説明

モータの温度推定装置並びにこれを備えた発電システム及びモータの温度推定方法

【課題】永久磁石の温度を推定するために事前に必要な情報量を低減することができるモータの温度推定装置及びモータの温度推定方法を提供すること。
【解決手段】永久磁石11gの磁束密度を特定するための磁束密度特定手段と、永久磁石11gの温度が既知である条件下において磁束密度特定手段により特定された基準磁束密度を記憶する記憶部26と、磁束密度特定手段により特定された特定磁束密度と、前記既知の温度と、前記基準磁束密度とに基づいて、前記特定磁束密度の特定時における永久磁石の温度を推定する温度推定部27とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにおけるロータの温度を推定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ステータと、このステータに対して回転可能でかつ永久磁石が設けられたロータとを備えたモータが知られている。この種のモータでは、前記ロータの温度が所定の温度を超えると、不可逆的に永久磁石の磁束密度が低下する、いわゆる減磁と称される現象が生じる。そして、永久磁石の減磁が生じると、モータの性能は低下する。したがって、モータの性能を保持しつつモータを使用するためには、ロータの温度管理が必要である。
【0003】
例えば、特許文献1は、永久磁石の上端面に接するようにロータに設けられた磁化素子と、ステータに設けられたホール素子とを有するモータが開示されている。前記磁化素子は、その温度によって飽和磁束密度や透磁率が変化する特性を有する。前記ホール素子は、前記磁化素子の磁界の強さを検出する。そして、特許文献1に記載のモータでは、磁化素子の温度が永久磁石の温度に追従することにより変化する磁化素子の磁界の強さをホール素子により検出する。磁化素子の温度は、磁化素子温度と飽和磁束密度との関係を示す磁化素子の特性と、検出された磁界の強さとに基づいて特定され、特定された磁化素子の温度が永久磁石の温度であると推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−222387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載のモータでは、永久磁石の温度を推定するために事前に必要な情報量が多くなるという問題がある。
【0006】
具体的に、特許文献1に記載のモータでは、所定温度で磁界の強さが大幅に変化する特性を持つ磁化素子を採用することにより、永久磁石の温度が前記所定温度に近い温度であることを推定できる一方、前記所定温度から外れた温度範囲について永久磁石の温度を推定するためには、推定する必要のある温度範囲の全域にわたり磁化素子の温度と磁界の強さとの情報(例えば、特許文献1の図4のグラフ)を準備し、これを保持しておく必要がある。
【0007】
本発明の目的は、永久磁石の温度を推定するために事前に必要な情報量を低減することができるモータの温度推定装置及びモータの温度推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明者等は、温度変化後の永久磁石の温度が、温度変化後の磁束密度に対する温度変化前の磁束密度の比に比例する点に着目し、温度変化の前後のそれぞれにおける永久磁石の磁束密度と、変化前の温度とを用いることにより変化後の温度を推定する以下の発明に想到した。
【0009】
つまり、変化前の温度をT0、そのときの永久磁石の磁束密度をB0とし、変化後の温度をT1、そのときの永久磁石の磁束密度をB1とした場合、以下の式(1)の関係が成立する。
【0010】
T1=T0−1/m×(1−B1/B0)・・・(1)
ここで、mは、永久磁石の素材により規定される係数である。したがって、T0、B0及びB1を用いることにより、T1を算出し、このT1を永久磁石の温度として推定することができる。
【0011】
具体的に、本発明は、ステータと、このステータに対して回転可能でかつ永久磁石が設けられたロータとを有するモータについて前記永久磁石の温度を推定するための温度推定装置であって、前記永久磁石の磁束密度を特定するための磁束密度特定手段と、前記永久磁石の温度が既知である条件下において前記磁束密度特定手段により特定された基準磁束密度を記憶する記憶部と、前記磁束密度特定手段により特定された特定磁束密度と、前記既知の温度と、前記基準磁束密度とに基づいて、前記特定磁束密度の特定時における前記永久磁石の温度を推定する温度推定部とを備えている、温度推定装置を提供する。
【0012】
本発明によれば、上述のように、既知の温度と、基準磁束密度と、特定磁束密度とに基づいて永久磁石の温度を推定することができる。そのため、推定に必要な温度範囲の全域にわたる磁化素子の磁界の強さについての情報が必要である従来技術と比較して、事前に必要な情報量(既知の温度及び基準磁束密度)を低減することができる。
【0013】
具体的に、前記温度推定部は、前記特定磁束密度に対する前記基準磁束密度の比と、前記既知の温度とに基づいて前記永久磁石の温度を推定することができる。
【0014】
前記温度推定装置において、前記磁束密度特定手段は、前記ステータに設けられるとともに前記永久磁石の磁束密度の大きさに応じた大きさの起電力を生じさせることが可能な検出用コイルと、前記検出用コイルに印加された電圧を検出可能な電圧検出部と、前記電圧検出部により検出された電圧に基づいて前記永久磁石の磁束密度を算出する演算部とを備えていることが好ましい。
【0015】
この態様では、磁束密度特定手段が検出用コイルと電圧検出部と演算部とを有する。そのため、検出用コイルに印加された電圧に基づいて永久磁石の磁束密度を算出することができる。
【0016】
ここで、前記態様では、永久磁石の磁束密度の大きさに応じて変化する起電力(電圧)を検出するため、従来技術(特開2004−222387号公報)と比較して、永久磁石の温度変化に対する推定温度の変化の応答性(追従の速さ)を向上することができる。具体的に、前記従来技術では、永久磁石から熱を奪った磁化素子の磁界の強さを検出するため、永久磁石から磁化素子への熱伝達に要する時間が前記応答性を低下させる要因となる。これに対し、前記態様では、熱伝達を介さずに、永久磁石の磁束密度に応じて生じる起電力に基づいて温度を推定するため、前記応答性を向上することができる。さらに、前記従来技術では、磁化素子の温度が永久磁石ではなくその周囲の温度によって変動して、永久磁石の推定温度が不正確になるおそれもある。これに対し、前記態様では、永久磁石の磁束密度に対応する起電力に基づいて永久磁石の温度を推定するため、周囲の温度により受ける影響は小さく、永久磁石の温度をより正確に推定することが可能となる。
【0017】
前記温度推定装置において、前記電圧検出部は、前記検出用コイルに印加された電圧波形における波高値と、周波数とを検出し、前記演算部は、前記波高値と周波数とに基づいて前記永久磁石の磁束密度を算出することが好ましい。
【0018】
この態様では、電圧波形における波高値及び周波数に基づいて永久磁石の磁束密度を算出することができる。ここで、『波高値』は、実効値に代替することができ、『周波数』は、周期に代替することができる。
【0019】
前記温度推定装置において、前記電圧検出部は、前記波高値及び前記周波数を複数回検出し、前記演算部は、前記波高値の平均値又は最大値、及び周波数の平均値又は最大値をそれぞれ算出するとともに、これら平均値又は最大値を用いて永久磁石の磁束密度を算出することが好ましい。
【0020】
この態様では、波高値及び周波数の平均値又は最大値を用いて永久磁石の磁束密度が算出される。そのため、例えば、検出用コイルにインバータが電気的に接続されている場合に、インバータのインピーダンスの変化に伴う波高値及び周波数の誤差を緩和することができる。
【0021】
前記温度推定装置において、前記検出用コイルとの間で電力を受け渡し可能な受渡部材と、前記受渡部材と前記検出用コイルとを電気的に接続した接続状態と、前記受渡部材を前記検出用コイルから切離した切断状態との間で切換動作可能な切換部材とをさらに備え、前記電圧検出部は、前記切換部材が前記切断状態に切り換えられた状態で、前記検出用コイルに印加された電圧を検出することが好ましい。
【0022】
この態様では、切換部材により受渡部材が検出用コイルから切断された状態で検出用コイルに印加された電圧が検出される。そのため、受渡部材のインピーダンスの変化にかかわらず、検出用コイルに生じた電圧をより正確に検出することができる。
【0023】
前記温度推定装置において、前記ステータは、前記永久磁石の磁束密度の大きさに応じた大きさの起電力を生じさせることが可能なステータコイルを有し、前記ステータコイルとの間で電力を受け渡し可能な受渡部材をさらに備え、前記検出用コイルは、前記受渡部材に対して電気的に非接続であることが好ましい。
【0024】
この態様では、受渡部材に接続されたステータコイルとは独立して検出用コイルが設けられている。そのため、受渡部材のインピーダンスの変化にかかわらず、検出用コイルに生じた電圧をより正確に検出することができる。
【0025】
前記温度推定装置において、前記検出用コイルは、前記電圧検出部にのみ電気的に接続されていることが好ましい。
【0026】
この態様では、検出用コイルが電圧検出部以外に接続されていないため、より正確に検出用コイルに印加された電圧を検出することができる。
【0027】
前記温度推定装置において、前記永久磁石は、前記ロータの回転軸の軸線方向において前記ステータよりも突出する突出部を有し、前記検出用コイルは、前記ステータコイルから前記軸線方向に離間するとともに前記永久磁石の突出部に対向するように配置され、前記検出用コイルと前記ステータコイルとの間には、前記検出用コイルと前記ステータコイルとの間を磁気的に遮断するためのシールド部材が設けられていることが好ましい。
【0028】
この態様では、シールド部材により検出用コイルとステータコイルとが磁気的に遮断されている。そのため、ステータコイルに生じる磁場が検出用コイルに与える影響を小さくすることができ、これにより、検出用コイルに生じた電圧をより正確に検出することができる。
【0029】
前記温度推定装置において、前記ステータに設けられ、前記ステータの周囲の温度を検出する周囲温度検出部をさらに備え、前記記憶部は、前記周囲温度検出部により検出された温度を記憶することが好ましい。
【0030】
この態様では、ステータの周囲の温度を検出することができる。そのため、周囲の温度と永久磁石の温度とが略同等なる条件(例えば、初めてモータを始動させる場合、又は長期間停止の後の再始動時)に周囲の温度を検出することにより、この温度を前記既知の温度として用いることができる。
【0031】
前記温度推定装置において、前記磁束密度特定手段は、前記ステータに設けられるとともに前記永久磁石の磁束、磁界の強さ、磁束密度の少なくとも1つを検出可能な物理量検出部を含んでいることが好ましい。
【0032】
この態様では、永久磁石の磁束、磁界の強さ、磁束密度の少なくとも1つを検出可能である。そのため、検出結果に基づいて磁束密度を特定することができ、この磁束密度に基づいて永久磁石の温度を推定することができる。
【0033】
また、本発明は、作動流体の膨張を利用して発電する発電システムであって、前記作動流体を吐出する流体供給ポンプと、前記流体供給ポンプから供給された作動流体を加熱する蒸発器と、前記蒸発器から導かれた作動流体の膨張により回転する回転体と、前記回転体と一体に回転する出力軸と、前記出力軸に連結されるとともに前記回転体の回転駆動に応じて発電する発電機と、前記回転体の回転に供された作動流体を凝縮する凝縮器と、前記回転体、前記出力軸、及び前記発電機を収納する収納容器と、前記発電機の温度を推定する請求項1〜11の何れか1項に記載の温度推定装置とを備え、前記発電機は、ステータと、このステータに対して回転可能でかつ永久磁石が設けられたロータとを有し、前記収納容器には、前記作動流体を導入するための導入部と、前記発電機を挟んで前記導入部と反対側に設けられるとともに作動流体を導出するための導出部とが設けられ、前記温度推定装置は、前記永久磁石の温度を推定するとともに、前記永久磁石の推定温度に基づいて前記永久磁石が予め設定された目標温度となるように、前記流体供給ポンプ、前記蒸発器、前記凝縮器の少なくとも1つに指令する指令部を有する、発電システムを提供する。
【0034】
本発明によれば、上述のように、既知の温度と、基準磁束密度と、特定磁束密度とに基づいて永久磁石の温度を推定することができる。そのため、永久磁石に想定される温度範囲の全域にわたる磁化素子の磁界の強さについての情報が必要である従来技術と比較して、事前に必要な情報量(既知の温度及び基準磁束密度)を低減することができる。
【0035】
また、本発明では、収納容器によって回転体、出力軸及び発電異が収納されているとともに、収納容器における発電機を挟んだ両側に導入部及び導出部が設けられている。そのため、導入部を介して収納容器内に導入された作動流体は、回転体の回転に供された後、発電機の周囲を流れて導出部から収納容器外へ導出される。つまり、本発明によれば、作動流体を回転体の回転に利用するだけでなく、発電機の冷却にも利用することができる。
【0036】
そして、本発明では、温度推定装置が永久磁石の温度を推定するとともに、推定温度に基づいて永久磁石を目標温度に維持するように指令を出力する。そのため、減磁が生じない充分に低い温度まで永久磁石を必要以上に冷却する場合と比較して、発電機による発電能力を向上することができる。
【0037】
また、本発明は、ステータと、このステータに対して回転可能でかつ永久磁石が設けられたロータとを有するモータについて前記永久磁石の温度を推定するための温度推定方法であって、周囲の温度と前記永久磁石の温度とが略同等となる条件下において、前記周囲の温度を測定するとともに前記永久磁石の磁束密度を特定する準備工程と、前記準備工程の後、前記永久磁石の磁束密度を特定する特定工程と、前記特定工程で特定された磁束密度と、前記準備工程で測定された周囲の温度と、前記準備工程で特定された磁束密度とに基づいて前記永久磁石の温度を推定する推定工程とを含む、温度推定方法を提供する。
【0038】
本発明によれば、上述のように、既知の温度と、基準磁束密度と、特定磁束密度とに基づいて永久磁石の温度を推定することができる。そのため、永久磁石に想定される温度範囲の全域にわたる磁化素子の磁界の強さについての情報が必要である従来技術と比較して、事前に必要な情報量(準備工程で準備される既知の温度及び基準磁束密度)を低減することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、永久磁石の温度を推定するために事前に必要な情報量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る発電システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】図1の密閉式発電機の具体的構成を示す断面図である。
【図3】図2の発電機を拡大して示す断面図である。
【図4】図3のIV―IV線断面図である。
【図5】図1の発電システムの電気的構成を示すブロック図である。
【図6】図5の制御部により実行される処理を示すフローチャートである。
【図7】図6の初期設定処理を示すフローチャートである。
【図8】図5の電圧検出部により検出される物理量を説明するための電圧波形図である。
【図9】別の実施形態を示す図5相当図である。
【図10】図9の制御部により実行される処理を示すフローチャートである。
【図11】別の実施形態を示す図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0042】
図1は、本発明の実施形態に係る発電システムの全体構成を示す概略図である。
【0043】
図1を参照して、発電システム1は、作動流体を吐出する流体供給ポンプ2と、この流体供給ポンプ2から供給された作動流体を加熱する蒸発器3と、この蒸発器3から導かれた作動流体の膨張により発電する密閉式発電機4と、この密閉式発電機4から導出された作動流体を冷却して凝縮する凝縮器5と、この凝縮器5で凝縮された作動流体を冷却する過冷却器6と、この過冷却器6から前記流体供給ポンプ2を介さずに蒸発器3へ作動流体を導くためのバイパス弁7と、前記密閉式発電機4により発電された電力が供給されるインバータ21(図5参照)と、前記流体供給ポンプ2、蒸発器3、凝縮器5及び過冷却器6を制御する制御部23(図5参照)とを備えている。
【0044】
より具体的に、発電システム1は、流体供給ポンプ2と密閉式発電機4とを接続する第1供給配管L1と、密閉式発電機4と流体供給ポンプ2とを接続する第1導出配管L2とを備え、これら配管L1、L2を介して作動流体を循環させる。第1供給配管L1の途中部には、前記蒸発器3が設けられ、第1導出配管L2の途中部には、前記凝縮器5及び過冷却器6が設けられている。
【0045】
流体供給ポンプ2は、例えば、フロン等の作動流体を吐出する。この流体供給ポンプ2
から吐出された作動流体は、第1供給配管L1を介して蒸発器3に導かれる。
【0046】
蒸発器3は、第1供給配管L1を介して導かれる作動流体を加熱して蒸発させる。具体的に、本実施形態に係る蒸発器3は、加熱媒体を流通させる流路と、この流路を流れる加熱媒体を昇温可能な蒸発用昇温器3a(図5参照)と、前記流路を流れる加熱媒体の流速を調整可能な蒸発用調整器3b(図5参照)とを有している。そして、前記流路内を流れる比較的低温(90℃〜100℃)の加熱媒体との間で熱交換を行うことにより作動流体が加熱される。前記加熱媒体としては、例えば、製造設備等から排出される温水、蒸気、加熱空気、排ガス等を利用することができる。
【0047】
密閉式発電機4は、前記蒸発器3により加熱された作動流体の膨張に応じてスクリュータービン(回転体)10a、10aを回転させることにより、スクリュータービン10aの出力軸10bに連結された発電機11を作動させて発電を行う。なお、スクリュータービン10a、10aは、それぞれの外周面に螺旋状の突条が形成された円柱形状の部材である。そして、スクリュータービン10a、10aの突条同士を互いに噛合させることにより、各スクリュータービン10a、10aの外周面の間でかつ各突条の間に流路が形成される。なお、各スクリュータービン10a、10a間に形成される流路の断面積は、各スクリュータービン10a、10aの一端側から他端側(図2の左側から右側)へ向けて広くなるように設定されている。以下、密閉式発電機4の具体的構成について説明する。
【0048】
図2は、図1の密閉式発電機の具体的構成を示す断面図である。
【0049】
図1及び図2を参照して、密閉式発電機4は、作動流体の膨張により回転する回転部材10と、この回転部材10の回転に応じて発電する発電機11と、これら回転部材10及び発電機11を収納する収納容器12と、この収納容器12内に設けられ前記発電機11の周囲の温度(例えば、後述する発電機11のステータ11aの温度)を検出可能な周囲温度検出部22(図5参照)とを備えている。
【0050】
回転部材10は、前記スクリュータービン10a、10aと、これらスクリュータービン10a、10aの一方に固定された出力軸10bとを備えている。各スクリュータービン10a、10a間に形成される流路の断面積は、図2の左から右に向かうに従い広くなるように設定されている。出力軸10bは、一方のスクリュータービン10aと一体に回転する。
【0051】
発電機11は、後述する収納容器12に固定された筒状のステータ11aと、このステータ11aの内側に設けられるとともに当該ステータ11aに対して回転可能なロータ11bとを備えている。ロータ11bは、前記回転部材10の出力軸10bに連結され、当該出力軸10bと一体に回転する。以下、発電機11の具体的構成について図3及び図4を参照して説明する。
【0052】
ステータ11aは、収納容器12に固定された筒状のステータ本体11cと、このステータ本体11cに保持された複数のステータコイル11dとを有する。各ステータコイル11dは、図3に示すようにロータ11bの回転軸11eの軸線方向に並ぶとともに、図4に示すように回転軸11eの軸線回りに並ぶように、配置されている。また、各ステータコイル11dは、発電した電力を供給するためにインバータ21(図5参照)に電気的に接続されている。本実施形態において、インバータ21は、ステータコイル11dとの間で電力の受け渡し可能な受渡部材に相当する。
【0053】
ロータ11bは、前記ステータ11a内に設けられたロータ本体11fと、このロータ本体11fと前記回転部材10の出力軸とを連結する回転軸11eと、前記ロータ本体11fに保持された複数の永久磁石11gとを備えている。各永久磁石11gは、図3に示すように回転軸11eの軸線に沿って延びるとともに、図4に示すように回転軸11eの軸線回りの同一円周上に並んで配置されている。
【0054】
図2を参照して、収納容器12は、図2の左から順に配置された回転部材10、後述する軸受け部J1、及び発電機11をまとめて収納する。作動流体は、図2において収納容器12の左端に設けられた導入管19aを介して収納容器12内に導入されるとともに、図2の右側に設けられた導出口17cを介して収納容器12の外側に導出される。そして、発電機11は、導入管19aと導出口17cとの間に設けられているため、導入管19aを介して導入された作動流体によって発電機11が冷却される。
【0055】
具体的に、収納容器12は、前記各スクリュータービン10a、10aを保持する保持部材16と、この保持部材16から左側に延びる筒状部材14と、この筒状部材14の左端に設けられた蓋部材15と、前記保持部材16から右側に延びる有底部材17とを備えている。
【0056】
保持部材16は、本体部16aと、この本体部16aの左側に取り付けられた軸受部材16bと、本体部16aから右側に延びる延設部16cと、この延設部16cの右端に形成されたフランジ部16hとを備えている。本体部16aには、各スクリュータービン10a、10aを格納するための格納孔16dと、この格納孔16d内に格納された各スクリュータービン10a、10aに作動流体を導入するための導入口16eと、格納孔16d内に格納された各スクリュータービン10a、10aによって導かれた作動流体を導出するための導出口(第1導出口)16fと、スクリュータービン10aの出力軸10bを支持するための軸受け部J1とが設けられている。格納孔16dは、本体部16aを左右方向に貫通する孔である。導入口16eは、本体部16aの左端に設けられ、格納孔16dに連通するとともに左側に開口する。導出口16fは、本体部16aの右端に設けられ、格納孔16dに連通するとともに右側に開口する。軸受け部J1は、各スクリュータービン10aの右側となる格納孔16dの内側位置に設けられ、スクリュータービン10aの出力軸10bを回転可能に支持する。このように本実施形態では、軸受け部J1が収納容器12内に収納されているため、当該軸受け部J1に気密性を持たせなくても作動流体を収納容器12内に閉じこめることができる。なお、本実施形態において、本体部16aのうち各スクリュータービン10a、10aを格納する部分が格納部を構成し、本体部16aのうち格納部を取り囲む部分が収納容器の一部を構成する。
【0057】
軸受部材16bは、スクリュータービン10aの出力軸10bの左端の周囲を取り囲む部材である。この軸受部材16bの内側には、スクリュータービン10aの出力軸10bの左端を回転可能に支持する軸受け部J2が設けられている。延設部16cは、本体部16aから右側に延びる出力軸10bの周囲を取り囲む筒状に形成されている。
【0058】
筒状部材14は、前記軸受部材16bよりも左側に延びる筒状本体14aと、この筒状本体14aの右端に設けられた取付部14bとを備えている。取付部14bは、気体の流通を妨げる態様で、筒状本体14aを前記保持部材16の本体部16aに取り付けるためのものである。
【0059】
蓋部材15は、前記筒状部材14の筒状本体14aの左側の開口部を封止することにより、当該筒状部材14と協働して保持部材16の左側にタービン室S1を形成する。つまり、タービン室S1は、保持部材16と筒状部材14と蓋部材15との間に設けられ、各スクリュータービン10a、10aを収納するための室である。具体的に、蓋部材15は、前記筒状本体14aの開口端に取り付けられた閉鎖板18と、この閉鎖板18の外側から前記各スクリュータービン10a、10aの導入口までの流路を形成する流路形成部材19と、この流路形成部材19により形成された流路に設けられたフィルタ20とを備えている。閉鎖板18は、筒状本体14aの開口を塞ぐように当該筒状本体14aに取り付けられた円板状の部材である。この閉鎖板18の略中央位置には、表裏に貫通する孔が形成されている。流路形成部材19は、前記閉鎖板18から右側に延びる導入管19aと、この導入管19aの右端部から周方向の外側へ向けて突出する円板部19bと、この円板部19bの周縁部から左側に延びる側板部19cと、前記円板部19bから右側に延びる誘導管19dとを備えている。導入管19aは、前記閉鎖板18の左側(外側)から円板部19bの右側に至る作動流体の流路を構成する。具体的に、導入管19aの内腔部は、閉鎖板18及び円板部19bを貫通している。円板部19bは、筒状本体14aの内側面との間に間隙が形成されるように、当該筒状本体14aの内径よりも小さな直径寸法を有している。したがって、円板部19bの外側面と筒状本体14aの内側面との間には、円板部19bを跨ぐ左右方向(表裏方向)の作動流体の流路が形成される。誘導管19dは、円板部19bの左側から各スクリュータービン10a、10aに対する導入口16eへ至る作動流体の流路を構成する。具体的に、誘導管19dの内腔部は、円板部19bを貫通するとともに、誘導管19dの右端部は、作動流体を導入口16e内に導入可能となるように、前記保持部材16の本体部16aの左端面に取り付けられている。したがって、この流路形成部材19により、図2の矢印Y1に示すように、閉鎖板18の左側(外側)から円板部19bの右側へ至るとともに円板部19bの右側から左側へ至り、さらに円板部19bの左側から導入口16eへ至る流路が形成される。フィルタ20は、前記矢印Y1に示す流路と交差するように、円板部19bの左側の位置、及び円板部19b(側板部19c)と筒状本体14aとの間の位置に設けられている。
【0060】
本実施形態では、第1供給配管L1、筒状部材14及び蓋部材15が、蒸発器3を経由して流体供給ポンプ2と本体部(格納部)16aとを接続する膨張用配管を構成する。
【0061】
有底部材17は、前記保持部材16の延設部16cの右側に固定された有底部材本体17aと、この有底部材本体17aの底部に設けられたフィルタ17dとを備えている。有底部材本体17aは、延設部16cの右側の開口部を封止することにより、当該延設部16cと協働して本体部16aの右側に発電室S2を形成する。つまり、発電室S2は、本体部16aと延設部16cと有底部材本体17aとの間に設けられ、発電機11を収納するための室である。具体的に、有底部材本体17aには、延設部16cに固定されたフランジ部17bと、底部を貫通する導出口17cと、内側に形成された凹溝17eとが設けられている。フランジ部17bは、気体の流通を妨げるように、延設部16cの右端面に密着した状態で当該延設部16cに取り付けられている。導出口17cは、作動流体を導出するためのものであり、この導出口17cにはフィルタ17dが設けられている。凹溝17eは、発電機11のステータ11aと有底部材本体17aの内側面との間に間隙を形成するためのものである。具体的に、凹溝17eは、有底部材本体17aの内側面を周方向で間欠的に窪ませるように複数個所に設けられており、発電機11のステータ11aは、各凹溝17eが形成されていない有底部材本体17aの内側面に当接した状態で保持されている。したがって、各凹溝17eとステータ11aとの間の間隙は、矢印Y3に示すように作動流体の流路として機能する。また、発電機11のステータ11aとロータ11bとの間の間隙Gも、矢印Y2に示すように作動流体の流路として機能する。これら矢印Y2及び矢印Y3に示すように作動流体が流れることにより、発電機11が冷却される。そして、これら矢印Y2及びY3に示す流路を流れた作動油は、矢印Y4に示すように、フィルタ17dを介して導出口17cから導出される。
【0062】
以下、前記発電システム1の動作について図1及び図2を参照して説明する。
【0063】
流体供給ポンプ2から吐出された作動流体は、蒸発器3において加熱され、第1供給配管L1を介して密閉式発電機4に導かれる。この作動流体は、導入管19aを通って密閉式発電機4内に導入され、矢印Y1に示すように、フィルタ20を介して各スクリュータービン10a、10aの導入口16eに導かれる。各スクリュータービン10a、10a間の流路に導入された作動流体は、前記蒸発器3での加熱により膨張しようとするため、前記流路を押し広げる方向に各スクリュータービン10a、10aを回転させながら図2の右方向に進行する。各スクリュータービン10a、10a間の流路から導出された作動流体は、矢印Y2、Y3に示すように発電機11に接触しながら流れて導出口17cから導出される。これら矢印Y2及びY3に示すように流れる作動流体は、発電機11に接触して当該発電機11の冷却に寄与する。なお、密閉式発電機4に導入される作動流体の流量及び温度は、流体供給ポンプ2、蒸発器3、凝縮器5及び過冷却器6によって調整されている。具体的に、後述する制御部23は、発電機11が所定の目標温度となるように流体供給ポンプ2、蒸発器3、凝縮器5及び過冷却器6をフィードバック制御する。
【0064】
矢印Y4に示すように、密閉式発電機4から導出された作動流体は、第1導出配管L2を介して凝縮器5及び過冷却器6に導かれる。この凝縮器5は、冷却水を流通させる流路と、この流路を流れる冷却水を冷却可能な凝縮用冷却機5a(図5参照)と、前記流路を流れる冷却水の流速を調整可能な凝縮用調整器5b(図5参照)とを有している。そして、凝縮器5では、前記流路内を流れる例えば約0〜40℃の冷却水との間で熱交換を行うことにより作動流体が冷却される。また、過冷却器6は、冷却水を流通させる流路と、この流路を流れる冷却水を冷却可能な過冷却用冷却機6a(図5参照)と、前記流路を流れる冷却水の流速を調整可能な過冷却用調整器6b(図5参照)とを有している。前記過冷却機6では、前記流路内を流れる例えば約0〜40℃の冷却水との間で熱交換を行うことにより作動流体が冷却される。そして、凝縮器5及び過冷却器6により冷却された作動流体は、前記流体供給ポンプ2に導かれ、再び上記のように発電に供される。
【0065】
次に、前記発電機11の温度を制御するための制御部23について、図5を参照して説明する。
【0066】
制御部23は、前記ステータコイル11dに印加された電圧を検出する電圧検出部24と、この電圧検出部24の検出結果に基づいて演算処理を行う演算部25と、この演算部25の演算結果を記憶する記憶部26と、前記演算部25の演算結果及び記憶部26に記憶された情報に基づいて永久磁石11gの温度を推定する温度推定部27と、この温度推定部27による推定温度に基づいて流体供給ポンプ2、蒸発器3、凝縮器5、及び過冷却器6に対して指令を出力する指令部28とを備えている。
【0067】
電圧検出部24は、ステータコイル11dに印加された電圧を検出可能である。具体的に、電圧検出部24は、図8に示すように、ステータコイル11dに生じる交流電圧波形における波高値Vm及び周波数fを検出する。なお、波高値Vmは、実効値から算出可能であるため、電圧検出部24は、実効値を検出してもよい。また、周波数fは、周期から算出可能であるため、電圧検出部24は、周期を検出してもよい。なお、ステータコイル11dに多相交流電圧が印加されている場合、電圧検出部24は、少なくとも1相以外の相について波高値Vm及び周波数fを検出することができる。
【0068】
演算部25は、電圧検出部24により検出された電圧に基づいて永久磁石11gの磁束密度を算出する。具体的に、演算部25は、以下の式(2)に基づいて永久磁石11gの磁束密度を算出する。
【0069】
B=k×Vm÷f・・・(2)
ここで、Bは、永久磁石11gの磁束密度であり、kは発電機11固有の定数である。
【0070】
記憶部26は、前記演算部25により算出された磁束密度及び前記周囲温度検出部22により検出された周囲温度を記憶する。具体的に、記憶部26は、周囲温度と永久磁石11gの温度とが略同等となる条件(例えば、初めて発電機を始動させる場合、又は長期間停止後の再始動時)で周囲温度検出部22により検出された周囲温度と、この周囲温度条件下で前記電圧検出部24により検出された波高値Vm及び周波数fに基づいて算出された磁束密度とを記憶する。
【0071】
温度推定部27は、前記記憶部26に記憶された周囲温度及び磁束密度と、前記電圧検出部24により検出された波高値Vm及び周波数fに基づいて算出された磁束密度とに基づいて永久磁石11gの温度を推定する。具体的には、以下の式(1)に基づいて永久磁石11gの温度を推定する。
【0072】
T1=T0−1/m×(1−B1/B0)・・・(1)
ここで、T0は記憶部26に記憶された周囲温度であり、この周囲温度条件下において算出された磁束密度がB0である。また、B1は、電圧検出部24により検出された波高値Vm及び周波数fに基づいて算出された磁束密度である。なお、mは、永久磁石11gの素材により規定される係数である。この式(1)により推定温度T1が算出される。
【0073】
指令部28は、前記温度推定部27により推定された温度に基づいて永久磁石11gが予め設定された温度となるように流体供給ポンプ2、蒸発器3、凝縮器5及び過冷却器6のすくなくとも1つに対して流量制御指令を出力する。つまり、推定温度が予め設定された温度よりも高い場合、指令部28は、作動流体の流量を増やす方向の指令を流体供給ポンプ2に出力する、又は/及び、作動流体の温度を下げる方向の指令を蒸発用昇温器3a、蒸発用調整器3b、凝縮用冷却機5a、凝縮用調整器5b、過冷却用冷却器6a、及び過冷却用調整器6bに出力することができる。一方、推定温度が予め設定された温度よりも低い場合、指令部28は、作動流体の流量を減らす方向の指令を流体供給ポンプ2に出力する、又は/及び、作動流体の温度を上げる方向の指令を蒸発用昇温器3a、蒸発用調整器3b、凝縮用冷却機5a、凝縮用調整器5b、過冷却用冷却器6a、及び過冷却用調整器6bに出力することができる。なお、指令部28は、推定温度が予め設定された温度(温度範囲)にあるときは、作動流体の流量を維持するための指令を流体供給ポンプ2、蒸発器3、凝縮器5及び過冷却器6のすくなくとも1つに出力する(又は、作動流体の流量を変化するための指令を出力しない)。
【0074】
以下、図6及び図7を参照して、制御部23により実行される処理について説明する。
【0075】
制御部23による処理が開始すると、初期設定処理T(準備工程)が実行される。初期設定処理Tでは、まず、発電機11の周囲の温度と永久磁石の温度とが略同等となる条件において周囲温度T0が検出される(ステップT1)。次いで、ステータコイル11dに印加された電圧(波高値Vm及び周波数f)を検出し(ステップT2)、予め設定された回数Nだけ電圧が検出されたか否かが判定される(ステップT3)。
【0076】
このステップT3で回数N未満であると判定されると、前記ステップT2が繰り返し実行される。一方、ステップT3で回数Nであると判定されると、検出結果(波高値Vm及び周波数f)の平均値が算出される(ステップT4)。このように検出結果の平均値を算出することにより、インバータ21(図5参照)のインピーダンスが変動する場合においても、検出値の誤差を低減することができる。なお、ステップT4では、検出結果の最大値を算出してもよい。
【0077】
次いで、算出された平均値(波高値Vm及び周波数f)を上述した式(2)に代入することにより、磁束密度B0を算出する。つまり、この磁束密度B0は、永久磁石11gの温度がステップT1で検出された周囲温度T0である条件下での磁束密度である。そして、これら周囲温度T0及び磁束密度B0を記憶部26に記憶して(ステップT6)、図6のメインルーチンにリターンする。
【0078】
メインルーチンでは、現在、ステータコイル11dに印加されている電圧(波高値Vm及び周波数f)を検出し(ステップS1)、予め設定された回数(前記ステップT3と同回数)Nだけ電圧が検出されたか否かが判定される(ステップS2)。
【0079】
このステップS2で回数N未満であると判定されると、前記ステップS1が繰り返し実行される。一方、ステップS2で回数Nであると判定されると、検出結果(波高値Vm及び周波数f)の平均値が算出される(ステップS3)。このように検出結果の平均値を算出することにより、インバータ21(図5参照)のインピーダンスが変動する場合においても、検出値の誤差を低減することができる。なお、ステップS3では、検出結果の最大値を算出してもよい。
【0080】
次いで、算出された平均値(波高値Vm及び周波数f)を上述した式(2)に代入することにより、磁束密度B1を算出する(ステップS4:特定工程)。つまり、この磁束密度B1は、永久磁石11gの温度が不明な条件下での磁束密度である。そして、この磁束密度B1と、前記磁束密度B0及び周囲温度T0を上述した式(1)に代入することにより、推定温度T1を算出する(ステップS5:推定工程)。
【0081】
次に、推定温度T1に基づいて、温度制御指令を出力する(ステップS6)。具体的に、推定温度T1が予め設定された温度よりも高い場合には、作動流体の流量を増やす方向の指令を流体供給ポンプ2に出力する、又は/及び、作動流体の温度を下げる方向の指令を蒸発器3、凝縮器5、過冷却器6の少なくとも1つに出力する。一方、推定温度T1が予め設定された温度よりも低い場合には、作動流体の流量を減らす方向の指令を流体供給ポンプ2に出力する、又は/及び、作動流体の温度を上げる方向の指令を蒸発器3、凝縮器5、過冷却器6の少なくとも1つに出力する。また、推定温度T1が予め設定された温度(又は温度範囲内)にある場合には、作動流体の流量を維持するための指令を出力する(又は流量を変更するための指令を出力しない)。
【0082】
このように、永久磁石11gの温度をフィードバック制御することにより、次の比較例に係る発電システムよりも優れた結果が得られた。具体的に、比較例に係る発電システムでは、永久磁石の温度を推定せずに、減磁の発生を防止するために充分に低い温度まで永久磁石が冷却されるように、作動流体の温度及び圧力が管理されていた(永久磁石を必要以上に冷却していた)。具体的に、比較例に係る発電システムでは、蒸発器3と密閉式発電機4との間の作動流体の温度が80℃であり、圧力が0.8MPaAである。一方、本実施形態に係る発電システム1では、前記フィードバック制御の結果、蒸発器3と密閉式発電機4との間の作動流体の温度を100℃、圧力を1.2MPaAまで上昇させることができる。なお、比較例及び本実施形態の双方ともに、密閉式発電機4と凝縮器5との間の作動流体の温度は、50℃であり、圧力は、0.2MPaAである。この結果から分かるように、本実施形態に係る発電システム1では、比較例よりも密閉式発電機4に導入する作動流体の温度及び圧力を上げることができるため、発電能力を向上することができる。
【0083】
そして、前記ステップS1〜S6までの処理は、図外の操作部を介して発電システム1の停止指令が入力されるまで(ステップS7でNOと判定されるまで)繰り返し実行される。前記停止指令が入力されると(ステップS7でYES)、当該処理が終了する。
【0084】
前記発電システム1では、各スクリュータービン10a、10a、出力軸10b、及び軸受け部J1が共通の収納容器12に収納されている。そのため、軸受け部J1により本体部16aと出力軸10bとの間の気密性を確保しなくても、各スクリュータービン10a、10aの回転に供した作動流体を収納容器12内に閉じこめることができる。したがって、前記発電システム1によれば、従来の軸受け部に比べて構造の簡素化及び耐久性の向上を図ることができる。
【0085】
なお、前記実施形態では、作動流体の膨張に応じて回転するロータとしてスクリュータービン10a、10aを例示したが、これに限定されることはなく、例えば、ラジアルタービンを採用することもできる。
【0086】
また、前記実施形態では、各スクリュータービン10a、10a、これらを格納する本体部16a、出力軸10b、軸受け部J1及び発電機11をまとめて収納する収納容器12について説明したが、少なくとも出力軸10b、軸受け部J1及び発電機11を収納する収納容器を有する構成とすることにより、軸受け部J1により本体部16aと出力軸10bとの間に気密性を確保しなくても、各スクリュータービン10a、10aの回転に供した作動流体を収納容器内に閉じ込めることができる。
【0087】
以上説明したように、前記実施形態では、永久磁石11gが予め設定された温度となるように流体供給ポンプ2、蒸発器3、凝縮器5及び過冷却器6のすくなくとも1つを制御する制御部23を備えている。そのため、永久磁石11gの温度上昇に伴う減磁を防止することにより、発電能力の低下を抑制することができる。
【0088】
具体的に、発電機11では、ロータ11bの温度が所定温度を超えると、不可逆的に永久磁石11gの磁束密度が低下する、いわゆる減磁と称される減少が生じる。そして、永久磁石11gの減磁が生じると発電能力が低下する。これに対し、前記実施形態では、永久磁石11gの温度を予め設定された温度に維持することができるので、永久磁石11gの減磁を防止することができる。
【0089】
前記実施形態では、既知の温度T0と、基準磁束密度B0と、特定磁束密度B1とに基づいて永久磁石11gの温度T1を推定することができる。そのため、温度と磁束密度との関係を示すマップ等の情報を保持する場合と比較して、予め準備しておく情報量(T0、B0、及びB1)を低減することができる。
【0090】
前記実施形態では、ステータコイル11dと、電圧検出部24と、演算部25とを有する。そのため、ステータコイル11dに印加された電圧に基づいて永久磁石11gの磁束密度を算出することができる。
【0091】
前記実施形態では、電圧波形における波高値Vm及び周波数fに基づいて永久磁石の磁束密度を算出することができる。
【0092】
ここで、前記実施形態では永久磁石11gの磁束密度の大きさに応じて変化する起電力(電圧)を検出するため、従来技術(特開2004−222387号公報)と比較して、永久磁石の温度変化に対する推定温度の変化の応答性(追従の速さ)を向上することができる。具体的に、前記従来技術では、永久磁石から熱を奪った磁化素子の磁界の強さを検出するため、永久磁石から磁化素子への熱伝達に要する時間が前記応答性を低下させる要因となる。これに対し、前記実施形態では、熱伝達を介さずに、永久磁石11gの磁束密度に応じて生じる起電力に基づいて温度を推定するため、前記応答性を向上することができる。さらに、前記従来技術では、磁化素子の温度が永久磁石ではなくその周囲の温度によって変動して、永久磁石の推定温度が不正確になるおそれもある。これに対し、前記実施形態では、永久磁石11gの磁束密度に対応する起電力に基づいて永久磁石11gの温度を推定するため、周囲の温度により受ける影響は小さく、永久磁石11gの温度をより正確に推定することができる。
【0093】
前記実施形態では、波高値Vm及び周波数fの平均値又は最大値を用いて永久磁石11gの磁束密度が算出される。そのため、ステータコイル11dに電気的に接続されたインバータ21のインピーダンスが変化しても、波高値Vm及び周波数fの誤差が緩和される。
【0094】
なお、前記実施形態では、ステータコイル11dとインバータ21とを電気的に接続した状態で、ステータコイル11dに印加された電圧を検出しているが、これに限定されない。例えば、ステータコイル11dとインバータ21とを切断した状態で、ステータコイル11dに印加された電圧を検出することもできる。
【0095】
図9は、別の実施形態を示す図5相当図である。以下の説明では、図5と同一の構成に対して同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0096】
この実施形態に係る発電システムは、ステータコイル11dとインバータ21との間に設けられたコンタクタ29と、制御部23に設けられるとともに前記コンタクタ29の駆動を制御するコンタクタ制御部31と、前記発電機11のロータ11bの回転位置を検出する回転位置検出部30とを備えている。
【0097】
コンタクタ29は、インバータ21とステータコイル11dとを電気的に接続した接続状態と、インバータ21をステータコイル11dから切断した切断状態との間で切換動作可能である。
【0098】
コンタクタ制御部31は、前記接続状態と切断状態との間でコンタクタ29の駆動を制御する。具体的に、コンタクタ制御部31は、電圧検出部24により電圧を検出するのに先立って、コンタクタ29を切断状態に切り換える。また、コンタクタ制御部31は、回転位置検出部30により検出されたロータ11bの回転位置に基づいて、ロータ11bが目標となる回転位置に到達した時点でステータコイル11dとインバータ21とを接続するように、コンタクタ29を接続状態に切り換える。これにより、コンタクタ29の切換の前後において、インバータ21に印加される電圧の位相と、ロータ11bの回転位置(位相)とを整合させることができる。
【0099】
以下、図10を参照して、図9に記載の制御部23により実行される処理を説明する。
【0100】
制御部23による処理が開始すると、前記初期設定処理Tを行った後、コンタクタ29を切断状態に切り換える(ステップS01)。次いで、上述したステップS1及びS2を実行して電圧を検出した後、回転位置検出部30によりロータ11bの回転位置を検出する(ステップS21)。次に、この回転位置に基づいて、ロータ11bの回転位置とインバータ21に印加される電圧の位相とが整合するタイミングでコンタクタ29を接続状態に切り換えて(ステップS22)、上述したステップS3に移行する。
【0101】
本実施形態では、コンタクタ29によりインバータ21からステータコイル11dを切断した状態で電圧を検出することができる。そのため、インバータ21のインピーダンスの変化にかかわらず、ステータコイル11dに印加された電圧を正確に検出することができる。
【0102】
なお、本実施形態では、上述のようにコンタクタ29によりインバータ21のインピーダンスの影響を回避することができるため、電圧の平均値を算出するためのステップS2及びS3を省略することもできる。
【0103】
また、本実施形態では、図7に示す初期設定処理のステップT1とステップT2との間に、前記ステップS01を挿入するとともに、ステップT3とステップS5との間にステップS21及びステップS22を挿入することもできる。これにより、初期設定処理においても、インバータ21のインピーダンスの変化にかかわらず、ステータコイル11dに印加された電圧を正確に検出することができる。この初期設定処理においても、電圧の平均値を算出するためのステップT3及びステップT4を省略することができる。
【0104】
なお、前記実施形態では、永久磁石11gに印加された起電力(電圧)を検出するための検出用コイルとして、発電機11のステータコイル11dを用いているが、これに限定されない。例えば、発電機11のステータコイル11dとは別に電圧検出用のコイルを設けることもできる。以下、この実施形態について図11を参照して説明する。
【0105】
本実施形態に係る発電機11では、ロータ11bが回転軸11eの軸線方向においてステータ11aよりも長い。具体的に、永久磁石11g(ロータ11b)は、回転軸11eの軸線方向においてステータ11aよりも突出する突出部11hを有している。
【0106】
そして、本実施形態に係る発電機11は、永久磁石11gの突出部11hに対向するように配置された検出用コイル33と、この検出用コイル33と各ステータコイル11dのうち回転軸11eの軸線方向の末端に配置されたステータコイル11dとの間に設けられたシールド部材32とを備えている。検出用コイル33は、ステータコイル11dから回転軸11eの軸線方向に離間して配置されている。また、検出用コイル33は、インバータ21(図5及び図9参照)に接続されずに、前記電圧検出部24(図5及び図9参照)に対して電気的に接続されている。一方、各ステータコイル11dは、電圧検出部24に対して接続されずに、前記インバータ21に電気的に接続されている。シールド部材32は、検出用コイル33と各ステータコイル11dとの間を磁気的に遮断する。
【0107】
前記実施形態では、インバータ21に接続されたステータコイル11dとは独立して検出用コイル33が設けられている。そのため、インバータ21のインピーダンスの変化にかかわらず、検出用コイル33に印加された電圧をより正確に検出することができる。なお、検出用コイル33が電圧検出部24のみに接続されているようにすれば、より正確に検出コイルに印加された電圧を検出することができる。
【0108】
また、前記実施形態では、シールド部材32により検出用コイル33とステータコイル11dとが磁気的に遮断されている。そのため、ステータコイル11dに生じる磁場がステータコイル11dに与える影響を小さくすることができる。これにより、検出用コイル33に印加された電圧をより正確に検出することができる。
【0109】
なお、前記実施形態では、コイル11d、33に印加された電圧を検出することにより、永久磁石11gの磁束密度を算出しているが、これに限定されない。例えば、永久磁石11gの磁束、磁界の強さ、磁束密度の少なくとも1つを検出可能な物理量検出手段を設けることもできる。これにより、物理量検出手段の検出結果に基づいて磁束密度を特定することができ、この磁束密度に基づいて永久磁石11gの温度を推定することができる。この場合においても、ステータコイル11dに印加される電圧の周波数を特定することができる手段を設けることが好ましい。
【0110】
また、前記実施形態では、スクリュータービン10a、10aの回転に応じて発電する発電機11について永久磁石11gの温度を推定する点について説明したが、温度を推定する対象は発電機11に限定されない。具体的に、電源から供給される電力に応じてロータが回転するモータについても、前記実施形態と同様に永久磁石の温度を推定することができる。
【符号の説明】
【0111】
B0 基準磁束密度
B1 特定磁束密度
T0 周囲温度(既知の温度)
T1 推定温度
Vm 波高値
f 周波数
1 発電システム
2 流体供給ポンプ
3 蒸発器
4 密閉式発電機
5 凝縮器
6 過冷却器
10a スクリュータービン(回転部)
10b 出力軸
11 発電機(モータの一例)
11a ステータ
11b ロータ
11c ステータ本体
11d ステータコイル
11f ロータ本体
11g 永久磁石
11h 突出部
12 収納容器
21 インバータ(受渡部材)
22 周囲温度検出部
24 電圧検出部
25 演算部
26 記憶部
27 温度推定部
28 指令部
29 コンタクタ(切換部材)
32 シールド部材
33 検出用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、このステータに対して回転可能でかつ永久磁石が設けられたロータとを有するモータについて前記永久磁石の温度を推定するための温度推定装置であって、
前記永久磁石の磁束密度を特定するための磁束密度特定手段と、
前記永久磁石の温度が既知である条件下において前記磁束密度特定手段により特定された基準磁束密度を記憶する記憶部と、
前記磁束密度特定手段により特定された特定磁束密度と、前記既知の温度と、前記基準磁束密度とに基づいて、前記特定磁束密度の特定時における前記永久磁石の温度を推定する温度推定部とを備えている、温度推定装置。
【請求項2】
前記温度推定部は、前記特定磁束密度に対する前記基準磁束密度の比と、前記既知の温度とに基づいて前記永久磁石の温度を推定する、請求項1に記載の温度推定装置。
【請求項3】
前記磁束密度特定手段は、前記ステータに設けられるとともに前記永久磁石の磁束密度の大きさに応じた大きさの起電力を生じさせることが可能な検出用コイルと、前記検出用コイルに印加された電圧を検出可能な電圧検出部と、前記電圧検出部により検出された電圧に基づいて前記永久磁石の磁束密度を算出する演算部とを備えている、請求項1又は2に記載の温度推定装置。
【請求項4】
前記電圧検出部は、前記検出用コイルに印加された電圧波形における波高値と、周波数とを検出し、
前記演算部は、前記波高値と周波数とに基づいて前記永久磁石の磁束密度を算出する、請求項3に記載の温度推定装置。
【請求項5】
前記電圧検出部は、前記波高値及び前記周波数を複数回検出し、
前記演算部は、前記波高値の平均値又は最大値、及び前記周波数の平均値又は最大値をそれぞれ算出するとともに、これら平均値又は最大値を用いて永久磁石の磁束密度を算出する、請求項4に記載の温度推定装置。
【請求項6】
前記検出用コイルとの間で電力を受け渡し可能な受渡部材と、
前記受渡部材と前記検出用コイルとを電気的に接続した接続状態と、前記受渡部材を前記検出用コイルから切離した切断状態との間で切換動作可能な切換部材とをさらに備え、
前記電圧検出部は、前記切換部材が前記切断状態に切り換えられた状態で、前記検出用コイルに印加された電圧を検出する、請求項3〜5の何れか1項に記載の温度推定装置。
【請求項7】
前記ステータは、前記永久磁石の磁束密度の大きさに応じた大きさの起電力を生じさせることが可能なステータコイルを有し、
前記ステータコイルとの間で電力を受け渡し可能な受渡部材をさらに備え、
前記検出用コイルは、前記受渡部材に対して電気的に非接続である、請求項3〜5の何れか1項に記載の温度推定装置。
【請求項8】
前記検出用コイルは、前記電圧検出部にのみ電気的に接続されている、請求項7に記載の温度推定装置。
【請求項9】
前記永久磁石は、前記ロータの回転軸の軸線方向において前記ステータよりも突出する突出部を有し、
前記検出用コイルは、前記ステータコイルから前記軸線方向に離間するとともに前記永久磁石の突出部に対向するように配置され、
前記検出用コイルと前記ステータコイルとの間には、前記検出用コイルと前記ステータコイルとの間を磁気的に遮断するためのシールド部材が設けられている、請求項7又は8に記載の温度推定装置。
【請求項10】
前記ステータに設けられ、前記ステータの周囲の温度を検出する周囲温度検出部をさらに備え、
前記記憶部は、前記周囲温度検出部により検出された温度を記憶する、請求項1〜9の何れか1項に記載の温度推定装置。
【請求項11】
前記磁束密度特定手段は、前記ステータに設けられるとともに前記永久磁石の磁束、磁界の強さ、磁束密度の少なくとも1つを検出可能な物理量検出部を含んでいる、請求項1又は2に記載の温度推定装置。
【請求項12】
作動流体の膨張を利用して発電する発電システムであって、
前記作動流体を吐出する流体供給ポンプと、
前記流体供給ポンプから供給された作動流体を加熱する蒸発器と、
前記蒸発器から導かれた作動流体の膨張により回転する回転体と、
前記回転体と一体に回転する出力軸と、
前記出力軸に連結されるとともに前記回転体の回転駆動に応じて発電する発電機と、
前記回転体の回転に供された作動流体を凝縮する凝縮器と、
前記回転体、前記出力軸、及び前記発電機を収納する収納容器と、
前記発電機の温度を推定する請求項1〜11の何れか1項に記載の温度推定装置とを備え、
前記発電機は、ステータと、このステータに対して回転可能でかつ永久磁石が設けられたロータとを有し、
前記収納容器には、前記作動流体を導入するための導入部と、前記発電機を挟んで前記導入部と反対側に設けられるとともに作動流体を導出するための導出部とが設けられ、
前記温度推定装置は、前記永久磁石の温度を推定するとともに、前記永久磁石の推定温度に基づいて前記永久磁石が予め設定された目標温度となるように、前記流体供給ポンプ、前記蒸発器、前記凝縮器の少なくとも1つに指令する指令部を有する、発電システム。
【請求項13】
ステータと、このステータに対して回転可能でかつ永久磁石が設けられたロータとを有するモータについて前記永久磁石の温度を推定するための温度推定方法であって、
周囲の温度と前記永久磁石の温度とが略同等となる条件下において、前記周囲の温度を測定するとともに前記永久磁石の磁束密度を特定する準備工程と、
前記準備工程の後、前記永久磁石の磁束密度を特定する特定工程と、
前記特定工程で特定された磁束密度と、前記準備工程で測定された周囲の温度と、前記準備工程で特定された磁束密度とに基づいて前記永久磁石の温度を推定する推定工程とを含む、温度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−205341(P2012−205341A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65644(P2011−65644)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】