好ましい。
【0029】
モロヘイヤ抽出物としては、生の植物体から直接抽出した抽出物であってもよく、一度乾燥させた植物体から抽出された抽出物であってもよい。また、ピューレ状のモロヘイヤ抽出物であってもよい。
【0030】
ここで、本実施形態における「モロヘイヤ抽出物」は、抽出物自体又はその酵素処理物と、これらを適当な濃度まで減圧濃縮した濃縮物とを含む。中でも、保存安定性の観点から、前記モロヘイヤ抽出物は濃縮物であることが好ましい。
【0031】
モロヘイヤ抽出物を得る方法としては、特に制限されることはなく、例えば、上述したような抽出方法により得ることができる。
【0032】
モロヘイヤ抽出物には、モロヘイヤ葉などの固形分が含まれていてもよく、モロヘイヤ葉などの固形分をろ過によって除去した後の溶液であってもよい。好ましくは、ろ過後に固液分離することによりモロヘイヤ葉などを除去して得られるモロヘイヤ抽出液である。
【0033】
モロヘイヤ抽出液は、例えば、モロヘイヤの葉を水(温水を含む)に浸漬させて抽出することにより得ることができる。具体的には、硬い茎の部分を除去したモロヘイヤ葉に水(温水を含む)を加えた後、スチームで加熱し、これを破砕処理する。次に、破砕処理したモロヘイヤ葉を熱風乾燥することによって得られたモロヘイヤの乾燥葉に、好ましくは乾燥葉質量の10〜40倍、より好ましくは乾燥葉質量の20〜30倍の質量の熱水を加えて抽出することにより得ることができる。
【0034】
また、モロヘイヤ抽出液は、モロヘイヤピューレに水(温水を含む)を加えて抽出することによっても得ることができる。
【0035】
モロヘイヤ粉末としては、市販のモロヘイヤエキス粉末であってもよく、モロヘイヤ乾燥葉を粉末化したものであってもよい。
【0036】
本実施形態において、上記血管病治療予防剤は、さらに、モロヘイヤ抽出物を固定担体として合成吸着剤を充填されたカラムに通液し、前記合成吸着剤に吸着された成分を溶媒で溶出することによって得られる画分を含むことが好ましい。また、モロヘイヤの抽出成分として、実質的に前記画分のみからなることがより好ましい。
【0037】
ここで、上記血管病治療予防剤に含まれるモロヘイヤ抽出物は、酵素処理を行う場合、酵素処理、及びカラムを用いた分画処理をいずれの順序で行ってもよい。
【0038】
また、モロヘイヤ合成吸着画分を含むモロヘイヤ合成吸着画分組成物(以下、「吸着画分組成物」ともいう)は、モロヘイヤ抽出物を酵素処理した後、合成吸着剤で吸着処理し、その吸着画分を溶出溶媒により溶出処理することによって得ることができる。本実施形態のモロヘイヤ合成吸着画分組成物は、モロヘイヤ抽出物を合成吸着剤で吸着処理してから、酵素処理を行ったものであってもよい。
【0039】
合成吸着剤による処理方法は、従来公知の方法に従って行うことができ、特に制限されることはない。例えば、以下の方法が挙げられる。
【0040】
モロヘイヤ抽出物を合成吸着剤で吸着処理し、合成吸着剤へ水を通液して水押しする。その後、例えば、60体積%エタノールを通液して回収することにより、目的とするモロヘイヤの吸着画分(又はモロヘイヤの吸着画分組成物)を得ることができる。
【0041】
本実施形態において、酵素処理を行う場合であって、酵素処理前に合成吸着剤による処理を行う場合には、まず、上記の方法と同様に、処理前モロヘイヤ抽出物(液)を用いて合成吸着剤による処理を行う。次に、得られた吸着画分を用いて酵素処理を行うことにより、目的とするモロヘイヤの吸着画分(又はモロヘイヤの吸着画分組成物)を得ることができる。
【0042】
合成吸着剤による処理は、バッチ法、カラム法のいずれで行ってもよいが、好ましくは、比較的少量の合成吸着剤により効率良く処理できるカラム法である。合成吸着剤による処理を行う場合には、少なくとも一回行えばよい。
【0043】
合成吸着剤としては、水溶性低分子物質を吸着するのに適した多孔性の吸着剤であることが好ましい。合成吸着剤の比表面積は、好ましくは100〜1,200m/g、より好ましくは250〜900m/gである。合成吸着剤の細孔容積、粒度分布、及び最頻度半径は、それぞれ0.9〜1.6mL/gであり、250μm以上が90%以上であり、及び30〜260Åであることが好ましい。
【0044】
合成吸着剤としては、例えば、親水性合成吸着剤及び疎水性合成吸着剤が挙げられ、疎水性合成吸着剤が好ましい。
【0045】
親水性合成吸着剤の樹脂母体としては、以下に制限されないが、例えば、スチレン系マクロポーラス、シリカ及びメタクリル酸エステル重合体などが挙げられる。親水性合成吸着剤としては、以下に制限されないが、具体的には、ダイヤイオン(登録商標;三菱化学株式会社)、Muromac(登録商標;ムロマチテクノス株式会社)等が挙げられる。
【0046】
疎水性合成吸着剤の樹脂母体としては、以下に制限されないが、例えば、スチレン重合体、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−アクリル酸アミドの共重合体、フェノール樹脂などが挙げられる。疎水性合成吸着剤としては、以下に制限されないが、例えば、スチレン等の芳香族系の樹脂母体に臭素などの極性基を化学的に修飾結合させてなる多孔性修飾ポリスチレン系合成吸着剤が挙げられる。具体的には、セパビーズ(登録商標;三菱化学株式会社)等が挙げられ、中でも、好ましくはセパビーズSP70、SP700、SP850及びSP207であり、より好ましくはSP207(比表面積590m/g、細孔容積1.1mL/g、粒度分布250μm以上が90%以上、及び最頻度半径120Å)が挙げられる。
【0047】
合成吸着剤は、吸着処理に先立って予め前処理しておいてもよい。かかる前処理としては、以下に制限されないが、例えば、合成吸着剤をメタノール又はエタノール等の溶媒で洗浄して不純物を除去した後、さらに水で洗浄してメタノール又はエタノールなどの溶媒を除去することにより行うことができる。また、合成吸着剤の洗浄は、エタノールを用いることが好ましい。
【0048】
合成吸着剤とモロヘイヤ抽出液との割合は、使用する吸着剤の種類などに応じて、適宜選択すればよい。
【0049】
溶出処理に用いる溶媒は、使用する合成吸着剤に適した溶出用溶媒を適宜選定することができる。以下に制限されないが、例えば、水、メタノール及びエタノール、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0050】
例えば、芳香族系の合成吸着剤を用いた場合には、溶出用溶媒として、多量の水(温水を含む)を用いてもよく、溶出効率を上げるという観点から、好ましくは50〜70体積%、より好ましくは55〜65体積%のエタノール(水で希釈)を用いてもよい。
【0051】
より具体的には、処理前モロヘイヤ抽出物又はモロヘイヤ抽出液(好ましくは酵素処理済のモロヘイヤ抽出液)を、合成吸着剤充填カラムに通液後、カラム排出液がBrix(測定値)1%以下、好ましくは0.5%以下となるように純水などで洗浄し、適当な濃度の溶出用溶媒(上記のエタノール等)で溶出することにより、吸着画分を回収すればよい。
【0052】
吸着画分の回収は、例えば、溶出用溶媒が60体積%エタノール溶液であれば、合成吸着剤としての樹脂容量の1〜10倍量、より好ましくは1〜5倍量、さらに好ましくは1〜2.5倍量を通液する。上記範囲内の場合、効率良く吸着物を回収できる。また、溶出用溶媒として水を用いる場合、純水により樹脂中に残存するモロヘイヤ抽出物を洗浄後、樹脂容量の3倍量以上を通液することにより、高い効率で吸着物を回収することができる。
【0053】
合成吸着剤による処理においては、必要に応じて、ろ過操作を行ってもよい。以下に制限されないが、例えば、目開き850μmの篩いでろ過後、例えば、No.2のろ紙を用いて吸引ろ過を行うことができる。
【0054】
合成吸着剤による処理によって得られたモロヘイヤ抽出物の吸着画分(又は吸着画分組成物)をさらに精製してもよい。以下に制限されないが、例えば、陽イオン交換カラムクロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィーが挙げられる。
【0055】
合成吸着剤による処理によって回収された吸着画分は、適当な濃度まで減圧濃縮してもよいし、又は凍結乾燥して粉末としてもよい。
【0056】
また、本実施形態に係る血管病治療予防剤は、継続的に投与することによって、一層優れた効能を発揮し得る。用途に応じて適宜調整することができる。モロヘイヤ抽出物の摂取量は、用途に応じて適宜調整することができるが、乾燥物換算で、好ましくは1回10mg〜2000mgであり、より好ましくは1回50mg〜1000mg、さらに好ましくは1回100mg〜500mgである。
摂取回数は、特に限定されないが、好ましくは1日1〜3回であり、必要に応じて摂取回数を増減してもよい。
【0057】
本実施形態におけるモロヘイヤ抽出物は、味・臭いに特異な厭味が少ないことから液状又は固形形態で経口投与により摂取することが可能であり、それ自体または適宜製剤上の都合で賦形剤などと混合して粉末、顆粒、錠剤やカプセル剤などの形態で投与することができる。
【0058】
本実施形態に係る血管病治療予防剤は、血管病の予防若しくは改善用の組成物として、あるいは飲食品又は医薬品として用いることができる。
【0059】
[飲食品]
本発明の他の実施形態は、上記の血管病治療予防剤を含有する飲食品に係る。
本実施形態において、モロヘイヤ抽出物は、溶液状物として得られた場合には、そのまま飲料として、又は他の果汁、野菜ジュース及びミックスジュースに配合して利用することができる。モロヘイヤ抽出物は、適当な濃度まで減圧濃縮することによって濃厚な液状組成物とすることも可能である。
【0060】
モロヘイヤ抽出物は、溶液状物を乾燥したものであってもよく、乾燥物とすることにより保存安定性に優れる。乾燥物は、そのまま飲食品として、又は他の果汁、野菜ジュース及びミックスジュースに配合して利用することができる。
【0061】
上記血管病治療予防剤は、飲食品として、特定保健用食品、栄養機能性食品、健康食品、機能性食品や健康補助食品などとして利用できるだけでなく、清涼飲料水や食品の配合剤として利用することもできる。
【0062】
飲食品は、動脈硬化、心筋梗塞、狭心症や脳梗塞などの予防又は治療の効果を有する旨の表示を付した飲食品であってもよい。
【0063】
前記飲食品として好ましい形態は、飴、ゼリー、錠菓、飲料、スープ、麺、煎餅、和菓子、冷菓、焼き菓子等の食品や飲料である。より好ましくは、果汁飲料、野菜ジュース、果物野菜ジュース、茶飲料、コーヒー飲料又はスポーツドリンクといった容器詰飲料である。
【0064】
モロヘイヤ抽出物を飲料に含有させる場合は、500mL当たり、乾燥物換算で、好ましくは50〜2,500mg、より好ましくは100〜800mgである。また、上記した投与量を達成できるように、飲食品として、他の添加物と適宜混合した製剤とすることができる。
【0065】
[医薬品]
本発明のさらに他の実施形態は、上記の血管病治療予防剤を含有する医薬品に係る。
本実施形態におけるモロヘイヤ抽出物は、医薬品として、薬学的に許容可能な賦形剤を添加して、医薬製剤として用いることができる。
【0066】
医薬製剤としては、粉末、顆粒や錠剤などの公知の剤型に製剤化して用いることができ、液体やペースト等の液剤として用いることもできる。
【0067】
医薬製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、チュアブル、トローチ等の経口剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、貼付剤などの外用剤、注射剤、舌下剤、吸入剤、点眼剤、坐剤などの剤形として用いることができる。医薬製剤の剤形として、好ましくは錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤及び注射剤である。
【0068】
医薬製剤は、動物、中でも哺乳類に対し有用であり、動物、中でも哺乳類に投与することができる。
【0069】
哺乳類としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマなどが挙げられ、ヒトであることが好ましい。
【0070】
前記モロヘイヤ抽出物の投与量は、個々の薬剤の活性、患者の症状、年齢、体重などの種々の条件により適宜調整することができる。以下に制限されないが、例えば、1回当たり、乾燥物換算で、好ましくは10〜2000mg、より好ましくは50〜1,000mg、さらに好ましくは100〜500mgである。
【0071】
投与期間や1日当たりの投与回数については、上記の飲食品の項における説明がそのまま本項に引用される。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0073】
[製造例1(モロヘイヤ抽出物あり;被験食)]
<モロヘイヤ抽出物の調製>
純水に湿潤状態の合成吸着剤SP207(三菱化学社製)80ccをガラスカラムへ充填し、十分な純水を通液してSP207充填カラムとした。
【0074】
硬い茎を除去したモロヘイヤ葉をスチーム加熱後、破砕し、熱風乾燥を行い、モロヘイヤ乾燥葉を得た。このモロヘイヤ乾燥葉50gに20倍重量の60℃前後の蒸留水熱水を加水し、95℃以上に加熱して殺菌処理を施した後60℃まで冷却し、ウォーターバス中で液温60℃に保ち、原料のモロヘイヤ乾燥葉に対して0.7重量%のプロテアーゼNアマノG(株式会社天野エンザイム社製)を少量の水に溶解して添加した。その後、液温60℃に保ったまま10分毎に撹拌を行った。酵素添加から1時間経過後、96℃達温で5分間保持し、目開き850μmの篩いでろ過後、次にNo.2のろ紙を使用し吸引ろ過を行い、酵素処理済のモロヘイヤ抽出液を得た。
【0075】
得られた酵素処理済のモロヘイヤ抽出液300mL(Brix1.2、pH6.0)を前記ガラスカラムへSV=4の速度で通液後、10bed容量の純水にて十分にモロヘイヤ抽出液を洗い出した。酵素処理済のモロヘイヤ抽出液の通液開始直後からカラム排出液を回収し、素通り画分とした。次に、60体積%に調整したエタノールを5bed容量通液し、通液開始から1/2bed容量のカラム排出液を廃棄した後、カラム排出液の回収を開始しエタノール通液終了まで回収した。これを吸着画分とした。素通り画分、吸着画分をそれぞれ減圧濃縮した後、凍結乾燥して、粉末状の素通り画分エキス(Be1)2.1gおよび吸着画分エキス(Be2)0.8gを得た。このようにして得られたモロヘイヤ抽出物を以下、「モロヘイヤエキスMP」ともいう。なお、「bed」とは、吸着剤の充填容積(かさ)を示す。
【0076】
<飲料の調製>
りんご、ぶどう、オレンジ、レモン、ホウレンソウ、ニンジン、モロヘイヤ、セロリ、アスパラ、インゲン、グリーンピース、色素及び香料を含有する野菜果汁ミックス飲料(野菜30%果汁70%含有、pH3.8、Brix8.8°)中にモロヘイヤエキスMPを1本200mL当たり約300mg含む飲料を調製し、被験食とした。
【0077】
[製造例2(モロヘイヤ抽出物なし;対照食)]
りんご、ぶどう、オレンジ、レモン、ホウレンソウ、ニンジン、モロヘイヤ、セロリ、アスパラ、インゲン、グリーンピース、色素及び香料を含有する野菜果汁ミックス飲料(野菜30%果汁70%含有、pH3.8、Brix8.8°)であって、1本200mLとする飲料を調製した(野菜30%果汁70%含有、pH3.7、Brix8.8°)。
【0078】
[実施例1]
<被験者>
WHO/ISHの血圧の定義・分類(1999)の軽症高血圧(収縮期血圧140mmHg以上、159mmHg以下、または拡張期血圧90mmHg以上99mmHg以下)に該当する高血圧症未治療の者15名を対象とした。なお、かかる15名の年齢構成は、44歳(1人)、46歳(1人)、47歳(2人)、49歳(1人)、51歳(1人)、54歳(1人)、55歳(1人)、56歳(1人)、57歳(1人)、58歳(3人)、59歳(1人)、65歳(1人)である。
【0079】
<試験食>
【0080】
200ml当たりモロヘイヤエキスMPが300mg配合されたモロヘイヤエキス配合飲料(以下、「被験食」という)と、モロヘイヤ抽出物を含まない対照食(以下、「プラセボ」という)を用いた。
【0081】
<摂取方法>
試験は二重盲検法を採用し、2群のクロスオーバー比較試験とした。
試験は、第一試験区2週間、続いてwash out期2週間、続いて第二試験区2週間の合計6週間とした。試験食をテトラパック入り飲料として1日1本(200g)を朝食時に摂取させた。
【0082】
<検査方法>
被験者は、検査前日の夕食後10時間以上絶食させた上で、午前9時から11時半までの間に実施した。
【0083】
血液検査は、第一試験区の摂取開始前日、第一試験区摂取2週間後、第二試験区の摂取開始前日、第二試験区摂取2週間後の計4回実施した。検査項目は高感度CRP、レニン活性及びアンジオテンシンIIとした。
【0084】
また、血圧と脈拍数の測定は、第一試験区の摂取開始前日、第一試験区摂取2週間後、第二試験区の摂取開始前日、第二試験区摂取2週間後の計4回実施した。
【0085】
<検査結果>
(血液検査)
血液検査の結果を下記表1に示す。
【表1】

【0086】
ここで、表1中、各値は平均値±標準偏差を示し、「*」は、摂取前との比較でP<0.05(対応のあるt検定)であることを示す。
【0087】
高感度CRPは被験食摂取群では、摂取2週間後に統計学的に有意な減少が確認された。一方、プラセボ群では、統計学的に有意な増加が確認された。レニン活性は両群で統計学的に有意な変動を示さなかった。アンジオテンシンIIは両群で減少傾向を示した。
【0088】
(血圧)
下記表2に、軽症高血圧者の変動として、検査結果を纏めて示す。表2は血圧測定結果である。
【表2】

【0089】
ここで、表2中、各値は平均値±標準偏差を示し、「*」は、摂取前との比較でP<0.05(対応のあるt検定)であることを示す。
【0090】
被験食摂取群では、摂取2週間後に統計学的に有意な血圧降下作用が確認された。一方、プラセボ摂取群では、統計学的に有意な血圧降下作用は確認されなかった。
【0091】
以上の結果から、モロヘイヤ抽出物含有飲料が高感度CRPの低下作用を顕著に示すことを見出した。また、付随的に、モロヘイヤ抽出物含有飲料が血圧を低下させる作用も有することを確認した。
【0092】
また、上記の結果より、モロヘイヤ抽出物の投与(摂取)によって、高感度CRPが有意に低下することを確認した。そして、本発明に係る血管病治療予防剤(モロヘイヤ抽出物を有効成分とする)の作用に起因して、血管に対するストレスが減弱され、結果的に血管に対するストレスに起因した動脈硬化(血管内炎症)が改善(又は予防)されるというメカニズムが予想される。
【0093】
上述したように、動脈硬化は血管壁の炎症として一般に理解されている。そして、血管壁における炎症の指標として高感度CRPがあり、血管病の独立した危険因子として認められている。より具体的に説明すると、血糖や血圧が高いという状態から、動脈硬化進展までにはかなりのタイムラグがあると考えられる。したがって、動脈硬化の進展初期を捉えることのできるマーカーが求められる。そこで、高感度CRPが経時的に起こる血管内の炎症反応を捉えることのできる点に鑑みると、高感度CRPの上昇は動脈硬化進展を示唆していることが考えられる。このように、冠動脈疾患マーカーとして、動脈硬化の兆候が現れる前から十分に測定可能であって且つ再現性のある、極めて有効な動脈硬化の指標となれる点で、本発明に係る血管病治療予防剤は非常に優れている。
【0094】
以上の結果より、本発明者らは、本発明に係る血管病治療予防剤が、心筋梗塞や糖尿病などの血管炎症性疾患及び動脈硬化性疾患に対し、有効に作用することができることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明におけるモロヘイヤ抽出物は、高感度CRPの低下作用を有する。そして、前記モロヘイヤ抽出物は、飲食品用の血管病治療予防剤として産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モロヘイヤ抽出物を有効成分とする、血管病治療予防剤。
【請求項2】
前記モロヘイヤ抽出物は、酵素処理により得られる、請求項1に記載の血管病治療予防剤。
【請求項3】
前記モロヘイヤ抽出物は濃縮物である、請求項1又は2に記載の血管病治療予防剤。
【請求項4】
血管壁の炎症を予防又は改善する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血管病治療予防剤。
【請求項5】
前記モロヘイヤ抽出物を、固定担体として合成吸着剤を充填されたカラムに通液し、前記合成吸着剤に吸着された成分を溶媒で溶出することによって得られる画分を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血管病治療予防剤。
【請求項6】
1日当たりの投与量が10〜6,000mgとなるように、継続的に投与する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血管病治療予防剤。
【請求項7】
前記酵素処理に用いられる酵素は、プロテアーゼである、請求項2〜6のいずれか1項に記載の血管病治療予防剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の血管病治療予防剤を含有する、組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の血管病治療予防剤を含有する、飲食品。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の血管病治療予防剤を含有する、医薬品。

【公開番号】特開2010−270069(P2010−270069A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123788(P2009−123788)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】